( ^ω^)桜舞い散る中に忘れた記憶が戻ってくるようですξ゚听)ξ

2: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:04:36.16 ID:208psVCZ0

 ゆらゆらと、枝達を風に揺らせながら。
 昨日までは美しいと思っていたその姿は、
 ひどく、とても、悲しそうだった。
 
 桜に感情なんかないってことは、さすがの僕にもわかってる。
 でも、そう思わずには、いられなかった。
 
 重く圧し掛かる暗い空と、物々しい重機が、僕に無言の圧力をかける。
 
『こんな物がないところを、もう一度見たかった』

 クーはそう言ったきり、黙っていた。
 僕も何も言えず、黙っていた。
 
 ただ、頭の中で同意した。
 
 皆とお花見をした時の、あの姿を。
 
 ツンと出会った時の、あの桜の姿を。
 
 
 もう一度、見たかった。



4: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:05:03.66 ID:208psVCZ0








  ( ^ω^)桜舞い散る中に、忘れた記憶が戻ってくるようです



         ───最終話 『桜散る』─── 







8: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:06:43.46 ID:208psVCZ0

( ^ω^)「クー……」

 わかっていた。ここから動きたくないことは。
 でも僕は、クーの名前を呼んだ。
 
 もしかしたら、今この瞬間が、この桜を見る最後のチャンスなのかもしれない。
 その最後の時を終わらせようとしている僕は、残酷だ。
 
 
川 - )「ん……」

 風に消されてしまいそうな、弱々しい返事。
 表情は暗くてよく見えない。
 
 いや、本当はよく見れば見えるかもしれないけど、僕が見たくないだけだ。
 
 それは多分、僕も同じ顔をしていると思うから。
 絶望感と、どうしようもない現実に対しての無力さ。
 そういう物が浮かんだ顔を、僕はしていると思う。
 
 クーの顔を見ると、自分の顔に映っている影が見えてしまいそうで。
 
 そんな事を思ったら、呼んだ後に言葉を続けることができなくなってしまった。



9: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:08:40.31 ID:208psVCZ0

 四月だと言うのに、風も少し冷たく感じた。
 実際、本当に冷たいのか、はたまた気が重いせいなのかは、わからない。
 
 風が、音が、思考が、不快な事ばかりに繋がってしまう。
 覚悟はしていたはずだった。
 でも実際には、この有様だった。
 
 引っ越してきてから、色々な事があった。
 そのどれもが、楽しい事だった。
 そこにきて、全てのきっかけになった存在が、無くなってしまう。
 
 
 思い出の……桜の木が……
 
 
 …………そういえば。
 クーはなぜ、こんなに辛そうにしているのだろう。
 ツンがこうだったら、それはわかる。
 
 僕と大切な思い出を共有したからだ。
 でも、クーはどうして。
 
( ^ω^)「…………」

 もう一度、桜を見た。



10: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:11:19.62 ID:208psVCZ0

 何か、まだ何か、思い出せていない気がする。
 
 ツンとタイムカプセルを開けた時、全部思い出した気がした。
 でもまだ、今になって何かが抜けている気がする。
 それはなんなのか。
 
 桜は、答えてはくれない。
 当たり前だけど、少し期待していた。
 もう少し、時間が欲しい。
 
( ^ω^)「……クー」

 もう一度、名前を呼んだ。
 今度はちゃんと、次の言葉を決めている。
 
 クーは返事をしなかったけど、構わずに続けた。
 
( ^ω^)「クーも……この桜に、思い入れがあるのかお?」

 言った後に、思い出す。
 ここに来る途中に、クーに質問されたことを。
 
 そして、答えた後の、寂しそうな笑顔を。



12: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:12:49.15 ID:208psVCZ0
 
 ひょっとしたら僕は、帰ろうと切り出すことよりも……
 もっともっと残酷な事を言ってしまったのかもしれない。
 だけど、言ってしまった事はもうどうにもならない。
 
川 ゚ -゚)「女の子がな」

 いつもの、落ち着いた声色。
 
川 ゚ -゚)「迷子の女の子がいたんだ その子は、親切な人に手を引かれて、
     ここまで連れてきてもらったんだ」
     
 それは途中、クーが僕にした質問に似ていた。
 クーは僕に聞いた。昔、女の子の手を引いて、ここにきたことがあるか、と。

 今また、今度はしっかりと思いだそうと、記憶の糸を辿った。
 
川 ゚ -゚)「女の子は不安で不安で、堪らなかった」
 
 ツンと約束を交わした日のこと。
 
川 ゚ -゚)「でも、男の子の背中を見ていたら、段々と不安は消えて行った」

 もっと前、ツンと出会った時のこと。



13: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:14:12.49 ID:208psVCZ0


川 ゚ -゚)「同じくらいの背だった男の子の背中は、女の子にはとても大きく見えた」


 それより前のことは、どうしても思い出せない。
 
 
川 ゚ -゚)「その後、その背中よりももっと大きな、この桜が目に飛び込んだ」


 でもなぜか、不思議とクーの話の情景が、はっきりと頭に浮かんだ。
 
 
川 ゚ -゚)「振り向いた、男の子の笑顔と、桜の優しいピンク色」

 
 ────あぁ。
 
 
川 ゚ー゚)「綺麗……だった……」


 わかった。
 
 その女の子は、クーで、男の子は、僕なのだ。



14: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:15:36.29 ID:208psVCZ0

 でも目に浮かぶ情景は、クーの話の視点の絵。
 僕からの視点は、浮かばなかった。
 それはつまり、思い出せていないということ。
 
(  ω )「…………ごめんお……」

 それしか、浮かばなかった。
 それしか口に、出せなかった。
 
 その言葉は、クーの耳に届いていたのだろうか。
 
