('A`)ドクオと( ^ω^)ブーンが旅行をするようです

7: 造園業(石川県) :2007/03/30(金) 23:36:05.52 ID:pVxzE+L70
第12幕:真相はいずこに



 平日の夕方と言うだけあって、帰宅ラッシュの車で市内の道路はごった返している。ドクオたちを
乗せたタクシーは何度も交差点の信号に引っ掛かり、市内をゆっくりと走行している。しかしながら、
車中の3人は皆が長岡の4年前の回想に神経を集中させているため、たびたび信号に引っ掛かっても
然程ストレスを感じるような事は無い。寧ろ、彼らにとっては旅館に着くまでの時間が出来て嬉しいくらいだった。

('A`)「――で、森の中で男が発見されてからは、どうなったんですか?」
  _
( ゚Д゚)「まず、第1発見者の彼がその男を揺り起こしました。幸い、男は森の中に倒れていても
 気を失っていただけで何の怪我も負っておらず、男はすぐに気がつきました」



9: 造園業(石川県) :2007/03/30(金) 23:39:54.56 ID:pVxzE+L70

 長岡は前方を見ながら視線を逸らさずに答える。
  _
( ゚Д゚)「で、彼はその男を連れて森の中から出ます。森から出て旅館の中庭に出ると、先程の
 従業員が居ましたので、その人に行方不明者発見の一報を伝えました。そしてその従業員の口から、
 村役場へと一報が伝えられ、村中に漂っていた緊迫感は収束します」

( ^ω^)「無事に見つかったようで良かったお」

('A`)「でもブーン、おかしくないか?」

( ^ω^)「? なんでだお?」

('A`)「だってホラ、森で見つかった男は発狂してしまったらしいじゃないか。ねぇ、長岡さん?」



11: 造園業(石川県) :2007/03/30(金) 23:43:49.03 ID:pVxzE+L70
  _
( ゚Д゚)「ん……、まあ、そうなんですが、私もそこらへんについては詳しく知らないんですよ。
 あの時、ショボさんは本当に当時の様子を掻い摘んで当時の経緯を話したもので……」

( ^ω^)「じゃあ、分かる範囲でお話し願いますお。詳しいことは、後で自分たちの方から
 ショボさんに直接聞きますお。いいよね、ドクオ?」

('A`)「昔のことを部外者が根掘り葉掘り聞くのは主義じゃないが……おk、分かったよ」
  _
( ゚Д゚)「では、分かる範囲で手短に話したい所ですが……。もう、寺の食堂で話した内容と殆ど
 同じですので、その後のショボさんについてお話します。深夜の酒盛りが終わり、一通りの話をし終え
 ショボさんは事務所のソファに横になったかと思うと、そのまま眠り込んでしまいました」

('A`)「あちゃ、もうvip峡の新情報は聞けないんですか」
  _
( ゚Д゚)「まあ、そうなんですが、少々引っかかることが有りまして……」

 コホン、と咳払い。



13: 造園業(石川県) :2007/03/30(金) 23:46:11.22 ID:pVxzE+L70
  _
( ゚Д゚)「で、私たちは酒盛りして体が温まっていたとは言え、冬の夜です。冷え込む事務所で
 ロクに布団も被らずに寝たもんで、朝起きた時には、皆が風邪を引いていました」

(^ω^; )「それはまた……」
  _
( ゚Д゚)「まあ、いい年こいた男ですから、そのうち治りました。で、外を出歩けるようになると、
 ある日私はモララーを連れて、お見舞いのためにショボさんの書店を訪ねます。書店のカウンターには
 マフラーにマスクに毛糸の帽子をして、どてらを着ていたショボさんが座っていました。私たちは
 少々躊躇した後に自動ドアをくぐると、ショボさんは私たちに声を掛けます。『いらっしゃいませ』って」

('A`)「まあ、そうでしょうね。マニュアルってヤツでしょうよ」
  _
( ゚Д゚)「ええ、そこまでは良いんです。ですが、ショボさんが、来店したのは私たちだと気づいたとき、
 あの人は何て言ったと思います? 『どうも、昨日は深酔いした上に、性質の悪い怪談話までしてしまって、
 すみませんでした。あの話は忘れて下さい』って言ったんですよ」



14: 造園業(石川県) :2007/03/30(金) 23:48:18.44 ID:pVxzE+L70
( ^ω^)「? 自分のほうから話しておいて、性質が悪いだの、忘れてくれだのとは妙だお」
  _
( ゚Д゚)「まあ、酒が入っていなかったら話さないような事だったんじゃないですかね。その後に道端で会った
 ときもその話は避けているようでしたし、ショボさんからは新しい情報は得られませんでした」

