('A`)ドクオと( ^ω^)ブーンが旅行をするようです

9: AV監督(石川県) :2007/03/12(月) 21:36:44.72 ID:cnn/xQak0
第9幕:車中にて・1              



 来たときとは違い、タクシーは郊外から延びているバイパスを走っている。
 夕刻が近い。
 昼間は燦燦と陽光を振りまいていた太陽も、今は西に沈む夕日として眼前に見える。
辺りはすっかり橙色に染まっており、振り向いて東の空を見ると、もう夕闇が迫っていた。

 昼に食べたうどんは打ち込みうどんと言い、具だくさんの豚汁でうどんを煮込んだような料理だ。
冬場に食べれば体が芯から温まるものの、夏場は少々食べるのに難儀する。それでも、味は良かった。
 良かった……のだが。 
 いま、車内のふたりは昼餉の余韻になど浸ってはいられなかった。もっと大事なことがふたりの
頭をもたげ、脳内を占領してしまっているので、考える余裕すらも無い。
10: AV監督(石川県) :2007/03/12(月) 21:38:42.78 ID:cnn/xQak0
 長岡は、5年前にも自分たちと同じような一行を乗せて、香川を案内していた。それも、ちょうど
台風が四国地方から抜ける日に。そして彼らは、香川での観光を終えるとvip峡に行ったのだ。
 そこで話が終わるなら、ただの運命の悪戯として一笑に附せそうである。ただ単に、5年前にも
ドクオたちのような一行が居ただけのことだ。

 だが、話はそこで終わらない。

 それからが問題なのである。



11: AV監督(石川県) :2007/03/12(月) 21:40:11.84 ID:cnn/xQak0
 vip峡で、ふたりのうちのひとりが発狂した。その後、ふたりともvip峡から無事に帰って来たものの
発作的な発狂は止むことがなかったという。
 現代医学なら、抗てんかん薬などで発作に対しては何らかの化学療法を採ることができる。
ふたりは、供に東京中の精神病院を駆けずり回った。
 しかし、それは徒労に終わっただけだった。化学療法による根治は叶わなかったし、寧ろ、
副作用に因る眠気・失調・悪心に悩まされる日々が続いた。

 彼の発作は、一向に収束する気配を見せなかった。
 幾ら有名な医者に掛け合っても、皆がみな匙を投げ続けた。
 幾ら時間をかけても、幾ら金をかけても、一向に発作は止まない。
 彼らには焦燥の念ばかりが募っていった。



12: AV監督(石川県) :2007/03/12(月) 21:42:49.54 ID:cnn/xQak0
 ある日、誰にも行き先を告げずにふたりは東京を離れた。独身のふたりの家には家財道具一式が残さ

れており、引越ししたようではない。ふたりを知る者は、誰もが失踪したと思い込んだ。
 その後のふたりのことについては、長岡も知らない。

 なんとも奇怪な話である。自分たちとは関係のない話のようであるが、もしもこの話が自分たちの
未来の暗示だったらと思うと、ぞっとする。なにしろ、今からドクオたちは香川の観光を終えると
vip峡に行き、東京に戻るのだ。
 vip峡でふたりを待っているのは、長岡の話どおりドクオかブーンの発狂か。
 はたまた、そんな5年前の話などやはり只の怪奇譚に過ぎず、気にすること自体が埒外なのか。



15: AV監督(石川県) :2007/03/12(月) 21:46:03.32 ID:cnn/xQak0
('A`;)(5年前、か……)

(^ω^; )(vip峡で何も無ければいいお……)

 昼餉の後に境内を散策し、奉納されているお遍路の錫杖や、お遍路に扮した像などを見て
廻ったが、全く空虚なものだった。頭に何も訴えかけて来なかった。ただただ、昼餉の際に聴いた
長岡の言ばかりが脳内を支配していた。
 タクシーの車内に会話は無く、空気がぴんと張り詰めている。
 それを気に病んでか、長岡が切り出した。
  _
( ゚Д゚)「…すいませんねお客さん。なんか……私のせいで気分を台無しにしてしまったようで」

('A`)「いや、別に気にすることは無いですよ。僕らの方から訊き出したのですから」

( ^ω^)「そうですお。別に深く考える問題でもないですお」



18: AV監督(石川県) :2007/03/12(月) 21:49:14.24 ID:cnn/xQak0
  _
( ゚Д゚)「そうおっしゃって下さると私としても有り難いんですが……」

 言葉はそこで途切れる。長岡は、その先の言葉を言いたくなかった。
 言ってしまったら、自分の言葉が全てウソになる。
 無駄な心配を掛けたくないのに、自分の所為で逆に無駄な心配を掛けてしまいそうで。
 自分も気にしたくないのに、その言葉で自分が余計に気になりそうで。


 ……本当は、もの凄く気になっているんじゃないですか?



