( ^ω^)ブーンは歩くようです

75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 01:54:51.16 ID:Vd46qG3Z0

― 8 ―

満月が天頂に近づき始めた空の下、
僕とドクオは、かつてしぃちゃんとギコを連れて訪れた丘の上に立っていた。

この場所自体視界が開けている上に、標高が他所より高く、
おまけに満月の光が強くて、周囲の様子がよく見渡せた。

遠く、東のかなたに、僕が辿ってきたあの河がうっすらと見えた。
あの先に、あと千年、眠り続ける天才たちがいる。

村の様子もよく見えた。
この時間、いつもは闇に閉ざされているはずの村には、たいまつらしき明かりがともっていた。

二度と立ち入ること無いであろう場所達の姿を眺めていると、別の方を向いていたドクオが声を発する。



78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 01:56:32.20 ID:Vd46qG3Z0

('A`)「あすこあたりが神の祠だべ。
   といっても、石塀で囲っとるだけのちんけなもんだけどなぁ」

(;^ω^)(……見えねーお)

ドクオは、村とは遠く離れた山のふもと近くを指差した。僕もそちらに視線を移す。
が、満月とはいえ、月明かり程度の光の下では、遠くのふもとなど闇に沈んでいるようにしか見えない。

かろうじてわかるのは、
ドクオが指し示す場所が、僕とドクオが初めて出会ったあたりから少し離れたところにあるということ。
ここからかなりの距離があるということ。そのくらいだ。

('A`)「んじゃ、行くべさ。転ばんように注意するだよ?」

(;^ω^)「……自信はないお」



81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 01:58:29.73 ID:Vd46qG3Z0

視線を下ろせば、目下には深く続く真っ暗な森。永い森。

遠くの風景とは裏腹に、森の中は完璧に近い闇に包まれている。
こんなところを転ばずに進めとは、甚だ無茶な注文だ。

しかしドクオもそれはわかっているようで、いつもの変な笑い声を上げている。

('∀`)「ふひひwwwそりゃそうだべなwwwwwwww
   だども、なるだけ急がねばならね。
   すぐにってこたぁねぇとは思うが、村の大人たちも祠さ来るだろうからなぁ。
   あと、おめさんの荷物はここに置いてこ。走るんに邪魔だしなぁ」

(;^ω^)「お? でも……」

('∀`)「でぇじょうぶだぁ!
   ここはオラと、あとはギコかしぃくらいしか知らねぇ秘密の場所だかんなぁ!
   大人たちはまず来ねーべ! そんじゃ行くべ! オラを見失わんごとな!」

ドクオの言葉に安心した。

僕は荷物をその場に置くと、彼の勇ましい掛け声を合図に、夜の森へと駆け出した。



82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 01:59:26.64 ID:Vd46qG3Z0

一度入れば満月の光など一切届かない、限りなく闇に近い森の中。

そこは普通に走るのも困難。
さらにドクオのスピードにあわせるとなると、無傷で走るなど到底不可能なことだった。

何度も転び、目視できない何かに体を打ち付け、時には木々の枝に皮膚を裂かれる。
けれど僕は、それでも必死に、ドクオの背を追って走り続けた。

一方でドクオは、真っ暗な森の中だというのに、
ぶらさがるなどして木々の枝を上手に利用し、斜面を俊敏に駆け下りていく。

僕はみるみる離されてしまう。



83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:00:39.54 ID:Vd46qG3Z0

('A`;)「ブーンさ、遅いだよぉ!」

(;^ω^)(うるせーお! このサル!)

闇の先からドクオの声が聞こえた。
しかし僕は、すでに息も絶え絶えで、しゃべることすらままならなくなっていた。

顔も動きもサルそっくりなドクオ。
彼の持つたいまつの火がどんどん小さくなっていく。
遠くなっていく。

それからどれくらい、斜面を駆け下り続けたのだろう? 

