('A`)達は月に願い事をするようです
- 2: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 07:46:52.51 ID:n8O124/sO
- あの時は、面白かった。
でも、最後がつまらなかった。
『不老不死になりたい』
そう。
真面目な顔して、この願い事。
まるで、オチが弱い映画を、観せられた気分。
でも、今回はきっと違う。
君は面白い。
100人目を、私に数えた。
99人と言ったのに、100人。
何という、思考の飛躍。
何という、狂気。
さぁ、もっと観せて。君なら、私に観せてくれる。
私の願い事を、叶えてくれる。
最高に楽しい映画を、観せてくれる。
- 3: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 07:48:40.30 ID:n8O124/sO
- ドクオは居間のソファーに座りながら、弓を構える仕草をしている。
照準は、テレビを食い入る様に観ている、ペニサス。
強く弦を引っ張り、指を放す。
ペニサスは死んだ、ドクオの想像の中で。
('A`)(ああ、物足りないぜ)
ドクオは次に、カーペットに寝そべりながら、
本を読んでいるヒートへと弓を向ける。
照準を合わせ、指を放そうとした時、ヒートが振り向いた。
一瞬、驚いた表情を浮かべるドクオ。
ヒートと、目と目が合い、沈黙が訪れる。
(;'A`)(…………)
だが、ヒートは笑顔でドクオへと話掛けた。
その言葉に、ドクオは安堵した。
ノハ*゚听)「その構え……。ドクにいも弓道を始めるのか!?」
ああ、ありがとう、ヒート。
お前が単純思考で良かったよ。
- 5: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 07:50:22.87 ID:n8O124/sO
- ('A`)「んな訳ねぇだろ」
弓道?馬鹿な事を言うものだ。
ドクオは、ただ殺し合う事を望んでいる
的じゃない、人を狙いたいのだ。
ノハ*゚听)「でも、そんな構えじゃ駄目だ!ドクにい!!」
ヒートは弓道部の部員である。
ドクオの構えが気になったのか、起き上がり近付いてくる。
そして、ドクオの背後に回り込み、彼の両手を手に取る。
ノハ*゚听)「弓の構えはだな、こうしてだな……」
ドクオを強引に立たせ、手取り足取り教える。
照準は棚に置いてある、飾り物のお皿。
ノハ*゚听)「そうそう!で、矢を握った指を放して!!」
皿がバラバラに砕け散った音が、脳内で聞こえる。
完璧な構えで、完璧に的を捉えたのだ。
だが、ドクオは一片たりとも、爽快感を得る事が出来なかった。
- 6: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 07:52:04.83 ID:n8O124/sO
- ノハ*゚听)「んー!良いね!良いね!!」
何が良いんだ。
皿など殺して、何の意味がある。
人を殺してこそ、意味がある。
ヒート、お前も殺したい。
月極とか、もうどうでも良い。
何故月は、月極しか殺してはいけない、と制限した。
別に良いじゃないか。
ああ、もう、皆殺したい。
('A`)「あんがと、ヒート。為になったよ」
ノハ*゚听)「弓道を始めたくなったら、いつでも言ってくれ!!」
ドクオはヒートの大声を無視し、ソファーに腰を下ろした。
ヒートは、元の場所へ戻り、寝そべって再び本を読み出す。
- 7: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 07:54:18.04 ID:n8O124/sO
- ドクオは座りながら、茫然と昨晩の事を思い浮かべる。
昨晩も、月極と殺し合ったのだ。
中学生くらいの小さくて、可愛い女の子だった。
名前はキュー、武器は『卯月』
140cm程の身長の彼女には不釣り合いな、大きな斧だった。
('∀`)(あははは!弱かったな!!)
余りにも弱かったので、キューが動けなくなるまで、
わざと急所を外し、攻撃した。
それにより徐々に、動きが緩慢になっていったキュー。
そして、倒れたキューに伸し掛かり、ドクオは―――。
(;'∀`)(これ以上はやっべ!禁則事項!!)
