( ^ω^)ブーンたちは漂流したようです

3: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 00:25:30.74 ID:lRInU2Ob0
第六話「落ちた空」

けほん、けほんと。
しぃが二度、立て続けに咳をした。

( ^ω^)「大丈夫かお?」

本を読む手を休めて、ブーンが彼女を気遣う。
しぃはしばらく不思議そうな顔をした後、軽く首を横に振った。

从 ゚∀从「忘れんなよ、ブーン。
      そいつの寿命。もうすぐ尽きるんだぜ」

ページから目を離すことなく、ハインがぼそりとつぶやいた。
ブーンは答えずに、しぃの背中を二三度撫でてやってから、
再び棚に置かれた無数の書籍を漁る作業に戻った。

(*゚ー゚)「〜〜〜〜……」

撫でられたしぃは嬉しそうに笑い、床に座り込んで二人の作業を眺めている。

しぃの食料を第二ホールで得てから、三人は予定通り図書館にたどり着いていた。
さほど広くない図書館とはいえ、目的のために一からで探索しようとすれば、
それは面倒であることに間違いない。

無論、そこに初老の男の姿は無かった。



6: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 00:28:30.22 ID:lRInU2Ob0
从 ゚∀从「ダメだわ、やっぱ書かれてねえ」

ハインが諦めを吐いて本を乱暴に棚へ戻す。
足下には読み散らかした山ほどの本が転がっていた。
ハインと同様の気持ちを持ったブーンも、ため息を吐いた。

彼らが注視したのは歴史に関係する書物である。
つまり、どこまでの歴史が記され、残されているかということだ。
そして彼らが得られたのは、もっとも新しいと思われるもので彼らの生きていた年。

从 ゚∀从「考えられる可能性は三つだ」

棚にもたれかかってハインが言う。

从 ゚∀从「今が、俺らのいた時代の直後である可能性。
      俺たちがいなくなったとほぼ同時に世界が終わった可能性。
      或いは……歴史に空白期間があって、その間の書物は焚書処分されちまった……
      ブーン、お前はどれを支持する?」

( ^ω^)「……」

薄気味悪い笑みを浮かべるハインが提示したのは、
どれもいまいち考えにくく、また、考えたくない推論だ。



8: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 00:31:14.65 ID:lRInU2Ob0
从 ゚∀从「まぁここが全くカオスに構成された世界だって可能性もあるにはある」

( ^ω^)「それはどういうことだお?」

从 ゚∀从「歴史も何もかも無視した超次元ってやつだ。
      SF的だろ? そうなると、俺たちは次元の漂流者だ」

( ^ω^)「……」

ちんぷんかんぷんである。
そんなブーンの心持ちを察したらしく、ハインは手を顔の前で左右させた。

从 ゚∀从「ああ、まぁやめておこうか。
      それよりも、俺たちがどうやって戻ればいいかを考えなくちゃならねえ。
      ここで得られる情報なんてこれが限界だろ」

ハインが勢いよく体を起こして、しぃを促し出口へと歩いていく。

(;^ω^)「ほ、本をこのままにしといちゃまずいと思うお」

从 ゚∀从「……へいへい」

面倒なのか焦燥に煽られているのか、
ハインは大仰に肩をすくめて、散らばった本を片付ける作業を始めた。



11: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 00:34:14.00 ID:lRInU2Ob0
ブーンがしゃがみ、本を拾っては棚に入れる行為を繰り返していると、
ハインが「ん?」と疑問の声を出した。

( ^ω^)「どうかしたかお?」

从 ゚∀从「見ろよ、これ」

ハインに近寄り、彼女が指さす、棚と棚との僅かな隙間を覗いてみる。

その向こう側に、白い壁がない。
そこに銀色の、異質なものが見えた。。
二人して顔を見合わせる。

从 ゚∀从「なんだと思う、これ」

( ^ω^)「わからないお……」

棚の背面に隠されている何か。
気にならないわけがない。

从 ゚∀从「よし、ちょいと本棚どかせようか」

案の定、ハインがそう言った。



13: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 00:36:55.95 ID:lRInU2Ob0
入れ始めていた本を床に運び出してから、二人で棚を動かす。
重労働だ。どちらかというと、ブーンにとっての方が苦痛に値する。
ずず、と重たい音を響かせながら棚をどかせていく。

