('A`)ドクオと( ^ω^)ブーンが旅行をするようです

5: ◆spzKjTJd5o :2007/03/06(火) 21:44:41.65 ID:p5n6XnKD0
第8幕:鼎談



 提灯が無く、ひとまわり小さい雷門のような山門をくぐり抜けるると、頭上には様々な木々が枝を張っていた。
その全て青々とした葉を繁らせて風に揺らせており、葉の隙間から陽光がキラキラ零れてくる。
幹の所々ではクマゼミがガシガシと騒がしく鳴いている。
 山門を抜けてから本堂へと抜ける道には所々に石段があって少々つらいが、足許は石畳なので、
雨上がりにも関わらず歩きやすい。のんびりと歩を進めながら一行は長岡を中心にして会話していた。



6: ◆spzKjTJd5o :2007/03/06(火) 21:47:36.93 ID:p5n6XnKD0
 暫らく木々の下を歩いていると、本堂が見えてきた。
  _
( ゚∀゚)「そろそろ着きますね。ここが結願の寺、大窪寺です」

( ^ω^)「ふぅ……疲れた」

('A`)「耳慣れない言葉ですが、『けちがん』って何ですか?」
  _
( ゚∀゚)「まあ、民間信仰で言う『願掛け』ですね。例えば、香取神社のお百度参りみたいなもんです。
 信じるものは救われる、ってヤツだと思ってください。この寺まで無事にお参りできたら結願です」

( ^ω^)「で、何でこの寺がそんなに重要なんですかお?」



7: ◆spzKjTJd5o :2007/03/06(火) 21:49:45.19 ID:p5n6XnKD0
  _
( ゚∀゚)「四国には、弘法大師空海が修行したと伝えられるお寺(霊場)が八十八ヶ所あります。
 それぞれ○○番札所と呼ばれ、徳島県にある1番札所の霊山寺(りょうぜんじ)から数えて
 ここが最後の札所、つまり88番札所大窪寺なんです」

('A`)「お遍路さん、ってのは?」
  _
( ゚∀゚)「四国八十八ヶ所霊場を踏破して、それぞれの寺で納経をする人達ですね。それぞれが
 何らかの強い動機を持って、1番札所の霊山寺からこの大窪寺までずーっと歩くんです。
 その願いが本当に叶うかどうかは 定かではありませんが、この大窪寺まで巡礼したお遍路さん
 たちは、みんな何かしらの達成感を得られるようです。人生に悩んだ人が、傷心旅行を兼ねて
 巡礼するケースも結構あります」



8: ◆spzKjTJd5o :2007/03/06(火) 21:52:09.30 ID:p5n6XnKD0

(^ω^; )「た、大変じゃないのかお?だって、寺は四国4県の全てにあるんじゃないかお?」
  _
( ゚∀゚)「ええ大変ですよ、そりゃ。道のりにして1300km、日数にしてでも平均で40日。
 コレをひたすら 歩けと言われても、たいがいの人はできないでしょう」

(^ω^; )「少なくとも僕にはできそうにないお……」
  _
( ゚∀゚)「まあ、そこは信仰の世界ですからね。強い信念を持った人にはどうってこと無いんじゃない 

 ですか?」

('A`)「随分と詳しいんですね」
  _
( ゚∀゚)「そりゃ図書館で書きましたからね……って、何言ってるんでしょう、私」



10: ◆spzKjTJd5o :2007/03/06(火) 21:55:30.19 ID:p5n6XnKD0
 本堂へ向けてあるいていると、程なくして視界が開け、本堂の周辺の様子がはっきりと掴めるようになる。
 台風が去った直後にも関わらず、本堂の周りは多くの人で賑わっていた。洋服姿の一般参拝者が
多いようだが、中には菅(すげ)の笠を被り、白衣(びゃくえ)を着て杖を持っている者もいる。
手甲(てっこう)を嵌め、脚絆を巻いている人も居て、ひと目でそれとわかるお遍路スタイルだ。
 それに引き換え、この3人はみんなワイシャツに紳士用の長ズボン。こんな山奥の寺とは不釣合いな
格好である。
 