 ふっと、静かにクーが笑う。
 返事は、ない。
 
 その顔は桜と一緒で、どこか寂しそうな笑顔だった。
 
川 ゚ -゚)「……帰ろうか」

 僕が切り出せなかった言葉をクーが言ってくれた。
 
 思い出せず、帰ろうとも言えず。
 
 そんな自分が、情けなくて。
 
 僕はまた、同じ言葉を繰り返そうと。



15: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:18:08.16 ID:208psVCZ0

(  ω )「ごめ────」

 言いかけて、風を切る音がした。
 それが聞こえたと思った、次の瞬間。
 
( * ω)「───っ!」

 乾いた音と同時に、僕の首が少し傾く。
 その後に、ジンジンと右の頬が熱を帯びていった。
 
 そこまできて、やっと理解した。
 
 クーに、叩かれた。
 
川 ゚ -゚)「……シャンとしろ」

 叩かれた部分を手で抑え、クーを見る。
 いつものしっかりとした、落ち着いた目で僕を見ていた。
 
川 ゚ -゚)「ブーンが悲しそうにしていると、ツンも悲しむ」

 …………。
 
川 ゚ -゚)「それに、今のはブーンには関係ない、ただの昔話だ 気にするな」

 じゃあなぜ、僕を叩いたのか。



16: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:20:54.85 ID:208psVCZ0

川 ゚ -゚)「なぁ、ブーン」

 クーが桜の方を見ながら言う。
 
川 ゚ -゚)「人の記憶なんて、いい加減な物だ いずれは、忘れる。
     この桜が散らした花弁のように、新しい記憶が、どんどん積み重なって……」
     
 僕も桜を見た。
 
川 ゚ -゚)「埋もれて、忘れていくんだ」

 クーの言葉通りに、桜は風に身を揺らせながら、散って行く。
 
川 ゚ -゚)「散った桜は、戻らない 忘れた記憶も、同じだ」

 そしてまた、僕を見た。
 
 
川 ゚ー゚)「……ブーンは、ツンのことを思い出せたじゃないか。
     それを大切に、大事に、してくれればいい」
     
 笑顔。
 
 寂しさも何も浮かばせない、とても素直な、笑顔だった。



20: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:23:25.70 ID:208psVCZ0

川 ゚ー゚)「……叩いてすまなかったな 先に帰る」

 そう言って身を翻し、クーは早足で公園の入口に向かう。
 僕はまだ、動けずにいた。
 
 呼びとめることも、できない。
 
川 - )「ああ、そうだ」

 入口近くでクーが止まって、大きな声で言った。
 
川 ゚ー゚)「私がぶったなんて、ツンに言わないでおくれよ!
     ツンと喧嘩なんて、したくないからな!」
     
 そうしてまた、クーは早足で去って行った。
 
 
 最後まで、笑顔のままで。
 
 
( ^ω^)(…………)

 右の頬が熱い。



22: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:24:57.14 ID:208psVCZ0

 頬を手で押さえながら、桜を見上げる。
 
 多分もう、これでこの桜は見れない。
 
 もう、踏ん切りはついたはずなのに。
 
 もう、大丈夫だと思ったはずなのに。
 
 クーの話が、頭から離れない。
 
 まだ、あるんだ。
 
 この桜が散らせて行った花弁達の下に。
 
 ツンとの思い出の、まだ下に。
 
 まだ、あるはずなんだ。
 
 でも、思い出せない。
 
 思い出せない。
 
 思い…………出せない……。
 
 ………。
 ……。
 …。



23: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:26:46.26 ID:208psVCZ0

 駆けた。
 誰にも見られないように、走った。
 
 もしブーンが追いかけてきていたら。
 
 くしゃくしゃの、汚れた自分の顔を、見られてしまうから。
 
川 ; -;)「ぐっ……」

 視界がぼやける。
 暗い道な上に、これじゃあまるで前が見えない。
 
 でも私は、走リ続けた。
 見られたくないから。
 
 ブーンに。
 
 思い出の、ヒトに。
 
 ツンの事を思い出したと聞いて、やはり期待した。
 
 でも現実は、そんなに上手くいかなかった。



24: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:28:30.76 ID:208psVCZ0

 別によかった。
 ツンとブーンが付き合ったって、別にいい。
 
 でもせめて、思い出してほしかった。
 
 私だって、ツンみたいに、昔一緒に居た時があったって。
 
 同じ思い出を、共有したかった。
 
 ただそれだけで、よかった。
 
 でもそんな期待は、音を立てて崩れてしまった。
 
 
『ごめんお』


 ブーンの贖罪の言葉が、胸に突き刺さった。
 主語も何もない、たった一言が、私の心を打ち抜いた。
 
『思い出せなくて、ごめん』

 ブーンの声で、その言葉が頭に浮かんだ。
 
 そこまで、言っていないのに。



26: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:30:54.41 ID:208psVCZ0

『クーのことを、思い出せなくて、ごめん』

 一言に、どんどん言葉が足されていった。
 
『ツンのことは思いだせたのに、クーのことは思いだせなくて、ごめん』

 頭の中で、ぐるぐる、ぐるぐる、私を打ちのめす言葉が再生された。
 
 このままじゃ、ブーンも、ツンまでも、嫌いになってしまいそうだった。
 
 
パシン─────


 ブーンを叩いた。
 それで頭の中の言葉は、止まった。

 私はなんて、醜い女なのだろう。
 自分勝手な期待、嫉妬。
 それらを全て、暴力という最低な行為に変えて、ブーンにぶつけてしまった。
 
 当のブーンは、さぞ驚いたに違いない。
 
 ごめん。



28: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:32:35.98 ID:208psVCZ0

 ごめんなさい。
 
 叩いて、ごめんなさい。
 
 大好きなのに、ごめんなさい。
 
 浮かび上がる、贖罪の言葉達。

 当のブーンには、届かない。




川 ; -;)「……ごめん……なさい……」
 
 
 

