(´・ω・`)はメールを打つようです

262: 「?」 :2007/08/26(日) 00:53:17.39 ID:PA9lLIBU0

ここは、どこなのだろう。

もしかして、どこでもないのだろうか。


確証はないが、目を閉じてはいない。
それなのに、何故か漆黒の闇が広がっていた。

懸命に記憶を辿り、何があったのかを思い出そうとする。

答えを探せば探す程涙が流れそうになる。
それは、どうしてだろう。


幾つか記憶を引っ張り出して、一つの結論に辿り着いた。

僕は事故で死んだんだ。



271: 「?」 :2007/08/26(日) 00:55:12.65 ID:PA9lLIBU0
僕は泣きたくなった。
同時に、笑いたくなった。
クリスマスの日とは違う意味で、そうしたくなった

こんなにあっけなく死ぬだなんて。
生きる目的が見つかった途端に、死んでしまうだなんて。

情けなくて、悔しくて、悲しくて。
自嘲と自責と自愛を筆頭に、様々な感情が入り組んで、
僕を訳の分からない気持ちにさせていた。

泣きたい、笑いたい、やり場の無い怒りを露にしたい。
でも、どういう事かそれは出来なかった。

理由を考える。
だが、そうしようとするだけで解答を見つける事が出来た。
頭を抱えようと脳から命令を送っても、呼応して動く腕が無い。

今の自分は意識しか存在していないのだ。



278: 「?」 :2007/08/26(日) 00:57:20.11 ID:PA9lLIBU0
(´・ω・`)(何だここは……死後の世界か?)

意識しかない事を理解すると、今度は考察をする。
自分が死んだのか生きているのかも分からない。
だとしたら、これは果たして何の現象なのだろうか。

(´・ω・`)(夢だったのか……? いや、僕は確かに事故に遭って……)

それは間違いのない事だ。
痛みは覚えていないが、あの光景は瞼の裏に焼き付いている。

(´・ω・`)(意識不明になって、長い夢を見させられているのかも知れないな)

あれも違う、これも違うと堂々巡りをしていると、
突如として、聞こえない筈の声が聞こえた。
正式には、意識の中にその声が流れ込んできた。



( ^ω^)ノ『おいすー』

(;´・ω・`)『うわぁぁぁぁぁぁぁあああ!?』



292: 「?」 :2007/08/26(日) 01:00:12.02 ID:PA9lLIBU0
間抜けな声と共に、その主が暗闇から浮かび上がってきた。

人間、だろうか。
少なくとも僕ら人類と同じ外見をしている。


(;´・ω・`)『な、何だお前はっ!』

( ^ω^)『おまwwwwwwwそんなに焦るなおwwwwwwwww』

驚きを隠せない僕とは裏腹に、異様に明るい調子で笑う男。
ますます頭がこんがらがってしまう。

(;´・ω・`)『どこから来たんだ!? 答えろ!』

( ^ω^)『落ち着けお。どこからも何も、僕はお前の傍に最初からいたお。
      いんや、正しくはお前の中にだお』

(´・ω・`)『僕の中にだって?』



300: 「?」 :2007/08/26(日) 01:02:15.95 ID:PA9lLIBU0
( ^ω^)『そうだお。聞いて驚け、僕はお前に宿る言霊なんだお!』

ビシッ、と指を差しながら男は答えた。


(´・ω・`)『言霊って……言葉に宿っている精とやらか?』

( ^ω^)『その通りだお! 知識があって助かるお。
      説明の手間が省けてラッキーだおwwwwwっうぇwwwwwww』

(´・ω・`)『で、その言霊が何の用なんだ? ここはどこなんだ?
      僕は今どうなっているんだ? それと……』

( ^ω^)『質問を纏めてから言えお! 僕は三行しか把握出来ないお!
      僕は事故で植物状態になっているお前の意識そのものに話し掛けているんだお。
      言霊の実力舐めるなおwwwwwwwwww』

男の笑いは、何故かは知らないが不快には感じられない。
そもそもこれが実際に起きていることだとまだ認識していないからだろう。

信じたい、との気持ちがあったのは確かだが。



306: 「?」 :2007/08/26(日) 01:04:31.02 ID:PA9lLIBU0
(´・ω・`)『意識を失っている、と言う事は僕はまだ生きているのか』

