('、`*川新聞部が嘘吐きを探すようです

8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/31(月) 22:16:37.45 ID:THXrEZiwi
人間的な思考と、客観的な思考と、さらに客観的な第三者的思考。
ペニサスが一番強く持っているのは、2番目の客観的思考だ。

常に見下すように他人を視て、自分と相手を比べる。
もし相手が自分よりも力が無ければ、その人間には興味を示さない。
しかし人間的思考が相手を傷付ける事を抑制し、第三者的思考が自らのフォローを取る。

バランスは取れている。取れてはいるが、それが悪い癖にも繋がっている。
逃避癖。嫌な事からは逃げて、好きな事だけを望む、そんな癖。

それが人として駄目だとは言えないが、決して好ましいものではない。
だから忌み嫌って避ける事も必要。そしてそれをするのは人間的思考だ。

だがペニサスにはそれが、部分的とはいえ欠如している。
だから逃げる。物事を客観的に判断し、意味が無いと分かればやらない。
それを止める思考はない。

後から第三者的思考が咎めるが、また何かにぶつかった時同じ事を繰り返す。

逃げ、後悔し、逃げ、後悔する。
気付けば彼女は捻くれていた。いや、捻くれた彼女だったから、かもしれない。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/31(月) 22:19:02.73 ID:THXrEZiwi
屋上。

ほとんど和解したようにも取れるペニサスとミセリ。
お互いクスリと笑い合う事もあり、さっきまでの張り詰めた空気は冬の夕空へと流れていった。

徐々にだが確かに、ミセリの心の壁は崩れていた。
それは彼女のこれからを決める上で、確かに障害となっていく壁。

だがまだ、終わってはいない。罪という枷がまだ、ミセリの足元には残っている。

ミセ*゚ー゚)リ「……不思議な人ですね、先輩って」

視界に入ったのか、邪魔な横髪を手で直しつつ言った。
その目からは殺意など微塵も感じられない。どころか口元の笑みもあり、軟らかい表情に見える。

('、`*川「あー……よく言われるわ。変わってる、って」

ミセ*゚ー゚)リ「なんか……直球ですよね」

('、`*川「そうかな? ……そうかも」

サバサバしてる、といった方が解り易いか。
もっとペニサス寄りに言えば、興味範囲が狭くてそうなってしまう、といった感じだが。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/31(月) 22:21:17.28 ID:THXrEZiwi
('、`*川「まぁ変わってる、ってのは長所でしょ。
     人と違うってだけで得した気分よ、こっちは」

ミセ* ー )リ「……私とは、違いますね」

('、`*川「……やっぱりいらない? その力」

ミセ*゚ー゚)リ「いりませんよ。大体こんなの、何に使えって言うんです」

キッパリと言いのけ、自嘲気味に笑った。
ミセリからすれば嘘吐きの力、それはいい迷惑らしい。

だが実際は何度か行使もしたし、それは思う通りの結果をもたらしてもくれた。

ミセ* ー )リ「でもそれでも……私はいらないと言います」

('、`*川「じゃあなんで使ったのさ。
     パン盗んであげく踏み潰すなんて、わざわざしといてそう言う?」

ミセ*゚ー゚)リ「あれは……」

('、`*川「アホくさくなったんでしょ? なんでこんなくだらない事、って。
     そこに気付いておいてまでアイツが憎かった。だからまた使った」



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/31(月) 22:24:20.84 ID:THXrEZiwi
ミセ* ー )リ「……詳しいですねw」

('、`*川「……私も多分、そう思うだろうからね。
     アイツを殺したい、私だってそう思ったもの。
     当然実行なんかしないし、出来もしなかったけどね」

まだ日は落ちていない。今日の太陽は、随分と空気が読めるようだ。

ミセ*゚ー゚)リ「……私は、どうすれば?」

('、`*川「どうもしないでいい。アイツが消えて、笑顔になった人は居るもの。
     まぁ誰もアナタに感謝なんか出来ないけれど、それでも喜んでいい事よ」

ミセ* ー )リ「……先輩は結果しか見てない。先輩は今の結果だけで喋ってますよ」

('、`*川「……まぁ、アナタが体感した事は、私にはわかりえないわ。
     でも……でもね? アナタがそうやって悩むのは良い事なのよ。
     誰かに言いたい、話したいって思ってたでしょ?」

