流石兄弟が完全犯罪を企むようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/06(金) 20:04:18.59 ID:Ve5AFzON0
ある夏の暑い日。

朽ちかけたアパートの一室でラーメンをすする流石兄弟の姿があった。

  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「ズズズー…やはり夏はラ王だな」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「流石だよな俺ら」
  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「…」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「…」
  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「弟者、人生とは何と無情なんだろうな…」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「言うな兄者。わかっている」


夏休みも始まり、外では楽しそうな学生たちの笑い声が聞こえる。

だが二人にとってはそれがことさら気分を重くさせるのだった。



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/06(金) 20:05:54.48 ID:Ve5AFzON0
彼女がいない。カネもない。毎日がつまらない。

ただただ繰り返されるだけの退屈な日常は、二人から確実に若さを奪ってゆく。

現在兄者は百貨店の深夜警備、弟者はヤクザの舎弟(要はパシリ)をしていた。

どちらも収入は雀の涙ほどで家賃を払うのが精一杯だった。

  ∧_∧
弟(´<_`  )「カネだよな、兄者…」
  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「まあな。お前はとりあえず堅気になったらどうだ」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「高校すら卒業していない俺が堅気でやっていけると思うのか」
  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「…」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「兄者だってそうだ。今の仕事は学歴を誤魔化して就いたんだろ」
  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「俺たちは八方塞がりか…」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「そうかもな…



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/06(金) 20:10:10.06 ID:Ve5AFzON0
翌日の夕方。

その日も弟者が先輩格にパシらされ、お使いに行った帰りのこと。

  ∧_∧
弟(´<_`  )「いつまでこんな日々が続くんだ…俺は一生下っ端なのか?」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「ん? あれは兄者が働いている百貨店じゃないか。ちょっと顔を見せて行くかな」


兄者が勤めているデパートは七階建てで想像以上に大きく、いわゆる高級百貨店というやつだった。

一歩足を踏み入れた瞬間早くも場違いな感じに襲われる。

  ∧_∧
弟(´<_`  )「くそ、どいつもこいつもジロジロ見やがって…」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「むっ? 高級時計展だと?」


弟者はポスターの前で足を止めた。六階の宝石売り場でやっているらしい。

百均で買った時計しか持っていない弟者は興味をそそられ、行ってみることにした。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/06(金) 20:15:15.84 ID:Ve5AFzON0
  ∧_∧
弟(´<_`  )「ほほう、これがロレックスというやつか。…ひ、百万円だと?!」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「バカな…ゼンマイに針と文字盤付けただけのもんが何故…」


高級感のある木製の台座にガラスケースが被さり、その中に時計が納まっている。

値段に驚愕した弟者は試しにケースの中の時計の値段をすべて合計してみた。

  ∧_∧
弟(´<_`  )「2000万円だと! 家の値段じゃないか」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「くそう、羨ましい…俺もこんな時計が欲しいぞ…」


呆然としていた弟者の頭を、ある計画が電撃のように駆け抜けた。

  ∧_∧
弟(´<_`  )「兄者はここの警備員だから…おお! こ、これは行けるぞ!」


身をひるがえし、弟者は百貨店を飛び出した。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/06(金) 20:19:06.08 ID:Ve5AFzON0
翌朝。

勤務を終えて帰ってきた兄者に、弟者は計画を打ち明けた。

  ∧_∧
弟(´<_`  )「兄者なら簡単にあの時計を盗み出せるだろう」
  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「お前は想像以上にバカだな、弟者」
  ∧_∧
弟(´<_` ;)「いきなり何を」
  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「そんなもん状況的に俺が盗んだってすぐわかってしまうだろ」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「え?」
  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「あっという間に疑いをかけられて終わりだ。
        それに監視カメラやケースの警報装置はどうする?」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「盗んでそのまま逃げてしまえばいいじゃないか」
  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「なあ弟者、2000万円は確かに俺らにとって眼も眩む大金だ」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「…」
  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「だが残りの人生を丸ごとかけるほどの金額じゃないだろう」



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/06(金) 20:23:19.50 ID:Ve5AFzON0
その日は兄者が一方的に話を打ち切ってしまったため、それっきりになった。

しかし弟者はどうしても諦め切れない。

何かもっとうまい方法はないのか?

