( ^ω^)桜舞い散る中に忘れた記憶が戻ってくるようですξ゚听)ξ

28: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 02:06:57.20 ID:DgEuc+eT0

楽しいことも、悲しいことも、時が経てば色褪せて行く。


それが幼い頃の記憶なら、尚更だ。


しかしここに、色褪せぬまま記憶を大切にしている少女が居た。


想うは、一人の少年、内藤ホライゾン。

しかし、少年の母を想う優しい心は、幼い頃の思い出の色を消していた。

母によって初めて自分と向き合った少年。

果たして少年は、色褪せた記憶にまた色を塗ることができるのだろうか。

そして少女は、少年と再会した時、何を思うのだろうか。

記憶のない者と、記憶のある者。

二人の再会は、近い──。


( ^ω^)桜舞い散る中に忘れた記憶が戻ってくるようですξ゚听)ξ

───第一話『再会』───



29: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 02:08:14.50 ID:DgEuc+eT0
───3月25日 10:17 内藤ホライゾン───

騒がしい。この家にはもう10年以上暮らしているが、こんなに騒がしかった日があっただろうか。
何事かと思い、重い瞼を開けた。
特に部屋が変わった様子はない。
僕はそのまま瞼を閉じて、夢の中へと旅立った。

………。
……。
…。

( ゚ω゚)「引越しー!引越しー!」

そうだ、今日は引越しの日だった。
それを思い出した僕は、床から飛び起きた。
…床?疑問を感じ、足元を確認する。
僕は確かに、床の上で仁王立ちしていた。
昨晩寝た時はベットだった気がするが…

とりあえず僕は服を着替え、引越し作業しているであろう1階へと降りて行った。

( ^ω^)「カーチャン、おはようだお」

慌しく作業をしていたカーチャンに挨拶する。

J( 'ー`)し「おはようブーン! 寝てる間にベットもう運んじゃったからね!」

謎は全て解けた。じゃあ僕はベットからどかされても起きなかったのか…。
昨日早起きした分、熟睡していたらしい。



31: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 02:09:53.55 ID:DgEuc+eT0
( ^ω^)「カーチャン、僕もなんか手伝うお」

J( 'ー`)し「うーん、荷物運びは業者さんがやってくれてるから、ゆっくりしてていいわよ」

カーチャンはそう言い、引越し業者の人に次々と指示を出していた。
ではお言葉に甘え、何か食べることにした。

J( 'ー`)し「台所におにぎりがあるからー!」

背を向けた僕に、カーチャンがそう言った。
それを聞いて、台所へ向かう。

台所に着くと、そこには汗をかいたラップに包まれたおにぎりが、3個並んでいた。
1つを取り、ラップをはがし、頬張る。
絶妙な塩加減。僕の好みを熟知している証拠だ。
僕は心の中で感謝し、夢中でおにぎりを頬張った。

おにぎりを平らげた僕は、引越しの進み具合を確認する為、家の中を探索することにした。
家具がなくなった家の中は、元々二人には広い家だったが、一層広く感じた。

1階は本当に何もなかった。見事な程に。
丁度僕が起きた時に、1階の荷物はほぼ全てトラックへ運ばれ、
2階の荷物へ取り掛かるところだった。
要するに、本当に僕が手伝うことはなかったのだ。

しかし、見ているだけではなんだか悪い気がしたので、散歩に出かけることにした。



32: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 02:11:13.11 ID:DgEuc+eT0

カーチャンに散歩に行く事を告げる。カーチャンは業者さんに慌しく指示を出していた。
昼までに帰って来いというカーチャンの言葉を背中で聞き、僕は家を出た。

暖かい日差しを受け、見慣れた道を歩く。
特に思い出もなかったこの街だが、もう訪れることがないかもしれないと思うと、
不思議と感慨深いものがあった。

僕は家から然程遠くない、桜並木に着いた。
桜並木と言っても、まだ桜は咲いていない。
ニュースによると、今年は遅咲きらしい。

並木の中間地帯にあるベンチに腰掛け、まだ茶色だけの桜の木を見上げる。
小さいが、蕾がちらほら伺えた。
都会のわりに、この街は自然が多いと思う。
引っ越す先は結構な田舎だとカーチャンは言っていた。

