( ^ω^)ブーンがダイエットを始めるようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 01:41:34.74 ID:J64HDZdZ0
  
(;^ω^)「・・・・・・」

体重計の針が示した数字に、ブーンは息を呑んだ。
ここ数日間気にしていた体重ではあるが、昨日から今日にかけては特に鰻登りであった。

(;^ω^)「今日は焼肉ととんかつと牛丼とパフェとアイスを食べたお・・・だからかお・・・?」

さすがに食い過ぎか、と頭の片隅では思っていたのだが・・・・・・。

ヒトは暗示にかかりやすい生き物である。
はっきりと数字を見せ付けられると、今まで見ていたものの量や大きさが変わって見えるものだ。
現に今―――ブーンは恐る恐る腹の肉をつまんだ―――自分の腹が、眼前に聳える山の様に見える。

( ^ω^)「・・・決めたお・・・」

ブーンは体重計に乗ったまま、針が振れるほど大きくガッツポーズをした。

( ^ω^)「ダイエットするお!ダイエットして・・・スリムな体を取り戻してみせるお!」



3: ◆WhjxqpypVA :2006/10/14(土) 01:42:19.79 ID:J64HDZdZ0
  
ダイエットする、と誓ったのはいいものの、具体的に何をすべきかまでは考えていないブーンであった



( ^ω^)「何をすればいいのかお・・・」

そもそも、彼の人生はダイエットとは全く無縁であった。
好きなものは腹がはちきれんばかりに掻っ込む。
足りないとあらば人の食事にまで目を付ける。
そんなブーンが、普段「カロリーに気を付けて野菜をしっかり」などと摂生しているわけがないのだ。

しかし、一度誓った以上はブーンも男である。

( ^ω^)「そう言えば・・・あの人はジョギングをしていたお」

ふと、ブーンはショボンのことを思い出した。
通りを隔てた斜向かいに住む、少々小太りの男性である。
毎朝6時―――ブーンが寝惚け眼でカーテンを開ける時、通りにはいつも彼がいた。
ショッキングピンクのジャージに淡いイエローのタオルという出で立ちは、嫌でも人の視線を引く。
ブーンが彼を思い出したのも、恐らくその奇抜な服装のせいだろう。
彼の体型を見る限り効果に信憑性は無いが、ダイエットにジョギングは王道であろう。

( ^ω^)「早速明日からジョギングを始めるお。明日の朝は5時に起きるお」



4: ◆WhjxqpypVA :2006/10/14(土) 01:43:26.16 ID:J64HDZdZ0
  
翌朝5時、いつもより早く目覚まし時計が鳴り響いた。
意欲に満ちている朝は、誰でも元気良く起き上がれるものだ。
目覚まし時計を止めると、ブーンはいかにも「快適な朝」という様に伸びをしてみせた。

( ^ω^)「ふああ・・・よく寝たお」

早速布団から起き上がり、昨晩タンスから出しておいたジャージに着替える。
濃い灰色のジャージだ。
数年前に購入したまま、タンスの奥で眠り続けていた品である。
ズボンの丈が踝の少し上までしかなかったが、ブーンは気にせずに靴下を履いた。

( ^ω^)「さあ、一日のスタートだお!」



6: ◆TPKiu/Fbn. :2006/10/14(土) 01:45:18.39 ID:J64HDZdZ0
  
朝の空気は清々しい。
いつもより深く呼吸をすると、少し冷たい空気が体を綺麗にしてくれる様だ。

ブーンはその場で数歩足踏みをしてから、軽い足取りで走りだした。
体の脂肪が熱を帯び、少しずつ燃えてゆく様子をイメージする。
それが楽しくて、ブーンは少しずつスピードを上げていった。

( ^ω^)「あ!おはようございますだお!」
(´・ω・`) 「やあ、おはよう」

小さな公園を通り抜けるところで、ショボンが反対側から走ってきた。
今日もいつもと同じ、ピンクのジャージに黄色のタオルである。

(´・ω・`)「珍しいね、いつも走ってたっけ?」
( ^ω^)「今日から始めたんですお。ダイエットするんですお」
(´・ω・`) 「ダイエット?どうして?」
(;^ω^)「最近体重が気になるんですお・・・」

