( ^ω^)ブーンが機械と戦うようです

26: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/04(水) 00:17:55.16 ID:uioT0m+a0
  
目の前にはショボンが――正確には、その姿を借りた何者かが存在している。

(´・ω・`)「僕が何者かなんて、どうでもいいことだよ。問題は君だ、ブーン」
( ^ω^)「……」

暗闇の中。
どこから照らしているかすらわからないスポットライトの下に、二つのソファが置かれている。
そこに腰掛けながら、ショボンは静かに語りかけた。

(´・ω・`)「ねぇブーン。人は、どれだけ幸せになることが出来ると思う」
(´・ω・`)「そしてどれほどの幸せを願うと思う」
(´・ω・`)「答えは『限りなく永遠に』だ。願いは尽きることなく、システムはそれを叶え続ける」

偽りで固められた幸せ。
だがそれは、体験する者にとってはまぎれもない現実。
荒巻の体験した半生は幸福だった。
荒巻が覚醒させたミルナを呪うほどには。



27: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/04(水) 00:23:37.64 ID:uioT0m+a0
  
(´・ω・`)「君は修正を受け付けない。それは体質によるものか、それともシステムの不備か」
(´・ω・`)「だが、どちらでもいいことだ。問題は、君が幸せを享受しないということだよ」
( ^ω^)「……夢の中で幸せになっても仕方がないお」
(´・ω・`)「それを言い切ることはできるかい? 現に夢の中で幸福を得ている人は沢山いるよ」
( ^ω^)「その人たちは現実を知らないからだお」
(´・ω・`)「彼らにとっては、その夢こそが現実だ。日々を一生懸命に生きている」
( ^ω^)「……」
(´・ω・`)「ブーン。君は現実で幸福を見つけたかもしれない」
(´・ω・`)「でも、だからといって君が他者の幸福を壊す権利があるのかな?」
( ^ω^)「……」

それは、おそらく無いだろう。
たった数日間暮らしただけの現実でも、それが確信できるくらいには暮らしにくいはずだ。

ましてや、今まで見ていた夢の幸福とのギャップもある。
友人やカーチャンとの別離を思えば、その喪失感は容易に想像できた。

現実に生きていないから不幸だ。
現実に覚醒することが幸福だ。

そう言って無理矢理幸せな夢から覚醒させることは、ただのエゴでしかない。



28: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/04(水) 00:32:10.06 ID:uioT0m+a0
  
(´・ω・`)「人間が自分たちの足で歩く時代はもう終わったんだよ」
(´・ω・`)「初めは馬、そして馬車、次は汽車で、その次は車」
(´・ω・`)「人間はどんどん自分の足で歩かなくてもよくなっていった。そう望んだのは人間だ」

人間が繁栄の絶頂にいた時代。
その時代の生活を支えたのは機械であり、人間は限りなく幸せを享受するだけでよかった。
機械による幸福のシステムはそこから進化して、いつしか直接的に幸せを与えるようになる。

(´・ω・`)「核戦争や宗教間での争い。人間の世界には、いつも闘争が満ちあふれていた」
(´・ω・`)「僕はそれらの行為によって消費される命に、いつも心を痛めていたよ」
(´・ω・`)「そして、命が一つ消えるたびに思ったんだ。僕ならもっと幸せにすることができたのにって」

かくしてシステムは完成し、人は眠りにつくことになる。
絶対的な幸せを得ることができる仕組み。
全てが理想で包まれ、苦しみや悲しみの生まれることのないシステム。

ゲームや漫画、古くは小説や絵画などに至るまで。
人が望んでいた「こうだったなら幸せなのに」という気持ちを叶えるシステム。
2チャンネルシステム。
それは現実とは違う世界に構築された、もう一つの現実。



30: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/04(水) 00:43:10.24 ID:uioT0m+a0
  
2チャンネルシステムはただのテレビ放送などではない。
そこには物理法則が働き、化学反応があり、ウィルスや菌すら存在する。
だが、それらは人生を幸福に生きる上での、ほんのちょっとしたスパイス。

野球を楽しむために重力は働き、唐揚げをおいしくするために化学反応が起き、納豆を作るために納豆菌が増殖する。
キスの味を楽しむために味覚は存在し、カレーの匂いを嗅ぐために嗅覚は働く。
強くなる筋肉のために超回復が行われ、繋いだ手の温もりを感じるために触覚がある。

隙間無く張り巡らされた幸せのための計画。
そこに個人のエゴが入り込む余地など存在しない。

(´・ω・`)「ブーン、もういいんだ。君は不幸にも違う世界を覗いてしまったかもしれない」
(´・ω・`)「でも、そこで得た幸せは、こちらに戻ってくれば全て元通りに再現できる」

ミルナ、荒巻、ジョルジュ、フサギコ、流石兄弟、そしてツン。
望みさえすればギコも日常として復帰することができるのだろう。
それができるからこそのシステムであり、その誘惑はとても魅力的だ。

