('A`)達は月に願い事をするようです

2: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 04:38:10.43 ID:D55deTvwO
ピアノを弾く。
歌を唄う。
それを聴く大勢の聴衆者達。

あぁ!
昔に戻りたいな!
あの頃は良かったよ!

そう思いながら、彼女は鍵盤を強く弾く。
感情を込め、声高らかに唄う。
最後の一節を唄いあげる。

『昔にはもう戻れない だけど強く生きて行こう』

演奏が終わり、会場はシンとなる。
初めは、少ない拍手の音。
次第に多くなって行く、拍手の音。
そしてやがて、嵐の様な拍手の音となる。
彼女は深々と、聴衆者達に頭を下げる。

こんなの要らないよ……。
私はこんなの、望んでいないよ……。



3: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 04:40:05.05 ID:D55deTvwO
ドクオは落胆していた。
己のミスの多さに。
目覚し時計や、クーラーの件もそうだ。

(;'A`)「ライブが終わる時間を聞いてねぇ」

ドクオは既に、モリタポ国際文化ホールに到着していた。
目の前には、数万人は収容出来そうな、大きな建物。
この会場の中で、ヤヨがライブを開催している。
携帯を開き、時刻を確かめる。
21時16分、ライブが始まったばかりだろう。

(;'A`)「ヴァー、アホっすか俺は」

ドクオは暫し考え、会場周辺を散歩する事にした。
会場に背を向け、歩き出す。
そして、もう一個、ミスが脳裏に過ぎった。

(;'A`)(ちょ!家に連絡入れてねぇ!)



4: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 04:42:35.89 ID:D55deTvwO
門限には寛大な叔父と叔母だが、昨日の今日はまずい。
……昨日は何時に帰ったんだっけ?そう思いつつ、
ドクオは即座に携帯の電話帳を開き、ダイヤルする。
プルルルルルル……。

『ドクオ君、どうしたのー?』

('A`)「あ、叔母さん?すみません、今日は遅くなりそうです。
    友達とヤヨちゃんのライブに来てまして……」

『あらー、良いわねぇ。ヤヨちゃんって今、人気のコよねぇ』

『ゆっくりしてらっしゃい。あ、今危ない事件が多いから気をつけるのよ』

『邪魔しちゃ悪いわね。じゃあね』と言い、ペニサスは通話を切った。

叔母は本当に良い人だ、とドクオは思う。
配慮により、早々に話を切り上げてくれたのだろう。
最近、多発している殺人事件への注意もしてくれた。
本当に良い人だ、今日は思い切り、楽しもう。



5: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 04:44:51.82 ID:D55deTvwO
('A`)(さて、どこで時間を潰そうかね)

ドクオは歩きながら考える。
ふと、夜空を見上げると月が目に映った。
昨晩と変らず、淡い黄色い光を放っている。

('A`)(あんたなら、時間を潰せる場所を知ってそうだ)

ドクオは、立ち止まった。
腰を低くし、足に、全ての力を込める。
勢い良く、アスファルトの地面を蹴る。
―――そして、翔んだ。

まっすぐに、垂直に、寸分の歪みも無く、夜空へ向う。
風を、暗闇を、切裂いて高みへ行く。
月に、月になろうと翔んで行く。

やがて、速度を失い、空中で止まる。
体を横に捻り、ゆっくりとくるり360度、一周。
星の様に、体を軸に自転しながら、街を見下ろした。



6: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 04:47:02.28 ID:D55deTvwO
('A`)(へぇ……)

ドクオの両目を通り、脳に街の情報が流れ込む。

コンビニエンスストア。
だるそうに歩く中年男性。
点滅を繰返す電光掲示板。
ディープキスをしている若いカップル。
パトカーに追われ、高速で走っている改造車。
新地で集団にリンチされている青年。
そして、月極がライブを開催している会場。

ありとあらゆる情報が流れ込む。

ドクオは、少しだけ、月になった。

('A`)(決めた)

小さな月は、沈み始めた。



8: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 04:50:55.01 ID:D55deTvwO
地面にストン、と着地したドクオ。
そして、彼は唄いながら、ノリノリで歩き出した。

