( ^ω^)ブーンは歩くようです

316: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 21:58:34.09 ID:ZC1hkslO0
 
― 3 ―

(*゚ー゚)「いんやぁ、さっきは取り乱してすまんかったべさぁ」

(  ゚ ゚)「いえ」

あれから一つのやり取りを経た後、あたしはしぃさんの家へと案内されました。

村の男たちが「危険だべさ」と口々に言う中、
「こん人は悪い人じゃねぇべさ」と涙を拭きながら言ってくれたしぃさんの言葉が、
あたしにはたまらなくうれしかったです。

(*゚ー゚)「あん人は……ギコは、ちーと狩りに行っとってなぁ。もうすぐけぇってくると思うべさぁ。
    だけぇ、詳しい話はギコさけぇって来てからお願いするべ。これさ飲んでぇ、もうちっと待っとってくれな?」

(  ゚ ゚)「では、遠慮なく」

石のテーブルを挟んで向かい合い、差し出された石のカップに口をつけます。
その中に満たされていた透きとおった水が、心地よく、あたしののど元を通り過ぎました。



322: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 22:00:22.29 ID:ZC1hkslO0
 
(*゚ー゚)「……うまいべか?」

(  ゚ ゚)「ええ……美味しい」

その水は、ただの水だというのにも関わらず、なぜだか懐かしい味がしました。
あたしが感じたその懐かしさの正体は、こう言うことでした。

(*゚ー゚)「そりゃそうだべなぁ。だってそれ、ブーン兄ちゃが掘った井戸んだからなぁ」

そう言って、石卓の上で頬杖をつきながらにっこりとほほ笑んだ彼女。
その笑顔が、人の道を外したあたしにはあまりにも眩しすぎて、あたしは知らず目をそらします。

(;*><*)「わっかないですー……わっかないですー……」

そらした視線の先には、先ほど見かけた男の子と女の子。
二人はしぃさんとギコさんの子どもだったのでしょう。

そして、彼らに全身を弄ばれているわっかないですの姿。

しかし、玩具のように激しく弄ばれているというのにも拘らず、
わっかないですの表情は、なぜかちょっぴり嬉しそうに見えました。



330: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 22:02:11.28 ID:ZC1hkslO0
 
その後しばらくの時間を置いて、彼は現れました。

慌てふためきながら屋敷の扉を荒々しく開け、
子どもとの遊びに疲れ果てダウンしていたわっかないですの尻尾を踏んで。

(;,,゚Д゚)「ブーンはどこだゴラァ!」

(;*><*)「ひぎぃ! わっがないでず!」

(;,,゚Д゚)「あ、ゴラァすまんだ」

身長がしぃさんの倍ほどもありそうな、筋骨隆々の、鉄のような肉体をした大男。それがギコさんでした。

ちょっと強面の、だけども精悍な顔つきをした彼が、足もとに駆け寄ってきた彼の子どもたちを纏わせながら、
身を縮こまらせてわっかないですに謝る、その姿がとても愛らしいくて、あたしは布の下で思わず微笑みます。

そんなあたしの元へ駆けよると、あたしの肩に大きくて固い両手のひらを置いて、彼は問いました。

(;,,゚Д゚)「ブーンは……あいつはどこにいるんだゴラァ!」



339: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 22:04:21.92 ID:ZC1hkslO0
 
(  ゚ ゚)「……」

強い力で肩を揺さぶられる中、あたしは、ギコさんの問いかけに答えられませんでした。
なぜなら、強面の彼の表情はさらに強張っており、
おまけに、もうすでに、彼の眼は涙を流しそうなほどに潤んでいたからです。