('A`)「――と、言うことは、話はこれで終わりと言うことですか?」
  _
( ゚Д゚)「ええ。私の口からは、もう申し上げることはございません」

('A`)「そうですか……。長々と、有り難うございました」

(^ω^; )「まあ、この話が実話であれ、vip峡で何も無ければいいお」

('A`)「まぁ、そうだよな……」



15: 造園業(石川県) :2007/03/30(金) 23:50:40.56 ID:pVxzE+L70
 話がひと段落して、ドクオは窓の外を見る。
 高松の夜は経度の関係から、関東と比べると遅い。
 東京ではもう夕闇が迫る時刻になっていても、ここ高松の空には夕焼けが残っている。
 時計を見ると、思っていたより時間が進んでいる。狭い日本とは言え、時計には出てこない時差があるようだ。

('A`)「もう7時ですか。空を見る限りでは、30分くらい早いと思うんですがねぇ」
 時計の文字盤と、ビルの谷間から見える紫色の空とを交互に見比べながら言う。目に見える街並みは、
一目でそれと分かるほど、宿泊先に近づいていることを示していた。
  _
( ゚∀゚)「そうですか? なにぶん、東のほうに行ったことがないので、私にはサッパリ分かりませんな。
 それに、今頃気づくものですか?」

( ^ω^)「ここに来た当初は、台風の雲のせいで太陽が見えなかったからしょうがないですお。
 ――それより長岡さん。ショボさんの経営する書店は何時に閉店しますかお?」



17: 造園業(石川県) :2007/03/30(金) 23:52:49.25 ID:pVxzE+L70
  _
( ゚∀゚)「いやあ、お恥ずかしい話ですが、本と言うものは地図以外に見ないタチでして、ロクに
 本屋に世話になったことが無いんですよ。なので、近所とは言っても本屋の閉店時刻は……」

('A`)「いえ、別にいいんですよ。そんなに大切なことじゃないですし、昨日も同じ本屋に行ったのですから、
 同じような時間帯にまた行けばいいことです」
  _
(゚∀゚; )「すみませんね、どうも」
 ははは、と高笑いしながら長岡はハンドルを切り、ドクオたちが宿泊している旅館に通じる狭い通りへと
入る。前方に、その旅館が見えてきた。



18: 造園業(石川県) [ズレましたねorz] :2007/03/30(金) 23:55:08.47 ID:pVxzE+L70
  _
( ゚∀゚)「はい、とうちゃーく」
 きい、と軽いブレーキ音とともに、旅館の前でタクシーは停まる。

  _
( ゚∀゚)「お疲れ様でした。では、代金として、タクシーの貸切料金4000円と、高速道路の通行料500円、
 しめて4500円になります」

(^ω^; )「――僕たちは、『高速に乗れ』とは、一言も言ってないお? それなのに、高速料金を
 客から取るのかお?」
  _
( ゚∀゚)「そういう時は、逆に考えましょう。私がこの場で高速の料金の自腹を切ることになったら、
 今日の儲けが消し飛ぶと考えるんです。まあ、弱小企業に寄付するような気持ちで、4500円お願いしますよ。
 帰りはちゃんと、タダのバイパス走ってきたじゃないですか」

 長岡は、白い手袋を嵌めた右手を後部座席のふたりにずいと差し出す。



19: 造園業(石川県) :2007/03/30(金) 23:58:37.50 ID:pVxzE+L70
('A`)「うーん……。まあ、長いあいだ話を聞かせてもらったことですし、今回は折れます。またお世話になるような
 事があれば、その時はそちらが持って下さいね?」

そう言いながら、サイフの中から4500円ちょうどを出して長岡に渡す。
  _
( ゚∀゚)「はい、次も長岡タクシーをご贔屓にして下さい。で、コレが領収書です。頑張って必要経費にして下さいね」

 長岡は、何やら機械をいじって感熱紙の領収書を切ると、ブーンに渡した。

( ^ω^)「まあ、本社に無事に帰って来られたら上司と相談してみますお」

('A`)「ああ、長谷川課長だな。あの人は物分りが良いから、上手く行くだろう」



21: 公務員(石川県) :2007/03/31(土) 00:02:52.99 ID:a2q8zJsP0

 後部座席のドアの両側が開き、ふたりが出る。ドアに手をかけたままで、ふたりは運転手に問い掛けた。

('A`)「今日1日、有り難うございました。また、機会があったら案内してください。今度は別のルートでお願いします」

( ^ω^)「楽しかったですお」
  _
( ゚∀゚)「どうも有り難うございました。またのご利用を(ry」

ドアが閉められ、タクシーは静かに走り出し、どんどん小さくなっていく。
 ……と言っても、タクシーの事務所自体が近いので、それ程遠くないところで車庫入れした。

 旅館のまえで、ふたりは顔を見合わせる。

('A`)「――部屋に戻るか」

( ^ω^)「そうするお」



23: 公務員(石川県) :2007/03/31(土) 00:04:43.45 ID:a2q8zJsP0

 くるりと向きを変え、旅館の玄関へと足を進める。
 自動ドアがグイーンと大きな音を立てて開き、彼らを迎え入れる。
 ドアの音に気を引かれ、カウンターに居た人物がふたりの方を見た。