(*'A`)「そうだわ!コンビニ行こうかなー♪」

月が真っ二つに割れそうなドクオの歌声。
もしも、月極同士の争いが、歌唱力勝負なら彼は真先に死んでいる。
いや、余りにも酷過ぎて、相手が死んでしまうかもしれない。

(*'A`)「フヒヒ!俺もヤヨちゃんみたいに、歌手を目指そうかな!」

戯言をドクオが言っていると、看板が見えて来た。
『エターナルVIPPER』
モリタポ市に本社を置く、全国規模のコンビニエンスチェーン店だ。
今時、珍しくは無いが社長は女性らしい。
会社理念はたったの三行。

・清く。
・正しく。
・美しく。

全国の客から『ねーよ』と突っ込まれている。



9: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 04:53:21.42 ID:D55deTvwO
コンビニの敷地内に、ドクオは入って行く。
駐車場の隅には、五、六人の不良が地べたに座りながらたまっていた。
まるで光に群がる虫の様だな、とドクオは思いながら店内に入る。
店内に入ると、入店音と共に、可愛らしい声がドクオの耳に入った。

ζ(゚ー゚*ζ「いらっしゃいませー」

(*'∀`)(うっは!かわええ!!)

商品補充作業をしながら、挨拶をした女店員をドクオはジロジロ見る。
その視線に気付いたのか、女店員はドクオへと声を掛けた。

ζ(゚、゚*ζ「お客様、何かお探し物でしょうか?」

(;'A`)「あ…え……えっと……」

ζ(゚ー゚*ζ「はい?」

(;'A`)「た、煙草下さい!!」



12: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 04:57:03.96 ID:D55deTvwO
ζ(゚ー゚*ζ「有難う御座いましたー。また御越し下さいませー」

コンビニを出たドクオは、ため息をついた。
ビニール袋に入った、煙草を取り出し、再びため息をつく。

(;'A`)(何をやってんだ、俺は)

平常時のドクオは、女の子と喋るのが苦手であった。
可愛い女店員に突然話掛けられ、酷く狼狽した。
そして、別に欲しくも無い物の名前が口から出てしまった。

('A`)(煙草……)

ドクオは店内から漏れる光にあて、煙草のパッケージを見つめた。
基本白地、その上に沢山の小さな銀色の星。
真中に小さな金色の星で『7』と形作られている。
注意文の上部には、英語。

('A`)(セブンスター……)

('A`)(セブン、7、文月、ブーン……強引だが)



13: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 04:58:38.37 ID:D55deTvwO
ブーンの味を確かめてみたくなった。
小学生の頃からの、友人であるブーン。
ドクオはブーンの事を友人、いや、親友だと思っていた。
しかし、それは偽りであった事を、昨晩あっさりと否定された。
そんな、ブーンを知りたい。

('A`)(今日から俺は喫煙者でーす)

煙草の封を開ける。
煙草の箱を開くと、白く細長い物がぎっしりと入っていた。
その内の一本を取り出し、口に銜える。

そして、ドクオは気付いた。
ブーンの事以上に、大切な事を。
その事実が、ドクオの目を大きく見開かせ、叫ばせる。



14: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 05:01:07.00 ID:D55deTvwO
(゚A゚)y-「ライター持ってねぇ!!!!!」

重大な事実であった。
煙草は火が無いと吸えないのだ。
またしてもミス、ドクオは深く落ち込んだ。

(゚A゚)y-(ブーンとかそんなレベルじゃねぇぞ!おい!)

そんなドクオに近付いて来る、一人の人影。
ドクオは気配を感じ取り振り向く。
そこには、たまっていた不良集団の一人が、ドクオの目の前に立って居た。
ガタイが良く、ワイルドな格好をした不良がドクオに声を掛ける。

(,,゚Д゚)「ギコハハハ!!兄ちゃん、うっかり屋だな!
     俺、ライター二つ持ってっから一つやるよ!!」

('A`)y-「……ありがとうございます」

(,,゚Д゚)「ハハハ!困った時はお互い様だぜ!!」

虫は意外にも、益虫であった。



16: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 05:03:32.32 ID:D55deTvwO
(,,゚Д゚)「はーん、友人に裏切られたんか」

