( ^ω^)ブーンは歩くようです
- 1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 01:50:26.90 ID:+KGR+USB0
― 7 ―
地面にうつぶせに倒れたショボンさん。手をつくことすら無く頭から倒れこんだ彼。
その口元からおびただしい量の血が吐かれているのを見て、僕は事態が急を要することを理解した。
ただちに彼を台車に寝かせ、ビロードとちんぽっぽとともに村を探した。
廃駅のそばだったことが幸いし、すぐさま村は見つかった。駆け込んで医者を所望する。
現れた村長に事態を説明すれば、彼は手早く医者と名乗る人物を呼んでくれた。
といっても、現れたのは単なる村のご意見番。
ただ長く生きているだけの、よぼよぼの腰の曲がった老人。
千年後の、それもへんぴな片田舎にあるこの村には、
医療施設はおろか、医学知識を持つ者さえ存在しなかったのだ。
- 3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 01:54:45.80 ID:+KGR+USB0
老人はショボンさんを一目見て、流行り病に冒されていると診断を下した。
その症状を詳しく聞いた僕は、それが結核のものとよく似ていることに気が付く。
(; ゚ω゚)「ストレプトマイシンはないのかお!?」
めまいを覚えながらあるはずのない薬品の名を叫び、すぐさま僕は頭を抱えた。
知識はある。方法も知っている。
しかし、結核に対する特効薬とも呼ぶべきストレプトマイシンを放射菌から分離させる設備はおろか、
それを投与する注射器さえこの村には存在しない。
( ω )「……何が天才だお。ただの頭でっかちで、結局僕には何も出来ないじゃないかお……」
ただ知識があるだけ。それだけの僕に、価値など欠片もなかった。
床に横たわったショボンさんの頬をなめ続けるちんぽっぽの方が、僕よりよっぽど役にたっていた。
(;*'ω' *)「ぽっぽ……」
(;´‐ω‐`)「うう……くっ……」
くらむ視界の中に、うなされ続けるショボンさんの顔が映る。
( ω )「クソ……クソッ……!」
けれど、僕に出来ることと言えば、
己の無力さに歯噛みしながら、古びた木製の床に向け、ガンと拳を打ち付けることだけだった
- 6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 01:57:26.18 ID:+KGR+USB0
それから三日三晩眠り続けたショボンさんは、四日目の朝、ゆっくりと目を覚ました。
すっかり痩せてこけ、頬の肉がそげ落ちてしまっていた彼は、力ない笑いを浮かべて僕たちに声をかける。
(ヽ´・ω・`)「悪いね……心配をかけてしまって……」
(; ^ω^)「気にしないでくださいお。
ひと冬はここに留まらせてもらえますから、ゆっくり休んでくださいお」
(ヽ´・ω・`)「それは良かった……春までには……必ず治す……」
かすれた声でそう呟いて、そばについて離れようとしないちんぽっぽの頭を撫でたショボンさん。
けれど、彼に完治の見込みがないことくらい、僕には嫌というほどわかっていた。
これまでの歴史の中で、どれほど多くの人間が結核を前に倒れたことか。
何も知らない方が、まだ希望が持てるだけ幸せだった。
知識があるとはかくも残酷なものかと、冬の間、宛てのない恨み事ばかりを僕は思い続けていた。
- 7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 01:59:48.22 ID:+KGR+USB0
滞在期間中、絵を描くことすらなく静養を続けたショボンさん。
そのおかげか、多少なりとも病状は改善に向かったが、
一歩間違えれば死に直結することくらい、誰の目にも明らかだった。
すっかり食も細くなった。かつての面影を見失うほどに痩せこけてしまった。
髭も髪の毛も急速に白みはじめ、発する言葉には後ろ向きなものが多くなった。
(ヽ´・ω・`)「ブーン君。もし僕が道半ばで倒れてしまったら、
僕の死体をもすかうの大地に埋めてくれないか?」
(;^ω^)「馬鹿なこと言わないでくださいお! ショボンさんらしくもない……」
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 02:02:45.65 ID:+KGR+USB0
(ヽ´・ω・`)「ははは……そうだね。らしくないよね」
乾いた笑いをあげて、ちんぽっぽの頭を撫でるショボンさん。
彼は自分に言い聞かせるように、誰にともなく声を発した。
(ヽ´・ω・`)「ここまで来た。残りの人生のすべてを賭けて……ここまで来たんだ。
こんなところで負けるわけにはいかない。こんなところで……死ぬわけにはいかない」
( ^ω^)「……そうですお。死んじゃダメですお」
(ヽ´・ω・`)「……うん」
しかし返答に力はなく、対照的に彼が放った「死ぬ」という二文字だけが、なぜか妙な現実味を帯びていた。
それからまたちんぽっぽの頭を撫でたショボンさんの風貌は、老人のそれと言って間違いはなかった。