ミセ* ー )リ「……はい」

('、`*川「だから今こうやって話せて、私は嬉しいわ。
     アナタがこの先どうするかは時間を掛けて決めて欲しいし、
     私はそれに協力したいと思ってる。アナタがした事に、感謝してるから」



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/31(月) 22:26:13.81 ID:THXrEZiwi
僅かにミセリが頷く。それは感謝の意を込めた、小さな動き。

ミセ* ー )リ「……でも、違うんです。相談はしたかったけど、
      私が欲しかった言葉は……そんなのじゃない」

('、`*川「……説教なんかしない。感情的にした行動に怒るなんて、無駄よ」

ミセ* − )リ「無駄でいいからッ……叱ってほしかった……!」

ビュと一際強い風が吹き、2人は押し黙るように静かになった。

微妙に2人の歯車がズレはじめている。
ミセリという女は、至って普通なのだ。
普通に生活して、普通に友達も居た。大好きな親友もいた。

でも普通じゃない奴と普通じゃない力によって、彼女の人生は一転。
自分が巻き起こした結果とはいえ、普通の彼女では心が保ちそうにない程に、その人生は異常な色に変わった。

('、`*川「……」

ペニサスがミセリの立場ならば、恐らくここまで深く罪を考えない。
ジョルジュを裁くという行為が、正義だと信じて疑わないから。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/31(月) 22:28:04.01 ID:THXrEZiwi
ミセ* ー )リ「……」

でもミセリは違った。

ジョルジュを殺した事への罪悪感、それよりも弱い達成感。
恨みを晴らした喜びなんか、今は微塵も持っちゃいない。

でも必死に、ペニサスに扇動されるからそのままに、達成感を思い出そうとしている。
でもそれと同時に込み上げてくる、強い罪悪感。血の匂い。

頭の中は、ぐちゃぐちゃ。

('、`*川「……悩んでさ、悩んだ挙句にさ。
     アナタは笑って生きていけるかな?」

ミセ*゚ー゚)リ「吹っ切れって言うんですか……?」

('、`*川「……うん」

ミセ#゚ー゚)リ「そんなのッ……無理だって分かってるでしょ先輩だって!」

('、`*川「……アナタには幸せになって欲しいの」

ミセ* ー )リ「……我儘ッ、ですよ……」



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/31(月) 22:30:04.30 ID:THXrEZiwi
どうしたらミセリが、皆が幸せになるのだろうか。
見え隠れする最悪の結果を殺して考えるが、光なんか見えてこない。

日が落ちかける。暗くなる視界、同時に頭の中も暗く。
やがて真っ暗闇になり、ペニサスは。彼女は足元の小さな小石に、気付かなかった。

('、`*川「……私がアナタでも……ジョルジュを殺してた」

一歩一歩、石へと近づいていく。
だけど彼女は、暗くてそれに気付かない。

('、`*川「私は多分……その罪を振り切って逃げると思う」

でもそれは、暗いんじゃない。
今ペニサスは、両目を閉じていた。考える事に疲れて休む為、自分から闇を作ってた。

そのまま開けずに、前へと進んでいた。

('、`*川「私だったら……そのまま生きる」

ミセ# − )リ「先輩に分かる訳ないじゃないですかッ」

だから、転んだ。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/31(月) 22:32:03.10 ID:THXrEZiwi
空気が変わる。最初のような、嫌に張り詰めた空気へと。
たったの一言を切っ掛けにして、一瞬で変貌した。

今、ミセリは、ペニサスがどう思うかなんて知りたくもない。
挙げ句、自分は大丈夫なのに、の様な言い方。

溜り蓄まっていたストレスが、今宵の月の様に顔を出した。

ミセ#゚听)リ「先輩に私の気持ちが分かるんですかッ!?
      先輩に人を殺した後の気持ちが分かるんですかッ!?
      先輩がなんで答えを出せるんですかッ!? 答えてくださいよッ!!」