('A`)y-~~「そうなんス。ギコさん」

ドクオは不良集団に混じり、会話をしていた。
見掛けに因らず、話して見れば気さくな人達で、直ぐに打解けた。
良い時間潰しだな、とドクオは思う。

(*゚∀゚)「で、ヤケクソで煙草吸い始めたんかい!?」

(*゚ー゚)「どう?初めての煙草の味は?」

ブーンの味は。

('A`)y-~~「苦い」

( ・∀・)「当たり前だよ。セタは重いからな!」

重い、そうか重いのか。
ブーンの心は、重い。
その重い心、打ち砕いて、殺してみせる。

(,,゚Д゚)「マルメンライトが良いぜ。マルメンライト最高!!」

( ´∀`)「それは単に、ギコが好きな煙草じゃないかモナ」



18: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 05:05:38.20 ID:D55deTvwO
馬鹿な話しに花を咲かせていると、時間が気になった。
携帯を開き、時刻を確かめる。
23時20分、そろそろか。

('A`)「すみません、ちょっと女の子と用事が……」

(,,゚Д゚)「良いな!デートかよ!」

(*゚ー゚)「あら、私とじゃ不満?」

(,,゚Д゚)「滅相もございません」

('A`)「では、行ってきます」

(,,゚Д゚)「じゃあな!仲良くすんだぜ!」

('∀`)「はい!」

仲良く殺し合い。
難しいな。
出来るかな。
でも、優しくはしてあげよう。

ドクオはモリタポ国際文化ホールへと向う。
女の子と『デート』をする為に。



19: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 05:08:07.18 ID:D55deTvwO
時刻は1時43分になっていた。
会場の駐車場で、ひたすら待ち続けるドクオ。
煙草は既に空になっていて、現在最後の一本を吸っている。

(#'A`)y-~~「遅い!」

なかなか姿を現さない彼女に、ドクオは苛立っていた。
デートをすっぽかされたのか。
約束などしていないが。
最後の一本を吸い終えたドクオは、煙草のフィルターを指で挟み、
上と向けて、思い切り弾いた。

くるくると回転し、弧を描き、上と飛んで行く煙草。
火が灯っている部分が、ねずみ花火みたいで綺麗だ。
そして、地面に落ちて行くねずみ花火。
その時、ねずみ花火の破裂音の代わりに、声が響いた。

『待った?』

ころころと、声の主の足元へと転がって行く煙草。
ソレから視線を変え、ドクオは顔を上げる。

『ごめんねぇー。打ち上げとか、あってさぁー』



22: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 05:11:09.01 ID:D55deTvwO
そこには白いワンピースを纏った、可愛い女の子が立っていた。
華奢な体に、透き通る様な白い肌。
ビデオで見た時は『どこにでもいる女だな』と思っていたが、
生で見ると印象がまるで違う。
そんな、男なら誰もが羨む女の子とドクオは、今から『デート』をする。

('∀`)「今来たばかりだよ。ヤヨちゃん」

ノリ’ー’)「嘘つきはヤーヨ」

地面に沢山転がっている、煙草を見遣りながらヤヨは言う。
ドクオは苦笑しながら、ヤヨの手を取った。
瞬間、狂気と狂気が、繋がった。

('∀`)「俺の名前はドクオ。良い場所があるんだ」

ノリ’ー’)「怪しい場所じゃないよねぇー」

('∀`)「大丈夫、優しくするから」

ドクオはあははと笑い、ヤヨはうふふと笑う。
本当の恋人同士の様だ。



23: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 05:13:34.82 ID:D55deTvwO
('∀`)「じゃあ行くよ、ヤヨちゃん」

ノリ’ー’)「ゆっくりねぇー」

ドクオはヤヨの手をぎゅっと握り締め、跳躍した。
二人、手を繋ぎながら、夜空を駆け巡る。
絵本に出てきそうなエスコート。
星が流れて、風が二人に吹き付ける。

ノリ’ー’)「ドクオ君は今までの月極とは違うぅー」

ドクオの後ろで、間延びした甘い声が聞こえた。
ドクオは前を向きながら、聞き返した。

('∀`)「どう違うの?」

ノリ’ー’)「完全に狂ってるぅー」

('∀`)「ありがとう」

ドクオとヤヨは屋根を蹴り、天高く翔んだ。
月が二人を優しく照らす。
摩天楼に映し出されたのは、狂った二人のシルエット。



26: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 05:16:46.08 ID:D55deTvwO
夜空を駆けていると、ヤヨが吹き付ける風に消されそうな声で、呟いた。
先程までの彼女とは、別人の様な暗い声だ。

