( ^ω^)ブーンたちは漂流したようです

72: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 00:34:15.29 ID:es/DDJnU0
第三話「老いた影」

第二ホールとはつまり、食料以外のものが手に入る場所だった。
第一ホールよりも空間も、設置されている機械も広く、大きい。
その機械には1から9までの数字が記載されたパネルがあり、
それを押して望む品物を手に入れる。ペット自身や餌もこちらから供給される。
……というような説明がモララーによって簡潔になされた。

从 ゚∀从「……煙草がねえや」

機械の表面にある、品物の一覧が表示された電子ディスプレイを眺めてハインが不平を漏らす。
実際、生活必需品と思われるようなものが並んでいるだけで、特に目を惹くようなものはない。
そもそも、種類がそれほど多くないのも問題である。

( ・∀・)「……そうだ、服でしたね?」

モララーの問いに、しぃを傍らに置いたブーンが一つ頷いた。
慣れた手つきで、モララーは数字パネルを押していく。
数秒後、重々しい機械音の後に機械下部の巨大な口から女物らしい衣類が吐き出された。

( ^ω^)「ハイン、お願いがあるお」

从 ゚∀从「はいはい、わかってるわかってる」

仕方ねえなあ、とでも言いたげに、ハインはしぃに服を着せてやる。
すんなりと頼まれてくれたことに、ブーンは多少の驚きを覚えた。

しぃは声もあげず、ただそれに従っているようだ。
そそくさとペニサスが近づいて、手伝いなどをしているようだった。
ブーンとドクオはなんとなく目を逸らしていたが、モララーは新種の生物を見つけたような顔つきでその光景を眺めていた。



75: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 00:37:39.94 ID:es/DDJnU0
从 ゚∀从「よし、終わり」

ハインが言って、ブーンたちはしぃを見る。
やっとまともに人間としての姿を与えられた少女がそこに立っていた。
そうしてみるとごく普通のかわいらしい少女だ。
それ以上でも以下でもない。

从 ゚∀从「しかし服にセンスがねえよな。
      もっと他の種類はないのか?」

( ・∀・)「男性用のものならありますが」

その二種類しかないのであろうか。
そういえばモララーもしょぼんも同じ服装だった。
仕事上の制服か何かだと思ったのだが、違うのだろうか。
受付にいた女性と、目の前のしぃもまったく同一のものを着ている、気がする。

( ・∀・)「とりあえずこれで最低限の施設の説明は終わりました。
      外に出ましょうか」



79: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 00:39:42.32 ID:es/DDJnU0
外に出ると、辺りが少しだけ薄暗くなったように感じられた。
赤に染まっているわけでも影が伸びているわけでもない。
ただ全体的に、夜へと近づいているように思えた。

( ・∀・)「ああ、一つ説明し忘れていましたが」

モララーは彼方を指差す。
そこに、最上部にスピーカーらしきものが取り付けられた電柱ほどの高さの鉄塔があった。

( ・∀・)「夜になる直前、あれからサイレンが響きます。
      それからすぐ、ほとんど視界が利かなくなるのでご注意を」

从 ゚∀从「危なっかしいシステムだな」

( ・∀・)「要は、遅い時間に出歩かなければいいのです」

从 ゚∀从「小学生の夏休みのおやくそくかよ」

( ・∀・)「さて、では最後に住居へご案内しましょう」

ハインの、おそらく意味の通じていない皮肉を無視して、モララーは歩き出した。
実際、もう行き交う人はまったく見られなくなっていた。



83: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 00:41:50.89 ID:es/DDJnU0
最初に現れた場所から更に離れたかもしれない。
逆に、少し元来た道を戻ったかもしれない。
そんな混乱を招くほど、変わり映えのしない景観が続いている。
それほどにこの世界は整備され、なんの障害もなしにこれだけの街を構築したのだ。
十分ほど歩いて、モララーはぴたりと立ち止まった。

( ・∀・)「ここがあなたたちの住むべき場所ですね」

モララーにしても、よくもまあ他人の住む場所まですらすらと案内できるものだ。
もしかしてこれも常識の範疇なのであろうか。
世界中の人間にとって、既知の事実なのだろうか。