(^ω^; )「この人たち、みんなずーっと歩いてきたのかお?」
  _
( ゚Д゚)「ん〜。訊いてみたらどうです?」

( ^ω^)「そうするお」

 ブーンは、鼎の前に立って線香を立てている初老の男に近づいていった。



11: ◆spzKjTJd5o :2007/03/06(火) 21:59:31.09 ID:p5n6XnKD0
( ^ω^)「もすもす、お伺いしてもいいですかお?」

/ ,' 3「ん、なんですか?」男は振り向き、ブーンに応じた。

( ^ω^)「今までずーっと四国を歩いてきたんですかお?」

/ ,' 3「ええ。そうですよ」

( ^ω^)「何日ぐらいかかりましたかお?」

/ ,' 3「ん〜。道中で足の豆が潰れたり、何度も野宿をしたりと様々なアクシデントが
 あったから、ずーっと廻っていても2ヶ月ぐらいは掛かったかな……」



13: ◆spzKjTJd5o :2007/03/06(火) 22:01:37.41 ID:p5n6XnKD0
(^ω^; )「大変じゃなかったですかお?」

/ ,' 3「そりゃ大変でしたよ。でも、こうして無事に結願できたんです。得られる達成感の方が大きいですね」

( ^ω^)「あなたは、なぜお遍路になろうと?」

/ ,' 3「ん、会社で定年を迎えてヒマができましたのでね。もともと関東の人間なんですが、このまま
 コンクリートやアスファルトの世界でぼーっと生きながら死を迎えるのは何だか味気ないような
 気がしたんで、一念発起してお遍路になったわけで」



14: ◆spzKjTJd5o :2007/03/06(火) 22:04:45.41 ID:p5n6XnKD0
('A`)「奇遇ですね。僕らも関東の人間なんですよ。まあ、2日後には東京に戻る身ですが」

/ ,' 3「へえ……。それなら、尚更一度お遍路の旅をするのをお薦めしますよ。文明の利器から遮断された
 世界でひとり黙々と歩を進める生活をしていると、なんだかこう、浄化されるような気がします」

('A`)「浄化、ですか」

/ ,' 3「ええ。どうも都市部に居ると心が荒んでくるようですね。木々の芽が萌える春先から遍路を
 始めて、深緑の初夏に遍路を終える間に、様々なものに触れることができました。人の温かさや、
 鳥のさえずり、季節の移ろいなどですね。東京には何でもあると聞きますが、あれはウソですな」



15: ◆spzKjTJd5o :2007/03/06(火) 22:07:50.54 ID:p5n6XnKD0
('A`)「へぇ…。でも僕らは現役の社員なんで、お遍路したくてもなかなか出来ないでしょうね……。
 毎日が時間との闘いですから、四国中の寺を巡礼するなんてとても……」

(^ω^; )「僕は体力的に無理そうですお……」

,' 3「んなこと考えていたら始まりませんよ。私だって60超えて足腰が弱ってくる年頃にお遍路を
 始めたんですからね」
  _
( ゚∀゚)「失礼かも知れませんが、何かの結願のためにお遍路を始めたのではないのですか?」



16: ◆spzKjTJd5o :2007/03/06(火) 22:10:02.16 ID:p5n6XnKD0
/ ,' 3「ん、まあ、お遍路すること自体が『足腰が良くなって欲しい』ということを願ってもいますからね。
 私が道中で知り合ったお遍路さんにも、身体の健康を願う人が沢山居ましたよ」
  _
( ゚∀゚)「他にはどんな願掛けがあったのですか?」

/ ,' 3「自分の罪滅ぼしだとか、先立った夫の成仏だとか、悟りを開くことだとか、あるいは……」

('A`)「へぇ、色々あるんですね」

( ^ω^)「僕は美味しいものを沢山食べたいお」
  _
( ゚∀゚)「私は、商売繁盛ですかね」



17: ◆spzKjTJd5o :2007/03/06(火) 22:13:10.97 ID:p5n6XnKD0
/ ,' 3「……そうそう、聞いた話ですが、友人の快復という人も居たようですね」