( ^ω^)『流石は大卒、理解が早いお。
      正確には、意識が体から離れてしまっているんだお』

(´・ω・`)『本当だろうな? 夢とかじゃないだろうな?』

( ^ω^)『それはねーおwwwwwwwww
      証拠は無いけど、僕の言葉を信用しても大丈夫だお』

(´・ω・`)『そうか、良かった』

男からの返事を受け取ると、安堵して話を止めた。
虚言かも知れない。
でも、こうして思考を繰り広げることが出来る。
夢ではこうはいかない。非現実的だが、僕は男の話の全てを信じた。

だが、男はまだ僕に用事があったようで、
何やら捲し立てるように叫んだ。


(#^ω^)『全然良くないお! 僕の話はまだ終わっちゃいないお!』



309: 「?」 :2007/08/26(日) 01:06:36.46 ID:PA9lLIBU0
(´・ω・`)『何だ、まだ何か言う事があるのか』

(#^ω^)『ありありだお!心して 聞けお!』

男が言葉を紡いでいく。


(#^ω^)『僕は言霊としての役目を全うするためにお前に宿っているんだお。

      ところがお前は耳が不自由で、話す事が出来なかったんだお!
      結局一度も言葉に乗って自分の力を発揮出来なかったお!

      そのせいで、僕は言霊として落ちこぼれになってしまったんだお!』


(´・ω・`)『成程。つまり、言霊のニートと言う訳か』

(#^ω^)『うるさいお! 表現が的確過ぎて何も言えないお!』

(´・ω・`)『すまない』



316: 「?」 :2007/08/26(日) 01:08:41.59 ID:PA9lLIBU0
冗談を言ったはいいが、僕はこの言霊とやらに罪悪感を感じてしまった。
僕はこんなところでも迷惑を掛けてしまっていたのか。
最後の『すまない』は、二重の意味を込めて言ってみたつもりだ。


( ^ω^)『ともかくだお。このままお前の意識が戻らなかったら、
      僕は永遠に言霊としての力を使うことなくあの世に行ってしまうんだお』

(´・ω・`)『そうなのか……すまないな、宿主が僕なんかで』

( ^ω^)『謝るなお。お前がちゃんと回復しさえすればまだチャンスはあるんだお。
      とは言え、このまま意識が戻ったとしても意味がないお。
      お前が発する事が出来る言葉が一つも無いからだお』

(´・ω・`)『確かにそうだな。目が覚めたからといって、耳まで良くなったりはしない……』

深層で考え込む僕をよそに、
男は『感謝しろ!』とばかりに意識の中に語り掛けてきた。

( ^ω^)『そこでだお、僕は今のうちにお前にプレゼントをしてやるお!
      お前が知りたい言葉の響きを、五文字だけ教えてやるお!』



325: 「?」 :2007/08/26(日) 01:10:49.28 ID:PA9lLIBU0
(´・ω・`)『どう言う事だ?』

探りを入れるように男に尋ねる。

(´・ω・`)『知ったところで、その言葉をすぐにでも声にすることは出来ないだろう』

( ^ω^)『それはお前の努力次第で何とかしろお!
      誰かに聞いて貰いながらでいいから、練習して発音出来るようになれお!』

男は怒鳴りつける。


誰かに聞いて貰いながら、か。
僕にとって、その相手となる人物は一人しかいない。


男の誘いに僕は興味を惹かれた。
いや、惹かれたどころではない。
願っても無い好機だ。

ただ気になることが少しばかりある。
男がそうしてまで僕に入れ込む理由は何なのだろうか。
僕はとりあえず、聞いてみる事にした。



329: 「?」 :2007/08/26(日) 01:12:41.64 ID:PA9lLIBU0
(´・ω・`)『そんな事をしてどうするんだ。お前のメリットがやたらと少ないぞ』

僕の質問に男は即答した。
おちゃらけた態度は変わらないが、強固なメッセージが届いてくる。

( ^ω^)『うっさいお。何でもいいから働かせて貰えればそれでいいお。
      僕はとにかく、何かをやり遂げてからあの世に行きたいんだお。
      何もしないで消えていくのは寂しい事なんだお』

