(´・ω・`) ショボンは風の料理人のようです

4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 20:02:04.37 ID:zBBNL6LBO
一話
卵が先か、鶏が先か



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 20:03:40.24 ID:zBBNL6LBO


俺は迷っていた。
今まで、数多くの人間が論議を重ねてきた。
しかし、正解が導き出されることはなかった。

('A`) 「鶏ムネ肉と鶏モモ肉どっちにしよう」

淡泊で安価な鶏ムネ肉。
濃厚だが少々高価な鶏モモ肉。
どちらを買うか、俺は迷っていたのだ。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 20:05:21.10 ID:zBBNL6LBO
('A`) 「今日は親子丼の予定だ」

先日、知り合いから地鶏卵をいただいた。
地鶏卵で作った玉子かけご飯は最高に美味かった。
そこで、今回はその地鶏卵を使って親子丼を作ろうというわけだ。
とりあえず、今のところ考えは二つある。

('A`) 「淡泊な鶏ムネ肉でも、卵黄のコクで満足感を得ることが出来る」

('A`) 「濃厚な鶏モモ肉と濃厚な地鶏卵のコラボレーション。これをガッツリと食らいたい」



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 20:07:13.80 ID:zBBNL6LBO
一見、後者の方が数段魅力的だ。
しかし、俺の財布には諭吉はおろか、漱石すら存在しなかった。

('A`) 「貧乏は罪だ」

俺は一人、スーパーの精肉売り場でつぶやいた。
周りの奥方の目が痛い。
その時だ。

(´・ω・`) 「青年よ」

一人の男が俺に声をかけてきた。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 20:08:38.81 ID:zBBNL6LBO
(´・ω・`) 「鶏挽き肉だ」

その男は第三の提案をした。
鶏肉の中で最も安価な鶏挽き肉。
しかし、鶏挽き肉はつくねを作るために存在する。俺はそう考えていた。

(´・ω・`) 「肉・玉子・煮汁・ご飯、この四つが一つになった時の一体感。
お前はまだ、それを知らない」

目から鱗が落ちた。
この男はかなりの手練だ。俺の本能が悟った。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 20:10:22.55 ID:zBBNL6LBO
(´・ω・`) 「そして、がっついていると極稀に現れる挽き肉のかたまり。
これがちょっとした『お得感』を演出する」

それだけ言って、精肉売り場から去ろうとする男。
俺はたった一つ、質問をした。

('A`) 「あんた、名前は?」

(´・ω・`) 「風の料理人、ショボンだ」

男は静かに消えていった。
俺は迷わず鶏挽き肉を手に取った。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 20:12:19.57 ID:zBBNL6LBO
二話
この身、焼かれて



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 20:16:51.08 ID:zBBNL6LBO


僕は気分よく、パスタを茹でていた。

( ^ω^) 「得意料理はパスタだお♪」

パスタを茹でるお湯には塩を入れる。
パスタを茹でる時間は、パッケージに書いてある時間より一分少なくする。
これで、あの悪名高い『アルデンテ』に仕上がる。

( ^ω^) 「完璧だお♪」



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 20:18:44.38 ID:zBBNL6LBO
僕は茹で上げたパスタをフライパンに移した。
そして、フライパンに特製カルボナーラソースを流し込んで、火をつけた。

(;^ω^) 「そんなバカな」

僕の完璧なはずのカルボナーラはもろくも崩れ去った。
いや、崩れ去ったのではない。固まったのだ。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 20:22:18.51 ID:zBBNL6LBO
(;^ω^) 「こんなもんカルボナーラじゃないお。
炒り玉子パスタだお」

食べなくてもわかる。ボソボソで美味いわけがない。

(´・ω・`) 「パスタを茹で上げた余熱を生かせ」

その男は突然、僕の目の前に現れた。

(;^ω^) 「どちらさんですか?」

いつの間に家に入ったのだろう。
一人暮らしは用心に欠ける。強盗なら洒落にならない。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 20:24:41.22 ID:zBBNL6LBO
(´・ω・`) 「パスタを茹で上げたら、ボウルに移せ。
そして、ソースと手早く和えろ」

