( ^ω^)ブーンたちは漂流したようです

2: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 01:09:47.46 ID:Pf7NqNkA0
第五話「ゼロの表現」

从 ゚∀从「なんだよ、こりゃ……」

第一ホールの機械から吐き出された「食料」を一目見たハインが、
明らかな失望の声をあげた。
隣に立つブーンも同様の心持ちだ。
ただ周囲の視線に晒されているしぃだけが不思議そうな表情をつくった。

从 ゚∀从「つーか、これだけの量で一日凌ぐのか?」

(;^ω^)「さ、さすがにそれは無いと思うお」

从 ゚∀从「でもここ、朝しか機能してないんだろ?」

後ろから苛立つような靴音が響く。
日常、機械的にここでの受領作業は流れていくのだろう。
停滞している自分たちは確かに邪魔な存在だ。

( ^ω^)「と、とりあえず外に行こうお」

ブーンは自分のカードを慌ててリーダーに通し、ハインを急かして外にでた。

彼らが両腕に抱えるモノ。
かつて居た世界で歯磨き粉などを入れる容器として親しんでいた、チューブであった。



4: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 01:11:13.45 ID:Pf7NqNkA0
ホールの外にでたハインが、早速キャップを取って、
普段見るそれの二倍以上の大きさがあるチューブをゆっくり押さえる。
にゅるり、と透明なゼリー状のものが顔を出した。

从 ゚∀从「……これを、食うのか?」

( ^ω^)「そうみたいだお」

見れば、すでに口に咥えている人間も見受けられる。
確かにこんなもの、調理する必要もないわけだから
受け取ってすぐに食べてしまうことも可能だ。
部屋に然るべき設備が無い理由が理解できた。

从 ゚∀从「フン……」

周囲の状況を一望してから、チューブの口に鼻を近づけて匂いを確かめるハイン。
「何も臭わねえ」と呟き、顔をしかめてからそのゼリーを舌先ですくい取った。
意味もなく二三度咀嚼。口の中で一通り転がしてから、ただ言った。

从 ゚∀从「無味無臭とはこのこったな」

言われてブーンも、慎重にそのゼリーを口に含んでみる。
確かに何の味もしない。まるで水のゼリーだ。
それどころか、口内ですぐに溶けてしまうので、
そもそも自分が今本当に食べたのかどうかさえ怪しい。
薬品という感覚もないが、少なくともこれを消費することを食事とするのはあまりにも切ない。



7: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 01:14:52.87 ID:Pf7NqNkA0
从 ゚∀从「俺は、食事は食うんじゃなくて味わうもんだと思ってたぜ。
      それで、これからどうするんだ?」

( ^ω^)「第二ホールに行かないといけないお。
      しぃの食べ物はそっちにあるみたいだお」

从 ゚∀从「統一しとけってんだよ……」

なまじ食事に期待していたゆえに、
ハインのテンションはどん底に落ち込んでいる。
それでも、よほど腹をすかしているのか、
ゼリーは次々と彼女の中へと押し込まれていく。

从 ゚∀从「うぷ……これ結構、腹に溜まるな」

( ^ω^)「そうなのかお?」

从 ゚∀从「腹持ちはいいみたいだ。
      まぁ……だからどうしたって話だがな」

このチューブで一日を乗り切るのだ。
速やかに消化されても困る。



9: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 01:17:50.31 ID:Pf7NqNkA0
从 ゚∀从「ずいぶん考え込んでるな」

( ^ω^)「お……」

いつの間にか歩調が緩んでいたようだ。
先を行っていたハインが振り返り、声をかけてくる。
ブーンは小走りでハインの隣に並び、再び第二ホールへと進み始める。

从 ゚∀从「とりあえず、第二ホールに行った後は図書館に行こうぜ」

( ^ω^)「お?」

从 ゚∀从「俺たちの時代の名残は、とりあえずそこにしか無さそうだ。
      まずは徹底的に調べ上げて、より多くの証拠を見つけ出すのが先決だ。
      次に役所にもう一度行った方がいいな。あのふざけた野郎をもう一度締め上げねえと。
      そういえば、モララーが下に何かがあるって言ってたな。そっちも調査し……どうした?」

