('A`)ドクオと( ^ω^)ブーンが旅行をするようです

4: 土木施工”管理”技師(石川県) :2007/04/01(日) 23:51:51.07 ID:v5fB1WvU0
第13幕:2日目の幕引き


 書店を前にして、ふたりは暫しの間立ち尽くしていた。
 目の前には、ところどころ塗装が剥げかけたシャッター。これだけ見れば、何の変哲もない代物だ。
こんなもの、ちょっと寂れた場末の商店街に行けば嫌というほどお目にかかることができる。
 しかし、目の前のシャッターを強烈に印象付ける紙が1枚。
 ――そう。
 たった、1枚である。
 たかが紙切れ1枚と思われるかも知れないが、その紙切れ1枚にはあまりにも不釣合いな『忌引』の2文字。
 風が吹くたびに、セロテープで上部だけが仮止めされたその紙が、いまふたりの目の前で、枝にいつまでも
しがみついている枯葉のようにカサカサと舞った。



6: 土木施工”管理”技師(石川県) :2007/04/01(日) 23:53:45.06 ID:v5fB1WvU0
('A`;)「――――」


(^ω^; )「――――」


 ふたりが呆然と立ち尽くしているその場を、随分と長い間、沈黙が支配する。
 その間にも風は吹き続け、紙は、カサカサと、ただカサカサと空しい音を立てながら舞っていた。 


('A`;)「なぁ、ブーン…………」
 噤まれていたドクオの重い口が、長い沈黙の末に開かれる。口は明らかに傍に立って居る者に向けて
動いているのに、目はというと、完全に正面のシャッターに釘付けになっていた。


(^ω^; )「――なんだお?」
 こちらも、視線を目の前のシャッターから逸らさずに訊き返す。



7: 土木施工”管理”技師(石川県) :2007/04/01(日) 23:56:05.16 ID:v5fB1WvU0
('A`;)「ええっと、……『忌引』ってのは、どういう意味だったっけな? ……頭がこんがらがって
 わかんねえや、俺」


(^ω^; )「――えーと。――――誰かが死んだって事じゃないのかお? 少なくとも、書店に関係のある誰か

が……」


('A`;)「ハ、ハハ……。誰かが死んじまったのか……。そ、それはご愁傷様なこった…………」


(^ω^; )「――ドクオ?」


('A`;)「――ん、なんだよ。お前も可笑しいのか?」



9: 土木施工”管理”技師(石川県) :2007/04/01(日) 23:58:14.25 ID:v5fB1WvU0
(^ω^; )「そんなことは無いお……」


('A`;)「なんだって? 可笑しいじゃないか。こうやって、わざわざ客人が店主に会いに来てやったのに、
 忌引で店を閉めるだと? 今日はエイプリル・フールか? にしては、ヤケに暑いじゃないか、ええ?」


(^ω^; )「ドクオ、もうちょっと落ち着いたらどうかお? べ、別に…………」


('A`;)「別に………………何なんだ? 言ってみろよ」


 ブーンが生唾を飲む。かれこれ1時間ぐらい唾を飲みこんでいないような感触がした。



10: ソムリエ(石川県) :2007/04/02(月) 00:01:23.83 ID:jp0A6Aur0
(^ω^; )「別に…………」
そこで、ブーンは次の言葉を躊躇うように大きく深呼吸する。
(^ω^; )「別に、ショボさんが死んでしまったとは決まって……ないお?」


 台風の残滓か、一陣の風が狭い通りを駆け抜けた。
 『忌引』と書かれた紙が、ガサガサという音をたてて風に舞った。


 ――そうなのだ。
 まだ、ショボが死んだとは決まっていないのだ。
 たとえ、ショボが店主の書店で不幸があったとしても、それはショボの死とは必ずしも同義ではない。


 彼らは、信じたくなかった。
 vip峡に関係がある人物から話を聞こうと思ったものの、いざ聞きに言ったら当の本人が死んでいただなんて、
幾ら何でも冗談にもほどがある。



12: ソムリエ(石川県) :2007/04/02(月) 00:04:41.64 ID:jp0A6Aur0
('A`;)「――当然だろ。昨日のショボさんはピンピンしていたじゃないか」


(^ω^; )「そうだお。幾ら、長岡さんの話では4・5年前にこの書店の店主が亡くなっていたとは言え……」


('A`#)「――あまりソレを言うな。出来れば忘れていたいのに、思い出すだけで寒気がしそうだ。そんな
 4・5年前の書店の店主なんて、俺の知ったことか」
吐き捨てるようにドクオは言う。


