( ^ω^)ブーンは歩くようです

477: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 17:42:17.99 ID:ZC1hkslO0

― 14 ―

ジョルジュがうつぶせに倒れこんだ理由など、そこにいた誰もが理解できなかったことだろう。
彼らが理解出来たのは、パンと乾いた音が屋内に響いたことと、稀代のジャンビーヤ使いが地に伏したこと、きっとそれだけだ。

ジョルジュは僕の目の前で倒れた。駆けた状態から大きくバランスを崩し、頭から床へうつぶせに、ドン、と。
彼の右腕には何も握られていない。ジャンビーヤは倒れた衝撃で、寂しく床の上に転がっていた。

開けた道の先、入口の扉の前には、何が起こったのか理解しかねている長老やオワタら。
僕の隣には、彼らと同様に伏したジョルジュを見下ろし、立ち尽くすだけのツンデレ。

彼らを一瞥したのち、倒れたジョルジュを見下ろした僕は、右手に握りしめた銃の口を、うつぶせの頭に向けた。



480: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 17:43:17.85 ID:ZC1hkslO0

( ^ω^)「チェックメイト。これでお前は、一回死んだお」

僕の声に反応して、銃口の先にあるうつぶせの頭が上がった。

倒れこんだ際、額を強く打ちつけたのだろう。
そこからは少なくない量の血が流れていたが、顔自体はさほど汚れていなかった。

しかし、ジョルジュが動かすことが出来たのは頭だけであった。

あたりまえだ。そうなるよう、僕は銃弾を放ったのだから。



490: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 17:44:42.83 ID:ZC1hkslO0
  _
(; ゚∀゚)「……おめー、いったい何をした? いったい……何を隠してた?」

体を地に張り付けたまま、訪ねてくるジョルジュ。
その直後、彼は顔をゆがめる。体の一部を貫いた傷から、耐え難い痛みが走ってきたに違いない。

しかし彼の双眸だけは、僕と、握る銃を見据えたままだった。
倒れる前と変わらない、力強い瞳だった。
  _
(; ゚∀゚)「手に持ってるそりゃ……なんなんだ?」

銃弾が足を貫いたと言うのに、それでもこんな眼を作れるのか。
大した男だと、うつぶせのまま顔だけを上げるジョルジュに敬意を払いながら、僕は答えた。

( ^ω^)「ちんこだお」



499: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 17:46:27.92 ID:ZC1hkslO0
  _
( ゚∀゚)「……ひゃひゃ……そうかい」

僕の手に握られているのは、黒光りする銃。いつかジョルジュが握ったそれ。
しばらくの間を置いて眼をぱちくりと瞬かせたジョルジュは、僕の言葉の意味を理解したのだろう、
唐突にかすかな笑い声をあげると、いつかと同じ言葉を返した。
  _
( ゚∀゚)「たいそうなものをお持ちで」

( ^ω^)「恐縮です」

笑顔で僕も返した。
そう。僕の手に握られているのは、紛れもないマグナム。弾はもう打ち止めだけれど。



511: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 17:48:21.25 ID:ZC1hkslO0

それからひとしきり笑い合ったあと、ジョルジュが苦痛に顔をゆがめた。
これほどゆがむ彼の表情を見るのは初めてかもしれない。それほどに、貫かれた太ももが痛むのだろう。

ジョルジュに打ち止めのちんこを向けたまま、頬笑みながら、僕は言った。

( ^ω^)「さて、一回死んだお前。その身をどうしようが、僕の自由だおね?」
  _
( ゚∀゚)「……どうしよう……ってんだよ?」

途切れ途切れの低い声。警戒したのか、また、ジョルジュの眼に戦意が宿った。

その意に反するように、僕は懐へと銃を仕舞う。
「意味がわからない」と言いたげに眼を見開いた彼を見下ろし、言う。

( ^ω^)「生きるんだお」



516: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 17:49:56.45 ID:ZC1hkslO0
  _
(; ゚∀゚)「……」