そして僕は、昨日の朝のカーチャンの言葉を思い出していた。
小さい時…まだ4歳の頃、一月程だが僕はそこに行ったことがあるという。
そこで隣に住んでいたツンという女の子と親しくなり、毎日一緒に遊んでいたらしい。

昨日は引越しの準備をしながらそのことをずっと考えていたが、全く思い出せなかった。
桜の木を見つめながら、もう一度思い出してみる。

…何も浮かんでこなかった。
トーチャンが死んだあの日から先が、どうしても思い出せなかった。
目を閉じて、大きくため息をつき、また桜を見上げる。

その時。



33: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 02:12:25.18 ID:DgEuc+eT0

(;^ω^)「!?」

一瞬、満開の桜が見えた気がした。
目を擦り、再び目を開けた。
見えたのは、変わらない寂しい桜並木だった。

今のは一体なんだったのだろうか…?
確かに満開の桜が見えた気がした。
それも、この桜並木の桜ではなかった。一本だけだったが、とても大きな、雄々しい桜だった。

見えたのは一瞬だったが、目を閉じればはっきりとその桜を思い出すことができた。
僕はゆっくりと目を閉じ、その桜を思い出す。
なんて綺麗な桜なんだろう。
雄々しく、立派に、見事に咲き誇っていた。

それなのに……なぜこんなにも悲しくなるのだろう?
その桜を思い出す度に、僕は悲しくなっていた。
そして、悲しくなるのに、僕はこの桜を見続けていたいと思った。

引っ越した先には、桜の木はあるだろうか?
あったとしたら、見てみたい。
僕はそう思い、瞼の裏にある桜の木をいつまでも眺めていた。

………。
……。
…。



34: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 02:13:41.73 ID:DgEuc+eT0
───同日 12:29 ツン・デレ───

川 ゚ -゚)「可愛いな、君は」

そう言われ、飲んでいた紅茶を吹きそうになった。
いきなりこんな事を言った彼女の名前は、素直クール。
愛称は、クー。私の親友。

ξ;゚听)ξ「ちょっと…なんでそうなるのよ…」

口を拭き、不満をぶつけた。
今日はクーを家に招き、内藤君のことで相談に乗ってもらっていた。

川 ゚ -゚)「不安でいっぱいなんだろう? …可愛いじゃないか」

ξ゚听)ξ「どこがよ 自分がこんな女だったなんて、嫌になってくるわ」

川 ゚ -゚)「その内藤君がツンのことを覚えているか、不安なんだろう?」

ぅ…。自分の嫌な部分を指摘された。
まぁ、それだから相談したわけだけど…
そうはっきり言われると、不甲斐無さに嫌になるし…何より恥ずかしい。

川 ゚ -゚)「多分、ツンの立場になったら、普通はそうなると思うぞ」

そう言って紅茶の注がれたティーカップに口をつけるクー。
そんなものなんだろうか…。



35: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 02:15:56.63 ID:DgEuc+eT0
川 ゚ -゚)「私でも、きっとそうなると思う」

ξ゚听)ξ「え…クーが?」

川#゚ -゚)「む 失礼だな 私だって女の子なんだぞ」

クーの口からそんな言葉が出るなんて、思ってなかった。
思わず吹き出してしまう。頬を膨らませたクーが可愛くて、今度は本気で笑ってしまった。
クーは気を損ねてしまったが、おかげで気が楽になった。

ξ゚ー゚)ξ「ありがとね、クー」

川#゚ -゚)「単純だな、君は」

ξ゚听)ξ「ちょ、ごめんってば!」

川 ゚ -゚)「だがそれがいい」

…やられた。

川 ゚ -゚)「楽しみだな 明日が」

そう言われ、近づいてくる再会の日のことを考えて、胸が熱くなってきた。
私はクーの言葉に、ゆっくり首を縦に振り、応えた。
楽しみであり、怖くもある。
どんな服を着て、どんな顔をして、挨拶をしようか…。



