( ^ω^)が空を行くようです

7:クリスマスも終わったことだし :2006/12/10(日) 01:50:08.39 ID:Rzl96cQM0

第十八話 「鈍色の星」


数日後。
暇を持て余していたブーンは艦内のブリッジに遊びに来ていた。

ブリッジ内の雰囲気は先日の騒動など無かったかのように柔らかく、
艦長席に座るショボンは、副艦長のミルナ、飛行機械部隊の隊長のモナーとともにお茶を飲んでいた。
ブーンもその輪に加わり、彼の前にお茶が差し出される。

熱々のお茶を幸せそうにすするブーン。

そんな少年に向かい、唐突に放たれた一言。
聞きつけた少年の歓喜の声がブリッジに響く。


( ^ω^)「お!?『エデン』に行けるんですかお!?」



8:クリスマスも終わったことだし :2006/12/10(日) 01:52:25.82 ID:Rzl96cQM0

(´・ω・`)「まだ断言は出来ないけどね。方法はあるよ」

( ´∀`)ノ□「これを見るモナー」


モナーの手に握られているのは手のひらサイズの四角い機械。


( ^ω^)「なんですか、それ?」

( ´∀`)「まあ聞くモナー」


前置きを置いて、モナーはその機械の側面についているボタンを押す。
すると、聞こえてくるのは雑音に混じった特徴のある巨大なエンジン音。


(´・ω・`)「これはね、ラウンジ艦隊の旗艦『ジュウシマツ』のエンジン音だよ」

( ^ω^)「おぉ……」


だから何なんだろう?
脳内の疑問を正直に顔に出す少年に向かい、ショボンとモナーはゲラゲラと笑う。



9:クリスマスも終わったことだし :2006/12/10(日) 01:54:30.07 ID:Rzl96cQM0

(´・ω・`)「先日、『ツダンニ』における戦闘の際にモナーが拾ってきてくれたこの音を使ってね、
     『エデン』へと向かう『ジュウシマツ』を追跡するんだよ」

( ^ω^)「ほぇ〜……」

(´・ω・`)「さすがは『レッドバロン』だよね」

( ´∀`)「照れるモナーwwww」


ブーンは呆けた顔でモナーを見る。

いつでも虫をも殺さないような、優しい笑顔を絶やさない飛行機械部隊隊長。
あんな激しい戦闘の最中に『ジュウシマツ』に接近してエンジン音を拾ってくるなんて、
この人は本当に化け物だな。

そんなことを考えながら、ブーンは垂れ眼のナイスミドルな飛行機械乗りの顔をまじまじと見つめた。


(´・ω・`)「まあ、この音だけじゃとても追跡なんて出来ないんだけどね」

( ^ω^)「お?なしてだお?」

(´・ω・`)「追跡する『耳』が無いんだよ」



12:クリスマスも終わったことだし :2006/12/10(日) 01:56:59.79 ID:Rzl96cQM0

( ^ω^)「『耳』かお?」


自分の耳をトントン叩くショボンの仕草に、ブーンは首を傾げる。


( ゚д゚ )「『VIP』には『ネコ耳』みたいな聴覚を持つ乗組員はいないからな」


そこに、いままで黙って茶をすすっていた身長156cmのイケメン副艦長が口を開く。


( ゚д゚ )「となると、俺たちは『機械の耳』に頼るしかないわけだ」


ミルナはニヒルな笑みを浮かべて続ける。身長156cmだけど。


( ゚д゚ )「だから、あそこに行くのさ。『機械の耳』を手に入れるためにな」


そう言って、ミルナは視線をブリッジの窓に向けた。身長156cmだけど。



13:クリスマスも終わったことだし :2006/12/10(日) 01:57:58.11 ID:Rzl96cQM0

つられて同じ方を見るブーン。
視線の先には、空の彼方に浮かぶまだ豆粒ほどの大きさの鉛色の島。


( ゚д゚ )「機械なら何でも揃う人工の島。通称『鈍色の星』だ」


そう言ってニヤリと笑うイケメン副艦長の身長はやっぱり156cm だった。
その隣では、眼を細めて懐かしそうに鈍色の星を眺めるショボンの姿があった。



17: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/12/10(日) 02:10:51.04 ID:P5rHd11x0

鈍色の星。
『ニビイロノスター』と読むこの島は、機械と機械の寄せ集めで出来た島だ。

はじめは小さなドックと、
そこに備え付けられた『バーボンハウス』という小さなバーをもってその歴史を開始したこの島は、
ジャンク王『シャキン・ザ・パンティー』という人物によって造られた。

その後、廃棄された艦隊の残骸などが寄せ集められて規模を拡大、
やがてそこに病院やらパーツ屋やらがドンドンと建てられるようになり、
気が付けば鈍色の星は大所帯を抱える巨大な機械の島と化していた。