(;^ω^)「あ、いや、なんでもないお。続けてくれお」

考えがまとまっていたとしても、これだけすらすらと喋ることができるだろうか。
平然とした表情で言葉を並べていくハインに、ブーンは圧倒されていた。



10: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 01:20:33.99 ID:Pf7NqNkA0
从 ゚∀从「……まぁとにかく、さっさとこっから出ようぜ。
      マジでうんざりだ」

(;^ω^)「お」

从 ゚∀从「ん?」

( ^ω^)「……」

从 ゚∀从「……」

( ^ω^)「……」

从 ゚∀从「お前が今、何を考えてるか当ててやるよ」

( ^ω^)「いや、遠慮しとくお」

从 ゚∀从「ハインってもしかして見かけによらず頭いいのかお?」

(;^ω^)「……」

从 ゚∀从「否定しろよ!」



11: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 01:23:29.45 ID:Pf7NqNkA0
図星なのだから仕方がない。
バッシバシとブーンの背中を叩き、しかしどこか嬉しそうなハイン。

( ^ω^)「でも、ほんとにビックリしたお。
      そんなにテキパキ考えるなんて、僕にはできないお」

从 ゚∀从「お前な……これでも成績はいい方だと思うぜ?」

( ^ω^)「そうなのかお?」

从 ゚∀从「そうだお?」

一呼吸置いて爆ぜたハインの笑い声が街中に響き渡った。

しかしややひっかかる表現だ。「思う」とは。
そのとき、ブーンは初めてハインの頬についた痣を気にかけた。


―――――――――――――――――――――――――――――

その頃、ペニサスが何をしていたのか。
やはり部屋の中にはいなかったのである。
しかし健全に、第一ホールへと赴いていたわけでもなかった。

時間を少し戻さなければならない。



13: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 01:27:55.26 ID:Pf7NqNkA0
出会いは数ヶ月前。
梅雨の時期に入り、じめじめとした日々の中のことであった。
帰り道、騒がしい街路を歩いていたペニサスに、一人の男が声をかけた。

彼女はまず、冷たい眼で相手を見た。
若者たちの掃きだめであるこの近辺ではいつものことだった。
極力コミュニケーションを嫌う彼女が、
そのような軟派の声に応じることはこれまでありえなかったのである。

しかし、その相手の容貌、雰囲気もしくはそのほかの何かが、
ペニサスを偶発的、運命的に射止めたのである。
彼女にとって、それはある種の予定調和だったのだ。

幸福が始まった。
それまでのゴミのような生活から一転し、ペニサスに生きる指標ができた。
全てをその恋人に捧げた。何をされようとも、それらを受け入れ、幸福に置換したのだ。
それら一連の、周囲から「キチガイ」呼ばわりされた行動が幼少期の反動であったことは間違いなかった。

その幸福は現在進行形である。
少なくとも、彼女にとっては。

夜の帳が下りて眠りについた街を、ペニサスは独り徘徊していた。
闇の中、何も見えず、彼女自身もまた、恋した人の姿しか追っていなかった。

('、`*川「……ジョルジュくん……」

寂寥たる路上に一人分の靴音だけが響く。
ひやりとした空気が、彼女の頬をなぜた。



15: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 01:30:11.23 ID:Pf7NqNkA0
しばらくして、ふと彼女は足を止めた。
目の前に光がある。どす黒い闇の中で、こうこうと輝いていた。
それは一つの建造物だ。第一・第二ホール同様、一階建ての這い蹲ったつくりである。
近づいてみて、しかし外からではそれがどのような種類の施設であるのかはわからない。