ドクオは、ここで思考を止めた。
ほんの僅かに残る倫理が、そうさせたのだろうか。
そう思うと、ドクオは苦笑する。
(;'∀`)(ま、まぁ、気持ち良かったな)
- 9: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 07:56:21.39 ID:n8O124/sO
- 思考を止めたドクオに、テレビの音声が耳に入る。
脳で処理される内容から察するに、ニュースの様だ。
どうやら、世間では凄惨な殺人事件が頻発しているらしい。
毎日の様に、特別報道番組が組まれている。
('A`)(殺人事件など全くけしからんな!)
『お前が言うな』と自分にツッコミを入れ、テレビの音声に耳を傾ける。
テレビ画面には目をくれず、流れる音声だけを聞く。
『モリタポ市では現在、大変痛ましい事件が―――』
『同様の手口による被害者の方は62人に―――』
『古い文献によると、昔、同じような―――』
『いや、何か宗教的な物かも知れません―――』
ニュースキャスターや、各分野の専門家達が口角泡を飛ばしながら、
議論している光景が、ドクオの目に浮かんだ。
- 10: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 07:58:31.79 ID:n8O124/sO
- ('A`)(62人か……)
祭りが終わる直前の様な、そんな寂しい気持ちに、ドクオはなった。
段々と、少なくなっていく月極達。
もうすぐ、殺し合えなくなる。
もっと、殺し合いたいのに。
一抹の寂しさは、焦りへと変わって行く。
('A`)(なら、俺の願い事はアレにしよう)
('、`*川「ねぇ、あなた達」
そう決心した時、優しいペニサスの声が居間に響く。
声に気付いたドクオは、目をペニサスへと向ける。
ペニサスが、ドクオとヒートを順々に心配そうに見つめ、口を開いた。
('、`*川「ニュースでも言ってるけど、本当に気を付けてね」
ノパ听)「はーい!!」
ヒートは本を読みながら、元気に返答した。
ドクオは、ただ黙っている。
- 12: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 08:01:05.45 ID:n8O124/sO
- ('、`*川「ヒートとドクオ君が居なくなったら……私は……」
ノパ听)「んもー!心配し過ぎだって!!」
今にも泣きそうな声の、ペニサス。
ドクオはそんなペニサスを見て、本当に良い叔母さんだな、と思う。
本当に、本当に、良い叔母さんだ。
ドクオはソファーから立ち上がり、ペニサスへとゆっくり歩く。
そして、座っているペニサスの背後に立つ。
('、`*川「ドクオ君?」
ドクオの目の前には、ペニサスの血色の良い肌色の首。
ちょっと捻れば、事切れそうな首だ。
その首へ、ゆっくりと、ゆっくりと、両手を延ばして行く。
――――――。
優しく、両手で、殺める様に。
- 13: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 08:02:50.14 ID:n8O124/sO
- 肩を握った。
ペニサスの両肩を握った。
('∀`)「叔母さん、お疲れでしょう?」
ドクオは優しく、ペニサスの両肩を揉む。
ペニサスの両肩は固くなっている、疲れている証拠だ。
('、`*川「……ドクオ君、ありがとう」
(;、;*川「本当、ドクオ君は良い子ね」
('∀`)「そんな事はありませんよ」
ペニサスはうっすらと涙を浮かべる。
ドクオの気遣いが、嬉しかったのだろう。
その様子を見ていたヒートも起き上がり、二人へと近付く。
ノハ*゚听)「私もしてあげるぞおおぉぉぉ!!」
大声を上げたヒートはドクオを撥ね除け、ペニサスの肩を優しく叩き出した。
誰が見ても、幸せな空間だろう。
- 14: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 08:04:40.25 ID:n8O124/sO
- ('ー`*川「ありがとう。ドクオ君、ヒート」
ノハ*゚听)「当たり前の事をしたまでだ!!」
(;'A`)「あとから来た癖に何を言う……」
当たり前の事だ。
ドクオは、当たり前の事をしそうになった。
ペニサスの首を、いつも脳内で反芻している様に。
('ー`*川「お礼に少しだけど、お小遣いをあげましょう」
そう言うとペニサスは、エプロンのポケットから財布を取り出した。
そして、ドクオとヒートに千円ずつ手渡した。
ノハ*゚听)「いぇーい!お母さん大好きー!!」
('∀`)「ありがとうございます」