どうやら強盗ではないらしい。

(´・ω・`) 「ソースに卵白は使うな。
カルボナーラに重要なのは、圧倒的な『コク』だ。
卵黄とパルメザンチーズ。これだけで十分だ」

いつしか僕は、男の話に引き込まれていた。
続きが、早く続きが聞きたい。
美味いカルボナーラが食べたい。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 20:26:12.10 ID:zBBNL6LBO
(´・ω・`) 「あらかじめ、厚切りのベーコンをオリーブオイルで焼いておけ。
それをソースで和えたパスタにトッピングしろ。
オリーブオイル特有の香りが、ベーコンの燻香とよく合う」

家にオリーブオイルがない。僕は自分を呪った。

(´・ω・`) 「そして、最後に黒胡椒をこれでもかと振れ。
もちろん挽きたてだ。これは絶対だ。
既に挽いてあるものと挽きたてでは、香りがまったく違うからな。
この香りがカルボナーラ全体をスッキリとしたものに仕上げる」



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 20:27:52.51 ID:zBBNL6LBO
(´・ω・`) 「カルボナーラとは元来、『炭焼き職人』を意味する。
黒胡椒は、職人自身にふりかかった『炭』だと思え」

男の語るうんちくに、僕は間抜けに「へぇ」と言った。
無意識とはいえ、恥ずかしい。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 20:29:34.40 ID:zBBNL6LBO
僕はどうしても、男に聞いてみたくなった。

( ^ω^) 「あの、あなたのお名前は?」

(´・ω・`) 「風の料理人、ショボンだ」

男は静かに消えていった。
僕は急いでオリーブオイルを買いに行った。



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 20:36:45.17 ID:zBBNL6LBO
三話
眠れぬ夜は君のせい



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 20:38:00.01 ID:zBBNL6LBO


それにしても、ウチの子供と旦那は中華が好きだ。
私は今、二人のリクエストで麻婆茄子を作っている。

(*゚ー゚) 「ニンニク、ショウガ…」

(*゚ー゚) 「豆板醤と甜麺醤…」

(*゚ー゚) 「挽き肉と茄子を炒めて…」

(*゚ー゚) 「片栗粉…」

(*゚ー゚) 「完成!」



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 20:40:18.34 ID:zBBNL6LBO
しかしだ。

(;゚ー゚) 「なんか辛すぎるし色が汚いなぁ」

子供にはかわいそうなぐらい辛く、茄子はドス黒くて汚い。
これでは専業主婦である私のプライドが許さない。

(;゚ー゚) 「でも、どうしたらいいのかしら?」

(´・ω・`) 「茄子が油と相性がいいのは知ってるか?」

突然、背後から現れた男。私の心臓は、危うく停まりかけた。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 20:41:37.57 ID:zBBNL6LBO
(;゚ー゚) 「だれ!?」

(´・ω・`) 「質問に答えろ。
茄子が油と相性がいいのは知ってるか?」

有無を言わさず、男は私に迫ってくる。仕方なく私は質問に答えた。

(;゚ー゚) 「知ってます」

(´・ω・`) 「ならばなぜ茄子を揚げない?」

(;゚ー゚) 「それは…」

(´・ω・`) 「面倒臭いからだろ?」



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 20:43:48.76 ID:zBBNL6LBO
見透かされていた。私は羞恥心に耐え、「はい」と答えた。
すると、男は頬をゆるめる。意外だった。

(´・ω・`) 「わかってて聞いたんだ。
家庭のキッチンで揚げるのは、正直骨が折れるからな」

男の言う通り、家庭のキッチンで揚げ調理すると、油はねや後始末が大変なのだ。

(´・ω・`) 「しかし、油通しすることで出来上がりの茄子の色は間違いなく映える」

ならばどうしろと言うのだろうか。
私は首をひねった。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 20:45:14.97 ID:zBBNL6LBO
(´・ω・`) 「色良く仕上げたいのなら、油通しならぬ、『油湯通し』をしろ」