とっくに時間の感覚は失せていた。
前を走るたいまつの火が、もはや点としか認識できない。

やがてそれも、見えなくなる。



86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:02:52.44 ID:Vd46qG3Z0

(;^ω^)「まいったお……はぐれたお……」

真っ暗な森の中、走りながら途方にくれた。

けれど、決して立ち止まりはしなかった。
一度ここで立ち止まってしまえば、二度と走れないほどに疲れきっていたから。

コケながら、木の枝に頭をぶつけながら、それでも前を向いて走り続けた。

こんな苦労をさせてまで、今、僕を突き動かしているものは何なのだろうか?
そんなことを考えながら。

そんな努力のおかげか、視界の先、暗闇の向こうに、
再びドクオのたいまつらしき明かりを見つけ出すことが出来た。

自然と顔がほころび、無我夢中でそこまで駆け寄る。

視界が開けた。どうやら永い森を抜けたようだ。



88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:04:32.92 ID:Vd46qG3Z0

南中から少し傾き始めた満月との再会。
ドクオと出会った場所と同じような、短い雑草と木がまばらにしか生えていない草原。

その中に、石斧とたいまつを持ったドクオがたたずんでいた。

(;^ω^)「ドクオ! 置いていくなんてひどいお!!」

('A`)「あー、すまねぇだ。でも、ちょっち待ってくれ」

(;^ω^)「お? どういうことだお?」

('A`)「あれ、片付けるからよぉ」

(;^ω^)「あれ? あれって何だ……」


(・(エ)・) 「クマー!」


おいおいおい。熊じゃねーかおい。



91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:07:00.80 ID:Vd46qG3Z0

鋭い爪。縦にも横にも広がった、葦毛色のとてつもなく巨大な体躯。

月明かりに照らされた熊は、
自身が持つ本来の凶悪さをよりいっそう強いものに感じさせていた。

(; ゚ω゚)(……ちっ!!)

洒落にならない事態を前に、僕は慌てて懐に手を入れ、銃を取り出そうとする。

しかしそれよりも早く、ドクオが動いた。

ばねのようなしなやかな体捌きで高く滑らかに中空へと飛び上がり、
手にした石斧を軽々と右から左に一閃させる。

そして鈍い殴打音とともに、いとも簡単に熊の頭を横薙ぎにしてしまった。

月明かりに照らし出された、一瞬の光景。

僕にはそれが、美しいとすら感じられていた。



96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:09:44.69 ID:Vd46qG3Z0

ドンと、熊の倒れる音がした。同時に衝撃で地面がわずかに揺れる。

銃を構えながら恐る恐る近づくと、熊の頭部は粘土細工のようにひしゃげ、つぶれていた。
ピクピクと痙攣している熊の指先が、その衝撃の強さを物語っていた。

地面には血と脳しょうが飛び散っていた。
あの時の彼女と同じように。

むせかえる血の臭いにより、あまり思い出したくない記憶がよみがえり、
めまいを覚えながら思わず目をそむけた。

しかし、いくらなんでもこれは人間業じゃない。
目の前で起こった出来事を思い返し、驚きを隠せないでいた僕。

一方で、僕の隣で熊の死骸を見下ろしていたドクオはというと、

('A`)「あー、もったいね。こいつの肉はうめぇーんだけどなぁ。
  オラにはもう、食う機会さねぇからなぁ」

などとのん気につぶやいて、熊の血で汚れた石斧を片手でひょいひょいと振り回していた。



99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:11:37.36 ID:Vd46qG3Z0

強い。こいつの強さはのっぴきならない。
鍛えていたというのは伊達じゃないようだ。

もし仮に神が本当にいたとしたら、ドクオなら冗談抜きに殺せてしまいそうだ。

('A`)「さーて、思わぬ邪魔が入ったけんど、そろそろ本題さうつるべ。
   ブーンさ、あすこだよ」

(;^ω^)「お?」

まじまじとドクオの動きを見つめていた僕に向け、
彼は平素となんら変わりない声をかけて、ある方向を指差す。

釣られて視線を動かした先には、
まばらな木々と丈の低い雑草の中に作られた人工の産物

――石塀が、忘れられたようにそこにあった。



103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:12:57.73 ID:Vd46qG3Z0

ドクオの背丈の二倍ほどのそれを、二人でひょいと登った。

不思議なことに、その先には鳥はおろか、虫の気配さえ感じられない。

なぜか、いやな予感がした。
全身に悪寒が走った。

そして目の前に現れた光景に、僕は本日数度目になる驚きの声を上げ、
強烈なめまいとともに目を見開くことになる。

(; ゚ω゚)「ふざけるなお……なんでこんなものがここにあるんだお!!」



106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:14:17.16 ID:Vd46qG3Z0

目の前に広がっていた光景。広大なケシの畑。

そして、その奥の奥。
満月に向け伸びるように立った、いや、めり込んだ、円柱状の物体。

先ほどの熊など可愛く見えてしまうほどに危険なそれは、頭頂部に四枚の羽を持っていた。

(; ゚ω゚)「嘘だお! こんなこと……絶対にありえないお!!」

しかし、嘘でも夢でもなかった。
見間違えるはずが無いほどに特徴的で、かつての姿をほぼ完璧に保っていたそれは、まさしく


――ミサイル。



110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:15:45.55 ID:Vd46qG3Z0

('A`;)「いつ来ても、ここはやーな感じしかしねぇべ。
   特に神の木はぁ、何度見ても震えがとまんね」

僕の傍ら、石塀の上に立ち、ドクオは言葉どおりに巨体を震わせながら、
広大なケシの畑と、その奥にそびえるミサイルを眺め、つぶやいていた。

しかし、僕は目の前の光景に唖然とするあまり、なんら言葉を返せない。

('A`;)「こんの神の草さ消すには守人の神の木さ倒さねばなんね。
   ブーンさ、どうすんべ?」

('A`;)「……ってあんれぇ!? ブーンさ!?」

ドクオの言葉を無視して石塀から飛び降ると、僕は神の木
――ミサイルへと駆け出していた。



112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:17:39.96 ID:Vd46qG3Z0

ケシの畑なんか眼中に入らない。そんなもの、今はどうでもいい。
それとは比べ物にならないほどおぞましい物体が、その先に存在しているのだ。

なぜだ? なぜこんなところに、こんな時代に、お前がいる?
はるか千年も前の旧世界の遺物たるお前が、どうしてこんなところで奉られている?