彼が示したのはやはり似通った筐体のような建物のうちの一つだった。

( ・∀・)「ここの一階です。どうぞ」

灰色に溶け込んでいまいち判別のつかない入り口から中へと足を踏み入れる。
やはりどこにいようと明るさは変わらない。
段階的に暗さは増しているような気もするが。

廊下が一直線に伸びている。
それなりの間隔を置いて扉がいくつか設置されていた。



85: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 00:44:23.40 ID:es/DDJnU0
( ・∀・)「手前からNo.000001、No000002……となっていますので、
      各自カードをご確認ください」

ブーンは制服のポケットからカードを取り出した。
No.000001。一番手前の部屋だ。

( ・∀・)「軽く紹介をしましょうか。
      No.000001の人、カードを使ってもらえますか?」

( ^ω^)「わ、わかりましたお」

ブーンはリーダーにカードを通す。
やけに重厚なドアはゆっくりと自動で開かれた。
闇が広がっている。
モララーが先に行き、何かスイッチを押すと、室内全てが光に包まれた。



87: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 00:46:39.98 ID:es/DDJnU0
部屋の説明を三行で済ませるとするならば、こうなる。

・バス・トイレ完備
・キッチン無し
・ワンルーム

想像していたものよりは広い空間に、ベッドと見慣れぬ機械が一つ置かれている。
風呂も便所もあることがブーンにとって意外だった。
一応住居としての体裁は整えられているのだ。
台所がないのがいまいち不可解であるが。

( ・∀・)「どうですか? 何か質問はありますか」

( ^ω^)「この機械はなんだお?」

( ・∀・)「ああ、それはクリーナーですね。
      その中に衣類等を入れると、十分ほどで綺麗な状態に戻ります」

从 ゚∀从「すげえな、おい」

確かに、ブーンたちの住んでいた世界には無い機械である。

( ・∀・)「それぐらいでしょうかね?
      まぁ、こちらとしても他に大して説明する部分も見つからないのですが」

改めて部屋を見回しても、特に疑問点は見つからない。
というより、疑問にするほどの装飾物がないのだ。
隅っこにベッドが一つ。そして、壁には時計が一つ掛けられている。
それだけだ。他には目新しいものも、見慣れているものも何もない。
白い壁も相俟って、ここはまるで病室のようだ。



89: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 00:49:09.46 ID:es/DDJnU0
( ・∀・)「……さて、こんなところですかね」

やっと肩の荷が下りたとばかりに、モララーは大きく息を吐いた。

( ・∀・)「ああ、そうだ。最後に地図をお渡ししておきますね。
      また何か御用がありましたら、受付までお越しください」

ブーンは受け取った地図を眺める。
住居やホールの場所が明記されているが、
これを持っていても迷わないという自信はどこからも湧いてこない。

( ・∀・)「それでは、失礼しました」

そういって、モララーは扉の外に出て行く。
ガチャリとドアが閉まると同時に、全員が憑き物が落ちたような表情を浮かべた。

从 ゚∀从「疲れたぜバカ野郎」

(;^ω^)「痛い、痛いお!」

ハインが特に意味もなさそうにブーンの肩を何度か叩く。
ドクオはぽかんと天井を見上げて、ペニサスは魂ごとあの世に旅しているようだった。
しぃにいたっては床でゴロゴロしてる始末である。



92: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 00:50:28.85 ID:es/DDJnU0
从 ゚∀从「あいつさあ、第1ホールは朝しか使えないって言ってたよな?」

( ^ω^)「言ってたお」

从 ゚∀从「んじゃあ何か? 今日俺は何も食えないのか」

( ^ω^)「風呂場に洗面所が付いてたから、そこで水を飲むといいお」

从 ゚∀从「ぶち殺すぞてめえ」

朝から何も食ってねえのになあああああああ。
ハインは恨みがましくそう叫ぶと、ドサリとベッドに転がった。
そういえばここはブーンの部屋である。

( ^ω^)「……で、これからどうするお?」

ブーンは所在無さげに立ち尽くしている二人に尋ねる。

( ^ω^)「とりあえずみんなに一部屋ずつ与えられてるみたいだし……」

('、`*川「私、眠い」

( ^ω^)「とりあえず寝て、明日また考えればいいと思うお」

時間的にそろそろ夜だ。



94: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 00:53:27.63 ID:es/DDJnU0
( ^ω^)「そんなわけで今日は一度解散したほうがいいと思うお。
       ドクオ、それでいいかお?」

