( ^ω^)ブーンが機械と戦うようです

8: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/06(金) 21:48:25.19 ID:H9Wm36ep0
  
七日目

内藤はその日、ツンの元へと出かけていた。
理由は、特にない。
ただ、ツンの顔が見たくなったというのが唯一の理由である。

( ^ω^)「……」

内藤は迷っていた。
昨日の夢の中、システムに言われた言葉が頭の中を駆けめぐっている。
闘争は続けるつもりだ。
だが、ツンと離ればなれになることが明確である以上、その闘争は内藤自身にどれほどの価値があるのか。

ミルナはいい。
自分自身が見つけた理由で、彼は闘争を続けている。だが、内藤はどうだろう。
守りたい人は遠く離れて、もう二度と会えなくなってしまう。

( ^ω^)「いっそ、逃げ出してしまいたいお……」

逃げ出せば、ツンと一緒にいることは出来るだろう。
闘争? プライド? そんなものはただの見栄っ張りだ。役にはたたない。
集落へ向かう内藤の足取りは重かった。



9: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/06(金) 21:49:46.37 ID:H9Wm36ep0
  
ξ゚听)ξ「内藤!!」

前方からかけられた声に、内藤の思索は断ち切られた。
見るとそう離れていない場所で、ツンが内藤にむかって腕を振っていた。

ξ゚听)ξ「何ぼーっとしてんのよ?」
( ^ω^)「ごめんだお、ちょっと考え事をしてたんだお」
ξ゚听)ξ「考え事? やめなさいよ、あんたらしくもない」

酷い言いぐさだが、もっともだ。
内藤は自分でも思い悩むというのが似合っているとは思えない。

ξ゚听)ξ「それより、どうしたの? 村に用事?」
( ^ω^)「違うお、ツンに会いに来ただけだお」
ξ////)ξ「なっ、何恥ずかしいことサラっといってんのよ!!」

途端に真っ赤になるツン。
素直ではないその反応は、合って日が浅い内藤にとっても、もはや見慣れた反応だ。
だからといって感動が薄まるわけではないのだが。



12: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/06(金) 21:55:42.84 ID:H9Wm36ep0
  
( ^ω^)「ツン、今日は丘の方にでも散歩に行かないかお」
ξ゚听)ξ「丘に? いいわよ、丁度あたしも手が空いたところだし」

ちょっと待っててね、と言い残して、ツンが畑にいる数人の下に駆けていく。
どうやら畑仕事の手伝いをしていたようだった。
しばらくやり取りをして、ツンが戻ってくる。

ξ゚听)ξ「もう上がっていいって。行きましょ」
( ^ω^)「うんだお!!」

畑にいるトレーダー族に挨拶をしながら、内藤は集落を抜けて丘へと向かった。
島の放棄はすでに全トレーダー族に伝わっている筈だが、彼らにその気配は見られない。
移民に結構な時間がかかるというのも一つの理由だろうが、それ以前に彼らは日常を大切にしているのだろう。
変わらぬ暮らしを、いつまでも続けるということ。
簡単に見えて実はとても難しいことを続ける、そのことこそがトレーダー族の生きる目的なのだ。

強いな、と内藤は感じた。
もしかしたら、闘争を続ける自分たちよりも、トレーダー族は強くたくましい。
いや、もしかしたら、その日常を続けるために、トレーダー族は今も闘争を行っているのかもしれない。

生きる目的、戦う理由。
彼らにあって自分に無いものを見つめて、内藤はまぶしい気持ちになった。
ツンは、そんな内藤の横顔をちらりと見て、しかし何も言わなかった。



14: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/06(金) 21:58:06.50 ID:H9Wm36ep0
  
数分後。

( ^ω^)「おっおっお、とっても綺麗だお!!」
ξ゚听)ξ「ふふーん、でしょでしょ? 私のお気に入りの場所なんだからね」

丘の一角にある岩場を越えたところにある、小さな広場。
そこには名も知らぬ黄色い花が一面に咲き誇っていた。
背後を岩に囲まれ、前方はぷつりと地面が切れて崖が広がっている。
それほど高い場所ではないが、眼下に見える森林地帯がそこからは一望することができた。