ヒートはペニサスに飛び付き、ドクオは頭を下げる。
- 15: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 08:06:40.51 ID:n8O124/sO
- ヒートはペニサスから放れると、一目散に外出した。
きっと、貰った小遣いで本か何かを、買いに行ったのだろう。
ドクオは、まだ室内に残っていた。
千円札を握り締め、ペニサスを見ながら、立っている。
('A`)(叔母さんの命の価値は千円ですか)
そんな事を思いながら、ドクオは立ち尽くす。
( *川「ふふふふーん、ふーんふーん♪」
再びテレビを見ながら、鼻歌を奏でているペニサス。
鼻歌を奏でている時は、機嫌が良い証拠だ。余程、ドクオとヒートがした事が嬉しかったのだろう。
ドクオは、もっと喜ばせようと、もう一度手を動かそうとした。
しかしその時、鼻歌が止み、ペニサスがドクオへと振り向いた。
('、`*川「ドクオ君も何か買いに行ったらどうかしら?」
('A`)「そうですね」
('ー`*川「足りないなら、もう少しあげようかな?」
(;'A`)「い、いえいえ、もう充分です。行って来ます」
- 16: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 08:08:51.74 ID:n8O124/sO
- 自宅から出たドクオは、気を失いそうな、夏の暑さに包まれた。
今は八月の初旬、夏の中で最も暑い時期である。
('A`)「と言われてもなー。欲しい物なんて無いぞ」
握っていた千円札を後ろのポケットにしまい、腕を組み考える。
珈琲・ハウスは現在休業中だ。
一度赴いた事があったが、ショボンは元気が無かった。
ショボンが崇拝するヤヨちゃんが、殺害された所為だ。
誰が殺害したのだろう、あの珈琲を飲めないのは残念だった。
('A`)「適当にぶらつきますかね」
ドクオは呟くと、地を蹴った。
すると、一瞬にしてドクオの身体は天高い所に浮いていた。
('A`)「歩くのマンドクセ」
宙返りして、屋根に着地。
そしてもう一度、屋根を蹴る。
- 18: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 08:11:30.07 ID:n8O124/sO
- ドクオは昼間でも、月極の能力を使う様になっていた。
『日の出と共に、精神は正常に近い状態に戻る』
この契約内容を、ドクオは打破った。
月極達と殺し合うにつれ、ドクオの狂気は加算……乗算されて行く。
既に、ドクオは戻れなくなっていた。
戻るつもりも無いのだろう。
('∀`)「気持ち良い!もっと速く進め!!」
人には捉えられない速度で、ドクオは飛び回る、駆ける。
街行く人々はドクオが通った後は、強い風が吹いたとしか思っていない。
('∀`)「行くぜ!月面宙返り!!」
全身をバネにして、地面を思い切り蹴り、空中へと飛ぶ。
後方に二回宙返り、身体を捻り、横に一回転。
そして、アパートの屋上へと着地した。
両腕を大きく上げ、決めポーズを取る。
(*'∀`)「今の点数は!?」
- 19: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 08:13:30.22 ID:n8O124/sO
- ドクオは誰も居ない屋上で叫び、問う。
しかし、意外にもパチパチと拍手の音が返って来た。
その音に、ドクオは少し驚いた表情をする。
('A`)「……誰だ」
「凄いねぇー。でも0点だよぉー」
呑気な声が、貯水塔の上から響く。
ドクオが貯水塔の上へと顔を向ける。
そこには、ヘンテコな格好をした少女が、体育座りをしていた。
从'ー'从「あなた自体が0点ー。だからダメー」
少女がそう言うと、貯水塔から飛び降り、ドクオの前に着地した。ドクオは少女を見つめ、声を出す。
('A`)「この感じ、月極じゃねーな。お前何者だ?」
从'ー'从「普通の人間だよぉー」
- 21: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 08:16:08.68 ID:n8O124/sO
- ('A`)「普通だと?お前が握っているのは『皐月』じゃねぇか」
从'ー'从「おっとぉー、もう知ってるのぉ?流石トラップ」
ドクオの目の前の少女は、両手に一本ずつナイフを握っている。
薄いピンク色のパジャマ、黄色い目、緑のショルダーバッグ。
これ以上見ていたら、頭が痛くなりそうだったので、
ドクオは警戒しつつ、少女から少し目を逸した。
そして、疑問を投掛ける。
('A`)「何故、月極じゃないのに皐月を持ってるんだ?
