( ^ω^)ブーンは歩くようです

10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/18(日) 03:09:50.02 ID:4QLHj88X0

第一部  かつての世界と、文明の明日に心血を注いだ天才の話


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八歳で学士を取った。十歳で博士号を取った。
僕はいわゆる、天才と呼ばれる人種だった。

いや、それは正しくない。
正確に言うのなら、天才の中でも最も秀でた天才中の天才だった。

二倍以上歳の離れた天才ばかりの世界の最高学府で、僕は誰よりも優秀だった。
言うまでも無く主席で卒業し、優秀な頭脳ばかりが集められる研究所に入ってすぐに頭角を現した僕。

十代半ばで、世界の主要言語を完璧にマスターした。
十代後半で、当時不可能だと言われていたバルキスの定理の証明を成し遂げ、世界にその名を轟かせた。
二十代前半には、文明の未来を担う急先鋒として天才たちをあごで使い、寒さも暑さも防げる夢の繊維、
一粒で三日間腹が満たされる夢の食料、冷凍睡眠などの基本理論を構築し、様々な発明の基を築いた。

そして二十代も半ばに差し掛かった僕は、それらの実用化を他者へと引継ぎ、
この時代の文明の明日に必要不可欠であったエネルギー問題の解決に動き出すことになる。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/18(日) 03:11:48.77 ID:4QLHj88X0

( ^ω^)「プロジェクトチーフの内藤だお。よろしく頼むお」

川 ゚ -゚)「サブチーフのクーだ。事務統括、その他現場の指揮は私が担当する。
     このプロジェクトには人類の未来がかかっているといっても過言ではない。
     つまり、君たちの双肩に人類発展の如何がかかっているのだ。
     それ故、プロジェクトにかかわる人材は厳選させてもらった。
     君たちには精鋭としての自覚をもち、ぜひとも研究に全力を注いでいただきたい。以上」

プロジェクトチームの顔合わせの日。サブチーフのクーが、口下手な僕の言いたいことを代弁してくれた。

自室に戻って「ありがとう」と告げると、
僕と同期の天才である彼女は腰まで伸びた黒髪を揺らしながら、小さく肩をすくめた。

川 ゚ー゚)「演説もどきのセリフを口にするのは疲れるよ。慣れないことはするもんじゃないな」

常に僕の傍らを歩いてきた天才は、小さく弱音を吐いて、笑った。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/18(日) 03:13:42.43 ID:4QLHj88X0

プロジェクトチームは行政関係を除けばごく少数の人員で構成されていた。

僕とクー以外のメンバーは天才でもなんでもない凡人の集まり。
僕が頭脳でクーが神経、そして他の凡人たちが手足として実際に動く。

人体の構造を模したチーム構成。だから、頭脳たる天才は僕一人で十分のはずだった。
そこになぜもう一人クーという天才を加えたかというと、理由は単純だ。

優秀だから。

彼女がいなければ、これまでの僕の発見は数年遅れていたことだろう。だからクーを加えた。それだけの話。
特別な感情なんて何もない。事実と過去の功績だけを重視したドライな人事。

そこに感情を持ち込むことはタブーだと、この時の僕は信じていた。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/18(日) 03:15:27.81 ID:4QLHj88X0

完璧に思われた布陣。
しかし、完璧なものなど存在しないのがこの世の常。

不具合はすぐに生まれた。それも、思っても見ないところから。

( ^ω^)「クー。作業工程がだいぶ遅れているお。どういうことだお?」

プロジェクトがスタートして三ヶ月ほど経ったある日、僕は自室にクーを呼び出した。
まだ三ヶ月しか経っていないというのに、プロジェクトはすでに予定より大幅な遅れをきたしていたからだ。

その件について僕が問いただすと、彼女はいつもどおりの無表情で一言。

川 ゚ -゚)「……すまん。すぐに挽回してみせる」

そう残して僕に背を向けると、彼女はすぐに部屋から立ち去った。
白衣にかかった黒髪が、艶やかに翻っていた。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/18(日) 03:17:48.42 ID:4QLHj88X0

