('A`)が10時間だけ王になるようです
- 67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 20:19:06.01 ID:4qzloPCW0
- 34.
('A`)「実は…」
( ^ω^)「ちょっと待つお。約束して欲しいお」
('A`)「何をだ?」
( ^ω^)「最後の頼みって事なら、それを叶えたら爆弾を解除してもらうお」
ドクオは少し考えた。
時計を見る。
確かにもう時間もない。
('A`)「いいだろう。約束する」
( ^ω^)「必ずですお」
内藤も心底うんざりした顔になっている。
ドクオはそんな彼に対して少しだけ申し訳なく思った。心から、本当に。
- 68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 20:20:02.74 ID:4qzloPCW0
- 35.
('A`)「人を呼んで欲しい」
( ^ω^)「誰ですかお」
('A`)「安心しろ、別にアメリカ大統領とかじゃねえ。女優だ」
( ^ω^)「?」
('A`)「津田ツンを頼む。メシはそれからだ、食前酒でも飲もう」
内藤がどこかに電話をかけた。
ツンが来るまでの間、二人はワインを舐めるようにして少しずつ飲んだ。
('A`)「テレビに出てくるソムリエってのは何であんなに偉そうなんだろうな?」
( ^ω^)「…」
('A`)「たかがアルコール入りの葡萄ジュースじゃねえか。別に大して美味くもない。
何がそんなにありがたいかね?
- 70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 20:20:59.40 ID:4qzloPCW0
- 36.
ぐだぐだ喋っていると後ろからヒールの音が近付いてきた。
この音は覚えている。
そうだ。このヒールの音は思い出の音だ。
音はドクオの真後ろで止まった。
ドクオは振り向いた。
ξ ゚听)ξ「ドクオさん」
('A`)「ああ…。久しぶりだな。呼び付けたりして済まなかった」
いきなり人間核爆弾に呼びつけられた大女優は不安げな表情だった。
('A`)「内藤、外してくれないか」
内藤が席を離れ、さっきまで彼が座っていた椅子にツンが腰を下ろした。
- 71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 20:21:55.37 ID:4qzloPCW0
- 37.
('A`)「すぐに食事が来る。『ぐるナイ』で見て一度は来たかったレストランだ」
ξ ゚听)ξ「…」
('A`)「俺が狂ったと思ってるのか?」
ξ ゚听)ξ「まともなつもりなの?」
ドクオは笑った。
('A`)「確かにな。核を名刺入れとか傘みたいに持ち歩くなんておかしいよ」
ξ ゚听)ξ「爆弾は解除できるんでしょ?」
('A`)「もちろん」
ξ ゚听)ξ「じゃあ今すぐ…」
('A`)「慌てるな。あと2時間とちょっとある。ゆっくりしていけ」
ξ ゚听)ξ「…」
- 73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 20:22:51.63 ID:4qzloPCW0
- 38.
食事が運ばれてきた。
ドクオだけがまるで点けっぱなしのラジオみたいに一方的に喋っていた。
話題はチューニングが狂ってるみたいにコロコロ変わる。
('A`)「そうだ、プレゼントがあるんだ。これ」
ξ ゚听)ξ「?」
ドクオは荒巻スカルチノフ記念館から持ってきた懐中時計を差し出した。
('A`)「結婚前に行っただろ? 一緒に行った博物館で…」
ξ ゚听)ξ「覚えているわ」
('A`)「あの時、気に入ってただろ、これ。説得してもらってきた。受けとってくれ」
ξ ゚听)ξ「…」
ツンは黙って時計を受け取った。
- 75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 20:23:48.22 ID:4qzloPCW0
- 39.
欲しくて受け取ったんじゃない。
喜んでるわけでもなさそうだ。
ただ彼女は自分を怒らせないためだけに受け取ったことはドクオにもわかった。
でも気付かないフリをする。
――――――――――――――――――――――――――――
内藤はレストランの隅で引っ切り無しに鳴る電話を相手に悪戦苦闘していた。
上司とかそういう問題でないくらい上の人間がそれぞれまったく別のことを命令する。
何だか内藤はすべてがイヤになった。
何だってこの国から脱出している真っ最中の老人どもに尻尾を振らなきゃならない?
うんざりしてた彼の鼻先を香水の香りがくすぐった。
ツンだ。
- 76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 20:24:43.20 ID:4qzloPCW0
- 40.
ξ ゚听)ξ「失礼するわ」
( ^ω^)「もういいんですかお」
ξ ゚听)ξ「ええ。あの人によろしく」
テーブルに行くとドクオがぽつんと座っていた。
ワインを六甲の美味しい水みたいに喉に流し込んでいる。
( ^ω^)「思ったより早く済んだみたいですお」
('A`)「ああ。俺もびっくりしてるよ」
ドクオは淡々とした態度だ。
何気なくスイッチを押してもおかしくない雰囲気だった。
人は時々、たまに、本当に稀にだけど、世界のすべてが消えてなくなればいいと本気で考える。
内藤はこの時はじめて自分の背中に張り付いているものについて実感した。
死だ。今、それは恐ろしいほど間近にある。
- 78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 20:25:41.28 ID:4qzloPCW0
- 41.
