( ^ω^)桜舞い散る中に忘れた記憶が戻ってくるようですξ゚听)ξ
- 8: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 01:46:34.60 ID:DgEuc+eT0
- 女の子が泣いていた。
愛くるしい顔を、くしゃくしゃにして。
この子にはきっと笑顔が似合うだろう。
そう思った僕は頭を撫でようと手を伸ばす。
だけどその手は、届かない。どんなにどんなに伸ばしても。
聞こえてくるのは、女の子の嗚咽。
それだけははっきり聞こえるのに、どうしても手が届かない。
それどころか、段々と女の子から遠ざかっていく。
僕は歩こうと思った。
でもその足は、ピクリとも動いてくれなかった。
なんで、どうして?
そう思いながら足を動かそうとする。
だけど僕の足は、まるで鎖にがちがちに固められているかのように、動かなかった。
遠ざかる女の子。必死で手を伸ばす僕。
そのうち嗚咽が小さくなり、女の子が消え入りそうな声で、こう言った。
『内藤くん…いかないで…』
その声を聞いて、僕の意識は闇へと溶けていった。
- 9: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 01:48:24.04 ID:DgEuc+eT0
- ───3月24日 4:20 内藤ホライゾン───
( ´ω`)「…お…?」
目を開けたら、見慣れた天井が最初に目に映った。
どうやら寝ていたらしい。まだぼやけた目を擦りながら、上体を起こす。
虚ろな意識のまま、右に、左にと首を動かし部屋を見渡す。
部屋の隅にはダンボールが詰まれ、他にある物といえば僕が寝ていたベットだけ。
そういえば引越しの準備をしていた。いつの間にか寝てしまっていたらしい。
小さい頃のアルバムを見ていたら、急激に眠くなり、そのまま寝てしまったのを思い出した。
夢を見ていた気がするが、夢の内容は思い出せなかった。
僕は枕元に置いた携帯を取り、時間を確認する。
3月24日 4:23
結構寝ていたようだ。僕は役目を終えた携帯を無造作に枕元にほかり、立ち上がった。
そしてその場で両手を思いっきり頭上に伸ばし、伸びをする。
( ^ω^)「ん…うーーーん……」
全身に血が駆け巡るのがわかる。少しふらついた。
僕はその足でベランダに向かい、カーテンと窓を開けた。
外はまだ暗かった。
深呼吸。早朝の清々しい空気を僕は思い切り吸い込み、吐き出す。
( ^ω^)「早起きもたまにはいいもんだお」
そう独り言を呟き、僕は部屋へと戻り、窓を閉めた。
- 10: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 01:50:13.40 ID:DgEuc+eT0
もうすぐ4月と言っても、朝はまだ寒かった。
窓に映った自分の頭を見る。ボサボサだ。
僕はこのひどい頭を直す為に洗面所に向かった。
部屋のドアを開け、階段を下りる。
1階に下りた時、台所から音がした。
( ^ω^)「カーチャン…こんな朝早くから起きてるのかお…」
先に挨拶をしようと、僕は寝癖を押さえながら台所へ向かった。
リビングのドアを開けると、大きなダンボールが所狭しと並んでいた。
カーチャンとの二人暮らしには広すぎるこの家とも、もうすぐお別れだ。
トーチャンが死んでから8年が過ぎた。
仕事柄あまり家にいなかったトーチャンが死んだと聞かされた時は驚いたが、
悲しいとは思わなかった。
反対に、カーチャンは泣き崩れた。その時初めて、悲しくなった。
葬式が終わっても、カーチャンは沈んだ顔をしていた。
そんなカーチャンを見て、僕はなるべく家に居ようと決めた。
もう、カーチャンの悲しい顔は、見たくなかった。
その為に部活にも入らず、友達も作らなかった。
だから引越しの話を聞いた時は、躊躇いなく賛成した。
この家を売り、カーチャンの田舎へ帰る。そう告げたカーチャンはまた寂しげだった。
環境が変われば、カーチャンはまた昔の笑顔に戻ってくれるかもしれない。
僕はそう願っていた。
- 13: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 01:51:59.89 ID:DgEuc+eT0
- ( ^ω^)「カーチャン、おはようだお」
台所のドアを開け、引越しの準備をしていたカーチャンに挨拶をした。
J( 'ー`)し「あら、おはようブーン 今日は早いのね?」
振り向き、そういったカーチャンの顔は、笑顔だった。