('A`)「え……あ、ああ、うん」

( ^ω^)「じゃ、決まりだお」

多少なりとも意思の疎通ができたことに満足しつつ、ブーンがいった。
まもなく、ドクオとペニサスはどちらからともなく動き出す。
しかし、二人が部屋を出て行った後も、ハインだけは出て行きそうな気配を見せない。

( ^ω^)「……ハインも部屋に戻るお」

从 ゚∀从「俺、ここで寝るわ。動くのだるいし」

(;^ω^)「ちょ、何言ってんだお」

从 ゚∀从「……お前さ、何考えてるの?」

(#^ω^)「何も考えてねーお!」



95: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 00:55:10.93 ID:es/DDJnU0
从 ゚∀从「ちげーよ、バカ」

ハインがケラケラ笑いながら上体を起こす。
そして、ふと目の色を暗くしてブーンを見た。

从 ゚∀从「さっきの……ダストホールだっけか……の答えだよ。
      俺まだ聞いてねえぞ」

ブーンは顔を俯かせた。
言ってみればあれは単純な自己満足に過ぎない。
しかし、それを口にすることは躊躇われた。そうすることが自己欺瞞であるように思えたからだ。

从 ゚∀从「こいつを人間扱いしようたって無理だろ?」

気持ちよさそうに目を閉じ、もうすでに睡眠体勢に入っているかのようなしぃを見てハインが呟く。

从 ゚∀从「結局ペットとしての生き方がこいつの生き方なんだし。
      そうやって今まで育てられてきたんだ」

(  ω )「でも……じゃあ、ハインはなんとも思わないのかお?」

从 ゚∀从「前の世界でもなんとも思ってなかったのに今更感慨もクソもねーよ。
      とにかくな、お前はもうちっと考えるべきだった。
      まぁあの時それを求めるのは無理だったろうけどな」

この、達観したような言動はどこから出てくるのだろう。
先ほど、モララーやしょぼんに怒鳴り散らしていた彼女とはまるで別人のようだ。



98: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 00:58:00.47 ID:es/DDJnU0
从 ゚∀从「ちょっとさ」

不意にハインが口調をガラリと変えた。

( ^ω^)「な、なんだお?」

从 ゚∀从「図書館で漫画借りてきてくれ」

( ^ω^)「え」

予想もしていなかった一言である。
まさかこの場面で使い走りの依頼とは。

( ^ω^)「で、でも、暗くなってるし……」

从 ゚∀从「地図あるだろ」

( ^ω^)「だけど……」

从 ゚∀从「うっせーな、背中に雌豚って刺青彫ってやろうか」

聴き慣れない脅し文句である。
しかし、本当にそうされたら困るので、ブーンはしぶしぶ承諾した。

( ^ω^)「じゃあ……行ってくるお」

从 ゚∀从「行ってこい行ってこい」



102: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 01:01:25.89 ID:es/DDJnU0
半ば追い出されるような形でブーンは部屋を出た。
理不尽だ。何度考えても理不尽である。
大体漫画が読みたいなら自分で借りてくればいい。

しかしながらブーン自身、この世界の図書館というものに興味を抱いているのは事実だった。
だからこそあっさりと引き受けたのだから(無論、ハインが怖いという理由もあるが)。

外はもうほとんど夜の様相である。
辛うじて先が見えるが、帰りのことを考えるとゾッとする。
それだけではなく、人通りのない住宅街は最早ゴーストタウンでしかない。
いつどこで骸骨を踏みつけても大して疑問に思わないだろう。
そういえば、モララーがところどころ崩れやすくなっているとも言っていた。
自然と足の回転がはやくなる。

