( ^ω^)ブーンは歩くようです

19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/18(日) 03:25:59.35 ID:4QLHj88X0

― 2 ―

(;^ω^)「そ、そうだお。まあ座ってくれお」

僕がそう口にしたときには、すでに彼女は応接用のソファにどっかりと腰を下ろしていた。
無礼千万な女。それが彼女に対する第一印象。

( ^ω^)「それで、あっーと、ツンさんかお? 年齢は二十八……」

ξ゚听)ξ「二十五です」

(;^ω^)「お? 資料では二十八歳ってなってるんだけど……」

ξ#゚听)ξ「二十五です! 大体、女性を前にしてその年齢を言うだなんて失礼だとは思わないわけ!?」

(;^ω^)「す、すまんかったお」

ξ゚ー゚)ξ「ふふ。わかればいいのよ」

怒り、笑いと、数秒の間にコロコロと表情を変えていく。やりにくい女だと思った。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/18(日) 03:27:53.08 ID:4QLHj88X0

しかし、この奇妙な明るさは使えるかもしれない。

資料によると、難関である行政部のキャリア試験を現役主席で突破。
スポーツの面でも、学生時代にクレー射撃でオリンピック候補にまで上り詰めている。

特にスポーツ経験があるというのは、これから人と人との緩衝役を頼む上でこの上なく魅力的だった。

( ^ω^)「君の役目は以上だけど、出来るかお?」

ξ゚听)ξ「出来るんじゃなくてやってみせるわ! 任せてちょうだい!
     それで、そのクーさんって人と会わせてもらえるかしら??」

( ^ω^)「お安い御用だお」

内線でクーを呼び出せば、すぐに彼女は部屋を訪れてくれた。その迅速さに少しだけ彼女を見直した。
慇懃にノックをして入ってきたクーを見るやすぐに、ツンは立ち上がって大声を上げた。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/18(日) 03:29:34.35 ID:4QLHj88X0

ξ゚听)ξ「すごい美人じゃない! おまけに天才なんでしょ? 
     むかつくわ〜! 嫉妬しちゃうわ〜!」

川;゚ -゚)「む? むぅ……」

ξ゚ー゚)ξ「あはは! 冗談よ冗談! 私はツン! これから仲良くしましょうね!!」

川;゚ -゚)「よ、よろしく……」

初対面で突拍子も無いことを口走るツンにたじろいだのだろう。
普段滅多に感情を表に出さないクーも、あからさまに困惑していた。

それでも、にこりと笑ってクーに手を差し出したツンを見て、その手を恐る恐る握り返したクーを見て、
予感という曖昧なものを信じていなかった僕だけれど、ことがうまく運んでくれる気がした。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/18(日) 03:32:13.14 ID:4QLHj88X0

実際、彼女がチームに加わってくれたことでプロジェクトは予想以上に円滑に進んでくれるようになった。
ツンは持ち前の明るさですぐにチームになじみ、あのクーとさえも打ち解けてくれていた。

ξ゚ー゚)ξ「はいはーい。次はこれよー。
     まーたチーフがややこしい理論を押し付けてきたけど、なんとかうまくこなしてちょうだい! 
     うまくいったらいった分だけ、私もあんたたちの評価を上げるよう人事局に提言しやすいんだからね!」

何気なく実験室を覗いてみれば、これまでバラバラで思い思いに行動していた凡人たちのグループが、
各々熱心な様子で指示された仕事に取り組んでいた。

ツンは各グループ間をせわしなく動き回り、真剣な顔で論議しあったり、時には笑いを誘ったり。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/18(日) 03:34:19.08 ID:4QLHj88X0

ξ゚ー゚)ξ「はい。ご注文のデータ、一丁上がりよ。
     まだまだバンバン入ってくるからへばらないでよ?」

川 ゚ー゚)「ああ。データの整理、解析は得意分野だ。任せてくれ」

問題のクーも、窓際でなく室内の中のほうに席を陣取り、
凡人たちから渡されるデータ等を黙々と裁いていた。

彼女にも少しは居場所が出来たようで、会話の相手はほとんどツンばかりに見えたけれど、
それでも以前に比べてのびのびと自分の仕事に全力を注げているようだ。

( ^ω^)「これも一種の天才だお」

動き回るツンを見て、僕の部屋を訪れては
現場からの質問、注文を忌憚なく告げていく彼女を見て、僕はしみじみとそう思った。

何より彼女の明るさの恩恵を受けていたのは、ほかならぬ僕自身だったからだ。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/18(日) 03:37:54.39 ID:4QLHj88X0

公休日の時の話。
特にすることもなく暇をもてあましていた僕。

休息の大切さについては理解していたのでのんびり頭でも休ませようかと思っていたのだが、
そこに突然クーが訪ねてきて新エネルギーシステムについて議論を持ちかけてくるものだから、
もううんざりしていた。

川 ゚ -゚)「Fateは文学。CLANADは人生。鳥の詩は国歌」

(;^ω^)「あー、はいはい! そうですおね!」

日ごろうっぷんが溜まってるんじゃないかと疑わせるほどに話しまくるクー。
研究熱心なのは結構だし喜ばしいことが、たまの休みくらいゆっくり休ませてほしかった。
しかし静かに目を輝かせて話すクーに帰れとも言えないわけで、僕はほとほと困り果てていた。

そしていい加減クーの話に辟易していた僕に助け舟を出してくれたのが、
ノックもせずに部屋に飛び込んできた彼女だった。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/18(日) 03:40:29.33 ID:4QLHj88X0