('、`*川「……」

その施設は、周囲から考えれば明らかに異質である。
特に躊躇うことなく、ペニサスは中へ入った。

これまでのホールのように、一つの大広間があるわけではなかった。
扉の前に奥まで続く廊下。
その両脇は、扉の無い部屋へと繋がれている。

とりあえず前に進み、それぞれの部屋を確認する。
どれも、この世界の住処同様シンプルなつくりだった。
ベッドがあり、そのそばにクリーナーと同種らしき機械。

ただ一つ違うのは、ベッドに大きな機械が取り付けられている点だ。
ベッド自体も、どこか機械的、近未来的なデザインである。
何かの装置なのだろう。
しかしペニサスは特に調べることなく(調べてわかるはずもなく)別の部屋に進んだ。

しかしそこも同じ出来だった。
どうやら、同じような部屋がいくつもあるらしい。

一番の奥の部屋にたどりつく。
そこに、人がいた。



16: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 01:33:27.51 ID:Pf7NqNkA0
(´<_` )「……誰だ?」

ベッドの傍、壁に背中をつけていた男が、垂れた頭をもたげる。
ペニサスは答えず、ベッドを見た。
一人の男が眠っている。死んでいるような、安らかな顔だ。
二人はよく似ていた。おそらく、兄弟か何かなのだろう。

(´<_` )「眠っていない人がいるなんてね。
      ……もしかして、キミは件の人たちなのかな」

独り言のようにつぶやく。
そして、柔らかい笑みを浮かべた。

('、`*川「……ここは、どこ」

警戒心を解いたペニサスが尋ねる。
男はやや驚いたような表情を見せてから、くるりと視線を宙に彷徨わせた。

(´<_` )「ここは病院だよ。
      そうか、やっぱり……そうなのか」

病院。
施設の構造も、そうであるならば納得できる。



18: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 01:38:00.47 ID:Pf7NqNkA0
('、`*川「……ここに、ジョルジュくんはいない」

(´<_` )「え?」

無用の場所だ。
そう判断し、ペニサスは踵を返し、立ち去ろうとした。
その背中に「待ってくれ」と声がかかる。

(´<_` )「何をしているのか知らないけれど、今はどこに行っても無駄だよ。
      明かりがないからね」

('、`*川「……」

(´<_` )「キミは種なんだろう? どこかからやってきた、種。
      少し話をしないか? いや、してほしい」

闇を彷徨することに意味はない。
うすうす気付いていたペニサスは、やたらと紳士的な態度の男に、渋面を向けた。
そしてやや戻って、部屋の入り口に立つ。



19: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 01:41:18.62 ID:Pf7NqNkA0
しばらく、無音だった。
ベッドで眠る男の微かな寝息さえひどくうるさく聞こえた。

(´<_` )「……兄者……俺の、兄なんだ」

('、`*川「……」

(´<_` )「……この病院は、どんな苦しみも取り除いてくれる。
      カードを入れて、機械を作動するだけで、みんな救われるんだ。
      俺や、妹の時もそうだった。
      ……でも、兄者は違った」

苦しげに、或いは自嘲気味に男は語る。

男の兄の病は新種であるということか。
この機械はインプットされたあらゆる症状を治癒するのだろう。
逆に言えば、インプットされていないものには手が出せないのだ。

だが、こうして見ているだけでは特に病気であるとは思えない。

(´<_` )「ずっと眠ったままなんだ。
      時々起き上がるけど、それも長い時間じゃない。
      今も……二日間、眠りっぱなしさ。睡眠時間もだんだん伸びていってる。
      そのうち、二度と目を覚まさなくなるんじゃないかって時々不安になるんだよ」



21: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 01:45:08.81 ID:Pf7NqNkA0
ペニサスは改めて男の顔を見た。
目の下が青黒く窪んでいる。ずいぶん寝ていない様子だった。
見つめられていることに気付き、男はやや顔を背ける。

