( ^ω^)ブーンたちは漂流したようです

3: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/26(日) 23:56:44.39 ID:oRfy6Xx+0
レミングという動物を知っておられる方は多いのではないでしょうか。
彼らには集団自殺をするという極めて稀な習性を持っているということで有名です。
なぜ自殺をするのか。それはつまり、個体数を調整するためである、と。
生物を取り巻く環境には、収容力、つまり個体数の上限があります。
それを超えて繁殖してしまうと、その生物はやがて環境に受け入れられなくなり、絶滅します。
アリゾナ州のシカがなどがその一例として挙げられるでしょう。
人の手によって外敵を失ったシカ達は爆発的に繁殖し、やがてはえさを食べつくして消えていきました。
さて、レミングの話に戻りましょう。
彼らは数年に一度大発生することで知られています。つまり、個体数の上限を突破してしまうのです。
そうなった時、彼らは集団での移動を始めます。
そして一部が海岸から海に入って溺れ死ぬ、その様子が集団自殺の例として挙げられるのです。
森林におけるレミングの数が異常に増えてしまった。
このままではいずれ環境に適応できなくなり絶滅してしまう。
そこで彼らは集団自殺を行うことによって個体数を減じて種を存続させようとするのです。
これはつまり、個体が集団を優先させたという顕著な事例なのです。
生物の第一目的とは種の存続なわけですから、
このような行動が発生してもなんら不思議なことではないのです。
……というようなことが、さも真実であるかのように語られている節があります
しかしこれは、全くの虚偽であるのです。
レミングは決して種、或いは集団の利益を優先しているわけではないのです。

・・・

・・





5: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/26(日) 23:57:33.03 ID:oRfy6Xx+0
プロローグ およそ零秒間の消失

その日、その時。
テスト期間中でクラブも無いというのに、ブーンは放課後になっても学校から出て行くことがなかった。
彼は今日こそツンに告白しようと心に決めていたのである。

幼馴染である彼女を少し用事があるといって教室に待たせている。
彼女は何を疑うわけでもなく、

ξ゚听)ξ「まったく……はやくしなさいよ!」

と言って承諾してくれた。
多分、鈍感なのだろうとブーンは推測している。

掃除当番の生徒から無理矢理引き受けたゴミ捨てを終えて、教室に帰るまでの少しの距離。
思考時間とするにはあまりに短すぎた。
言葉が思いつかない。そのくせ、ツンを待たせているという焦燥感から歩調が自然と早まる。

いつの間にか、彼は教室の前まで来ていた。
もう時間はない。ツンがすぐそこにいる。
教室に入った。



6: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/26(日) 23:58:33.75 ID:oRfy6Xx+0
ξ゚听)ξ「もう、用事ってなんなの?」

カバンを担いだツンが呆れ口調で言う、最早ほとんど聞こえていない。
声が聞こえるほどに距離を詰める。

(;^ω^)「ツ、ツン」

平静を装う。心臓が狭い体内でもがいている。
声が震えているようだ。ツンに気づかれているだろうか。

ξ゚听)ξ「何よ」

(;^ω^)「あ、あの……」

頭のコンピューターがオーバーヒートを起こしている。
最後に提示した答え。
直球で行けと。

(;^ω^)「ぼ、僕……」

時が訪れた。

(; ω )「僕、ツンのことが好きなんだお!」

ツンの目が見開かれた。
賽は投げられた――はずだった。
後は答えを待てばいい――はずだった。

彼女が口を開きかけたとき、ブーンは消えた。
その世界から、完全に消失した。



7: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/26(日) 23:58:59.80 ID:oRfy6Xx+0
その日、その時。
ペニサスは街角に立っていた。
視線の先に、想い人がいる。彼は友人と帰路を共にしていた。

壁に隠れながらついていく。
瞳は彼を捉えたままだ。
純粋な笑顔を浮かべる。そうやっていることが今の彼女にとって最上の幸福であった。

常に彼の傍にいるということ。
それは、つい一ヶ月前までは当然のことだった。

ペニサスはその男と付き合っていた。
彼女が告白すると、その男はあっさりOKしたのである。
およそ三ヶ月間、彼女は男に尽くしていた。

しかし、終わりはあっけらかんとしたものだった。

つまり、彼女は知らなかったのである。
いや、そのイノセントな双眸に入らなかった闇の部分ともいえるだろうか。

男が所謂プレイボーイであったという事実。
ペニサスとの関係が、遊びでしかなかったという事実。

悲しみが一時期彼女を包んでいた。
しかし、彼女はいつしかその事実を都合のいいように脳内変換した。
傍から見れば矛盾まみれでしかないような、妄想物語に。



8: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/26(日) 23:59:43.46 ID:oRfy6Xx+0
ふと、男が後ろを向いた。一瞬、視線が交錯する。
ペニサスは慌てて電柱の影に隠れる。
男は吐き気でも催したかのような表情を浮かべると、再び歩き始めた。

