( ^ω^)が空を行くようです

17:VIP村人w :2006/11/27(月) 08:04:19.92 ID:pZSgmORy0

第一話 「スロウライダー」


ブーンたちの飛行機械は優雅に故郷『ツダンニ』の町の上空を飛行する。
朝の風はほんのり冷たく、肌に心地よい。

前部座席に座ったブーンは鼻歌を歌いながら操縦桿を握っている。
一方、ご機嫌なブーンとは対照的に、後部座席では持参した家計簿を開いてため息をつくツンの姿。


ξ;゚听)ξ「はぁ〜〜、今月もピンチだわ…。
     ブーン!鼻歌なんて歌っている場合じゃないわよ!」

( ^ω^)「ピンチって言っても、なんとか生活していけるくらいのお金はあるんだお?」

ξ゚听)ξ「……あんた、あたしがさっき言ったこと覚えてないでしょ」

( ^ω^)「……なんだっけかお?」


後部座席のツンの方を向いて、ブーンはとぼけた顔で問いかける。
そんな幼馴染の表情を見て、ツンは家計簿を後部座席の床に叩きつけた。



18:VIP村人w :2006/11/27(月) 08:05:33.19 ID:pZSgmORy0


ξ#゚听)ξ「エンジンよ! エ ン ジ ン !
     だいぶヘタってきてんの!だから取り替えなきゃいけないの!」

( ^ω^)「お〜、そういえばパーツ屋さんに行かなきゃって言ってたおね」

ξ゚听)ξ「……もういいわ」


家計簿を拾い上げると、彼女はあたりの様子を見渡した。
その視線の先では、同業者の飛行機械たちが二人と同じ方向へ向かって飛んでいた。



19:VIP村人w :2006/11/27(月) 08:07:29.56 ID:pZSgmORy0

町の中心部から外れた郊外の小高い丘の上。
そこに立てられた二階建ての古びた木造の建物がブーン達の職場……と言えば一応職場だ。

その建物の前に設けられただだっ広い草原に飛行機械を止めて、
ブーンとツンは建物の入り口へと向かう。

建物の入り口には、「飛行機械郵便業協会」と書かれた看板が掲げられている。

その入り口から建物の中に入ると、
そこにはすでに多くの飛行機械乗り…つまりブーン達の同業者がいた。

ごった返す人ごみを掻き分け、二人は受付カウンターへと向かう。
やっとのことでカウンターにたどり着いた二人に、見知った受付の男が話しかける。


( ゚д゚ )「相変わらず遅いご出勤だな。スロウライダー」


スロウライダーとはブーンのあだ名である。

別にブーンの飛行機械の速度が遅いわけではなく、
いつも寝坊してくるために仕事に来るのが遅いという理由から付けられたあだ名だ。



20:VIP村人w :2006/11/27(月) 08:10:00.11 ID:pZSgmORy0


( ^ω^)ノ「おっおっお。おいすー」

ξ#゚听)ξ「馬鹿にされてんのにヘラヘラ笑ってんじゃないわよ!」


そう言って、ツンはブーンの頭に拳骨をお見舞いした。
ブーンは頭を抱えてその場にうずくまる。

そんな少年を尻目に、少女はニッコリと笑ってカウンターの男に話しかける。


ξ゚ー゚)ξ 「で、なんかいい仕事ない?」

(  ゚д゚ )「……」


( ゚д゚ )「ウェルチ」


ξ゚听)ξ「こっち見んな」

( ゚д゚ )「……割のいい仕事はもう出ちまったぞ?
   残っているのは安いEランクの仕事か、誰もやりたがらないAランクの仕事だけだ」



21:VIP村人w :2006/11/27(月) 08:13:02.41 ID:pZSgmORy0


ξ゚听)ξ「Aランクの仕事が来てるの!?」


ツンは瞳を輝かせ、カウンターから身を乗り出して言う。
カウンターの男とツンは、しばらく至近距離で見詰め合った。


(  ゚д゚ )「……」

ξ゚听)ξ「……」


( ゚д゚ )「こっち見んな」


ξ゚听)ξ「それはこっちのセリフ。
     ちょうど良かったわ〜!まとまったお金が必要だったのよね〜」

( ゚д゚ )「それ相応に危険だがな」

ξ゚ー゚)ξ 「私たちの腕をなめないでちょうだい!
     史上最年少飛行機械乗りの称号は伊達じゃないのよ!」



22:VIP村人w :2006/11/27(月) 08:14:41.53 ID:pZSgmORy0

ツンとブーンの仕事は飛行機械郵便……つまり空の郵便屋だ。

この世界ではとある事情のため電波による交信ができない。
そのため、離れた「島」への連絡手段はもっぱら書面によるものに限られる。
だから、この世界には飛行機械による郵便屋が必要なのだ。