(; ゚ω゚)「ふざけるなお! お前は存在しないお!」

思ったよりも遠くにあったミサイル。
ケシの畑を掻き分けながら、ようやくたどり着いた。

ミサイルの高さは、目測でおよそ四メートル。
弾頭から先が土に埋まっているため、全長はその倍以上はあるかもしれない。

円錐状の弾頭を土の中にめり込ませ、
逆立ちしているかのように真っ直ぐと、夜空へ尾部を伸ばしている。

太い芯。高い丈。四枚の尾翼はさしずめ木々になる葉か。

なるほど。何も知らない人間から見れば、ミサイルは木と呼ぶにふさわしいものなのかもしれない。



115: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:19:47.49 ID:Vd46qG3Z0

(; ゚ω゚)「形式は!? まさか核ミサイルかお!?」

表面にまとわりついていた植物のつるを剥ぎ取り、くすんだ白い幹から手がかりを探す。

形式名は刻印されているか? 
いや、無くてもいい。種類が特定出来ればそれでいい。

僕は必死にミサイルの表面を調べつくす。その間にも疑問は次々と浮かんでくる。

なぜミサイルは爆発せずにここに立っている? 

通常の信管ではこんなことなどありえない。
もしや、地下施設破壊などに用いられる延期信管が内蔵されていたのか? 

それなら地面と接触した段階では、まだ爆発は起こらない。
その後、間を置いて爆発が起きる。

延期信管が地面接触後も何らかの誤作動で起動せず、
体を覆っている当時最新鋭の非腐食性素材の恩恵と相まって、
ミサイルが今もこうやって形を保っているとは考えられないだろうか?



116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:20:54.25 ID:Vd46qG3Z0

いやしかし、ミサイルには補助信管として時限信管が必ず付属されている。
その両方が起動しないなんてまずあり得ない。

いやいや待てよ。当時、核兵器がいたるところで使用されていた。
それにより発した電磁パルスが、時限信管内の回路を無力化したとは考えられないか?

いやいやいや、今となってはそんなことなどどうでもいい。
現にミサイルはここにあるのだ。今はミサイルの形式を調べることが最優先される。

そして、ミサイルが生きているのかどうかを調べなければならない。

それら如何で、これから取るべき行動が全く変わってくる。



118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:22:30.74 ID:Vd46qG3Z0

('A`;)「ブーンさ! いったいどうしただ!? 驚いた金玉みたいな顔して……」

(; ゚ω゚)「ドクオ! 木のつるを取っ払ってくれお!! 早く!!」

('A`;)「お、おお? わ、わかっただぁ!!」

遅れてきたドクオに支持を出して、表面のつるを排除させる。

そこに、あった。
製造された当初の色をつるの下から月明かりの下へと晒した表面の一部に、文字は確かに刻まれていた。


Папа всех бомб



120: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:24:05.40 ID:Vd46qG3Z0

なぜ、文字が刻印されていたのか。
開発した技術者の戯れか、それとも単に義務づけられていた形式表示か。

理由はわからない。わからないけれど、ありがたい。

(; ゚ω゚)「これは……ロシア語かお」

記憶の奥から、内藤ホライゾンの言語知識を引き出す。
すぐに解読は成功した。

読みはパーパ・フシェフ・ボーンプ。

意味は、すべての爆弾の父。



125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:26:24.94 ID:Vd46qG3Z0

すべての爆弾の父。

二十一世紀初頭、当時世界一の国土を誇っていたユーラシア北部の大国が作り出した、燃料気化爆弾。
TNT火薬相当で四十四トン。核兵器を除けば、その爆発の威力は世界一だと呼ばれていた兵器。