そんなあたしの代わりに、いつの間にか彼の側に立っていたしぃさんが、涙を流しながら言ってくれました。

(*;ー;)「ブーン兄ちゃんは……ドクオ兄ちゃんのとこさ行ったんだべさ」

(;,,゚Д゚)「……」

(*;ー;)「ブーン兄ちゃんは……オラたちに会いたがってくれてたそうだべさ」


(,,;Д;)「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


(  ゚ ゚)「……」

室内に響いた、地鳴りのような、獣の雄叫びのような、ギコさんの泣き声。
立ち尽くし、天を仰ぎ、咆哮をあげ続けるギコさんの傍らで、彼に寄り添うように静かに涙を流していたしぃさん。

二人の涙は、雨期だけに流れるワジの水のように激しく、それからしばらく、流れ落ちるのを止めませんでした。



342: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 22:05:52.43 ID:ZC1hkslO0
 
その後、二人の子どもとわっかないですを退出させ――
といっても、わっかないですは子どもたちに無理やり尻尾を引きずられ、連れ去られてしまっただけなんですけど――
あたしはギコとしぃさんに、今となってはもう二十数年前にこの村を発ったブーン、彼のその後について、端的に語りました。

そもそも、あたしの今の英語力では、端的にしかブーンの旅物語を語れなかったんですけどね。
それと、話がややこしくならないよう、彼が千年前の人間だったこと、そしてあたしの成した所業は語りませんでした。
そうやって話をすることで、あたしはとても重大なことに気づくのですが、それはまた別の話。

話の終わり、あたしは積み荷の中からブーンの遺品たちを取り出し、石卓の上に並べ置きます。
その中からギコさんは、ボロボロになり色あせていた原色の羽織を手に取り、握りしめ、再び涙を流します。

(,,;Д;)「あん馬鹿野郎……オラが……オラがおめぇさ殺すはずだったんに……
     それまで絶対死ぬんじゃねぇべって……オラァ……最後に言ったじゃないかゴラァ……」

屈強な大男が、原色の羽織に顔をうずめ、身を震わせながら涙を零します。
その背中を、同じく涙を流しながら、しぃさんは優しくさすります。

「ああ、これが夫婦の姿なんだ」と、寄り添う二人のその後ろに、
あたしは、十年近く前に別れたジョルジュとの、あり得たかも知れない未来の夢を描きました。



346: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 22:08:04.48 ID:ZC1hkslO0
 
それから落ち着きを取り戻した二人に、
あたしはブーンが旅立ったあとの、彼らの村の変遷について教えられました。

なんでも、カミノミ、カミノキというものがなくなってからしばらく、大人たちは半狂乱に陥ったそうです。

その半分が狂って死に、半分は正気を取り戻した。
そして正気を取り戻した半分の大人たちが、子どもらを育て、荒れてた村を整え、
それをギコさんやしぃさんたち、カミノミとカミノキを知らない世代が引き継ぎ、今の状態まで復興させたのだとか。

(*゚ー゚)「だども、オラたちはカミノミとカミノキがあったことを知ってる。
    それは知らなければいけねぇ村の最大の汚点だって、生き残った大人に教えられたかんなぁ」

(;,,゚Д゚)「そすて、そん汚点を消し去ってくれたんが、ドクオ兄ちゃんとブーンだったってことも知ってる」

それからギコさんはあたしの眼をまっすぐに見つめると、強面の顔のまま、けれど嬉しい言葉で怒鳴ってくれました。

(,,゚Д゚)「だから、ブーンの使者であるおめをオラたちは歓迎するだゴラァ!
    他ん村のやつはオラが殴り飛ばしてでも認めさせる! だから、好きなだけここさいやがれだゴラァ!」

(*゚ー゚)「うふふ。なんなら一生、ここに住んでもいいだべさぁ」

(  ゚ ゚)「……感謝する」

こんなあたしにも、こんなに優しい言葉をかけてくれる人たちがいる。
だからあたしは、声が涙で震えているのを悟られぬよう、短い、そっけない言葉を返すしか出来ませんでした。



351: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 22:09:48.53 ID:ZC1hkslO0
 