20: AV監督(石川県) :2007/03/12(月) 21:51:32.65 ID:cnn/xQak0
( ^ω^)「長岡さん。そのふたりの話は、一体どうやって知ったのかお?」
  _
( ゚Д゚)「――私のタクシー会社の近くの書店の店主が私に話してくれたのですよ」

('A`)「書店の店主?って、ブーン。まさか…………」

( ^ω^)「うん。たぶん、僕らにvip峡を勧めてくれた人だお。長岡さん、その人は大抵
 (´・ω・`)ショボーン としていなかったですかお?」
  _
( ゚Д゚)「――どうやら、ご存知のようですね。そうです。彼……ショボさんが、私にふたりの
動向を語ってくれたのですよ」



21: AV監督(石川県) :2007/03/12(月) 21:51:57.16 ID:cnn/xQak0
( ^ω^)「長岡さん。そのふたりの話は、一体どうやって知ったのかお?」
  _
( ゚Д゚)「――私のタクシー会社の近くの書店の店主が私に話してくれたのですよ」

('A`)「書店の店主?って、ブーン。まさか…………」

( ^ω^)「うん。たぶん、僕らにvip峡を勧めてくれた人だお。長岡さん、その人は大抵
 (´・ω・`)ショボーン としていなかったですかお?」
  _
( ゚Д゚)「――どうやら、ご存知のようですね。そうです。彼……ショボさんが、私にふたりの
動向を語ってくれたのですよ」



22: AV監督(石川県) :2007/03/12(月) 21:52:41.44 ID:cnn/xQak0
('A`)「お聞かせ願えませんか。どんな様子だったのか」
  _
( ゚Д゚)「――毒を喰らわば皿まで。全て洗いざらいに話しましょう。運転しながらで良いですか?」

( ^ω^)「事故らない程度にお願いしますお」

('A`)「お願いします」
  _
( ゚Д゚)「把握しました。」

 えへん、と長岡は咳払いをする。
 ごくり、とふたりは生唾を飲み込む



24: AV監督(石川県) :2007/03/12(月) 21:54:40.89 ID:cnn/xQak0
  _
( ゚Д゚)「あれは……そうですね。私がその2人組を乗せて、1年ぐらい経った頃でしょうか。
 近所の本屋が、突然シャッターを閉めたんですよ。……見ると、忌引の張り紙がありましてね」

('A`)「つまり、不幸があったと」
  _
( ゚Д゚)「はい。で、亡くなったのは店長だったようです」

( ^ω^)「じゃあ、今の店長はその人の後釜かお?」
  _
( ゚Д゚)「そうなりますね。忌引を終えて、その新しい店長が私のところにも挨拶回りに来たんですよ」

('A`)「そこで、店長からふたりの話を聞いたと」



25: AV監督(石川県) :2007/03/12(月) 21:56:38.71 ID:cnn/xQak0
  _
( ゚Д゚)「いや、そうじゃないんです。そこでは、単に挨拶を交わしただけですね。『これから宜しく
 お願いします』、と」

( ^ω^)「ごくごく普通の近所づきあいみたいだお」
  _
( ゚Д゚)「ん、まあそうですね。その頃は私も、ごく普通のご近所さんとしか認識していませんでした」

('A`)「それで、どういう経緯でふたりの動向を知ることに?」
  _
( ゚Д゚)「―――そうですね。あれは……」



28: AV監督(石川県) :2007/03/12(月) 21:58:18.36 ID:cnn/xQak0





 その日、四国上空にはシベリアからの寒気が張り出し、凍て付くような冷気が容赦なく人を
刺していた。高松には珍しく、外には雪がちらちらと舞っている。
 ――こんな雪じゃ、とてもタクシーを転がす気になれない。
 長岡は、事務所の窓から外を見遣ってそう心の中でつぶやくと、大きく身震いした。



30: AV監督(石川県) :2007/03/12(月) 22:00:19.75 ID:cnn/xQak0
  _
(((゚Д゚; )))「――ううっ、寒い寒い……」

 雪が降るような寒さは、四国の人は不慣れである。言うまでも無く、それには長岡も含まれていた。

 とにかく、長岡は手先にじーんと来る寒さに打ちひしがれていた。
 
(((・∀・; )))「僕も寒いんですよ……」

 ――どうやら、モララーも打ちひしがれていたようだ。
 いま、ふたりは事務所で体を震わせている。事務所の中央にはストーブが置かれているが、
火は点いていない。ただの置き物と化していた。