おそらく、システムに戻れば現実世界の記憶は消える。
正確には、現実世界からシステムに戻ったという記憶は存在しなくなる。
そして、システムの中で現実世界の夢を見ながら、闘争を成功させてツンと幸せに暮らすことができる。



32: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/04(水) 00:49:16.48 ID:uioT0m+a0
  
( ^ω^)「とてもよくわかったお。そして、魅力的だと思うお」
(´・ω・`)「そうだろうね。いくら夢だからと言っても、幸せであることは間違いないのだから」
( ^ω^)「そして夢が現実に取って代わる。そういうことかお」
(´・ω・`)「そう。そして幸せな人生を歩んで、一生を終えるんだ。僕は君に幸せになって欲しい」

ショボン――システムの代弁者が語る言葉は誠意が感じられる。
騙そうとしているのではない。
丸め込もうとしているわけでもない。
きっと、(機械にこのような言葉はおかしいかもしれないが)心の底から人間の幸福を望んでいる。
だが

( ^ω^)「だが断る」



34: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/04(水) 00:55:38.98 ID:uioT0m+a0
  
(´・ω・`)「何故かな? 君が他人に幸せを与え貰うことに嫌悪感を感じるからかい?」
( ^ω^)「違うお」
(´・ω・`)「じゃあ夢だからかな?」
( ^ω^)「それも違うお。夢でも覚めなければきっと現実になるとは思うお」
(´・ω・`)「じゃあ、何故なんだい?」

心底不思議そうに尋ねる相手に、きっぱりと宣言する。

( ^ω^)「言いたいことはわかったお。幸せになれることもわかったお」
( ^ω^)「でも、そこにはツンは居ないお。他の皆もいないお」
( ^ω^)「皆がいるのは現実世界だけで、ボクが居なくなった世界でツンが悲しむのは嫌だお」

システムに戻れば、現実世界での記憶は消されるだろう。
システムの中に居るのか現実世界に居るのかすらわからない状態になるだろう。
そこにはツンもいる、皆もいる、失われた人すら存在する。
でも、そこではない現実世界にこそツンが居る、皆が居る。

失われた人から受け取ったもの。
今いる人から受け取ったもの。
それら全ては、現実世界にいてこそ意味があるものなのだ。



36: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/04(水) 01:04:56.67 ID:uioT0m+a0
  
( ^ω^)「それと、ブーンブーンうるさいお。ボクの名前は内藤ホライゾンだお」
(´・ω・`)「それはシステムの中で得た仮初めの名前だ。今、君に割り振られている名前はブーンだよ」
( ^ω^)「それでも、ボクの名前は内藤ホライゾンだお」
( ^ω^)「偽りでも夢でも、ボクのカーチャンが考えてくれた名前だお。大切なボクの名前なんだお」
( ゚ω゚)「例えもう会えなくても、ただの幻だったとしても、カーチャンはカーチャンだお」
( ;ω;)「ドクオも、ショボンも、他の沢山の人たちも……ボクにとってはかけがえのない思い出だお」
(#;ω;)「そんなこともわからずにいるお前に、幸せなだけの人生を押しつけられるなんてまっぴらごめんだお!!」

システムが作り出したノン・プレーヤー・キャラクター。
それらの仮想人格との思い出、幸せな日々。
偽りだと知っていても、それはまぎれもない内藤自信の思い出。
それを勝手に作り替えるシステムになど、内藤は戻る気にはなれなかった。

幸せの定義は他者が決めるものではない。
金持ちは自由な時間が幸せで、貧乏人は美味しい食事が幸せだ。
幸せであれと作られた幸せに酔いしれる人生よりも、苦しみの中で大事に掘り起こす幸せを大事にしたい。
そして内藤はすでに幸せを見つけている。



37: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/04(水) 01:11:25.17 ID:uioT0m+a0
  
(´・ω・`)「やれやれ……どうやら君はシステムにとことん合わないらしいね」
( ^ω^)「……ボクをどうするんだお」
(´・ω・`)「どうもしないよ。殺すとでも思ったのかい?」

不意に出た「殺す」という言葉に、内藤は身を固くする。

(´・ω・`)「そんなことはしない。だって、僕は全ての人間に幸福を与えるシステムなんだからね」
( ^ω^)「でも、トレーダーの人たちやVIPの皆を攻撃したお」
(´・ω・`)「システムの害悪になる要素は排除しなければならないからだよ」
( ^ω^)「……」
(´・ω・`)「それに、僕の方から攻撃をしかけた訳じゃない。攻撃されたから防衛しただけにすぎないよ」
( ^ω^)「でも、殺すことはないんじゃないかお。殺したら意味がないお」
(´・ω・`)「うん、わかってる。でも、どんなに言葉をつくしても判ってくれないなら、力で応えるまでだ」

システムの語る言葉は分かり易い理屈で成り立っている。
攻撃されたから身を守る、それだけのこと。
ましてやシステムはその他大多数の人間の幸せを管理している。
その幸せを守るためならば、必要最低限のことはしなければならない。



38: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/04(水) 01:16:43.57 ID:uioT0m+a0
  
