( ^ω^)ブーンは歩くようです
- 44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 01:30:41.44 ID:Vd46qG3Z0
― 7 ―
ドクオに連れられ、森の中をひた走る。
途中追っ手らしきものの声が聞こえ、威嚇のために後方へ発砲した。
「ギャッ!」と短い悲鳴がした。
適当に撃ったのだが、どうやら当たってしまったらしい。
まあ、なるだけ下の方に発砲したから死んではいまい。
多分。
- 47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 01:32:26.51 ID:Vd46qG3Z0
無我夢中で森の中を走った。
先ほど来たときとは方角の異なった道のり。
おそらくドクオだけが知る秘密のルートなのだろう。
追っ手の気配は程なくして無くなった。
たとえ道がばれていたとしても、麻薬中毒者などに追いつかれるわけはなかったが。
その道中で、ドクオがうれしそうに、僕に話しかけてくる。
('∀`)「やっぱりブーンさはオラの見込んだとおりの人だったぁ!」
(;^ω^)「どういうことだお!?」
('∀`)「ブーンさは『神の実』さ否定してくれただぁ!
おめが神さんか神の使いだったら、そんなことしねぇ!
おめはただの人間だぁ! それも、とってもいい人間だぁ!
だからオラは、おめさ殺さなくてすんだ!!」
- 50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 01:33:33.45 ID:Vd46qG3Z0
走る。走る。僕たちは走る。
途中、木の枝にぶつかって気絶しそうになったが、かろうじて持ち直した。
くらくらする頭を抱え、全力で暗い森の中を駆け抜けた。
やがて、道と空が開け、頭上から満月の光が姿を現す。
ヤギの小屋。薪置き場。
ポツリと建てられた石造りの一軒家。はじめに連れられたドクオの家。
家に入るなり、桶に溜められていた水を飲んだ。
室内は一年前となんら変わらず、僕を出迎えてくれた。
そして、暖炉をはさむ形でドクオと対面する。荒れた息を整えてドクオに続きを尋ねる。
( ^ω^)「わからんお。さっぱり意味がわからないお。
僕がアヘン……神の実を否定しなかったら、君は僕を殺すつもりだったのかお?」
- 52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 01:35:10.51 ID:Vd46qG3Z0
('∀`)「ああ、そうだぁ。
正直言うと、オラ、おめを神さんか神の使いかと疑ってただぁ。
神さんと同じ名前だったし、おめはオラたちの知らない技術さ持ってたからなぁ」
(;^ω^)「ちょっと待つお! それはつまり、
ドクオはお前たちの神を殺すつもりだったのかお!?」
('A`)「神を殺すつもり『だった』んじゃね。オラは今から、神さんを殺しにいくんだぁ」
表情から笑い消したドクオ。
同時に発せられた雰囲気には、うすら寒ささえ感じられる。
彼は真剣な声で続けた。
('A`)「……オラ、昔から思ってただ。神さんなんか必要ねぇんじゃねぇかって」
暖炉を挟んであぐらを組み、うつむいてしばし黙したドクオ。
間を置いて彼は続ける。
- 54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 01:36:52.21 ID:Vd46qG3Z0
( A )「昔、子供の頃、オラには大好きな兄ちゃんさいただ。
兄ちゃんは体おっきくて、強くて、とっても優しかっただぁ。
だども、大人になってから変わっちまった。
兄ちゃんの体は細くなって、どんどん元気じゃ無くなっていった。
んで、オラが大人になる前に、死んじまったさ」
ほんのわずかだが、声が震えて聞こえた。
暖炉の火が彼を赤く照らすが、うつむいたままのその表情は、僕にはよくわからない。
パチッと薪が音を立てた。
赤い炎がゆらめいて、石壁に映るドクオの影もまた、同じようにゆらめく。
- 55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 01:38:34.29 ID:Vd46qG3Z0
( A )「そんでオラが大人になって、あの穴倉の正体さ知った。神さんのことも聞いた。
で、オラは疑っただ。兄ちゃんをダメにしたのは神の煙のせいじゃねぇか、神さんのせいじゃねぇかってよぉ。
子供が少ないのもそのせいだと思うべ。
昔はな、大人たちが神の煙さ吸うのは年に何度かだけだったらしいだぁ。
だども、いつん間にかそん回数は多くなって、今じゃ毎日吸っている。
それと同時に生まれる子供の数も減ってったらしいだ……。何もかも、みんな神が悪いんだぁ」
ドクオの言葉から神に対する敬称が消えた。
同時に顔を上げた彼は、真っ直ぐに僕の目を見つめて、言った。
('A`)「そすて、さっきの洞窟でのブーンさの言葉さ聞いて、オラは確信すた。
神は必要ねぇって。
神の煙が大人たちをダメにすた。他ならんおめさんが言ったことだから、間違いねぇだ。
だから、オラはオラたちの神を、オラの手で殺す。
ギコやしぃ……村の子供たちが大人たちんごとならねぇよう、
オラみたいに村を追い出されることがねぇよう、神はオラが殺す。
ブーンさにも、それさ協力して欲しいんだぁ」
- 58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 01:41:13.04 ID:Vd46qG3Z0
( ^ω^)「……」
僕はドクオの言葉にしばらく答えなかった。
いや、答えられなかった。
彼らの崇めている神を殺す。それ自体に協力しない理由は無い。
アヘンをもたらす神など死んだ方がよほど村にとっていいことだろう、とも思う。
ひいてはしぃちゃんやギコを助けることになるし、何より命の恩人たるドクオの頼みだ。
聞かないわけにはいくまい。
だけど――
( ^ω^)「協力するのは構わないお……だけど、多分それは無理だお」
僕は、思ったことを素直に口にした。
- 59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 01:42:25.70 ID:Vd46qG3Z0
('A`;)「な、なしてだぁ!? 神ってのはそげん強かのかえ!?