その日の深夜、ギコさんとしぃさんの屋敷の一室に寝床を与えられたあたしは、
子どもたちとの遊びに疲れ果てて死んだように眠るわっかないですを残し、外へ出ました。

満月の強い光のおかげで、周囲は良く見えており、その下で井戸は村のあちこちに点在していました。
しかし、万が一に備え、あたしは誰かに顔を見られることがないよう、村の外れにあった古い井戸まで歩きました。

そして、周囲に誰もいないことを確認すると、はらりと顔を覆っていた布を取り、布と顔を洗おうと水をくみます。
井戸の傍に転がっていた二つの桶に水を張ると、一つに布を浸し、もう一つに張った水で顔を洗います。

月光を浴びでゆらめく透明なその水はとても冷たく、その冷たさはまるで、あたしの穢れを洗い落としてくれるかのようでした。

それから布を洗い、絞り、適当な木の枝にかけて干し、ある程度乾くまで井戸の石壁に身を預けていた、そんな時でした。

(*゚ー゚)「それ、ブーン兄ちゃんが掘った井戸なんだべ」

しぃさんの声がしました。反射的に声のする方へと視線を向けてしまったあたし。
そこでは、ゆったりとした原色の羽織を身にまとった彼女が、満月を背に預け、ほほ笑みながら立っていました。



352: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 22:10:34.56 ID:ZC1hkslO0
  
あたしは声の彼女の方へ慌てて背を向けると、そっけなく言葉を返します。

ξ )ξ「そうなの」

(*゚ー゚)「んだべさ。そんだけじゃない。こっから少し行ったとこさある石橋も、
    畑さ囲んどる堀も、ブーン兄ちゃんが作ってくれたんだべ。そんでな、
    ツンデレさんに泊まってもらった部屋は、ブーン兄ちゃんが一年間住んどった部屋なんだべ。
    こん村は、ブーン兄ちゃんが作ってくれたもんで溢れとるんだべさぁ」

あたしは彼女に背を向けたまま、縮こまることだけしか出来ませんでした。
はやくこの場を立ち去ってほしい、そんなことを願いながら。

けれど、しぃさんの声は続きます。

(*゚ー゚)「ホントは、嫁のオラがギコん家さ住まねばなんねぇんだがな。
    ギコん親は狂って家さめちゃめちゃにして、それっきり、山ん中へ消えてけぇってこんかったからさ。
    そんあとギコは、オラん家に住むようになっただ。オラの親は狂わんかったからさ。
    だから、オラはギコの嫁さなった今でも、子どもん頃の家、ブーン兄ちゃんと過ごした家にギコらと住んどるんだべ」



353: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 22:11:13.12 ID:ZC1hkslO0
 
しぃさんの声は、彼女の外見と同じように、可愛らしい、耳にとても優しい響きを持っています。
幼い顔つきだけど、纏った雰囲気は母性そのもの。女性のあたしから見ても、魅力的な人です。

おそらくはあたしとさして歳の離れていないそんな彼女が、この時のあたしには憎らしく思えてなりませんでした。

あたしだって、歩きださなければ、足を失っていれば、もしかしたら彼女のような女性になっていたかもしれないのです。
去年の冬が厳しくなければ、もっと遅くに来ていれば、あたしだってあんなことをしなくて済んだかもしれないのです。

この顔を再び布で覆わなくて済んだかもしれないのです。

わかっています。それはすべて、あたし自身が選び取ったことで、その責任はすべてあたしにあることなんて。
もう、納得しているんです。しぃさんのような女性になることは出来ないことも、はっきりとわかっているんです。

だけど、この時ばかりは、胸の奥底から溢れてくる汚らわしい嫉妬を、あたしはどうしても留めておくことが出来ませんでした。

(*゚ー゚)「ツンデレさん、夜は冷えるべ。だからさ、もうけぇろ?」

ξ )ξ「触らないで! 近寄らないで!」

だからあたしは、背後から響いた柔らかい声とともにあたしの肩に置かれたその柔らかい手を、強く、振り払いました。



357: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 22:12:12.90 ID:ZC1hkslO0
 