ノリ’ー’)「私は歌が好き」

('∀`)「でも人前で唄うのは嫌なんだろ?」

ノリ’ー’)「うん……」

ノリ ー )「あの頃は良かったなぁ……」

('∀`)「もう着くよ」

最後に二人は月の輪郭の様に円を描いて舞い、手を放した。
ドクオとヤヨは20m程離れた距離を取り、着地する。

ヤヨは辺りを見回した。
地面は砂、それ以外は何も無い、広い新地であった。
夜空からは、やはり月が見つめていた。

ノリ’ー’)「良い場所、唄いたい」

('∀`)「残念だけど、俺は殺し合いたい」



27: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 05:19:33.35 ID:D55deTvwO
その言葉を聞いたヤヨは笑顔で答える。

ノリ’ー’)「ドクオ君らしいねぇー。狂ってるよぉー」

('∀`)「優しくしてあげるから―――『弥生』!!」

ドクオが叫ぶと、左手に黄色い光が集合し、大きな和弓が形成されていく。
光が色を失うと、黒い和弓が姿を現せた。

ノリ’ー’)「わー、弓かぁー。殺し合い難そうぅー」

笑顔でパチパチと拍手を送るヤヨ。
しかし、ドクオは不機嫌な顔をして怒鳴る。

(#'A`)「この前はもっと派手だったんだぜ!月って本当いい加減な奴だ!」

('A`)「ヤヨちゃんも見せてよ」

ノリ’ー’)「いーよ」

了承すると、ヤヨは右腕を横へと水平に延ばし、手を開く。
俯きながら、詩を詠みあげるように、口遊む。

ノリ ー )「唄って、泣いて。深呼吸して、笑って。ただ、望むは『長月』」



28: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 05:22:37.30 ID:D55deTvwO
緩やかな風が、ヤヨを包み込む。
彼女の茶色いミディアムヘアーを、優しく撫でた。
俯いていてよく見えないが、口が小さく開閉を繰返している。
唄っている。
こんな時でも、歌を、唄っている。

ノリ ー )「どうか、私を、月に願いを」

途端、ヤヨの開かれた右手に、光の粒子が八方から集まる。
集まった光は凝縮され、ゆっくりと上下に伸びて行く。
真直ぐに、棒状に伸びて行く。
棒状の先端には、細い刃が、天へと向いている。
そして、ヤヨは右手を握り締め、掴んだ。
風が止み、光が消えた。

ノリ ー )「―――月に願いを」

唄い終わると同時に、長月はその姿を現した。
ヤヨと同じ身長くらいの、細長く茶色い柄。
その先に付けられた鍔から生える、銀色に輝く、40cm程の楕円形の刃。

('A`)「長月は薙刀。おk、把握」



29: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 05:24:47.78 ID:D55deTvwO
ノリ’ー’)「ドクオ君、もっと気の利いた言葉は無いのぉー?」

ノリ’ー’)「これは強そうだなぁーとか、そんなの」

('A`)「綺麗だねー」

ノリ’ー’)「狂ってるねぇー」

ドクオは楽しむ事に、決めている。
此処で死ぬ気は無いし、これからも楽しんで行くつもりだ。
最終目標はブーンを殺す事。
その為には、戦い慣れをする必要がある。
相手がどんな武器を所持していようが、どうでも良かった。
まぁ、強いて言うならば……。

('∀`)「遠距離武器じゃ無くて、良かったかな」

ブーンは近距離武器だし、こいつは練習台になる。

ノリ’ー’)「それは、嬉しいねぇー」



31: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 05:28:06.40 ID:D55deTvwO
ヤヨは笑顔で、右手に握られた長月の刃先を、ドクオに向ける。
そして、体を左へと捻り、腰を落とし、左手で柄の後部を握った。