 口に出したって、聞こえるわけがないのに。
 
 届くわけがないのに。

 それでも私は、言葉を紡いだ。



30: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:34:41.17 ID:208psVCZ0

 もうあの桜が花弁を積もらせる事はない。
 
 でも、ブーンの記憶は、思い出は、今この瞬間でも、つもっていく。
 
 私との、思い出の上に、どんどん、どんどん。
 
 ────私も、積もらせよう。
 
 ブーンとの、思い出の、上に。
 
 たくさんの、桜を、思い出達を。
 
 そして、忘れよう。
 
 だって、そうしないと、ツンの顔もきっと見れなくなってしまう。
 
 そうしよう。
 
 忘れよう。
 
 初恋を、忘れよう───……。
 
 ………。
 ……。
 …。



31: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:36:53.81 ID:208psVCZ0

 いつもと何も変わらない朝がやってきた。
 早々にカーチャンのおいしいご飯をたいらげ、家を出る。
 
 見れば丁度、ツンが家の前を通りかかっていた。
 
ξ゚听)ξ「お、おはよう」

( ^ω^)「おはようだお」

 ふと、右頬が気になった。
 赤くないだろうか、腫れていないだろうか。
 
 挨拶の後、急に動きを止めた僕を、ツンがきょとんとした顔で見ていた。
 何も言ってこない所をみると、大丈夫なのだろう。
 
ξ゚听)ξ「丁度いいタイミングで出てきたわね せっかくだから一緒に行きましょ」

( ^ω^)「お、おkだお」

 実は待ってたんじゃないかと思ったけど、自意識過剰みたいだったから、言わなかった。
 
 天気のいい、ぽかぽかとした日差しが降り注ぐ田舎道を、並んで歩く。
 
 横のツンをちらりと見た。



32: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:38:44.72 ID:208psVCZ0

 特徴的な縦巻きロールを揺らしながら、真っ直ぐに前を見ている。
 
 クーのことを、聞こうと思った。
 でもそれは、自分の問題だと思って、やめた。
 
 でも。
 
ξ゚听)ξ「昨日、公園はどうだった?」

 やはり、昨日僕とクーを見送ったこともあるし、
 何より桜の木がなくなることも気にしているんだろう。
 
 計らずとも、その話題に行き着いてしまう。
 
( ^ω^)「ん……いよいよって、感じだったお」

 重機があったなどと、具体的なことは伏せて言った。
 僕自身、あまり思い出したくない事だ。
 
 一つの事を除いては。
 
ξ゚听)ξ「そっか……」

 ツンは僕の一言で、状況を察したらしかった。



33: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:40:12.96 ID:208psVCZ0

ξ゚听)ξ「……クーは……どうだった?」

 胸が、高鳴った。
 
 聞かれたくないことだ。
 
( ^ω^)「どうだったって?」

 言葉を濁す。
 実際、なんて答えたらいいかわからないのもあった。
 
ξ゚听)ξ「うーん……何か、元気なかったし」

 ツンとあの場で別れた時。
 あの時のクーからはそんな感じはまったくしなかった。
 
 僕が引っ越してしまった後から、ずっと二人は親友だったと聞いている。
 親友にしかわからない物を、感じたんだろうか。
 
 その辺りはやはり、さすがだなと思う。
 
( ^ω^)「そんなことなかったお」

 嘘をついた。



37: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:41:53.20 ID:208psVCZ0

ξ゚听)ξ「ふーん……」

 何かを感じたのだろうか。
 普通に、言えたはずだ。
 でも何か、引っかかっているような、そんな返事だった。
 
ξ゚ー゚)ξ「ま、そういうことにしておくわ」

 ニコっと笑って、深くは追求しないでくれた。
 
 ありがとう、そして、言えなくてごめんお。
 
 心の中で、感謝と謝罪の言葉を呟く。
 僕は一体、どうしたらいいんだろうか。
 
 答えは、簡単だ。
 
 クーの事も、全部思い出せばいい。
 
 でもどうしても、思い出せない。
 
 それは時間のせいなのか、カーチャンの為に必死だったせいなのか。
 とにかく、思い出せない。
 
( ´ω`)「はぁ……」



38: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:43:54.17 ID:208psVCZ0

 思わず溜息が出てしまう。
 
ξ゚听)ξ「なーに 今日はちょっと暗いよ?」

 やはり突っ込まれてしまった。
 
(;^ω^)「おっ……ほら、テストあるし、色々あったし、疲れてるんだお」

 咄嗟に誤魔化した。
 実際は、疲れることなんてことはこれっぽっちもなかった。
 
 引っ越し作業も、迎えてくれた自然達と、そして新しく出来た友達のおかげで、
 楽しく進めることができたからだ。
 
 テストだって、自信はある。
 
 何もないんだ。疲れることなんて。
 
 あるのは、気懸かりだけ。
 
ξ゚听)ξ「そういえば、前の学校とこっちの学校だと、勉強はどうなの?
       やっぱりウチはスポーツに力を入れてるし、遅れてる?」



39: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:45:08.88 ID:208psVCZ0

( ^ω^)「そう……かもしれないお」
 
ξ゚听)ξ「ふーん……じゃあテストは自信あるんじゃないの?」

( ^ω^)「それはやってみなきゃわかんないお」

 少し曖昧に答える。
 
ξ゚听)ξ「クーとショボンは、すごく成績いいのよ いつも勝負してるの」

( ^ω^)「そうなのかお」

ξ゚听)ξ「うん、毎回上位なのよ」

( ^ω^)「じゃあ、僕も頑張ってみるお」

ξ゚听)ξ「あら、やっぱり自信あるんじゃない」

(;^ω^)「おっ……そんなことは……」