( ^ω^)「なんか目が覚めたんだお カーチャンも早いお」
J( 'ー`)し「カーチャンもなんとなく目が覚めちゃってね お腹空いてない?」
( ^ω^)「うーん…そういえば腹へってきたお」
J( 'ー`)し「じゃあ何か作ってあげるから、顔洗ってらっしゃい」
( ^ω^)「わかったお」
そう返事して、僕は洗面所に向かった。
最近のカーチャンは元気な気がする。少し、安心した。
洗面所に着き、鏡の前に立つ。
先に顔を洗い、歯磨きをした。そして、最強の敵寝癖へと移る。
どんな寝方をしていたのか、見事なまでにぼさぼさだった。
中でも頂点の髪が、触覚のように真っ直ぐに伸び、天を貫いていた。
( ^ω^)「やるかお」
僕は静かに気合を入れ、戦いへと身を投じた。
- 14: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 01:54:06.10 ID:DgEuc+eT0
リビングに戻ると、おいしそうな匂いがした。
寝癖も直り、ご機嫌で椅子に座る。
J( 'ー`)し「もう有り合わせしかないけど、我慢してね」
カーチャンはそう言ったが、目の前に並べられた朝食は、見事な出来栄えだった。
ほかほかの白米。
香りたつ味噌汁。
見事な形の出汁捲き。
色合いが見事な、里芋の煮物。
そして特製の漬物。
いかにも和といったラインナップだった。
そして、そのどれもがおいしいことを、僕は知っている。
( ^ω^)「いただきますお!」
僕は元気に食事の開始を宣言し、手料理に手を付ける。
おいしい。わかっていたが、本当においしかった。
大好きな料理に満たされていく満腹感を感じながら、箸を進める。
すると、それを見ていたカーチャンが突然口を開いた。
J( 'ー`)し「ねえ、ブーン?」
( ^ω^)「ふぉ?(お?)」
J( 'ー`)し「カーチャンは、もう大丈夫なんだからね?」
- 15: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 01:55:10.18 ID:DgEuc+eT0
なぜカーチャンがそんなことを言ったのか、よくわからなかった。
ちゃんと話を聞くために、僕は食事の手を止める。
J( 'ー`)し「ブーンが…カーチャンが寂しくないようにって気を使ってくれてるのは知ってるわ
でもその為に友達を作らないで、どこにも遊びに行かないでいるブーンを見てるのは辛いの」
(;^ω^)「カーチャン…」
ショックだった。カーチャンの為を思ってしていたことが、苦痛だったというのだ。
J( 'ー`)し「そりゃあトーチャンが居ないのは寂しいけど、カーチャンのことでブーンが気を使うのは、
もっと寂しいの だから引越し先では、もっと好きなことをしてほしいわ」
僕は馬鹿だ。いつの間にか自分がカーチャンの足枷になっていたのだ。
(;^ω^)「カーチャン…ごめんお…」
搾り出した言葉は、謝罪だった。
これしか言葉が見つからなかった。
J( 'ー`)し「謝ることなんかないのよ ありがとうね、ブーン」
ありがとうと、言ってくれた。僕も、応えなければ。
( ^ω^)「ありがとうだお、カーチャン」
カーチャンが喜ぶなら、そうしよう。友達を、作ろう。
実は我慢していた。それだけは、カーチャンに言える筈がなかった。
そう思うと、引越し先での生活が楽しみになってきていた。
- 17: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 01:57:20.94 ID:DgEuc+eT0
話が終わり、僕は食事の続きを始める。
冷めてしまっていたが、なぜか食べる前よりおいしく感じた。
J( 'ー`)し「ツンちゃんに会うのも、楽しみでしょ?」
カーチャンの言葉に、また手を止める。
ツン…ちゃん?
( ^ω^)「誰だお?」
僕の問い掛けに、カーチャンはきょとんとした。
J( 'ー`)し「あら…覚えてないのね まだ4歳だったからかしらねぇ…
引越し先のカーチャンの田舎には、小さい頃ブーンも行った事があるのよ」
知らなかった。まったく記憶にない。
興味が沸き、僕はカーチャンに話の続きを聞かせてもらうことにした。
J( 'ー`)し「その時お隣に住んでた、ツンちゃんって女の子がいてね?
毎日その子と遊んでたのよ 今時分の季節だったわねぇ…懐かしいわ」
( ^ω^)「まったく記憶にないお…」
J( 'ー`)し「あらあら、ツンちゃん可愛かったから、きっと美人になってるわよ?