ノリ’ー’)「さぁ、行くよぉ―――更待月」

ヤヨは呟き、ドクオへと駆ける。
一瞬で、ドクオの領域へと踏み込んだ。
ドクオの右肩へ向け、斜めに振り下ろされる、長月。

('A`)(素早いな。しかしブーン程じゃねぇ)

ドクオは体を僅かに動かし、躱す。
だが、ヤヨは柄を回転させ、今度は斜め下から振り上げる。

('A`)(良いね、良い動きだ)

バックステップして、避けるドクオ。
ヤヨは振り上げた勢いを活かし、体を一回転させ、ドクオの胸目掛け、突く。
体を横に反らし、ドクオはその攻撃を躱す。

('A`)(3コンボ。綺麗な攻撃だ)



32: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 05:31:12.09 ID:D55deTvwO
一方的な、ヤヨの攻撃の応酬。
ドクオはただ、攻撃を躱す事だけに徹している。
そんなドクオに、攻撃の手を休めずに、ヤヨは問う。

ノリ’ー’)「避けるだけぇ?つまんないよぉ」

その問掛けに、ドクオは笑いながら答える。

('∀`)「見極めてんだ。楽しんでんだ……おっと」

返答したドクオに、容赦無く襲いかかる、長月の突き攻撃。
ドクオは油断をつかれ、躱し損ねた。
Tシャツが切裂かれ、皮膚から血がうっすらと滲み出た。

('∀`)「うーん、分かって来たぜ」

ノリ’ー’)「何がぁー?」

('∀`)「ヤヨちゃんの全てが」

ノリ’ー’)「……?」

ドクオの言葉が、ヤヨの攻撃の手を止まらせた。
ヤヨは後方に飛び退いて、ドクオに問掛ける。



33: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 05:34:11.17 ID:D55deTvwO
ノリ’ー’)「私の全て?」

('∀`)「そう、ヤヨちゃんの戦い方は音楽だ」

ノリ’ー’)「…………」

強く。
弱く。
緩やかに。
徐々に強く。
徐々に弱く。
流れる様に。
そして、たまにアクセント。
ヤヨの攻撃は音楽だ。
ドクオは攻撃を躱しながら、見抜いた。

ノリ’ー’)「……それがどうかしたのぉ?」

('∀`)「全てを知った今、もう、ヤヨちゃんに用は無いぜ。」

そう言い放った刹那、ドクオの雰囲気が変わる。
目は狂い、殺意のみがヤヨに向けられる。
ヤヨは、ドクオの変化に戸惑い、身構えた。

('∀`)「ありがとう。楽しめたよ」



34: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 05:38:06.61 ID:D55deTvwO
ドクオは充分に楽しんだ。
目の前の玩具は、もう要らない。
要らなくなった玩具は、壊すのみ。
さぁ、ぶち壊そう。
目茶苦茶に、ぶち壊そう。

ノリ;’ー’)「何……この狂気……。今までの人とは何かが違うぅ……」

ドクオから放たれる、得体の知れぬ物に、ヤヨは怖気付く。
握り締めている、長月がガタガタと震える。
ヤヨは、一つの動作も出来なくなっていた。
狂気が狂気を飲み込んだのだ。

(゚∀゚)「あははは!!宵待月!!!」

ドクオは両足を限界まで開いて膝を付き、弥生を横にし、構える。
そして、見えない弦を引っ張ると、大きな光の矢が形作られた。

ノリ;’ー’)「な、何これぇ……。」

(゚∀゚)「最高のデートだったぜ!ヤヨちゃん!!」



35: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 05:40:45.35 ID:D55deTvwO
愉快に叫びながら、ドクオは見えない弦を、指から放した。
地面スレスレに、放たれた光の矢。
光の矢が、砂煙を巻き上げながら、高速でヤヨへと飛んで行く。
そして、ヤヨの足元へと突き刺さり、爆発が起こった。

ノリ’ー’)「けほっ!けほっ!」

ヤヨは爆発により、舞い上がった砂煙に、包まれていた。
どこかから、笑いを堪えた声が聞こえる。

『ヤヨちゃん。考えるな、感じるんだぜー』

ノリ’ー’)(私は願い事を叶えて貰う。ここで死ねないよぉ)

ヤヨは目を瞑り、狂気の点を探った。
せわしなく、動いている狂気の点。
完全に遊ばれている。ヤヨは全神経を集中させ、ドクオを捉えようとする。
そして見つけた、狂気の塊。

ノリ’ー’)「そこねぇ!」

ヤヨは目を開き、長月の刃先を、砂煙の中へと伸ばす。
ブスリ、と突き刺さった音がした。

ノリ’ー’)(やったぁ!)