ξ゚ー゚)ξ「ふふっ 私がテストで負けたら、今度から勉強見てもらおうかしら」

 なぜかツンとの勝負になってしまったようだ。



41: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:46:42.41 ID:208psVCZ0

 バス停が見えた。
 
 少し緊張していたが、それは徒労に終わる。
 
 クーが、いなかったからだ。
 
ξ゚听)ξ「あら? ヒートとシューちゃんじゃない」

ノパ听)「おお! ツンおはよおおぉぉぉぉ!」

lw´‐ _‐ノv「おはようございます」

( ^ω^)「おはようだおー」

 クーの代わりに、珍しい子達がいた。
 元気一杯のヒートちゃんと、大人しいシューちゃん。
 
ノパ听)「…………」

 ヒートちゃんが、僕とツンを交互に見る。
 何を考えているんだろうか。
 
ノハ*゚听)「ど、どーはんしゅっきんってやつか!?」

 ゴス



43: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:48:22.59 ID:208psVCZ0

lw´‐ _‐ノv「うるさい」

 シューちゃんがすかさず突っ込みをいれた。
 
 水筒で。
 
ノハ;凵G)「いいいいいいたいいいいぃぃぃ……」

ξ;゚听)ξ「ア、アハハ……」

 苦笑いするしかなかった。
 ヒートちゃんはいつもこんな突っ込みをされてるのだろうか?
 だとしたら、なんて壮絶な日常なのだろう。
 
ξ゚听)ξ「でもどうして、二人がバス停にいるの?」

 僕も知りたかった事を、ツンが聞く。
 
lw´‐ _‐ノv「キュートが熱出して、お父さんとお母さんは大慌てで朝早く病院にいったの」

ξ゚听)ξ「そうなんだ……それで今日は二人ともバスなのね」

lw´‐ _‐ノv「そうです」

 聞きたい事は、もう一つ。



45: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:49:43.31 ID:208psVCZ0

ξ゚听)ξ「クーはどうしたの?」

 またもツンが、代弁してくれた。
 ツンがそれ聞くのは、当然すぎることだったけど、
 怖くて聞くことができない僕には、ありがたかった。
 
lw´‐ _‐ノv「お姉ちゃんは、今日が気分が乗らないから休むって」

ξ;゚听)ξ「き、気分?」

ノパ听)「なんか、目が赤かtt」

 ゴス
 
ノハ;凵G)「おおおおおおぉぉぉぉ……」

lw´‐ _‐ノv「余計な事はいいの」

ξ゚听)ξ「……」

 ヒートちゃんが、言いかけた事。
 
 目が赤…………かった、ということなのだろうか。
 
 昨日、最後に見たクーは、笑顔だった。



46: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:51:36.65 ID:208psVCZ0

 でももし、ヒートちゃんが言っていたことが本当だとしたら……
 僕はクーを、泣かせてしまっていたんだろうか?
 
ξ゚听)ξ「……シューちゃん」

 ツンがシューちゃんの肩を掴み、シューちゃんの目線まで屈んだ。
 
ξ゚听)ξ「お願い、本当のこと、教えて?」

lw´‐ _‐ノv「……」

ξ゚听)ξ「クー、泣いてたの?」

lw´‐ _‐ノv「……お姉ちゃんには、気分が乗らないって言えって、言われた」

ξ゚听)ξ「……」

lw´‐ _‐ノv「……昨日、お姉ちゃんが帰ってきた時、泣いてた」

 クーが、泣いていた?
 それはやっぱり、僕が。
 
lw´‐ _‐ノv「私じゃ、お姉ちゃんを元気にしてあげられない」



48: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:53:08.06 ID:208psVCZ0

lw´‐ _‐ノv「でもツンさんなら、させてあげられる と思う」

ξ゚听)ξ「シューちゃん……」

lw´‐ _‐ノv「お姉ちゃん、家に居ます お姉ちゃんを、お願いします」

ξ゚听)ξ「……シューちゃん、ありがと!」

 そしてすぐに、ツンは駆けて行った。
 
 クーの家へと。
 
 僕はただ、その背中を眺めることしかできなかった。
 
 追い掛けるべきなのだろうか。
 
lw´‐ _‐ノv「……」

 シューちゃんも、ツンが去った後をじっと見つめていた。
 大好きなお姉ちゃんを元気づけてあげられない事が、悲しいのだろう。
 悔しいのだろう。
 
 僕なんかより、ずっとしっかりしている。



51: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:55:34.79 ID:208psVCZ0

 ツンが去って、十分程たっただろうか。
 道の向こうに、車の影が見えてきた。
 
 …………バス……よりも、大きい。
 
 トラック。
 
 いや、それよりも大きな、トレーラー?
 
 ようやく見えたそれは、とても大きなトレーラーだった。
 荷を積むはずの後ろの車は、空っぽ。
 
ノパ听)「でけぇぇぇぇぇぇ!」

 これは、あの公園に向かうのだろうか。
 工事の為に。

 桜の木を、倒す為に。
 
 そう思っていた時、なぜかトレーラーは僕らの横で停車した。
 
 運転席から顔を覗かせたのは、知っている人だった。



52: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:56:52.92 ID:208psVCZ0

( ゚∀゚)「おーっす 今から学校か?」

(;^ω^)「ジョルジュさん? おはようございますお」

 すると、助手席から誰かが降りてきた。
 その人も、知っている人。
 
(´<_` )「よう、ブーン君」

( ^ω^)「弟者さんまで……おはようございますお」

 一体何故、この二人がこんなものから降りてきたのだろうか。
 まったく、わからない。
 
(´<_` )「なぁ、ブーン君」

 降りて早々に、弟者さんは僕に話しかけてきた。
 
( ^ω^)「はい、なんですかお?」

(´<_` )「いきなりだが、学校さぼらないか?」


 …………え?