ξ゚听)ξ「思い出すなー。ここね、あたしが初めて家出をしたときに見つけた場所なのよ」
( ^ω^)「ツンでも家出なんかするのかお?」
ξ゚听)ξ「そりゃ家出の一つや二つくらいはするわよ」

懐かしそうに目を細めるツン。
森を渡ってくる風に金色の毛並みを揺らめかせ、ツンは大きく深呼吸をした。



15: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/06(金) 22:01:31.28 ID:H9Wm36ep0
  
ξ゚听)ξ「今でも思い出せるわ。その頃のあたしは、巫女になるのが凄く怖かったの」
ξ゚听)ξ「だって、小さな小娘が一族の象徴とかいって崇められるのよ?」

怖いなんてもんじゃなかったわよ、とツンが苦笑する。
巫女。トレーダー族の象徴。
世襲により請け負うその役職は、本人が望むと望まざるとに関わらず、等しく受け継がれる。
ツンは幼くして両親を亡くしているため、幼い頃から巫女としての教育と期待を一身に受けてきた。

ξ゚听)ξ「ある日、近所の子供達と一緒に遊んでたら、作物をめちゃくちゃにして怒られちゃってね」
ξ゚听)ξ「その時、あたし以外の子供全員がこっぴどく怒られたの」
( ^ω^)「ツンは怒られなかったのかお?」
ξ゚听)ξ「怒られなかったわ。子供達がそのことを言ったら、あの子は巫女になる方だからって」

深くため息をつく。

ξ゚听)ξ「なにそれ、って感じだったわよ」
ξ゚听)ξ「あたしはあたし、何も変わらないのに、無理矢理そんな風に見られて」
ξ゚听)ξ「それから一緒に遊んでた子供達が距離を取るようになったのも、凄く嫌だった」



16: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/06(金) 22:04:04.82 ID:H9Wm36ep0
  
内藤は黙ってツンの話を聞いていた。

ξ゚听)ξ「その頃から、あたしは長に巫女の教育を受け始めた」
ξ゚听)ξ「教育は厳しかったわ。でも、あたしが嫌になったのは、もっと別の理由」
ξ゚听)ξ「巫女になったら、あたしがあたしじゃなくなる、そんな気がしてたの」

巫女というのが一種の偶像なら、その姿や言動は、一族が望む者でなければならない。
そうでなければ巫女は信仰の対象にならず、一族の象徴たりえないからだ。
ツンが子供心に感じ取ったのは、巫女としての型にはめられて削られる自分らしさの喪失感だったのだろうか。

ξ゚听)ξ「だから、ある日家出をしたの」
ξ゚听)ξ「バカよね。こんな小さな島で家出をしても、何の解決にもならないのに」

自嘲気味に笑うツンに、内藤は小さく首を振った。

ξ゚听)ξ「ありがと。でも、その頃のあたしは、本当にバカだったから」
ξ゚听)ξ「だから、目の前にあることから逃げ出せば、どうにかなると思ってた」



19: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/06(金) 22:07:55.59 ID:H9Wm36ep0
  
逃げ出すという言葉に、内藤は心の中を見透かされたように感じた。
もちろんツンにはそんな気持ちなどこれっぽっちもなかったが。

ξ゚听)ξ「目の前にあることから逃げ出して、走って走って、途中見つけたここに隠れた」
ξ゚听)ξ「目を閉じ耳をふさいでいれば、嫌なことはいつか消えてくれるって思ってたから」

闘争から逃げ出すということは、幼いツンがとった行動と同じ事なのかもしれない。
卑怯そのものの考えに、内藤は自分自身に嫌悪感を抱いた。

ξ゚听)ξ「でも、今はもう違う。あたしは巫女になってよかったと思う」
ξ゚听)ξ「象徴になるっていうのは難しいことだけど、それだけあたしは力を手に入れた」

一族や世話になった人に報いることの出来る力。
だからあたしは巫女を続けていけるし、頑張っていけるの。
ツンは優しい笑顔で話をそう締めくくった。



21: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/06(金) 22:16:25.04 ID:H9Wm36ep0
  
( ^ω^)「ツン……」
ξ゚听)ξ「なに?」
( ^ω^)「ツンは、巫女として今も頑張って居るんだおね」
ξ゚听)ξ「そうよ。だって、それが私の出来ることだもの」
( ^ω^)「じゃあ、ボクはツンがいつまでも巫女として頑張れるようにするお」