ξ゚听)ξ「ハロー! 何やってるの?」

川 ゚ -゚)「内藤と新エネルギーシステム理論について話し合っていたところだ。
     すまんが席を外してくれんか?」

ξ゚听)ξ「あー、ダメダメ。せっかくの休日に何やってるのよ?
     休むときは羽目を外して休む! そうじゃなきゃ脳みそパンクしちゃうわよ?
     あんたら天才はただでさえ四六時中考えている人種なんだからなおさらよ。
     さあ、いくわよ!」

そう言って僕とクーの手を無理やりつかんだツンは、僕たちを引っ張って部屋の外へと連れて出していく。

ツンに手を引かれ本気で困っている様子のクーをよそに、
「柔らかい手だなぁ」と、僕は場違いな感想を抱いていたり。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/18(日) 03:42:52.02 ID:4QLHj88X0

川;゚ -゚)「お、おい! 手を離せ! どこに行くつもりなんだ!?」

ξ゚ー゚)ξ「研究所内をうろついてたらクレー射撃場見つけちゃってさ!
     射撃はストレス発散にうってつけよ? パーッと一発騒ごうよ!」

( ^ω^)「おお! それはいいお!」

川;゚ -゚)「私は銃弾より理論をつめたいんだが……」

ξ゚ー゚)ξ「いいからいいから! レッツゴー!!」

うまいことを言ってしぶとくクーは抵抗したが、
満面の笑みで自分を引っ張っていくツンに折れたのか、射撃場に着くころには何も言わなくなっていた。

広々とした射撃場。すでに銃や的の手配をしていたらしいツンは、
着くとすぐに僕たちへ銃を手渡し、甲高い発砲音を周囲に響かせ始めた。

クレー射撃にはそれなりに心得のあった僕は、数十分腕を慣らした後、
思い切って元オリンピック候補だったツンに挑んでみた。しかし案の定、大差で負けた。

けれどもツンの言ったように気分も頭もすっきりしていた。
例えば何かを成し遂げたときのように、僕の気分は高揚していた。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/18(日) 03:44:50.53 ID:4QLHj88X0

ξ゚ー゚)ξ「へへーん! 私の勝ちね! 天才に勝っちゃった! 今夜の晩飯もいただき!」

川 ゚ -゚)「たいしたものだ」

( ^ω^)「本当だお。ぜひとも手ほどき願いたいもんだお」

ξ゚听)ξ「いいわよ? まずあんたは精神的にダメ!
     つめが甘いっていうのかな? まるであんたの顔みたい」

(;^ω^)「ちょwwwww顔は関係ないおwwwwwww」

ξ゚ー゚)ξ「あはは! でも筋はいいわよ? 
     さすがは天才って所かな! まあ、まだまだだけどね!」

川 ゚ -゚)「……」

そう言って笑う彼女の言葉を聞いて、姿を見て、僕は頬が緩んでいくのを止められなかった。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/18(日) 03:46:33.09 ID:4QLHj88X0

ツンは平然と人をけなす。例えそれが天才の僕やクーであろうと誰であろうと、
悪いところは悪いと言い切るし、合点のいかないことは納得するまで話をする。
しかしそこに禍根を残さないところが、彼女の素晴らしいところだった。

そして何より、そんな裏表のない彼女だからこそ、
たまに発する賛辞の言葉には真実性が込められていて、その言葉が聞きたいがため、
クレー射撃にもプロジェクトの使命たる新エネルギーシステムの開発にも、
僕はこれまでないほどに没頭することが出来た。

ξ;゚听)ξ「顔は饅頭みたいなのに、あんた本当に天才なのね。こんな理論、私じゃ思い付きもしないわ」

( ^ω^)「おっおっお。それほどでも無いお」

ξ゚ー゚)ξ「それほどでもあるわよ。ホント、たいしたもんだわ」

天才天才ともてはやされ、周囲からのありていな薄っぺらい賛辞の言葉ばかりを浴び続けてきた僕にとって、
ツンの毒舌も、笑って放つ褒め言葉も、何もかもが新鮮だった。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/18(日) 03:48:48.01 ID:4QLHj88X0

人類の明日のため。

そんな取ってつけたような大義名分のためでなく、
ツンに褒められたいから、思いっきり笑う彼女の笑顔を見たいから、だから研究に没頭するのだという経験は、
あまりにも単純な動機付けではあるけれど、しかしだからこそ人は動けるのだということを僕に教えてくれた。

感情が人の大きな原動力となる。当たり前だからこそ中々気づくことのできなかった大きな発見。

ツンが僕のそばにいたのは、僕の人生の中のほんの一瞬に過ぎないわずかな時間。
けれども彼女が僕の人生に与えた影響は、ほかのどんなものよりも多大だった。

ツンと会うだけで楽しかった。心が躍った。
ツンと話がしたいがために、クーを介して伝えるべき事項をわざわざ直接ツンに伝えたことも多々あった。

今にして思えば、多分僕はツンに好意を抱いていたのだろう。性的な意味で。
しかし幼い頃から勉強一筋でほかのものに見向きもしなかった僕は、
そんな愛だの恋だのといった定義づけできないあいまいな感情に耐性を持っていなかった。

結局、そのときの僕はツンに対する特別な感情に気づくこともそれを彼女に告げることもできないままで、
まるで小学生の恋愛ごっこのような日々は着々と流れていった。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/18(日) 03:51:06.61 ID:4QLHj88X0

やがて、次世代のエネルギーシステム理論が僕により構築される。

この理論の稼動基地一基で原発数個分のエネルギーを一挙にまかなえる。
申し分ない出来だった。

実験による実証工程もまもなくクリアし、すぐにでも開発に着手できる段階になった。

しかし、その内容を詳しくは話せない。
――いや、話したくない。

なぜなら僕のこの理論こそが、文明を土に還すきっかけとなったのだから。



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