53: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 20:59:16.75 ID:208psVCZ0

(;^ω^)「ちょ、え?」

(´<_` )「手伝ってほしいんだ」

 手伝うって、何を?
 全く意味が、わからない。
 
 頭の上で?をいくつも浮かべながら、僕はひたすらおたおたしていた。
 
( ゚∀゚)「回りくでぇなぁ……言っちまえばいいのに」

(´<_` )「それじゃ面白味がないだろ?」

 いつの間にかジョルジュさんも降りてきていた。
 僕は相変わらず、うろたえるばかり。
 
( ゚∀゚)「まぁ、絶対損はしねぇから、さぼれ つか手伝え」

(;^ω^)「な、何をですかお?」

 僕の質問に、二人は顔を見合せ、にんまりと怪しい笑みを浮かべた後、僕を見て。
 
(´<_` )「引っ越し、だよ」

………。
……。
…。



55: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:01:31.81 ID:208psVCZ0

 胸が苦しい。
 さすがに、急いで走り過ぎたかもしれない。
 
 でも私は、走った。
 走らなくちゃ、いけなかった。
 
 親友に会う為に。
 
 昨日、クーはブーンと一緒に公園に行っていた。
 ブーンは何もなかったみたいな事を言ってたけど、何かが引っ掛かっていた。
 嘘をつくのがあそこまで下手な人も、珍しいかもしれない。
 
 クーがあの桜の下で、私に言ったこと。
 クーの思い出の人も、ブーンだった。
 
 一目惚れだった。今でも、好きだと言われた。
 
 その後に、また家で話して、クーは泣いた。
 実は私を励ます為だったと。
 そして、自分の気持ちは実はわからないのだと、言っていた。
 
 そのクーが、ブーンと一緒にあの桜の所へ行った後、泣いて帰ってきたと言うのだ。



57: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:03:57.21 ID:208psVCZ0

 私と、同じだ。
 私もブーンが覚えていてくれていなかったと知った時は……
 辛かった。悲しかった。寂しかった。
 
 泣いてしまいそうになった。
 
 その時、私が私でいられたのは。
 あの時、私を励まして、応援してくれたのは。
 
 一人だけ。
 
 親友のクー、一人だけ。
 
 私は、最低だ。
 自分のことばかり、考えていた。
 ちゃんと考えれば、クーだってそうなんだ。
 
 私と同じく、自分の中に思い出を、好きな人の記憶を、仕舞っていたのだ。
 
 クーだって、私と一緒で、辛かったんだ。
 
 そこまで思考を巡らせた後に、私は足を止めた。



58: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:05:49.34 ID:208psVCZ0


─────違う。


 違う。違うちがうちがうちがう!
 
 違う! そうじゃない!
 
 私は! クーに全部話した!
 相談した! ぶつけた!
 
 全部全部! 悲劇のヒロインを気取って!!
 
 クーだって、同じ辛さを……一目惚れした大事な人の事を!!
 
 ずっとずっと! 誰にも言わずに……耐えてた!
 
 その上で……私の相談を受けて……
 
 一体それが、どれほどクーを苦しめていたことか……!
 
ξ;凵G)ξ「うっ……っく……クー……クー……!」



60: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:07:16.96 ID:208psVCZ0

 涙が、止まらない。
 私はずっと、傷つけていたんだ。
 
 大切な、親友を。
 
 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……
 
 何度謝っても、許されることじゃない。
 そもそも言葉が、届いていない。
 
 言わないと、だめだ。
 
 ちゃんとクーを見て。
 
 クーの瞳を見て。
 
 クーに私を、見てもらって。
 
 私なんかより、ずっとクーは辛かったはずだ。
 私なんかより、ずっと長い間、一人で耐えていたはずだ。
 
 行かなくちゃ。
 
 会わなくちゃ────……



62: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:08:55.31 ID:208psVCZ0

 
──────…………


 暖かい、春の日差しの下。
 高い、どこまでも高い空の下に。
 
 広く広がる視界には、青と、緑。
 
 空の色と、自然の色。
 
 その中にいる私は、なんてちっぽけな存在なんだろう。
 ウジウジと悩んで、泣いて。
 
 親友の悩みにも、気付かずに。
 
 涙は、止めた。無理やりに、止めた。
 
 私が泣いていたら、きっとクーはまた、私を慰める為に強い姿をみせるはずだから。
 
 それじゃあ、それじゃあダメなんだ。



64: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:10:30.19 ID:208psVCZ0

 
 
 足を止めて、右手を差し伸べる。
 
 
 伸ばした指先で、チャイムを鳴らした。
 
 
 少しして、玄関のドアが開かれる。
 
 
 
 
 いつもの、落ち着いた表情のクーが、現れた。
 
 
 