ミセリの右腕が動く。背中の向こうへ、スカートの上、腰よりも少し高い位置へと。
全てが早かった。一瞬で彼女は、一連の動作を終わらせた。

制服の下へと潜らせた手が、前へと戻ってきた時に持っていた物。
ミセリの、牙。

ミセ♯゚听)リ「こんな物持って学校に来てる私の気持ちが、先輩に分かるんですかッ!!?」

黒い、少し潰れた長方形の柄。縞柄のように入った溝はスベリ止め。
その柄は少女の手でも握れば少し余る程度の長さで、その先に伸びるモノも同じくらいの長さ。

キャンプ用と言えば、車内から出てきても誤魔化せるだろうか。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/31(月) 22:34:02.92 ID:THXrEZiwi
だが銀の先は、十分に凶器。既に挙げた実績もあるから、尚更。
ギミックなどはなく、非常に単純で、非常に原始的な。

武器にもなる1本の――――――1本のナイフ。

('、`;川「ちょ……落ち着いてよミセリちゃんッ!
      それは普通に……危ないって!!」

気付けば左手が添えられて、両手を使って下に持つそのナイフ。
切っ先はペニサスへと向けられて、先端恐怖症じゃなくても動悸が起こる。

それが自分に向けられた武器だと認識した瞬間に、ペニサスが思わず下がった歩数は3歩。
ミセリは前へと出てこないから、距離は取れた。

でもその分、遠くなった。

ミセ  )リ「……先輩は」

('、`;川「……?」

ミセ;凵G)リ「先輩は私に、何をしてくれるんですかッ!!」

結局、怯えられた。なんだかんだ言ったって、彼女は自分が一番なんだ。
悪い思考がミセリを包み、更に事態を悪くする。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/31(月) 22:36:25.36 ID:THXrEZiwi
('、`;川「助けたいってッ! 思ってるッ!」

思わず語気が強くなる。
冷静になれと、ミセリに掛けなきゃいけない言葉を自分に言った。

('、`;川「だからだよッ、だからそれは……戻して!」

ミセリを制すように前へと伸ばされた左腕。
一段と強くなった風が制服を押し、まるで腕と一体したように張り付いた。

ミセ − )リ「もう……わかんないよッ……!」

('、`;川「……ッ」

どんな言葉を投げ掛ければいいのか、ペニサスは考える。
元より思惑とは違った展開、だが諦めずに考える。答えのない答えを、ただただ探す。

いつのまにか現れていた月はぶ厚い曇に姿を覆われ、午前は青かった空も灰色に変わっている。
今にも泣きだしそうな空。暗く、風も強くて、寒い。
出来るのならば、居たくない環境だ。

そんな場所に一人、階段を駆け上がりやってくる。わざわざ息を切らして。

どうしても今、言わなければならないからと。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/31(月) 22:38:15.09 ID:THXrEZiwi
ζ(゚ー゚♯ζ「部長ッ!!」

バンと開け放ち、姿も確認せずデレは叫んだ。
今ココがどういう状況だろうとお構いなく、そうしようと決めていた。

('、`;川「デレ……ッ!」

鼓膜が響き彼女の方を見た。ミセリの背後に遠く立つ、見慣れた姿。
そして思う。ヤバいと、ちゃんを待たずにペニサスは判断した。

それは正解だったらしい。
目前の女は来た人物の確認もせずに、直ぐ様自分へと走り迫る。

('、`;川「うぇッ!?」

正面から襟元を掴むとペニサスを引き、その背後を取るミセリ。
直ぐに左腕を胸下へ、逆手に持ちかえた右のナイフを、彼女の首元へと持っていく。

ミセリ自身驚くほどに巧く出来た人質の確保。
映画やTVで見ただけの行為が一発で出来たのは、ミセリが既に一般人ではないからだろうか。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/31(月) 22:40:18.96 ID:THXrEZiwi
('、`;川「ミセリちゃん落ち着いてってば!」

ミセ♯゚听)リ「うるさい! 私を騙す気だったくせにッ!!」

('、`;川「そんな気無いってッ!!」

しかし所詮は素人。ペニサスの両手はがら空きで、何の事なく抵抗は可能だ。
だが彼女が最初にやった手の使用法は、デレに対して右の甲を小さく2度払う、あっち池という合図。

('、`♯川(今テメェの相手出来る余裕はないんじゃ!
      とりあえず帰れ!! 空気読めッ!!)