36: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 02:19:49.01 ID:DgEuc+eT0

川 ゚ -゚)「私もその内藤君とやらが気になってきたぞ」

ξ;゚听)ξ「だ、だめー! だめだめだめ絶対にだめーー!」

思わず叫んでしまった…。

川 ゚ -゚)「? 何を勘違いしてるんだ 変な感情は微塵もないぞ」

そう言われ、はっとした。顔が真っ赤になる。

川 ゚ -゚)「本気で好きなんだな、その彼のこと」

さらに真っ赤になって、頷いた。
小さい頃遊びにきて、一緒に遊んだ。
楽しかった、本当に…。
彼が帰ってからは、日に日に寂しくなっていった。
やがてこれが、恋だということに気付いた。

でもその時は、もう何もかもが遅かった。
伝えられない想い。想いは募り、募り募って…やっとその日がやってくる。

川 ゚ -゚)「きっとうまくいくさ 自信をもて」

ξ゚听)ξ「…うん」



37: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 02:23:20.18 ID:DgEuc+eT0

うまく行く保障も何もない親友の言葉。
私にはそれだけで充分だった。
大人びたクーの言葉は、不思議と説得力があった。

川 ゚ -゚)「よし 私をその内藤君だと思って、告白してみるんだ」

ξ;゚听)ξ「えーーーーーーーーーー!?」

また叫んでしまった。
しかしなんてことを言い出すんだろうかこの子は…。

川 ゚ -゚)「家が隣、しかも昔一緒に遊んだ仲なら友達になる口実はいくらでもあるだろう?
     そうなると大事なのは本番だ さぁ、かかってこい」
     
かかってこいって…いきなりそんなこと言われても…。
なんか鼻息荒いのは気のせいだろうか?

クーを内藤君だと思って…。
クーの顔を見る。

ボンッ

また顔が真っ赤になってしまった…。

川*゚ -゚)「さぁ…次は台詞だ 頑張れ」

…なんとなくクーの顔も赤い気がする。
こうなったらクーも退かないだろうと思い、私は口を開く。



39: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 02:25:45.93 ID:DgEuc+eT0
ξ*゚听)ξ「な…内藤君…」

川*゚ -゚)「はいっ」

ξ////)ξ「ずっと前から…好きでした…付き合ってくだ…さいっ」

川*゚ -゚)「いいともおおおおおおおおおおおお!」

きゃあああああああああああああ!
クーが飛び掛ってきた。こら!ヘンなとこ触るな!
親友の予想だにしなかった行動で、恥ずかしさがどこかへ吹き飛んだ。

ξ;゚听)ξ「離れなさああああああああい!」

そう叫び、クーを突き放す。

川*゚ -゚)「ツン、今のはよかったぞ きっと好きじゃなくてもOKする」

いやそれはだめでしょ。
クーは普段クールだが、たまにこんなハイテンションになることがあった。
まぁ面白いからいいけど…。

乱れた服を直し、紅茶を口に含む。
クーも同じようにそうしていた。

そして、クーが口を開いた。



40: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 02:27:27.14 ID:DgEuc+eT0

川 ゚ -゚)「ツン」

ξ゚听)ξ「うん?」

川 ゚ -゚)「意識するなというのは無理だろうから、それは譲歩するとして、
     取り繕ったツンを見てもらっても、相手に失礼だ」
     
………。

川 ゚ -゚)「自然に、普段の君のままで接すれば、きっとうまくいくさ
     君は可愛い お世辞じゃない 親友の私が保障する」
     
自然な…私…。
それがどんな私なのかわからないけど、クーのその言葉はとても安心できた。

ξ゚ー゚)ξ「…ありがとう、クー」

川 ゚ー゚)「その笑顔を忘れるな」

そう言ったクーの笑顔は、とても素敵だった。
私もこんな風に笑えているだろうか?
一瞬不安になったけど、もうそう考えるのはやめた。
私は私で、精一杯できることをしよう。
親友の笑顔を見て、そう思った。