 私を見て、少し驚いたみたい。



65: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:12:01.94 ID:208psVCZ0

「……ツン?」

         「……来ちゃった」

「来ちゃったって……学校は?」

         「サボっちゃいます」

「というか、どうしたんだ?」

         「気分が乗らなかったから、きてみたの」
 
「気分って……」

         「あら? クーだってそうじゃないの?」

「……むぅ……まぁ、上がってくれ」

         「お邪魔しまーす」



66: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:12:23.17 ID:208psVCZ0

「お茶でも、淹れてこよう 部屋にいっててくれ」

        「ありがとう」












「ほら、どうぞ」

        「どうもどうも」

「…………で、不良少女が何の用だ?」

        「え、ひっどーい」



67: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:12:44.33 ID:208psVCZ0

「私なら、大丈夫だぞ」

        「嘘」
        
「全力で否定か」

        「ええ、否定させて頂きます」
        
「やれやれ……」

        「ねぇ、クー?」
        
「なんだ」

        「昨日、ブーンと何を話したの?」
        
「…………」

        「黙ってちゃ、わかんない」
        
「…………」

        「…………言いたく、ない?」



69: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:14:18.71 ID:208psVCZ0

「…………昔、話だよ」

        「……クーが話した、思い出の事?」
        
「ああ、そうだ」

        「…………」
        
「見事に、覚えてなかったよ」

        「…………そう」
        
「桜もなくなるし、もうだめだな ハハ」

        「………ねぇ、クー?」
        
「なんだ?」

        「ごめん、ね」
        
「ごめんって?」

        「私、自分のことばっかり考えてた」



70: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:14:38.16 ID:208psVCZ0

        「クーだって、辛かったのに、押しつけてた」
        
「それは……話してなかったから……」

        「そう 知らなかったから、そうだったの」
        
「…………ああ、だから───」

        「でも、それじゃ済まされないの」
        
「ツン…………」

        「私の気持ちが、治まらないの」

「…………」

        「…………」
        
「あの夜……ツンの胸の中で、泣いた夜……」
   
        「……うん」
        
「私は後悔した……なぜ、なぜツンに、相談しなかったんだろう、って……」



71: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:14:59.99 ID:208psVCZ0

        「それは違うの」
        
「え……?」

        「なんでも、相談するのが、親友 それは違う」
        
「…………」

        「言われなくても、気付くことができる それが、親友」
        
「…………」

        「だから……ごめん……ね……」
        
「……がぅ……」

        「………え?」
        


    「──────違う!!」



74: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:17:22.59 ID:208psVCZ0

川 ; -;)「違う! 私はそうは思わない!」

ξ;凵G)ξ「……クー?」

川 ; -;)「親友に……定義なんか……ない……」

ξ;凵G)ξ「…………」



 涙はとうに、枯れたと思っていた。
 気付けばクーも、私も泣いていた。
 
 赤い目を、さらに赤くして……泣いていた。
 


川 ; -;)「私がそうだと思ったら……そうなんだ!」
 

川 ; -;)「ツンは……私の……親友だ!」



75: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:19:02.05 ID:208psVCZ0

 私はもう、耐えられずに、抱きついた。
 
 親友を、抱き締めた。
 
 クーも私を、抱き締めてくれた。
 
 二人で一緒に、泣いていた。
 
川 ; -;)「昨日、ブーンと話した後に、私は自分のことしか考えていなかった……」

ξ;凵G)ξ「…………」

川 ; -;)「ツンのことは……これっぽっちも……考えてなかった……」

ξ;凵G)ξ「いいよ……いいんだよ、クー……」

川 ; -;)「ツンが……羨ましかった……ブーンと思い出を共有できている……ツンが……」

ξ;凵G)ξ「…………」

川 ; -;)「ごめん……ごめん……」

ξ;凵G)ξ「ううん……私も……ごめん……」



76: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:20:50.59 ID:208psVCZ0


 もう、自分でも何に対して謝っているのか、よくわからなかった。

 
 それでも、私もクーも、ずっとそれを繰り返した。

 
 涙が引くまでの間、ずっと。

 
 クーがいたから、ブーンに話せた。
 
 
 クーがいたから、私は私でいられた。
 
 
 親友に、定義なんかない。

 
 もしそうなら、やっぱりクーは、私の、親友なんだ───
 
………。
……。
…。



79: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:22:50.60 ID:208psVCZ0



──────………・・ん…………


ξ--)ξ「……んー……」

 少し重い頭をふらふらと持ち上げながら、目を擦る。
 どうやら寝てしまっていたようだった。
 
 横を見ればクーも、すやすやと静かな寝息を立てていた。
 子供のように、純粋な、安らかな顔をして。
 
ξ゚ー゚)ξ「ふふっ」

 あまりに可愛くて、思わず笑みがこぼれてしまう。
 
 クーを起こさないようにそっと鞄から携帯を取り出して、時間を見る。
 
 時計には、13:27と表示されていた。
 五時間くらい、寝ていたのだろうか。
 
 そこまできて、学校をさぼってしまっていたことを思い出す。



82: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:25:32.14 ID:208psVCZ0

ξ゚听)ξ(あーあ……怒られるかなぁ……)

