( ^ω^)が空を行くようです

309:散髪とめきち :2006/11/29(水) 21:11:04.08 ID:+b5j4L7V0

第八話 「風に乗る船」


しばらくの飛行を続けたブーンとツンは、
途中のコンビニエンス島に着陸すると、地図を広げて打ち合わせを始めた。


ξ゚听)ξ「いい?始まりの島『トップページ』はここよ」


そう言って、彼女は五角形に並ぶ巨大な島々の真ん中にある島を指差した。
前にも軽く述べたが、彼らの世界に国家は五つある。
それらは巨大な五角形の頂点にそれぞれ浮かんでおり、
その対角線上の真ん中に始まりの島「トップページ」は浮かんでいる。


ξ;゚听)ξ「ここから、『トップページ』まではおよそ六百km。
     このままのペースで飛ばせば、あと六時間ほどで到着するわ」

(;^ω^)「おkおk」

ξ;゚听)ξ「約束の時間は一七○○。
     それまでおよそ八時間。私達はそのギリギリまで『トップページ』空域の直前で待機。
     時間になったら一気に空域に突入。そのまま一直線に『VIP』へと向かうわよ」

(;^ω^)dビシィ!!「把握したお!」


二人は、これまでにない緊張した顔をしていた。



310:散髪とめきち :2006/11/29(水) 21:15:34.67 ID:+b5j4L7V0

始まりの島『トップページ』は、この世界ではじめて空に浮かんだ島だとされている。

そこには旧世界の遺物が保管されているらしい。
そして、そこは全部で五つある国家のうち、
メンヘラを除く四つの国家の連合艦隊により堅く守られている。

蛇足ではあるが、読者の皆様には
なぜメンヘラだけが除外されているのかという疑問が浮かびあがるだろう。

それはメンヘラの島々が国家として統一されたのが、
つい最近(と言っても二人が生まれるはるか昔だが)だからだというのが理由だ。
そのため、メンヘラは「トップページ」に眠る旧世界の秘密を知らない。

このことは頭の片隅にでも置いておいてもらいたい。



311:散髪とめきち :2006/11/29(水) 21:20:05.52 ID:+b5j4L7V0

話がズレたが、「トップページ」を守る連合艦隊は、
その空域に侵入したものを容赦なく打ちのめす。
それは、そこにそれほどの価値あるものが眠っている証拠に他ならないのだが割愛する。

今重要なことは、「空域に侵入したものは容赦なく攻撃の対象になる」ということだ。

その攻撃を最小限にとどめるためには、約束の時刻ギリギリに突入し、
短時間の間に宛先である「VIP」に合流する必要があった。


ξ;゚听)ξ「でも……なんで場所が『トップページ』なのかしら?」

(;^ω^)「……確かにそうだお。この書簡を受け取るだけなら、
     もっと他の安全な場所を受け取り先に指定した方がいいはずだお……」


二人は「うーん」と首を傾げながら考えるが、
考えたところでその答えが浮かんでくるわけでもなく、
結局、早々にあきらめた二人は、水筒の水をがぶ飲みすると飛行機械の座席に飛び乗った。