36: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 05:42:58.84 ID:D55deTvwO
数十秒後、砂煙が晴れた。
新地の全てが視認出来る様になる。
ヤヨが伸ばした長月の刃先は、空を捉えていた。

ノリ’ー’)「あれ?」

確かに人を貫いた音がした筈だ。
なのに、長月の刃先は何も捉えていなかった。

('A`)「狂気を点で捉えるから駄目なんだよ。狂気は線だ、動いてる」

背後から、殺した筈の人間の声が聞こえる。
ヤヨは振り向き、口を開いた。

ノリ’ー’)「何で生きてるのぉ?」

('A`)「それはこっちの台詞だぜ」

そう言うと、ドクオは自分の胸を親指で、トントンと叩いた。
その仕草を見たヤヨは、自分の胸へと視線を移す。

ノリ’ー’)「あぁ……。そう言う事ぉ……」

背中から胸にかけて、ヤヨは光の矢に貫かれていた。
先程の音は、自分が貫かれた音だったのだ。



37: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 05:44:53.64 ID:D55deTvwO
ノリ’ー’)「あのさぁ。ドクオ君、聞いてくれるぅ?」

('A`)「良いよ」

ヤヨの独白が始まった。

ノリ’ー’)「私、一人で唄うのが好きなんだぁ」

ノリ’ー’)「なのに、友達が勝手にオーディションに応募して、合格してさぁ」

ノリ’ー’)「人前で唄うより…、一人で…唄う方が気持ち良いよぉ」

ノリ ー )「あーあ……あの頃は良かったよぉ……」

ノリ ー )「部屋の…片隅で……」

ノリ ー )「あるいは…誰も通らない……路地裏で……」

ノリ ー )「あの……頃…に……戻……り………」

ヤヨは、両手を大きく広げ、後ろへと倒れた。



39: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 05:48:00.88 ID:D55deTvwO
月を見つめ、涙を流すヤヨ。
最期に、声を振り絞って唄う。

ノリ ー )「つき…に……ね…がい……を……」

そして、ヤヨは事切れた。
悲痛な願い事を呟き、逝ってしまった。
ヤヨの最期は、正常で、直心を持っていた。

('A`)「下らねぇ」

ドクオは倒れているヤヨの上に立ち、弥生を構えた。
見えない弦を引いて、光の矢を放つ。
光の矢はヤヨに突き刺さった。
それから、何度も、光の矢をヤヨに向け放った。
突き刺さる度に、ヤヨの身体がビクン、と跳ね上がる。
何度も、何度も、光の矢を放つ。
ヤヨの身体は、剣山の様になっていた。

('A`)「歌が唄えなくなったら、そんな悩みは生まれない」

ドクオはヤヨの口目掛けて、光の矢を放った。
光の矢は深々と、ヤヨの口に、突き刺さる。
これで、もう唄えない。



40: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 05:49:48.22 ID:D55deTvwO
('A`)「さて、他の月極と殺し合いに行くかね」

ドクオが、少しだけ月になったあの時、複数の月極の気配を捉えていた。
ドクオは新地を後にし、夜空へと跳躍する。

しかし、ドクオはまたしてもミスを犯している事に、気が付いた。
既に死んでいる者の口に、矢を放っても、意味が無いのだ。
きっとドクオは、高校、大学を卒業し、社会に出たら、
会社でミスを繰返し、叱られるのだろう。

(;'A`)「馬鹿じゃないの俺……」

ため息をつきながら、月下を翔び回る。
次こそはミスをしないと、固く決心をした。


『昔にはもう戻れない だけど強く生きて行こう』



41: ◆iFirHT6FV. :2007/08/11(土) 05:51:00.28 ID:D55deTvwO
第三月話

『月歌独唱』


終わり。



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