( ^ω^)「ええと、図書館は……」

地図で確認するが、何せいちいち幾つ交差点を通過したかで考えなければならないので疲れる。
平安時代の京都を思わせるつくりの街並を走って、ブーンは図書館へと向かっていった。

やがて、彼は一つの建造物の前にたどり着いた。
そこはやはり第一・第二ホール同様のつくりで、図書館であることを示す看板もない。

( ^ω^)「不親切だお、まったく」

誰かに届かせたいような声で独り言を漏らし、彼は扉の前に立つ。

自動で扉がスライドし、開いた。
目の前に人がいる。



104: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 01:03:54.93 ID:es/DDJnU0
( ゜ω゜)「うぎゃおおおおおお!」

五大陸に響き渡るような叫び声をあげた。
それほどびっくりしたということなのだが、それは叫ばれた相手も同様である。

/ ,' 3 「うお、な、なんだなんだ」

ややしわがれた声が聞こえた。

( ^ω^)「……な、なんだ。人かお」

/ ,' 3 「まったく、叫んでこの心臓を止めようとしてもそうはいかんぞ」

( ^ω^)「や、決してそんなつもりじゃ……」

途中でブーンは気づいた。
目の前に立つやや背の低い男。
受付の女性を困らせていたあの老人であるのだ。

/ ,' 3 「ん……おお、きみは確かさっき……」

( ^ω^)「こ、こんばんはですお。
      ここは図書館であってますかお?」

/ ,' 3 「ああ、そうだとも」

そう言って彼は道をあけた。



105: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 01:05:46.83 ID:es/DDJnU0
ブーンが図書館内に入ると、老人も後ろからついてきた。
嫌というわけでもないが、さすがに気になる。

( ^ω^)「あの、何か用ですかお?」

/ ,' 3 「ん。ああ、いや、そういうわけではないよ。
     ただ、図書館を利用する人間が私以外にもいるなんて珍しいと思ってな」

( ^ω^)「そうなんですかお?」

/ ,' 3 「ここしばらくは、私以外誰も使っていないはずだな」

そういうものなのだろうか。
少なくとも公共施設として利用されているわけではないらしい。

館内は未だ光に満たされている。
歩くと足音が響いた。
しかし、それほど広いわけではない。学校の図書館ぐらいだろうか。

/ ,' 3 「きみはどこから来た?」

( ^ω^)「え……」

/ ,' 3 「いや、もしかしたらきみが例のあれなのかと思ってな」



108: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 01:07:10.27 ID:es/DDJnU0
( ^ω^)「多分、その『例のあれ』ってやつですお」

ブーンはややうんざりしながら答えた。
自分達の存在は「あれ」という代名詞で知られるほどなのだ。
姿無き有名人といったところか。

/ ,' 3 「そうかそうか……そうなのか」

納得したような口調は、すぐに落ち込んだ。

/ ,' 3 「ああ。私は荒巻という。
    どうかよろしく」

手を差し出されたので、何の気もなしに握った。
口調が若いのと裏腹に、その手は予想以上に乾ききっていた。

/ ,' 3 「しかし、きみたちがやってきたということは、そろそろ終わりということかな」

( ^ω^)「な、何がですかお?」

/ ,' 3 「この世界だよ」



111: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 01:09:22.80 ID:es/DDJnU0
( ^ω^)「……」

いまいち理解に乏しい。
ブーン達がこの世界に来たこと。
それはイコール世界が終わってしまうということなのだ。
荒巻はそう言っている。しかし、何故。

/ ,' 3 「まぁ実際、終わり始めているんだがね。
    少なくとも、私の中では」

荒巻はそばにあったソファに腰を下ろし、つられてブーンも座り込む。

/ ,' 3 「非保護層になったおかげで、もう生きていく術もない。
    明日からどう生きていこうか」

力無く笑う荒巻。
どこか哀愁を漂わせ、周囲にあるもの全てを嘲っているようにも見えた。

( ^ω^)「ひほごそう?」

/ ,' 3 「……そうか。きみは知らないんだな」

羨むような目でブーンを見た荒巻は、ゆっくりと語り始めた。



114: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 01:11:27.78 ID:es/DDJnU0
それは少し前のことだったらしい。
いつもは夜のサイレンしか響かせないスピーカーから、
聞き慣れない電子音声が流れ出したのだ。