(;*゚听)「……ツンデレさん、どうしたんだ……」

ξ )ξ「こっちに来ないで! あたしの顔を見ないで!」

あたしは頭を抱え、井戸の傍で縮こまったまま叫びます。

ξ;凵G)ξ「あたしは、あなたみたいに綺麗な女じゃないの! 違う! もう人間でもないの!
      だってあたし……ブーンを食べたんだもん! 
      飢えに襲われて、それに任せて、あたしはあたしを救ってくれたブーンを食べちゃったのよ!」

一度堰を切った想いは留まることを知らず、
その勢いはあたしを立ちあがらせ、しぃさんへと振り返らせ、それでも言葉として溢れ続けます。

ξ;凵G)ξ「それだけじゃない! あたしにはわっかないですの他にもう一匹、仲間がいたの!
      あたしはその子を見殺しにしたのよ! 自分だけがブーンを食べて、そうやって飢えを満たして!」



361: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 22:13:25.16 ID:ZC1hkslO0
 
ξ;凵G)ξ「生き延びたわっかないですも……きっとあたしを恨んでる…… 
      それでもあたしは彼女を引き連れて……彼女に狩りをさせて……彼女にそりを引かせて……
      そうやって歩いてきた……そしてこれからも歩き続ける…・・・そんな醜い女なのよ、あたしは!」

あたしはしぃさんの肩をつかみ、自分の顔をしぃさんの目の前へと突き付け、叫びます。

ξ;凵G)ξ「さあ、笑ってよ! そうやって歩いてきたあたしの顔を!
     そして目をそらしてよ! 汚くて醜いこの顔から! さあ!」

いつの間にか、あたしは英語ではなく故郷の言葉で叫んでいました。
それが初めからだったのか、途中からだったのか、それとも終わりのあたりだけだったのか、わかりません。

だから彼女に、どれだけあたしの叫びが伝わったのかはわかりません。結局それは今でも、です。

けれども、あたしはそんなことなどお構いなしに、しぃさんの体を揺さぶり、顔を彼女の前へ晒し続けました。
晒して、故郷の言葉で叫び続けました。

(*゚ー゚)「なしてそんな綺麗な顔さ、布で隠し続けるだかぁ?」

しかし、しぃさんはそう言って首を傾げ、優しく微笑んでくれました。



368: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 22:15:37.36 ID:ZC1hkslO0
 
(*゚ー゚)「綺麗な顔だぁ……ホーント、綺麗な顔だべ」

ξ;凵G)ξ「……」

しぃさんが両手を伸ばし、あたしの頬に優しく手を触れて、言います。

(*゚ー゚)「楽しいことも、嬉しいことも、辛ぇことも、悲しいことも、ぜーんぶ知っとる顔。
    全部知っとって、そんでも挫けることさねぇ、強くて優しい顔だべさ。おら、嫉妬しちまいそうだべ」

秋夜の空気は、故郷の夜と同じくらいに冷えます。
けれど、頬に触れたしぃさんの手はとても温かくて、声はとても柔らかくて、
満月に照らされた彼女の顔は、まったく似ていないというのに、故郷に捨てた母のそれに思えてなりませんでした。

そして彼女は、小さなその体であたしを抱きしめると、背中を優しくさすりながら言ってくれました。

(*゚ー゚)「だからもう、隠さんでいいんだぁ。そん綺麗な顔で、お天道様の光いーっぱい浴びるといいだぁ」

ξ;凵G)ξ「うあ……うああああああああああああああああああああああああああああん!」

こらえることなど出来ようもないあたしの叫びが、夜に響きました。
それからいつまでも泣き続けるあたしを、しぃさんと満月の光は何も言わず、優しく受け止め続けてくれました。