そうして、そこに出現したのは銀色の扉だった。
一度に人間が三人入場できそうな、それなりに広い、スライド式の扉。
取っ手がずいぶん低い位置についている。
子供用なのだろうか。

从 ゚∀从「これは期待してもいいんじゃねえか?」

面白そうにハインが言って扉に近づく。
さすがに、すぐに開けようとはしない。
まず、二三度ノックしてみる。金属質の音が跳ね返ってきた。
それ以外の反応はない。

ハインが音を立てて唾を飲み込んだ。

扉の向こうに何が広がっているか、頭の中で期待と恐怖が交錯する。
最初、モララーと出会う直前に扉の前へ立った時とは何もかもにおいて重さが違うのだ。

若干体制を崩し、ハインは取っ手に手をかける。
異様な雰囲気に感づいたのか、しぃが不安げにハインの脚に抱きついた。

ぐい、と力を込めて開こうとする。



15: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 00:39:36.16 ID:lRInU2Ob0
結果。
それはビクとも動かなかった。
一呼吸置いて、安堵の空気が渦巻いた。

从 ゚∀从「なんだよ、開かないのか」

ハインが負け惜しみのように言う。

とはいえ、予想できた事態だ。
そもそも隠すほどの扉がそう簡単に開くはずがない。

( ^ω^)「でもこれ、何の扉なのかお?」

从 ゚∀从「まず間違いなく、この世界の裏側が見れるんだろうな。
      ホールにある機械とか、いろいろな機能を働かせている何かが」

それは人間か、非人間か。
道徳か、非道徳か。

从 ゚∀从「……しかし気になるな。何かあるのは間違いないんだ。
      でも……どうせしょぼんとかも知らないだろうしな」

( ^ω^)「……だお」

とりあえず、今のところ自分たちにできることは何もない。
本棚を戻し、その扉を再び隠匿するぐらいだが、そこまでの気力が湧いてこなかった。

从 ゚∀从「……行くか」

今度は、ブーンもハインに賛同した。



16: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 00:42:26.04 ID:lRInU2Ob0
外に出ると、再び人の行き交いが無くなっていた。
その風景を眺望すると、ここはまるでRPGに出てくる朽ちた街のようだ。
さしずめ自分たちは、謎解きクエストをこなす旅人一行といったところか。

明るさは朝より更に増し、昼が近づいているのを沈黙のままに教えてくる。

从 ゚∀从「さて、どうする?」

( ^ω^)「役所に行くかお?」

从 ゚∀从「うーん……今のところそれぐらいしか当てがねえんだよな」

それだけの会話で行き先は決定し、三人の足は役所の方を向く。

从 ゚∀从「そういや俺ら、ドクオとかペニサスほったらかしにしてるけどいいのか?」

( ^ω^)「お……」

忘れていた、とはさすがに言いにくい。
しかしながら、たかだか一日弱一緒にいただけの人間だ。
その間に友情が結ばれたわけでもない。
ましてやペニサスには突き放された身分である。

二人を本気で心配しようとは到底思えなかった。



20: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 00:46:12.77 ID:lRInU2Ob0
だから建前で発言する。

( ^ω^)「ペニサスは本当にどこいっちゃったんだお……」

从 ゚∀从「……ん、まぁ気にしても仕方ないだろ。
      別段困るわけでもなし」

思いがけず本音が返ってきてブーンは沈黙する。
その反応を見たハインが苦笑いをして、傍を歩くしぃの肩を抱いた。

从 ゚∀从「他人なんてものは切り捨てられるときに切り捨てた方が楽だぜ。
      たとえ自分と同じような境遇に陥ってる奴が隣にいても、
      いざって時に共感できなきゃ話にならねえ」

彼女は何を見てその台詞を吐いているのか。
過去だとすれば、それはどのように飾られているのだろう。

从 ゚∀从「そうでもしなきゃ、俺の場合は家出もできなかったからな」

返す言葉が見つからなかった。
だから、別の方向に話題を向けた。

( ^ω^)「役所の方向、こっちで合ってるのかお?」

从 ゚∀从「あれ、違うか?」

どうやら、やや上の空だったらしい。
ブーンも同じであったが。



22: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 00:49:36.52 ID:lRInU2Ob0
少しだけルートから外れていた。
通ったことのない道。
しかし既視感がある。当然だ。何も代わり映えしないのだから。