そして、その仕事のランクは基本的にA〜Eの5段階で表される。

Eランクは同じ島内に配達する楽で安い仕事。
Cランクまでは同じ国内の島に配達する仕事で、労力はかかるが安全な仕事。
そしてA・Bランクの仕事は国外の島への配達で、
労力もかかり、安全も保障されていない危険な仕事だ。
その分、報酬はかなり高額なものとなる。

もっとも、A・Bランクの仕事なんか滅多に来るものではないのだが。



24:VIP村人w :2006/11/27(月) 08:16:40.12 ID:pZSgmORy0


( ゚д゚ )「そんじゃ、お願いしようかね」


そう言って、カウンターの男は書簡をツンに投げて渡した。


( ゚д゚ )「配達先はメンヘラ国のラウンジ艦隊だ」

ξ;゚听)ξ「メンヘラ!?それもラウンジ艦隊!?」


ツンが眼を丸くして叫ぶ。
その声に建物内の人間が一斉にツンの方を振り向いた。


( ゚д゚ )「……どうする?止めるか?」


カウンターの男がニヤリと笑う。
同じように周囲の飛行機械乗りたちも不敵な笑みを浮かべている。



25:VIP村人w :2006/11/27(月) 08:19:32.56 ID:pZSgmORy0

仕事を受けるかどうかは、飛行機械乗りの自由である。
もちろん、断ることは認められている。

だけど、一度内容を聞いてその仕事を断れば、それは怖気づいたものとみなされる。
そしてそれは、同じ飛行機械乗りの間で嘲笑の対象となる。
つまり、一度内容を聞いた仕事を断るか否かは、飛行機械乗りの名誉にかかわるのだ。

ツンはしばらく書簡を見つめた後、カウンターに手を叩きつけて叫んだ。


ξ;゚听)ξ 「……やるわよ!やってやろうじゃない!
      宛先、メンヘラ国ラウンジ艦隊!ランクはA!
      この仕事、史上最年少飛行機械乗りのブーンとツンがもらったわ!」


高らかに宣言し、少女は書簡を持つ手を天高く突き上げた。
それに呼応して、周囲から歓声が沸きあがる。
口々に何か言ってくる同業者の声に、少女は脂汗の浮かんだ額と引きつった笑顔で答える。

一方、ブーンは拳骨を落とされた頭を抱えて、まだうずくまっていた。



26:VIP村人w :2006/11/27(月) 08:22:46.43 ID:pZSgmORy0

建物の外に出た二人は、飛行機械の整備をしていた。


( ´ω`)「メンヘラは軍事国家だお?
     危険が危ないのもいいところだお……」

ξ゚−゚)ξ「……わかってるわよ」

( ´ω`)「しかも精鋭部隊のラウンジ艦隊だお?
     もし仮にラウンジ艦隊が軍事演習なんかやっていたら、僕たち本当に死ぬお……」

ξ#゚听)ξ「……うるさいわね!」


ブーンの愚痴に我慢できず、ツンは飛行機械の側面を拳で殴った。
予想外に痛かったのか、彼女は殴った拳をもう一方の手で押さえてうずくまっている。

一方で、愚痴るブーンの表情は意外にも晴れ晴れとしている。


( ^ω^)dビシッ!「まあ、一度受けちゃったものは仕方がないお。
         さっさと燃料補給して出発するお!」


ブーンは前部座席に飛び乗ると、
地面にうずくまりこちらを見上げるツンに向けて小指を立てた。



27:VIP村人w :2006/11/27(月) 08:25:43.16 ID:pZSgmORy0

ツンは何も言わず、後部座席に飛び乗った。
そして、言う。


ξ゚−゚)ξ「……ブーン」

( ^ω^)d「なんだお?」

ξ゚−゚)ξ「こういうときは、小指じゃなくて親指を立てるのよ」

(;゚ω゚)d「……」

( ゚ω゚)bビシッ!!「ウェルチ!!」


少年は親指を立てた。
さらに、立てた親指を鼻の穴に突っ込んだ。
その指で鼻をほじると、鼻くそのついたその指でスイッチを押す。

機体後部下方に設置された鉄の棒が振動する。
飛行機械が宙に浮く。

そして、推進力であるブースターが点火され、
飛行機械は二人の真の職場である大空へと飛び立った。


第一話 おしまい



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