ペニサスは笑った。無邪気に笑った。
脳内変換は強固だった。
全てがポジティブな方向に働いている。

見失いそうになったので、追跡を再開する。
どこまでもどこまでも男を求め続ける。
そうすることが自分だけでなく、相手にとっても幸福だと信じきっていた。

友人と会話を交わしていた男が、再度振り向いた。
今度は完璧に隠れることができたと思った。
ゲーム感覚だ。ペニサスは楽しんでいる。

影から様子を伺う。男が友人と共にこちらへ近づいてきていた。
彼女の胸が躍る。

頭の中には「あの人がもう一度私にチャンスをくれる」その選択肢だけが焼きついている。
険しい顔の男が目の前まで近づいてきた。至近距離に立つ。

('、`*川「なに?」

平静を装い、しかし心を期待で満たしてペニサスは言った。
男は拳を振り上げる。

男がペニサスを殴ろうとした瞬間、ペニサスは消えた。
その世界から、完全に消失した。



10: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 00:00:16.39 ID:es/DDJnU0
その日、その時。
ドクオはいつものように部屋に篭ってゲームに勤しんでいた。
最早中毒である。お気に入りのキャラクターのレベルは500を優に超えていた。
プレイ時間は如何ほどか。数百時間ではきかない程度には達している。

('A`)「……よし、ここは同時攻撃すれば経験値が……」

挙句の果てには、画面に向かって喋りだす始末である。
無理も無い。他に話し相手がいないのだから。

少し前までは一人いた。母親である。
高校一年の夏から一年以上も引き篭もり続けている息子を心配して、
何度も何度もドア越しに声をかけていた。
それを、ドクオは全て尖った態度であしらってきた。
全て面倒なのだ。何も考えたくない。

彼の、六畳の世界はあまりにも安らかだ。

いつしか、母親の声もなくなっていた。
食事は深夜、寝静まった頃に適当に摂る。
動かないので腹も減らない。風呂も同時に済ませる。
トイレだけはその都度済ませるしかないのが厄介なところだ。

('A`)「あー、そっちじゃねえだろ……バカか」

醜い顔でテレビに映る敵キャラクターを罵る。
そのうち、彼は尿意を覚え始めた。



11: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 00:00:53.04 ID:es/DDJnU0
時刻は夕方。ドアを開け、薄暗い廊下の様子を伺う。物音一つ聞こえない。
母親は外出中だろうか。廊下を歩き、便所に向かう。

('A`)「ッ……」

意味も無く舌打ちをして、彼はトイレを済ませる。ドアを開ける。

('A`)「うぉっ……」

至近距離に母親が立っていた。
顔を若干俯かせ、哀しそうな、そのうえで何かを決意したような目がドクオを見据えている。

J( 'ー`)し「ドクオ……」

('A`)「なんだよ」

驚きから解放されないままドクオは答える。

J( 'ー`)し「ゲームは楽しいかい?」

('A`)「うるせえ、さっさとどけよ」

右手で母親をどかそうとした時、ドクオは彼女が何かを握り締めていることに気づいた。
包丁だった。

J( 'ー`)し「ねえ、ドクオ……」

一緒に死のう。
母親がそう言ったとほぼ同時、ドクオは消えた。
その世界から完全に消失した。



14: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 00:02:07.02 ID:es/DDJnU0
その日、その時。
ハインリッヒ高岡は家出して三日目の午後を迎えていた。
繁華街は時間に関係なく狂騒が渦巻いている。
その片隅。細い路地の中で彼女は座り込んでいた。

从 ゚∀从「さーって……これからどーっすっかなあ……」

頬についた痣を気にしながら、彼女は所持品の確認をする。

从 ゚∀从「金が……ありゃ、千円札がねえな……掏られたか!?
      そういや昨日使ったっけか」

小銭が不幸な音をたてる。
溜息をついたところで、金が増えるわけでもない。

从 ゚∀从「こんなにすぐに鈍詰まりになるたぁ……ついてねえ、マジついてねえ」

運というよりは、必然の結果と言ったほうが正しいのだが。
夕空に雲が流れていく。
自分以外、何もかもが平和であるように思えてきた。



15: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 00:02:55.73 ID:es/DDJnU0
从 ゚∀从「んー、どこぞのオッサンに買ってもらうか、
      いや、そういえばそこのコンビニ、結構イケそうだったな」

とりあえずの生き延び方についてあれこれ思案するハイン。
そんな彼女の前に、一人の男が立った。

从 ゚∀从「……独り言聞くなんて趣味悪ィな」

ミ,,゚Д゚彡「つい通りかかったんだよ。それで、おいくら?」

黄色い歯を見せて笑う中年の男。
ハインはしばし考えて、右手でパーを作った。

从 ゚∀从「五千円で」

ミ,,゚Д゚彡「そりゃお買い得だねぇ」

从 ゚∀从「ありゃ、そうなのか」

ミ,,゚Д゚彡「えへへぇ、そそれじゃあ行こうか」

手を差し伸べられたが、ハインは自力で立ち上がる。
そのまま路地を抜け、騒々しい道路を歩く。

楽しいなあ、世界。
そんなことを思ったと同時、彼女は姿を消した。
その世界から、完全に消失した。

―――――――――――――――――――――――――



16: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 00:03:28.49 ID:es/DDJnU0
いつか、どこかで。
一人の男が頭を抱えた。
完全なる失敗だった。予定数の十分の一にも満たない。
これでは再生は不可能だ。
果てに、笑うしかなかった。





十月六日 午後四時二十七分五十一秒。
その世界から四人の人間が消えた。
全員が黄色人種、十八歳。男子二名女子二名。
彼らそれぞれに何の因果関係も無い。完全なるアトランダムに摘出された。

育たない種が撒かれた。





( ^ω^)ブーンたちは漂流したようです



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