('A`)ドクオと( ^ω^)ブーンが旅行をするようです

9: ◆spzKjTJd5o :2007/03/03(土) 00:40:02.01 ID:DmJZNkAP0
第7幕:台風一過
 
 
いま、タクシーは県を横断する高速道路を走っている。高架から見下ろす高松の町並みは、やはり
東京と比べるとずっと平坦だ。これでも『都市』の部類に入るのだろう。首都圏ばかりを都市として
認識してきたせいか、とてもちっぽけに見える。
 だが、空気は高松の方が澄んでいる。雨が降ったばかりからか、土ぼこりのようなものは一切なく、
視界がいい。空はというと、抜けるような紺碧だ。台風一過とは、このようなものだろうか。
 ふたりは、うしろに流れる景色をぼーっと眺めていた。



10: ◆spzKjTJd5o :2007/03/03(土) 00:41:11.86 ID:DmJZNkAP0
('A`)「ところで長岡さん」
  _
( ゚∀゚)「はい、なんでしょうか?」長岡は前方に向けられた視線を逸らさずに訊きかえす。

('A`)「これから何処にいくつもりなんですか? 高速なんか使って、やけに遠いところに行こうと
 しているのでは……」
  _
( ゚∀゚)「ははっ、香川の広さはタカが知れてますよ。いま私たちは、とある寺に向かっています」

( ^ω^)「寺かお? あの…『きんぴらさん』とか?」



11: ◆spzKjTJd5o :2007/03/03(土) 00:42:14.55 ID:DmJZNkAP0
('A`)「…………『こんぴらさん』?」

( ^ω^)「そうそれ」
  _
( ゚∀゚)「こんぴらさんとは、また違うんですよ。あそこは神社です。今私たちが行こうとして
 いるのは、『オオクボ寺』です。大きな窪みと書いて『大窪寺』」

( ^ω^)「そこに何をしに行くんですかお?」
  _
( ゚∀゚)「まあ、お遍路さんの最終目的地、88番札所ですので観光はもちろん、腹ごなしに石段を
 昇るのも良いかと思いまして。山の中にある寺ですから、山歩きもできますよ」



12: ◆spzKjTJd5o :2007/03/03(土) 00:44:22.18 ID:DmJZNkAP0
('A`)「へぇ……」

( ;;^ω^)「や、山歩きかお……。僕は遠慮したいお……」
  _
( ゚Д゚)「何言ってるんですか。体を引き締めたいとは思いませんか?食べた後に体動かさないと
 肉にばかりなりますよ」

( #^ω^)「…………わかりましたお」
  _
( ゚∀゚)「そう来なくっちゃあ。タクシーばかりでは体に毒ですよ」



13: ◆spzKjTJd5o :2007/03/03(土) 00:46:01.94 ID:DmJZNkAP0
 暫らく走っていると、市街地に架かっていた道路はいつしか山間部の道へと変化する。それから
トンネルを一本抜けると、すぐ近くのインターで降りた。
  _
( ゚∀゚)「ここから30分ぐらい下道になります。まあ、寝るなり景色見るなりしてて下さい」

('A`)( ^ω^)「はい」



14: ◆spzKjTJd5o :2007/03/03(土) 00:47:54.47 ID:DmJZNkAP0
車窓からは特に目を引く景色は見えない。
 周囲には県道を挟むようにして水田が広がり、台風の残り風が吹くとサラサラという音とともに青い稲穂の波が立った。

 信号もない。

 対向車もない。

 あるのは原色の景色。東京にはない。

 ここには、普段感じることのできない時間が流れているようだ。
  
 流れる景色を眺めていると、やがて周囲の景色が山がちになってくる。道も曲がりくねってきた。



15: ◆spzKjTJd5o :2007/03/03(土) 00:49:22.43 ID:DmJZNkAP0
('A`)「…長岡さん。窓開けていいですか?」
  _
( ゚∀゚)「いいですよ。じゃあ、冷房切りましょうか」
 