とでも言いたげな顔もしている。

ζ(゚ー゚♯ζ「やっぱり大変な事になってるじゃないですかッ!」

肩を強張らせ、2人の元へとズンズン歩くデレ。
ペニサスのジェスチャーもミセリの制止の声も無視して。

ζ(゚ー゚♯ζ「ちょっとも頼らないからそうなるんですよッ!」

('、`;川「ごめんごめんッ! ごめんだから帰って!!」



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/31(月) 22:42:23.74 ID:THXrEZiwi
当然ながら、今つーが山に居て、カメラを構えてるなんて馬鹿な事にはなっていない。
そもそもミセリからつーの姿が見えなきゃ疑うだろうし、ヤケになられれば写真なんか関係なく殺される。

それに冬の夕時なんか在るようで無い。今だって暗い。

('、`;川「気付けよ変だなーって!」

ζ(゚ー゚♯ζ「信用してるからじゃないですかッ!」

('、`♯川「あぁそうね、ありがとッ! だから帰れ!!」

ζ(゚ー゚♯ζ「帰りません!!」

('、`♯川「あぁもう……!」

一度意地になればテコでも動かなくなるデレの厄介さを、改めて知らされた。

ミセ;゚ー゚)リ「う、動かないでッ! 刺しますよ!?」

ζ(゚ー゚♯ζ「いーもん別にッ! ていうか思い切って刺しちゃえ!!」

('、`;川「いやいやいやッ!」



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/31(月) 22:44:50.12 ID:THXrEZiwi
粗方進み切ると、2人の前に仁王立ち、腕組みをする。
が、出来ない。胸が邪魔だった。

ζ(゚ー゚♯ζ「部長ッ」

('、`;川「なによ……」

ζ(゚ー゚♯ζ「助けて欲しいですか?」

ミセ;゚ー゚)リ「……誰の味方なの」

ミセリの疑問符にも同感はしたが、ペニサスは自分に対する問いを返す。
嘘吐きが困惑したのを見てか、さっきとは違い、落ち着いた口調で。

('、`*川「別に……アナタが危険になるのなら、私なんか放って置かれていいわ」

ζ(゚ー゚♯ζ「その考え方が駄目なんですって!!
       部長なんかただの運動音痴の腰痛持ちじゃないですかッ!!
       彼氏もいないんだから、もっと私達を頼ってくださいよッ!!」

('、`*川「あぁそうよ……どうせ私は運痴で腰痛持ちで彼氏は居ないわよ。
     だからこそじゃない。未来あるアナタ達と、私は違うのよ」

ζ(゚ー゚♯ζ「違いませんッ! 違わないんです!!」



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/31(月) 22:47:02.57 ID:THXrEZiwi
声荒く言うデレに対し、ペニサスは冷めたようにため息。
もうそんな話は分かり切っているから、ただただデレが煩かった。

('、`*川「違うのよ、根本が。私、人生楽しくないもの」

ζ(゚ー゚♯ζ「私は……私は部長が部長の時しか知りませんッ!!
       遊びに誘っても返事だけですもん! でもそれでもいいッ!
       部長は部長の時は、楽しかった筈ですッ!!」

なにか言おうとしたペニサスの言葉を遮り、まだ続ける。

ζ(゚ー゚♯ζ「だからって、部長が部長辞めるからって、終わりじゃないですよッ!!
       すぐ卑下にならないで下さい! 私は部長と居られて楽しかったからッ!!
       みんなが馬鹿にしても、私だけは知ってます! 部長をッ!!」

ζ( ー゚♯ζ「知ってるのに、あるのに……無いって思って、無駄にするッ!
       嫌だって分かってても、部長はそうやって生きるんでしょう!?
       そんなので……自分も救えないくせして、どうして人が救えるんですッ!?」