377: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 22:18:14.56 ID:ZC1hkslO0
 
それから半年以上を、石の村で、ギコとしぃさんの家で、かつてブーンが眠った部屋で、過ごしました。

その間、あたしはブーンのように知識を伝えることなんて出来ませんでしたから、
木の実を採る手伝いをしたり、わっかないですとともに、小動物を狩ったりして過ごしました。

(,,゚Д゚)「にすても、おめの狩りの腕はすげーべなぁ。てぇしたもんだべ」

(  ゚ ゚)「いや、わっかないですが素晴らしいだけですよ」

(,,゚Д゚)「んなこたねーべ。おめは腕っぷしもめっぽう強ぇしよ……」

(  ゚ ゚)「あらやだ。そんなことありませんよ」

( #)Д゚)「なら殴らんでくれだゴラァ。見えんくらいパンチが速ぇだゴラァ」

夕食の際、そんな冗談を放つギコさんにもう一発お見舞いすれば、彼は石卓の上に突っ伏して動かなくなりました。
そんな彼の様子に大笑いしながら、食事のため口元の部分だけ布をずらしていたあたしに向け、しぃさんが言います。

(*゚ー゚)「にすても、食事ん時くれぇ布は取ればいいんにぃ」

(  ゚ ゚)「いえ。これは寝るとき以外は取りません。そう決めたんです」

そうです。「これが歩く意味だ」と自信を持って言えるその日まで、
あたしはこの顔を布で覆い続けようと、あの夜、固く決心したのです。



382: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 22:19:50.38 ID:ZC1hkslO0
 
そして、春の足音が聞こえ始めました。そんな、うららかな小春日和のある日、
間もなく旅立とうと考えていたあたしは、ギコさんとしぃさんにとある場所へと連れて行かれます。

わっかないですは村の子どもたちの人気者になっていて、その日は連れて行けませんでした。
というより、村の子どもたちも付いてきたがったので、生贄としてわっかないですをあたしは村に残したのです。

(;*><*)「わっかないです! わっかないです!」

わっかないですの苦しそうな声が山彦として響くほど、標高の高いところにあった彼らの石の村。
そこから数時間下った、ほとんど山のふもとと呼んで差し支えのないその場所が、彼らの目的地でした。



386: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 22:21:39.78 ID:ZC1hkslO0
 
(,,゚Д゚)「ここがカミの祠だったとこだべさ。ここでドクオ兄ちゃんはカミを殺すた。
    そんでドクオ兄ちゃんも、ここで死んだんだぁ」

(*゚ー゚)「本当はもっと早くさ連れて来たかったんだども、冬は寂しぃだけの場所だかんなぁ。
    そんかわし、春はこげな風にいーっぱいの花に包まれるんだべさ」

(  ゚ ゚)「……」

大きくえぐれた、お椀のような地面。
その中にはびっしりと、色取り取りの花が咲き乱れていました。

ここが、ブーンの友が天才の意思を受け取り、散った場所。
目の前に広がる光景の美しさに、あたしは思わず息をのみます。

あたしの隣に立つギコさんも、そのまた隣に立つしぃさんも、
彼らにとっては初めてでないその風景を前に、あたしと同じように息をのんでいました。

そして、あたしが懐に仕舞っておいたあれを取り出そうとしたその時、ギコさんがこう声を漏らします。



390: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 22:23:20.33 ID:ZC1hkslO0
 
(,,゚Д゚)「オラは、ドクオ兄ちゃんが大好きだった。
    この石槍だって、ドクオ兄ちゃんのを真似て作ったんだぁ」

そう言って、いつも手放すことのない石槍の柄を、ドンと地面に突き立てたギコさん。
依然としてジッと、ドクオさんの死に場所に咲く花たちを眺めながら、彼は続けます。

(,,゚Д゚)「オラはずっとずっと、ドクオ兄ちゃんの後ろ姿さ追っかけて来た。
    とーちゃんとかーちゃんが狂って山ん中さ消えても、ドクオ兄ちゃんみたいに強く生きようと覚悟さ決めた。
    だども、こうやってドクオ兄ちゃんより歳さとっても、オラは追いつくことだって出来ねぇでいるだ……」

