( ^ω^)ブーンは砂漠に生きるようです

5: ◆ExcednhXC2 :2007/10/16(火) 22:53:13.53 ID:wMLTuwn00

第四話「月下――戦い終えて」


この世界には二種類の人間が存在する。
普通の人間と、特殊な能力を持った人間の二つだ。

生まれながらにして特殊な能力を持つ者。
いつしかそれは、ナチュラリストと呼ばれるようになった。

身体能力の上昇。
そして、特異な能力。

彼らはある言葉を唱えることにより、普通の人間にはなし得ない力を発揮する。


その言葉とは――――



7: ◆ExcednhXC2 :2007/10/16(火) 22:54:29.15 ID:wMLTuwn00


( ^ω^)「エクシ――ド!」


ブーンの体が一瞬光輝く。

市場から少々離れた所にあるバー。
バーボンハウスと書かれた看板のある店で、今日も人々は酒や料理を楽しんでいた。


「おお、これが噂のエクシードって奴か! なんか凄いな!」
「ほー。こいつがあの流石兄弟を倒したっていう……」

( ^ω^)ノシ「いやはや、どうもどうもですお」


ブーンが頭を下げ、客達に挨拶すると拍手喝采がバーを包んだ。
酒が入り、ハイになった人々の口からアンコールの声が飛び交う。



11: ◆ExcednhXC2 :2007/10/16(火) 22:56:31.69 ID:wMLTuwn00

( ^ω^)「いやぁ、それじゃ熱烈なアンコールにお答えして……」

ξ#゚听)ξ「アホか――――!」

(;^ω^)「ひぃ! つ、ツン!」


耳元で大声を出され、しばし耳の中がカオス状態になるブーン。
しかし、その原因であるツンはお構いなく大声で話し続ける。


ξ#゚听)ξ「あんたね、まだ傷も治ってないのに無駄にエクシード状態になるんじゃないわよ!
     午前中だって、訓練は無しだったのに勝手に自主練習するし!
     怪我が長引いても知らないわよ!?」

(;^ω^)「ぐぅぅ……ツン、もう少しボリュームダウンして欲しいお」


そのやり取りを見て、酔った客から笑い声が飛ぶ。
ツンはばつの悪そうな顔をし、ブーンの首根っこを捕んで無理やり二階へと引きずって行った。



13: ◆ExcednhXC2 :2007/10/16(火) 22:59:10.59 ID:wMLTuwn00

('、`*川「すっかり有名人になっちゃいましたね」

(´・ω・`)「そうだね。流石兄弟は結構有名な盗賊だったから、噂になってるよ。
      子供が流石兄弟を討ち取った、ってね」

('、`;川「討ち取ってはいないんですけどね」

(´・ω・`)「噂なんて人から人へと伝わっていくうちに大事になっていくものさ。
      はい、フルーチョ・ポンチお待ちどう」


ペニサスと雑談をしながら、カウンターの客に酒を出すショボン。
フードを被った若い客は、横目でその騒ぎを見ながら受け取った。


( ^Д^) 「すごいですね、マスター。大盛況じゃないですか」

(´・ω・`)「ええ。ただ、お店が儲かるのはいいけど、自分が飲む分が無くなるのがちょっと残念かな」

( ^Д^) 「ははは。商売物に手をつけるのは、商人にとってご法度ですよ」


男は愉快そうに笑い、酒を一口飲む。



15: ◆ExcednhXC2 :2007/10/16(火) 23:03:05.24 ID:wMLTuwn00

( ^Д^) 「あの子達はマスターのお子さんで?」

(´・ω・`)「いや、血の繋がりはないんです。いわゆる拾い子ってやつですね」

( ^Д^) 「へぇ……。まぁ、VIPには色々な事情を持った人が集まりますから。
      かくいう私も、樹木の国から追い出されたはぐれ商人なんですけどね」


ほろ酔いしているのか、商人は頬を赤らめて雑談を続ける。


( ^Д^) 「最近は、私みたいに砂漠を行きかう商人を狙う賊が増えてきましてね。
      本当に困ってるんですよ。私もナチュラリストなら、そんな連中返り討ちにするんですが」