- 12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 02:05:11.79 ID:+KGR+USB0
考えてみれば、ショボンさんが老け込んでしまったのも無理はない。
医療技術は原始的。厳しい土地柄を考慮に入れれば、
シベリアの住人の平均寿命は五十を切ると見て外れすぎということはないだろう。
さらに、出会った当時ですでに、彼の齢は四十代前後。
その時でさえ彼は、この世界においては壮年と形容して差し支えない年齢に達していたのである。
それから二年半も厳しい旅をつづけ、そして病に倒れた。
うっ積した疲れが表れ、急速に老け込んでしまうのは当然のことだ。
むしろこれまでが若々しすぎたと言える。おまけに、予想される病名は結核。
( ^ω^)「ショボンさんは……もう長くはないお」
彼の病床から外に出て、連なるウラルの山々を眺めた。
真冬の雪で純白に染まったそれが、美しいとではなく、
まるで誰かの死に化粧のように、僕には感じられてしまった。
( ^ω^)「その前に……辿りつけるのかお?」
はじめは簡単に超えられると思っていたウラルが、とてつもなく高い壁に感じられていた。
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 02:08:55.93 ID:+KGR+USB0
やがて、春が訪れる。
起こった出来事とは裏腹に、これまでで一番温かい春だった。
この頃、立ち上がれるくらいには回復していたショボンさんは、
荷物をまとめ、直ちに出立しようと言い始める。
(;^ω^)「もう少し回復するのを待ったほうがいいんじゃ……」
(ヽ´・ω・`)「これ以上回復の見込みがないくらい、僕だってわかっているさ。
妻も娘も、同じような病に冒されていたからね」
ショボンさん自身、死期が近いことをその身でひしひしと感じているようだった。
だからこそ、一刻も早く旅立ちたい。命を削ってでも、彼は進むつもりだ。
- 17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 02:11:20.32 ID:+KGR+USB0
(ヽ´・ω・`)「だからその前に……
いや、まだ体が動く間は、僕はもすかうを目指し続けなければならない。
これまで僕たちを留めてくれた村人たちのためにも。
ずっと旅に付き合ってくれた君やちんぽっぽたちのためにも」
痩せこけたショボンさんの顔。
病的なまでにくぼんだ眼骨は、いつか見た麻薬中毒者たちのものとそっくりだった。
けれど、瞳の中にある光は、確かな意思をたたえていた。
そんな切実な想いの彼を前に、僕はこう返すことしか出来なかった。
( ^ω^)「夏が来る前に何としても辿りつきましょう。
目いっぱい飛ばせば、辿りつける距離のはずですお」
放った言葉に、嘘偽りはなかった。
- 21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 02:13:51.31 ID:+KGR+USB0
事実、僕たちと同じようにかつてロシアを横断した東洋人大黒屋光太夫は、
単純な移動時間だけで言えばわずか十ヶ月で、
カムチャッカ半島からモスクワのさらに西、サンクトペテルブルクまでたどり着いてみせたのだ。
もっとも、彼は僕たちとは違い、多くの仲間や現地の案内人、そして立ち寄る町を持っていた。
食糧を自給自足する必要がなかったことも考えると、
僕たちの旅と彼の旅を単純に比較することはできない。
しかし、出来るのだ。
ここから目いっぱい台車を転がせば、うまくいけば一か月もかからず
モスクワへたどり着けると証明してみせた男が、歴史のかなたに存在しているのだ。
だから、その先にある懸念事項から目をそらしさえすれば、僕たちはモスクワに辿りつける。
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 02:15:32.60 ID:+KGR+USB0
(ヽ´・ω・`)「ははは……なんだかもすかうの位置を知っているような口ぶりだね……」
するとショボンさんは、僕の言葉を聞いて、こんなことを力なく呟いた。
僕は慌てて否定する。
僕の頭の中にある懸念を、彼に悟られるわけにはいかない。
(;^ω^)「そ、そんなことはないですお! 何となくそんな予感がするんですお!」
(ヽ´・ω・`)「ふふふ……そうかい……」
荷物を積み込む手を休めないまま、ショボンさんは横目でちらりと僕の顔を捉えた。
何もかもを見透かしているかのようなその視線から逃れるように、僕はあわてて荷物で顔を隠した。
- 23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 02:17:36.85 ID:+KGR+USB0
次の春先。早々に村を出立した僕たち。
自殺行為だと言って反対してくれた村長や医者と名乗る老人に丁重な礼を述べ、
台車に積み込める限りの食糧や薬草の類を分けてもらった。
そして絹のような感触で肌をなでる初春の風の中、僕たちはウラル山脈越えへと挑んだ。