………。
……。
…。



42: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 02:29:21.85 ID:DgEuc+eT0
───同日 15:38 内藤ホライゾン───

引越し作業が終わり、僕とカーチャンは駅に着いた。
家具等重い荷物は業者に全て任せていたが、必要そうな小物を色々と詰めたら、結構な量になった。
でもカーチャンに重い物を持たせまいと、僕が全て持っていた。

カーチャンの実家は、ここから電車で2時間、そしてバスで1時間かかる所にあった。
相当な田舎らしい。でも不安はなく、むしろ期待感に満ちていた。
切符を買い、電車に乗る。
乗り継ぎを繰り返す度に、乗客の数は明らかに減っていた。
カーチャンは朝の作業で疲れたのか、背もたれにもたれかかって寝ていた。

その様子を見て、僕は目を瞑り、少し前にしたカーチャンとの会話を思い出した。
実家の近くの公園に、大きな桜の木が一本あるらしい。
それを聞いた時から、先ず最初にそこへ行こうと決めた。道ももう聞いてある。

カーチャン曰く、僕はその公園でツンという女の子と遊んでいたという。
本当に覚えてないの?とカーチャンに聞かれたが、結局思い出せなかった。

その子の事も気になっていたが、今は桜の木を見るのが楽しみだった。
今の時期はまだ咲いていないだろうが…。

やがて、終点を告げるアナウンスが聞こえた。
僕はカーチャンを起こす。
ふぇっ?と変な声を出したカーチャンに、思わず笑ってしまった。

そして僕らを乗せた電車は、終点のVIP駅に着いた。



43: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 02:31:12.81 ID:DgEuc+eT0

時刻は18時前、辺りはすでに薄暗かった。
僕とカーチャンは急いでバス停に走った。
バスは1時間に一本で、この時間のバスを逃すと次のバスはその日最後の便になるらしい。

僕らがバス停に着いたと同時に、バスが到着した。
早速バスに乗り込む。
中は運転手以外誰もいなかった。

/ ,' 3「おや… 内藤さんじゃないかえ?」

不意に、運転手が声をかけてきた。
僕らは運転手に近い席に座り、そしてバスが発車した。

J( 'ー`)し「お久しぶりです 荒巻さんもお元気そうで」

/ ,' 3「久しぶりだのう …しかし、珍しいの?」

そう言われたカーチャンは、苦笑した。

J( 'ー`)し「えぇ… 色々あって、実家に戻ることになったんです」

/ ,' 3「なるほどのう… まぁ、またよろしく頼むぞい」

J( 'ー`)し「…ありがとうございます こちらこそよろしくお願いします」

荒巻と呼ばれた運転手は、深くは詮索しなかった。
職業柄色々な人を見てきたのだろう。彼なりの気遣いだったことは僕にもわかった。



45: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 02:33:04.60 ID:DgEuc+eT0

/ ,' 3「ところで… 隣のその子は、あの時の息子さんかの?」

J( 'ー`)し「はい ホライゾンと言います」

紹介され、慌てて頭を下げる。

( ^ω^)「内藤ホライゾンですお よろしくお願いしますお」

/ ,' 3「ほっほっ この町をバスで走り続けること53年 荒巻スカルチノフじゃ よろしくのう」

J( 'ー`)し「駅に来る時は大体荒巻さんのお世話になると思うから、失礼のないようにね?」

/ ,' 3「ほっほっ ふざけたことしたら叩き落とすから、気をつけてのう」

(;^ω^)「…肝に銘じておきますお」

冗談のつもりだろうが、あの目は本気だった。

/ ,' 3「どうせこの時間は誰もおらんじゃろ 飛ばずぞい」

そう言って荒巻さんはスピードを上げた。
いつの間にか完全に陽が沈んでいた外の景色は、ただただ暗闇だった。
田舎は暗いとよく聞くが、予想以上だった。

荒巻さんは僕に見覚えがあるらしく、大きくなったと言っていた。
やはり僕は、この町に来たことがあるらしい。
実は半信半疑だった僕の疑問は、現地の人間によって解決された。



