( ^ω^)ブーンは歩くようです

48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/19(月) 02:01:51.05 ID:tZnXwI7D0

― 3 ―

ξ゚听)ξ「某国の基地が爆発したあの日から、世界は一気に混乱したわ。
    一番の誤算は爆発の規模があまりにも大きすぎたことと、基地の存在を私たちの国しか知らなかったこと。
    あの爆発を目の当たりにした各国は、私たちの国が新兵器を使用したと誤解したの。
    そこで動き出した国が、某国に隣接する社会主義国家と、私たちが冷戦時代に対立していたあの国よ」

午後だというのに日の差し込まない暗闇の外を車は孤独にひた走る。

フロントライトの光が砂利道の先を照らしている最中、
ツンは僕たちの知りたがっていたことを真っ先に話してくれていた。



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/19(月) 02:04:26.88 ID:tZnXwI7D0

ξ゚听)ξ「基地の爆発を前にしたこの二国は、こともあろうか私たちの国を潰しにかかってきたの。
    あの爆発を私たちの新兵器によるものだと勘違いした彼らは、
    それで自分たちが潰される前に私たちの国を潰しておかなければって考えたんだろうね」

ξ゚听)ξ「まもなくこの国の首都に無数の核ミサイルが打ち込まれた。当然この国は迎撃を開始したわ。
    たくさんの核爆発を関係の無いあちこちの国の上空で捲き起こしながらね。
    だけど、他を省みない身勝手な努力もむなしく、核ミサイルはこの国の首都に直撃したわ」

ξ゚听)ξ「それからはもう滅茶苦茶よ。対立していた国同士がこの混乱に乗じて動き出した。
    民族紛争の燻っていた国では内戦が起きた。平和だった国でも民衆が暴れだした。
    極めつけは、核保有国が躊躇無く核を使い始めたことね」

ξ゚听)ξ「禁忌が他人の手で破られれば、あとはその責を負わなくていいから使い放題って理屈よ。
    最も、前々から核兵器を使いたくてたまらなかったって理由もあるだろうけど。
    きっと、今もどこかで核兵器が使われているわ。もしかしたらこの近くでも……」



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/19(月) 02:05:42.83 ID:tZnXwI7D0

と、ツンが言葉を継ごうとしたその直後、西の空が一瞬強烈に光り、
しばらくして大きな地響きと野太い轟音、そして強烈な風が車を襲った。

後部座席に座っていた僕とクーは、慌てて前部座席の背もたれにしがみ付いてその揺れに耐えた。
それがようやくおさまった頃になって僕は尋ねる。

(;^ω^)「い、今のも核かお!?」

ξ゚听)ξ「多分ね。ここの最寄りの州都がやられたのかもしれない。
     どっちにしろ、もうこの国は……いや、世界はおしまいよ」

声色も変えずにあっけらかんと言い放ったツン。

「ツンらしくないな」と思った僕が見たのはバックミラーに映ったやつれ果てた彼女の顔で、
それが彼女の言葉に妙な信憑性を塗布していた。



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/19(月) 02:07:08.94 ID:tZnXwI7D0

川 ゚ -゚)「……それで、君は私たちをどこに連れて行こうというのだ?」

それ以後会話の無かった車内に響いたのは、これまでずっと沈黙を保っていたクーの声だった。
後部座席、僕の隣で腕組みをしていた彼女は、問いただすような強い口調で運転席のツンに尋ねた。

ξ゚听)ξ「とある地下施設よ。あなたたちにはそこで眠ってもらうわ」

川 ゚ -゚)「眠る? どういうことだ?」

ξ゚听)ξ「そのままの意味よ。内藤。あんた昔、冷凍睡眠の基礎理論を提唱したわよね?」



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/19(月) 02:08:24.78 ID:tZnXwI7D0

(;^ω^)「お? おお。確かにしたお」

急に話を振られて、僕は単純な返事をすることしか出来なかった。

二十代の前半の頃、僕は確かに冷凍睡眠の基礎理論を提唱した。
その後の研究は僕の手からは離れていたけど、別の研究所で実用段階に入ったという話は耳にしていた。
確か老年の博士が自らを実験台として、三年ほどの冷凍睡眠に成功していたはずだ。

だけど、それとこれからの話と何の関係があるのだろう? 