「じゅうだいな、はっぴょうが、あります」

そうして電子音声は、緩慢な口調で制度の改訂を告げた。
それまで画一だった住民の身分が三つにわけられる。
保護層、半保護層、非保護層だ。

保護層はこれまでどおりの生活を続けることができる。
半保護層は第2ホールの使用が禁止される。
まぁ、こちらも生活を維持することは不可能ではない。

問題は非保護層。
こちらはどのホールも使えない。
というよりは、カード自体が失効するのだ。

/ ,' 3 「つまり、死ねということだな」

物憂げに荒巻は言った。



117: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 01:13:29.77 ID:es/DDJnU0
(;^ω^)「そ、そんなこと……」

/ ,' 3 「三つの層は番号ごとににわけられている。
    しかし保護層に存在する住民はどんどん縮小されていくんだ。
    私の番号は一万二千五百。昨日まで半保護層だったのだが、
    今日朝になってついに非保護層に落とされた。
    今、保護層は二千番ぐらいまでになっているのかな」

ブーンの番号は一。
つまり、最も優遇されるべき存在ということなのだろうか。
そしてこの老人は捨てられ、死んでいく。

( ^ω^)「そんなのおかしいですお!」

/ ,' 3 「もっとおかしいことがあるさ」

ブーンの同情を遮るように荒巻は笑った。

/ ,' 3 「こんな状況なのに、誰も革命を起こそうとしないことだ」

( ^ω^)「……」

/ ,' 3 「実際、受付に文句を言いに行ったのも私だけのようだ。
    それだけ、生物としての意志も枯れているということだよ」



124: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 01:17:03.53 ID:es/DDJnU0
( ^ω^)「生物としての、意志?」

/ ,' 3 「生物の第一目的は種の保存……本にそう書いてあった。
    つまり子孫を残すということだな。
    この世界の病院で最後に赤子が産まれたのはいつだと思う?」

( ^ω^)「……わかりませんお」

/ ,' 3 「さっき受付で聞いた。
    十二年前だそうだ。人間は生物として末期症状なんだよ」

十二年間、誰も産まれていない。
その間、人間は年を取っていく。
やがて子供を産むべき適齢期を過ぎ、老人ばかりの世界になる。
そうすれば、確実に終わる。何もかもが終わる。

/ ,' 3 「そのことを誰も不思議に思わない……
    私のように、捻くれてこの図書館に訪れようとでもしなければな」



126: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 01:18:42.04 ID:es/DDJnU0
( ^ω^)「この図書館にはどんな本があるんですかお?」

/ ,' 3 「色々な本がある。楽しいよ。
    過去の人々がどんなことを考え、行動したのかがよくわかる。
    私も一つ書いてみようか、などとも考えたよ。しかし書くための紙も思想も無い」

( ^ω^)「……?」

一つ疑問が生まれた。
ここの本は誰が書いたのだろうか、ということだ。
ブーンは立ち上がり、一冊手に取った。
見たこともない本だ。どうやら哲学書か何からしい。

パラパラとめくって、それが日本語であることを知る。
ページは全体的に黄ばんでおり、随分古いもののようだ。
特に読む気にもならず、ついに最後までめくり終えてしまった。
そして、何の気もなしに最後のページを見たとき、彼は凍りついた。

そこに「2003年 4月30日 第1刷発行」
と記されていたからだ。



129: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 01:20:16.64 ID:es/DDJnU0
西暦2003年。
ブーンたちにとって、およそ三年前。
その時代の本がここにある。
色あせた書物として残っている。

/ ,' 3 「君たちは……」

やがて直前までとは打って変わった、朗らかな声で荒巻が言った。

/ ,' 3 「種だと記憶している。
    この世界に撒かれる種だと」

ブーンは答えずに、数字列を何度も見直した。
いきなり数字が変わるわけも無く、ただそれは事実として目の前にあり続けた。
つまりそれは何を意味するのか。
わかりすぎるほどにわかることだ。