( 、 *川「……」

息が切れて、激しく空気を吸う。
何度かそれを繰り返し、顔を上げたデレの頬を二筋、涙が流れていた。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/31(月) 22:50:14.69 ID:THXrEZiwi
ζ(;−;ζ「部長は身勝手で、我儘で、面倒くさがりでいつも偉そうだけど……!
       私にとっては大切で、大事な人なんですッ!!」

ミセ*゚ー゚)リ「……」

ζ( ー *ζ「だから……そんな事やめて……私の大切な人を、奪わないで……!」

切れ切れになった言葉だがそれは、大切な人の為に刄を持ったミセリには、非道く響く言葉だった。
だから、地面に向けられたデレの視界の上方に、キンと音を立てて何かが落ちる。

('、`*川「……ありがと。間違ってたね」

解放されるとペニサスは、デレの下がったままの頭を軽く撫でる。
そして、ごめんなさいと呟いたミセリの方を向く。

( 、 *川「ごめん」

潤んだ目を細め、頭を下げた。

( 、 *川「私、今まで逃げてばっかだったから……アナタに
     逃げる事しか勧められなかったし、それでいいと思ってた……」

ミセ*゚ー゚)リ「……先輩」



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/31(月) 22:52:03.47 ID:THXrEZiwi
( 、 *川「……ミセリちゃんが悔やむなら、私も悔やむ。
     謝るなら謝るし、手を合わせるのなら合わせる……!」

だから、逃げないで。

('、`*川「私ももう……逃げないから」

ミセ ー )リ「……はい」

罪と向き合って生きる事が、どれだけの辛さなのかは3人とも知らない。
だけどその道を行く事を決める。裁かれない罪、自分で決めた永遠の有罪。

恐いけど、ペニサスが居れば大丈夫かもしれない。
そう思った瞬間に力が抜けて、嬉しさのあまり涙が溢れ出た。

('、`*川「ミセリちゃん……この子がさっき言った、襲われかけた子。
     嫌な事があっても来てくれる、私の太陽」

ミセ* ー )リ「いいな……先輩は慕われてて」

('、`*川「この子だけだけどね、慕ってくれるの……」



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/31(月) 22:55:04.64 ID:THXrEZiwi
ζ(゚ー゚♯ζ「あ! またそうやって卑屈にッ!」

('、`*川「だって事実だし」

ζ(゚ー゚♯ζ「そんな事……!」

部内には居そうになかったので、身近な人間にペニサスを慕ってそうな人を探してみるが、やっぱり居なかった。
しかしそんな事を言ってしまえばまた卑下になりかねないと、精一杯の笑顔を作ってみる。

ζ(^ー^;ζ「ななな、ないですよ!」

('、`*川「……」

しかしその優しさが時として人を傷つける事を、デレはまだ学んでいない。

( 、 *川「……まぁ、別にいいけどさ……どーでもいいし……」

ζ(゚ー゚;ζ「あ、いや! 違うんですッ!」

アタフタを身体で表しながら、なんとかフォローを試みるデレ。
そんな天然丸出しの彼女を見て、ミセリはクスリと笑った。



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/31(月) 22:57:04.93 ID:THXrEZiwi
('、`*川「あ……ミセリちゃんって美術部だっけ?」

ミセ*゚ー゚)リ「え? あ……はい」

('、`*川「そんな所辞めちゃってさ、新聞部入らない?」

ζ(゚ー゚;ζ「そんな所、って……」

('、`*川「私はもう卒業しちゃうけどさ……この子達はまだ居るから。
     アナタとも、上手くやれると思う。だってこの私が選んだ部員なんだもん」

ミセ* ー )リ「先輩……」

(^ー^*川「私の太陽、アナタに貸してあげる」

伸ばされた右手、ミセリは安心したような笑顔で取り、ゆっくりと立ち上がった。

ζ(゚ー゚;ζ「ぶ、部長が笑った……!」

('、`*川「……なによ、私だって笑うっての」

ζ(゚ー゚;ζ「だ、だって……今までフッとかヘッとか……そんなのばっかだったし」

('、`*川「……そうね。そんな反応するんならもう二度と笑わないわ」



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/31(月) 23:00:09.11 ID:THXrEZiwi
ζ(゚ー゚;ζ「うあ! いやそんな! 可愛かったですッ!!」