僕の言葉が意外だったのか、見開かれたままのジョルジュの眼。
それを受けた僕は、戦いのため埃にまみれていた超繊維のマントを叩いてみせる。

( ^ω^)「花嫁を奪われても、ジャンビーヤを床の上に転がしてしまっても、
      血と恥にまみれてしまっても、それでも生きてみせるんだお。
      こうやって血と恥を払い落して、僕が伝えた知識を使って、生きてサナアを導いてみせろお」

差し込む陽光の中で、超繊維から払い落された埃がふわふわと舞った。
流れていくそれらを眼で追えば、転がっていたジャンビーヤが目に付いた。
拾い上げ、ジョルジュの前へ差し出す。

( ^ω^)「お前が僕の息子なら、きっと出来るはずだお」



525: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 17:51:31.01 ID:ZC1hkslO0
  _
( ゚∀゚)「……」

僕の顔と差し出したジャンビーヤを交互に眺めたジョルジュ。
彼がそれを受け取るのに、さして時間はかからなかった。
  _
( ゚∀゚)「……しゃーねーわな。そうやって、俺もおめーを連れて来たんだし」

( ^ω^)「おっおっお」

それきりジョルジュの瞳からは戦意が抜け、
表情も苦痛のゆがみがあるものの、平時のおちゃらけたものへと変わる。

間もなく、右手に包帯を巻いたオワタともう一人の若者がこちらへ駆け出してきたが、
ジョルジュの一言で彼らの足も止まった。



528: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 17:53:02.35 ID:ZC1hkslO0
  _
( ゚∀゚)「やめとけ。馬鹿な真似はすんなや」

\(^o^)/「し、しかSI……」
  _
( ゚∀゚)「俺が負けた相手に、おめーらが敵うわきゃねーだろ?
    それに……俺は花嫁を奪われたんだ。これ以上、俺に恥をかかせんでくれや」

通路の真ん中で立ち止まって、考えこむようにジョルジュを見据えたオワタ。
そのあと彼は憎々しげな眼差しで僕を見据えたが、すぐに視線を外し、言った。

\(^o^)/「手が要りまSU! みなさん、僕の指示に従ってくださI!」

僕の目の前、倒れたジョルジュのもとへ走り寄ったオワタは、
もう一人の若者と、響いたオワタの声を受け遅れて駆け寄ってきた老人一人に指示を出し、
使えない右手の代わりに彼らを手足として使い、ジョルジュの治療を始める。



535: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 17:54:58.29 ID:ZC1hkslO0
 
体を持ち上げられて仰向けにされ、上半身だけを起こされたジョルジュ。
彼の右太もも部分の腰穿きが、痛々しく真っ赤に染まっていた。

それを前にして小さく悲鳴を漏らしたツンデレに向けて、僕は言う。

( ^ω^)「大丈夫だお。オワタの技術があれば、
      時間はかかるだろうけど、ジョルジュはまた立てるようになるお」

ξ;゚听)ξ「……」

( ^ω^)「じゃあ、僕は先に行ってるお」

そう言い残し、マントを翻した僕。

血に伏した稀代のジャンビーヤ使いと、彼を治療する名医の脇を通り過ぎ、
依然として差し込み続ける光の帯の中を歩き、
入口の傍に佇む長老と護衛の老人を横目に眺め、鍵を外し、扉を開けた。

そして扉を開けたまま、振り返る。



537: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 17:56:18.96 ID:ZC1hkslO0

ξ゚听)ξ「……」

光の帯の先で、祭壇の傍に佇んだままのツンデレが、治療されるジョルジュをじっと見つめていた。

一方でジョルジュは、太ももに走る痛みのせいからか、はたまた別の理由からか、
力なく顔をしかめた続けたままで、僕にはその表情をうかがうことが出来なかった。

その後、ジョルジュと同じように顔をしかめたツンデレは、ためらうように間を置いたが、一歩を踏み出した。

それから何かを振り切るような早足で、ジョルジュの脇を通り抜けた。
顔をしかめたまま、コツリコツリと足音を響かせ、ツンデレがこちらへと向かってくる。

次第に大きくなっていく彼女の姿に隠れたせいで、僕にはもう、ジョルジュを視界におさめることは適わなかった。

――適わなかったけれど、声だけは聞こえた。



541: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 17:57:49.08 ID:ZC1hkslO0
  _
( ゚∀゚)「待て」