(´<_` )「……常の生活を失ってようやく気付いたよ。
      俺らはどうしてこんな生き方をしているんだろうかって」

その目が彼方を見つめている。
ペニサスは静かに聞いていた。
というよりは、そもそもあまり興味を持って聞いていなかった。

(´<_` )「朝起きて食事をとる。
      それから夜まで特に何もすることが無くて、眠りにつく。
      それだけしかない孤立した生活を、誰が望んでいたのだろう。」

これだけ技術の進んだ街なのに。

男は今になって人間として当然のことを考えていた。
今まで考える頭すら持っていなかったのだろう。
確かにあったはずの生きる意味を、この世界では皆忘れているのだ。

(´<_` )「キミたちは、どこから来たんだ?
      そこは、どんな場所なんだろう」



22: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 01:47:43.90 ID:Pf7NqNkA0
('、`*川「……幸せです。こんなところとは違って」

ペニサスが初めて、皮肉を多分に含んだ他人行儀な答えを吐いた。
それを聞いて、男はただ小さな笑い声をあげた。

(´<_` )「そうだろうね。
      俺らと違う人にとっては不自然きわまりない場所だろうな。
      でも、ここはやっぱり住み心地がいいんだ」

キミたちが羨ましい。
最後にそう言って、男は黙り込んでしまった。
沈黙。男の兄の寝息。男が壁を指でコツコツと叩く。

('、`*川「……もう終わりですか」

居心地悪いことこの上ない。
自分は恋人を探さなければならないのだ。
たとえ暗闇でも、よく考えれば自分なら彼の姿を見分けることぐらいわけない。

そんな心情を、彼女は一言に集約させた。

(´<_` )「ああ、もう少しだけ……」

男が悲痛そうに言った。



23: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 01:50:59.99 ID:Pf7NqNkA0
壁から体を離して、彼は笑みを浮かべたまま、ペニサスの方へにじり寄った。

(´<_` )「兄者はどれぐらい生きることができるかな?」

('、`*川「知りませんよ」

鬱陶しいとばかりに彼女は短く答える。

(´<_` )「そうか。キミなら知っていると思っていた。
      俺らよりもよほどいい世界に住んで居るみたいだから」

('、`*川「……それだけですか?」

(´<_` )「うん……」

何か考え込んでいるように見える。
焦っているのが伺えた。
なぜか、単純にペニサスを引き止めたいだけのようだ。

('、`*川「それでは、失礼します」

そう言い放って、彼女は出て行こうとした。

男は何も言わなかった。
しかし、慌てた足音が一つ、背後で響いた。
そのとき。

「あにじゃー」

入り口のほうから陽気な叫び声が聞こえた。



26: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 01:54:07.53 ID:Pf7NqNkA0
ばたばたとせわしなく、少女がこちらへと駆けてきた。

从・∀・ノ!リ人「会いに来たのじゃー!」

(´<_` )「妹者」

ペニサスが振り向くと、弟者は慌てて彼女から離れた。
呆気に取られた表情をしている。
彼女の来訪は予想外だったのだろう。

从・∀・ノ!リ人「あにじゃー!」

(´<_` )「静かにしろ!」

男がややきつく少女を制する。
少女は立ち止まると、不満げに男を見上げた。

从・∀・ノ!リ人「どうしてなのじゃ?
        ちっちゃい兄者はいっつもおっきい兄者に会わせてくれないのじゃ……」

どうやらこの少女は男の妹であるらしい。
しかし、この男に「ちっちゃい兄者」などと、
ファンシーな呼び名は似合わないと、ペニサスは言い合いの横で思っていた。



30: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 01:57:53.92 ID:Pf7NqNkA0
(´<_` )「兄者の体に障ると言っている」