広大なユーラシア北部を、かつてヨーロッパとアジアとに隔てていた天嶮。
ウラルは単に土地を分かつだけでなく、そこに住む人々の生活や文化をも分断していた。
ただの山脈にはないそんな歴史的な重みが、そして僕たち一行の置かれた緊迫した状況が、
ウラルを物理的、そして精神的な壁として、僕たちの前に高くそびえ立たせていた。
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 02:21:10.73 ID:+KGR+USB0
(# *'ω' *)「ちんぽっぽちんぽっぽ――!」
(#><)「わかんないですわかんないです――!」
台車を引っ張るビロードとちんぽっぽ、
そして子犬と呼ぶには申し訳ないほどにたくましく成長した彼らの子ども三匹は、
主人に旅の目的を遂げさせるべく、力の限り線路の上を駆け抜けてくれた。
彼らの頑張りのおかげで、ほどなくして僕たちはウラル山脈を越える。
それ以後もビロードたちは、足を止めることなく神話の道を駆け抜け続けた。
しかし、それが災いした。行程を急ぎ過ぎたのだ。
(ヽ´・ω・`)「ははは……これはなかなか厳しいね」
速度を上げるということは、吹きすさぶ風をさらに強くし、より激しい震動を伴わせるということに他ならない。
老け込み、病を患っていたショボンさんにとって、これらは致命的なダメージとして蓄積され続けていった。
だからこそ僕には、これまでため続けていたツケを払うべき時が、思った以上に早く訪れてしまったのだ。
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 02:22:55.35 ID:+KGR+USB0
(;^ω^)「……しばらく休みますかお?」
(ヽ´・ω・`)「いや……止めておく。
僕のことは……気にしないでくれ。遅かれ早かれ……僕は死ぬんだ。
ならば僕は、もすかうの上で死にたい……」
台車の上に横たわり、力なく呟くショボンさん。
彼の意思を尊重したかったが、一刻も早く休ませなければ
もすかうを見る前に彼が死ぬことくらい、僕にだって容易に想像できた。
彼の死期を延ばすのなら、村を見つけて、温かな部屋の中で静養させなければならなかった。
- 31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 02:25:36.80 ID:+KGR+USB0
しかし、村は一向に見つからなかった。
村はおろか、かつての地図から鑑みて線路上にあるべき廃駅ですら、
この近辺にはまばらに、いや、ほとんどといって存在しなかったのである。
その上、神の国への唯一の道標であるシベリア鉄道の線路さえも、
西に向かえば向かうほど、途切れ途切れになっていった。
その傾向はもすかう、いや、モスクワに近づけば近づくほど顕著になった。
おまけにウラル山脈を越えて以降、大地に芽吹く植物の数は少なくなり、
さらに、血のような赤が土の色として明らかに目立ち始めるようになっていた。
僕はこの土の色を知っている。
そしてそれが意味することを、否が応にも理解している。
- 35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 02:27:20.78 ID:+KGR+USB0
(;^ω^)「この土地は、グレートプレーンズにそっくりなんだお……」
そう。僕が初めて歩いた千年後の大地。
核爆発の被害を存分に受けたであろうグレートプレーンズのなれの果てに、
ウラル以西の大地は眼をそむけたくなるほどに酷似していたのだ。
地面が赤く、植物は少なく、村が一向に見つからない。
あるはずの廃駅がまばらにしかなく、線路が途切れ途切れとなっているのも、
かつてこの近辺で頻繁に核爆発が起こっていたと仮定すれば、
何もかもが一貫した整合性を伴うことになる。
同時に、旅のはじめから抱いていた懸念事項が、僕の中でますます現実味を帯びていく。
決してショボンさんに伝えてはいけない推論が、確固たる真実味を持って僕の脳裏を駆け抜けていく。
- 37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 02:29:07.44 ID:+KGR+USB0
(;^ω^)「これで本当に……良かったのかお?」
僕は、進む台車の上で大いに迷った。
このままショボンさんを連れていくか、それとも道半ばで死なせるべきか。
どちらが彼にとって、より幸せなことなのか、と。
なぜなら、僕の予想が正しければ、神の国もすかう
――かつての大都市モスクワは、もはやこの世界には存在していないのだ。
- 39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 02:32:02.58 ID:+KGR+USB0
ショボンさんに対し、これまで僕がかたくなに素性を明かそうとしなかったわけ。
立ち寄った村において、ショボンさんから隠れるように千年前の技術を伝えていたわけ。
それらはすべて、僕の頭の片隅に、
限りなく真実に近い上記の推論が消えることなく存在していたことに由来する。