完全消失面積は半径三百メートル。気化爆弾だけに爆風はすさまじいが、
対装甲貫徹力は低いため、戦車や装甲車などで構成される敵装甲部隊には殆ど効果はない。

使われるとすれば、拠点爆破か、それに類する施設に対してくらいだろう。

(;^ω^)「……ま、まあ、核兵器じゃないだけマシかお」

それでも十分危険だが、最悪の想定だけは外れてくれて安心した。
これが核兵器だったとしたら本当に洒落にならないところだった。

あとは、このミサイルが今も生きているのかを確認するだけ。

一息ついて過去の遺物を見上げた僕に、ドクオが声をかけてくる。



129: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:27:44.84 ID:Vd46qG3Z0

('A`)「ブーンさ、そろそろいいべか?」

(;^ω^)「お? 何がだお?」

(#'A`)「決まってるだ! オラァ、こいつを切り倒すだ!!」

(; ゚ω゚)「ちょwwwwwwまてやお前wwwwwwwwwwww」

石斧を大きく振りかぶったドクオ。

無知とはなんと恐ろしいことか。
僕は慌てて彼に飛び掛り、体全体を使い彼を制した。

二人の体が、ケシの草をなぎ倒しながら地面を転がる。
僕はどうにかマウントを取り、ドクオの体を必死に押さえつける。



131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:29:41.74 ID:Vd46qG3Z0

(#'A`)「離せブーンさ! 村のためにあいつさ倒さねばならねぇんだぁ!!」

(; ゚ω゚)「待つお! そんなことしたら僕たちも死ぬお!!」

(#'A`)「んなこた百も承知だぁ! 
   オラァ神殺し決めたときから死ぬ覚悟なんていつでもできとる!!
   ブーンさは安全なとこから見守っててくれりゃいいださ!!」

(; ゚ω゚)「それが出来ないから止めているんだお!」

(#'A`)「ああ!? どういうことだぁ!?」

押さえつけたドクオが起き上がろうと必死にあがく。

その力は桁外れに強く、僕ではこれ以上押さえつけられそうにない。
かといって石斧でミサイルに衝撃を与えられたりでもしたら、すべてが終わる可能性もある。

選択の余地はない。僕は仕方なしに、僕の知りうるすべてをドクオにぶつけた。



132: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:31:42.68 ID:Vd46qG3Z0

(;^ω^)「あれは木なんかじゃないんだお! 
     あれはミサイルっていう、千年前の兵器なんだお!!」

('A`;)「み、みさえる? 平気? 千年前? おめさん……何、言っとるだぁ?」

(;^ω^)「信じてもらえないだろうけど本当なんだお!
      しかもあれはまだ生きているかもしれないんだお! 下手に衝撃を加えればケシの畑はもちろん、
      僕たちだって一瞬で燃やし尽くされてしまうかもしれないんだお!!」

('A`;)「……」

途端、抗うドクオの体からフッと力が抜けた。
彼の目には怒りではなく、理性の色が戻っている。

とりあえずは大丈夫だろう。彼の素直さに感謝した。

僕はドクオを押さえつける手を離し、ゆっくりと立ち上がった。
続けてドクオも土を払いながら立ち上がる。

その表情は、困惑しつつも興奮冷めやらないといった、複雑なもの。



136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:33:06.45 ID:Vd46qG3Z0

('A`;)「ブーンさ……
   おめ、やっぱただの旅人さんじゃねぇべな? 本当は何者だ?」

(;^ω^)「そ、それは……」

('A`)「教えてくんろ。オラたちは互いに命を懸けてここさいる。
   もう、オラたちに隠し事なんていらねぇっぺ?」

( ^ω^)「……わかったお」

傾き始めた満月の下。ドクオの視線が僕を射抜いた。
嘘偽りは絶対に許さないといわんばかりの、切実な瞳。

これ以上ごまかすことは不可能だ。
僕はこれまでの経緯を、掻い摘んでドクオへと語った。



140: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:34:42.24 ID:Vd46qG3Z0

千年前の世界が滅びたこと。僕が冷凍睡眠に入り、こうして今に生きていること。
僕がここを訪れることになった経緯。村に伝えられていた伝承の僕なりの推測。
そして、神の木の正体。

('A`;)「……オラァ、馬鹿だからよぉ。悪いがさっぱりわかんね」

僕の話を一通り聞いたあと、ドクオは当たり前の反応を示した。
しかし、これが僕の言える世界のすべて。理解してくれとは言わない。
だけど、信じてほしい。

('A`;)「人間が千年も眠れるなんてぇ、
   ましてそのあと起きれるなんてぇ、オラにはまったく理解できね」

(;^ω^)「……」

神の木として奉られた遺物の下。ドクオの言葉を受けて、僕はうつむく。
当然だ。僕がドクオの立場だったら、まったく信じられないだろう。信じられるわけがない。
だけど――

('A`)「……だども、神の木が昔の人が作ったみさいるとかいう危ねーもんだってことだけはわかっただ」



142: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:37:18.37 ID:Vd46qG3Z0

(;^ω^)「お?」

僕が願っていた言葉が、僕以外の口から発せられた。
驚いて顔を上げると、ドクオがいつものような愛嬌のある不細工な顔で、ニカッと笑ってくれていた。

('∀`)「正直ほとんどわかんなかったけんど、ブーンさの言うことだ。
   全部本当なんだべ? オラァ、信じるだよ」

(;^ω^)「お、おお! ありがとうだお!!」

信じてもらえて嬉しかった。今ならドクオにも抱きつける。
けれどそれ以上に、信じてもらえて助かったという安堵のほうが、僕には強かった。

熊さえ簡単に屠ってしまうドクオを、力ずくで止めることは、僕には出来ない。
持っていたのは、説得という言葉を介する心もとない手段だけ。
それで彼をとめられ、命拾いした。安心しないわけがない。