んで、トラップって何の事だ?」
その問いに、少女は両腕をクロスさせ、ペケの形を作った。
そしてにこやかにドクオに返答する。
从'ー'从「ぶっぶー!0点の子には答えてあげないよぉー」
('A`)「うぜー、死ねよ」
ドクオは唾を吐き、左手に弥生を出現させた。
弥生を目の前の少女に向け、構える。
- 22: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 08:18:24.75 ID:n8O124/sO
- 从'ー'从「普通の人間を殺すつもりぃ?やっぱ0点だねー」
その言葉に、ドクオの殺意に火が着いた。
見えない弦を力一杯引き、大きく長い光の矢が造られる。
(#゚A゚)「普通の人間だろうが月極だろうが関係ねぇ!死ねッッ!!」
左手に握られている弥生が、壊れそうな音を立てている。
そして、不可視の弦を指から放した。
途端、轟音を響かせ、極大の光の矢が、少女に向け放たれた。
コンクリートの地面を抉りつつ、回転しながら高速で進んで行く光の矢。
一瞬で光の矢は少女に届き、辺り一面にまばゆい光が四散する。
(#'A`)「やったか!?雑魚め!!」
ドクオは、少女が居た方をじっと見遣る。
光に包まれて見えないが、あの威力だ、殺せただろう。
段々と、光が晴れて行く。
- 24: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 08:20:32.77 ID:n8O124/sO
- 四散していた光が完全に晴れた。
そこには―――少女が平然と立っていた。
ドクオが放った光の矢は二本の皐月によって、挟む様に受け止められている。
(;゚A゚)「な……!」
从'ー'从「きみきみぃー。生存フラグを言っちゃ、メッだよぉー」
少女は、皐月で挟んでいた光の矢を、上空へと放り投げた。
錐揉み状態で打ち上がった光の矢は空中で、花火の様に弾けた。
(;'A`)「お前は一体……」
从'ー'从「何回も言うけど、私は普通の人間。
あなたは、普通の人間を殺そうとした。
簡単に言えば殺人未遂だね。
最狂な、あなたは、最後まで生き残るよ。
だけど、優しい女の子と男の子が頑張ってくれる。
答えに気付いて、勇者になってくれる。
そして、あなたを倒してくれる。
私は、そう、確信してる」
- 27: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 08:23:47.08 ID:n8O124/sO
- ひとしきり喋り終えた、少女は咳こんだ。
ドクオは弥生を降ろし、呆然としている。
从;'ー'从「けほっ!やっぱり、いっぱい話すのは苦手だよぉー」
('A`)「…………」
ドクオは少女が何を言いたいのか、何を伝えたいのか、理解出来なかった。
でも、一つだけ分かる事がある。
『この少女は邪魔な存在だ』
その結論がドクオに、弥生を少女へと、再び向けさせた。
('A`)「意味分かんねえよ」
それを無視して少女は背中を向け、歩き出した。
右腕を上げ、左右に振る。
从 从「ばいばい、もう手遅れのトラップさん」
ドクオが少女に向け、光の矢を放ったが、空を斬った。
少女は、一瞬で何処かへと消えてしまった。
- 28: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 08:25:16.99 ID:n8O124/sO
- アパートの屋上で、ドクオは立ち尽くしていた。
ヘンテコな少女。
0点。
手遅れのトラップ。
優しい女の子と男の子。
そいつらは勇者になる。
そして、そいつらに倒される。
('A`)(……馬鹿馬鹿しい)
ドクオは弥生を消し、地を蹴った。
先程の轟音で誰かがくるかも知れない。