そそり立つ住居群の間を抜けていく。
交差点にさしかかったとき、ハインがふと立ち止まった。

从 ゚∀从「なぁ、ブーン」

( ^ω^)「お?」

从 ゚∀从「ここの奴らは、どうやって死ぬんだろうな?」

( ^ω^)「どうやって……?」

彼女の言葉を反復してからブーンは考えてみる。
恐ろしいほど平和な世界だ。
皆、最後はベッドの上で息を引き取るのだろう。

そしてその姿は誰にも発見されない。
カードと共に室内へ永久に封印されるのだ。

だが、

( ^ω^)「それがどうかしたのかお?」

問いに、ハインは黙って通りの向こうを指さした。
死体の山が築かれていた。
そしてそれは、緩やかなスピードでこちらへと近づいてきたのだ。



23: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 00:53:24.97 ID:lRInU2Ob0
( ゜ω゜)「!」

( ・∀・)「おやおや、これは奇遇ですね」

よく見ると、死体の山の前に座る男が一人。
モララーだった。相変わらず、無表情か笑顔かわからない飄々とした風情である。
彼は何か、乗り物を運転している。

軽トラックを更に簡素化したものと言えばいいのだろうか。
窓や天井はなく、一人分の席の後ろに直接荷台が取り付けられている。
それだけで動いているのだから、よほど前衛的なデザインだと言えるだろう。

そしてその荷台に今、山ほどの人間が積み上げられているのだった。
どれも華奢な、棒きれのような肉体のものばかりである。
最早気味悪ささえ感じない。マネキンのようなものだ。

从 ゚∀从「なんだよ、これ」

( ・∀・)「あなた方のおかげで仕事が変わったんですよ。
      今は死体集めの仕事をさせていただいてます」

从 ゚∀从「なんだよ、それ」

( ・∀・)「たまに外で倒れる迷惑な人がいましてね。
      そう言う人たちを回収してダストホールへ運ぶのです」

しぃとは別種のペットを連れた一人の男が彼らの傍を素通りしていく。



24: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 00:56:10.79 ID:lRInU2Ob0
从 ゚∀从「……そりゃあ、大変だな」

保護層が狭まり、非保護層が増えるばかりなのだ。
室内で死ぬものが多いとしても、そのあたりに転がる屍の数も半端では済まないはずである。

( ・∀・)「今は楽な仕事ですよ。少し前まではもっと忙しかったですから」

(;^ω^)「どうしてだお?」

( ・∀・)「一時期殺人が流行しましてね。
      そのときはもう踏み場もないほどの死体でいちいち回収するのが……」

平然と話されているが、聞く側にとっては気味悪い以外のなにものでもない。
モララーが更に続きを離そうとするので、慌ててハインが話題を変えた。

从 ゚∀从「ところでよ、ちょっと聞きたいことがあるんだが」

( ・∀・)「どうかしましたか?」

図書館にあった扉のことをモララーに話す。
しかし、返答はやはり、味気ないものだった。

( ・∀・)「へえ。そんなこと、初めて知りましたよ」



26: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 00:59:59.16 ID:lRInU2Ob0
やはりこの程度の認識しかないのだろう、と。
ブーンたちはその瞬間に役所へ赴くことを中止した。
どうせたいした情報を得ることはできなさそうだ。
ならば次はどこへ行くべきか。
ともかく行動すべきなのだ。停滞していることに益がない。

( ・∀・)「ああ、そうでした」

去り際、何かを思い出したらしいモララーがブーンたちに声をかけた。

( ・∀・)「一つ、教えておきたいことがありました。
      あなた方が知りたがりそうなことです」

从 ゚∀从「……なんだよ、言ってみな」

( ・∀・)「いたんですよ、一人だけ。おかしな人が。
      いつも昼頃になったら道ばたで演説を始めていた人です。
      もっとも、最近はすっかり見なくなりましたが。
      その人の言葉が、あなたたちと似通っているような気がしましてね」