来るものを拒まないこの島には
次第に落とされた海賊の乗組員や逃げ延びた犯罪者も住み着くようになり、
いつしか文字通り『鈍色』の無法地帯と化した。

しかし、こういう所こそ娯楽や活気、そして数々の裏情報が集まるものである。
よって、海賊狩りで悪名高い『VIP』もこの島を活用する重要な顧客だった。

『VIP』は様々な残骸で出来たデコボコな島の表面の中から手馴れた手つきで
外来用のドックを見つけると、そこに向けてためらい無く着艦した。



18:黒豆(九粒) :2006/12/10(日) 02:13:26.03 ID:P5rHd11x0

( ゚д゚ )『総員、長らくの飛行ご苦労だった。
    我が艦は、今日からしばらくの間この島で整備、補給、及び装備の換装を行う。
    その間、総員に交代で休暇を与える。羽目を外し過ぎて騒ぎを起こすなよ』


「「「 イヤッホオオォォオオォオオォオ!!」」」


艦内に響き渡ったミルナの放送に、乗組員達が一斉に歓声を上げる。

  _
( ゚∀●)ノ「イヨッシャアアアアァァァァアア!!」


周囲の歓声の中でも、最もよく響く大声を出すのが眼帯の副整備長だ。
先日独房から開放された彼は、気味が悪いほどにいつもどおりだった。

そんな彼に一瞬戸惑いつつも、ムードメーカーである彼の復活に艦内の人間はすぐに喜んだ。

それはブーンもツンもオカマも同じで、
ブーンとの約束どおり、ジョルジュは普段どおりの明るい笑顔を皆に振りまく。



19:おせち(8,000円) :2006/12/10(日) 02:14:24.76 ID:P5rHd11x0
  _
( ゚∀●)「競馬だ!競馬!!ここに来たらまずは競馬だろう!?」

('∀`)「ぶほほほほwwwww今日はG1無馬記念よ!!行くっきゃないわ!!」


周囲の人間に向かって騒ぎまくるジョルジュとオカマ。
その直後に流れる、彼らを絶望のどん底に引きずり落とすミルナの艦内放送。



( ゚д゚ )『なお、整備班はドックの人間との打ち合わせのためにしばらく残ってもらう』



21:おせち(8,000円) :2006/12/10(日) 02:15:51.97 ID:P5rHd11x0

  _
( ;∀●) (;A;)「「グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国――――――――!!」」


あまりのショックにイギリスの正式名称を叫ぶ二人。
ひざを突いて天を仰ぐ二人を、ブーンとツンはニヤニヤと笑みを浮かべて眺めていた。

そんな二人に向かって鬼の形相で駆け寄ってくるオカマとジョルジュ。


('A`#)「あんた達、あたし達が帰ってくるまで外出禁止よ!」

(;^ω^)ξ;゚听)ξ「「エエエ―――――――!!」」
  _
(#゚∀●)「てめぇら、先に行きやがったらぶっ殺すからな!!」


そんなわけで、
ブーンとツンは整備班の打ち合わせが終わるまで艦内で待たされる羽目になった。



22:おせち(8,000円) :2006/12/10(日) 02:20:01.00 ID:P5rHd11x0

数時間後。

ようやく戻ってきたオカマとジョルジュとともに、
ブーンとツンは『鈍色の星』へと足を踏み入れた。

向かうのは、島内でも最もにぎわう繁華街。

パーツ屋やらなんやらの露店が所狭しとひしめくこの通りを、
四人は目的の場所に向けて一直線に歩を進める。


ξ゚ー゚)ξ「ブーン見て!見たことも無い形のエキパイよ!!」

( ^ω^)「おおおお!是非とも見ていくお!!」


珍しいパーツが並べられる露店は二人にとって天国だった。
花の香りに吸い寄せられる蝶のようにフラフラと露店へ向かう二人。
しかし、そんな二人に向けられるジョルジュの怒鳴り声。