空へと舞ったドクオは、思う。
('A`)(何だか疲れた。普通に歩こう)
誰も居ない路地裏に着地したドクオは、ゆっくりと歩き出した。
普通に歩くのは疲れるんだよな、とドクオは思う。
普通は、疲れる。
- 29: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 08:27:52.88 ID:n8O124/sO
- 大通りに出たドクオは、押し寄せる人波に眩暈がした。
殺意の渦が、ドクオを飲み込む。
手当たり次第自分が、人々を殺している映像が脳に映し出される。
('A`)(これはもう駄目かも分からんね)
ドクオは殺人衝動に堪えながら、近くにある公園へと向かった。
この夏の暑さの中なら、あまり人は居ないだろうと考えた。
人を視界に入れない様に、ドクオは半分目を瞑りながら歩く。
十数分後、目当ての場所『総合公園』に到着した。
『総合公園』は広いが、ほとんどが並木通りとなっている。
広場は端の方にあり、そこ意外は並木通りで、ベンチが所々点在している。
('A`)「よっこらセックス」
ドクオは公園の入口から、少し入った場所のベンチに腰掛けた。
木々が影となり、涼しい風がそよぐ。
木漏れ日が差し込み、煉瓦が敷き詰められた地面を照らす。
- 31: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 08:29:48.24 ID:n8O124/sO
- ドクオは誰も居ない事に安堵し、ジーンズの左ポケットから煙草を取り出した。
口に銜え、あの晩貰ったライターで、火を付ける。
('A`)y-~~「煙草うめー」
ドクオの自宅は禁煙である。
そして、高校生という身分だ。
殺人衝動と同じくらい堪えて来た故、一層美味しく感じられた。
('A`)y-~~「願い事を叶えて貰う前に、心筋梗塞とかで死にませんように」
願い事への願い事をしていると、ドクオは気配を捉えた。
月極の気配、それも前に感じた事のある気配。
ドクオは煙草を口に銜えたまま、微動だにしなくなった。
('A`)y-~~「…………」
ゆっくりと、ドクオへと近付いてくる。
だが、ドクオは振り向かない。
- 32: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 08:31:33.20 ID:n8O124/sO
- ガサリ、落ち葉を踏む音が近くで聞こえる。
ゆっくりゆっくり、歩いて来る。
そして、ドクオの直ぐ側で立ち止まった。
('A`)y-~~「久し振りだな、ブーン」
( ^ω^)「……久し振りだお、ドクオ」
ドクオはブーンに目をくれず、挨拶をした。
ブーンは、ドクオをじっと見つめている。
友達同士の挨拶とは、こういう物だろう。
( ^ω^)「ドクオ、煙草吸うようになったのかお?」
('A`)y-~~「まぁな」
( ^ω^)「体に悪いお。やめた方が良いお」
その言葉で、ドクオはやっとブーンへと顔を向けた。
ドクオは無表情で、ブーンを見る。
- 33: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 08:33:20.66 ID:n8O124/sO
- ('A`)y-~~「…………」
( ^ω^)「おっ?」
ドクオは沈黙しながら、ブーンを見つめている。
ブーンは間の抜けた声を出した。
そんなブーンに、ドクオは皮肉たっぷりな口調で喋り掛けた。
('A`)y-~~「御忠告ありがとう、お友達さん」
( ω )「………お」
('A`)y-~~「今、直ぐにでもブーンを殺したい」
( ω )「…………」
('A`)y-~~「でも、今は駄目だ。楽しみは最後に取って置きたい」
ドクオの言葉を、ただ黙りながら、ブーンは聞いている。
