(´・ω・`)はメールを打つようです
- 385: 「春」 :2007/08/26(日) 01:26:04.94 ID:PA9lLIBU0
- それはあまりにも突然であっけなかった。
一体どれほどの時間を待ったのだろうか。
意識があるのに動けない、と言った状況に身を置く事になった時、
人は孤独と極度の精神疲労で発狂しそうになると聞いている。
僕にそんな現象は起こらなかった。
この場合、少し違った状況だからかも知れない。
彼女がいつも傍にいてくれているように思えたから、
僕は一人ではないと強く信じる事が出来たからだと思う。
少なくとも、意識が戻るまでの間僕は一度たりとも狂ったりはしなかった。
僕は病室のベッドで、目を覚ました。
- 399: 「春」 :2007/08/26(日) 01:28:35.97 ID:PA9lLIBU0
- 瞳に入ってくる久しぶりの景色は、清潔な白い天井だった。
上体を起こそうとする。
無理だろうと思えたが、それは可能だった。
動いても痛みは無い。
どうやら怪我の方は完全に治っているようだ。
いの一番に鼻を突いたのは刺さった点滴の臭いだった。
いかにも「薬」といった感じの科学的な臭い。
幼い頃よく嗅いだ病院の空気を思わせて、少々苦手な感触だ。
舌の上に伝わってきたのは粘ついた僕の唾だった。
いつも感じていた筈なのに、違和感を覚えてしまった。
そして目覚めて最初に感じた物は。
僕の手を握る、
傷だらけの指輪がはめられた、しぃの両手の温もりだった。
- 411: 「春」 :2007/08/26(日) 01:31:07.10 ID:PA9lLIBU0
- (*;ー;)「――――――!!!!」
彼女の泣き顔に、僕は気が付いた。
熱い涙が頬を伝わっている。
目の下にはクマが出来ていて、あまり寝ていない事が分かった。
僕が長い間心配をかけてしまったせいだろう。
何かを声に出しているようだけれど、僕にその言葉を聴く事は出来ない。
だけど、不思議と伝わってくるような気がした。
(*;ー;)『――――――!!』
彼女が抱き寄ってくる。
息と、涙と、体温の熱を全身で感じる。
僕はそこでやっと霞がかった意識がはっきりとした。
気付けば、僕も涙を零していた。
- 423: 「春」 :2007/08/26(日) 01:33:43.45 ID:PA9lLIBU0
- 泣いたのはいつ以来だろうか。
今が西暦何年かも知らないのだから、尚更の事分からない。
(´;ω;`)『…………!』
僕は戻ってきたんだ。
しぃのいる世界へと。
嬉しさのあまり他の事を考える事が出来ない。
涙が止まる様子は、欠片も無い。
声を出そうとする。
出せない。当然だ、僕は聾唖者なのだから。
けれど、僕はあの暗い精神世界の中で知る事が出来た。
伝えよう。
ぶっつけ本番だから、きっと上手くは発音出来ない。
それでも構わないから、精一杯伝えようとしよう。
- 437: 「春」 :2007/08/26(日) 01:36:06.47 ID:PA9lLIBU0
- (´;ω;`)「……うぅ……うぁぁ……」
ただでさえ涙で声が詰まっているのに、
生涯で初めて何かを声にしようとしているのだから、言葉になる筈が無い。
きっと呻くような音にしかなっていないのだろう。
実際の事は、分からない。
(´;ω;`)「ぁ……い、び、あああ……」
でも、でもだ。
伝えようとする意思があれば、きっと彼女に伝わる筈だ。
この世界に存在する言葉にはならなくても、
二人だけの世界で通じる言葉にはなる筈なんだ。
- 443: 「春」 :2007/08/26(日) 01:37:22.18 ID:PA9lLIBU0
- (´;ω;`)「ひぃ…う、ぐぃあ……」
届いてくれ。
(´;ω;`)「ずぎば……ずいあ……ふぃ……」
この、大切な言葉よ。
(´;ω;`)(お願いだ……! 声になってくれ…・…!)
舌、喉、唇。
僕は教わった通りに動かした。
複雑な舌の動き。
様々な声帯の振動。
曖昧な唇の開閉。
全てが彼女にメッセージを送るために連動している。
発音出来ているのかどうか、それはやはり、分からない。
- 452: 「春」 :2007/08/26(日) 01:39:25.84 ID:PA9lLIBU0
- 僕が言おうとする、五文字の言葉。
簡単で、だけど正直で。
何よりも、ずっとずっと美しい言葉だ。
しぃ、すきだ。
それ以上の言葉なんて見つからない。
世界で一番美しいこの言葉。
彼女の名前と、彼女を想う僕の気持ち。
僕の最愛の人の名前、『しぃ』。
愛情とか、友情とか、慕情とかでもない。
ただ、純粋に『好きだ』と想う気持ち。
メールで幾度と無く打った、どんな物よりも綺麗な響きの言葉。
声に出したい。出して、伝えたい。
- 465: 「春」 :2007/08/26(日) 01:41:34.72 ID:PA9lLIBU0
- (´;ω;`)「あぁ……がぁ……」
何度も何度も繰り返して、最後の一息を振り絞り声を出した。
恐らく、正解の発音を発することは出来なかっただろう。
頭の中に浮かぶイメージを表現するのは、僕にはまだ早過ぎた。
(*;ー;)「――――――!!」
しぃは握る手を決して放しはしなかった。
声にならない声を聞いて、怖がったりなんかしなかった。
僕の言葉を、聞いてくれた。
そっと彼女が僕の手を開く。
そして、あの日僕がしたように指で文字をなぞった
(*;ー;)『 わ た し も 』
- 475: 「春」 :2007/08/26(日) 01:43:50.05 ID:PA9lLIBU0
- (´;ω;`)「うぅ……うぅ……!」
すすり泣く声が漏れる。
それがどんな音なのかは想像が付かない。
僕は何も考えられなくなった頭で何とか考える。
答えは見つからない。
それでも良かった。
僕達にはどうでも良い事だったから。
(*;ー;)「――――――!!」
(´;ω;`)「…………!」
僕はしぃを、衰えて細くなった腕で抱き締めた。
この腕では彼女を守る事など叶わない。
だからゆっくりとでいいから、二人の愛と共に大きくしていこうと誓った。
戻る/それから