46: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 02:34:33.01 ID:DgEuc+eT0

窓を見る。相変わらずの、暗闇。
僕は視線を空へと移した。
そこには、文字通り満点の星空が広がっていた。

同じ国で、ここまで星が違って見えることに驚いた。
時折見える家の灯りが、とても眩しく見える。
何もかもが、違っていた。
何もかもが、新鮮だった。

今日からここで、新しい生活が始まる。
春休みが明けたら、学校が始まる。
毎朝バスで駅まで行き、そこから電車で通うことになると言う。
片道1時間半。早起きしなくてはいけない。
転入手続きも春休み中に済ませた方がいいらしい。
その前に、明日から荷物の整理もしなくてはならない。

するべきことは、沢山あった。
でも最初にすることは、決めていた。

公園の桜を、見に行こう、と。

………。
……。
…。



47: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 02:36:18.35 ID:DgEuc+eT0
───同日 19:27 ツン・デレ───

クーを途中まで見送った後、私のその足で公園の桜の木の下にきていた。
見上げた桜の木は、まだ花の咲いていない枝をどこか寂しげに風に揺らしている。

彼と遊び…。

彼と約束し…。

彼と別れた、場所…。

あの約束を、彼は覚えていてくれてるだろうか。
まだ4歳だった時の、馬鹿げた約束。
そんな小さい時の約束を覚えているなんて、きっと私だけだろう。
でも、期待せずにはいられなかった。

もう一度桜の木を見上げる。
その姿は、さっきと同じ様に寂しげだった。

私によく、似ていた。

寂しいせいか、風が冷たく感じた。
私は帰ろうと思い、桜に別れを告げて、振り返った。

そこに…彼が…
居た───。

………。
……。
…。



48: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 02:38:02.42 ID:DgEuc+eT0
───同日 19:31 内藤ホライゾン───

カーチャンに書いてもらった地図を頼りに、僕は公園を見つけた。
ほとんど一本道だったが、暗闇ということもあって、少し時間を食ってしまった。
公園らしきものを見つけた時、大きな桜の木が見えていた。

そして僕は、公園に入った。

桜の木の下に、誰かがいた。
シルエットから女の子ということがわかる。
その背中は、なんだか寂しそうに見えた。

寂しそうな背中が、なぜか僕には綺麗だと思えた。
少しの間、見とれていた。
名前も知らない、幻想的な雰囲気を醸し出しているその少女に。

ふと、その様子が傍から見たら不審すぎることに気付いた。
慌てて僕はとりあえず桜の木へ向かおうと、歩く。

そして、女の子が、振り向いた。

可愛い。
うん、可愛かった。
僕と目が合った女の子は、ぼーっと僕を見つめていた。
こんな可愛い子に凝視されることなどなかった僕はどうしていいかわからず…

とりあえず挨拶をすることにした。



49: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 02:40:54.56 ID:DgEuc+eT0

(;^ω^)「こ、こんばんは」

自分でもぎこちない挨拶だと思った。
女の子は変わらず、僕を見つめている。
どれくらい時間が経っただろうか…やがて女の子が口を開いた。

ξ゚听)ξ「こんばんは」

挨拶を返してくれた。よし、会話が成立した。
引っ越してきたばかりだということもあり、僕はとりあえず、自己紹介をすることにした。

( ^ω^)「今日こっちに引っ越してきた、内藤ホライゾンと言いますお
       よろしくお願いしますお」
       
すると少女は、少し驚いた顔をした。
でもすぐに、落ち着いた顔に戻り…

ξ゚听)ξ「私はツン・デレよ よろしく」

そう言った。
…ツン…? もしかして、カーチャンが言っていた女の子だろうか?
その事を確認する為に、僕は質問をすることにした。

( ^ω^)「ツン…さんって、昔一緒にあそん──」

ξ゚听)ξ「覚えてるの?!」



50: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 02:43:15.76 ID:DgEuc+eT0

