( ^ω^)が空を行くようです

235:VIP足軽zip :2006/11/28(火) 22:50:32.91 ID:/PPBPy9R0

第七話 「VISTA」


それから半年の間、ブーンとツンの生活の中に特に変わった事は無かった。

その間に彼らの飛行機械はめでたくビルドアップを果たし、
その性能は前に比べて格段に上がった。
しかし肝心の仕事のほとんどがCランク止まりで、
数回来たBランクの仕事も別の飛行機械乗り達に取られてしまっていた。

そんな、自分達の飛行機械の性能を持て余すような日々の中で
唯一変わったことといえば、
風呂上りにすっぽんぽんでツンの部屋へ飛び込んできたブーンが、おにんにんを指差しながら、


(*^ω^)「ツン!僕のあそこに毛が生えたお!!」


と叫んで、彼女に波平さんの頭に生えた毛のようなものを見せ付けたことくらいだった。
もちろんその直後、ブーンは顔を真っ赤にしたツンからマイサンに強烈な一撃を食らっている。

ちなみにそれから数日後、町で偶然であった毒男に対してブーンが
「僕のあそこに毛が生えたんだお!」と言って公衆の面前でパオーンを露出した際にも
彼はツンからゾウさんに強烈な蹴りをいただいている。

そんな平凡な、同じことの繰り返しの毎日を過ごしていた少年達のもとに、
風は突然に訪れた。



239:VIP足軽zip :2006/11/28(火) 22:55:17.03 ID:/PPBPy9R0

えてして、人生の転機とはそれと遭遇している時には気づかないものである。
それがそうであると気づくのは、かなりの時の流れの後で、
ふと、今までの人生を振り返ってみた時だけである。

彼らに訪れた転機も、まさにその類のものであった。


その日、いつものように「飛行機械郵便業協会」へと向かった二人は、
受付の男からとんでもないことを言われた。


( ゚д゚ )「お前たち二人を指名した任務が来ている」


その言葉に、嬉々とした表情を浮かべた二人であったが、
男が放った次の言葉に、二人の表情は一瞬にして凍りつくことになる。


( ゚д゚ )「仕事のランクは『ファイブA』だ」



240:VIP足軽zip :2006/11/28(火) 22:58:03.38 ID:/PPBPy9R0

( ^ω^)ξ゚听)ξ「「……」」

(;^ω^)ξ;゚听)ξ「「……」」


( ゚ω゚ ) ξ( ゚д゚ )ξ「「……」」


( ゚д゚ )「こっち見んな」

( ;ω;)ξ;凵G)ξ「「嘘だと言ってよバーニー!!」」

( ゚д゚ )「残念だが、事実だ」


冷淡にそう言って、彼は書簡を投げてよこす。
それを受け取った二人に対し、彼は間髪いれずに仕事の内容を話しだす。



241:VIP足軽zip :2006/11/28(火) 22:58:43.63 ID:/PPBPy9R0

( ゚д゚ )「宛先は、始まりの島『トップページ』を飛行中のマザーシップ『VIP』。
     時間は明日の一七○○だ」


それを聞いた二人の顔から、血の気が一気に引いていく。


(;^ω^)「場所は『トップページ』……」

ξ;゚听)ξ「しかも宛先は『VIP』……」


そう呟く二人の顔は、面白いを通り越してもはや気の毒なものだった。



245:VIP足軽wwwww :2006/11/28(火) 23:06:07.79 ID:/PPBPy9R0

ξ#゚听)ξ「絶対断るからね!!」


自宅の食卓に座るツンが、家が壊れんばかりの大声を発する。


ξ#゚听)ξ「大体あんた、何考えてんのよ!?
     『ファイブA』の仕事なんてその場で断るものでしょうが!?
     それを、『ちょっと考えさせてくれお』って格好付けて保留して……」


あれから二人は、というかブーンは受付の男に一時の猶予をもらっていた。
その場で断る気満々だったツンはブーンに何度も抗議したのだが、
彼は頑として幼馴染の言葉に耳を傾けなかった。


ξ#゚听)ξ「いい?『ファイブA』よ?Aが五個で『ファイブA』!!
     しかも、宛先は泣く子もアナル『海賊狩りのVIP』よ!?」

(;゚ω゚)「わかっているお!!」


今までツンの抗議を甘んじて受けているだけのブーンであったが、
ついに頭にきたのか、食卓を「バン!」と叩き付けて立ち上がった。
しかし、彼の口はなかなか言葉をつむがない……。
それは彼自身、この仕事の危険性を理解している証拠であった。