ショボンは「ふうん」と、然程気にしていないような返事をした。
それが、あまり突っ込んで尋ねられたくないブーンにはありがたかった。

(´・ω・`)「まあ、頑張りなよ。続けることが大切だからね」
( ^ω^)「はいですお!」



8: ◆TPKiu/Fbn. :2006/10/14(土) 01:46:15.33 ID:J64HDZdZ0
  
ジョギングを終えて制服に着替え、朝食を済ませる。
サラダと牛乳のみの質素な食事だ。
それを手早く掻き込むと、ブーンは通学カバンを引っ掴んで家を飛び出した。

本当は、いつも6時なんて早朝に起きる必要は無いのだ。
あと1時間は遅くても、十分に授業に間に合う。
が、ブーンには早く起きたい理由があった。
この時間に家を出ると、決まって「彼女」に会えるのだ―――

ξ゚听)ξ「あら」
(*^ω^)「ツン!おはようだお!」

クラスメイトのツンは、巻き髪のよく似合う端正な顔立ちの少女だ。
多少刺々しい性格ではあるが、その大半が照れ隠しであることをブーンは知っている。
もっとも、今は単なる「クラスメイト」という関係でしかないのだが・・・・・・。

ξ゚听)ξ「あんた、ここ最近登校するのが早いわね。部活にでも入ったの?」

そう尋ねるツンの手には、ラクロスのスティックが握られている。
毎朝淡いオレンジのミニスカート姿で、このスティックを手にフィールドを駆け回るのだ。



9: ◆TPKiu/Fbn. :2006/10/14(土) 01:47:02.36 ID:J64HDZdZ0
  
(;^ω^)「いや・・・相変わらず帰宅部だお」
ξ゚听)ξ「そうなの?じゃあもっと遅くてもいいじゃない」
(;^ω^)「べ、勉強してるんだお。学校で」

本当は教室で机に突っ伏して眠っているのだが、そんなことが言えるはずもない。
「睡眠学習だけど」と、心の中でこっそり付け足しておいた。

ξ゚听)ξ「勉強?」
(;^ω^)「そうだお」
ξ゚听)ξ「へえ・・・頑張ってるのね」
(*^ω^)「褒めてるのかお?」
ξ////)ξ「そっそんなんじゃないんだから!せいぜい出来ない頭で頑張ることねっ!」

ツンはプリプリしながらブーンの一歩前を歩いた。
後ろ姿ではあるが、巻き毛の間から真っ赤に染まったツンの耳が見える。
思わず噴き出しそうになるのを堪えながら、ブーンは心の中で誓った。

( ^ω^)(ダイエットが成功したら、ツンに告白するんだお)



11: ◆TPKiu/Fbn. :2006/10/14(土) 01:48:59.66 ID:J64HDZdZ0
  
('A`)「あれ?昼飯それだけ?」

お昼時。
それぞれの昼食を手に騒ぐ教室の隅で、ドクオはブーンに尋ねた。
彼はブーンの親友である。
小柄で華奢な体型のせいか、よく女子生徒に「かわいい」と撫でられている。
男子達の羨望の眼差しを知ってか知らずか、本人は「かっこいいと言われたいのに・・・」だそうだ。

( ^ω^)「今日はちょっと食欲が無いんだお」

ブーンがそう答えると、ドクオは怪訝そうな表情を浮かべた。
が、ブーンは気にせずに紙パックの豆乳を口に含む。
箸を握るドクオの細い指に、ついつい目が吸い寄せられてしまう。

('A`)「そりゃ・・・昨日あれだけ食えば食欲も無いだろうに」

とんかつ定食のご飯をおかわりしようとするブーンに、自分の食べかけの飯を差し出したほどだ。
定食屋のおばちゃんの「五杯目だぞ」という表情が、まだ鮮明に思い出せる。
もっとも、ドクオにとっては定食一人分でさえも多く感じられるのだが。
しかしブーンと一緒に食事に行くと、損した気分がしないので不思議だ。