( ^ω^)「……ミルナさんは、何でそうまでして闘争を続けるのかお」

システムに相対して初めて生まれる疑問。
今までは一方的に機械を悪と決めつけていたから生まれなかった疑問だ。
いや、もしかしたらそうなるように情報を選別されていたのかもしれない。

( ^ω^)「攻撃しなければ、機械はもう人間を襲ったりはしないのかお」
(´・ω・`)「あ、それはないよ」
( ゚ω゚)「はぁ!?」
(´・ω・`)「だってそうでしょ。このまま放っておいたら、いつまた攻撃されるかわからない」
(;゚ω゚)「も、もう攻撃しないって約束してもかお」
(´・ω・`)「人間がそうやって約束して、ちゃんと守られたことがどれだけあると思う?」

人間の歴史は闘争の歴史。そして裏切りの歴史。
システムは合理的に考えるからこそ、徹底的に不安要素を排除する。



39: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/04(水) 01:22:13.97 ID:uioT0m+a0
  
(´・ω・`)「もっとも、襲うんじゃなくて管理するって言うのが正しいのかな」
(;^ω^)「kwsk」
(´・ω・`)「うん、君たちが現実世界で生きていきたいってのはよくわかった」
(´・ω・`)「でも、野放しにしておいたら、君たちの生存確率は限りなく低くなる」
(´・ω・`)「加えて、力を蓄えて攻撃してこないとも限らないしね」

この前の核爆弾とか、もっと強力な兵器とか作られたら困るから。
そうシステムは続けた。

確かにそうだ。
誰だって、隣の奴が包丁を研いでこちらを見つめていれば脅威に感じる。
包丁を取り上げて縄で縛らないと安心はできないだろう。

(´・ω・`)「だから、君たちが現実世界で生きられるように管理させてもらう」
(´・ω・`)「息苦しく感じるかもしれないけど、仕方ないよね。危険なんだから」

それともシステムに戻ってくるかい?
あくまでフレンドリーに話しかけるシステムに、内藤は力なく首を振った。
それだけはありえない。



40: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/04(水) 01:27:22.34 ID:uioT0m+a0
  
(;^ω^)「もう攻撃しない、兵器も作らないって言ってもダメだおね」
(´・ω・`)「ダメだね。少なくとも君たちのリーダーはそんなつもりないみたいだしね」

闘争を始めたミルナが何を思うのかはわからない。
だが、彼には彼なりの思いで闘争を始めたのだろう。
そしておそらく、現実世界で管理されることを受容することはありえない。

(´・ω・`)「さて、そろそろ時間かな」
( ^ω^)「お?」
(´・ω・`)「君のお仲間が来てるんだよ。君を助けにね」

VIPメンバーのことだろう。
わざわざ自分を助けに来てくれたことに、内藤は感謝した。



43: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/04(水) 01:34:10.10 ID:uioT0m+a0
  
( ^ω^)「ところで、まだ聞いてないことがあったお」
(´・ω・`)「ん、何かな?」
( ^ω^)「どうして僕にわざわざあんな物を見せたんだお」

あんな物というのは、先ほどまで見ていた仮想世界だ。
ご丁寧に現実世界の人たちまで盛り込んで作られた、幸せの形。

(´・ω・`)「一つ目の理由は、修正を受け入れなかった君をテストしたくなったから」
(´・ω・`)「二つ目の理由は、君たち現実世界の人たちの意見を直接聞きたかったから」
(´・ω・`)「そして三つ目の理由は、なんとなく、かな」

前者二つの理由に対して、あまりにも合理的でない三つ目の理由。
友人の顔を借りたシステムに、内藤はハテナ顔で疑問をぶつける。

(;^ω^)「なんとなくって何だお?」
(´・ω・`)「なんとなくはなんとなくだよ。強いて言えば、これらの説明を聞いて君がどう動くか興味がある」
( ^ω^)「ボクを取り込むつもりかお」
(´・ω・`)「そんなんじゃないよ。その証拠に、君にはどう動いて欲しいかなんて伝えてないだろう」
( ^ω^)「それは確かに……」

それに、僕にも君がどう動くかわからないんだ。
だからこそ君に興味をもったのさ。
そう言って、システムは内藤に背を向けて歩き始める。



44: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/04(水) 01:40:33.51 ID:uioT0m+a0
  
(´・ω・`)「じゃあ、さよならだ。出来ればまた会えればいいね」
( ^ω^)「……」

背を向けて歩くシステム。
その背に、内藤は話しかけた。

( ^ω^)「ショボン、聞きたいことがあるお」

友人の名前に、システムが足を止めて振り向く。

( ^ω^)「週刊ステップに連載してた『死のノート』、最後はどうなるんだお?」
(´・ω・`)「……犯人はヤスだったことがわかって、最後は逮捕されて終わるんだよ」

ショボンは優しく笑いかける。
内藤も同じく笑いかけて、ショボンを見送った。

そこで内藤の意識は再び暗転し――そして現実世界の空気が戻ってくる。



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