ホッと一息つく僕。

しかし、それもほんのつかの間のこと。



145: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:38:59.68 ID:Vd46qG3Z0

('A`)「……んで、ブーンさ。
   このみさいるとかいうのがばくはつすれば、神の実は消えるんだよな?」

(;^ω^)「お? そうだお。間違いなく燃え尽きるお」

('A`)「そっかぁ。あと、みさいるがばくはつしたら、村には被害さ出るべか?」

(;^ω^)「……いや、大丈夫だと思うお。
     気化爆弾は爆風は強いけど、ここから村までだいぶ離れてるし、
     山火事以外に直接的な被害は村には出さないはずだお。
     でも、どうして……」

――そんなことを聞く? 

そう尋ねようとした直後、ドクオは石斧を肩に担ぎ、ミサイルへと歩き出した。
そしてこちらを振り返り、

('∀`)「ありがとだブーンさ! あとはオラに任せて、ブーンさはまた旅に出るといいだ!」

そう、言い遺した。



146: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:40:17.89 ID:Vd46qG3Z0

(; ゚ω゚)「ドクオ……ちょっと待つお! お前……いったい何をするつもりなんだお!」

慌ててドクオの背中へと駆け寄り、彼の腕をつかむ。
一見すると細いが、掴んでみると太くて硬いその腕。

ドクオは立ち止まるが振り返らず、ただミサイルだけを見つめて、言った。

( A )「だからぁ、オラはこいつをばくはつさせるんだぁ」

(; ゚ω゚)「だから! そうすればドクオも死ぬんだお! 
    それ以前に、このミサイルが生きているとは限らないんだお!
    僕の話を聞いていたのかお!?」

( A )「死ぬ覚悟なんてとっくに出来てる。それに、これが生きていないだと?」

僕の手を振り解き、また歩き出したドクオ。
彼はミサイルの傍らに立ち、その表面を撫でながら言った。

( A )「……んなこたねぇべ。こいつは絶対に生きとる」

その声は確信に満ちていた。

そして慌ててドクオに駆け寄った僕もまた、自分の言葉とは裏腹に、彼と同じ意見を持っていた。



149: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:41:43.03 ID:Vd46qG3Z0

目の前のミサイル。
まがまがしいまでの殺気を感じさせるそれが、生きていないわけがない。

それはあくまで感覚による判断に過ぎない。
けれど、その感覚はなぜだか正しいとしか思えなかった。

ついでに言うと、だからこそ、今もこうやってミサイルは奉られているのだとも思えた。

まがまがしさと神々しさは表裏一体の存在。
何も知らない千年後の人々が、これを神として崇めるのになんら不思議はない。

ベクトルは違えど、そこから発生する畏怖には人を引き付ける何かが存在する。

そうでなければ、ミサイルは単なる風変わりな木として珍しがられるか、
もしくは放置される程度にその地位をとどめていたことだろう。

感覚が、というよりも生き物としての本能が、僕にそう告げていた。

そしてまた、目の前のドクオが考えているであろうことも、本能が僕に教えてくれていた。



150: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:42:23.87 ID:Vd46qG3Z0

(; ゚ω゚)「ドクオ……お前、まさか……」

( A )「……ああ」

呟いたドクオは僕へと振り返り、僕の手を振り解いて僕の体をトンと押した。
よろけて僕は、後ろへと後ずさる。

そしてドクオは、鋭角型のアゴ先を石塀の方へ向け、僕に立ち去るよう促しながら、言う。

('∀`)「オラァ、神の実ともこいつとも一緒に死んでやるだよ」

その顔は、笑っていた。



152: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:43:46.43 ID:Vd46qG3Z0

('∀`)「じゃあな、ブーンさ。本当に世話になっただ。今まで色々ありがとな」

その笑顔を、『僕』は見たことがあった。

『僕』? 違う。内藤ホライゾンだ。

最期の最期、正気を取り戻して笑いかけたクー。
そのときの彼女の笑顔は、姿かたちは違えど、雰囲気だけは目の前のそれと瓜二つ。
間違いなく、ドクオは死ぬ気だ。

目の前で人が死ぬ。そんなの、二度と見たくない。



155: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:45:22.04 ID:Vd46qG3Z0

……あれ? 二度と見たくない? 
ちょっと待て? 誰がそう思っている? 

