( ^ω^)が空を行くようです

94:VIP足軽q :2006/12/07(木) 22:12:49.63 ID:Ix16ABgV0

第十七話 「風の日」


ジョルジュが独房に連れて行かれた後、
ブーンにはねぎらいの言葉とともに、しばしの休息が与えられた。
しかし、今から休息を取れといわれても無理な話だった。

わからないことが多すぎる。

なぜ、優しかったギコがツンに銃を突きつけたのか?
なぜ、ラウンジ艦隊は『エデンの地図』を狙っているのか?
なぜ、ジョルジュはあんなにまで怒り狂っていたのか?

こんなもやもやした気分の中で、眠れるはずがなかった。

飛行機械を格納庫へと入れたブーンは、上部甲板で一人、空を見上げていた。
飛行中は夢中で気づかなかったが、この地方では珍しく、空は厚い雲で覆われている。


……あたりには、強い風が吹いていた。



96:VIP足軽q :2006/12/07(木) 22:14:36.67 ID:Ix16ABgV0

どれくらいそこにいたのだろうか?
いつの間にか、肌に吹きすさむ風は冷たくなり、わずかな雲間は茜色に染まっていた。

そろそろ部屋に戻ろうかと振り返ると、
視線の先には、適当な場所に腰掛けてこちらを向いている毒男の姿。


('A`)「何、考えていたの?」

( ´ω`)「……」


吹きすさぶ風の中、オカマはよく手入れされた髪をなびかせながら語りかけてくる。
ブーンには何故かドクオの視線が痛く感じられ、うつむいてしまった。



97:VIP足軽q :2006/12/07(木) 22:16:13.15 ID:Ix16ABgV0


何も言えない。
言わないのではなく、言えない。

考えていたことが多すぎる。
わからないことが多すぎる。

何から聞けばいいのだろうか?
それは聞いてもいいことなのだろうか?


迷いに迷って、少年は静かに顔を上げた。
視線の先には、キモいが優しく笑う毒男の笑顔。

そんな彼の笑顔が免罪符になったのか、少年は胸の中に渦巻く一番の疑問を投げかけた。


( ´ω`)「ギコさんに対して、なぜ長岡さんはあんなにも怒っていたのかお?」



99:VIP足軽q :2006/12/07(木) 22:17:59.90 ID:Ix16ABgV0

オカマはゆっくりとブーンの方へと歩み寄ってきた。
ブーンの隣に立つと、彼は空を見上げる。

つられて顔を上げるブーン。
少年の見上げる空は、わずかな茜色の隙間のほかは灰色で薄気味悪い。

そんな中、隣に立つ毒男がさらに気味が悪い笑顔で話を始める。


('A`)「……あいつね、昔、飛行機械に乗っていたの」

( ´ω`)「……『桃色の乳首』かお?」


ブーンはギコがジョルジュに対して放った言葉を思い出した。


('A`)「そうよ。何年前かしらね?
   あんた達の故郷『ツダンニ』で『桃色の乳首』の二つ名で有名だった
   ジョルジュと彼の幼馴染でナビだった女の子を、
   ブーンちゃんと小娘の時と同じ様に、あたしと副艦長は『VIP』に招待したの」

( ´ω`)「……女の子?」


思わずブーンは聞き返す。
そんな女の子、「VIP」に乗っていただろうか?



104:VIP足軽q :2006/12/07(木) 22:22:15.76 ID:Ix16ABgV0
('A`)「……そうよ。
   あの頃のジョルジュは、本当にブーンちゃんにそっくりだったわ。
   のんきで、無鉄砲で、空を飛べるだけで幸せそうだった。
   でも……幼馴染のナビの女の子は、小娘には全然似ていなかったわねw
   ちょっと丸顔で、クリクリした目が印象的なのんびりした娘だったわ。
   気が付けばこの甲板で一人、ボーっと空を眺めているような静かでおとなしい娘……」


そう言って、毒男はいとおしげに目の前に広がる甲板を見渡した。

彼の瞳の中には、かつてこの甲板の上で空を眺めていた少女の姿が映っているのだろうか?