从 ゚∀从「へぇ……」

どうするよ、とでも言いたげにハインがブーンに振り返る。

情報が少ない。
ならば、もらえるものはもらっておいて正解だ。
取捨選択などしている場合ではない。

从 ゚∀从「詳しく聞かせろ」



27: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 01:02:31.63 ID:lRInU2Ob0
( ・∀・)「少し地図を貸してくれませんか?」

そう言ってハインから地図をもらい、眺めるモララー。
やがてその中の一点をハインに示した。

( ・∀・)「このあたりによくいましたね。
      自宅へ帰るまでの道のりですから、よく彼の姿を見かけたものです」

その人間の演説など誰もきいていなかっただろうということは容易に想像できる。
とはいえ、確かに気になる内容だ。
もしかしたらその人は、失われた何かを持っているのかもしれない。

( ・∀・)「それではこのあたりで。
      私はこれからダストホールへ行かねばなりません」

モララーは一礼し、乗り物のハンドルらしきものを操作して彼方へと無音で去っていく。
それを見送ってからハインが、

从 ゚∀从「行くか」

とあまり気乗りしない様子で言った。
反対する理由はない。



28: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 01:05:36.73 ID:lRInU2Ob0
モララーが示したのはかなり遠い場所。
歩いてたっぷり一時間はかかるような地点であった。
故に、その場所へ到着した頃には、ブーンもハインも完全に疲れ切っていた。

从 ゚∀从「はぁ……なんかあれだ。急に気力が失せた気がするぜ」

(;^ω^)「やっぱり……いないかお?」

辺りを見回しても、やはり無人。
その男はもうこの世界に存在していないのだろうか。

从 ゚∀从「……まぁいないとしてもだ。
      気になることが一つある」

( ^ω^)「お?」

从 ゚∀从「見ろよ」

ハインが彼方を指さした。
そこに一階建ての建造物。つまり、何らかの施設である。

从 ゚∀从「でもあれ、地図に載ってないんだよな」



31: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 01:08:47.80 ID:lRInU2Ob0
地図にない建物。それは何を意味するか。
いくつか考えられるが、可能性として最も高いのは必要ない、というものだろう。
この世界の人間が普通に生活する以上、通うことのない場所。

逆に考えれば、それはむしろブーンたちの好奇心を揺さぶる。

从 ゚∀从「行ってみるか。収穫無しってわけでもいかないし」

何の代わり映えもしない施設。
しかし、扉の内側に広がっているのは明らかに異質な空間であった。

暗闇。
この世界の昼間において、暗闇なのである。
ジジジ、と何かを焼き付けるような音が耳を擽る。

从 ゚∀从「なんだこれ……おーい、しぃ、いるか?」

(*゚ー゚)「〜〜」

しぃを気遣いながら先へ進む。
しかし、そもそもどんな構成になっているかもわからないので無闇に探索できない。

( ^ω^)「なんか不気味だお……」

从 ゚∀从「男が先に弱音吐くな馬鹿。
      しかし、これはつまり捨てられた場所ってことか?」



33: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 01:11:41.65 ID:lRInU2Ob0
たとえば、昔は何かのホールとして機能していたのかもしれない。
それが、保護層の縮小によってホールの稼働数も減らされた。
ここがその廃墟である可能性は十分有り得る。

从 ゚∀从「よし、ブーン先に行け」

( ^ω^)「……ハインも弱音吐いてるお」

从 ゚∀从「うるせえな。俺の場合は弱音とかそういうレベルじゃねえんだよ」

数度のやりとり。それはすべて視界ゼロの場所で行われている。
そして、次の瞬間だった。

「だれ?」

幼げな声が聞こえた。
しかも至近距離からである。
ヒッとハインが叫びを漏らす。
ブーンはそれすらできないほど硬直した。

直後。

前面が、ぼんやりと明るく輝いた。

そして、彼方のスクリーンに何かの映像が映し出されたのである。



36: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 01:15:05.00 ID:lRInU2Ob0
从 ゚∀从「……映画館、かよ」