オラ、村さ追い出されてからずっと体鍛えてきただぁ!
そんでもオラじゃあ倒せんのかぁ!?」
額に汗を浮かべ、暖炉の向こう側でドクオが狼狽する。
その姿を滑稽には思わなかったが、単純に困ったとは感じた。
( ^ω^)「そういうわけじゃないお。だけど……」
――いないのだ。
神なんて、もとから存在しないのだ。
- 61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 01:44:03.06 ID:Vd46qG3Z0
神とは所詮、人が作り出した概念に過ぎない。
存在しないものを殺すことなんて出来ないのだ。
はじめからいないものを消すことは不可能なのだ。
仮にドクオが概念としての神を消すのだと考えているとしても、それもまた不可能に近い。
それを為しえるためには、彼らの神を知っている者、
つまり村の大人すべてを消すしか方法が無いからだ。
仮にも村の出身者たるドクオに、そんな酷なことが出来るだろうか?
それ以前に、彼にこのことを理解できるだろうか?
どちらも無理な気がした。
- 63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 01:46:27.12 ID:Vd46qG3Z0
('A`;)「頼むだブーンさ! おめがそげなこと言わんでくれよぉ!
オラはどうしても神を殺さねばならね!
ギコやしぃ、村の子どもんためにも、オラは神の実を消さんとあかんのだぁ!
何もおめさんに神を殺して欲しいって言ってるだねぇ!
神はオラが殺すだ! おめは助言くれるだけでいいんだぁ!」
ドクオの必死の叫び。そこで僕はハッとした。
ドクオの必死さにではない。ドクオの発した一言に対して、だ。
( ^ω^)「……ふむ。ドクオは神の実を消したいのかお?」
('A`;)「そうだぁ! 当たり前だよぉ!」
うっかりしていた。何も神を殺す必要は無いのだ。
現状を良くしようとするなら、神の実
――ケシの実を消せば、それで事足りる。
凝り固まっていた考えを揉み解すようにして伸びた髪の毛をかきむしり、僕は言った。
( ^ω^)「……なるほど。それなら可能だお」
- 65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 01:48:05.80 ID:Vd46qG3Z0
('∀`)「ほ、本当だかぁ!?」
( ^ω^)「お。だけど多分、神自体を殺すことは出来ないお。僕はその方法を知らないんだお」
('A`;)「……そりゃいかん。神の実は神が守ってるんだぁ。
だから神の実を消すにはまず神から殺さねばならね。……参ったべぇ」
ドクオは何を心配しているのだろう?
ケシの実を消すなら、刈り取るか、火で燃やしてしまえばそれで十分だ。
存在しない神などが守っているはずが無い。
それともまさか、ケシの実の周辺には神か神の防人に近い何か
――例えば、地雷やその類が埋まっているとでもいうのか?
いや、ありえない。
それならば、村人がケシの実を取ることもまた、不可能だからだ。
多分、神が守っているというのは迷信に過ぎないのだろう。
用心するに越したことは無いが、かといってそれ以上に気にする必要も無い。
- 69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 01:49:52.27 ID:Vd46qG3Z0
( ^ω^)「大丈夫だお。なんとかなるお」
('∀`)「そ、そっかぁ!? ブーンさがそう言ってくれるなら安心だべぇ!」
心底うれしそうに笑うと、ドクオは立ち上がり、部屋の隅から何かを取り出した。
巨大な石斧。手にした彼は、得意げにまた笑う。
('∀`)「この石斧さ、今日のために作ったんだぁ!」
( ^ω^)「……おお、それはすごいお」
重そうな、巨体の彼の背丈と同じくらいの長さの石斧を取り出したドクオ。
それを誇らしげに振り回す彼を見て、思わず苦笑した。
仮に神がいたとしても、さすがに石斧では倒せないだろう。
それとドクオさん、室内で石斧を振り回してはいけませんよ。
僕が注意するとドクオははにかんで笑い、
それから見覚えのある袋を取り出して、僕に見せた。
('∀`)「あと、これも持ってきただよぉ」
- 71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 01:51:43.57 ID:Vd46qG3Z0
(;^ω^)「お? それは僕の荷物……」
('∀`)「しぃの家から持ってきただ。
下手すりゃ、村の大人たちに燃やされてたかもしれんからさぁ?
そうなると、あんたも参るべ?」
( ^ω^)「まったくだお! ありがとうだお!」
本当にありがたかった。
村の神を否定した以上、僕があの村に留まることはもう出来ない。
また別の場所を目指して旅に出なければならない僕にとって、旅の荷物は必要不可欠だ。
ドクオ、GJ!
('∀`)「そんじゃ行くべさ! 荷物は持ってけよ? この家さ、間違いなく大人たちは来るからよぉ!」
( ^ω^)「おkだお」
('∀`)「うっしゃあ! そんじゃ、神の祠さ出発だぁ!!」
片手で石斧、もう一方でたいまつを振りかざしたドクオ。
彼から自分の荷物を受け取り、僕は神殺しへと向かった。
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