从・∀・ノ!リ人「でもちっちゃい兄者はいっつも一緒にいるのじゃ。
         不平等なのじゃ!」

(´<_` )「お前は静かにできないだろう?」

从・∀・ノ!リ人「むー……」

否定はできないらしい。
少女はむっと黙り込んでから、やっとペニサスの存在に気付いた。

从・∀・ノ!リ人「この人は誰なのじゃ?」

(´<_` )「ちょっとな。それより、ほら。
      早く帰れ。まだ夜中じゃないか」

从・∀・ノ!リ人「今日は一回しか転ばなかったのじゃ!」

少女は自慢げに、膝についた新しい傷を見せつける。
これまでにも何度か夜中にやってこようとして、そのたびに何度も転んでいたのだろう。



31: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 02:02:08.14 ID:Pf7NqNkA0
男はしきりに少女へ帰るように急きたてる。
しかし少女はなかなか応じようとしない。
部屋の入り口で押し問答は続いている。

从・∀・#!リ人「せめて顔ぐらい見せてほしいのじゃ!」

(´<_` )「……わかったよ」

結局は男が妥協するという形になった。
しかし、兄と妹をそこまでして近づけたくない理由とは何か。
見たところ、別に犬猿の仲であるようにも見えない。
他に、何かしら意図するところがあるのだろうか。

嬉々として、少女は騒動の中眠り続けている兄者の傍へ駆け寄る。

从・∀・ノ!リ人「でっかいあにじゃー……」

呼びかけたところで、返答するはずもない。
一分ほど少女が兄の寝顔を見つめていたところで、男が彼女の肩を叩いた。

(´<_` )「さあ、もう帰れ」



32: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 02:04:27.62 ID:Pf7NqNkA0
名残惜しそうに、少女は何度もこちらを振り返りながら帰っていく。
そしてその一部始終を、ペニサスは見届けてしまっていた。
扉の外に少女が消えて、男は小さくため息を吐く。

(´<_` )「……まったく、聞きやしない」

('、`*川「どうして、そこまでするんですか? 妹なのに」

ペニサスが当然の疑問を口にした。

(´<_` )「聞いても笑うだけだろうさ」

('、`*川「教えてください」

男は定位置に戻って腕を組む。
それから、ぽつぽつと語り始めた。

(´<_` )「いつだったか……兄者が言ったんだよ。
      『死ぬ前に妹者とたくさん話がしたいってね』
      死ぬ……俺ですら考えていないのに、兄者はもうそんなことを考えてるんだよ。
      もう一度、妹者に会って、兄者が幸せを感じてしまったら……
      今度こそ、もう起きてこないんじゃないかって思ってね」
      それだけ……それだけなんだよ。本当にね」



36: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 02:07:49.76 ID:Pf7NqNkA0
('、`*川「好きなのに」

(´<_` )「ん?」

('、`*川「あの子はあんなにお兄さんのことが好きなのに。
     会わせないなんてひどくないですか」

(´<_` )「そうなんだろうな、でも……怖いんだよ。
      現状を崩してしまうことが。できることなら、兄者にはこのまま生きていて欲しいんだ」

確かに、笑ってしまうような理由だ。杞憂にもほどがある。無知故に、とも言える。
しかし男は真剣だった。
単純な話、彼はどうしてでも兄を失いたくないのだろう。
妹についても然りである。
このまま、現状がいつまでも続けばいいと思っているのだろう。

だが実際はそう上手くいっていない。
兄の、謎の病状は進行していくばかりであるし、
これ以上不安要素を増やしたくない気持ちもわからなくもない。
ペニサスがいくら説明したところで、納得もしないだろう。
あまりにも原初的な悩みだった。

そして、あまりにも少女が不憫な話だ。

そのとき、ベッドの上からうめき声が発せられた。

(´<_` )「兄者?」

男が慌ててベッドに近寄る。



37: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 02:11:22.40 ID:Pf7NqNkA0

