( ^ω^)ブーンは歩くようです

59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/03(月) 00:21:42.61 ID:isT1qvK30

― 3 ―

翌日からしばらく、僕はドクオと行動をともにした。
コヨーテを狩りに行ったり、ヤギの世話をしたり、水を汲んだり、家の裏手に作られた小さな畑を耕したり。

それらは歩くだけだった僕にとっては久しぶりのことであったり、また新鮮なことであったりして楽しかった。
特に、冬に備えた保存食作りは目を見張るものだった。

('∀`)「こうしてコヨテの肉さ煙であぶれば長くもつんだぁ」

いわゆる燻製というやつだ。名前だけ知っていてやり方を知らなかった僕には、それはとても有意義な教えだった。



63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/03(月) 00:23:18.39 ID:isT1qvK30

ほかにも、香辛料による保存食の作り方をドクオは教えてくれた。

もし仮にこれ以降も旅を続けるならば、ドクオの教えてもらった保存食の作り方は僕にとっての生命線になりそうだ。
そう言うと、ドクオは笑って別のことを教えてくれた。

('∀`)「香辛料さ靴ん中入れれば体が暖まるだぁ」

何のおまじないだろうと半信半疑だったが、実際にやってみると本当に足の裏がポカポカしてきた。
心なしか体全体も温まったような気がする。

こうした生活の知恵は、学問ばかりに満たされた内藤ホライゾンの脳を共有する僕にとって
物珍しくもあり、強い興味をそそられるものでもあった。

そんな風に過ごしていたあくる日の目覚め。それは聞き慣れない甲高い声によってもたらされる。




64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/03(月) 00:25:16.48 ID:isT1qvK30

「ドクオー! 遊ぶべゴルァ!」

「ドクオ兄ちゃーん! 遊ぼー!」

寝ぼけ眼をこすり起き上がってみれば、すでに起きていたらしいドクオが満面の笑みで外へ出て行くところだった。
僕も出て行ってよいものかと迷っていると、ドクオの嬉しそうな声とともに子供のものらしき嬌声が聞こえてきた。

('∀`)「こらこらぁ。オラのとこさ来たら、おめぇらまたかーちゃんに怒られちまうべさぁ」

「いいじゃんよー! 村の奴さつまんねぇだゴルァ!」

「ドクオ兄ちゃん、だっこー」

耳に心地よい子供たちの声。内藤ホライゾンの記憶を辿っても、子供の嬌声を耳にしたのははるか昔のこと。
好奇心に負けた僕は、思い切って玄関から顔を出してみる。

( ^ω^)ノ「おいすー。この子たちは村の子かお?」



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/03(月) 00:27:41.68 ID:isT1qvK30

(;*゚听)「わっ!」

(;,,゚Д゚)「ゴ、ゴルァ! 誰だおめぇは!」

僕が姿を現すと、ドクオの体によじ登っていた少年と少女――おそらく五,六歳だろう――は、
一目散にドクオの背中へと隠れた。二人とも、ドクオと同じ強い色彩をした原色の衣服を身にまとっている。

背中に隠れた二人に向けてドクオは目じりを垂れ下がらせ優しげな視線を送って言う。

('∀`)「怖がらなくて大丈夫だぁ。こん人は旅人のブーンさだべ。悪い人じゃねぇから安心するだぁ。なぁ?」

そう言って、ドクオは僕の方を見る。

まいったなぁ。こういうときどう答えればいいのだろう。
ドクオの言葉は確かに嬉しい。しかし「そうだよ。僕はいいおじさんだよ」なんて言ったら逆に怪しさ五割増だ。

この場合のベストな返答は? 
――内藤ホライゾンの記憶を探っても、残念ながら答えは出てこない。

何を言うべきか僕が迷っていると、ドクオの陰に隠れた少年が恐る恐る僕に近づいてきた。

(;,,゚Д゚)「……」

( ^ω^)「お? どうした……」

(; ゚ω゚)「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/03(月) 00:29:36.74 ID:isT1qvK30