ツンが巫女として頑張れるように。
たとえ遠く離れてしまっても、ツンが機械におびえることなく巫女を続けられるように。
トレーダーの人たちやツンが日常を続けていけるように。
内藤が得ることの出来たVIPメンバーとしての力と権利は、そのために使う。
だから

( ^ω^)「だから、ツンは安心して巫女を続けて欲しいお」
ξ゚听)ξ「内藤……」

きわめて自然に、内藤はツンを抱きしめた。
金色の毛並みから、夢の中で感じた太陽と草の匂いが感じられる。
一瞬身を固くしたツンも、すぐに力を抜いて内藤の胸に体を預けた。

内藤は初めて闘争に参加することができてよかったと感じた。
闘争に参加していなければ、自分はツンを守ることすらできなかったのだから。

内藤は、一度は失いかけた戦う理由を、再び手にすることができたのだ。



22: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/06(金) 22:23:55.04 ID:H9Wm36ep0
  
幸せな時間。
しかし、その幸せは長くは続かなかった。

( ゚д゚ )『内藤、聞こえるか。内藤!!』
(;^ω^)「ぷおっ!?」
ξ゚听)ξ「きゃっ!?」

突如、内藤のポケットに入っていた無線機から、ミルナの緊迫した声が流れる。
電気が流れたかのように離れる内藤とツン。
恥ずかしい気持ちでいっぱいになるが、どうやら今はそれどころではないようだ。

(;^ω^)「は、はい。内藤ですお」
( ゚д゚ )『すまんな、突然呼び出して。だが緊急事態だ。直ちに艦に戻れ』
( ^ω^)「何かあったんですかお?」
( ゚д゚ )『何かあったからこうして呼び出しているのだ。時間が惜しい、急げよ』

早口でそれだけをまくしたてると、ぷつりと無線は切れた。



24: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/06(金) 22:27:12.75 ID:H9Wm36ep0
  
( ^ω^)「あー、びっくりしたお」
ξ゚听)ξ「緊急事態って……何かあったのかしら」

ツンと顔を見合わせる内藤。
ミルナのいつにない焦りようからして、その内容はかなり重要なことらしい。
もしかしたら、先ほどの決意の意味も消えるほどの。

ξ゚听)ξ「考えててもらちがあかないわ。とにかく戻りましょう」
( ^ω^)「わかったお」

丘を後にする二人。
内藤は秘密の場所を出るときに、そっと地面の黄色い花を一輪だけ摘み取った。



25: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/06(金) 22:32:52.66 ID:H9Wm36ep0
  
( ^ω^)「戻りましたおー!! ……お?」

内藤がタシーロ号に戻ってブリッジに入ると、そこはまるでお通夜のようだった。
ミルナ、流石兄弟、フサギコが沈痛な面持ちで内藤を迎える。

( ^ω^)「あれ、荒巻さんとジョルジュはまだ来てないのかお」
( ゚д゚ )「ジョルジュなら自室で寝ている」

怪訝な顔をする内藤。
招集がかかったのに寝ている?

( ^ω^)「ジョルジュも案外のんきだお。ボクが起こしてくるお」
( ゚д゚ )「そうじゃない。ジョルジュは負傷のため安静にしていると言っているんだ」
( ゚ω゚)「……お?」

負傷? ジョルジュが?
どうやらのんきだったのは自分らしいと内藤は感づいた。



27: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/06(金) 22:38:52.48 ID:H9Wm36ep0
  
( ゚д゚ )「ジョルジュは負傷、そして荒巻は行方不明だ」
ミ.,,゚Д゚彡「ジョルジュは先ほど甲板で負傷しているのを発見された。荒巻さんの自室は血だらけでもぬけのカラだ」

そしてこの紙が残されていた。
そう言ってフサギコは一枚のプリント用紙を差し出した。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ドクター荒巻は2チャンネルシステムでの保護が決定した。
身柄の引き渡しにはVIPリーダー「コッチ・ミルナ」が
単独、非武装で大坑道北部Rg−04地区まで来られたし。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