( ´_ゝ`)「……ああ、弟者」

(´<_` )「どうだ? 調子は」

( ´_ゝ`)「少し……眠いな、眠い」

(´<_` )「そう、か。
      とりあえず、食べるものは食べておこう。
      体が持たないだろう?」

男は部屋の片隅に置いてあった大きなチューブを拾い上げると、
上体を起こした兄に手渡す。
あれが食料なのかと、ペニサスは初めて知った。
緩慢な動作でチューブから何かを飲んでいる兄を、男は心配げに見つめていた。

( ´_ゝ`)「……ふう、あまり入らない」

(´<_` )「無理する必要はないよ」

( ´_ゝ`)「すまん。……それに、もう眠気が襲ってきたよ
      ……ところで、妹者はいないか?」

(´<_` )「……ああ、今はいないよ。夜中だからな」

これは間違いなく帰れる雰囲気だ。
そう判断したペニサスがゆっくりと部屋の外へと歩んでいく。
案の定男が何かを言うこともなく、ペニサスはようやく病院からの脱出に成功した。



40: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 02:14:52.66 ID:Pf7NqNkA0
が、しかし。
病院の前に、先程の少女がいた。

从・∀・ノ!リ人「あ」

('、`*川「……」

無視して帰ろうとする。
しかし、それを少女は許さなかった。

从・∀・ノ!リ人「待ってなのじゃ!」

叫んでから、ハッと少女は口をおさえる。
病院の中にいる男に聞かれるのをおそれているのだろう。
ペニサスは立ち止まり、少女を見る。

('、`*川「なに?」

从・∀・ノ!リ人「い、今でっかいあにじゃは……」

声を潜めて少女は尋ねる。

('、`*川「起きてる」

言ってから、しまったと思った。
厄介なことになりかねない。
思った通り、少女は好機とばかりに眼に輝きを取り戻した。



42: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 02:17:27.08 ID:Pf7NqNkA0
从・∀・ノ!リ人「でっかい兄者とおしゃべりしたいのじゃ……
         協力して欲しいのじゃ!」

('、`*川「……」

懇願してくる少女。
だが冗談ではない。それどころではないのだ。
ただでさえ無駄に時間を食ったというのに。

しかし一つだけ、ペニサスにとっても無視できない事項があった。

('、`*川「あなたは、好きなの?」

从・∀・ノ!リ人「?」

('、`*川「お兄さんのことが、好きなの?」

从・∀・ノ!リ人「もちろんじゃ!
        でっかい兄者もちっちゃい兄者も大好きなのじゃ!
        みんな兄弟なのじゃー」

大好きな人に会いたいのは当然。
自分がもしも誰かに恋人と会うのを邪魔されたらどう思うだろう。
その誰かを殺してでも、会いたいと思うに違いない。



43: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 02:20:13.75 ID:Pf7NqNkA0
その顔に嘘の色はない。それはそうだろう。
この少女も兄が病気になって、生活の中の何かが崩れてようやく、気付いたのだ。
その当たり前で、人間的な感情に。

('、`*川「……少しだけ待って、その後にお兄さんのところに行って
     気付かれないように、静かにね」

いつしか彼女は決断していた。
この少女の手助けをすると。
そうすることが、少女にとってだけでなく、自分にとっても必要であると思えた。

('、`*川「そうしたら、お兄さんと話せる」

从・∀・ノ!リ人「わかったのじゃ!」

疑いも持たず、ただ希望にみちみちた瞳で彼女は二つ返事で了承した。

ペニサスは再び病院の中に入る。
要するに男をその兄から一瞬でも遠ざければいい。
簡単な話だ。

病室にはいると、すでに男の兄はベッドに横になっていた。
しかし、未だ会話しているから眠ってはいないのだろう。

('、`*川「あの」

(´<_` )「ん……ああ、キミは……」



45: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 02:23:51.96 ID:Pf7NqNkA0