鈍っていた僕の脳みそはそんな簡単な問いの答えもわからないまま、
次に発せられたツンの言葉に大いに驚くことになる。

ξ゚听)ξ「それを使って、あなたたち天才に冷凍睡眠に入ってもらうの」



59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/19(月) 02:11:17.82 ID:tZnXwI7D0

(; ゚ω゚)「はぁ!? な、何を言ってるんだお!!」

川 ゚ -゚)「……なるほどな」

僕の声とクーの声が車内で交錯した。

ことの事由に反論することなく納得しているクーを憎憎しげに一瞥した後、
僕は身を乗り出して前を向いて運転するツンへと怒鳴る。

(; ゚ω゚)「僕たちが冷凍睡眠に入ってどうなるんだお!
     それよりも危機に瀕している今こそ、僕たち天才の才覚の発揮どころだろうがお!」

ξ゚听)ξ「あんたたち天才がどんな手をうったところで、世界はもうどうにもならないわよ」



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/19(月) 02:12:49.12 ID:tZnXwI7D0

抑揚の無い声で淡々と続けたツンは依然前を向いたまま、
僕の激昂を気にも留めない様子で運転を続ける。

ξ゚听)ξ「行政部で外交官として世界各国に働きかけたけど、みんな聞く耳持たずよ。
     私たちこの国の役人の生き残りは、核の冬が訪れているって何度も他国に訴えたけど、
     どこも自分たちだけは助かるとでも思っているみたい。
     まあ、先に戦争を仕掛けたこの国の役人である私たちが言っても、何の説得力も無いんだけどね」

(; ゚ω゚)「核の冬が現実化するくらいに、世界は核兵器を使いまくっているのかお?」

ξ゚听)ξ「ええ。私たちの頭上に立ち込めている分厚い暗雲が世界中の空にも広がっている。
     私たちのしてきた温暖化防止の努力をあざ笑う勢いで世界の気温は下がっている。
     日光も届かず、放射能を含んだ死の灰を受けて植物も枯れ始めている。
     人間も自分たちだけが生き延びようとして、逆に自分たちの首を絞めているわ。
     もう何をしても無駄。だから私たちこの国の役人の生き残りは、一つの決断を下したの」



63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/19(月) 02:14:24.87 ID:tZnXwI7D0

絶望に絶望を重ねた言葉を並べる中で、
ツンはここに来てようやく笑みを浮かべて、バックミラー越しに僕とクーの顔を見た。

ξ゚ー゚)ξ「それは、この国にいるスポーツや学問の天才たちを
     核戦争の被害の届かない山奥の地下施設に眠らせ、未来に望みを託すということ。
     具体的には、核の冬が過ぎて、放射能汚染も消えて、
     状態が現状まで戻ると予測される二千年後まで、
     あんたたち天才に冷凍保存に入って生き延びてもらうの」



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/19(月) 02:16:55.48 ID:tZnXwI7D0

(; ゚ω゚)「……」

川 ゚ -゚)「……」

ツンの言葉に沈黙を返すことしか出来なかった僕。
車内がより深い暗闇と静寂に包まれた。どうやらトンネルか何かに入ったようだ。

ξ゚听)ξ「東洋にこんな寓話があるんだけど、二人は知ってるかな?」

前を向いたまま話を再開したツン。車のフロントライトがどこまでも続く暗闇を映し出している。
走っている道は、トンネルというよりも洞穴に近い。それもどうやら地下へと続いているようだ。

ξ゚听)ξ「遥か昔、高度な文明を持った宇宙人が技術を伝えに地球までやってきました。
     しかし、人類はまだサル同然の生活をしていました。
     そんな人類に宇宙人の技術はとうてい理解できそうも有りません。
     そこで宇宙人は、技術とその解説書が詰め込まれたカプセルを砂漠の下に埋め、
     人類が成長したときのための贈り物としました。
     しかし文明を発達させた人類は、核実験によってそのカプセルを燃やしてしまいましたとさ」



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/19(月) 02:18:30.03 ID:tZnXwI7D0

川 ゚ -゚)「それと今の話に、どのような関係があるのだ?」

ξ゚听)ξ「カプセルが冷凍睡眠装置で、その中身があなたたちってこと。例え話の結末はとんでもないけどね。
     だけど安心して。この話どおりにならないよう、間違いなくあんたたちを未来へ送り届けるから」

川 ゚ -゚)「……ふむ」

僕の隣に座るクーは、足を組んで納得したように一つうなずいた。

車は洞穴の奥の奥、地下の道をさらに進んでいく。
薄暗い車内。その中で僕は、精一杯の抗議を行う。

(  ω )「僕が嫌だと言ったら、君たちの計画はどうなるんだお」

ξ゚听)ξ「どうもこうもないわ。あんた一人が断ったところで、ほかの天才たちはすでに納得している。
     降りたければここで降りてもいいわよ。だけど、その後に待っているのは死だけだけどね。どうする?」



71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/19(月) 02:20:30.43 ID:tZnXwI7D0

