( ^ω^)ブーンが機械と戦うようです

6: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/01(日) 23:55:29.27 ID:xOQ/fJUV0
  
五日目

機械が突然トレーダー族を襲撃して、一夜が明けた。
磁気嵐と大規模な地震により、島は大きく傷ついていたが、トレーダー族はあまり気にしていない。
ただ、再び平和が訪れたことを心から喜んでいるだけだ。

しかし、その平和は長く続かないと予想する者達がいた。



7: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/02(月) 00:03:04.77 ID:GyxjJddg0
  
( ゚д゚ )「やはり、闘争に参加することは出来ないか」
(゚Д゚)「ああ。我らトレーダー族は、あくまで中立の立場に徹する」

ここはトレーダー族が普段暮らしている集落。
その中でも最も大きな集会所だ。
トレーダー族は、その出生が影響してか、自然回帰を半ば宗教的に望む傾向にある。
建築物は木と蔓と少量の鉄材で補強してあり、あたりには濃厚な緑の香りがたちこめていた。

(゚Д゚)「確かに、機械は我々を攻撃した。だが、それは人間に対する協力には直結しない」
( ゚д゚ )「だが、ウマー……」
(゚Д゚)「くどい。私と私の仲間達は、平和を望む。闘争は我々の望むところではない」
( ゚д゚ )「だが、闘争によって得られる平和もあるはずだ」
(゚Д゚)「無論だ。だが、生存競争は我ら自身で開始し、多種族の助けは一切借りん」



9: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/02(月) 00:09:21.23 ID:GyxjJddg0
  
VIP艦長、コッチ・ミルナ。
トレーダー族暫定統括役、ウマー。
兄弟である彼らは、顔がよく似ている。
だが、その性格は180度、全くと言っていいほど似ていない。
もっと正確に言えば、そのベクトルが違うのだ。

( ゚д゚ )「ウマー。お前の気持ちはよくわかる。一族を預かる重責も理解しているつもりだ」
( ゚д゚ )「だが、お前は伝統と誇りを皆に押しつけて犬死にさせるつもりか」

終始正論と理屈で押し通すミルナ。

(゚Д゚)「では、我らに誇りと伝統を捨てろというのか、ミルナよ」
(゚Д゚)「ありえない。それは、我らが祖先の魂を冒涜し、彼らの死を犬死にだと断定する行為だ」

それに対し精神論とプライドで反抗するウマー。
元々の出発点が違う二人の会議は、なかなか終わりそうになかった。



12: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/02(月) 00:16:27.41 ID:GyxjJddg0
  
(;^ω^)「あ、足がしびれたお……」
ミ;,,゚Д゚彡「だめだ、まっすぐ立てない……ジョルジュ、肩を貸してくれ」
(;゚∀゚)「あ、だめ!! 俺も足がまだ……ぎゃあああああああ!!」
/ ,' 3「まったく。若いモンはじっとしているのが下手じゃのう」

朝からミルナとウマーの会議を聞いていた四人は、昼休憩をとっていた。
いくら賓客としてトレーダー族からもてなされているとはいえ、会議は会議。
四人ともしおらしく正座をして聞いていたのだが、会議の長いこと長いこと。

(;^ω^)「そんなこと言っても、あれだけ長い時間正座してれば痺れて当然だお」
/ ,' 3「普段しておらんからそうなるんじゃ」
( ゚∀゚)「おお、もう普通に歩いてる。さすが、無駄に歳は取ってないな」
/ ,' 3「救いようのない程に失礼なやつじゃなお前さんは」



14: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/02(月) 00:29:48.40 ID:GyxjJddg0
  
すでに中天へと上った太陽の下、四人は三々五々に散っていった。
ジョルジュは港の方向へとスキップしていく。またぞろジェシカの休憩所に入り浸るに違いない。
荒巻も港の方向へ向かったが、エア・スクーターの修理をしにタシーロ号へと戻るらしい。
フサギコは特に予定がないらしく、近場で食事をとろうかと考えていた。

ミ.,,゚Д゚彡「とはいえ、集落に定食屋があるわけでもなし。どうする内藤」
( ^ω^)「おっお、ボクはちょっと用事が……」
ミ.,,゚Д゚彡「ん、用事? ……ああ、そういうことか」

内藤の背後に目を向けて、フサギコはニヤリと笑みを浮かべた。
二人からおよそ50mほど先。大きめの木陰の下で、ツンが何気ない風を装って休んでいる。
本人は気づいていないつもりだろうが、可愛らしい耳がこちらを向いているので聞き耳を立てているのがバレバレだ。

ミ.,,゚Д゚彡「まあ、用事があるなら仕方ない。俺はどこか別の場所で飯を食ってくるとするか」
( ^ω^)「あ、フサギコもよければ一緒に来るかお?」
ミ.,,゚Д゚彡「それは魅力的なお誘いだが……」