カーチャンも楽しみだわ」
美人…か…。それ聞いてその子のことを思い出そうとする。
でも、その子のことは愚か、カーチャンの田舎を訪れたことすら、まったく思い出せなかった。
- 21: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 01:59:29.16 ID:DgEuc+eT0
J( 'ー`)し「あら… あんなにはしゃぎ回ってたのに、全然覚えてないの?」
カーチャンのその質問に、僕は頷くしかなかった。
事実、何も覚えていない。
そんなことがあったのかと、驚いたくらいだ。
実は驚いた理由は、それだけではなかった。
翌々考えてみると、僕は友達と一緒に遊んだ記憶がまったくなかった。
勿論、友達を作らなかった自分のせいなのだが…
カーチャンが寂しがるのも、無理はなかった。
だから、そんな素敵な事があったというのなら、覚えていたかった。
でも後悔はしていない。
カーチャンの為に過ごした今までのことだって、大切な思い出だ。
思い出は、これから作ればいい。
忘れてしまったのなら、思い出せばいい。
僕はそう、前向きに考えることにした。
そんな僕の顔を見て、カーチャンはにこにこ笑っている。
- 22: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 02:01:04.91 ID:DgEuc+eT0
- なんだか照れ臭くなった僕は、食事に専念し、食べ終える。
( ^ω^)「ごちそうさまでしたお」
J( 'ー`)し「お粗末さまでした」
食器を片付け始めるカーチャン。その姿はなんだか嬉しそうだった。
僕はそんなカーチャンの姿を見ながら、ツンという女の子のことを思い出そうとする。
しかしどうしても思い出すことができなかった。
頭が痛くなってきたので、別のことを考えることにした。
引越したら当然、学校が変わる。
僕は今年から高校2年生になる。友達を作らなかった為に勉強ばかりしていたから、
授業に遅れることは多分ないだろう。
問題は、友達作り。
元々人と話すのは得意な方じゃない。うまくクラスに溶け込めるだろうか。
そう考えると不安になってきた。でも逆に楽しみでもある。
部活はどうしようか。特に趣味もない自分だ。向こうに行ったら好きなことができるかもしれない。
することは、いっぱいだ。これからは忙しくなる。自分のことで。
落ち着いて考えると、やりたいことが思いのほか多いことに驚いた。
考えてもきりがないと思った僕は、引越しの準備を再開することにした。
明日、新天地で新しい生活が始まる。
荷物整理に取り掛かる僕の胸は、期待に溢れていた。
………。
……。
…。
- 23: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 02:02:11.06 ID:DgEuc+eT0
- ───同日 5:48 ????───
昨夜は結局、あまり寝れなかった。
窓を開け、早朝の綺麗な空気を全身で感じる。
少し肌寒かったが、それが逆に心地よかった。
昨晩母から聞いた話……
小さい頃に遊んだお隣の内藤君が、こっちに引っ越してくるという。
私は驚き、嬉しくて泣きそうになった。…母に赤くなってると指摘された時は恥ずかしかったな…
彼は私の事を覚えていてくれているだろうか?
身長はどのくらいだろうか、私より高くなっているだろうか?
顔は…期待すると凹みそうだから考えないことにした。
その日をずっと…ずっと待っていた。
そしてついに、明日その日がやってくる。
彼を前にしたら、私は平静を保っていられるだろうか?
もし彼が私を忘れていたら…そう考えると、とても怖かった。
でも小さかったから、その可能性は否定できない。
色々な場面を考えていないと、直面した時自分がどうなってしまうか不安だから、
私はずっと考え、心の準備をしていた。
そのせいで余り寝ることができなかった。
春休みだったのが、唯一の救いだった。
寝ようと思えば寝れたかもしれないけど、このまま起きていることにした。
……訂正。目を閉じると様々な期待や不安が頭を過ぎって、とても寝れる状態ではなかった。
- 25: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 02:03:43.93 ID:DgEuc+eT0
- いい加減寒くなってきたので、窓を閉める。
私はまたベットに寝転がり、携帯を開く。
そして、登録してある一人の名前を呼び出した。
『内藤 ホライゾン』
まだ番号が登録されていない、名前だけのメモリ。
…昨晩、先走って名前だけ登録していた。
こんなことが他人に知れたら、気持ち悪いと言われるだろうか。
彼はなんて、思うだろうか。
でも私は、この名前の続きに携帯の番号とメールアドレスを登録するのが楽しみで仕方がなかった。
……やっぱり変かな…。
うまく番号を聞けるだろうか。私の事を忘れていた場合は、そもそも教えてくれるだろうか?
そう考えるとますます不安になってくる。
親友には相談というか、報告はした。
小学校からの親友で、彼のことはその前から話していた。
その彼が今度こっちに引っ越してくると、昨晩メールした。
送った途端に電話がかかってきて、おめでとうと喜んでくれた。
でも覚えてないかもしれないと言ったが、彼女は愛があれば大丈夫と言った。
恥ずかしくなった。
その時は安心して電話を切ったが、一人で考えるとやはり不安だった。
私はこんなにも、弱かったのだろうか。
自分のあまりにも不甲斐無い部分を知って、驚きと同時に嫌になる。
- 27: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 02:05:46.12 ID:DgEuc+eT0
- 勢い良く立ち上がり、着替える。
乱れた髪はそのままに、部屋を出、玄関を飛び出した。
不安なことがあれば、いつも訪れていた場所を目指した。
早朝の冷たく心地よい空気を受け、歩く。
朝の散歩もたまには良いものだ。
あの頃──、内藤と遊んだ頃とあまり変わらない景色。
こんな田舎に戻った彼は、なんて言うだろうか。
彼が居る所は、都会だと聞いていた。
こんな田舎町を、…田舎娘を、なんて言うだろう。
また不安になった頭を振り、考えるのをやめた。
5分ほど歩いたところで、そこに着いた。
そこは名もない小さな公園。
彼と毎日遊んだ公園だった。
錆びたブランコ、ジャングルジム、シーソーや鉄棒が、寂しそうに置かれている。
その公園の真ん中にある、一本の大きな桜の木。
まだ桜は咲いていなく、所々に小さな蕾が伺えた。
あの時は、この桜が満開だったのを良く覚えている。
そして、ここで交わした、約束も───。
ξ゚听)ξ「覚えてるかな…アイツ…」
桜を見つめ、私はそう呟いた。
………。
……。
…。
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