(  ω )「……」

ツンは卑怯だと思った。
いや、ツンだけではない。この計画を立案した全員が卑怯だと思った。

誰だって生きたいに決まっている。
どんな奇麗事を並べようが、どんな醜い方法であろうが、人は生きたいに決まっている。

僕は生きたい。
だけど、こうやって皆に生かされることに抵抗を感じずにはいられない。
けれど、やっぱり生きたい。

葛藤にさいなまれる僕。そしてツンは、とどめの一言を僕に放ってくれた。



73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/19(月) 02:21:51.37 ID:tZnXwI7D0

ξ゚ー゚)ξ「それに、私はあんたたちに生きてほしい。
    それはあんたたちが私の友達ってだけじゃなくて、なんていうのかな?
    私を知っているあんたたちが生きてくれれば、後世にも私の生きた証が残る。
    ……そんな気がするの」

ツンにそう言われて、嫌だと言えるはずが無かった。
そしてまもなく車は止まる。

車を降りると、白衣を着た科学者らしき人間に僕たちは迎え入れられた。



77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/19(月) 02:24:47.15 ID:tZnXwI7D0

地下奥深くに存在するらしいこの施設は分厚い金属の壁に何層も覆われていて、
確かに核兵器の直撃を受けても破壊されそうには無かった。

水銀灯の照らす通路を僕たちは歩く。

やがて巨大なシャッターの前に連れられて、そこで立ち止まったツンは、静かに笑ってこう言った。

ξ゚ー゚)ξ「ここでお別れね。私は天才じゃないから、この先には入れない」

淡白な台詞を残して小さく手を振った彼女は、きびすを返してもと来た道を戻っていく。
そんな中、いまだに僕は迷っていた。

生き伸びるべきなのか。
それとも、ツンとともに戻るべきなのか。

決められない。こんなに困難な決断を前にしたことはない。

だから僕は時間稼ぎに、苦し紛れに、こんな質問で彼女を引き止めることしか出来なかった。



80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/19(月) 02:27:15.98 ID:tZnXwI7D0

(  ω )「ツン。最後にこれだけは教えてくれお」

ξ゚听)ξ「……何?」

(  ω )「新エネルギーシステム理論を某国に流出させたのは……君なのかお?」

一瞬にして場が凍りついた。
そんなことは覚悟していた。道を決める時間を稼げればそれでよかった。

少しの沈黙。

その間に、凡人ながらも頭の回るツンは、
自分が疑われるべき状況であったのを理解したのだろう。

小さくなった彼女の顔は、それでもはっきりとわかる寂しい笑みを浮かべて、言った。

ξ゚ー゚)ξ「確かに私が疑われても仕方が無いわね。だけど、それは私じゃない。
    連絡を取れなかったのは、単に上層部に禁止されていたからよ。
    確固たる証拠も無いから信じてなんて言えないけど、私じゃない。
    私には……それだけしか言えない」



83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/19(月) 02:29:33.32 ID:tZnXwI7D0

僕のひどい質問に笑って返して、それからツンは僕を見た。
僕は何も言えなかった。

間違いなく、ツンは死ぬだろう。

それなのに、僕はこれから二千年先の遠い未来で生きることが出来る。
後ろめたくないわけが無い。

ツンの姿が遠ざかっていく。
白衣の科学者が僕とクーを施設の奥へと促してくる。


僕は、どちらも選べない。



84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/19(月) 02:31:00.65 ID:tZnXwI7D0

川 ゚ -゚)「おい、内藤?」

クーが呼ぶ声が地下の施設内に反響する。
その声に反応して、小さくなったツンがこちらを振り向いたのが目に入った。

振り向いたツンの顔は僕を諭すかのように小さく笑っていて、
その笑みを目の当たりにした僕は、彼女へ向けて駆け出していた。



88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/19(月) 02:33:08.74 ID:tZnXwI7D0

(; ゚ω゚)「ツン、君も眠るんだお! 一緒に眠って、二千年後にまた会うんだお!」

ξ゚ー゚)ξ「……ダメよ。冷凍カプセルの数が足りないもの」

(; ゚ω゚)「そのくらい僕が作るお! 僕を誰だと思ってるんだお!? 
     世界に名をとどろかせた天才、内藤ホライゾン博士だお!!」

叫びながら走って、ツンのもとにたどり着いて、
彼女の細い肩を揺さぶって必死に声をかけた。

けれども彼女は寂しげに笑ったまま、今にも泣き出しそうな声をあげる。

ξ゚ー゚)ξ「ダメだよ……私なんかが生きても、何の役にも立たないよ。
     それに、私は最後まで足掻いてみたいの。この戦争を止めてみたいの。
     天才でもなんでもない私が世界を救えるか、試してみたいんだよ」