31: AV監督(石川県) :2007/03/12(月) 22:02:14.06 ID:cnn/xQak0
  _
((( ゚Д゚)))「おい、モララーよ。灯油もう無いのか?」
 
((( ・∀・)))「だから、もう無いってさっきから何度も言っているでしょう」
  _
((( ゚Д゚)))「ならお前が買いに行けばいい話じゃないか」

((( ・∀・)))「このまえ灯油が切れたときは僕が買いに行ったので、今回は社長が灯油を買いに行く
 番ですよ。早く行ってきてください。かわいい部下が凍えてもアンタは良いんですか?」
  _
((( ゚Д゚)))「良いに決まってんだろ。俺は寒いのが嫌いなんだ」

((( ・∀・)))「んな事言ってる割には、夏になったら『暑い暑い』と言って僕に当たるじゃないですか」



32: AV監督(石川県) :2007/03/12(月) 22:04:20.94 ID:cnn/xQak0
  _
((( ゚Д゚)))「細かいこといちいち覚えるんじゃねえ」

そばにあった台帳で、長岡がモララーの頭を叩く。やはり、バシッと乾いた音がした。
  _
((( ゚Д゚)))「俺はエアコンみたいな軟弱な野郎は嫌いなんだよ。客を乗せるときは嫌々つけるがな」

((( ・∀・)))「痛た……。とにかく、灯油を買うのは社長の番ですからね!!」

 事務所内には長岡とモララーしか居ないはずなのに、とても賑やかだ。最初は口ゲンカだったのが、
いつの間にか2人とも日誌やら帳簿やらで叩き合っている。
 どすんぼかばき。
 ……それにしてもこの2人、ノリノリである。
 ノリノリすぎて、周りの様子が目に入ってない。
 ばきどかびしばし。

(´・ω・`)「あの〜……」



34: AV監督(石川県) :2007/03/12(月) 22:05:51.02 ID:cnn/xQak0
  _
( ゚Д゚)「ん?」    ( ・∀・)「へ?」

 いつの間にか、ショボが長岡タクシーの事務所内に所在無げに佇んでいた。それまで激しい格闘を
繰り広げていた2人は、お互いが左手に相手の襟首を、右手に帳簿を持っている状態で静止する。 
 気まずい空気が事務所内に流れた。
 2人は思い出したように両手を自由にすると、襟を正して慇懃にショボに礼をした。
_
(゚∀゚; )「これはこれは、どうも失礼致しました」

(・∀・; )「すみません、お見苦しい場面をお見せしまして」

(´・ω・)「いえいえ、良いですよ。誰でも、醜態を晒してしまうことはありますから」
_
(゚∀゚; )(・∀・; )「いやぁ、お恥ずかしいwww」



36: AV監督(石川県) :2007/03/12(月) 22:07:49.32 ID:cnn/xQak0

 ふぅ、と一息つくと長岡たちはショボを今一度見る。
_
( ゚∀゚)「ん? ソレは何ですか?」

 ショボの右手の細長い直方体を指差す。ミケネコの包装が施されているところから見ると、
どうやら宅配されてきた品物のようだ。

(´・ω・`)「ああ、これですか? いま包みを開けますから少し待ってて下さい」

( ・∀・)「え? 今ここで開けちゃうんですか?」



38: AV監督(石川県) :2007/03/12(月) 22:09:47.20 ID:cnn/xQak0
(´・ω・`)「もとよりその積もりでしたので……」

 そう言うと、ショボは包装紙に貼ってあるセロハンテープに手をかけると、そろそろと慎重に
剥がしていった。
 _
( ゚∀゚)( ・∀・)「―――――」

 固唾を飲んで見守る。
 やがて全てのセロハンテープが剥がされ、包装紙が取り去られると、厚紙でできた純白の化粧箱が
露わになった。
 ショボは恭しくその化粧箱を事務用のデスクの上に置くと、ついに化粧箱そのものを取り去り――。



39: AV監督(石川県) :2007/03/12(月) 22:12:21.10 ID:cnn/xQak0



  _
( ゚Д゚)「――透き通った琥珀色のバーボンが出てきたんです」

('A`)「バーボン?」

( ^ω^)「あの、アルコールがキツいバーボンかお?」
 _
( ゚∀゚)「ええそうです。そのバーボンです」

 
 
第9幕:車中にて・1           了



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