('A`)ドクオと( ^ω^)ブーンが旅行をするようです
- 4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/06(金) 23:51:30.43 ID:6ng4EwW/0
- 第23幕:最後の晩餐
('A`)「ほら、ここを見てみろよ」
そう言うとドクオはその場に屈みこみ、手に持っていた携帯電話の光を地面に当てた。
そこには、森の柔らかい土に深く残された足跡が、確かにあった。ずっと革靴履きだったふたりは、一瞥しただけでその
足跡は彼らのものでないのが分かった。
( ^ω^)「――ここに足跡があるのは分かったけど、この足跡が、どうして新しいものだと分かるのかお?」
('A`)「――2日前から昨日にかけて、日本列島に台風が直撃した。そのことは覚えているよな?」
( ^ω^)「勿論だお。暴風域のど真ん中に居たんだから、そう簡単には忘れる訳ないお」
('A`)「そうだ。台風は四国を直撃したが、台風に伴う雨雲は、ここ中部地方にまでかかっていただろう」
- 5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/06(金) 23:53:02.10 ID:6ng4EwW/0
- 立ち上がり、ぽっかり空いた天蓋を見上げてドクオは言葉を継ぐ。
('A`)「雨が降ったら、地盤……地面は当然に緩む。そうすれば、水分を含んだここの半腐した土は、ちょうど足跡を残す為の
シリコンや石膏と似た働きをする。忘れてはならないことだが、土に降る雨は古い足跡を洗い流してくれる」
今じゃ土は固まってしまっているがな、と付け加えてドクオは地面を革靴で踏み鳴らした。
( ^ω^)「じゃあ、ここにある足跡は、昨日から今日に掛けてできた物なのかお?」
('A`)「だろうな。もっとも、足跡の主が『誰か』は俺には皆目分からないがな」
( ^ω^)「――森の入り口から、ずっとここまで?」
- 7: ◆spzKjTJd5o [酉忘れ] :2007/07/06(金) 23:55:10.59 ID:6ng4EwW/0
- ('A`)「大当たり。言っただろう? 入り口からここまで、俺は足跡を辿ってきたんだ。もっとも、迷い道じゃなかったけどな」
( ^ω^)「――足跡は、どこで途切れているのかお?」
('A`)「そこなんだよ、俺が分からないのは。足跡は、広場の入り口から始まって、祠の前に続いている。だが、最終的に
足跡が途切れているのは、俺が今立っている、まさにここなんだ」
言って、ドクオは爪先で足跡を指す。
( ^ω^)「広場の中心……かお」
足跡は、広場に入ってきたはいいが、広場で消えていた。常識的に考えると足跡は再び森の入り口に戻るかと思われるが、
そうではなかったのだ。
- 9: ◆spzKjTJd5o :2007/07/06(金) 23:57:40.78 ID:6ng4EwW/0
- ( ^ω^)「じゃあ、ここに来た人はどこに行ったのかお?」
('A`)「さあ。神隠しにでも遭ったんじゃないのか? 鎮守の森だから、案外ある話かもしれないぜ」
瞬間、ブーンは何だか妙な寒気を覚えた。
(^ω^; )「――なんだか怖くなってきたお。早いとこ旅館に戻りたいお。いい加減お腹も空いてきたお」
('A`)「――そうだな。ここに至る道は大体覚えたし、帰るとするか」
( ^ω^)「さっさと帰るお!!」
ブーンが、早足で来た道を後戻りし始める。ドクオは、やれやれと言った風にその後についていった。
- 11: ◆spzKjTJd5o :2007/07/06(金) 23:59:56.53 ID:6ng4EwW/0
- 森から出てくる頃には、太陽はすっかり山の向こうに沈んでしまい、西の空に残る茜色の空とは対照的に、東の空からは
夜の帳が刻々とvip峡を包み込もうとしていた。その所為か、電燈が灯っている旅館が、ふたりには妙に大きく見えた。
煌々と灯かりが灯るロビーで、高岡が不安そうに玄関のガラス越しに外のほうを見ている。ガラスが反射しているのか、
ふたりの方からは長髪の高岡の姿がよく見えたが、高岡の方からはよく見えないようだ。
ドクオがガラス戸を押し開けて軽く冷房の効いたロビーに入ってくるなり、高岡が口を開いた。