  _
(#゚∀●)「道草くってんじゃない!無馬記念始まっちまうだろうが!!」



23:おせち(8,000円) :2006/12/10(日) 02:20:53.60 ID:P5rHd11x0

ξ#゚听)ξ「なによ!ちょっとくらいいいじゃない!!」
  _
(#゚∀●)「そんなのいつでも見れるだろうが!それよりも今は競馬だ!!」


そう言って、ジョルジュはオカマとともに馬券予想を始める。
二人は露店で買った競馬新聞を必死の形相で眺めながら大声でわめく。

  _
( ゚∀●)「やっぱり六冠馬のティウンティウンか!?」

('A`)「いや、ここは大穴のクリリンノコトカよ!!」


人ごみをぶちのめしながらドンドン先へ進んでいくジョルジュとオカマ。
そんな二人の後姿にため息をつき、ブーンとツンはしぶしぶ後に続いた。



25:おせち(8,000円) :2006/12/10(日) 02:24:08.72 ID:P5rHd11x0

更にその数時間後。

『鈍色の星』の最上部に建てられた豪邸。
その中の一室で向き合う二人の男がいた。


(`・ω・´)「久しぶりだな。ショボン」

(´・ω・`)「兄さんこそ。相変わらずこの島は賑やかだね」

(`・ω・´)「まあな。お前こそ、ついに御尋ね者になったらしいじゃないか」


そう言って、テーブルの上のテキーラをすする二人。


(´・ω・`)「……懐かしいね。
      誰にも邪魔されずに、二人っきりでテキーラをすするなんて何十年ぶりかな?」

(`・ω・´)「お前がこの島を出て行って以来だからな。俺もお前も年をとるはずだ」


見上げた男の顔には懐かしそうな笑み。
対面の男の表情に、ショボンも無邪気な笑顔で答える。

しかし、男の次の言葉に二人の表情は一変する。



26:黒豆(六粒) :2006/12/10(日) 02:25:14.75 ID:P5rHd11x0

(`・ω・´)「しかし、ここに来たのは馴れ合いのためでは無かろう?」

(´・ω・`)「うん」


肯定の言葉と同時に、ショボンは手のひらサイズの機械を男に差し出す。


(´・ω・`)「この中に、ラウンジ艦隊旗艦『ジュウシマツ』のエンジン音が録音されている」

(`・ω・´)「ほう。それで?」

(´・ω・`)「この音を追う『耳』を造ってほしい。集音範囲は半径五百km」

(`・ω・´)「無茶な注文だなw」


手にしたテキーラを飲み干し、苦笑いを浮かべる男。


(´・ω・`)「無茶は承知。でも、仙道なら……兄さんならきっと何とかしてくれる」

(`・ω・´)「……見つかったか、『エデン』が」



28:黒豆(六粒) :2006/12/10(日) 02:26:27.98 ID:P5rHd11x0

(´・ω・`)「……」


男の問いかけに笑みを返して、ショボンは立ち上がった。
そのまま室外へ続く扉へと向かう。
そんな彼の背中に投げかけられる男の言葉。


(`・ω・´)「今日の無馬記念で万馬券が出たそうだ」

(´・ω・`)「……それが?」

(`・ω・´)「当てたのは巨大なオカマと眼帯の男らしい」

(´・ω・`)「……あははははwwwwwwあの馬鹿たちか!!」


男に背を向けたまま、ショボンは大声で笑う。
おかしさに震えるショボンの背中に投げかけられるのは、寂しそうな男の声。



29:黒豆(六粒) :2006/12/10(日) 02:28:49.78 ID:P5rHd11x0

(`・ω・´)「他の『VIP』の乗組員らしき者達も、島内のあちこちで御祭り騒ぎしているそうだ。
     楽しそうな『家族』を集めたな」

(´・ω・`)「……うん」

(`・ω・´)「……おまえの目的は達しただろう?
     孤児だったお前が心の底から欲しがっていた最高の『家族』……
     ならば、もういいじゃないか。
     メンヘラと競合して『エデン』を目指すなんて危険なマネはもう止めろ」

(´・ω・`)「……それは無理だよ」


呟いてショボンは振り返る。
浮かべた表情は、寂しさの混じった微笑。


(´・ω・`)「僕達はまだ『エデン』の名の下に集まった仮初の『家族』だ。
      だから、『エデン』をあきらめた瞬間にその結束は千切れる」

(`・ω・´)「……」

(´・ω・`)「……公約は果たさなきゃね。
      それを果たしてこそ、はじめて僕達は真の『家族』になれるんだ」



31:黒豆(六粒) :2006/12/10(日) 02:30:19.33 ID:P5rHd11x0

(`・ω・´)「……そうか」


後に広がるは沈黙。
二人は互いの眼を見つめあうと、言った。


(`・ω・´)「やらないか?」

(´・ω・`)「うほっ、いい男」


そして二人は互いの股間をなすり付けあう。
これが血の繋がっていない二人の義兄弟の契りだった。


(´・ω・`)「じゃあ、僕は行くよ。
     馬鹿たちが万馬券を当てたとなれば、『バーボンハウス』は騒がしくなるよ」

(`・ω・´)「そいつは恐ろしいw俺もすぐに行って店の準備をしなければな」

(´・ω・`)「ふふふ。頼んだよ」


そう呟くと、ショボンの姿は扉の向こうへと消えた。


第十八話 おしまい



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