うつむいたままこちらへ近づいてきていたツンデレの肩がびくりと震え、その足が止まる。
彼女の体は、傍目から見ても強張っていた。
どんな罵声が浴びせかけられるのだろうかと、彼女はそう恐れたのかもしれない。

しかしジョルジュの声は、それからしばらく響かなかった。
彼は一体、何を言わんとしているのだろう? 彼の姿を捉えることのできない位置にいた僕には、想像もつかなかった。

それはツンデレも同じだったようで、彼女はジョルジュの言葉を待つためにしばらく固まったままだったが、
先に何が起こるか予想も出来ない沈黙に耐えかねたのだろう、唐突に祭壇へと、ジョルジュへと振り返った。

同時に、ジョルジュの声が聞こえた。
  _
( ゚∀゚)「持ってけ」

ξ;゚听)ξ「え?」

短いツンデレの呟きのあと、建物の中空、光の帯の中を割いて、何かがツンデレへ向かって投げられた。
鞘に納められていたそれが何なのかを理解した僕に、それ以後の二人の動向を眺める必要はなかった。

僕は開けた扉に背を預け、いつの間にか傾いていた日の光に目を細め、聞こえてくる声に耳を傾けるだけ。



545: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 17:59:24.88 ID:ZC1hkslO0
 
「お前を守ると誓ったジョルジュは……もう死んじまった。
 お前を守れねーままに……な。だけど……持ってけ」

「でも……」

「ひゃひゃひゃ……そんな顔するなよ……別に遺品でもなんでもねーからさ」

「じゃあ……なんなの?」

「……さあ? わかんね」

「……あはは……何よ、それ……」

「ばーか……笑うんじゃねーよ」

「だって……こんなときでも……あんたはいつも通りで……」

「そうさ……いつだってそうさ……死んだって……いつも通りさ」

「……」



550: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 18:01:19.03 ID:ZC1hkslO0
 
「だから……あいつが誓いを込めたそれも……変わらねーんだ。
 あいつの誓いは……あいつが死んでも変わらなねー……誓いは……いつまでもその中に生き続ける」

「……ばーか……あんた……ホントに馬鹿だよ……」

「そう……それだよ……あいつは……歩いてそんな風に笑う……お前が好きだった……」

「……本当……に?」

「そうさ……それだって……いつまでも変わらない……」

「……あたしだって……変わらないよ……あたし……いつまでも……あんたのこと……」

「ひゃひゃひゃ……ありがとよ……」



「だから……お前が歩き続けるなら……
 そのジャンビーヤが……あいつの代わりに……お前を守ってくれるさ……」



554: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 18:03:19.77 ID:ZC1hkslO0
 
東の空が藍色に、西の空がうっすらと茜色に染まり始めていた。
もう、声は響いてこなかった。

(  ω )「……そうだおね。僕がいなくても、ジョルジュが君を守ってくれるんだお」

呟く。響いていた涙交じりの二つの声も、見上げていた空の二色も、僕は綺麗だとは思わなかった。
先ほどまでそう感じていた千年後の世界も、綺麗だとは到底思えなくなっていた。

間もなく、ツンデレがうつむいたまま、二度と後ろを振り返ることなく、僕の前を通り過ぎた。
その両足は、しっかりと地を踏みしめていた。僕も振り返ることなく、彼女の背中を追った。

最後に、誰かの声が聞こえた。

「ああ……痛ぇなぁ……足を切られんのは……これより痛ぇのかねぇ……」

扉が、音を立て閉まった。



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