聞くに聞けない疑問を飲み込み、ブーンはオカマの顔を見つめる。


('A`)「あんた達と同じ様にモナーとクーに訓練を受けて、見る見るうちに二人は腕を上げた。
  すぐに一人前になった二人は、あちこちを任務で飛び回った。
  毎日笑顔を絶やさない二人は、本当に幸せそうだったわ……あの日までは」


あの日。
ポツリと呟くと、ドクオは一時の間を置いた。

一瞬のような、永遠のような間。

そして苦痛に歪む毒男の顔。
少年は、オカマのそんな表情をはじめて見た気がした。



107:VIP足軽q :2006/12/07(木) 22:25:01.42 ID:Ix16ABgV0

('A`)「……あの日、ある海賊に喧嘩を売られたの。
   海賊自体は大したことなくて、すぐにモナー達がその母艦を沈めたわ。
   でもね、一機だけすさまじい動きをする機体がいたの。
   太陽の下で黄色に輝くあの機体……後に『黄豹』と呼ばれる若かりし頃のギコよ」

(;゚ω゚)「!!」

('A`)「ギコとジョルジュは上空で交戦。
   腕前はクーやモナーに勝るとも劣らない程になっていたジョルジュだったけど、
   ……撃墜されたわ。
   エンジン部に被弾。甲板に戻ってこられたのが不思議なくらいの損傷。
   煙を噴出して、ホウホウの体で艦に戻ってきたジョルジュは、
   『黄豹』に受けた機銃で割られた機体の破片が片目に刺さって失明。
   後部座席の女の子は……『黄豹』の機銃が直撃……すでに死んでいたわ」


信じられなかった。
あんなに楽しそうに笑うジョルジュに、そんな暗い過去があったなんて。

皆を明るくするあの笑顔の下には、こんなにも深い心の闇があったのか。
……それなのに、どうしてあんなに楽しそうに笑えるのか?

数々の疑問が渦を巻き、少年の頭を駆け巡る。



110:VIP足軽q :2006/12/07(木) 22:27:49.74 ID:Ix16ABgV0

('A`)「それから眼に受けた傷がふさがるまで、
   アイツは医務室のベッドの上で、たった一人で泣いていたわ。
   やがて傷が癒えて片目に眼帯をこしらえたアイツは、気味が悪いほどにいつもどおりの笑顔。
   それからあたしにメカニックの技術を教えてくれって土下座してきて、
   今ではあの通り、どこに出しても恥ずかしくない最高のメカニックよ」

(;゚ω゚)「……」

('A`)「あたしはジョルジュがあの日のことを乗り越えたんだと思っていた。
   でもね、今日久しぶりに聞いた『黄豹』の名前に、ジョルジュは我を失った。
   ……そうよね、乗り越えられるわけなんてないわよね。

   『俺はなぁ、『黄豹』を殺すためだけに生きてきたんだ!』
 
   ……ブーンちゃんの家で叫んだアイツの言葉が今でも頭から離れないわ。
   楽しそうに笑う笑顔の下では、アイツはいつもあの子のことを考えて……」


その言葉に、ブーンは駆け出した。

とにかく今は、ジョルジュの傍に行かなければならないような気がした。



111:VIP足軽q :2006/12/07(木) 22:28:57.49 ID:Ix16ABgV0



('A`)「……ブーンちゃん。
   あんたには、他に真っ先に行かなきゃならないところがあるでしょ?」



駆け出した少年の背中を、オカマは静かな眼差しで見送った。



114:VIP足軽q :2006/12/07(木) 22:32:03.58 ID:Ix16ABgV0

迷いに迷ってついにたどりついた独房。

その扉は黒鉄色の分厚い鋼鉄製で、
室内と外の世界を完全に断絶するかのように圧倒的な存在感を持ってたたずんでいた。

鋼鉄の扉の前に立ったブーンは、何を言うべきか迷っていた。

勢いでここまで来たのはいいものの、
ジョルジュに対してかけられる言葉がはたして自分なんかにあるのだろうか?