ちらりとツンに目をやる。
不機嫌そうに寄せられた眉根と、イライラと振られる尻尾が目に入った。

ミ.,,゚Д゚彡「……やめとこう。俺はやっぱり、一人で食べる」
( ^ω^)「お、そうかお? じゃあ、また後でだお」

内藤に軽く手をあげ、フサギコはその場を離れる。
少し進んでから振り返ると、内藤がツンに何か怒られているのが見えた。
苦労するな、内藤。心の中で呟いて軽く笑うと、フサギコはその場を離れた。



15: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/02(月) 00:38:32.84 ID:GyxjJddg0
  
所変わって、ミルナとウマーである。
二人は会議を中断した後、どちらからともなく同じ家に入り、当然のように食事を始めた。

(゚Д゚)「……ミルナよ」
( ゚д゚ )「なんだ、ウマー」
(゚Д゚)「お前は何故私の家で食事をしている」
( ゚д゚ )「元々は俺も住んでいた家だからだ」
(゚Д゚)「今は私の家だ」
( ゚д゚ )「元々は俺たちの両親の家だろう」
(゚Д゚)「だから、今は私の家なのだ」
( ゚д゚ )「何度も言わずとも聞こえている」
(゚Д゚)「聞こえているならさっさと出て行け!!」
( ゚д゚ )「一度も止めなかった奴が言って良いセリフではないな」

イライラしていることを隠そうともしないウマーと、冷静なミルナ。

( ゚д゚ )「それに、何か話があるんだろう」
(゚Д゚)「……ふん」

ミルナが芋の煮っ転がしを口に含みながらそう言い当てる。
ウマーは肯定するかのようにイライラを納めた。



17: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/02(月) 00:43:46.90 ID:GyxjJddg0
  
(゚Д゚)「まったく、余計な時だけ血のつながりを感じることになるとはな」
( ゚д゚ )「俺だって、好きで兄さんの弟をしているわけじゃない」

速攻で返された皮肉に、ウマーが苦虫を噛みつぶしたような表情になる。

(゚Д゚)「まったく……相変わらず口の減らない奴だ」
( ゚д゚ )「そういう兄さんは、相変わらず無駄口が多いようだな。いいから用件を言ったらどうだ」
(゚Д゚)「くっ、こ、このマセガキが……ッ!!」

ぷるぷると怒りに震えるウマー、実年齢100歳。
対して、それを歯牙にもかけないミルナは80歳。
長命のトレーダー族でも、そろそろ青年期を終わろうかという大の大人の会話がこれだ。
しばらく顔を真っ赤にしていたウマーだったが、やがて怒りを飲み込んでミルナに話しかけた。



20: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/02(月) 00:57:29.27 ID:GyxjJddg0
  
(゚Д゚)「ミルナ。島に、戻ってこないか」

ウマーの第一声を聞いて、黙々と食事を進めていたミルナ手が止まる。

(゚Д゚)「VIPにお前がいる意味は、もうないはずだ」
( ゚д゚ )「……なぜ、そう言い切れる」
(゚Д゚)「お前が彼らとともに行動し、力を貸していたのは我々の支援を受けさせるためだったはずだ」

トレーダー族は元来、排他的な種族である。
特に、人間に対しては過去の歴史から根強い不信感を持っていた。
だが、今回の作戦の成功で、その不信感は随分と緩和された。
その良い例がジョルジュとジェシカ、そして内藤とツンといった交流の出現であろう。

(゚Д゚)「もはや、お前が便宜を図らずとも、彼らの行動は我々に十分認められるものとなった」
( ゚д゚ )「どうかな? 荒巻などは未だにアリナとは手も繋いでもらえないらしいが」
(゚Д゚)「話を逸らすな。それが個人間の問題であることは明確だ」
( ゚д゚ )「……」



22: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/02(月) 01:07:33.23 ID:GyxjJddg0
  
皮肉や軽口の出る幕ではない。
言外にそう諭されて、ミルナは押し黙った。
普段は沸騰しやすい兄を口でからかうミルナだが、こんなときばかりは分が悪い。
物事を論理立てて考えるのは、どちらかと言うとウマーの方が一枚上手だ。
でなければ港の総責任者などは勤まらないし、暫定とはいえ一族を預かることなど出来るはずがない。
ため息を一つ。

( ゚д゚ )「兄さんの言うことは正しい」
(゚Д゚)「……」
( ゚д゚ )「だが、隠し事をしながら話す以上、その話を俺が飲むことはない」
(゚Д゚)「……」

今度はウマーがため息をつく番だった。
少ない手札を切って、タイミング良く畳みかけたのはいいものの、やはり兄弟。
大人しく畳まれてはくれないらしい。



23: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/02(月) 01:13:09.85 ID:GyxjJddg0
  