兄者に疑いが及ばず、残りの一生を逃げ回って過ごす必要もない作戦は…

  ∧_∧
弟(´<_`  )「そんな都合の良い手があるわけない…か。やはり無理だ」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「兄者に謝ろう。犯罪の手伝いをさせるところだった」
  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「(ガチャ)ただいま」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「おお、兄者。昨日は…」
  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「弟者。お前、丸ノコは手に入るか?」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「?」
  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「昨日の話だが、もしかしたら上手く行くかも知れん」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「何だと!?」
  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「俺たちが双子なみにクリソツなことを利用するんだ」



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/06(金) 20:26:20.32 ID:Ve5AFzON0
すべての準備が整うまでに三日かかった。

折りしも百貨店で行われている時計展の最終日、二人は計画を実行に移した。

軽い変装をして閉店間際にやってきた弟者は、何食わぬ顔で五階の寝具売り場へ向かう。

手には大きな黒いバッグを持っていた。

  ∧_∧
弟(´<_`  )「ふむふむ、この羽毛布団の具合はなかなか…(そろそろ時間だ)」


突然けたたましく鳴り響く火災報知器のベル。

動揺した客と店員の視線がさまよう中、弟者は素早く大型ベッドの下に隠れた。

ややあってから店内放送が流れる。


「お客様に申し上げます、今のは報知器の誤作動です。火災は起きておりません…」

  ∧_∧
弟(´<_`  )(よし、誰にも見られなかったな)


報知器を鳴らしたのは弟者が雇ったアルバイトの仕業だ。

彼はもう一つ、五階の喫煙所にバッグを置きっぱなしにする仕事も済ませている。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/06(金) 20:30:16.82 ID:Ve5AFzON0
兄者は一階の警備員室に同僚と一緒にいた。


( ^ω^)「ふう、驚いたお。まったく最近の若者はロクなことしないお」
  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「ああ、まったくだな後輩」


寝具売り場に監視カメラは少ない。ベッドを万引きするやつはいないからだろう。

弟者の存在は誰にも気づかれていない筈だ。

しかし六階の宝石売り場にはそれこそ山のようにある。

  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)(ここからが勝負だ…頼むぞ、弟者)


それからしばらくして百貨店は今日の営業を終えた。

警備員が残った客がいないかトイレなどを調べるが、もちろん誰もいない。

さらに数時間が経過して日付が変わるころには残業組の店員も全員帰宅した。

百貨店に残っているのは兄者と後輩、それにベッドの下の弟者だけとなった。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/06(金) 20:35:13.98 ID:Ve5AFzON0
警備室の電話が鳴った。

  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「後輩、取ってくれ。俺は今モンスターハウスで忙しい」

( ^ω^)「はいですお(仕事中にシレンやってんなお…)もしもし?」

???「お前は百貨店の人間か?」

( ^ω^)「え? そうですけど、どちら様ですお」

???「五階の喫煙所に爆弾を設置した。(ガチャ)」

(; ^ω^)「!!! せ、先輩! 大変ですおー!」
  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「(弟者の電話だな…)何だ、どうした?」

(; ^ω^)「ば、爆弾があるらしいですお! 五階に!」
  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「フーン」

( ^ω^)「え?」
  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「そんな脅迫電話しょっちゅうだよ。まあ、一応見に行くか。一緒に来い」



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/06(金) 20:39:28.94 ID:Ve5AFzON0
兄者が寝具売り場、後輩がその逆を調べた。

  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「何もないようだな。下の階も調べておくか」

( ^ω^)「わかりましたお(思ったより仕事熱心な人だお)」
  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「よーし後輩! 下の階に行ーくーぞー!」

( ^ω^)「そんなに大きな声出さないでも聞こえますお」


二人が五階を後にすると、待ち構えていた弟者がベッドの下から飛び出した。

すぐさまエレベーターを駆け上って六階の宝石売り場へ向かう。

  ∧_∧
弟(´<_`  )「監視カメラの前に誰もいない間に済ませないと…」


兄者が各階につき10分程度の時間をかける手筈になっている。

余裕は四十分というところだ。

高級時計展のケースに近づくと埃避けにかかっている布を外し、バッグから

ハンディタイプの電動丸ノコとジョウロ、ペットボトルに入った水を取り出す。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/06(金) 20:41:06.01 ID:Ve5AFzON0
ガラスのケースをぶっ壊せばすぐに警報が鳴る。