そう言って、見下ろしていた顔を正面に向け、ジッと東を、「死んだ大地」の先を眺めるギコさん。
彼はきっと、その向こう側に、追いつけることのない偉大な男の後ろ姿を見ようとしているのでしょう。

だからあたしは、懐から取り出したブーンの太ももの骨の片方を、
眼下に広がる窪んだ花の大地、彼の親友の墓へと放り投げ、言いました。

(  ゚ ゚)「あたしは、ドクオさんという人物をブーンの話の中でしか知りません。
     だけど、あたしの想像の中のドクオさんは、ギコさん、あなたにとてもよく似た方なんですよ」



394: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 22:24:18.16 ID:ZC1hkslO0

(,,゚Д゚)「……」

ギコさんが、眼をまん丸く見開いてあたしの顔を見ました。
そして、こらえるように唇を噛みしめ、顔を天へと向けます。

(,, Д )「……世辞なんて……いらんのだ……ゴルァ……」

それだけを残し、ずっとずっと、空を仰ぎ続けたギコさん。
その傍らに寄り添いながら、柔らかい笑みで彼を見つめ続けたしぃさん。

見下ろした大地のくぼみでは、花たちが春の風に吹かれ、楽しそうにゆらゆらと踊っていました。



400: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 22:25:51.91 ID:ZC1hkslO0
 
そして、春が訪れます。とても温かい春でした。
旅の支度を整えたあたしとわっかないですは、旅の目的地、東の大地の先へと歩き始めます。

(,,゚Д゚)「どうしても行くのか?」

(*゚ー゚)「こんな村で良けりゃ、ずっと住んでくれて構わんだべよ?」

石の村を出る際、村人総出の見送りの中、ギコさんとしぃさんが言ってくれました。

正直言うと、とても名残惜しかったです。村人たち、村の子どもたち、そしてギコさんとしぃさん、
彼らが住むこの村で余生を過ごしたいと、かつてのブーンがそう思っていたように、あたしも思っていたのですから。

(  ゚ ゚)「申し訳ないですが、あたしには行かなければならないところがあるんです。
     本当にすみません。このたくさんの食料と、あなた方の言葉、あたしにはそれで十分過ぎるほどです」

けれど、あたしは歩かねばなりません。
歩いて歩いて歩き続けて、そこ意味を見出さなければなりません。

いや、実を言うと、もうこの時点で、あたしは自分の歩く意味に薄々検討が付いていました。

しかし、どうしてもあたしは、あの場所へ行かなければなりませんでした。
行って、今胸の内にあるあたしの歩く意味が本物なのかどうかを、確認しなければなりませんでした。



406: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 22:27:15.65 ID:ZC1hkslO0
 
(,,゚Д゚) 「……そうか。わかった。おめの旅の成功を願ってるだゴラァ!」

(*゚ー゚)「そんでそん旅さ終わったら、
    ぜってぇここさ帰ってくるだ! あん部屋はずっと開けとくから!」

あたしの身勝手な言葉に、ギコさんとしぃさんは笑ってそう返してくれました。

(  ゚ ゚)「……また、会いましょう」

( *><*)「わっかないです!」

本当はもっと言葉を交わしたかった。

けれど、これ以上留まれば泣いてしまいそうで、
あたしは一言だけを残し、彼らに背を向け、歩きだしました。

傍らにわっかないですを引き連れ。
この背にたくさんの人の想いを繋げて。

遥か東、死んだ大地の向こう側に、ブーンの生まれた場所。

あと千年眠り続ける、天才たちの寝床を探しに。



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