神話の道をたどるショボンさんにとって、僕はパンドラの箱とも呼ぶべき存在だった。
僕はこの世界で語られる神話の中を生きて、今に至っている。つまり僕は、過去を知っているのだ。
いや、正確な過去を僕は知らない。けれど限りなく正解に近いであろう推論を僕は有している。
そして、神話における過去とは、神話の先を目指す者にとっては未来と同じ意味合いを持ってしまう。
つまり、僕というパンドラの箱には、ショボンさんにとっての未来が詰まっていたのだ。
- 43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 02:34:16.02 ID:+KGR+USB0
パンドラの箱を開けてしまったものには、もはや絶望しか残されていない。
だから僕は、決して僕自身を開いてはいけなかったし、
ショボンさんにそう思わせるような言動もできる限り慎まなければならなかった。
実際、僕はいくつかそれらしき言動を漏らしてしまってはいたのだが、
幸いにもショボンさんは気付いていなかったので、特別な問題は起きていなかった。
だからこそ僕たちの旅はうまくいっていたし、むしろ順調すぎたりもした。
それに甘えて決断を先延ばしにしていたツケを、
そしてショボンさんとの旅を楽しいと思ってしまっていたツケを、
僕は今、まとめて支払わなければならない時期に立たされている。
そのツケとは、神の国が存在していないのを知っておきながら、ショボンさんに旅を続けさせたこと。
彼の幸せを願うなら、僕は旅の途中で神の国の存在を認めつつ、
つまりパンドラの箱から未来が飛び出さないよう注意しながら、彼に旅を諦めさせなければならなかったのだ。
- 45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 02:36:50.69 ID:+KGR+USB0
もしかしたら、そんな方法など初めからなかったのかもしれない。
しかし、僕がもっと早くにちゃんとそれと向き合っていれば、なんらかの方法を見つけられたのかもしれない
そして、もう遅すぎた。もはや何をしようと、ショボンさんの未来には絶望しか残されていない。
このままモスクワへ向かわなければ、彼は目的を果たせず、悔いを残したまま結核に倒れることとなるだろう。
かといってモスクワへ向かえば、彼は存在しない神の国を前にして、絶望のうちに死んでしまうことだろう。
道は二つに一つ。
どちらを選ぶかなんて、僕に決められるはずはなかった。
ツンドラの道の先に夢を見て歩き続けてきた男の未来を、僕程度のものが決めることなどできるはずがなかった。
だから、ひきょう者の僕は、その決断をほかならぬショボンさんに委ねることにした。
- 48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 02:39:14.63 ID:+KGR+USB0
( ^ω^)「開けますか? 開けませんか?」
(ヽ´・ω・`)「ははは……何だい? 急に……」
吹く風の温もりが肌に心地よい晩春の夜。
ウラルをだいぶ西へ進んだ平野部の中。
奇跡的に形をとどめていたとある廃駅の上にたき火を起こした僕は、
毛布にくるまり横たわるショボンさんに向け、これから進むべき道を問うた。
( ^ω^)「あなたの目の前に未来の詰まった箱がありますお。
ショボンさん、あなたはその箱を開けますか? 開けませんか?」
(ヽ´・ω・`)「……何だい、それは? ……なぞなぞか、何かかい?」
( ^ω^)「いいから答えてくださいお。開けますか? 開けませんか?」
横たわったまま、たき火をはさんで僕を見たショボンさん。
ゆらめく炎の先。彼の瞳、彼の声には、
もうとっくに失われたと思っていたかつての力強さが宿っていた。
- 51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 02:42:08.44 ID:+KGR+USB0
(ヽ´・ω・`)「決まっている。開けないよ。
未来とは自ら掴んでこそ、初めてその意味を持つからだ」
( ^ω^)「……たとえその未来に絶望しかなったとしても、ですかお?」
(ヽ´・ω・`)「無論だ。与えられた絶望より、つかみ取った絶望の方を僕は選ぶ」
そろそろと、床の上から上半身を起こしたショボンさん。
バイカル湖と同じ形をした月が、静かに語る彼を照らしていた。
(ヽ´・ω・`)「それが、何かを目指す権利を振りかざしたもの義務だ。
それを放棄することなんかできやしない。僕は僕のわがままで、
君やちんぽっぽ、ビロード君、子犬たち、神話の道沿いの村人たちに迷惑をかけてきた。
だからもう、僕は逃げられないんだ。散々好き勝手に権利を行使してきたんだから。
もっとも、そんな義務がなくても、僕はもすかうを目指すがね。より良い終わりを得るために」
- 58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 02:44:54.85 ID:+KGR+USB0
( ^ω^)「……」
権利と義務、か。
そんなものが、この僕にもあるのだろうか?