普段、僕は新エネルギーシステムについての理論を構築するため一人で自室にこもっており、
理論の真偽を確認するための実験等実証作業、いわゆる現場作業はクーと凡人たちに任せていた。

クーに任せていればうまくいくと妄信していた。そのため、現場の様子を一切把握していなかった僕。

しかし、依然としてプロジェクトの進行状況は遅れたまま。
痺れを切らした僕が抜き打ちで現場に赴いたところ、広めの実験室にあったのは、
思い思いに固まった凡人たちのグループが数個と、窓際の席に独りたたずむクーの姿。

無機質な顔で机上に置いたコンピュータのブラウザと向き合う彼女は、まるで機械のように感じられた。

( ^ω^)「なるほど。そういうことかお」

川 ゚ -゚)「……すまん。どうも凡人たちとうまくいかんのだ」

後日、自室に呼び出した彼女がポツリと漏らした。
顔は無表情のままだったけれど、わずかにその肩は落ちていた。

彼女の弁解はそれ以降一言もなかった。
潔さだけは褒められものだが、だからといってそれが何の役にたつ?

( ^ω^)「わかったお。もういいお」

それだけを残して、僕は彼女をすぐに部屋から退出させた。僕の肩も落ちていた。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/18(日) 03:20:26.82 ID:4QLHj88X0

生来のものなのか成長の過程でそうなったのかは定かではないが、
クーは感情を表に出さない人物だった。よく言えばクール。悪く言えば鉄面皮。
彼女深く付き合わない限り、その印象は決して良いものにはならないだろう。

確かに僕は、彼女に人と人との緩衝役を担う適性がなさそうなことにはじめから気づいていた。

僕も人のことを言えるような明るい性格ではなかったが、過去の実績や経験から見るに、
それでも彼女ならうまくやってくれると信じていた。事実、彼女はこれまではうまくやってくれていたのだ。

それがこのざまだ。期待はずれもいいところだった。

( ^ω^)「使えない女だお」

閉じられた扉に向けて呟いて、僕はすぐに打開策を練り始めた。
合間に口に含んだコーヒーの味が、妙に苦々しく感じられた。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/18(日) 03:22:14.22 ID:4QLHj88X0

打開策は日を待たずして見つかった。支持系統にワンクッション入れればよかったのだ。

これまでの支持系統は「僕→クー→凡人たち」となっていた。問題、歯車の歪みはクーと秀才たちの間にある。
それならば、その間にクーとも凡人ともうまくやれる人物を仲介役として挟めばよいのだ。

別にクーをはずしても良かったのだが、口下手な僕の意思を正確に汲んでくれるのはクーだけだったので、
あくまで僕のスポークスマンという形で僕は彼女をチームに残留させることにした。

「もう一度、結果を出して見せろ」 今にして思えば、それは僕なりのクーに対する温情だったのかもしれない。

( ^ω^)「さて、問題はその人物の選定だけど……まあ見つかるだろうお」

天才と凡人は相容れない人種だというのが、当時の僕の持論だった。
凡人は天才に嫉妬し、天才は凡人を見下す。これはどうしようもない自然の摂理だ。

しかし僕ほどの天才はこの世に二人といないが、天才への嫉妬を隠しつつうまく付き合うことが出来て、
それでいて物事を滞りなく運べる優秀な凡人は希少とはいえ見つかるだろうと、僕は楽観的に考えていた。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/18(日) 03:23:22.91 ID:4QLHj88X0

( ^ω^)「というわけで、人物を一人よこしてくれお」

( ´∀`)『了解しましたモナ』

行政部に連絡を入れてまもなく、僕の予想に違わずとある人物が派遣されてきた。
騒々しく、部屋の扉をバタンと開けて。


ξ゚ー゚)ξ「よっ! はじめまして! あんたが内藤博士ね? お噂はかねがね耳に入れているわ!」


痩身にスーツのよく似合う、巻いたブロンドの髪が印象的な女性だった。



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