( ^ω^)ブーンが機械と戦うようです

56: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/02(月) 11:52:50.11 ID:GyxjJddg0
  
2時間ほどの昼休憩の後、会議は再開された。
議題は午前中と変わらず、トレーダー族が機械に対して宣戦布告するかどうかだ。

だが、ミルナの口は休憩前に比べて重く、歯切れが悪い。
自分の言い分を自信なさげに喋るミルナを、VIPメンバーは不思議な気持ちで見ていた。



58: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/02(月) 11:58:42.76 ID:GyxjJddg0
  
( ゚∀゚)「なんか、艦長の元気ないなぁ」
/ ,' 3「元気がないというより、何か迷っているように見えるのお」
ミ.,,゚Д゚彡「いつも自信満々な艦長らしくもない。何か悪い物でも食べたんでしょうか」
(;^ω^)「た、食べ物の話はしないで欲しいお……うぐっぷ」

口を押さえて腹をさする内藤を無視して、フサギコはミルナを見つめる。
自分がこの世界に来てからずっと、ミルナは明確な意志を持って行動していた。
一種独裁的なところさえある男だった。

そのミルナが、今、何かに迷っている。
自分の行動に疑問を抱いている。



60: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/02(月) 12:05:20.17 ID:GyxjJddg0
  
/ ,' 3「先ほどの昼食の席で、何かを吹き込まれたか」
( ゚∀゚)「何かって何だよ」
/ ,' 3「それがわかれば苦労せんわい」
( ゚∀゚)「なんだ、役にたたねーなー」
/ ,' 3「もはや害虫並に失礼なやつじゃのおまえさんは」
(;^ω^)「む、虫の話もちょっと遠慮してもらえないかお……」

昼食の席で何かを吹き込むとすれば、ウマーしかいない。
フサギコはウマーとミルナが同じ家に入っていくのを見かけている。
だが

ミ.,,゚Д゚彡「艦長の迷いは、理屈の伴ったものではないように感じます」
/ ,' 3「ふむ。なかなかわかっておるな、フサギコ」

当然だと言わんばかりに、フサギコは頷く。
艦長は理屈と合理性の塊のような人だ。
奔放と生き、本能を信ずるトレーダー族の中にあって、その存在は特異的ですらある。

だからこそ彼はVIPのリーダーとして闘争に参加した。
中立でいるだけでは、いずれ自分たちが滅んでしまうことを悟って。



61: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/02(月) 12:13:53.22 ID:GyxjJddg0
  
/ ,' 3「だとすると、迷いの原因は感情か。ウマーめ、何を吹き込んだのやら」
( ゚∀゚)「兄弟だもんなぁ。やっぱり、何か感動のセリフとかじゃね?」

適当に言ったジョルジュの言葉が、ほぼ正確に答えを言い当てる。

( ゚∀゚)「ま、どちらにしろ俺たちは艦長についていくだけだしな」
/ ,' 3「そうじゃの。艦長の決断に従うのみじゃからな」
(;^ω^)「二人とも自主性がないお……」
( ゚∀゚)「ばーか、組織の中で持つのは個性だけでいいんだよ」
/ ,' 3「それに、自主性を持っておらんわけではない。今は艦長の決断を信じとるだけさね」

二人の言葉から、内藤はミルナに寄せられている絶対の信頼を感じ取った。
荒巻とジョルジュ、二人がどのくらいの歳月をミルナと共に過ごしたかは知らない。
知らないが、個性の強い二人にこうまで言わしめるだけの絆が作られるほどには、長いようだ。

ミ.,,゚Д゚彡「……」

フサギコはそんな3人の会話を聞きながら、艦長を見る。
相変わらず艦長はトレーダー族の参戦を求めているが、その言葉はどこか頼りない。

本当に、このまま出される結論に納得できるのか。
フサギコは信頼する艦長に、初めて疑問を抱いていた。



62: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/02(月) 12:19:30.95 ID:GyxjJddg0
  
ミ.,,゚Д゚彡「艦長。お聞きしたいことがあります」

フサギコは、再度入れられた休憩時間中ミルナに話しかけた。

( ゚д゚ )「フサギコか……なんだ」
ミ.,,゚Д゚彡「艦長は何を迷っておられるのですか」

率直に疑問をぶつけるフサギコ。
ミルナは予想していた問いかけに、しかし非常に苦しそうな表情をうかべた。

( ゚д゚ )「なんでもない……という答えでは、満足しないのだろうな」
ミ.,,゚Д゚彡「無理です。自分だけでなく、周囲の皆が気づいていることですから」
( ゚д゚ )「そうか……」