男がベッドのそばからこちらへやってくる。
少し不満げな表情だ。
数少ない機会を邪魔されたことに嫌悪感を抱いたらしい。

('、`*川「少しだけ、話があります。できれば、あなたのお兄さんに聞こえないところで」

無表情を顔に貼り付けてそう言う。
男はしばし黙ったままだったが、やはり気になるのだろう、
「すまない」と兄に言い残してペニサスの後に続いて部屋を出た。

隣の部屋へ移動する。
男を誘導して、通路に背中を向けるようにして立たせる。

(´<_` )「……それで、話というのはなんだい?」

('、`*川「好きなんですよね」

(´<_` )「ん?」

('、`*川「好きなんです。
     その気持ちを抑えるのは間違ってます。
     だって、好きなんですから」

(´<_` )「それは、どういう……」

('、`*川「少なくとも、私はそうしなければ生きていけません」

ペニサスの言葉と共に、男の背後を少女が通過していく。



48: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 02:28:06.99 ID:Pf7NqNkA0
(´<_` )「キミの世界に、好きな人はいるのか?」

('、`*川「だから幸せなんです」

(´<_` )「でも、その好きな人……が死ぬとしたら、キミはどうするんだ?」

('、`*川「死にません」

(´<_` )「ん?」

('、`*川「好かれている限り死にません。
     私も、ジョルジュくんも、あなたのお兄さんも、誰も」

男が黙り込む。
ほとんど意味を解することができないのだろう。
そしてその沈黙は、

从・∀・ノ!リ人「あにじゃ!」

という隣の部屋からの叫声によって破られた。

(´<_` )「!」

男が慌てて身を翻し、兄の病室へと走っていく。



49: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 02:30:35.84 ID:Pf7NqNkA0
病室で、ベッドの上の兄者とそのそばにしゃがみこんだ妹が互いを抱き締めていた。

その後ろで、弟もへたりこむ。

( ´_ゝ`)「妹者……久しぶり、だな
      元気だったか?」

眠たそうな眼で、しかしほほえみながら兄は妹に問いかける。

从・∀・ノ!リ人「全然元気なのじゃ!
        でっかい兄者は?」

( ´_ゝ`)「ああ、俺も元気だよ……」

兄と妹の何気ない幸福な会話が続く。
それは、ペニサスが元々いた世界ではあまりにも普通の光景だ。
しかし、この世界ではあまりにも新鮮な光景なのだろう。

そもそもこうして、他人を好きになって互いに接し合うということがあまりないのだから。
そしてその不自然を根本に成り立っている世界なのだから。

(´<_` )「……キミが手引きしたのか」

やや虚ろに男が言う。
しかし、立ち上がったその態度は、現実を見据えているような気もした。



52: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 02:32:10.34 ID:Pf7NqNkA0
('、`*川「好きな人同士は、一緒に幸せなのが一番なんですよ
     そうすれば、永遠に生きることができます」

(´<_` )「……わかっていた、わかっていたつもりだ」

('、`*川「じゃあ、これでいいんじゃないですか。あとは親でも呼び寄せれば」

(´<_` )「親はもういないよ。少し前、殺された」

('、`*川「……」

(´<_` )「あの頃は特に何も感じなかったのに……
      なぜだろうね、少しずつ、他人のことが気になり始めている
      俺も、兄者も、妹者も」

('、`*川「だんだん普通の人間らしくなってて、いいことなんじゃないですか」

投げやりにそういって、ペニサスは今度こそ立ち去ろうとした。

(´<_` )「……だがこれは、この世界に馴染まないことなんだな」

そんな男の呟きには、聞こえないふりをした。



55: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/16(日) 02:34:28.76 ID:Pf7NqNkA0
外に出ると、やや明るさが増していた。

('、`*川「ジョルジュくん……今日私は、いいことをしたよ……」

早く会いたいと、そんな気持ちを殻の天井に向けたとき、
けたまましいサイレンが響き渡った。

・・・

・・



第五話「ゼロの表現」終わり



戻る第六話