『僕』がか? 
それはおかしい。『僕』はそんなことを考えはしない。

だって『僕』は、クーが目の前で死ぬのを体験していない。
あれは内藤ホライゾンの体験だ。『僕』の中には、彼の体験の記憶があるだけ。
彼の記憶があるだけで、その当時存在していなかった『僕』の感情が、そこに介在するはずはないのだ。

では、そう思っているのは誰だ? 内藤ホライゾンか? 

違う。彼の意識は死んだ。
墓地のような冷凍睡眠施設の中で己のこめかみに向けて引き金を引き、
その瞬間に、内藤ホライゾンの意識は死んだはずだ。
その代わりとして、今、『僕』の意識が内藤ホライゾンの体の中にある。

では、今、『僕』の中で思考している主体は何だ? 

意識が揺れる。考えがまとまらない。けれど、口はいつの間にか言葉を形作る。



157: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:47:04.97 ID:Vd46qG3Z0

(; ゚ω゚)「なんでだお! なんでお前が死ななきゃならないんだお!」

('A`;)「なんで? なんでっておめぇ、そりゃ……オラの村さ救うためだよ」

(; ゚ω゚)「それが理解できないんだお! お前は村を追い出されたんだお!
     それなのに、なんでお前は村のために命なんか賭けられるんだお!?」

('A`;)「ブ、ブーンさ? おめ、どうした……」

(; ゚ω゚)「僕は死にたくなかったお! 
     自分で世界の滅ぶ原因を作っておいて、それでも僕は死にたくなかったお!
     そりゃ冷凍睡眠には無理やり入らされて、
     その時僕には選択する自由はなかったけど、生きたいと思ったことには違いないんだお! 
     僕にはお前の考えが理解できないお!
     お前を否定した奴らのために、どうしてお前は命を賭けられるんだお!」

口が勝手に動き、声が勝手に飛び出していく。
違う。『僕』はそんなことを思ってはいない。

ならば、誰だ? 

今この体を使っている お ま え は誰だ?



160: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:48:23.80 ID:Vd46qG3Z0

('A`;)「……ブーンさ、あんた……どうしただ?」

(; ゚ω゚)「そんなことどうでもいいお! 
     ドクオ! 僕の質問に答えるんだお!」

『僕』の意思に反して動く口、体。どんなに抗おうとそれは止まらない。

自分が自分であって自分でないという、
これまで体感したことのない感覚に僕は包まれていた。
目に映るすべてが、現実のものとは思えなくなっていた。

例えるなら、主人公目線の映画を見ているような感じ。

スクリーンの中で刻々と映像は切り替わっていくのだが、
観客である『僕』の意思など関係なく主人公はしゃべり、行動し、ストーリーは進んでいく。



161: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:49:38.45 ID:Vd46qG3Z0

('A`)「……簡単だべ。
   オラの村はオラが生まれた場所だ。ずっとずっと生きてきた場所だ。
   村を、そこさ住む人たちを、どんなことさあっても、オラは嫌いにはなれね」

(; ゚ω゚)「それは本当かお!? 嘘じゃないのかお!?」

('A`)「……嘘じゃねぇよぉ?」

誰だ? 『僕』の代わりにこの体を支配しているおまえは、いったい誰だ?

――いや、わかっている。
おまえの正体なんて、はじめからわかっている。だから質問を変えよう。

なぜだ? なぜおまえは今、ここにいる? 

狂いそうな孤独に襲われて生きることをあきらめたおまえが、
その代わりに『僕』という意識を作り出したおまえが、なぜいまさらになってここに現れた?



164: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:51:28.09 ID:Vd46qG3Z0

('∀`)「それに、オラは村のみんなから完全に嫌われたわけじゃねぇさ。
   ギコやしぃがオラのこと好いてくれてる。だから、オラは村さ守りたいんだぁ」

限りなく『僕』のものに近い目線の映像の中、
ドクオがこちらを見つめてしゃべっている。こちらを見つめて笑っている。

そして、映像はにじむ。

('∀`)「そんでさ、オラ思うんだぁ! 
   オラたちは、いつまでも神さ頼ってはいけねぇんじゃねぇかって!
   いつまでも神さんにおんぶにだっこじゃいけねぇべよぉ! 
   オラたちは、いい加減自分の足で歩かなきゃダメだって!
   だからオラは神さ殺す! 殺して、次の世代に託すんだ! 神に頼らない世界をよぉ!
   ギコやしぃ、村の子供たちなら神さいなくても歩いてける! 
   だってあいつらは強いんだべ! オラの育った村の子どもなんだからよぉ!」