ため息をつくミルナ。
その体は、今日一日で幾分か弱々しくなったようにすら見える。



67: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/02(月) 12:35:31.09 ID:GyxjJddg0
  
( ゚д゚ )「お前は……今の闘争の現状をどう思う」
ミ.,,゚Д゚彡「どう……とは?」
( ゚д゚ )「率直に言って、勝てるかどうかだ」

フサギコは己の耳を疑った。
勝てるかどうか、だと?
自分の始めた闘争が、主導を握ってきた闘争が。
勝利に終わるかどうかを、駒として動いてきたフサギコに問う。

ミ.,,゚Д゚彡「自分は……答えることはできません」

拳を強く握りしめながら。
フサギコはミルナにそう返した。
これがミルナでなければ、怒りのあまり殴りかかっていたところだ。

( ゚д゚ )「すまん……考えが浅かったな。そして、無責任すぎた」
ミ.,,゚Д゚彡「……」
( ゚д゚ )「だが、私の迷いはそれだ」

闘争を続けるか否か。
ミルナは、自分の生涯をかけた任務を放棄しようとしている。
一体どのような原因と葛藤があったのか。
フサギコには見当もつかない。



69: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/02(月) 12:39:35.45 ID:GyxjJddg0
  
( ゚д゚ )「闘争を続けるか、やめるか」
( ゚д゚ )「どちらにしろ、お前達に悪いようにはしない。だから……」
ミ.,,゚Д゚彡「だから、黙って茶番の会議を聞いてろ、と?」

フサギコがミルナの言葉を遮った。

ミ#,,゚Д゚彡「ふっざ――」
(#゚ω゚)「ふざけんじゃねーお!!」

フサギコがミルナを怒鳴りつけようとした瞬間、背後から別の声が割り込んだ。
怒りも忘れてフサギコが振り返る。
鼻息を荒くした内藤が、肩をいからせてそこに立っていた。



70: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/02(月) 12:46:52.93 ID:GyxjJddg0
  
ミ.,,゚Д゚彡「内藤……」
( ゚д゚ )「……」
(#゚ω゚)「ふーっ、ふーっ」

鼻息荒く、内藤がミルナに詰め寄る。

(#゚ω゚)「あんたの理由で喧嘩を初めたからって、あんたの理由で喧嘩を終わらせるのかお」
(#゚ω゚)「あんたはそれでいいかもしれないけど、他の人たちはどうなるんだお」
(#゚ω゚)「あんたを信じてついてきた人たちは、どうなると思ってるんだお!!」

ミルナを信じてついてきた人々。
荒巻、ジョルジュ、フサギコ、流石兄弟。そして、ギコ。
おそらくは内藤が知らないだけで、他にも多くの人々がミルナに付き従ってきたに違いない。

(#゚ω゚)「悪くはしない? 何様のつもりだお」
(#゚ω゚)「ボクは友達との平和な思い出も、家族との晩ご飯も捨てさせられたお」
(#゚ω゚)「フサギコはギコをあんたの作戦で亡くしたお」
(#゚ω゚)「でも、あんたはあの作戦が正しいものだったって、言ったんじゃなかったのかお」



71: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/02(月) 12:54:59.48 ID:GyxjJddg0
  
ギコ。フサギコの弟。
彼はジョルジュ隊の救援のために、自爆した。
それがVIPのため、ひいては勝利のためになると信じて。

(#゚ω゚)「あんたがあんたの理由で喧嘩をやめることはもう出来ないんだお!!」
(#゚ω゚)「報いろとは言わないお!! 死んだ人は戻らないし、カーチャンやドクオも戻ってこないお!!」
(#;ω;)「でも、だったらせめてあんたはあんたの喧嘩をちゃんと終わらせるべきだお!!」

それがあんたの責任じゃないのかお。
涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにしながら、内藤はそう締めくくった。



72: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/02(月) 12:59:28.82 ID:GyxjJddg0
  