内藤ホライゾンにもあったのだろうか?
彼の記憶を思い返して見る。確かに、彼は冷凍睡眠に入ることを一度は望んだ。
しかし、はじめて惚れた女との別れを前にして、彼の意思は揺らいだ。選択は白紙に戻った。
けれど、それにもかかわらず無理やり冷凍睡眠に入らされた彼は、
二千年後の世界を復興させるという義務だけを押し付けられる。
そして、目覚めたのは千年後。
彼に道を選び取る権利はなかった。
周りの状況に翻弄され、ただ義務だけを押し付けられた。
そしてその末路は、言わずもがな。なんと哀れな男だろう。
- 60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 02:48:11.02 ID:+KGR+USB0
( ^ω^)(……じゃあ、僕は?)
では僕には、ショボンさんのように何かを目指す、
進む道を選ぶ権利は与えられていたのだろうか?
いつの間にか生み出されていて、
なぜだか贈り物としての意義を果たさねばと思い、歩いてきた。
たぶんそこに別のものを目指す権利なんて
与えられていなかったのだろうけど、これまで疑問には思わなかった。
ただなんとなく千年前の英知伝えねばと思い、
そしてドクオが、ギコが、それを受け継いでくれた。
権利の伴わない義務はもはや果たされており、
それ以後の僕は死ぬことだけを考え続ける。歩く意味だけを求め続ける。
- 62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 02:50:39.19 ID:+KGR+USB0
( ^ω^)(その意味は……歩き続けることでしか見つけられない)
もう一度月を見上げる。三日月。
バイカル湖で聞いたショボンさんの言葉を思い返す。
ああ、そうだ。その時、初めて僕は選んだんだ。
歩き続けるということを。それまでは死なないということを。
考えてみれば、道を選ぶ権利はいつでもどこでも転がっているんだ。
そこに付随する義務から目をそらさなければ、
僕たちはいつだってそれを行使することができるのだ。
( ^ω^)(それが選び取る権利。つまり……)
――自由だ。
- 63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 02:52:30.89 ID:+KGR+USB0
そして今も、僕の眼の前に自由は与えられている。
ショボンさんを連れて行くか、行かざるべきか。
その義務を果たすつもりがあるのなら、恐れることはない、自分の好きな道を選べばよいのだ。
さあ、僕はどっちを選びたい?
決まっている。ショボンさんは言ってくれた。
絶望しかなくてもつかみ取る。絶望しかなくても行かなければならない。そして何より、行きたいのだと。
( ^ω^)「……わかりましたお」
道は決まった。もはや迷う理由などどこにも存在しない。
僕はゆっくりと立ち上がると、すでに横たわってしまっていたショボンさんの前に歩み寄った。
そして屈みこみ、彼の前に手を差し出す。
( ^ω^)「僕はあなたを、何としてももすかうに連れていきますお。
だからそれまで、絶対に死なないでくださいお」
(ヽ´・ω・`)「ふふふ……死ねるわけ……ないだろう?」
しかし、彼の意思とは裏腹に、握り返してきたその手は冷たく、枯れ木のように細かった。
時間はもう、残り少ない。手段を選んでいる余裕はなかった。
- 68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 02:55:12.88 ID:+KGR+USB0
(;^ω^)「お前たち! 正念場だお!