僕の質問は、彼女の突然の質問によって中断されてしまった。
意味は伝わったらしいから、ツンの質問に答えることにした。

(;^ω^)「ごめんお 小さい頃のことは全然覚えてないんだお…」

そう言った刹那、ツンはとても寂しそうな顔をした。
悪いことをしたか…でも覚えてないから仕方がない。

顔を下に向けたまま、何も語らないツン。
なんだか痛々しくなってきた。

(;^ω^)「ご、ごめんお でも思い出すかもしれないし、これから…」

ξ )ξ「…ヵ…」

(;^ω^)「へ?」

ξ;凵G)ξ「ばかーーーーーーーーーーー!!」

( ゚ω゚)「グオォゥ!!」

突然叫んだツンは、僕を吹き飛ばし、公園の入り口まで走り、振り返って…

ξ;凵G)ξ「あんたなんか!知らないんだからーーーーーーーー!!」

そう叫び、走り去っていった。
残された僕は、桜の木に視線を移した。
まだ花を咲かせていない桜は、僕と同じ様に、寂しそうだった。



52: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 02:44:39.80 ID:DgEuc+eT0
まったく、なんだったというのだ。
確かに僕は、小さい時の記憶がない。それは悪いと思う。
でも吹き飛ばさなくてもいいだろうに…
僕はさっきの出来事を思い出す。

……泣いていた、な…。
最初に見た顔はきょとんとしていた。
次に見たのが、落ち着いた顔。
その次が、驚いた顔。

そして、泣き顔。
…やっぱり僕が悪かったかな。

( ^ω^)「お前は、昔を知ってるのかお?」

桜の木に、そう問いかけた。勿論、返事はない。
僕は苦笑して、桜の木に背を向けた。
そしてまた、ツンのことを思い出す。

僕の事を知っている、僕が知らない少女。
理不尽だと思ったが、泣かせてしまった事に胸が痛んだ。

次に会った時は、笑顔をみてみたいと思った。

………。
……。
…。



53: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 02:46:29.95 ID:DgEuc+eT0
───同日 19:45 ツン・デレ───

やってしまった。
一番してはいけないことを。
後悔してももう遅い。

ーーーーーっ!
私の馬鹿!どうしてああなるのよ!?

振り返った時、ひと目で内藤君だとわかった。
正直驚いて、頭の中が真っ白になっていた。
文字通り舞い上がりたい心境だった。

そして…『こんばんは』。
彼の声を聞いた時、ものすごくどきどきして…どうしていいかわからなくなってしまった。
『こんばんは』って…一言返すのが精一杯だった。

後はもう暴走して…よく覚えてない。

でも最悪なことをしてしまったのは覚えている。
嫌われていないだろうか。
思いっきり吹っ飛ばしてしまった。怪我をしていないだろうか…。

心配事が溢れてくる。
会う前以上に、自分が嫌になってしまった。
穴があったら、入りたかった。



55: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 02:48:20.38 ID:DgEuc+eT0

でも本当に、彼は帰ってきた。

同じくらいだった背は、私より高くなっていた。
声は少し子供っぽかった。
癖のある顔も当時の面影を残したままだった。

彼は、記憶の中の彼とあまり変わっていなかった。

確実に変わっていた事は、私を知らないと言うことだけ。

でもこれからは、会おうと思えばいつでも会える。

今日は心の準備ができていなかっただけだ。
明日、挨拶をしに行こう。今日のことを、謝ろう。

それから笑顔で、こう言おう。

『ひさしぶりだね』、と──。

………。
……。
…。



56: ◆ECmvgmi7GI :2007/11/16(金) 02:49:39.79 ID:DgEuc+eT0

12年ぶりに、二人は再会した。

一人は記憶を持ったまま、一人は記憶を無くして。

出会ってもまた、すれ違う二人。

少年の前では素直になれない少女。

少女にどう接して良いのかわからない少年。

困惑する二人が出した結論は、笑顔だった。

二人の再会を見守っていたのは、一本の大きな桜。

風に揺れるその姿は、どこか嬉しそうだった。



続く……。



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