そんな幼馴染に一瞬ひるんだ様子を見せたツンであったが、
それでもなお、彼女の抗議は終わらない。



247:VIP足軽wwwww :2006/11/28(火) 23:09:52.82 ID:/PPBPy9R0

ξ#゚听)ξ「わかっちゃいないわよ!!
     いい!?この前のAランクの仕事だけでも何回死にかけたと思っているの?
     『ファイブA』の仕事なんか請けた日には、あたし達、十回は死ぬわよ!!」


聞き慣れた幼馴染のヒステリックな声が、この日だけはうっとおしい。


(;゚ω゚)「僕達はAランクの仕事をしても死んでないお!
    だから、『ファイブA』の仕事をしたって死にはしないお!
    0に5をかけても答えは0だお!!」

ξ#゚听)ξ「そんな屁理屈、通るわけがないでしょうが!!
     おまけに、相手は『海賊狩りのVIP』よ!?
     あたし達なんか、骨の髄までちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱチュパカブラよ!!」


二人は食卓を挟んで、身を乗り出してにらみ合う。
ツンは、間近に迫った幼馴染の顔をにらみつけたまま抗議を続ける。



249:VIP足軽wwwww :2006/11/28(火) 23:14:07.89 ID:/PPBPy9R0

ξ#゚听)ξ「『ファイブA』の仕事を受けた人は、この十年間で二人いるわ。
     『蒼風』と『桃色の乳首』の二つ名で呼ばれていた二人よ。
     二人とも、この町『ツダンニ』で数々の伝説を残す名パイロットだった。
     だけどね、この二人でさえ『ファイブA』の仕事を達成することはできなかったの!
     彼らは『ファイブA』遂行のために飛び立ち、そのまま戻ってくることはなかった……」


ツンは自分の言葉に恐怖したのか、体を大げさにガタガタと震わせる。
しかし、それでもなお、彼女のマシンガントークはとどまることを知らない。


ξ#゚听)ξ「そんな二人でさえ出来なかったことを私達が出来るわけ無いでしょうが!
     明日の朝一番で協会に断りに行くからそのつもりでね!!」


そう吐き捨てて立ち上がると、彼女は肩を怒らせて自分の部屋へと向かおうとする。
そんな彼女の背中に、今まで聞いたことの無いほどの怒声が浴びせられた。


( ゚ω゚)「もう一回言ってみろだお!
    その言葉を父ちゃん達に置き換えて、もう一回言ってみろだお!!」



252:VIP足軽wwwww :2006/11/28(火) 23:18:57.25 ID:/PPBPy9R0

ξ;゚听)ξ「ななな、何言ってんのよ!?」


振り返ったツンは、明らかに動揺していた。
ブーンは、これまでに見せたことの無い真剣な表情で続ける。


( ゚ω゚)「『父ちゃん達に出来なかったことを、僕達に出来るわけがない!』
     ツンが言っていることはそういうことだお!!」

ξ;゚听)ξ「だ……誰もそんなこと言っていないじゃない!!」

( ゚ω゚)「言っているお!!
     父ちゃん達は『蒼風』にも『桃色の乳首』にも引けをとらないすごいパイロットだお!
     そんな二人に出来なかったことが僕達に出来ないって言うことは、
     父ちゃん達に出来なかったことが僕達に出来ないって言っているようなもんだお!!」


図星だった。

彼女は何処かで自分達に歯止めを掛けていた。
遥か彼方へ消えていった両親が行き着いた先を想像し、恐怖する。
それは自分の体を取り巻き、今こうやって、行きたくない理由を正当化させている。



254:VIP足軽wwwww :2006/11/28(火) 23:22:53.15 ID:/PPBPy9R0

そんな彼女が話題を変えるためには、
彼にとって一番の急所を突くしかなかった。


ξ゚−゚)ξ「ブーン……やっぱりあんた、わかってたのね」

(;゚ω゚)「……とにかく、僕は一人でもこの仕事を受けるお。
     こんなことで躊躇していたら、『エデン』なんて夢のまた夢だお……」


うつむいてそう呟くと、ブーンはツンの横を通って自室へと戻った。
少年が自室の扉を閉めた音を聞くと、少女もまた、黙って自室へと戻っていった。



256:VIP足軽wwwww :2006/11/28(火) 23:26:30.12 ID:/PPBPy9R0

その深夜。

月明かりの差し込む部屋のベッドの上で、彼女は一人、
自室の壁に貼り付けられた数々の写真を眺めていた。


ξ;−;)ξ「……」


彼女が見つめる壁面には、今は亡きツンの母親とブーンの母親の写真、
どこかの遺跡の写真、よくわからない地図を写した写真、
そして幼いブーンとツンを抱く二人の父親達と、彼らの飛行機械の写真が貼り付けられている。