言葉という武器が、今は正常なブーンを貫き、切裂く。
- 34: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 08:35:28.92 ID:n8O124/sO
- ('A`)y-~~「じゃあな、ブーン。友達ごっこ、楽しかったぜ」
ドクオはブーンの右腕に、煙草を押し付けた。
ブーンの右腕が、煙草で焦がされる。
( ω )「ッ!!」
('A`)「美味しかった。さて、行くか」
ベンチから腰を上げ、ドクオは煙草を放り投げた。
並木道の奥へと、消えて行くドクオ。
右腕を押さえながら、ブーンはドクオの背中を見る。
その背中には狂気、憎悪、悲哀、様々な物が蠢いている様にブーンは感じた。
( ω )「……あれがドクオの正常状態かお」
ブーンは呟き、俯いて暗い表情を落とす。
おぼつかない足取りで、先程までドクオが座っていたベンチへと腰を下ろした。
- 36: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 08:37:21.35 ID:n8O124/sO
- ベンチに座ったブーンは俯き、独り言を零している。
誰にも聞こえないくらいの、小さな声で。
( ω )「僕がドクオを変えてしまったんだお……」
( ω )「確かに、僕は偽善者だお」
( ω )「狂ってたけど、クーの言葉を否定すれば良かったんだお……」
言葉は、武器になる、さっき身に染みて分かった。
あの晩の、自分が言い放った言葉を思い出す。
**********
( ^ω^)『フヒヒ!さもありなんだおー』
**********
自分は、どんな馬鹿面をしていたのだろうか。
自分は、一体何を口走ったのだろうか。
ブーンは、そう思うと、涙を零した。
- 37: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 08:38:58.96 ID:n8O124/sO
- ( ;ω;)「僕が!僕が!こんなじゃなければ!!」
( ;ω;)「見下さずにトモダチを……作る事が出来たら……」
( ;ω;)「だから、だから……僕の願い事は……」
涙の雫が地面に落ちる。
ブーンの声が、小さくなって行く。
涙を右腕で拭う。
火傷が染みた。
心が染みた。
何とか、何とか、自分を変えなくては。
( ω )「おっ?」
( ^ω^)「……今、確かに何か」
並木通りに心地良い風が吹く。
風が、ブーンの気付き掛けた『何か』をさらって行った。
( ^ω^)「何だったんだお?」
- 38: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 08:40:58.82 ID:n8O124/sO
- ブーンは腕を組みながら、公園から立ち去って行く。
何か大切な事を、思い出そうとしている。
しかし、なかなか思い出せない模様だ。
そんなブーンの後ろ姿を見つめる、少女が居た。
木漏れ日の中、優しい目で、ブーンを見送っている。
从'ー'从「答えが側にあると、意外と気付かないよねぇー」
从'ー'从「でも、ブーン君は大丈夫。答えを見つけられる」
从'ー'从「次はブーン君の番だよぉー」
从'ー'从「あきらめたら、そこで試合終了だよー」
『なんちゃってぇー』
照れた笑い声と共に、少女は消えた。
並木道に残った物は、煙草の吸い殻と、涙の跡。
そして、木漏れ日。
- 39: ◆iFirHT6FV. :2007/08/14(火) 08:42:43.65 ID:n8O124/sO
- 第五月話
『友情遊戯』
終わり。
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