131: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 01:21:57.99 ID:es/DDJnU0
その時、けたたましい音が響いた。
思わず耳をふさぐブーン。
だが荒巻はいつものこととばかりに首を振って立ち上がった。

/ ,' 3 「もう夜だ。きみも帰ったほうがいいんじゃないか?」

(  ω )「……」

言われてブーンは本を棚に戻す。
そして荒巻と一緒に外へ出た。

暗すぎる。
明かりはほとんどないのではないかと思われるほどだ。
だが、夜目が少し利くから、ある程度の光は保たれているのだろう。

/ ,' 3 「……さて、どこに行こうかな」

荒巻は老体を思い切りよく伸ばした。
それからすぐに身体を折って腰をおさえ、ブーンを見てやや恥ずかしげに笑った。



133: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 01:23:02.31 ID:es/DDJnU0
彼にはもう行き場所が無い。
カードが失効になったということはつまり、住居に入ることさえ許されないのである。

( ^ω^)「あ、あの」

/ ,' 3 「どうした}

去っていこうとした荒巻をブーンが呼び止める。
振り向いた彼は、少しも辛くなさそうな表情をしていた。

( ^ω^)「革命を……起こすんですかお?」

/ ,' 3 「はは、無理だよ。
    一人で革命なんて、それはただの我侭に過ぎない。
    そういうのもありなのだろうけれど……なんなんだろうね、違うんだよ」

( ^ω^)「じゃあ、これからどうするんですかお?」

/ ,' 3 「誰かが死ねと言ったんだ。だったら死ぬ。
    それがこの世界なんだよ」

もう私の居場所はどこにもないんだよ。

そういい残して、荒巻は今度こそ宵闇の中へ溶けていった。
その姿が小さくならないうちに、彼はまるでその身体が影になったかのように存在を失った。

彼は二度と戻ってこないだろう。
なぜか、そんな確信をすることができた。

―――――――――――――――――――――――――――――



136: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 01:24:05.20 ID:es/DDJnU0
从 ゚∀从「……」

ブーンが出て行ってから。
ハインは床に転がり、すでに眠りこけているらしいしぃを眺めていた。
彼女が寝返りを打って、いかにも平和そうな表情がこちら側を向く。

从 ゚∀从「……いい子だなあ」

ベッドから降りて、その頭を撫でてやる。
むにゃむにゃと、何やら口が動いていた。
何かの言葉なのだろうか。寝言なので聞き取れないが。

この子がつい先ほどまでペットだった。
首輪と鎖で自由を奪われていたのだ。
だが、それを彼女は当然として受け入れてきた。
むしろ幸福であるとすら考えていたかもしれない。
モララーが、ペットの寿命は一年ほどだといっていた。
つまり、この少女は生まれたときから死ぬまでこの姿である、
何かのクローンだと考えるのが適切だろう。

ペットとして生きていく彼女に生の喜びはあるだろうか。
少なくとも他の住民よりはある気がする。
最後、ダストホールで削られるとしても、ブレの無い存在意義があるのだから。



138: ◆xh7i0CWaMo :2007/08/27(月) 01:25:08.33 ID:es/DDJnU0
从 ゚∀从「めんどくせええええええええええええ!!」

不意にハインは叫んだ。考えが煮詰まって爆発したのだ。
しぃが身体を震わせて起き上がった。不安と怯えと警戒の色を混ぜたような目がハインを射抜く。

从 ゚∀从「お、おう。ごめんごめん。起こしちまったな」

野生だなあ、と思いつつもう一度頭を撫でてやる。
それだけで、彼女は警戒心を解いて眠そうにあくびをした。

从 ゚∀从「似たもの同士、仲良くしようぜ」

そこで、ハインは一計を思いついた。

从 ゚∀从「なあ、しぃよ」

(*゚ー゚)「?」

从 ゚∀从「教えてやりたいことがあるんだ」

名前を呼ばれて不思議そうな顔をするしぃに、
ハインは策士の笑みを浮かべた。

・・・

・・



第三話「老いた影」終わり



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