ξ;凵G)ξ「……パパ…ママ……やっぱりブーンは……わかっていたよ」


写真に向かって呟く彼女の瞳からは、とどまることなく流れ落ちる大粒の涙。
それは、月明かりを受けてキラリと光を放った。



257:VIP足軽wwwww :2006/11/28(火) 23:30:17.34 ID:/PPBPy9R0

翌日の早朝。

彼女が目覚めた頃には、ブーンは飛行服に着替えて飛行機械をいじっていた。


ξ゚−゚)ξ「……珍しいわね、あんたがあたしよりも早く起きているなんて」

( ´ω`)「……」


ブーンは、ツンの方を見向きもしないで作業を続ける。

奇妙な沈黙。
今まで二人が経験したこともない苦痛の時間。

彼女はコチラを見向きもしない幼馴染に苛立ちをつのらせたが、


ξ゚听)ξ「今日は雨が降るわね。……いや、槍が降るわね」


と一言残すと、台所の奥へと消えた。



258:VIP足軽wwwww :2006/11/28(火) 23:32:12.01 ID:/PPBPy9R0

しばらくして台所から出てきた彼女の手には、巨大なサンドイッチが握られていた。
少女は少年に一声かけると、振り向いた彼に向かってそれを放り投げた。


ξ゚听)ξ「……食べなさいよ」

( ´ω`)「……いらないお」

ξ゚听)ξ「食べなきゃ『ファイブA』なんて仕事、とても遂行できないわよ?」


彼女のその言葉に、
投げられて中身がボロボロのサンドイッチをうつむいて見つめていた少年が顔を上げる。


(;゚ω゚)「ツン……」

ξ////)ξ「べべべ、別にあんたのためじゃないんだからね!
     あああ、あたしの夢のためなのよ!
     『エデン』に行こうとするあたしが、『ファイブA』の仕事でビビっていられるもんですか!」


顔を耳まで真っ赤に染めて、彼女は言う。



261:VIP足軽wwwww :2006/11/28(火) 23:34:08.38 ID:/PPBPy9R0

そんな彼女に対し、ブーンは最高の笑顔で笑いかけた。


( ^ω^)「……おっおっおwwwww」

ξ#゚听)ξ「笑ってんじゃないわよ!!」


少女の投げたスパナが、少年の額を直撃する。
しかし彼は、額から緑の血を噴出しながらも笑い続けている。


( ^ω^)「おっおっおwwwwww」

ξ#゚听)ξ「ああもう……ほら!準備はいいの!?
     予備燃料に水、それと工具に発光信号機は積み込んだの!?
     各種メーター、ブースター及びエンジンのチェックはした!?」

( ^ω^)「おっおっおwwww今から取り掛かるお!!」


いつもの調子に戻った二人は、テキパキとその作業に移っていく。
やがて、それらの作業をすべて終えた二人は天井のシャッターを開けた。

そこから見えるのは、雲ひとつ無い真っ青な空。
どこまでも広がる空に向けて、二人を乗せた銀色の空の舟は飛び立っていく。

青く輝くこの空は、今日も騒がしくなりそうだ。



263:VIP足軽wwwww :2006/11/28(火) 23:37:32.72 ID:/PPBPy9R0

飛び立った銀色の飛行機械を地上から見上げる二人の男がいた。


「……行ったな」

「ぶほほほほほwwwwwwwあたしの目に狂いは無かったでしょ?」

「……そのようだ」


そう呟くと、男はポケットからタバコの箱を取り出した。
しかしその中身は空だったようで、男は少し残念そうな表情を浮かべた。
そんな彼に向かって、隣にいたオカマが自分のタバコを差し出す。


「……すまんな」


そう呟くと、彼は受け取ったタバコに火をつけた。

うまそうにそれを一口吸うと、
彼は空の彼方へと消えていく銀色の空の舟に向かって煙を吐き出す。



267:VIP足軽wwwww :2006/11/28(火) 23:41:35.15 ID:/PPBPy9R0

「『何度も日々を潜り抜けたそのハートは、きっと答えを知っている』」

「ぶほほほほwwww何よそれwwwwwwww」

「気にするな。俺の好きな詞の一節だ。
 さて、俺達も急がなきゃな。飛行機械の準備はできているのか?」

「ぶほほほほほほwwwwwwwぬーかりはないわよぅ、副艦長!!」


その言葉の後、二人はどこかへと歩き出し、町の雑踏の中へとその姿を消した。


第七話 おしまい



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