从 ゚∀从「お帰りなさいませ。随分と長かったようですが、道中ご無事でしたか?」
('A`)「ええ、お陰様で。ちょっと遠くまで足を伸ばしているうちに、すっかり暗くなってしまいました」
ロビーの一角にある木目が美しい柱時計は、もう6時半を指し示していた。
- 13: ◆spzKjTJd5o :2007/07/07(土) 00:02:02.17 ID:G4P/M8Kg0
- ( ^ω^)「遅くなってしまって申し訳ないですお。早く晩御飯が食べたいですお」
从 ゚∀从「はい。ただいま食堂のほうへご案内いたします……」
言って、高岡はロビーから伸びている廊下の一本へと歩き出し、ふたりは無言でそれに倣った。
距離にして50メートルぐらい歩いたところで、ロビーから一直線に伸びていた廊下は途中で渡り廊下になる。
よく手入れの行き届いた日本庭園を貫く渡り廊下からは、夜になっても流れが絶えないvip川の仄暗い谷底が見えた。
空のほうを見ると、先程にも増して夕闇が辺りを包み込もうとしている。その中で、小さく黒い影が陽光の残滓の
中で動き回っているのが見えた。ブーンがそれについて高岡に尋ねると、蝙蝠であるとのことだ。
景色から目を転じて廊下の続く先を見ると、茅葺きで平屋の建物が見える。昼間vip散策していたときに見た民家と比べると、
少々横長で、農機具のような物は見当たらない。薪が高く積み上げられ、煙突からは白い湯気が立ち上っていた。
从 ゚∀从「お座敷のほうにお食事をお持ちしたほうが良かったのかと思っていたんですが、部屋までお持ちする途中に
料理が冷めてしまってはいけないので、別館でのお食事にしました」
- 16: ◆spzKjTJd5o :2007/07/07(土) 00:04:03.88 ID:G4P/M8Kg0
- ( ^ω^)「どちらでも良いですお。ただ美味しいものを食べたいと言う一念だけですお」
从 ゚∀从「それは何よりです。夕食は、vip峡一を自負しております女将のツンが腕を振るってお作り致しますので、ご期待ください」
高岡が引き戸を開け、ふたりを中へと促す。
建物の中は、少人数の客が食事を取れるような座卓が、一段高くなった畳敷きの空間に10ほど並べられていた。それぞれの
座卓の中央はくり抜かれて囲炉裏になっており、鍋を吊るすような鉤状の金具が天井から降りている。その座卓のうちの
ひとつに食器が二組用意され、囲炉裏からの赤々とした炎に照らされ、影が揺らめいている。
从 ゚∀从「こちらのお座敷になります。靴はお並べいたしますので、脱ぎっぱなしでお上がりください」
('A`)「どうも。では、失礼します」
( ^ω^)「早く料理を食べたいお〜」
从 ゚∀从「では、まずお櫃と先付けをお持ちしますので、少々お待ちください」
慣れた手つきで靴を並べると、高岡は奥のほうへと去っていった。
- 19: ◆spzKjTJd5o :2007/07/07(土) 00:05:37.52 ID:G4P/M8Kg0
- ('A`)「……さて、どんな料理が出てくるかな?」
( ^ω^)「美味しい料理なら何でもいいお。でも、できるなら肉類を中心に食べたいお」
('A`)「料理も良いけど、俺はここの地酒を呑んでみたいな。米と水が良いみたいだから、酒も美味いだろう……」
ひとしきり会話をしていると高岡がやってきた。
从 ゚∀从「失礼します。まずは御飯と、ひじきの佃煮になります。御飯は好きなだけお客様がよそって下さい。
米櫃の中が空になりましたら交換いたしますので……」
そう言って、高岡は櫃と小鉢を卓に並べる。
持ってきた盆が空になったので退こうとするところで、ドクオが高岡を呼び止めた。
- 22: ◆spzKjTJd5o :2007/07/07(土) 00:06:46.51 ID:G4P/M8Kg0
- ('A`)「高岡さん。地酒ってありますか?」
从 ゚∀从「もちろんご用意致しております。おふたりとも、今お出ししましょうか?」
('A`)「お願いします」 ( ^ω^)「お」
从 ゚∀从「この時期だと、冷酒になりますが、燗したほうが良いでしょうか?」
('A`)「冷酒でお願いします」
从 ゚∀从「かしこまりました。少々お待ちくださいませ……」
再び高岡が奥のほうへと退く。ふたりの位置からは見えないが、どうやら旅館の厨房は、この別館らしき建物に