 なんてことを思いつつも、クーの顔を見たら、そんなことはどうでもよくなった。
 クーのこんな無防備な姿を見れるのも、親友の特権かな、なんて。
 
 お腹が空いたけど、勝手に冷蔵庫を漁るわけにもいかないし、
 クーを起こす気にもなれなかった。
 
ξ゚听)ξ「はぁー……」

 特にすることもなく、またごろんと横になる。
 家事が済んだ主婦は、毎日こんな感じなんだろうか。
 
 今帰ったって、学校はどうしたと言われるだけだろうし。
 
 ゆっくりと、クーの顔でも眺めながら、もう一眠りしよう。
 
 
 そう思った時だった。
 
ξ;゚听)ξ「うわわ」

 唐突に携帯が鳴り、慌てて携帯を取った。



83: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:27:47.79 ID:208psVCZ0

ξ゚听)ξ「……はい、もしもし?」

 クーを見た。
 どうやら起きなかったようだ。
 慌ててたから、誰からの着信かもわからなかったけど、聞こえた声は、安心できる人の声。
 
  『ツン! まだクーの家かお?!』

ξ゚听)ξ「あ、ブーン? そうだけど、どうしたの?」

 ブーンはなんだか、慌てている様子だった。
 そういえば、ブーンが電話してきてくれたのはこれが初めてかもしれない。
 
  『クーと一緒に、弟者さんの家にきてほしいお! 今すぐ!』

ξ;゚听)ξ「ど、どうしたのよ……」

  『来ればわかるお! とにかくはや……アッー!』

ξ゚听)ξ「ブーン? あれ? もしもーし」

  『ハローハロー、こちらペニサス』

ξ;゚听)ξ「え? ペニサスさん?」



84: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:30:05.21 ID:208psVCZ0

  『青春、してるかい?』
  
ξ;゚听)ξ「ど、どうしたんですか……」

  『まぁ冗談はおいて、ツンちゃん、素直さんの家なの?』
  
ξ゚听)ξ「そうですけど……」

  『じゃ、今すぐ一緒に弟者の家にきてね』
  
ξ゚听)ξ「どうしたんですか?」

  『それはーついてからのお楽しみ〜ってことで』
  
ξ;゚听)ξ「えぇ……」

  『じゃ、待ってるわね』
  
 そうして電話は切れてしまった。
 ブーンとペニサスさんが、なんで一緒に?
 そもそもブーンは、学校はどうしたんだろう。
 
 なんて考えているうちに。



87: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:31:51.90 ID:208psVCZ0

川 ぅ -)「ん……ツン?」

 クーが目を擦りながら起きた。可愛い。
 
 というか、起こしてしまったのかな……
 
ξ゚听)ξ「おはよ、クー」

川 ゚ -゚)「ああ、おはよう」

 相変わらず、目は真っ赤なままだ。
 多分私も、ひどいと思うけど。
 
ξ゚听)ξ「ブーンが、今すぐ弟者さんの家にきてって」

川 ゚ -゚)「流石さんの……? どうしたんだろうか」

ξ゚听)ξ「くればわかるって……よくわかんない」

川 ゚ -゚)「ふむ……取りあえず、着替えてくる」

ξ゚听)ξ「うん」

川 ゚ -゚)「ツンも顔を洗え ひどい顔してるぞ」

ξ゚ー゚)ξ「あら、クーだってそうよ?」



90: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:35:14.00 ID:208psVCZ0

川 ゚ -゚)「むぅ……ここのところ泣いてばかりだったしな……」

ξ゚ー゚)ξ「お互い、ね」

川 ゚ー゚)「……そうだな」

 ふっと笑ったクーの顔を見た後、私はクーの部屋から出た。
 小さい頃から遊びに来ていたこともあり、洗面所の場所はわかる。
 
 硬い床、それに不自然な体勢で寝ていたせいか、少し体が重い。
 壁に手をそえながら、洗面所についた。
 
ξ;゚听)ξ「うわっ……」

 目は真っ赤。
 頬には涙の後。
 服も少し乱れ、本当にひどいものだった。
 
 豪快に、水で顔を洗う。
 化粧道具なんか、持ってきてない。
 そもそも私は、あまり化粧はしない方だ。
 
 そのことで、よくつーに突っ込まれた事を思い出す。



91: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:37:37.97 ID:208psVCZ0

 もう少しちゃんとすれば、ブーンの視線も変わるだろうか。
 なんて事を思いつつも、今はこうするしかないわけで。
 
 タオルで顔を拭いた後、服をちゃんと直す。それだけ。
 
ξ゚听)ξ「ふー……」

 洗面所を出ると、すでにクーが居た。
 
ξ゚听)ξ「あれ? 制服?」

川 ゚ -゚)「ああ、一応、建前上な」

 ああ。
 そういえば、学校をさぼっていたんだった。
 すっかり忘れていた。
 
ξ゚听)ξ「じゃあ、玄関で待ってるね」

川 ゚ -゚)「ん、すぐに行く」

 クーも化粧はあまりしない。
 私と同じく、本当に顔を洗うだけなんだろう。
 それでもあの顔立ち、人気なのだから、ちゃんとしたらどうなってしまうのだろうか。



95: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:39:35.17 ID:208psVCZ0

 玄関に着き、靴を履く。
 もうお昼すぎなのに、クーの両親はまだ帰ってきていないようだった。
 キュートちゃんを病院に連れていったのに、どうしたんだろうか。
 
 もしかしたら、過保護な二人の事だから、
 私達みたいに仕事を休んで、本当に大丈夫かーとか、抗議してたりして。
 
 さすがに、それはないか。
 
 
 
川 ゚ -゚)「お待たせ」

 そうしているうちに、クーが早くもやってきた。
 目が赤い以外は、いつものクーだ。
 
ξ゚听)ξ「じゃ、行きましょ」

 そうして私達は、ここからそう遠くない弟者さんの家へ向かった。
 
………。
……。
…。



96: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:42:07.00 ID:208psVCZ0

 まさか、こんなことになるなんて、思わなかった。
 
 弟者さんも、ジョルジュさんも、途中合流したペニサスさんも。
 
 困惑する僕を見ながら、にやにやしていた。
 
 多分僕も、自然と顔が緩んでしまっているだろう。
 
 
 あまりの、出来事に。
 
 あまりの、嬉しさに。
 
 
 弟者さんの家の前に止めた、大きなトレーラー。
 
 その背中に背負われた、巨大な物。
 
 こんなことが、こんなことが実際にできるだなんて。
 
 弟者さんは、こう言っていた。



98: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:44:41.24 ID:208psVCZ0

 農家は、金持ちなんだよ。
 
 なんて、軽く笑い飛ばしていた。
 
 ジョルジュさんは、大型免許を持っている為、呼ばれたらしい。
 
 お店を休んでまで、きてくれていた。
 
 ペニサスさんは、弟者さんに呼ばれただけだったけど、とても嬉しそうだった。
 
 でも僕は、まだ我慢している。
 
 あの二人と。
 
 道の向こうに見えてきた、ふたりぶんの人影。
 
 あの二人と一緒に、喜びたかったから。
 
 
 二人が、駆けた。
 
 これだけ大きいのだから、遠目でもわかったのだろう。
 
 二人がきたら、振り返ろう。



100: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:45:10.50 ID:208psVCZ0




 そして三人で一緒に、見上げよう。
 


 
 