ゴシック体でプリントされたこれらの文章。
どこから読んでも完璧に脅迫状だ。
機械でも脅迫状を送りつけるのかと、内藤は酷く場違いなことを考えていた。



28: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/06(金) 22:45:23.91 ID:H9Wm36ep0
  
( ゚д゚ )「そこに書かれている場所は、機械共のお膝元だ」

内藤が読み終わるのを確認したミルナが話し始める。

( ゚д゚ )「何が目的かしらんが、奴らは俺が目的らしい」
ミ.,,゚Д゚彡「頭を失えば道に迷う。と、奴らは考えているのでしょう」
( ゚д゚ )「ふん、見当違いもいいところなのだがな」

鼻で笑うミルナ。
その自信に満ちあふれた姿は、自分の作った組織との絆を誇っているかのようだった。
だが

ミ.,,゚Д゚彡「……行かせませんよ」
( ゚д゚ )「……なに?」
ミ.,,゚Д゚彡「あなたをみすみす死なせるわけにはいかない。だから、行かせはしません」

フサギコを睨み付けるミルナ。
その迫力は本気のものだ。
しかし、フサギコの覚悟も本気だ。



29: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/06(金) 22:54:31.66 ID:H9Wm36ep0
  
ミ.,,゚Д゚彡「あなたはリーダーだ。あなたが死ねば、闘争は続かない」
( ゚д゚ )「すべてはお前達に教えてある。俺がいる必要はもうあるまい」
ミ.,,゚Д゚彡「それは違う。我々に必要なのは教師ではなく、先導者なのです」

一歩も譲らない二人。
ミルナは自らの体をはって荒巻を助けようとしている。
それは確かに理想のリーダー像だが、現実的ではない。

( ゚д゚ )「だが、荒巻は必要だ。それに俺だってみすみすやられてやるつもりはない」
ミ.,,゚Д゚彡「機械の修理ならジョルジュができます。医療行為は自分もできます」
( ゚д゚ )「フサギコ。お前は、それを本気で言っているのか?」
ミ.,,゚Д゚彡「はい」
( ゚д゚ )「ほう……偉くなったものだな。お前は本気で『荒巻スカルチノフ』という存在の代わりになれるとでも?」
( ゚д゚ )「世界でただ一人の『荒巻スカルチノフ』が存在する意義は、医術と技術しかないと、本気で言っているのか?」

ゆらり、とミルナが椅子から立ち上がる。
殺される、と内藤は思った。
本気で怒るミルナを見るのは初めてだが、その怒りの様はトレーダー族として納得の怒りだった。
自分に向けられているわけでもない殺意に、内藤の喉の奥がキュっとしまる。



31: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/06(金) 22:59:25.32 ID:H9Wm36ep0
  
ミ;,,゚Д゚彡「……すみ、ません……軽率でした」

フサギコが、首をうなだれる。
その瞬間、ミルナの体を覆っていた空気は霧散した。

( ゚д゚ )「とにかく、荒巻を助けに行くことは決定だ。これを覆すことはできん」
( ゚д゚ )「ただし、ただ助けにいくのも芸がない」

にやりと笑うミルナ。

( ゚д゚ )「この命が惜しいと思ったことはないが、ただでくれてやるほど安くはない」
( ゚д゚ )「この際だ。ジリ貧になるまえに、大攻勢と行くぞ」

先ほどの怒りとは違う迫力で笑うミルナ。
その野性的な笑みは、自信に満ちあふれると共に、どこか危なっかしくも思えた



33: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/06(金) 23:10:10.58 ID:H9Wm36ep0
  
内藤がブリッジにてミルナの言う『作戦』に耳を傾けている頃。

ジョルジュは自室で痛みに呻いていた。
傷口からの出血により、その体は強く発熱している。
熱にうかされながら、ジョルジュはうわごとのように呟く。

(;-∀-)「う、く……あぁ……」
(;-∀-)「じーさん……なん、で……」

一際苦しそうに呻くと、ジョルジュは深い眠りに落ちていった。



34: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/06(金) 23:12:09.79 ID:H9Wm36ep0
  
――といったところで、七日目・前編終了です。
前回、機械とか秘密とか兵器とか出すぞって言いましたが・・・・・・
まったく出てませんねハイ。ほんとすみません。
次回こそは、次回こそは出るはずです(´・ω・`)



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