ようやく理解したハインが口を歪ませながら言う。
そして、何の予兆もなしにブーンの脇腹にグーパンチを放り込んだ。

( ゜ω゜)「いたい、痛いお!」

从 ゚∀从「まったく……ビックリさせやが……っ!」

目の前に子供が立っていた。
そちらは未だ解決せぬままである。

(-_-)「だれ?」

少年は同じ台詞を繰り返した。

从;゚∀从「あ、あぁ……えっと、俺はハインだ。うん。
      で、こっちがブーンとしぃ」

驚きのあまり、ごく普通に自己紹介するハイン。
少年はそれで納得したらしく、一度軽く頷いて奥の方へ戻っていった。

よく見れば、確かに映画館の構造である。
無数の席が並べられ、スクリーンには外国人がベッドで死に際を迎えていた。
「もっと光を」とその男は言った。



39: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 01:18:13.78 ID:lRInU2Ob0
モララーたちは教えてくれなかったが、ここも娯楽施設の一つのようだ。
どうせ後に問い詰めても「教えてくれと言われませんでしたから」などと、
いけしゃあしゃあと返されるのがオチである。

从 ゚∀从「しかし、充実してるな。
      こりゃ探せばゲーセンとかカラオケとかあるんじゃないか?」

( ^ω^)「……かもしれないお」

ブーンは少年のことが気になってたまらなかった。
風貌がどう見ても小学生か、中学生である。
あの少年こそ、荒巻が言っていた彼ではないのだろうか。

( ^ω^)「ちょっといいかお?」

(-_-)「え?」

画面を食い入るように見つめていた少年が顔を固定したまま声だけ返す。

( ^ω^)「僕たちは『種』なんだお。
      いろいろ聞きたいことがあるんだお」

映画館にいるような、この世界に馴染まない少年ならば、
『種』という言葉に反応するはずだ。
少年はようやく視線を画面からこちらへ向けた。



40: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 01:21:29.48 ID:lRInU2Ob0
(-_-)「そうなんだ。
     じゃあ……話さないといけないことがいっぱいある」

少年は席から立ち上がり、近づいてブーンを見上げた。

(-_-)「伝えるように、頼まれているんだ」

( ^ω^)「誰にだお?」

(-_-)「僕を育ててくれた人」

画面の中でフランス人形がぎこちなく踊っている。
相当古い映画らしい。ノイズが多々混じっているし、色褪せた雰囲気を醸している。
或いはただ劣化しただけかもしれないが。

(-_-)「その人は僕に全てを託してしまったんだ」

从 ゚∀从「託す? 死んだのか」

(-_-)「僕に半保護層のカードを渡して……消えちゃった」

少年がNo.003089と記されたカードを取り出し、
名残惜しそうに手を当てた。

(-_-)「形見ってやつ、なのかな」



41: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 01:24:04.04 ID:lRInU2Ob0
( ^ω^)「半保護層でも映画は見れるのかお?」

(-_-)「これは勝手に流されてるだけだからね。特にカードを必要としないんだ」

从 ゚∀从「それで、お前は何を託されたんだ?」

(-_-)「真実を……真実を、託された。
     断片的だけど確実な、過去の真実」

从 ゚∀从「……えらくませてるな」

確かに子供らしい語り口ではない。
ずいぶんと大人びた口調である。
その様子を察して少年はやや寂しそうに言った。

(-_-)「生まれ落ちたと同時に必要最低限の知識が機械によって詰め込まれる。
     学校がないからね。
     だから、頭の出来は赤子も老人も大して変わらない。
     何に啓発されたか、どんな精神状態か、ぐらいの違いしか生まれないんだ」

从 ゚∀从「へぇ……」

感心とも嘲りとも取れないハインの声。
少年はそんな彼女をしばし見つめてから、もう一度話し始めた。

(-_-)「怪物がやってきたんだ……



42: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 01:27:10.55 ID:lRInU2Ob0
その怪物はどこからともなく現れた。
なぜ、どこから、どうやって現れたのかもしれない。
ただ異形で大きなその怪物は、次々と人間を殺していった。

殺された人間は同じ怪物へと変貌した。
彼らはそうして仲間を増やしていったのだ。

やがてその怪物は進化し、海をこえ、山を越えて世界全体を席巻した。
驚くことに、どのような兵器も彼らには通用しなかったのである。

人類は敗れた。
敗れて、数を大幅に減らした。
もう再起不能と思われたときに、一つの奇跡が起きた。

そのおかげで今、不条理なこの世界で人類は生きていくことができるのだ。

(-_-)「……と、その人は僕に教えてくれた」

从 ゚∀从「……怪物ねえ」

ハインがせせら笑う。
どこからともなく現れた怪物が、地球を滅ぼした。

从 ゚∀从「そんなストーリー、ちょいと頭をひねれば出てくるぜ?
      大体、前後関係が成り立ってない。
      それに、一番重要な部分がわからないじゃねえか。
      なんだよ、奇跡って」