油湯通し。それはいったい。

(´・ω・`) 「鍋に湯を沸かせ」

私は男に従う。

(´・ω・`) 「沸騰してる湯に、油をサジで二杯程度入れろ」

すると不思議なことに、お湯単体の時よりも激しく沸騰し始めた。

(´・ω・`) 「お湯の沸点を上げたんだ。
さぁ、茄子を入れろ」



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 20:47:05.60 ID:zBBNL6LBO
信じられないことが私の目の前で起きた。

(*゚ー゚) 「きれい…」

茄子は色鮮やかにゆだっていた。

(´・ω・`) 「茹で過ぎは禁物だ。
茄子を上げろ」

(*゚ー゚) 「はい」

(´・ω・`) 「後は簡単だ。『COOKDO』の麻婆茄子のモトを用意しろ」



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 20:50:23.49 ID:zBBNL6LBO
ここまで来て、この男は何を言っているのだろうか。
私は耳を疑った。

(´・ω・`) 「タレは手作りじゃないのか?そう言いたそうだな」

(;゚ー゚) 「えぇ」

(´・ω・`) 「中華の味付けの基本を知ってるか」

私は首を横に振った。知る由もないことだ。



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 20:53:35.25 ID:zBBNL6LBO
(´・ω・`) 「『万人受け』だ」

(´・ω・`) 「だからこそ、中華は子供から大人まで幅広く支持を受ける」

(´・ω・`) 「企業は中華に関しては、常に『万人受け』を意識している」

(´・ω・`) 「『確実に美味い料理』と、合わせ調味料を作るといった『煩わしい手間の除去』。
この二つの希望を同時に叶えてくれる『COOKDO』は、家庭料理では最高の武器になる」



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 20:55:27.43 ID:zBBNL6LBO
いとも簡単に、私の世界は崩壊した。
私の世界を壊した男。私はこの男を深く知りたくなった。

(*゚ー゚) 「あなた、名前は?」

(´・ω・`) 「風の料理人、ショボンだ」

男は静かに消えていった。
私の股間は濡れていた。



50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 21:00:03.15 ID:zBBNL6LBO
最終話
真理の扉



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 21:02:02.99 ID:zBBNL6LBO


今、僕はデパ地下の調味料コーナーの前にいる。
ここに来るたび、僕はあなたを思い出す。

(´・ω・`) 「僕はあなたに近付けていますか?」



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 21:03:54.28 ID:zBBNL6LBO


<#ヽ`∀´> 「出てけこの役立たずがニダー!」

(;´・ω・`) 「ひぃ!」

僕は勤めていた韓国料理店を追い出された。
理由は簡単。料理が下手だからだ。
料理が下手な料理人。これは非常に致命的だ。

(;´・ω・`) 「どうしよう…
とりあえず腹ごしらえするかな」

腹が減っては戦は出来ぬ。僕はその時たまたま目に付いた和食店に入った。



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 21:05:47.74 ID:zBBNL6LBO
今思えば、次の仕事を探すための景気づけだったのだろう。
そこそこに値の張る店だった。

( ∵) 「はい、お待ち。炊き合わせだよ」

季節の野菜と高野豆腐を煮ただけのものだ。

(´・ω・`) (見た目はいいけどどうせ味は…)

美味かった。五体に染み入るのがわかる。
こんなにも素晴らしい料理を出せる料理人と、たった今料理人を辞めようと考えていた自分を照らし合わせて、僕は静かに涙を流した。



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 21:07:35.08 ID:zBBNL6LBO
( ∵) 「あんたも料理人だろ?」

なぜわかったのだろうかと、僕は声にならない声で答えた。

(´;ω;`) 「ぁ゙い゙」

( ∵) 「やっぱりな。手を見ればわかるよ。料理人の手には不自然な傷が多いからね。
どうしたんだい?」

僕はすべてを話した。
料理人なのに料理が下手なこと。
そのせいで店を追い出されたこと。
あなたの料理に感動したこと。

そして―――

(´・ω・`) 「僕を弟子にしてください」



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/14(火) 21:09:39.61 ID:zBBNL6LBO


師匠、あなたが一番始めに僕に教えてくれたこと。
今でも僕は厳守している。

(´・ω・`) 「とりあえず高い調味料を使ってます」



おしまい\(´・ω・`)/



戻るあとがき『親子丼』レシピ