( ゚д゚ )「何故、俺に戻ってきて欲しいのか。まさか寂しくなったわけでもないだろう」
(゚Д゚)「ふん。残念ながら寂しいと感じる暇などありゃせんよ」

ミルナがウマーの弱点を的確に指摘する。
ミルナがVIPにいる必要がないという理屈は正しい。
だが、ウマーの理屈の中には、ミルナが島に戻らなければならない必要性は存在しない。
どちらにも必要性がないのなら、ミルナは自分の意思で残りたい場所に残るだけだ。

( ゚д゚ )「俺はVIPを降りない。俺が始めた闘争だ」
(゚Д゚)「勝利か敗北か、どちらかしかないとわかっていてもか」
( ゚д゚ )「承知の上だ」
(゚Д゚)「そうか……」

ウマーがテーブルにおいたコップに果実酒を注ぐ。
一つをミルナに差し出して、自らの酒を飲みながらウマーはぽつぽつと話し始めた。



25: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/02(月) 01:26:23.73 ID:GyxjJddg0
  
島を離れる。それがウマーの決断だった。

現在トレーダー族が住んでいる島は、周囲を広大な海に囲まれている。
海産物や動植物がそこそこ豊富であるとはいえ、その資源には限りがある。

加えて、近年の人口増加が問題だ。
もともと繁殖力がそれほど高いわけではないトレーダー族。
それでも、その長命さ故に、作ろうと思えば子供はいくらでも作ることが出来る。

本来なら、すぐにそこに思い至って何らかの施策をするべきだったのだろうが、それは行われなかった。
先代の長が恋愛と出産を規制するべきだという進言を却下しつづけていたためだ。
故人曰く『恋愛と出産は規制できるものではない。しても反感を買うだけだ』ということらしい。

もっともな言葉ではあるがこの時ばかりはそれが仇となった。
すでに食料資源の需要と供給のバランスは崩れかけており、そこに今回の機械の襲来。
生き残るために必要だったとはいえ、大規模な磁気嵐は貴重な食料資源を多量に破壊していた。



26: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/02(月) 01:37:05.98 ID:GyxjJddg0
  
(゚Д゚)「すでに、各地方に送った調査隊によって、新しい居住地の候補は発見されている」
( ゚д゚ )「どこだ」
(゚Д゚)「教えるわけにはいかない。私たちはそこで、人間と機械から完全に離れて暮らすからな」
( ゚д゚ )「VIPの物資支援はどうなる。まさか彼らに、素手で燃料棒を運べと?」
(゚Д゚)「完全に移動が完了するまでは、まだしばらく時間がかかる。だから……」
( ゚д゚ )「だから、その間に闘争を終わらせろ、そう言いたいのか?」

ミルナの手に力が入り、木製のコップがひび割れた。

(゚Д゚)「ミルナ……」
( ゚д゚ )「ふざけるな。一朝一夕に終わるような闘争なら、もうとっくの昔に勝負はついている」
(゚Д゚)「だからこそだ。一朝一夕に終わらないなら、戻ってこい」
( ゚д゚ )「何故だ」
(゚Д゚)「お前の防衛の知識、そして土地改良の知識が必要だ。新しい土地は無条件に住みやすいわけではない」
( ゚д゚ )「俺は力を貸さないかもしれんぞ」
(゚Д゚)「それでも、だ。私は兄弟を見捨てて新天地に旅立つほど冷血漢ではない」
( ゚д゚ )「……」

計算したものか、そうでないのか。
理屈続きだった話の流れに、突如として精神論を持ち出されてミルナは困惑した。
どんなに拒んでいても、そうやって優しくされれば流されたくなるのが人情だ



28: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/02(月) 01:44:38.55 ID:GyxjJddg0
  
(゚Д゚)「まだ時間はある。だが、停泊中には結論を出せ。彼らの出発と共に、移民も開始する」
( ゚д゚ )「ツンは……巫女は、何と言っている」

長と並ぶ一族の象徴、巫女の言葉に、ミルナはかけた。
いくらウマーが暫定統括役であるとはいえ、位は巫女の方が上のはずだ。
だが、

(゚Д゚)「それが一族の平和と繁栄のためになるなら、だそうだ」
( ゚д゚ )「……そうか」

ミルナは手の中の半壊したコップに視線を落とす。

( ゚д゚ )「コップ……すまんな」
(゚Д゚)「気にするな。どうせ移動の際には捨てていく」
( ゚д゚ )「そうか……」

自分も見覚えのあるそのコップは、確か父親が使っていたものだ。
思い出のこもった品を、ウマーは捨てると言う。
だが、ミルナにはどうしてもVIPを捨てる決断は出来そうになかった。



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