( ゚д゚ )「……」

ミルナは、返す言葉が見つからなかった。
自分の生涯をかけた闘争を、まだ成人もしない人間に喧嘩呼ばわりされた。
本来なら業腹の言いぐさだが、不思議と腹は立たない。

闘争だなんだと、自分は格好つけすぎていたのかもしれない。
人類とトレーダー族、それぞれの未来のためにと、片意地を張りすぎていたのかもしれない。
なまじ知識と分別だけはあるものだから、思い上がっていたのかもしれない。

( ゚д゚ )「……ふん。言うものだな」

そう言って苦笑する。
そうだ。平和と便宜によって彼らに報いようとするのは、間違いだった。

彼らをこの世界にたたき込んだ責任。
闘争に巻き込んだ責任。
何かを捨てさせた責任。
そして、それでもついてきてくれた責任。

それに報いる方法はただ一つ、この『喧嘩』をちゃんと終わらせること。
途中で放り出すのは現在の、そして散っていった他のメンバーが許すまい。



74: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/02(月) 13:06:05.91 ID:GyxjJddg0
  
ミ.,,゚Д゚彡「……自分の意見も、内藤と同じです」

内藤に発言を奪われる形となっていたフサギコが口を開く。
言いたいことは全て内藤に言われてしまった。
普段は情けないくせに、逆ギレした時だけは手に負えない。
そんな内藤を、フサギコは面白いと感じるようになっていた。

/ ,' 3「やれやれ。あれほど静かにしておけと言ったというに」
( ゚∀゚)「いいんじゃね? 俺も飛び出そうとしてたし」
ミ.,,゚Д゚彡「な……っ!?」

背後の声に、再び振り返るフサギコ。
建物の影から、悪びれる様子もなく荒巻とジョルジュが姿を現した。

どうやら当て馬にされたらしいと、フサギコは悟った。
どうせ、自分がミルナに話しかけたところから全て会話は聞かれていたのだろう。
内藤のタイミングが良すぎるとは思ったが、まさかメンバーぐるみで利用されていたとは。



77: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/02(月) 13:17:01.27 ID:GyxjJddg0
  
額に手をやって押し黙るフサギコ、それを労うジョルジュ。
そして、荒巻がミルナに話しかけた。

/ ,' 3「どうですかな、内藤の渇は。なかなか効いたようですが」
( ゚д゚ )「ああ……なかなか効くな、あれは」

そうでしょうそうでしょうと荒巻が頷く。
フサギコもあれでやられましたからな、と続ける荒巻に、フサギコが嫌そうに顔をしかめた。

/ ,' 3「で、腹は決まりましたかな?」
( ゚д゚ )「ああ、おかげさまでな。少し時間がかかってしまったようだが」
/ ,' 3「なんの。大したことではありませんわい」

ミルナはメンバーに向かって宣言する。

( ゚д゚ )「VIPは闘争を続行する。終わりは二つ、勝利か敗北のみだ」
( ゚д゚ )「そして、勝利することがお前達に報いるただ一つの方法であると信じる」

だから、また着いてきてくれるか。
最後だけ若干自信なさげに言うミルナに、荒巻が、ジョルジュが、フサギコが笑って頷く。
内藤も、涙を拭いながら頷いた。



78: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/02(月) 13:24:45.57 ID:GyxjJddg0
  
内藤はまだ目覚めて五日。
他人の喧嘩に命をかける覚悟など、到底できているとは思えない。
それでも内藤は、この数日で沢山のものを得ることになった。

ギコからは覚悟と信念を。
トレーダー族からは忍耐と誇りを。
その長からは優しさと自己犠牲を。
そしてツンからは守るべき者を。

すべてを天秤にかけて命と釣り合うかと聞かれれば、内藤は首を傾げるほかない。
だが、内藤は沢山の人たちから受け取ったものを無駄にはしたくないと強く感じる。
その結果死ぬことになるかもしれないと思うが、それは不思議と恐ろしくなかった。

( ^ω^)「ボクはあっちの世界で幸せだったお」
( ^ω^)「でも、こっちの世界で大切なものをいっぱい貰ったお」
( ^ω^)「だから、こっちの世界がボクの世界だお」
( ^ω^)「こっちに呼んでくれたミルナさんを、ボクは信じるお」

ネットの片隅に残された小さなレス。
それとの邂逅を感謝していることを、内藤は初めてはっきりと自覚したのだった。



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