気が付けば激痛が股間に走り、僕は地面にひざを付いて悶絶していた。

(,,゚Д゚)「よっしゃあああ! オラの勝ちだゴルァ!」

( ;ω;)「こ、このクソガキ……」

なぜ僕が悶絶したかといえば答えは簡単だ。少年に股間を蹴られたから。
まさか初対面で股間を蹴られるなどと思ってもいなかった僕は、それをモロに受けてしまった。

下腹部の奥の奥を鈍痛が襲う。
筆舌しがたい痛みが陰茎を中心に広がり、体中から脂汗が吹き出てくる。

しかしドクオは僕を見て大笑いをすると、こともあろうかこんなことを言い出した。

('∀`)「おんやぁ! こら大変だべぇ! みんな逃げるべさぁ!」

(,,゚Д゚)「ゴルァ! 悔しかったら捕まえてみろだぁ!」

(;*゚听)「わーん! 待ってだぁー!」

楽しげに叫んで三人は森の中へと姿を消す。
股間から頭へと血が上っていた僕は、体力の回復を待つと直ちにその後を追った。



72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/03(月) 00:30:58.24 ID:isT1qvK30

(# ゚ω゚)「おらぁ! 待たんかいクソガキども!」

('∀`)「ほーれ! こっちだべさぁ!」

(,,゚Д゚)「ゴルァ! 来いやのろまぁ!」

(;*゚听)「ふえーん! 怖えーべぇ!」

うっそうとした森の中。ドクオたちの楽しげな声だけが周囲から響く。
一部、本気で怖がっているようだが。

無我夢中で森を駆け回って、特にゴラゴラうるさいガキ(命名、ゴラ君)をぶちのめそうと周囲に目をやっていると、
予想外の人物を見つけてしまった。



73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/03(月) 00:32:44.72 ID:isT1qvK30

(;*゚听)「はわわ……ご、ごめんなさい……」

(; ^ω^)「……」

少女は可愛らしい顔を恐怖にゆがめ、巨木を背にしてガタガタと震えていた。

うーん。まいったな。こりゃどうしたものか。これではまるでロリコンの犯行現場だ。

断っておくが、僕にそんな性癖は一切無い。あってたまるか。
しかし彼女は本気で怖がっている。困ったことになった。

(; ^ω^)「えーっと、お嬢ちゃん? クソガキ……じゃなかった、ゴラ君はどこかな?」

(,,゚Д゚)「ここだゴルァ!」

(; ゚ω゚)「おぅふ!」



74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/03(月) 00:34:08.06 ID:isT1qvK30

また股間に激痛。倒れこんで悶絶。
涙目の世界に映ったのはあのクソガキ。どうやら草陰に隠れていたらしい。
続けて現れたドクオが、笑いながら少女を抱きかかえて言う。

('∀`)「ほーれ、早く捕まえねば夜になっちまうだぁ?」

(,,゚Д゚)「ギコハハハ! 悔しかったら捕まえてみろ! この包茎ヤロー!」

( ;ω;)「このガキ……言うてはならんことを……」

悔しさに立ち上がろうとしたのだが、あまりの股間の痛みに意識が朦朧とする。いかん。玉が潰れたのかもしれん。
それでも何とか立ち上がった先では、すでに彼らの姿は森の中に消えていた。

(*゚ー゚)「ねぇねぇ、ほーけーってなぁに?」

あの女の子の、可愛らしくえげつない質問だけを残して。



77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/03(月) 00:36:04.51 ID:isT1qvK30

('∀`)「いんやー、楽しかったべさぁ!」

(,,゚Д゚)「ゴラァ! オラのキックはどうだったべさ! このフニャチンタロー!」

(;*゚听)「そげなこと言っちゃダメだぁ! ギコ君!」

( ^ω^)「……」

太陽が天球の真ん中へ昇りきった頃、ようやく鬼ごっこは終わりを告げた。
結局一人も捕まえられなかった僕は、ドクオの家に戻って黙々と豆料理を食べていた。

ゴラ君の言う「フニャチンタロー」が
「フニャ・チンタロー」なのか、それとも「フニャチン・タロー」なのかと、意味を模索しながら。

無言を貫く僕を見てさすがに申し訳ないと思ったのか、ドクオがようやく弁解を始める。



79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/03(月) 00:38:02.07 ID:isT1qvK30

('∀`)「ブーンさ、そんな怒らねぇでくれよぉ。ちょっとした悪ふざけだったべさぁ。
   ほら、おめぇら。ブーンさにごめんなさいして自己紹介するだよ」

(,,゚Д゚)「オラはギコだゴラァ!」

そう叫んで少年は胸を張った。人の股間を蹴り上げておいて謝罪の言葉も無しかい、少年?
しかしギコ君。どんなに自己紹介しようと、君の名前は僕の中ですでにゴラ君に決まってしまっているのだよ。残念でした。