313:散髪とめきち :2006/11/29(水) 21:22:39.30 ID:+b5j4L7V0

ξ゚ー゚)ξ「考えてもはじまらないわ。
    あたし達のやるべきことは、最善を尽くす、ただそれだけよ!」


勢いよく乗り込んだツン。
それに習ってブーンも操縦席に飛び乗った。


( ^ω^)「おっおっお!今日のツンはなんだかカッコいいお!」

ξ゚∀゚)ξ「おほほほほwwwww
    これからはあたしのこと、クール&ビューティーとお呼びなさい!」

( ^ω^)「おっおっお!このまま空に落ちて死んでくれおwwwww」


なんだか緊張感に欠けた会話をして、二人は再び空へと飛び上がった。



315:散髪とめきち :2006/11/29(水) 21:26:08.93 ID:+b5j4L7V0

一方、それから数時間後の「トップページ」近郊の空域。

そこに、雲の中に隠れるようにして浮かぶ一つの巨大な鉄の塊の姿があった。
その中のとある一室で、以下のような会話がなされていた。


「ういっす!飛行機械の整備、完了しましたよ!!
 艦内の駆動機関もオールグリーン!命令しだいでいつでも飛べます!!」

「そうなの?ご苦労さん」


そう言って、男は眠たげに目をこする。


「艦長ー、寝てないんすか?」

「そうなんだよ……昨日、徹夜で小説読んじゃってね」

「そんな面白い本だったんすか?」

「うん。『僕と彼氏のいんぐりもんぐり性日記』って小説。
 最高だったよ。いろいろな意味で眠れなかったね」

「マジっすか!?今度俺にも貸してくださいよ!!」


そんな会話を交わす二人の下へ、一人の女性がやってきた。



316:散髪とめきち :2006/11/29(水) 21:31:11.97 ID:+b5j4L7V0

「失礼します」

「あ、いらっしゃい」

「定刻一七○○まで十分を切りました。
 命令しだいで、いつでも私は飛べます」

「おk。全速力で『トップページ』空域内へ」


その声が艦内に伝えられると、巨大な鉄の塊の駆動系がいっせいに動き出し、
重低音の飛行音があたりに響き渡る。
ブースターの光りが尾を引くようにして雲を切り裂き、
鉄の塊がジワジワと高度を下げ、その巨体を白日の下に晒した。


「で、どうなの?今回の新人」

「副艦長と整備長の報告によれば、将来有望な少年と少女の飛行機械乗りだそうです。
 現時点での技術も、Aランクを二つ続けてこなせるほどに高いものだそうです」

「へー。それはたいしたものだね」

「それと、印象としては、若い頃の長岡によく似ていると」

「え?マジ!?そいつは楽しみだなぁ!!」


長岡と呼ばれた男の明るい笑い声が、艦内に響き渡った。



319:散髪とめきち :2006/11/29(水) 21:34:17.25 ID:+b5j4L7V0

その同時刻。

ブーンとツンの二人を乗せた飛行機械は
「トップページ」空域のギリギリ外の雲の中を旋回していた。


(;^ω^)「ツン、掘った芋いじくるな?」

ξ;゚听)ξ「一六五○よ。あと五分したら空域内に突入するわよ!」

(;^ω^)「おkおk!」


そんな会話を交わす二人の表情は、明らかにこわばっていた。

しかし、それも無理のないことで、彼らの目の前の空には、
まだ豆粒ほどの大きさではあるが、無数の艦隊の艦影が浮かんでいるのだ。

雲の中に隠れて相手側からは自分達の姿は見えていないはずではあるが、
それでもあの数の艦隊を目の当たりにして動揺を隠せないのが今の二人の現実だった。



320:散髪とめきち :2006/11/29(水) 21:38:26.22 ID:+b5j4L7V0

ξ;゚听)ξ「……一六五五!行くわよ!」

(;^ω^)「うはwwwおkwwww把握!!」


半ば投げやりに笑ったブーンは、アクセルを一気に踏みこむと、
最高速で「トップページ」空域へと進入した。

最大出力のエンジンが起こす振動が尻に響き、口を開ければ小刻みに声が漏れる。
口にする言葉は振動で震え、周囲には甲高い風切り音と、
後部座席のツンの声が風にかき消されてかすかに聞こえるくらいである。

そんな彼らのもとに、相手側艦隊から送られてくる発光信号。


(;^ω^)「……一応聞くけど、なんて言っているんだお!?」

ξ;゚听)ξ「『直ちに立ち去れ。さもなくば撃墜する』ですって!!」

(;^ω^)「お……やっぱりかお……」


あらかじめ想定していたこととはいえ、
ほんのちょっぴり何かを期待していたブーンにとって、彼女の言葉は胸にズシリとくるものだった。

結局そのまま艦隊の方へと向かったブーンたちは、
あたりに次々と響き渡る砲撃音に縮み上がることになる。



322:散髪とめきち :2006/11/29(水) 21:41:48.90 ID:+b5j4L7V0

(;゚ω゚)「ぶおおおおおおおおおおおおおお!!」

\ξ(^O^) ξ/「イヤ―――――!人生オワタ―――――――!!」


無数の艦隊から打ち出される砲撃の中を、二人は意味不明な叫び声をあげながら飛んだ。

時にループし、時にロールして、
二人を乗せた銀色の空の舟は艦隊の間を抜け一直線に「トップページ」を目指した。
しかし、その奥に行けば行くほど、他の艦隊からの連絡があったのであろう、
待ち受ける艦隊の砲撃は厳しいものになっていく。