12: ◆TPKiu/Fbn. :2006/10/14(土) 01:50:19.08 ID:J64HDZdZ0
  
( ^ω^)「ドクオは友達だから教えるお。ブーン、今日からダイエットしてるんだお」
(;'A`)「・・・ええ?お前がかよ?」

信じられない、という顔のドクオ。
昨日のブーンの食事を見れば、当然だろう。

( ^ω^)「スリムになってツンに告白するんだお」
(;'A`)「・・・そうか・・・まあ、頑張れよ」

食欲に劣らず、人一倍の意欲もあるブーンだ。
いい線まで行くのではないだろうか、と、ドクオは温かく見守ることに決めた。

( ^ω^)「分かってるお!」

恋の話もダイエットの話もできる。
そんな友達がいて良かったと、ブーンは心から思った。

('A`)「三週間後にリバウンドに10円賭けるわ」
( ^ω^)「ちょwwwwww」

たったひとつだけのおにぎりを頬張りながら、楽しいお昼は過ぎて行った。



13: ◆TPKiu/Fbn. :2006/10/14(土) 01:51:39.76 ID:J64HDZdZ0
  
( ^ω^)「やったお!」

その日の夜、体重計に乗ったブーンは思わず歓声を上げた。
1キロ減。
ブーンには十分なスタートダッシュであった。

( ^ω^)「夜ご飯はもやしにしたし・・・明日もきっと減ってるはずだお」

ブーンは意気揚々とテレビのスイッチを付けた。
もちろん、テレビを見る時間も有効に活用しなくてはならない。
寝転がりながら足を上げるのだ。
爪先が天井を向いたところで、息を深く吐きながら戻す。

( ^ω^)「・・・お?」

タイミング良く、番組の内容は『痩せる!ダイエット特集』であった。



14: ◆TPKiu/Fbn. :2006/10/14(土) 01:53:35.79 ID:J64HDZdZ0
  
( ・∀・)『今回はダイエット特集ということで、この方に登場して頂きます』

インタビュアーの明るい声が部屋に響く。

( ・∀・)『あの大ベストセラー「美しく痩せる!ダイエットの全て」の著者、ギコさんです!』
( ,,゚Д゚)『こんばんは、よろしくお願いします』

( ・∀・)『先生は管理栄養士の資格も持っていらっしゃるということですが・・・』
( ,,゚Д゚)『はい。でも、学生の頃は本当に太っていたんですよ』
( ・∀・)『ええ、信じられない。ということで当時の写真を見て頂きましょう、どうぞ』

インタビュアーの合図と同時に、画面いっぱいに「当時の写真」なるものが映る。

(;^ω^)「本当にこの人なのかお・・・?」

俄かには信じられないくらい、その姿は今とかけ離れていた。
赤と白のチェックのシャツは、内側から圧迫されてボタンが引きちぎれそうである。
その下で、申し訳程度にズボンを支えるベルト―――今にもバックルが弾けそうだ。
ズボンは太ももの辺りがハムの様に広がっている。
逆三角形の体型は、数歩歩いたら転んでしまいそうな危険さを含んでいた。



15: ◆TPKiu/Fbn. :2006/10/14(土) 01:54:57.61 ID:J64HDZdZ0
  
(;^ω^)「これに伊藤ハムのシールが付いてたら、人間と気付かず買ってしまいそうだお」

今の自分の方がマシだ、とブーンが感じるような体型である。
面影はと言えば、目元が少し似ているかもしれない・・・という程度だ。

(;・∀・)『これはすごいですねぇ・・・』
( ,,゚Д゚)『そうですね、自分でもそう思います』
( ・∀・)『ダイエットを始められたきっかけは?』
( ,,゚Д゚)『・・・好きな子がいましてね。はっはっは』

淡々と答えるギコの瞳には、「勝ち組」の光が宿っていた。



16: ◆TPKiu/Fbn. :2006/10/14(土) 01:56:10.84 ID:J64HDZdZ0
  
( ,,゚Д゚)『具体的なダイエット法は全て本に書きましたが・・・』

ひとつだけ、と、ギコはほっそりした人差し指を立てた。

( ,,゚Д゚)『食生活は大切ですね』
( ・∀・)『ほほう、例えば?』
( ,,゚Д゚)『無理な食事制限は体調を崩します。食物から摂取すべき栄養素はたくさんありますからね』
( ・∀・)『そうですねー、その通り!』
( ,,゚Д゚)『体内で合成されるビタミンもありますが、外から得ないといけないビタミンも・・・』