集約されているようだ。
- 26: ◆spzKjTJd5o :2007/07/07(土) 00:09:20.88 ID:G4P/M8Kg0
- 旅行で最後になる晩餐では、実に様々な料理が出た。
囲炉裏の火で串刺しにした岩魚を塩焼きにし、今日地元の猟師が仕留めたという熊が様々な茸と一緒に
牡丹鍋となって出てきた。ほかにも山菜の天麩羅があったり、都会では見られない自然薯もあった。
ふたりの箸は、料理が無くなるまで止まることはなかった。
美味い料理には美味い酒が付き物なのは、いつの世も同じことである。酒が回ったふたりは、出された料理が綺麗に
なくなってから暫らくしたた後も、ぐい飲みを片手に談笑を続けていた。
(*'A`)「いやぁ、酒も美味いし飯も美味いし、言うことは無いな。まったく、vip峡に来て良かったよ」
( *^ω^)「うん。僕も心からそう思うお。四国に居たときに台風が来たときはどうなるかと思ったけど、結果としては
大満足だお」
酒が回った所為か、頬が紅潮したふたりは気持ちよく笑い、飲んでいる。その杯の勢いもまた、留まるところを知らない。
- 30: ◆spzKjTJd5o :2007/07/07(土) 00:11:14.00 ID:G4P/M8Kg0
- (*'A`)「すんませ〜ん、高岡さん。酒の御代わり出してくださ〜い!!」
ドクオが大声を張り上げて、奥の方に引っ込んでいる高岡の名前を呼ぶ。しかし、出てきたのは高岡ではなかった。
ξ♯゚听)ξ「――お客さん。いつまで飲み続けるお積りですか? 今まではサービスとして地酒をお出ししましたけど、
飲み放題じゃないんですからね。これ以上注文するって言うのなら、キッチリお代を戴きますよ」
眉を吊り上げて奥の方から出てきたのは、始終厨房で篭もったきりだったツンだった。彼女は、ふたりに向き合うなり、
厳しい剣幕で酩酊しているふたりを捲くし立てた。
ξ♯゚听)ξ「だいたい、明日にはお客様はここを発つんでしょう? 二日酔いでvip峡から帰るのは、ご遠慮願いたい
ものです。お客様を丁重におもてなしして、良い気分で帰っていただきたいのですからね」
(*'A`)「――――はぁ」
- 34: ◆spzKjTJd5o :2007/07/07(土) 00:12:55.45 ID:G4P/M8Kg0
- ξ♯゚听)ξ「だいたい、明日にはお客様はここを発つんでしょう? 二日酔いでvip峡から帰るのは、ご遠慮願いたい
ものです。お客様を丁重におもてなしして、良い気分で帰っていただきたいのですからね」
(*'A`)「――――はぁ」
ξ ゚听)ξ「もう夜も遅いですし、お客様が散歩していた時間帯にお布団をソイヤッサしておきましたので、
露天風呂に入った後にお休みになられては如何でしょうか?」
( *^ω^)「そう言えば、ここには温泉も有ったおね。ドクオ、もうお酒が出ないのなら、おとなしく部屋の方に
戻るのが得策なのじゃないかお?」
そう言うブーンは、既に腰を浮かして帰るそぶりを見せていた。
- 39: ◆spzKjTJd5o :2007/07/07(土) 00:14:55.59 ID:G4P/M8Kg0
- ( *^ω^)「ほら、ドクオも一緒に帰るお」
(*'A`)「――――あ、ああ」
ブーンがドクオの袖を引っ張る形で、半ば強引にブーンとドクオは一緒に靴を履く。
( *^ω^)「どうも、ご馳走様でした。料理がとても美味しかったですお」
ξ////)ξ「――――っ、ありがとうございました」
(*'A`)「ありゃりゃ。この人赤くなっちまってら。分かりやすいねぇ」
- 44: ◆spzKjTJd5o :2007/07/07(土) 00:16:50.25 ID:G4P/M8Kg0
- その刹那だった。
ξ♯゚听)ξ「さっさと部屋に帰れーー!!」
何かやわらかい物を殴る音とともに、ツンの声がvip峡に響いた。
( *^ω^)「ドクオ、この場はさっさと撤退するのがイチバンだお! 触らぬ神に祟りなし、だお!」
('A(※)「部屋に戻るのは良いんだが、手を貸してくれ……。前が見えねぇ…………」
第23幕:最後の晩餐 了
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