特にツンが肝を冷やした場所があった。
その空域で二人は両側を艦隊に囲まれたその間を飛行していた。

するとその艦隊の側面から放たれるのは、弾丸ではなくて無数の巨大な鉄の槍。
二人はその槍の雨の中を、ひたすらに飛んでいた。



328:南蛮ムキトス :2006/11/29(水) 22:00:14.02 ID:+b5j4L7V0

\ξ(^O^)ξ/「いやあああぁぁぁああぁ!!本当に槍が降ってきたあぁぁぁぁあああ!!
        今日あんたが早く起きたせいよおぉおぉぉおおぉ!!」

( ^ω^)「おっおっお、それはすまんことだお」


半ば発狂しているツンとは対照的に、ブーンはすこぶる落ち着いた様子だった。
両側から降り注ぐ鉄の槍の軌道が、今の彼にははっきりと見えていた。

なぜこんな窮地のさなかに、自分はこうも冷静でいられるのだろうか?

今の彼に、それが一流の飛行機械乗りのみが達することが出来る、
一種のゾーンとも呼ばれる最高の緊張状態の賜物であることに気づく術はなかった。



329:南蛮ムキトス :2006/11/29(水) 22:03:38.27 ID:+b5j4L7V0

やがて、二人の目の前に始まりの島「トップページ」の姿が見えてきた。

それはまだ緑色の小さな点ではあるのだけれども、
目標が見えたことによる二人の安堵感は格別なものだった。

しかし、それが災いした。
目標が見えたことによる安堵感が、二人の間にわずかな緊張の緩みを生じさせた。
それにより判断が一瞬遅れる。

その結果、二人は連合艦隊の艦上から離陸した飛行機械の銃撃を受けることになる。


(;゚ω゚)「のわぁぁああぁあ!!」

ξ(´・ω・`)ξ「イヤ―――――!!打たれとるがな――――――!!」


もはや口調まで変わってしまったツン。
幸いにも弾丸は片翼をかすめただけであったが、後方から迫り来る飛行機械の数はどんどん増してゆく。

両側面には艦隊からの槍や砲弾の嵐。
前方にはまだ多くの艦隊。

もはや、彼らの命運もここまでかに見えた。



332:南蛮ムキトス :2006/11/29(水) 22:07:58.34 ID:+b5j4L7V0

しかし、その時だった。

二人の後方に突如現れた、赤と青、二つの飛行機械。
それが後方の連合艦隊の飛行機械を次々と撃破していく。

予期しない光景を目の当たりにして、呆然とアクセルを踏み続けるブーン。
瞬間、身を圧迫するように響く轟音。

その音のする方を見ると、連合艦隊の一隻が炎に包まれて真っ黒な煙を上げていた。


(;゚ω゚)「いったい、何が起こっているんだお……」


そう呟いた彼に、後部座席のツンが叫び声を上げた。


ξ;゚听)ξ「……ブーン!上を見て!!」



333:南蛮ムキトス :2006/11/29(水) 22:09:53.63 ID:+b5j4L7V0

見上げた彼の視線の先では、雲の隙間から顔を出した巨大な鋼鉄の塊が
目の前の連合艦隊に向かって上空から無数の砲弾を次々と発射している姿があった。


(;゚ω゚)「あれが……『VIP』……」


その鉄の塊は、重厚な外見に不釣合いに華麗に空を舞っていた。

そんな空に浮かぶ鉄の塊の様子を表現するとき、
人はきっと「風に乗る船」という言葉を用いるのであろう。


第八話 おしまい



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