きついだろうけど、なんとか頑張ってくれお!」
(;><)「わかんないです!」
(;*'ω' *)「ぼいんぼいん!」
それ以降、僕はビロード、ちんぽっぽらに全速力で台車を引かせ続けた。
最後の廃駅を出発して一週間。ウラル山脈を越えて、すでに一か月が経とうとしている。
この頃にはもう大地の上に線路の姿はなく、僕たちは辿るべき道を失っていた。
だから文字通り僕たちは、赤土の大地の上をむき出しの車輪でひた走るしかなかったのである。
(;^ω^)「西北西にまっすぐ進めばモスクワのはずなんだお……」
頭の中に焼き付いていた地図、途中で見かけたの大きな湖、
そして星見式によるおおまかな緯度経度の測定結果から、
最後に立ち寄った廃駅をモスクワから東南東におよそ六〇〇キロ下ったスイズラニ駅と類推した。
このように僕は、猛スピードで進む台車の上で、進むべき方向を見定めることだけに全力を注いでいた。
しかしその間にも、ショボンさんの体力は無情なまでに削られていく。
- 69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 02:57:25.64 ID:+KGR+USB0
季節は春の終わりへと移りはじめ、気温も大分上がっていた。
とはいえ、線路ではなくむき出しの地面を駆け抜ける台車の揺れ、
そして流れていく風に奪われる体温の量は決して生半可なものではなく、
健康体である僕でさえきついと感じてしまうこの道程は、
病人であるショボンさんにとっては耐え難い苦痛以外の何物でもなかったであろう。
けれど神話の道が途切れ、村も存在せず、
あるのは荒れ果てた大地だけで食糧の補給も満足にいかないこの状況では、
もはやこうやって進む以外に道は残されていなかった。
(;^ω^)「ショボンさん! きついだろうけど耐えてくださいお! 絶対にたどり着きますから!」
(ヽ´・ω・`)「ああ……ああ……」
すでに立ち上がることさえままならなくなっていたショボンさんは、
激しく揺れる台車の上で、毛布に包まりながらうわ言のような呟きを返すだけだった。
- 71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 02:59:15.55 ID:+KGR+USB0
それからさらに一週間。休むことなく駆け続けたビロードたち。
しかし彼らにもついに限界がきて、僕たちは進む足を失ってしまった。
ビロードたちは実によく頑張ってくれた。
少ない食糧で飢えを満たし、一日に八十キロ近い距離を走ってくれたのだ。
それなのに、もはやボロ切れにしか見えない体を地面に横たえ、それでも彼らは立ち上がろうとしていた。
(;><)「わかんないです……わかんないです……」
(;*'ω' *)「ちんぽっぽ……ぼいん……」
(;^ω^)「もういいんだお! お前たちは本当によくやってくれたお! あとは僕に任せてくれお!」
これ以上台車を引かせれば、ショボンさんより先に彼らが死んでしまう。
旅の労をねぎらい、残っていた食糧をすべて与え、彼らを台車から解放した。
しかしそれでも、休んでいる時間など皆無だった。ショボンさんがこん睡状態に陥ってしまっていたからだ。
- 74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 03:02:15.39 ID:+KGR+USB0
(ヽ´‐ω‐`)「……」
(; ω )「……万事休すだお」
脈拍も息もかろうじてではあるがあった。
けれどもショボンさんは一向に目を覚まさなかった。
時折うなされているかのように数度呻いて、血を吐いて、
あとは不気味なほど静かに眠り続けるだけ。
彼にはもう、本当にわずかな時間しか残されていない。
- 75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 03:03:33.97 ID:+KGR+USB0
(; ω )「もすかう! もすかう! モスクワはどこだお!