('、`*川「私可愛いって言われるの嫌いなの」

ζ(゚ー゚;ζ「め、面倒くせぇこの人ッ!」

コントみたいなやり取りを見て、たまらずミセリは吹き出した。
心が晴れやかになる。嬉しくて、スキップでもしたくなる。

だけどそれと同時に、闇も確かに現われた。
「私に笑う権利はない」と夜な夜な繰り返した言葉が蘇る。

そうしたらまた、辛くなった。

ミセ*゚ー゚)リ「……先輩、言いましたよね?」

('、`*川「ん? 何を?」

ミセ* ー )リ「……私を裁ける人間なんか居ない、って」

('、`*川「……ミセリちゃん?」

雰囲気が変わったのを察したのか、ペニサスが怪訝な顔を見せる。



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/31(月) 23:02:26.43 ID:THXrEZiwi
ミセ*゚ー゚)リ「……私を裁けるのは、私だけなんですよね」

('、`*川「……なに言ってるの?」

振り向き、歩きだす。

ミセ* ー )リ「……私は一生、綺麗にならない。なれないから。
      先輩の太陽、汚したくないんです」

一段高い段差に乗り、くるりと踵を軸に回った。

ミセ* ー )リ「……私の力。あって良かったって……初めて思った」

('、`;川「ミ……!」

ゆっくりペニサスとデレに向けられる右手、五指が順序よく、カーテンみたいに指し出される。

ミセ*^ー^)リ「ありがとう。嬉しかったです!」

今日一番の笑顔と優しい声。

瞬間2人を、耳鳴りのような、風が過ぎ去ったようなよく分からない音が襲った。
すると一瞬、意識が消えたような感覚が。自分が誰なのかを忘れたような感覚が。



50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/31(月) 23:06:03.12 ID:THXrEZiwi
ようやく我に返った時、ペニサスが最初に見たものは。
頭から最初に、背を反って外へと、自らを投げ出す少女の姿だった。

('、`;川「ッ!!」

走る。人付き合いよりも苦手な行為を必死に行う。
ようやっと着いて手を伸ばした時にはもう、彼女は空を飛んでいた。

最後に見たミセリは、心地よさそうに目を瞑った、可愛らしい顔をしていた。
その顔が、その姿がそのまま残ったような。瞬間が動かない、そう見えた。

でも、時間が止まったかのような錯覚は、結局錯覚でしかなくて。
直ぐにグシャリ、鈍い音がした。遠い、遠すぎる地面に、赤い水溜まりが出来た。

「―――――――ッ!!!!11!」

生涯初めてあげた金切り声が、冷たい空に響く。
それが空気を震わせたのか、空が涙を流し出す。少しずつ、ポツリポツリと。

ζ(゚ー゚*ζ「……? あれ、私……」

( 、 ♯川「あ゙あ゙あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙あ゙ッ!!!!!」

叫びながら、右拳を何度も何度も屋上の地面に叩きつける。
何度も何度も、痛くて血が出てきても、ペニサスは止めない。



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/31(月) 23:08:05.88 ID:THXrEZiwi
ようやく気付いたデレが止めるが、それで彼女の感情が納まるわけが無い。

( 、 ;川「私がッ……私がぁッ……!!
     言わなきゃよかった……会わなきゃよかった……探さなきゃあッ!!」

今度は後悔の念を、何度も何度も呟き叫ぶ。
膝を付き、頭を抱え、何度も何度も何度も何度も。

ζ(゚ー゚;ζ「部長ッ……どうしたんですか!?
       落ち着いてくださいよ!!」

( 、 川「私が……私が殺した……」

ζ(゚ー゚;ζ「殺ッ……!? だ、誰をです……?」

誰って。そう口には出さないが、それはふざけた質問だ。

ふざけた質問の筈なのに、そこに返せる答えは出てこない。
頭を捻るようにして思い出そうとするが、一つとして適当なモノは見つからない。

ならばと今度は考える。
すると薄ぼんやり、何かが浮かび上がった。



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/31(月) 23:10:26.65 ID:THXrEZiwi
一人の少女。顔も名前も思い出せないけど、確かに居た。
そして彼女が何か、何か不思議な力を持っていた。