从'ー'从「――あ、お帰りなさいです」

 居た渡辺さんは、ふたりの姿を認めるとぺこりと頭を下げた。

('A`)「どうも」

( ^ω^)「おいすー」



24: 公務員(石川県) :2007/03/31(土) 00:07:14.16 ID:a2q8zJsP0
从'ー'从「――ぇと、今は7時なんですが、晩御飯はどうしますかぁ? 朝に申しましたように、
 普段お出しするような夕食の用意は出来てないんですが……」

 もじもじしながら、うつむき加減で渡辺は話す。
 何だか、見ている方が申し訳なくなって来そうだ。

('A`)「ああ、それは自分たちで何とかしますよ。幸い、腹はあまり空いていないんでね」

从'ー'从「そうですかぁ……、有り難うございます。では、明日の朝食は何時ごろにしますかぁ?」

( ^ω^)「たしか、岡山の新幹線ホームに8時に着いておけば良い筈だお」

从'ー'从「じゃあ……、えと……、高松駅に6時半ごろに着いていた方が良いみたいですね……。
 6時までに朝食を済ませておくのが妥当なんじゃないですかぁ?」

 カウンター越しの壁に貼ってある時刻表のポスターを指でなぞりながら、確かめるように渡辺は言う。



25: 公務員(石川県) :2007/03/31(土) 00:10:43.92 ID:a2q8zJsP0
('A`;)「けっこう早いですね……」

从'ー'从b「まあ、明日は遠出なさるんでしょう? 早起きは旅に付き物ですよ。私だって、お客さんと同じく
 早起きしなきゃならないんですから、ガマン、ガマンです」

( ^ω^)「? そういえば、渡辺さんはいつ頃休憩を取っているのですかお?」

从'ー'从「禁則事項です……というのは冗談で、ツイン照子・照美というバイトもシフトを元に頑張っているので、
 時間を縫って休憩を取ってますよー。ここでAA使いすぎると後で困りますし、ね?」

( ^ω^)「なるほど、よく分かりましたお。じゃあ、朝食は5時半頃になりますかお?」

从'ー'从「そうなりますねー」



26: 公務員(石川県) :2007/03/31(土) 00:14:13.22 ID:a2q8zJsP0

( ^ω^)「分かりました。どうも、ありがとうございますお」 

从'ー'从「いえいえ、お礼を言うのはこちらの方ですよー。では、ごゆっくりお過ごし下さい」

 いま一度、渡辺さんはぺこりと頭を下げる。

('A`)( ^ω^)「どうもー」
 ふたりもそれに倣った。一連のやり取りを終えると、ふたりは階段を上って部屋へと引き返していった。

 渡辺さんは、ふたりが背中を見せたのを見届けると、我慢していた大きな欠伸をした。



28: 公務員(石川県) :2007/03/31(土) 00:17:48.75 ID:a2q8zJsP0
 疲れた様子でふたりが部屋に戻ってくる頃には、夜の暗がりが部屋にまで侵入しようとしていた。
 部屋に入ると、まずドクオは電燈の紐をぐいと引っ張って暗がりを追い払う。

('A`)「ヨッコラセクス」
 
( ^ω^)「ちょwww日常会話でそれは無いおwwwwwww」
そう言いながらも、ドクオが畳みの上に腰を下ろすと、ブーンもそれに倣う。いま、ふたりは胡坐をかいて

( ^ω^)「さて、長岡さん……いや、正確にはショボさんの話がどこまで本当なのだろうかお?」

('A`)「うーん。まあ、もしも本当だったとしても、自分たちには関係の無い事だから、気にしない方が
 良いんじゃないか? ……なあ、本当にショボさんの所に確認しに行くのか?」



29: 公務員(石川県) :2007/03/31(土) 00:20:40.70 ID:a2q8zJsP0
( ^ω^)「モチロンだお。昨日のこの時間はまだ営業していたから、今から書店へレッツラゴーだお!!」