すぐそばまで来ているはずなんだお!」
疲れからか、朦朧とする頭で叫んで、周囲を見渡した。
しかし周囲に広がるのは、まばらな植物だけの赤色の大地。
空にあるのは陰鬱とした重い雨雲。
地平線の彼方は三六〇度、灰色の雲に溶けているだけ。
(; ω )「方角を間違えたのかお!? いや! そんなはずはないお!」
自分に言い聞かせるように何度も叫んだ。
けれどもそれは、何の気休めにもならない。
ビロードたちの必死の努力のおかげで、
史実におけるモスクワまでの直線距離分はもう充分なまでに消化している。
それでもモスクワにたどり着けないとなると、原因はもはや、
行程の指揮を執った僕以外に考えられなかった。
- 77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 03:05:14.85 ID:+KGR+USB0
(; ω )「……空さえ晴れていたら……
もっと正確に現在地を割り出せたのに……」
意味のない言い訳通り、一昨日から空は雲に閉ざされていた。
だから空には星が出ておらず、
僕はうっすらと見える太陽と曖昧な方向感覚だけを頼りに道を示すほかなかったのだ。
( ω )「僕は本当に……役立たずだお……」
そして、呟いた僕をあざ笑うように、ポツリ、ポツリと、空から大粒の雨が降り始めた。
- 82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 03:07:19.79 ID:+KGR+USB0
( ω )「でも……でも……」
力なくうつむいた視線の先では、
赤土の上でもけなげに生きようとしている野草がひと房揺れていて、
僕はその芽を手に取ると、一気に口の中へと放り込んだ。
あたりを見渡し、食べられる野草を集めるだけ集め、
台車の影で火を起こして、水煮したそれらをすべて胃に収めた。
それから自分の想いとともにそれらを消化し、立ち上がる。
出来るだけショボンさんに雨風が当たらぬよう積み荷を配置しなおし、
少しでも暖をとれるようちんぽっぽを彼のそばに置き、台車を引きずり歩きはじめる。
( ω )「僕は何も出来ない役立たずだお。だけど……」
――それが、僕の自由に対する義務。だからそれでも、前に進むしかなかった。
- 85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 03:09:28.72 ID:+KGR+USB0
進み続けた。こぼれ落ちてくる雨に打たれながら、夜が更けても台車を引き続けた。
いつかショボンさんが言っていたように、歩いて歩いて歩き続けた。
けれど、雨と雲と夜に閉ざされた地平線の先に何も見つけることは出来ず、
ついに限界を迎えた僕は、もうダメだと地面に膝をつき、それきり歩みを止めてしまった。
それから這うようにして荷台へとたどり着き、ショボンさんの容体を診る。彼の体に手を触れる。
( ω )「……今夜が峠かお」
病の体で雨に打たれ続けたショボンさん。冷たくなっていた彼の体。
かろうじて口からはか細い息、そして血を漏らし続けてはいるが、
もう死に体と称して差し支えない状態へと陥ってしまっている。
彼の顔を必死になめ続けるちんぽっぽの姿が、痛々しくて見ていられなかった。
( ω )「ショボンさん……ごめんなさいだお」
許しを請うように地面にひざまずいて、僕はそれだけを残した。
- 87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 03:11:09.14 ID:+KGR+USB0
(*'ω' *)「ちんぽっぽ! ちんぽっぽ!」
鼓膜の震わすちんぽっぽの声に目を開けば、
映るのは透き通るほどの星空と銀色に輝くまん丸い月。
「まるで空の穴みたいだ」と、「あの先には何があるのか」と、ぼんやり満月を眺めていた僕。
しかし、またしても聞こえたちんぽっぽの鳴き声に引き戻され、
僕は自分が何をしてしまったのかを思い出す。
(;゚ω゚)「馬鹿かお僕は!」
飛び起きて、立ちくらみから膝に手をつく。それから自分を罵倒する。
なんということだ。僕は眠ってしまっていたのだ。
そんな暇などなかったのに。ショボンさんが生死の境をさまよっていたというのに。
(;゚ω゚)「ショボンさん!」
叫んで台車の荷台へと顔を向け、僕はわが目を疑った。
なぜならそこに、眠っているショボンさんの姿がなかったからだ。
- 89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 03:13:44.63 ID:+KGR+USB0
(ヽ´;ω;`)「……」
その代わり、荷台の上に上半身を起こし、前を見つめて泣いている彼がそこにいた。
ショボンさんは泣いていた。傍らで何かに対し吠え続けるちんぽっぽを支えとして、
台車の上で上半身をしっかりと起こし、ある一点をひたすらに見つめ、ぼろぼろと大粒の涙をこぼしていた。
僕もその方角へと目をやる。
西。僕が目指していた方角とわずかに異なった道の先。
いつかと同じ色をした満月。眩いばかりのその光が、
涙を流すショボンさんと吠え続けるちんぽっぽ、彼らの見つめる先を僕に照らしてくれていた。
- 93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 03:15:51.47 ID:+KGR+USB0
(;゚ω゚)「あれは……」
くらむ目をこすり、もう一度目を凝らしてまじまじと見る。
月明かり。目覚める前とは正反対に澄んだ空気。