(´・ω・`)「そればっかりは仕方ないですよ」


こうやって愚痴を聞くのも、バーの仕事の一つである。
ショボンは商人の言葉一つ一つに頷いた。



16: ◆ExcednhXC2 :2007/10/16(火) 23:04:53.83 ID:wMLTuwn00

('、`*川「あの……えーっと、商人さん?」


今まで黙ってグラスを拭いていたペニサスが声を掛ける。
商人と呼ばれ、男は微笑みながら名を名乗った。


( ^Д^) 「プギャーです。これはこれは、綺麗なお嬢さんだ」

('、`*川「え、いや、そんな綺麗だなんて……。あ、私の名前はペニサスっていいます」


綺麗という褒め言葉に、もじもじと俯きながら返答するペニサス。
その隣で、ショボンが眉を吊り上げながらプギャーを睨み付けた。


(´゚ω゚`)「うちの娘に手だすなよ」

(;^Д^)「ごめんなさい」


ペニサスに気付かれぬよう、小声で釘を刺すショボン。
その形相は、背筋が凍りつくほど恐ろしかった。



17: ◆ExcednhXC2 :2007/10/16(火) 23:08:50.96 ID:wMLTuwn00

('、`*川「あの、少しお聞きしたい事があるんですけど……」

( ^Д^) 「私に答えられることであれば全然構いませんよ」


それじゃあ、と言い仕切りなおすペニサス。
その背後からショボンが物凄い形相で見張っている。


('、`*川「ナチュラリストって、他の国や街にも沢山いるんですか?
     私はブーンとツン以外のナチュラリストを見たことが無いので……」

( ^Д^) 「うーん、沢山とは言えませんが、他の国や地域でも見かけたことはありますね。
      特に大きな国になると、兵隊として出世出来るのはナチュラリストのみ、という国もあります」

('、`*川「へぇ……。やっぱり他の国にもナチュラリストはいるんですね。
     私はこの街から出たことが無いから、外の世界はさっぱりわからなくて」



18: ◆ExcednhXC2 :2007/10/16(火) 23:10:13.33 ID:wMLTuwn00

( ^Д^) 「私でよければ、外の世界をエスコートしてあげますよ。
      あなたの様な綺麗なお嬢さんと一緒に旅が出来たら……」

そう言い、プギャーはペニサスの手を両手で覆うように握った。

('、`*川「プギャーさん……えと、あの」


頬を赤く染まらせ、困った様子ながらもその手を振り解こうとはしないペニサス。
その瞳の奥に輝くのは、十六歳の若き乙女心であろう。


(´゚ω゚`)「どうやら貴様は禁断の果実に触れちまったようだなぁ……」

(;^Д^) 「ひえっ!」


咄嗟に握っていた手を離し、立ち上がるプギャー。
ゆっくりとカウンターから出るショボンの形相は、鬼の如く憤怒した様子であった。



20: ◆ExcednhXC2 :2007/10/16(火) 23:14:00.91 ID:wMLTuwn00

(´゚ω゚`)「ちょっと外に出ようか。 ペニサス、僕はこの人と大事なお話があるから、店を頼むよ」

(;^Д^) 「あの、私はその、決してやましい気持ちとか口説いちゃおうとか考えてないですよ。
      ただ純粋にですね、外の世界を案内してあげよかなー、なんて……」