 引っ越してきた────
 
 
 
 
 
 
 
       ─────桜の木を。



102: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:47:15.62 ID:208psVCZ0

(´<_` )「ほら、行ってやれ」

 トンと、弟者さんに背中を押された。
 
 二人の元へ、駆けた。
 
 見晴らしのいい、田舎道のはずなのに。
 
 僕の目には、二人の姿がぼんやりと霞み、
 
 空と山も、絵の具の青と緑が混ざりあうように。
 
 滲んで、見えた。
 
 
 僕は、泣いていた。
 
 
( ;ω;)「ツン! クー!」

 駆け寄る二人の名前を叫んだ。
 
 二人も、僕の名前を呼んだ。



104: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:49:59.77 ID:208psVCZ0

 もう少し、後ちょっとで、二人の顔もちゃんと見える。
 
 その時。
 
 クーが、つまずいた。
 
 前に、前に、転びそうになる。
 
 僕はもっと急いで、クーが転ばないように、
 
 もっともっと急いで、クーを支えようと、走った。
 
 そしてしっかりと、肩を掴んだ。
 

川;゚ -゚)「す、すまな…………ぃ……」


 桜を背負い、僕の顔を見つめるクー。
 
 それはクーの、思い出の中の情景。



105: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:51:26.92 ID:208psVCZ0

 浮かんだ。
 
 それは昨夜浮かんだ、クーの視点じゃない。
 
 はっきりとした、僕からの視点。
 
 それは僕自身の思い出。
 
 そうだ。
 
 僕が手を引いて、桜の木がある公園に着いた時。
 
 あの時の女の子も、泣きやんで、目を赤く腫らせていた。
 
 
( ;ω;)「クー……! クー……うぅぅぅ……!」


川;゚ -゚)「ど、どうした? ブーン……」


( ;ω;)「思い出したお! ちゃんと! あの時の事!」



107: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:53:04.12 ID:208psVCZ0


( ;ω;)「あの時もこうやって、クーは目を赤くしてたお!」


川 ゚ -゚)「ブーン……」


( ;ω;)「ごめん……ごめんお……でも……ちゃんと思い出したお!」


川 - )「ほんと……なのか……?」


( ;ω;)「ほんとだお! 実はあの時、僕も迷子だったんだお!」


( ;ω;)「不安で不安で、しょうがなかったけど、僕が泣いたら、ダメだって……
      そうしたら、あの桜があって……ぅぐっ……」
     
        
川 - )「もういい……もう……いいよ……」


川 ; -;)「思い出してくれた……っ……だけで……」



108: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 21:55:13.98 ID:208psVCZ0


 僕は全部、思い出した。
 
 桜の花弁を、かき分けてもかき分けても、見つからなかった。
 
 土を掘って、タイムカプセルを見つけても、
 
 クーの思い出は、見つからなかった。
 
 見つからない、はずだ。
 
 
 
 桜の木の下に、埋もれていたのだから────
 
 
 
 僕も、クーも、そしてツンも。
 
 三人で一緒に、泣いた。
 
 子供のように。
 
 小さかった、あの頃のように。



115: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 22:05:37.40 ID:208psVCZ0









─────………










117: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 22:07:38.73 ID:208psVCZ0

( ゚∀゚)「青春だーなー」
 
('、`*川「さーて、これからあの三人はどうなることやら」

( ゚∀゚)「おお、ハインに逐一報告させないとな!」

(´<_` )「おいおい、やらしいぞ」

( ゚∀゚)「だーってよ、気になるじゃねえか!」

(´<_` )「まぁ……そうだけどな」

( ゚∀゚)「…………んーで、この桜、どうすんだ」

(´<_` )「庭に植える ユニックとかも借りてこないとな……」

( ゚∀゚)「はー また豪快なことしたもんだな」

(´<_` )「少々親に借金はしたけどな ま、なんとかなるだろ」

('、`*川「私は嬉しかったよ ありがとね、ダーリン」

(´<_`;)「やめてくれ」



118: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 22:09:41.39 ID:208psVCZ0

('、`*川「ま、いいんじゃない あの三人見てるだけで、よかったって思ってるんでしょ?」

(´<_` )「…………そう、だな……」



 桜はもう、ほとんどその衣を散らし、寂しそうな姿だった。
 今この瞬間も、淡いピンク色の雪を降らせている。
 

 しかし、もう誰も、それを見て悲しんだりはしない。
 
 
 桜はまた、来年も、再来年も、その身を枯らすまで。
 
 
 ずっとずっと、春を告げる為に、咲き誇るのだから。
 
 
 ブーンの記憶も、もう桜に埋もれる事はない。
 
 陽の下に、現れたのだから。



120: ◆ECmvgmi7GI :2008/11/27(木) 22:12:41.87 ID:208psVCZ0








          桜舞い散る中に
      
      
      
     忘れた記憶は、戻ってきたのだから。
   
   
   
   
   
   
   

   
   
              終



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