( ;^ω^)「えぇ…、暑くないかお?」

('A`)「んじゃあ、そっち側の窓も開けてみろよ。車の両側の窓を開くと、なかなか良い風が吹くんだぜ

?」
( ;^ω^)「えぇ〜……」
  _
( ゚∀゚)「まあ、とにかく冷房切りますよ。ドアに付いてる取っ手を回して窓を開けてください」

( ;^ω^)「……わかったお」



16: ◆spzKjTJd5o :2007/03/03(土) 00:51:21.79 ID:DmJZNkAP0
 ドクオとブーンが、取っ手をぐるぐる回して窓を開ける。
 とたん、雨上がり独特の山の空気が車内を抜けた。

('A`*)「…………」

(*^ω^)「…………」
 _
(*゚∀゚)=3ムッハー
 
 しんと冷えた空気。
 ぷんと薫る土の匂い。
 それぞれが深呼吸して、肺いっぱいに山の澄んだ空気を取り入れる。



17: ◆spzKjTJd5o :2007/03/03(土) 00:52:53.54 ID:DmJZNkAP0
'A`*)「空気にも匂いってあるんですね……」

(*^ω^)「なんだか、森林浴しているみたいだお……」
  _
( ゚∀゚)「そうですね。今日はとくべつ土の匂いが強いです」

 窓を開けることで、風とともに音も流れてきた。
 降った雨が沢となり、岩場から潺々と湧いてくる音。
 風が吹くたびにざわめく木々の音。
 どこか遠くでさえずっているホトトギスの啼き声。

('A`)「何だか、同じ日本とは違う感じがしますね」



19: ◆spzKjTJd5o :2007/03/03(土) 00:54:37.08 ID:DmJZNkAP0
  _
( ゚∀゚)「同じ日本でも、ここは四国ですからね。本州とはちょっと違う空気が流れているんでしょう


 四国と本州を隔てて瀬戸内海や紀伊水道がありますからね。陸続きならもう少し本州の空気が
流れてもいいでしょうが。もっとも、ロクに四国から出たことはないんですが」

( ^ω^)「まあ、住んでる所が首都だから、本州の閑村でも僕らは同じような感触を受けるかも知

れないお」
  _
( ゚∀゚)「まあ、首都圏に居る人達はこんな島の、こんな山奥には滅多に来ないでしょうからね。
 都市の人間を寄せ付けない結界か何かがあるんじゃないですか?今は、台風によってその結界が
 解かれたとか」



20: ◆spzKjTJd5o :2007/03/03(土) 00:55:29.58 ID:DmJZNkAP0
( ^ω^)「そう考えたら、やっぱり台風がありがたく思えてくるお。台風が来なかったら、
 高松からロクに出て行かなかったと思うお」

('A`)「そうだな……。これからvip峡に行くのも、台風のお陰だもんな」
   _
(゚Д゚ )「…いま、『vip峡』と言いました?」

('A`)「え?ええ……はい、そう言いましたが」 

( ^ω^)「vip峡を知っているのかお?」



21: ◆spzKjTJd5o :2007/03/03(土) 00:59:05.13 ID:DmJZNkAP0
  _
( ゚Д゚)「『知っている』と言うより、『聞いたことがある』と言う方が正しいでしょうかね……」

('A`)「なぜ知ることになったんです?聞いたところじゃ、vip峡は存在自体を知らない人が多いようで

すが」
  _
( ゚Д゚)「ン……まあ、それは追い追い話しましょう。もう少しで着きますよ」

 見ると、寺の山門がもう目の前に迫ってきている。華美さは無いものの、けっこう大きい。
 タクシーは山門の前に設けられた駐車場に滑り込んだ。



22: ◆spzKjTJd5o :2007/03/03(土) 01:01:12.44 ID:DmJZNkAP0
  _
( ゚∀゚)「では、参りましょうか」

('A`)( ^ω^)「はい」

そう言うと、3人はタクシーから出る。
 山道とは違って照りつける日差しは強く、台風が去ってようやく初夏の陽気が戻ってきたようだ。
 とても暑い。うだるように暑い。
 それでも、3人は確かな足取りで山門に向かった。




第7幕:台風一過                    了



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