雨と雲など、遮るものなど何もないまっさらな夜空。
その先に、地平線の向こうに、
明らかに山とは異なった幾何学模様の凹凸がいくつも連なっているのが見えた。
それはまだ全容を明かしていない。
夜に隠され、地平線の上に影としてしかその姿を現していない。
けれど、それだけで十分だった。
僕にはわかる。たとえそれが他人の夢であっても、ずっと一緒に追いかけてきたから。
そしてそれを夢として追い続けてきたショボンさんには、ちんぽっぽには、もうはっきりとわかっているようだ。
そう。あれはモスクワ。否、もすかう。
遥かなるシベリア鉄道。神話の道と呼ばれたその先にある、紛れもない神の国だ。
- 95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 03:18:20.78 ID:+KGR+USB0
(*^ω^)「ショボンさん! やりましたお! 僕たちは辿りついたんですお!」
(*'ω' *)「ちんぽっぽ! ちんぽっぽ! ぽっぽぽっぽ! ちんぽっぽぼいん!」
(ヽ´;ω;`)「ああ……ああ……!」
荷台へ飛び乗りショボンさんの肩に手をやれば、
彼は起こした上半身をぶるぶると震わせているだけで、
影として地平線に浮かび上がるもすかう以外、もはや何も見えていないようだ。
僕はすぐさま積み荷をあさり、ショボンさんの画材をすべて取り出して、彼に手渡す。
彼はぶるぶると震える手でそれらをつかみ取ると、荷台に上半身だけを起こしたまま、一心不乱に絵を描き始める。
その後ろ姿があまりにも弱弱しくて、僕は思わずその肩に手をやり、彼を支えた。
そして彼の肩越しから見えるもすかうの影を見て、押し黙ってしまう。
彼の冷たい体に触れたせいで、熱を帯びていた感情が冷め、冷静さを取り戻してしまった。
思い出してはいけない真実を思い出してしまった。
あれは間違いなくもすかうだろう。だけど、ただそれだけ。
目の前に浮かび上がるもすかうは、きっと、神の国などではない。
- 97: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 03:20:30.84 ID:+KGR+USB0
けれど、夜と満月が味方してくれていた。
夜はうまいこともすかうの真実を隠していて、その影だけを満月は浮かび上がらせてくれていたのだ。
何も知らないショボンさんは、だから疑うことなく筆を握った。
無言でもすかうの影とキャンパスを交互に見つめながら、ただひたすらに筆を動かし続けた。
いつもは数十分で仕上がる彼の絵。しかし、このときばかりは違った。
空に昇った満月が傾きはじめ、東の空が白みはじめる手前まで、ずっとずっと彼は描き続けた。
(;^ω^)(日が昇る前に、真実が白日のもとにさらされる前に、早く……)
―― 一刻も早く、完成してくれ。僕はそれだけを願い続けた。
- 100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 03:21:39.29 ID:+KGR+USB0
そしていよいよ日が東の空に顔を出そうとしたその時、彼の筆は止まった。
そのままポトリと握られていた筆が荷台の上を転がり、赤土の大地に落ちた。
僕の口から安堵のため息が漏れた。
ショボンさんの口から、最期のつぶやきがこぼれた。
(ヽ´;ω;`)「ペニサス……ヘリカル……僕は……描いたんだ……
……神の国を……もすかうを……僕は……描けたんだ……」
それだけを遺して、彼の首はガクリと垂れた。
- 108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 03:24:57.45 ID:+KGR+USB0
( ^ω^)「……ショボンさん、おめでとうございますお」
二度と起き上がることのない亡骸に声をかけ、そっと、荷台の上に横たわらせた。
描いている間ずっと黙っていたちんぽっぽが彼の遺体をじっと見つめ、一度だけ絞り出したような鳴き声を上げた。
それを聞き届けた後、死体が握ったまま決して放そうとしなかったキャンパス、
そこに描かれた絵を僕は眺める。
これまでの彼の絵には見られない様々な色を用いた、神々しいまでに煌びやかな色どりの町並み。
互いに手を取り合い、仲睦まじげな様子でそれを眺める、三人の親子と、一匹の犬のものらしき後姿。
ツンドラの道を歩き続けた男は、その先、その終わりに、確かな夢を描いていた。
これ以上ないくらいに切ない夢。僕はその結末を、今ここで、確かに見届けた。
- 110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 03:26:41.48 ID:+KGR+USB0
( ><)「わかんないです! わかんないです!」
しかし、夢とはただの夢。絵を眺めて歯噛みして、ビロードの声を合図に顔をあげる。
日が、僕の背中から登り始めていた。
東の山際から、強烈な光が差し込み始めていた。
そして、西の大地が照らされる。
夜という名のベールがはがれおち、それに覆われていた真実が浮かび上がる。
( ^ω^)「……」
( ><)「……」
ショボンさんの描いたもすかう。
僕とビロードの目の前、西の地平線の先に浮かび上がったのは、
絵の中の町とはどう考えても似つかない、
誰がどう見ても廃墟と呼ぶしかないまでに崩れ落ちた、高層ビル群の残骸だけであった。
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