44: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 01:31:03.56 ID:lRInU2Ob0
(-_-)「僕に言われても困る……
     とにかく、あの人はあなた達にそれだけを伝えるよう、僕に教えたんだ」

( ^ω^)「なんでその人はキミに託したんだお?」

(-_-)「それは……僕がこの世界で最も幼いからだって」

やはりそうか。
荒巻が言っていた「十二年前に生まれた最後の子供」
それが、この少年なのだ。

从 ゚∀从「おいブーンよ、信じるのか?」

( ^ω^)「信じたからってデメリットは何もないと思うお。
      他の可能性が見いだせないお」

从 ゚∀从「フン……
      しかしわかんねえな。なんでソイツは俺たちにそのことを教えようとしたんだ?
      別に知らなくてもいい情報じゃないか」

一つだけ、思い当たるところがブーンにはあった。
自分たちが過去に戻れる可能性だ。
その人は……もしかしたら。
自分たちが過去でその歴史を変えることを望んでいるのかもしれない。



47: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 01:33:50.62 ID:lRInU2Ob0
(-_-)「とにかく、僕が教えられるのはそれだけだよ」

そういって、少年は再び席について、画面を眺める。
さっきまで踊っていたフランス人形を、男がオーブンで焼いて食っていた。

( ^ω^)「映画が好きなのかお?」

(-_-)「これぐらいしかすることがないよ」

从 ゚∀从「なぁ、クソガキ」

(-_-)「何?」

从 ゚∀从「お前も、もっとデカくなったらお前にいろいろ教えた野郎みたいに、
      街頭演説するのか?」

(-_-)「しないよ、するわけない」

まるで自分に言い聞かせているようだ。
彼はやり場のない拳を何度か膝に打ち付けて、
それでも足りずに何かを睨み付けるように目を細めた。

(-_-)「あの人も最後に言ってた。
     『なんで俺が人類のこと考えなきゃいけないのか』ってさ。
     こうしてここにいる方が楽だし、楽しいよ」



49: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 01:37:05.67 ID:lRInU2Ob0
少年に礼を言ってから、三人は外に出た。

从 ゚∀从「とりあえず収穫……か?」

( ^ω^)「でも、知ったところでどうすることもできないお」

歩きながら二人は悩む。
有益であったことに違いはない。
ただ、それをどう使えばいいか、見当がつかないのである。

从 ゚∀从「つかもう、俺は疲れたよ。
      とりあえず帰ろうぜ。そうすぐに何かがあるわけでもねえだろ」

( ^ω^)「……そうするお」

彼らは家路についた。
混乱とまどろみばかりが脳みそを支配している。

しばらく歩いたとき、サイレンが響いた。

从 ゚∀从「うお、なんだ?」

立ち止まり、耳をすませる。
電子音声が聞こえてきた。



51: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 01:40:17.63 ID:lRInU2Ob0
『保護層・半保護層の改訂を報告します。

 まず保護層につきましては、これまでNo.002000までだったところを、
 No.1500までと改訂させていただきます。
 これに伴いまして、No.001501からNo.003000までの方々は半保護層となりますのでご注意ください。
 
 次に半保護層につきまして、これまでNo.005000までだったところを、
 No.003000までと改訂させていただきます。
 これに伴いまして、No,003001以降の方々は非保護層となりますのでご注意ください。

 繰り返し、保護層・半保護層の改訂を……』

男とも女ともとれぬ、不思議な声だった。
これは全ての住人に届いているのだろうか。

そして、映画館の彼には。

从 ゚∀从「やめとけよ」

低い声でハインが言った。

从 ゚∀从「アイツも言ってただろう?
      他人の心配なんてしてる場合じゃない。
      アイツを助けられるほど、俺たちの懐は広くないぜ」

(  ω )「……」



55: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 01:43:35.29 ID:lRInU2Ob0
その通りだ。確かにその通りだ。
自分たちは神でもボランティアでもない。
だから何も出来ないし、何もしない。