166: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:52:04.24 ID:Vd46qG3Z0

力強い笑顔。力強い言葉。

屹立するミサイルと風にそよぐケシたちをバックに、ドクオの巨体は夜の中に立っていて、
その姿はどんなものよりも大きく見えた。

それを見て、『僕』はすべてを理解した。

そう、ドクオは歩いているのだ。

世界が滅ぶ前の人類が歩いてきたかつての道のりの上を、ドクオもまた、歩いているのだ。



169: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:53:40.22 ID:Vd46qG3Z0

たとえば、かつての世界のキリスト教の歴史。

アウグスティヌスにより神学の基礎が築かれて以来、神学に支えられた彼らの歴史は、
人間の生まれ持つ原罪とそれに対する神の恩恵を前提とした、神の絶対性の下に進んできた。

それはスコラ主義、ヒューマニズム、宗教改革など、
一連の思想体系の中で人間の文化的レベルを徐々に押し上げてはいったが、
いずれの思想的動きの中でも神の絶対性だけは崩されず、千と幾年の歴史は刻まれていく。

そして、十八世紀。
前世紀の、千年王国論に代表される終末論に疲れ果てた人々は、一転して理性の時代を迎える。

合理主義者デカルト、経験主義者ロック。人間の理性の行使を重視した彼ら啓蒙思想家たちは、
キリスト教の神秘を打破し、神の概念を合理的に説明しようと奮闘した。

彼らが育てた理性の種は十九世紀に実を結び、ロマン主義へとつながり、ついにマルクス主義を生み出す。



171: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:55:24.25 ID:Vd46qG3Z0

「宗教は民衆のアヘンである」 

宗教とは、つらい現世を生きる満たされない人々の拠り所に過ぎないのであり、
彼らが幸福になれば、宗教は必要なくなる。

歴史は神概念を消す方向へと動き出し、多くの無神論者を生み、神の絶対性は確実に崩壊していった。

それからわずか二百年足らずで、人類の文明は驚異的な発展へと及んだ。
終盤には、十年一区切りとまでいわれたその発展スピード。

幸か不幸かはさておいても、神の概念から脱却出来たからこそ、人類の文明は発展の一途をたどったと言えるだろう。

神という概念から脱却し、人の理性を信じ、人の持つ力だけで未来へと向かう。
それは紛れも無くかつての人類が歩いてきた道。

その上を千年後の今、目の前の男が歩いているのだ。

『僕』は一度滅んだ世界の上で、
荒廃した大地に足を踏みしめて立ち上がった人間のたくましさを、ドクオの中に見た。

そして、おまえも見たんだろう? なあ? 内藤ホライゾン?



174: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:57:03.73 ID:Vd46qG3Z0

だってその証拠に、おまえの体は震えているじゃないか。おまえの視界はにじんでいるじゃないか。
前触れも無く現れてこの体を動かしているおまえは、ドクオの言葉を聞いて泣いているじゃないか。

おまえがいまさらになって現れたわけに、今、気づいた。
暗い森の中で傷つきながらも、それでも僕を突き動か続けた原動力に、今、気がついた。

それはきっと、今なら見えると思ったからだ。聞けると思ったからだ。

おまえが原因を作り出して滅んだ世界の上に立ち、また歩き出そうとする人間の姿を。
そして、受け取りの言葉を。

('∀`)「そんで、それを決心させてくれたのはおめさんだ、ブーンさ!
   『有りもしない神と神の実とやらに頼っているうちは、あんたたちに未来は無い』 
   洞窟でのおめさんの一言で、オラは決心したんだべ! 
   ありがとな! あんたの言葉、確かに受け取っただ!」



175: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:58:57.50 ID:Vd46qG3Z0

( ;ω;)「あう……あう……」

内藤ホライゾン。あんたは千年前の人々からの贈り物。
それは、技術を伝えるとかそういうことだけではなく、単純に人類の再興を託された贈り物だ。

そして今、ドクオは神という障壁を崩し、その先に道を開こうとしている。
人類再興の一歩を踏み出そうとしている。

彼の背中を押したのは僕、ひいてはあんただ。
内藤ホライゾンという贈り物は、今、確かにドクオに受け取られたんだよ。

もしかしたら、ドクオが開こうとしている道の先には千年前と同じような愚かさが待っているのかもしれない。

だけど、そうじゃないのかもしれない。
千年前とは別の未来が待っているかもしれない。その可能性は十分にあるんだ。

だから、もういいんだ。あんたは役目を終えたんだよ。



177: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 02:59:54.90 ID:Vd46qG3Z0

初めて本気で好きになった女と別れ、半ば強制的に冷凍睡眠に入らされ、
思ってもみない未来に起こされ、その中で心を許した女に自分を否定された。
その女にも死なれ、孤独を押し付けられ、そして自らも死のうとして死ねなかった。

狂いそうな孤独に耐えられず、代わりに『僕』という意識を作り出したあんたは、
それでも律儀に、『僕』の意識に贈り物という意義付けをした。

そうまでしてあんたは『内藤ホライゾン』という贈り物を届けようとした。
そして、あんたはドクオに受け取られたんだ。

だからもう、安らかに眠れ。あとのことは、すべて『僕』が引き受けよう。

( ;ω;)「ありがとう……ありがとう……」

それは誰に対するつぶやきなのだろう? 
目の前のドクオか? それとも『僕』に対してか? 