(^ω^; )「――わかったお。誰かが亡くなっていたとは言え、ショボさんじゃないことを願うお」


('A`)「そういうこった。ホラ、もう用は無いんだから、とっとと帰るぞ。いつまでもこんな辛気臭い所に
 居て堪るか。俺にまで辛気臭さが伝染ってしまいそうだ」



13: ソムリエ(石川県) :2007/04/02(月) 00:07:15.72 ID:jp0A6Aur0
 言い終わるや否や、ドクオはくるりと踵を返してもと来た道を早足で引き返す。
 しばらく、ブーンは段々遠ざかる友人の背中を呆と見つめ続けていた。


( ^ω^)「――何も無いといいお」


 そう言い残すと、ブーンは駆け足でその場を去った。
 『忌引』と書かれた紙は、彼が去った後も、風が吹くたびにカサカサと舞っていた。



14: ソムリエ(石川県) :2007/04/02(月) 00:10:12.94 ID:jp0A6Aur0


 結局、ふたりは書店に行っても何の収穫を得ることができないまま、その足で旅館の部屋へと戻ってきた。 
 部屋へ帰ってきてからと言うものは、風呂に入ったり、明日の荷物の準備をしたり、目覚まし時計をセット
したり。特に普段の出張と変わった様子もなく、淡々とした作業である。
 普段の出張と違う所はと言うと、それぞれがお互いに黙したまま、という所だろうか。確かに、いつもならば
「おーい」だとか、「あれ?」とか、或いは「サーセンwwwwwwww」とか、短いながらも会話があるはずである。
 それが今は、


('A`)「――――――」


( ^ω^)「――――――」



15: ソムリエ(石川県) :2007/04/02(月) 00:14:36.22 ID:jp0A6Aur0
('A`) (――5年前、いったいvip峡で何があったと言うんだ?)


( ^ω^) (――ショボさんの書店では、誰が亡くなったのかお? ただの店員かお? それとも……)


('A`) (――vip峡では、俺たちが居る中でおかしな事件は何も起こらないだろうな……?)


( ^ω^) (ショボさんの話は本当かお? そもそも、長岡さんの話は本当なのかお?)


 会話は無い。
 だが、考えていることは概ね一致している。明日、ふたりが踏み入れる地についてだ。
この境遇では、そうなっても仕方ないというものだろう。



17: ソムリエ(石川県) :2007/04/02(月) 00:18:15.59 ID:jp0A6Aur0
('A`)「――――vip峡から無事に帰って来られるかな」


 ぼそり。


('A`)「あ、いや…………」
思わず言葉にしてしまった事に気づいたドクオは、決まりが悪そうに言葉を濁す。


('A`)「――気を悪くしないでくれよ、ブーン」


( ^ω^)「――謝る必要なんて無いお?」



18: ソムリエ(石川県) :2007/04/02(月) 00:22:00.44 ID:jp0A6Aur0
 仰向けの状態から頭だけを起こして、ブーンがそれに応じる。


( ^ω^)「僕だって、無事に東京に帰りたいんだお。もちろん、その時はふたり一緒に、だお」


('A`)「――ああ、そうだな」


( ^ω^)「その意見が同じなら、謝る必要なんて無いお。自分だって、少しだけど、心配なんだお?」


('A`)「うん、そうだよな。ブーンも、ちょっとくらいは心配だよな」



19: 歌手(石川県) :2007/04/02(月) 00:24:13.86 ID:jp0A6Aur0

( ^ω^)「何はともあれ、もう寝るお!? もう12時だお!! 僕たちは早起きしなくちゃいけないんだお!!」

('A`)「ああ、そうだな。じゃ、さっさと寝るか」

( ^ω^)「そうするお!!」

 ブーンは、すっくと立ち上がって電燈の紐を手にする。

( ^ω^)「じゃ、おやすー」

('A`)「おう。おやすー」



21: 歌手(石川県) :2007/04/02(月) 00:25:42.22 ID:jp0A6Aur0
 紐がぐいと引っ張られる。


 パチン。


 パチン。


 忽ち、部屋は漆黒の闇に包まれる。
 暫らくは布の擦れる音が部屋に響いたが、それもすぐに止んだ。
 程なくして、ふたりは深い眠りに就いた。



第13幕:2日目の終わり          了



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