(*゚ー゚)「オラはしぃ! よろすく!」

一方、ドクオのひざの上にちょこんと座っていた女の子は立ち上がると可愛らしくお辞儀をしてくれた。
微妙な言葉のなまりがさらに可愛さを引き立てている。うん。実にいい。

そしてしぃちゃんは僕の前に歩み寄ると、こともあろうかあぐらをかく僕のひざの上にちょこんと座ったではないか。



81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/03(月) 00:39:22.32 ID:isT1qvK30

('∀`)「おんやぁ! 人見知りのしぃが懐くとはぁ、やっぱりブーンさはいい人だぁ! 
   オラの目に狂いはねぇべさ!」

(*゚ー゚)「ブーン兄ちゃん、だっこー」

(*^ω^)「……お」

ひざの上から上目遣いで抱っこをせがんでくるしぃちゃん。

いかん。可愛い。可愛すぎる。
今ならロリコンの気持ちが理解できる。そっちの方面に目覚めてしまいそうだ。

(,,゚Д゚)「だっこなんて、しぃはガキだなゴルァ」

こいつは可愛くない。ショタコンの気持ちなんて到底理解できない。

それから昼食を平らげた僕たちは、ドクオの案内でとある場所へと赴くことになった。



84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/03(月) 00:41:24.79 ID:isT1qvK30

('∀`)「ほんらぁ! あれがオラたちん村だべさぁ!」

ドクオの家からしばらく登った丘の上。そこからは村の全貌が遠目ながらも一望できた。

屹立する山々とその表面に茂る森林。その中に石造りの道や塀、そして家々が見て取れた。畑もたくさんあるようだ。
マチュピチュの空中都市を髣髴とさせる眺め。しかし遺跡とは違い、そこには確かに人の息吹が感じ取れた。

だが、疑問もいくつかある。ドクオがギコを、僕がしぃちゃんを肩車しながら、大人二人は会話を交わす。

( ^ω^)「どうして木がたくさんあるのに、あの村は石造りの建物ばかりなのかお?」

('A`)「言い伝えがあってぇ、木は無駄に切っちゃダメなんだぁ。
   薪とかどんしても必要なもんの他は、木は使っちゃダメなんだべぇ」

なるほど。言い伝えか。多分千年前の戦争により木が不足し、
だからこそ木を大事にしなければならないなどの言い伝えがあの村には流れているのだろう。

過去から学び、後世に活かす。彼らの営みに素直に感心した。

そして、もうひとつの疑問。



85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/03(月) 00:43:07.49 ID:isT1qvK30

( ^ω^)「どうしてドクオの家は村から離れたところにあるんだお?」

実を言うと、これが一番気にかかっていた。それにドクオは今朝言っていた。
「オラのとこさ来たら、おめぇらまたかーちゃんに怒られちまうべさぁ」 これはいったいどうしてなのだろうか?

ギコもしぃちゃんもドクオに懐ききっている。
ドクオの性格にも問題はない、むしろ優しくいい男といえるだろう。顔以外。
さらにドクオは体も大きく、原始的な生活をする彼らにとっては貴重な人材だろう。

彼を村のはずれ、いや、はずれでは表せないほどの遠くに住まわせる理由は無いはずだ。

('A`)「まあ、色々あるんだぁ。おめさんも旅んホントの理由さ話してくれねぇし、ここはおあいこだべさぁ」

( ^ω^)「……」

それきり、僕らは村の景色を無言で眺めるだけ。肩の上のギコとしぃがはしゃぐ声だけが山彦として周囲に響く。
やがて二人の子供たちが景色にあきた頃、ドクオが笑いながら言った。

('∀`)「ま、そん他のことなら村で聞くといいだぁ。村長あたりが話してくれるだーよ」



86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/03(月) 00:44:29.70 ID:isT1qvK30

( ^ω^)「お? 村に入ってもいいのかお?」

('∀`)「構わねーだぁ。何日かおめさんの様子見してもらっただが、おめさんはいい人に違いねぇだ。
   村ん入れても大丈夫さぁ。みんな歓迎すてくれる。なあ? ギコ? しぃ?」

(,,゚Д゚)「おう! いざんなったらオラがやっつけたるだゴルァ!」

(*゚ー゚)「ブーン兄ちゃん、オラの家さ一緒住めばいいだぁ!」

頭上から響く可愛らしい二つの嬌声。

それからドクオの家に戻り荷物を手に取ると、僕はギコとしぃの案内で村に足を踏み入れることにした。



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