(´・ω・`)『……そうか』

僕は男の言葉を何度も何度も反復する。

この男は僕に似ている。

言葉の節々から伝わる考えから自然とそう思えた。
僕に宿る言霊なのだから、当然と言えば当然か。



333: 「?」 :2007/08/26(日) 01:14:46.67 ID:PA9lLIBU0
( ^ω^)『さぁさぁ、理解したら早く何を知りたいか言えお!
      もう一度だけ言うけど、五文字だけだお!』

男がまるで照れ隠しをするかのように急き立てる。


(´・ω・`)『ちょっと、考えさせてくれないか』


僕は全てのひらがなを思い浮かべた。
五十音、いや、濁点半濁点も含めれば選択肢はかなり広い。


ここで、ある事に気が付いた。

既存の物を探ったって本当に必要な文字は見つからない。


自分が思いつく、大切だと言い切れる言葉を教えて貰おう。
合わせて、きっかり五文字となるように。



341: 「?」 :2007/08/26(日) 01:16:31.45 ID:PA9lLIBU0
僕は瞬時に思いついた。

それだけ自分の中で大事な言葉なのだろう。
選び抜いた文字を、男に念じて伝えた。


( ^ω^)『……本当にそれでいいのかお』

(´・ω・`)『ああ、問題ない。
      その五文字が、僕にとっては一番必要なんだ』

(;^ω^)『えーと、もうちょっと捻ったりしないのかお?
      組み替えると色んな言葉になる文字列とか、一杯あるお?』

(´・ω・`)『そんな余計な考えは必要ないさ。
      僕が響きを知りたい、声に出したい言葉はそれだけなんだ』

(#^ω^)『何か知らんけどムカツクお! 非童貞の余裕かお!』

(´・ω・`)『ぶち殺すぞ』



349: 「?」 :2007/08/26(日) 01:18:52.76 ID:PA9lLIBU0
( ^ω^)『まっ、お前がそれでいいのなら教えてやるお。
      僕としちゃ何でもいいんだお、うんうん』

男はそう言うと、僕の意識の中で望んだ文字が反響した。

初めて聴いた音。
思った通り、響きのいい言葉だ。
こんなにも言葉が綺麗だなんて、知らなかった。


( ^ω^)『一応言っておくけど、それは別に聴こえている訳ではないお。
      あくまで脳が響きを認識しているだけだお。その辺をちゃんと分かれお』

(´・ω・`)『分かってるさ。そのぐらいはね』

( ^ω^)『おk。だったら構わないお。
      それじゃ、僕はこの辺でさよならするお!
      と言っても、お前の中にいるんだけどwwwwwっうぇっうぇwwwwwww』

(;´・ω・`)『いるのかよ』

( ^ω^)『それが言霊の宿命ってやつだお!』



362: 「?」 :2007/08/26(日) 01:21:30.77 ID:PA9lLIBU0
男は僕に発声のアドバイスも教えた。
舌の使い方だとか、喉の震わせ方だとかを逐一説明する。
結局理解し切れなかったが、言い終えた男は何故か満足そうだった。


( ^ω^)『んじゃ、本当にお別れだお』


そう言い残して、男の顔は薄らいでいった。
その姿も見えているのではなく、僕が認識しているだけなのだろう。


( ^ω^)『言っとくけど、お前の意識が元に戻るかどうかなんて分からんおー!
      もし戻ったら、ちゃんと練習しておけお! 絶対だお!
      それまで僕は待ってるおー!』


男の言葉がフェードアウトするように消えていき、とうとう、聞こえなくなった。
初めから聞こえてなどいなかったけれど、僕達は声で会話していたように思えた。

僕はそんな意識の中でしか使えない言語で、男に最後の一言を添える。


(´・ω・`)『……ありがとう』


その言葉も奇遇な事に五文字だった。



375: 「?」 :2007/08/26(日) 01:23:44.66 ID:PA9lLIBU0
僕は意識の世界を漂った。
どこまでも続く暗黒の世界を、ただ漂っていた。

永遠とも呼べるその時間。

その間中、ずっと言霊に聞いた言葉の響きを繰り返していた。
何度思い返しても飽きる事は無い。

僕は意識が戻る事を願い続けた。
時々諦めそうになる事もあるけれど、
彼女の顔を思い出ぜば、そんな考えは吹き飛んでしまう。

彼女は僕が何時如何なる場面にあっても希望でいてくれる。
僕が勝手に思っているだけなのだが、それでも幾分か救われた。



しぃを思えば、僕は、いつまでも待ち続けられる。



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