それは、そう。記憶を消す力。

('、`;川「……違うッ! 駄目なのよそれじゃあッ!!」

確かな考えが浮かんだのに、次の瞬間には自分が何を考えていたか忘れる。

( 、 ;川「駄目なのよそれはッ……! 逃げなのォ!!」

必死にその穴を埋めていくが、構わず次々と欠落していく記憶。

( 、 ;川「忘れちゃ駄目なのよォ!! 消えるなァ!!
      居たのよ彼女はッ! 私が助けられなかった、彼女は居たッ!!」

逃げたくないと、それだけの想いが彼女の記憶を繋ぎ止める。

( 、 ♯川「消えるな消えるな消えるな消えるなッ!!
      こんなので終わっちゃ駄目なのよォ!!」

頭に爪が食い込む程、両手で強く押さえ付ける。
どこからか逃げる記憶を必死に掴み、留めさせるように。



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/31(月) 23:13:04.26 ID:THXrEZiwi
( 、 ;川「消えるな消えるなッ! 消えないでよ!!
      逃げたくないッ! もう逃げたくないからァ゙!!」

喉が枯れても叫ぶ。叫び続ける。

そんな強い想いがそうさせたのか、留める微かな記憶の中から、一つの欠片を見つけた。
嘘吐きの力に対抗できる唯一の方法。そして今、それを為せる物にも思い当たりがある。

( 、 ;川「……消えるな」

睨むようにして後ろを探し、見つける。彼女が持っていたその牙を。

無心に一杯の力を使い、デレの手を振りほどき、膝立ちで右腕を伸ばす。
乱暴に引っ掴み、持ってきたナイフ。

逆手で強く握ったそれを、ペニサスは。

( 、 ♯川「消えるなァァァァァァァァァア――――――――!!!!1!!」
迷う事なく自らの左腕を、その切っ先を滑らすように引き切る。

手の甲まで続けた勢いのまま、先端に赤の染みが出来たナイフを捨てる。
直ぐに血が、金属音と一緒に真っ赤な血が、地面へと落ちた。



59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/31(月) 23:15:51.62 ID:THXrEZiwi
ζ(゚ー゚;ζ「部長ッ!?」

痛みの呻き声と共にペニサスは、ジワリと浮き出た赤い線を右手で押さえる。
細い腕だ、血管にも傷を付けたのだろう。血は止まらない。

ζ(゚ー゚;ζ「な、何してるんですかッ!?」

すぐデレが、彼女の二の腕の内側を押さえ、止血を試す。
スカートから出した水色のハンカチで傷口を押さえると、なんとか派手な出血は見えなくなった。

( 、 ;川「忘れ……ないから……!! ミセリちゃんの事、絶対にッ……!!」

息を切らしながら言う。黒髪が雨に濡れ、伝う水が顔まで流れる。
涙なのか雨なのか、どちらでもいい。

ペニサスは、泣いていた。

( 、 *川「アナタを此処に……此処に刻んだから……」

言うとペニサスは、気を失ったように力無く横に、デレの胸へと身体を倒す。
何度も呼び掛けながらデレが肩を通し、2人は立ち上がった。

そのまま、覚束ないながらも急いだ足で、校内へと戻る。
左腕には赤いハンカチ、濡れた身体で階段を降り、必死に保健室を目指した。



61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/31(月) 23:19:39.27 ID:THXrEZiwi
 




遠くから、救急車のサイレンの音がする。
寒く暗い空、静かな夜にはそれは響き、二重三重のコーラスへと変わる。
雨が落ちる音よりも確かなそれは、段々と学校へ近付いて来ていた。

灰色が濃いグレーに変わった屋上の真ん中に、淡い赤の水溜まり。
一本のナイフと共に、雨に打たれながら佇む。

今日この場所であった事は非現実的だ。
だけどそれは、確かにあった事実。

嘘吐きは、ミセリはもう、死んだのだから。





  16話 「女生徒転落死事件」 終



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