答えはわからない。
なぜなら、『内藤ホライゾン』という意識はそれを期に、当分の間姿を消してしまったから。



183: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 03:01:36.40 ID:Vd46qG3Z0

『僕』は再び肉体の主導権を得た。
視界は映画のスクリーンではなく、いつものそれに戻っている。

『僕』は内藤ホライゾンの流した涙をぬぐい、不思議そうな顔でこちらを眺めるドクオへと話しかけた。

( ^ω^)「ドクオ、君の考えはよくわかったお。僕はもう、止めはしないお」

('A`;)「お? おお、そうかぁ? いまいちよくわからんが……まあ、わかっただぁ」

目をぱちくりとしばたかせたあと、ドクオは石斧の素振りをしながら言った。

('A`)「んじゃ、やるべ。神の木……みさいるさばくはつさせて、神の実を燃やすだ」

( ^ω^)「お。出来るだけ地面に近い方を叩くといいお。
     地面を掘って埋もれていた部分を叩けばもっといいお」

('A`)「わかっただ。そんじゃ、今までありがとな、ブーンさ」

( ^ω^)「何言ってるんだお。僕も付き合うお」



185: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 03:03:19.60 ID:Vd46qG3Z0

('A`;)「ああ!?」

素っ頓狂な声を上げて僕の顔を見たドクオ。矢継ぎ早に彼は続ける。

('A`;)「何言ってるだ! おめさんにそこまでしてもらうわけにはいかねぇべ! 
    それにおめさんは、また旅にでるんだろ!?」

( ^ω^)「その必要は無くなったんだお。僕にはもう、旅をする理由が無いんだお」

僕は贈り物として意義付けられ、孤独に耐えられなかった内藤ホライゾンの代わりに、ここまで歩いてきた。

つまり別個の意識ではあるが、僕と内藤ホライゾンの存在意義は同じだった。
そして内藤ホライゾンがそれをまっとうした以上、僕に存在する理由はもはやない。

残された仕事は、死ぬことだけ。そのはずだった。



187: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 03:04:46.94 ID:Vd46qG3Z0

( ^ω^)「……なんでだお?」

('A`;)「伝言を頼みてぇんだよ。ギコとしぃに。
   『神なんてもういねぇけど、おめたちは強く生きれ』ってよぉ。
    本当にすまんこったけど、頼まれてはくれんべかぁ?」

けれど、ドクオのすがるような声、
頼りがいのある体躯からは想像も出来ないような情けない声が夜に響いて、僕は死ねなくなってしまった。
彼に新たな仕事を託されたからだ。

まいったなぁ。ほかならぬ受け取り主のドクオからの伝言じゃ、伝えないわけにはいかないじゃないか。

( ^ω^)「……おっおっお。わかったお。ちゃんと伝えるお」

('∀`)「そっかぁ! すまんなぁ、色々頼んじまってよぉ!!」

( ^ω^)「いいんだお。気にしないでくれお」


――死ぬのは、そのあとでも出来るから。



190: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 03:06:11.23 ID:Vd46qG3Z0

最期に僕は手を差し出して、ドクオと硬い握手を交わした。
ギュッと強く、長く、彼の想いをかみ締めるように、大きな手のひらを握り締めた。

傾いた満月が僕たちを照らして。
冷たい風が、僕たちの間をひとつ通り抜けて。

そして、僕は手を離す。

ドクオに背を向け、もと来た道を戻っていく。
夜風にさらされた手のひらから、彼のぬくもりが消えていく。

石塀を登り、その上に立った。ドクオの声が聞こえた。

('∀`)「ブーンさ、ありがとう! 本当にありがとう!」

僕は振り返らなかった。代わりに片手を挙げてそれに答えた。

そして、石塀の上から飛び降りた。
ドクオの姿を見ることは、もう二度となかった。



192: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/12/19(水) 03:07:09.47 ID:Vd46qG3Z0

村へ向け、ゆっくりと歩き出す。
背後からガンガンと鉄を打つ音が聞こえた。ドクオが神の木を切り倒しているのだろう。

それはいつまでも続いた。木々がまばらなふもとを抜け、
ドクオが倒した熊の死骸の脇を通り、薄暗い森に入っても、音は夜の山に響き続けた。

やがて僕が山の中腹に差し掛かった頃、規則的に響いていたそれは、突如無くなる。

一瞬の静寂。そして、夜中の夜明け。

強烈な光が背後から差した。
続けて轟音、地鳴りと爆風。太い木の幹にしがみついて、なんとかそれに耐えた。

しばらくして光が消え、揺れと風が収まった頃、僕は何事も無かったようにまた歩き出した。

いつの間にか、空からは雨が降り出していた。



戻る第四部 ― 9 ―