雰囲気を変えようと話題を振る。
( ^ω^)「津田さんとはどういうご関係だったんですかお」
('A`)「妻だった」
( ^ω^)「え!? あの津田ツンがあんたの!?」
ドクオは遠い目をしている。
('A`)「俺の愚痴を聞いてくれるか?」
( ^ω^)「ええ、どうぞですお」
('A`)「夫婦だったのはあいつがまだ売れてないころの話だ。ブレイク前に別れた」
( ^ω^)「4,5年前ってとこですかお」
('A`)「ああ。もうそんなになるか…」
テーブルには手付かずの食事が乗っているが、ドクオの意識にそれは入っていないようだった。
- 80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 20:26:37.28 ID:4qzloPCW0
- 42.
('A`)「俺はいつもあいつに言ってた、女優なんか辞めろって。
俺の腕一本でも十分に食わせて行けたし、それで幸せだと思ったんだ」
( ^ω^)「…」
('A`)「何とかテレビに出ようとするあいつは惨めで見てられなかったよ。酒は?」
( ^ω^)「頂きますお」
('A`)「放射能の味がするかもな」
( ^ω^)「お、脅かさないで下さいお…」
ドクオはワインクーラーからワインを抜いて内藤のグラスに注いだ。
('A`)「別れた直後にあいつは映画の主役を得てブレイクした。『時をかけるツンデレ』だ」
( ^ω^)「見ましたお」
('A`)「俺はあいつが抜擢されてたころ残業手当てのことで会社とモメて辞表を出した。
離婚がお互いの運命の分かれ目さ」
- 81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 20:27:32.60 ID:4qzloPCW0
- 43.
大女優津田ツンに離婚歴があることは事務所の一部を除いて誰も知らない。
清純派で売っている彼女の汚点になると考えた所長が隠匿したからだ。
( ^ω^)「ドクオさん。これであなたの要求はすべて通しましたお」
('A`)「ああ。そうだな」
内藤は一つ一つの言葉に脅迫にならない程度の圧力を込めた。
( ^ω^)「今度はそっちが約束を守る番ですお」
('A`)「そうだな…そうだ、そうだな」
ドクオは左手を掲げ、グリップのスイッチを押した。
('A`)「でも気が変わった」
- 83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 20:28:31.57 ID:4qzloPCW0
- 44.
( ^ω^)「…」
('A`)「…」
( ^ω^)「…」
('A`)「…」
( ^ω^)「…」
('A`)「…はは」
( ^ω^)「…」
('A`)「ははは、ははははは」
ドクオは小さく笑いながら、ポケットから鍵を取り出した。
アタッシュケースの鍵穴に突っ込んで回転させる。
蓋が開いた。
中には何も入っていなかった。
- 85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 20:29:27.36 ID:4qzloPCW0
- 45.
グリップに繋がったコードのもう一端がケースの底にビニールテープで貼り付けてある。
ドクオは自分の手からグリップを剥がし、それをケースに放り込んだ。
( ^ω^)「核廃棄物は…?」
('A`)「団地の裏山に埋めた。密閉容器からは出していないから、放射能は心配するな」
内藤の心の中は死んだように静かだ。
一度は死が体の中に入り込みかけたからか?
( ^ω^)「あんたは狂ってる」
('A`)「俺はそう言われる度にこう思った。『狂ってるのはお前らだ』」
ドクオは両手を差し出した。
('A`)「逮捕しないのか? 手錠は?」
- 86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 20:30:24.87 ID:4qzloPCW0
- 46.
( ^ω^)「一つ教えて欲しいお。結局動機は何なんだお?」
('A`)「お前らは…いや、俺たちは生まれながらにして奴隷だ。一生涯首輪に繋がれたままのな」
( ^ω^)「?」
('A`)「俺がどうしても理解できないのは、お前らは大喜びでその事実を受け入れてるってことだ」
ドクオは手錠をかけられて外へ連れ出された。
パトカーに押し込まれる。
色んな奴が色んな顔で色んな事を喋ってる。
('A`)「狂ってるのはお前らさ」
ドクオは呟いた。
今の世の中に人として生まれたのならばそれだけで奴隷だ。
お前らは狂ってる。
それをどうとも思わない。
- 88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 20:31:26.72 ID:4qzloPCW0
- 47.
俺はたった10時間だがこの世の王となった。いや、暴君と言うべきか?
すべてをひざまずかせて何もかも思い通りにした。
これまで俺を首輪に繋いでた奴らに中指を立てて「クソッタレ」と言ってやった。
この先の俺の人生は奴隷以下だろう。
いいさ。
後悔など何もない。
何一つ後悔することなどない。
一生犬のままでいるくらいなら、俺は一晩だけでも王になる。
おしまい
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