あの少年がスクリーンの前で死ぬのはそう遠くない未来だろう。

从 ゚∀从「しかし、おかしなもんだ。
      なんでこう、保護層がどんどん削られていくんだ?」

( ^ω^)「……わからないお」

そのとき、彼らの頭上から何かが落下し始めた。

从 ゚∀从「ん……?」

ひらひらと風に舞う木の葉のように落ちてきたそれをハインが器用に掌にのせる。
それは、灰色の紙より薄いプラスチックのようなものだった。

从 ゚∀从「……なんだ、これ」

それ一枚だけではなかった。
次から次へと欠片が舞い落ちてくる。
見上げた先に、灰色の天井があった。

从 ゚∀从「おい、まさか……劣化してるのか?」



59 名前: ◆xh7i0CWaMo [>>57 投下後に訂正します。] 投稿日: 2007/09/25(火) 01:46:10.99 ID:lRInU2Ob0
そうとしか考えられない。
この薄い欠片はおそらく色づけのための何かだろうからそれほど心配には及ばない。
しかし、これから先。

何が起こるともしれないのだ。
ブーンはモララーの言葉を思い出した。

この街には、崩れかけている場所がある、と。

从 ゚∀从「……もうわけわかんねえよ、なんだよこれ」

ハインが力なく怒鳴る。

(;^ω^)「とりあえず休むことにしようお。
      今考えてもきっとロクなことにならないお」

从 ゚∀从「……アァ、そうしよう」

満身創痍の二人を余所に、空から落ちてきた灰色の雪に、しぃは嬉々とした表情を見せていた。

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64: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 01:48:24.38 ID:lRInU2Ob0
从 ゚∀从「あーあー……」

かえって来るなり、ハインはベッドに体を投げ出した。
そのまま二度ほどごろごろ往復して、しぃを見る。

从 ゚∀从「……あぁ、もうアレだよ。めんどくせえよ
      帰りたいとは思うんだけどな、どうにも……」

短時間でいろいろなことがありすぎた。
このまま泥のように三ヶ月ほど眠り込んでいたい気分だ。
だがそうもいかない。

(*゚ー゚)「?」

疲労困憊のハインをしぃが不思議そうに見る。
そんな彼女に、ハインは思わず吹き出していた。

从 ゚∀从「この幸せ者はまったく……」

(*゚ー゚)「〜〜〜……」

从 ゚∀从「そうだ、一緒に風呂入ろうか」



66: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 01:50:29.97 ID:lRInU2Ob0
服を脱ぎ捨て、クリーナーに放り込むと彼女のやたらスタイルのよい身体が露わになった。
華奢なくせに、出るべきところは出ているから不思議なものである。
しぃの服も脱がせて、風呂へ連れて行く。

从 ゚∀从「よっしゃ、お姉さんが洗ってやろう」

(*゚ー゚)「!」

シャワーから出てきた湯にしぃは少々驚いた様子だった。
ハインが爆笑すると、彼女は少し頬を膨らませた。

从 ゚∀从「よし、頭から頭から……」

昨日のうちに第二ホールから仕入れてきたシャンプーを取り出す。
それでわしゃわしゃとしぃの整った髪を洗ってやる。
戸惑ってばかりだったしぃも、やがては静かに、ハインにされるがままになっていた。

最後にシャワーで洗い流してやると、しぃは一度大きく身震いした。

从 ゚∀从「よっしゃ、次は俺の頭を洗ってくれ?」

(*゚ー゚)「??」

从 ゚∀从「今俺がやったようにしてみな。女は度胸だぜ?」



67: ◆xh7i0CWaMo :2007/09/25(火) 01:53:05.27 ID:lRInU2Ob0

(*゚ー゚)「……ん〜〜」

なにやら妙なうめき声をだして、しぃはシャンプーを手にのせる。
だがその手がふと止まり、彼女の指がハインの背中に伸びた。

从 ∀从「ヒャッ……お前どこさわってんだコラ!
      け、結構くすぐったいっつーの! おい!」

しぃがなぜ背中などに興味を示したか。

それは、ハインの背中にはっきりと『雌豚』という二文字が刻まれていたからである。

・・・

・・



第六話「落ちた空」終わり



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