(; ゚ω゚)「もう無理だお! そう言ったのは君だお! 
     有りもしない可能性にすがりつくのは愚行以外の何ものでもないお!
     悲劇のヒロインを気取るなんて君らしくないお!
     僕は君と生きたいんだお! 僕は君が……君が……」



89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/19(月) 02:35:00.72 ID:tZnXwI7D0

けれど、その後がどうしても出てこない。
これが最後のチャンスだというのに、どうしても言葉が出てこない。

小さい頃からずっと勉強ばかりやっていて、異性との付き合いに価値を感じていなかった僕。
そんな僕にとって、その先の言葉を口にすることはどんな難しい数式を解くことより困難だった。

うつむき続けて。なけなしの勇気を振り絞って。

それからようやく口に出そうと顔を上げた先では、
それでもツンは笑っていて、僕の目を見つめながらこう言った。

ξ゚ー゚)ξ「……ごめんね。そんな風に思ってくれていたなんて、全然気づかなかったよ。
     うれしいよ。本当にうれしい。だけど……」



91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/19(月) 02:36:54.94 ID:tZnXwI7D0

(; ^ω^)「……だけど?」

それからツンはうつむいて。
伝えられた想いの答えを僕は聞きたくて。

だからほんの数秒に過ぎなかったこの時間が、僕にはとても長く感じられた。

それからしばらくして。
いや、実際にはそう長くはなかったであろう間を置いて。

顔を上げた彼女ははまるで天使のようで。

これまで見たどんな光景よりも美しい表情で、笑っていた。



92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/19(月) 02:37:23.59 ID:tZnXwI7D0



ξ゚ー゚)ξ「……だからこそ、あなたは生きて」




93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/19(月) 02:40:04.78 ID:tZnXwI7D0

(; ^ω^)「……え?」

次の瞬間、ツンの視線が僕から外れた。
僕の肩越しに何かを見るような、そんな視線の動かし方だった。

気になって僕が振り返ろうとしたのと同時に僕の首筋にチクリと小さな痛みが走って、
気づけば僕は地面へ崩れ落ちていた。



95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/19(月) 02:40:46.98 ID:tZnXwI7D0

(; ゚ω゚)「あ……が……」

体中に力が入らない。口が開ききって閉まらない。
よだれが口の端からたれ落ちるのを自覚した。

それでも視界だけははっきりとしていて。
倒れた僕を覗き込むクーの顔が目の前を覆い尽くしていて。

視界に捉えたクーの手には、注射器が握られていて。



96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/19(月) 02:42:11.56 ID:tZnXwI7D0

川 ゚ -゚)「内藤。あきらめろ。ツンは自分の意思で、この時代に残ることを決めたんだ」

(; ゚ω゚)「……弛緩……剤……かお……」

川 ゚ -゚)「ああ。先ほどの科学者に借りた。
     内藤。私もお前も、後の世のために生き伸びねばならんのだ。
     ツンの意思を尊重したければ、お前も笑って生きてみせろ」

(; ゚ω゚)「……きさ……ま……」

もう、声も声にならない。体は言うことを聞かず、指一本動かせやしなかった。

この場でクーを殴り飛ばしたかった。ツンの手を握りしめて離したくなかった。
だけど体は動かない。

やがて遅れてきた科学者に担がれたらしい僕は、朦朧とする意識の中で、ツンの最後の声を聞いた。

ξ゚ー゚)ξ「それじゃあ、バイバイ、内藤。あなたは私たちからの大切な未来への贈り物。
     どうか無事に届きますように。そして、人類をまた再興させてね」

彼女を引きとめたくて伸ばそうとした僕の右手は力なく垂れ下がったまま。
ただ遠ざかるツンの足音だけが、そこに響いていた。



98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/19(月) 02:44:31.19 ID:tZnXwI7D0

それからも僕は科学者に担がれたまま、せめてもの抵抗に意識だけは保っていた。
口からよだれが出ても、緩んだ尿管から液体が流れていっても、それでも意識を閉ざすまいと必死だった。

けれども動かない体では、それは何の抵抗にもなっていなかった。

僕の想いなど関係なしに着々と冷凍睡眠に向けた検査や作業は進み、まもなくカプセル内へと入れられた僕。

緩んだ体でも、緩んだ意識でも、自分が冷たくなっていくことだけはハッキリと感じられた。
ただでさえ朦朧としていた意識が、もはや途切れようとしていた。



99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/19(月) 02:45:05.08 ID:tZnXwI7D0

そして、カプセルのふたは閉じられた。
同時に力尽きた僕の意識は、それを最後にプッツリと途絶えた。

けれど、最後の最後。

僕の目じりから流れ落ちていった一筋の涙は、絶対に弛緩剤のせいではない。



















第二部  世界の終わりと、それでも足掻いた人間たちの話  ― 了 ―



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