(´゚ω゚`)「ほーう? じゃあ外でじっくり聞かせてもらおうか。プギャーさん?」

(;^Д^)「す、すすすすいませんでした勘弁して下さ――い!!」


嫌がるプギャーを掴み、笑顔で外に出て行くショボン。
当のペニサスは頬を赤くしたまま、ぼんやりと宙を見つめていた。



21: ◆ExcednhXC2 :2007/10/16(火) 23:15:21.35 ID:wMLTuwn00

('、`*川「綺麗なお嬢さん……私が、綺麗」

「よう、お嬢さん。酒の追加頼むわ」

('、`*川「うふふふ……。やだ、綺麗だなんて。もうどうしよーっ!」

「あ、あの〜、お酒の追加……」


両手で頬を押さえ、堪え切れない感情を体で表現するペニサス。
そんなメンヘルな彼女を見た客は、誰一人として注文をすることは出来なかった。



22: ◆ExcednhXC2 :2007/10/16(火) 23:16:29.03 ID:wMLTuwn00

              ※


(:^ω^)「九十八……九十九……百!」


酒乱達の騒ぐバーボンハウスの二階。
一人自室で腕立て伏せをするブーンがそこにいた。


(;^ω^)「よし、次は腹筋を鍛えるお」

ξ゚听)ξ「ブーン、入っていい?」

( ^ω^)「ツンかお? どうぞだお」


承諾をもらい、ドアを開け入ってくるツン。
ブーンは一息つき、立ち上がって彼女の顔を見た。



23: ◆ExcednhXC2 :2007/10/16(火) 23:18:29.27 ID:wMLTuwn00

( ^ω^)「何か用かお?」

ξ゚听)ξ「ううん。ちょっと暇だったから」

( ^ω^)「そうかお。まぁ立ってないで座るお」


小さく頷き、古ぼけた椅子に腰掛けるツン。
その表情は何か思いつめているような、真剣な表情だった。


( ^ω^)「……どうしたお? なんだか元気ないお」

ξ゚听)ξ「そう? いつも通りよ」


そう言うと、お互いに黙り込み沈黙が流れた。

窓から差し込む月の光が、ツンの整った横顔を照らしていて、
綺麗だな、なんて、そんな事を思うブーン。



24: ◆ExcednhXC2 :2007/10/16(火) 23:19:36.46 ID:wMLTuwn00

ξ゚听)ξ「ねえ、ブーン」

( ^ω^)「お?」

ξ゚听)ξ「またトレーニングしてたの?」


ツンが視線を床に向ける。
そこには筋トレ用の重りや、砂袋がおいてあった。


ξ゚听)ξ「一体どうしちゃったのよ? 傷だってまだ完治してないのに」

( ^ω^)「……僕はもっと強くならなきゃいけないんだお」


ブーンは窓の外に視線を向ける。
窓に映る自分の顔。その先に見える空には、夜の帳が降りていた。



26: ◆ExcednhXC2 :2007/10/16(火) 23:23:52.45 ID:wMLTuwn00

( ^ω^)「流石兄弟と戦った時、正直僕は怖かったお。勝てないと思ったお。
      今までは、訓練もちゃんとやってきたし、ナチュラリストだから自分は強いんだと思い込んでいたんだお」


ツンに背を向け、窓の外を見つめたまま続ける。


( ^ω^)「だけど、それは僕が見てきた狭い世界での話で、外の世界にはもっと強い人がまだまだいるんだお。
      今のままじゃダメなんだお。もっと……もっと強くなりたいんだお」