しかしケースが乗っている木製の台座は箱状になっているから、丸ノコを使えば

下から時計を取り出すことができる。

木屑が飛び散らないようにジョウロで水をかけながら、焦る気持ちを抑えて

木箱をくりぬいてゆく。

  ∧_∧
弟(´<_`  )「よし、これで最後だ…」


すべての時計を荷物と一緒にバッグに詰め込む。どうやら時間内に済んだようだ。

台座から取った板をくりぬいた穴に放り込み、弟者はケースに元通り布をかけた。

これでぱっと見は何も起きていないように見える。

  ∧_∧
弟(´<_`  )「着替え、着替えと。忙しいな」


兄者と同じ警備員の制服に着替え、弟者はベッドの下に戻った。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/06(金) 20:42:35.87 ID:Ve5AFzON0
何事もないまま警備室に戻った二人は監視カメラのモニタを見た。

  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「何も変化はないな」

( ^ω^)「そのようですお。あれ、先輩、バッグは?」
  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「ああ、『爆弾』か? 忘れてきた…次の巡回の時に持ってくる」


夜も白々と明けてくるころ、兄者は面倒臭そうに巡回に向かった。

後輩は監視カメラのモニタを睨む役目だ。

六階へ来ると兄者は雑誌入りのバッグを手に取り、弟者が隠れているベッドへ向かった。

  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「弟者、俺だ」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「兄者、待っていたぞ。床にずっと寝ていたせいで体が痛い」
  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「うまくいったか?」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「もちろんだ。さあ、交代だ」



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/06(金) 20:45:36.61 ID:Ve5AFzON0
  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「弟者。2000万は人生を賭けるには安すぎるカネだ」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「…」
  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「だが、人生を変えるには十分な金額だと思う」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「流石だな、兄者」


雑誌入りのバッグを持った兄者がベッドの下に潜り込んだ。

時計入りのバッグを持った弟者が出、巡回を続けて警備室へ戻る。

  ∧_∧
弟(´<_`  )「ご苦労。異常はないか」

( ^ω^)「ないですお。バッグありましたかお」
  ∧_∧
弟(´<_`  )(兄者と入れ替わったことには気づいていないな…)
  ∧_∧
弟(´<_`  )「ああ、この通り『爆弾』は回収した」


それが雑誌入りよりもずっと重たいことに後輩は気づかない。

まったく同じデザインのバッグだからだ。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/06(金) 20:49:25.08 ID:Ve5AFzON0
( ^ω^)「警察に一応言った方がいいですお」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「何も問題は起きていないんだ。ならこの店の評判を落とすことはない」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「あ、それより俺、早退するから」

(; ^ω^)「ええ!?」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「早朝アニメを録画したいんでな。風邪ってことにしとけ」

(; ^ω^)「そんな理由で早退ですかお」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「もう巡回もないし、引継ぎの連中も30分もすれば来るさ」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「『爆弾』は俺が責任をもって捨てておく」


百貨店の裏口にはトレーラーが行き来している。もう搬入が始まっているのだ。

それを横目に弟者は一足早く店を出た。

  ∧_∧
弟(´<_`  )「よし。後は兄者、頼んだぞ」



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/06(金) 20:52:12.08 ID:Ve5AFzON0
出勤してきた宝石売り場の担当が異変に気づいた。全部空っぽ…

あわてて警備員を呼び出し、警察に連絡する。


(; ^ω^)「…ど、どうなってんだお…」
  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「ん? どうした?」

(; ^ω^)「せ、先輩! 帰ったんじゃないのかお」
  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「ケータイを忘れてな…ん? なんじゃこりゃあ!?」


やってきた警察に二人は事情を説明し、『爆弾』の入ったバッグを見せた。

しつこく事情聴取されたが決定的となるものが何もないため、証拠不十分で釈放された。

もっとも警備会社は体裁をつくろう為、脅迫電話を受けた時点で通報しなかった兄者を

クビしたのだが。

  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「まあ、二千万円分の時計と引き換えなら悪くない取引だ」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「どっちみち責任取る形で辞める予定だったしな」



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/06(金) 20:54:00.30 ID:Ve5AFzON0
時計は弟者が盗品専門の質屋に売り払い、現金に換えた。

経費などで若干目減りはしたがそれでも十分な金額が残った。

  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「さあ弟者、俺らの人生はこれから始まるぞ」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「兄者の作戦が良かったな」
  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「いや、弟者が持ちかけて来なかったら思い付かなかった」
  ∧_∧
弟(´<_`  )「…」
  ∧_∧
兄( ´_ゝ`)「…」

  ∧_∧ ∧_∧
 ( ´_ゝ`)(´<_`  )「 流 石 だ な 、 俺 ら 」



おしまい



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