そんなことを考えながら立ち尽くしていると、扉の奥から響く小さな声。

 _
( ゚∀●)「……誰かいるのか?」

(;^ω^)「あ……どうも僕です」
 _
(;゚∀●)「ブーンか!?」


途端、鋼鉄の扉が「ゴン」と低い音を立ててわずかに揺れた。
きっと、ジョルジュが扉の前まで駆け寄ってきたのだろう。

次に独房の中から聞こえてきたのは、嗚咽。



117:VIP足軽q :2006/12/07(木) 22:34:28.71 ID:Ix16ABgV0

(;^ω^)「……ジョルジュさん?」
 _
( ;∀●)「……うっうっぅぅ……すまねぇ……
     俺のせいで……危険な目にあわせて……」

(;^ω^)「……もういいんですお。話は毒男さんから聞きましたお……」


少年の言葉に、独房から聞こえてくる嗚咽が一層激しくなる。

 _
( ;∀●)「なんとか抑えようとしたんだ……
     だけど『黄豹』の顔を見た瞬間……自分でもわけが分からなくなっちまって……」

(;^ω^)「……」
 _
( ;∀●)「アイツのカタキが目の前にいる……それだけで俺はもう……」


扉から響く声は、もう嗚咽ではなく号泣する男のそれだった。

これ以上ジョルジュに話をさせるのは酷だ。
そう判断したブーンは、最後に一言添えてその場を後にすることにした。



120:VIP足軽q :2006/12/07(木) 22:36:54.11 ID:Ix16ABgV0

(;^ω^)「……僕のことは気にしないでくださいお。
     それよりも早くそこから出て、また明るい笑顔を見せてくださいお」


少年は扉に背を向けた。
最後に背中に投げかけられる、ジョルジュの悲痛な言葉。

 _
( ;∀●)「……あの日俺は、かけがえのない相棒と片目を失った
      ……あの日から俺は……ずっと死んでいるんだよ……
      空を舞う『桃色の乳首』は……あの日、乳首を失って雲海の底に堕ちたんだ……」


あとに響くのは男の泣き声だけ。

少年は静かに独房を後にした。



124:VIP足軽q :2006/12/07(木) 22:39:11.12 ID:Ix16ABgV0

しばらくトボトボと艦内を歩いていた少年。
そんな彼の目の前に、馬鹿でかいオカマが姿を現す。

オカマのその表情は、心なしか怒っているようにも見える。


( ´ω`)「ジョルジュさん……泣いていましたお」

('A`)「アイツだってあんな姿を見せるのは、本当は好きじゃない……
   だけど、アイツだっていつもピエロみたいに笑えるわけじゃないのよ?」


うつむいて話す少年の頭上に、オカマの大きな、温かな手がのせられる。
少年が顔を上げると、目の前のオカマは厳しい表情で言う。


('A`)「それよりも、あんたにはジョルジュよりも先に会いに行くべき人がいるはずよ?」



126:VIP足軽q :2006/12/07(木) 22:40:42.03 ID:Ix16ABgV0

(;^ω^)「お……?」


オカマの言葉にブーンはハッとした。



……ツンはどうしているのだろうか?



少年はまたしても駆け出す。
遠ざかっていく少年の背中を、オカマは「やれやれ」といった表情で見送った。



128:VIP足軽q :2006/12/07(木) 22:43:31.99 ID:Ix16ABgV0

ツンの部屋の前まで走ってきたブーンは、勢いをそのままに扉を開けた。
視線の先には、ベッドの上に腰掛けてうつむいている幼馴染の姿。

彼女はブーンの方を振り向くと、
まぶたにためた涙をボロボロとこぼしながら、少年の胸に飛び込んできた。


ξ;凵G)ξ「ブ――――ン!!」

(;^ω^)「ツン……」


彼の目の前には、幼馴染のウェーブした細く長い髪。
そこから漂ってくる甘い香りに、少年はドギマギした。

ブーンはそっと、彼女の肩に手を触れる。

想像していた以上にやわらかく細い肩。

その肩が小刻みに震えていて、なんだかそのまま手を触れ続けると壊れそうで、
結局、少年は少女に胸を貸すだけで何もできず、肩から離した手をブラブラと持て余すだけだった。



130:VIP皇帝 :2006/12/07(木) 22:45:06.27 ID:Ix16ABgV0


ξ;凵G)ξ「あ――――ん!!じぬがどおぼっだよ―――――!!」


自分の胸にうずめて泣きじゃくるツン。
そんな彼女の体を胸で支えながら、少年は

「幼馴染を失った長岡さんは、どんな気持ちでこれまでを生きてきたんだろう?」

と、回転の鈍くなった頭でそれだけを考えていた。


第十七話 おしまい



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