ξ゚听)ξ「……」


何も言わず、じっとブーンの言葉を聞いているツン。
夜風が窓に当たり、がたがたと音を立てる。


( ^ω^)「そして、僕達の故郷や……父さんや母さんを殺した赤い化け物をこの手で殺すんだお」



28: ◆ExcednhXC2 :2007/10/16(火) 23:25:55.18 ID:wMLTuwn00

『赤い化け物』という言葉を聞いて、ツンは頷き表情を曇らせた。

心の奥底にしまわれた、五年前の記憶。
二人がまだ八つだった頃の悪夢が、二人の頭に浮かび上がる。

轟音と共に揺れる大地。

悲鳴をあげ逃げ惑う人々。

――――そして、咆哮をあげ破壊の限りを尽くす、赤い体の巨人。

惨劇を思い出し、やりきれない思いに拳を強く握るブーン。


( ^ω^)「……僕達から全てを奪っていったんだお。
      絶対に見つけ出して、僕の手で敵をとってみせるお」



29: ◆ExcednhXC2 :2007/10/16(火) 23:30:46.64 ID:wMLTuwn00

別人のように淡々とした口調で言い放つブーン。

二人しか知らない、強さを求める本当の理由。
表向きは自己防衛の為だが、真の目的は復讐という別のところにあった。

数分とも数時間とも思えるような間の後、ツンは立ち上がりドアに手を掛ける。


ξ゚听)ξ「今日はもう寝るね。おやすみ」

( ^ω^)ノシ「うん。おやすみだお」


振り返り、いつもの温厚な笑顔で見送るブーン。

ツンは何ともいえない思いに悶々としたまま、ドアを閉め部屋の外に出る。
ドア越しに、砂袋を何度も叩く音が聞こえた。


ξ゚听)ξ「敵を討ったら、お母さん達は喜ぶのかな?
     私にはよくわかんないよ、ブーン……」



31: ◆ExcednhXC2 :2007/10/16(火) 23:32:08.73 ID:wMLTuwn00

              ※



( ´_ゝ`)「はぁ……うひぃ……」


月の光に照らされながら、夜のVIPを走る人影が一つ。
ぼろぼろの体を引きずるようにして走っているその人物は、牙猫盗賊団の兄者だ。


( ´_ゝ`)「クソッ……まさか気を失ってしまうとは……。
       日陰じゃなかったら干乾びてミイラになっちゃうところだったぜ」


ブーンの一撃を受け、そのまま放置されていた兄者。
あれから丸一日気を失ったままで、目覚めた時には脱水症状寸前の死にかけの体であった。

いき倒れと勘違いし、同情の瞳を向ける子供から水と食料を分けてもらい
何とか走れるようになるまで回復して今に至る。



32: ◆ExcednhXC2 :2007/10/16(火) 23:35:40.84 ID:wMLTuwn00

( ´_ゝ`)「おやぶ――ん!! てえへんだてえへんだ!!」


VIPの街外れまで来た兄者は、大声を出しながら枯れ木で覆われたアジトへと入っていく。
冷たい風が枯れ木の間から通り、何とも心地よい場所だ。


「……兄者。てめぇアジトに入る時は合言葉を言えっていっただろうが!」


暗闇の中、一つの人影が動いた。
徐々に明るみに出るその人影は、頬に切り傷の後を持った一人の男だ。



33: ◆ExcednhXC2 :2007/10/16(火) 23:39:48.63 ID:wMLTuwn00

( ,,゚Д゚)「ついでに言うと、てめぇうるせーぞゴラァ!
     夜中に大声だすんじゃねえ!!」

(;´_ゝ`)「ひぃぃごめんなさいギコ親分!」

( ,,゚Д゚)「分かればいい。で、何があったかさっさと言え! 今すぐ言え!
     てゆーか帰り遅ぇんだよゴラァてめえ! 門限はちゃんと守れ!」

(;´_ゝ`)「ひぃ! 生まれてきてごめんなさい!」


許してから三秒で別の怒りを思い出す、ギコと呼ばれた男。
柄の悪い面構え、筋肉質な体、低く威圧的な声。

牙猫盗賊団のボス、『荒くれのギコ』と、街の人は彼をそう呼んだ。



35: ◆ExcednhXC2 :2007/10/16(火) 23:41:43.03 ID:wMLTuwn00

兄者が謝っては、それを許し再び別のことで怒り出すギコ。
そのやり取りが続き、ネタが尽きたところで兄者はようやく本題を切り出す。

( ,,゚Д゚)「……で、何が大変なんだ?」

( ´_ゝ`)「親分、実はかくかくじかじか……」

( ,,゚Д゚)「何ぃ? 餓鬼と小娘にやられて弟者はロマネスクの野郎に捕まった?」

( ´_ゝ`)「おっすおっす」

( ,,゚Д゚)「ったく、世話が焼けるぜ。てめぇら気合が足りねーんだよ。
     男だったら自分のケツは自分で拭ける様になりやがれ!!」

(;´_ゝ`)「ひぃぃ! ケツも満足に拭けなくてごめんなさい!」


怯える兄者から視線をはずし、重い腰を上げるギコ。



38: ◆ExcednhXC2 :2007/10/16(火) 23:48:38.19 ID:wMLTuwn00

( ,,゚Д゚)「オラ、さっさと助けに行くぞゴラァ!
     今の時間ならロマネスクの野郎は寝てるはずだ!」

( ´_ゝ`)「おっすおっす!」


一礼する兄者の横を通り過ぎ、外に出るギコ。
闇に覆われた夜の街を見て、楽しそうに微笑んだ。


( ,,゚Д゚)「フン。待っていろ、風を使うナチュラリスト……。
     部下の借りはきっちり倍返しさせてもらうぜ」


砂漠の街に、再び戦いの息吹きが吹き荒れる。
その事を、風を使う少年――ブーンは、知る由も無かった。


第四話 終わり



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