('A`)「たりぃなあ……」

( ^ω^)「嫌なら来なくていいお。その代わり、5年前に猟奇的な事件が起こっていたとしても、
 僕はその話をドクオには言わないお」

('A`)「酷いな……」

( ^ω^)「ああ、あわれドクオ」
 ブーンの声のトーンが少々高くなる。
 
( ^ω^)「書店の店主の忠告を聞いておかなかったのが不幸して、享年2●歳、人里離れたvip峡で
 短い一生を終えるんだお。そして、その死は誰にも告げられずにvip峡で畑の肥料になるんだお」
陶酔し切った様子で、ブーンはそう宣告する。



30: 公務員(石川県) :2007/03/31(土) 00:23:29.09 ID:a2q8zJsP0
('A`)「わかったわかった。行ってやるよ。部屋に居ても、どうせ特にやる事なんてありゃしないんだ」

( ^ω^)「流石ブーン。物分りがいいお」

('A`)「まあ、ブーンだけが何か聞き出したところで、俺が実力行使で吐かせれば良いだけの事だがな」

(^ω^; )「ちょwwww酷いおwwwwww」


 部屋に着いたばかりだと言うのに、ふたりは再び部屋を出て行く。全くもってせわしない。
 鍵をかけ、階段を降りてロビーに出ると、案の定渡辺さんが――人が居ないのを良いことに大きく背伸びを
している渡辺さんが――そこに居た。



33: 公務員(石川県) :2007/03/31(土) 00:26:06.26 ID:a2q8zJsP0
 渡辺さんは、ふたりを見つけると慌てて背伸びを中断する。

曝ク'ー'从「あれ!? いまお帰りになったばかりなのに、もうお出掛けですか?」

( ^ω^)「まあ、ちょっと近所の店まで行って来ますお」

从'ー'从「わかりましたぁー。行ってらっしゃいませー」

 ロビーから出て行くふたりの背に向かって、今一度渡辺さんはぺこりと頭を下げる。
 今度こそふたりが見えなくなるのを確認すると、渡辺さんは肩をトントンと叩いた。



34: 公務員(石川県) :2007/03/31(土) 00:27:45.56 ID:a2q8zJsP0

('A`)「おい、ブーン」
本屋への道すがら、歩きながらドクオは問う。

( ^ω^)「なんだお?」
こちらも歩きながら問い返す。

('A`)「これからショボさんに会うのはいいとして、どういう風に話を切り出すものかな?まさか、
 いきなり店に入るなり『5年前にvip峡で何があったのか教えてください』って訊くわけにも行かないだろう?」 

(^ω^; )「ん〜……まったく考えてなかったお。」



35: 公務員(石川県) :2007/03/31(土) 00:29:48.24 ID:a2q8zJsP0
('A`)「まあ、そのとき考えるか?」

( ^ω^)「まあ、なるようになるお。ホラ、もうすぐ着くから、どっちみち考える暇も無いお」
遠くのほうに、目的の書店が見えてくる。

('A`)「そうだな……、もう着くし…………って、あれ?」


 ドクオが立ち止まる。つられてブーンも足を止める。


('A`)「――あれ? おかしいな……」



36: 公務員(石川県) :2007/03/31(土) 00:31:16.00 ID:a2q8zJsP0
 目を凝らす。確かに、暗がりの向こうは昨日ふたりで訪れた書店が見えている。見紛うこともない。
 だが、昨日は煌々と灯かりがついていた筈なのに、今は、店全体がひっそりと夜の闇に溶け込んでいる。
 

('A`)「どうしたのかな? まさか、こんな時に限って定休日か?」


( ^ω^)「それは無いと思うお。だって、今日は金曜日で平日だお?」


('A`)「まあ、行ってみようぜ」


 再び、ふたりは足を進める。
 程なくして、本屋の入り口前に着く。昨日通った入り口は、今は堅くシャッターで閉ざされていた。



38: 公務員(石川県) :2007/03/31(土) 00:32:54.58 ID:a2q8zJsP0
('A`)「ああ、やっぱり閉まっているな……って、あれ?」
 言葉が途中で途切れる。
 

( ^ω^)「どうしたのかお、ドクオ?」


('A`;)「いや、見えないか? その……シャッターに…………」


( ^ω^)「シャッターに何かあるのかお?」
言われて、ドクオの後ろに着いていたブーンは半身を乗り出してシャッターの方に目を遣る。街灯がぼんやりと
そのシャッターを照らしている。
 

 シャッターに『忌引』と書かれた紙が貼られているのを彼が見つけるのに、そう時間は掛からなかった。



第12幕:真相はいずこに                了



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