( ^ω^)「友人のためにお遍路になるとは、感心な人だお」


('A`)「お遍路になってまで快復を願うってことは、現代医療ではどうしようもない病だったのでしょうか」


/ ,' 3「……私も詳しくは聞いていないんですが、なんでも旅先で厄介な病を貰ったようで。
とても治療できるようなシロモノではなかったとか……」


(^ω^; )「なんだか怖いですお……。楽しいはずの旅が一変してしまいそうですお…………」



18: ◆spzKjTJd5o :2007/03/06(火) 22:16:32.75 ID:p5n6XnKD0

  _
( ゚Д゚)「その人……、見た目はココにいるふたり位じゃなかったですか?」


/ ,' 3「さあ……。これは、人づてに聞いた話なので詳しくは分かりません」


('A`)「……長岡さん。何か心当たりでもあるんですか?さっきから、何か知っているようですが――」




(=゚ω゚)ノ「ぃょう!荒巻。待たせて済まなかった」



19: ◆spzKjTJd5o :2007/03/06(火) 22:19:54.06 ID:p5n6XnKD0
 ふいに、ドクオたちと会話していた男、荒巻と呼ばれた男と同じような風貌の男が話しかけてきた。
手にハンカチを持って拭き拭きしている。

/ ,' 3「ああ、トイレぐらいはゆっくり済ましても私は怒らんよ」

(=゚ω゚)ノ「おや、ここにいる方々は知り合いかい?」

/ ,' 3「いま知り合ったところだよ。そういえば、まだ名乗ってませんでしたたね。私は荒巻、こちらは
 ぃょうと申します。道中で知り合ったお遍路さんのひとりですよ。先ほどのお遍路さんとは違いますがね」

 そう言うと、荒巻はドクオたちに対して慇懃に頭を垂れた。



20: ◆spzKjTJd5o :2007/03/06(火) 22:22:42.79 ID:p5n6XnKD0
( ^ω^)「僕はブーンと言いますお。で、こちらの小柄なのがドクオ、こちらの渋いのが長岡さん」
  _
( ゚∀゚)('A`)「こんにちは」

(=゚ω゚)ノ「ぃょう、こんにちは。さて、知り合いになったところ早速で悪いが荒巻、今から納経を
 済ませようぜ。最後の納経なんだから、参拝の余韻が醒めないうちにやろう」

/ ,' 3「まったくせわしないな……もう少し心にゆとりを持てないのか………」



22: ◆spzKjTJd5o :2007/03/06(火) 22:27:41.12 ID:p5n6XnKD0
 ふぅ、と一息つくと、荒巻はドクオたちに向き直り、別れの言葉を口にした。

/ ,' 3「なんとも急ですが、ここらへんでお別れですな。道中、縁があったらまた会いましょう。
 さようなら」
  _
( ゚∀゚)('A`)( ^ω^)「さようならー」

 ぃょうに連れられ、荒巻が納経所へと向かっていく。
 小柄ながらも健脚なようで、しっかりとした足取りだった。
 荒巻たちの姿は、納経所へと消えていった。
 そして、また一行は3人になった。



24: ◆spzKjTJd5o :2007/03/06(火) 22:31:43.05 ID:p5n6XnKD0
 須臾の間。

('A`)「――長岡さん」

  _
( ゚Д゚)「はい、何でしょうか」


('A`)「先ほどから、僕たちと同じような風貌の男が気にかかるようですが、何かあったんですか?
 宜しければお聞かせ願いたいものですが……」

  _
( ゚Д゚)「…………」



25: ◆spzKjTJd5o :2007/03/06(火) 22:34:29.68 ID:p5n6XnKD0
( ^ω^)「僕も気になりますお。その人達がどんな旅をしたのか」

  _
( ゚Д゚)「…………わかりました、いいでしょう。では、例によってうどんですが、お昼ご飯を
 食べながら話をすることにしましょうか」


( ^ω^)('A`)「わかりました」



26: ◆spzKjTJd5o :2007/03/06(火) 22:36:42.19 ID:p5n6XnKD0
 ふたりは、長岡に連れられて昼食を食べに行く。
 これも、観光のために?
 ――否。
 5年前に長岡が関わったことについて聞くために。
 そして何より、vip峡について知るために



第8幕:鼎談                     了



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