(;^ω^)「・・・よく分からないお」

水溶性ビタミンやらペラグラやら、聞いたことの無い言葉が次々とギコの口から発せられる。
それらが何のことであるか、ブーンには分かるはずもなく。

( ^ω^)「まあ、とにかくご飯は食べろってことかお」

短絡的に解釈したブーンはテレビを消した。
「無理な食事制限は駄目」ということだけが、彼の頭には残っている。

( ^ω^)「今からご飯食べるお。無理な食事制限は禁物だお」



18: ◆TPKiu/Fbn. :2006/10/14(土) 01:57:06.52 ID:J64HDZdZ0
  
ジョギングは変わらず続けた。
が、初日の様な「やる気満々」といった様子は既に無くなっていた。

目覚まし時計はきっかり5時に鳴る。

( −ω−)「んぅ・・・もう朝かお・・・」

あと5分だけ、と誰にお願いするでもなく、ブーンは再び眠りにつく。
次に目覚めたのは、5時を30分ほど回ってからであった。

( −ω−)「仕方無いお・・・今日はちょっとショートカットするお・・・」

布団から這い出し、着替えてしまえば多少目は覚める。
が、それまでが辛い。
体が鉛のように重いという経験は、誰にでもあるだろう。



21: ◆TPKiu/Fbn. :2006/10/14(土) 01:58:19.81 ID:J64HDZdZ0
  
(´・ω・`)「やあ」
( ^ω^)「おはようございますだお」

ショートカットをしたせいで、今日はいつもとは違うところで彼に会った。
川沿いにポツンとある、タバコの自販機の前だ。

(´・ω・`)「ちゃんと続けているんだね。感心感心」
(;^ω^)「いやあ・・・このくらい当然ですお」

日毎に起きる時間が遅くなっている、などと言えるわけがない。
曖昧な笑みを浮かべながら、ブーンは話を短めに切り上げた。
それ以上追求されたら、ボロが出てしまいそうだったからだ。

走り去るブーンの姿を、ショボンは意味深な目で見送った。

(´・ω・`)「・・・彼のようにならないといいんだがね・・・・・・」



22: ◆TPKiu/Fbn. :2006/10/14(土) 01:59:31.64 ID:J64HDZdZ0
  
ξ゚听)ξ「今日も早いのね」

ツンと一緒の登校が、ブーンの日課になりつつあった。
最初は偶然を装っていたが、今は上手い具合に「待ち合わせ」の様な雰囲気になっている。
二人の関係がだんだんと親密になっていくようで、ブーンは嬉しかった。

( ^ω^)「毎朝ジョギングしてるんだお」
ξ゚听)ξ「ジョギング?何よ、健康志向?」
(;^ω^)「ん、まあ、そんなところだお。それに、もうちょっと痩せたいなぁーなんて・・・」

語尾を濁すブーンの顔を、ツンはじっと見つめていた。
視線を感じ、ブーンは顔が熱くなる。



23: ◆TPKiu/Fbn. :2006/10/14(土) 02:00:33.32 ID:J64HDZdZ0
  
(;^ω^)「何だお?」
ξ゚听)ξ「そんなに太っているかしら?」
(;^ω^)「ふ、太ってるお!だからダイエットしてるんだお!」

「ダイエット」とストレートに言ってしまったことを後悔したが、ツンは気にしていないようだった。

ξ゚听)ξ「痩せたい?」
(*^ω^)「痩せたいお!ツンもきっとスリムなブーンの方が好きだお。違うかお?」

冗談混じりに言った台詞。
いつもの様に「そんなわけないんだからっ!」と返してくれることを期待していた。
が、ツンは複雑な表情をブーンに向けると、それっきり前を向いてしまった。

( ^ω^)「ツン?」

学校に着くまで、ツンが再びこちらを向くことは無かった。



25: ◆TPKiu/Fbn. :2006/10/14(土) 02:01:33.83 ID:J64HDZdZ0
  
―――違う。
これは、体重計が壊れているんだ。
目盛りと針はちゃんと合わせているか?―――合わせている。
服は?―――着ているものを全て脱ぎ捨てる。
裸で体重計に乗ったら?―――変わらない。

(;^ω^)「う・・・嘘だお・・・・・・」

ふらついた拍子に、片足が体重計から下りる。
が、数字だけはしっかりと覚えていた。
運動の成果も無く、無情にも増えている体重を。

( ^ω^)「あの人、嘘ついたお」

ブーンの頭には、あの時のテレビ番組が浮かんでいた。

( ^ω^)「食事制限は駄目だって言ったじゃないかお!」

それをいいことに、以前と同じように食べていた自分の食生活は省みない様だ。
ブーンは煮えたぎる頭を掻きむしりながら、新たに自身に誓い直した。

( ^ω^)「朝はバナナ一本!昼はおにぎり一個!夜はもやし!それ以外は食べないお!」



戻る次のページ