( ^ω^)ブーンは歩くようです

468: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 22:45:29.23 ID:ZC1hkslO0
 
― 5 ―

地上に舞い戻ったあたしとわっかないですは、赤く染まる世界の上に、朽ち果てた小屋を見つけます。

小屋は風雨にさらされ、植物に侵食されてボロボロになっていましたが、
疲れ果てた今のあたしには、テントを広げる余裕はありませんでした。

だからあたしは、一目見て小屋が内藤ホライゾンとクーさんが作った家であるとわかるにもかかわらず、
それに気付くことなくふらふらと小屋の中へ侵入し、ガクリと床の上に崩れ落ち、顔の布を取ることも忘れ、眠りにつきました。

(  ゚ ゚)「んあ……」

目覚めたのは夜でした。それはその日の夜だったのか、はたまた次の日の夜だったのか、わかりません。
ただ、あたしの両眼は、これ以上眠ってしまえば二度と開かないくらいに、腫れぼったくなっていました。



475: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 22:47:18.30 ID:ZC1hkslO0
 
( *><*)「わっかないです!」

そして傍らには、わっかないですが座っていました。
彼女は目覚めたあたしの顔をペロペロと舐め、嬉しそうに尻尾を振りしだきます。

(  ゚ ゚)「ごめん。心配かけたね。大丈夫。あたしは当分死なないよ」

( *><*)「わっかないです!」

彼女の頭をグリグリと撫で、寝過ぎの顔にむくみを感じつつあたしは笑います。

それからようやく、今いる場所が内藤ホライゾンとクーの作った小屋なのだと気づき、
朽ち果てた壁面や天井、床板を眺めます。

眺めてるうち、夜なのにそれらが見えていることに気づいたあたしは、
「ああ、今夜は満月なのだなぁ」と、外に出ました。

予想通り、東の空には満月が輝いていました。



478: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 22:49:16.54 ID:ZC1hkslO0

昇り始めの月というのは、ほのかな赤色に染まっているものです。

その理由など馬鹿なあたしにはわかりませんが、あたしは赤い月光が照らす草原に立ち、
生っているいくつかの黄色い実をもぎました。

(  ゚ ゚)「たぶん、これがトウモコロシなんだろうな」

口元の布をずらしてその粒を食し、空腹を満たします。

同じようにわっかないですにもその粒を食べさせたあと、草原をかき分けて進み、
小屋の近くにあった一本の木の下へとあたしたちはたどり着きます。

その木の下には、一本の、明らかに人の手が加わった、朽ち果てた木の棒が転がっていました。



483: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 22:50:22.05 ID:ZC1hkslO0
 
もしやと思ったあたしは、腰のジャンビーヤを引き抜き、
悪いことだとは理解しつつも、木の周囲の地面を掘り起こします。

わっかないですも手伝ってくれ、
そうやって数時間あたりの土を広く浅く掘り続けて、ついにあたしは見つけ出します。

(  ゚ ゚)「この人が……クーさん……」

木から少し離れた土の中から月光の下に姿を現したのは、白骨化した亡骸でした。

頭蓋骨の両こめかみ部分に深い穴が一つずつ空いているのを見て、あたしは亡骸の正体を確信しました。



490: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 22:52:30.54 ID:ZC1hkslO0
 
あたしは再び草原の中をかき分け進み、
草原と赤土地帯の境目に置きっぱなしにしていたそりの上から、ブーンの遺品の一部を取り出します。

それらを携え再び木の近くへと戻り、掘り起こした亡骸の傍へ置いていきます。

黒いジュウという武器。ショボンさんの黒いナイフ。
そして、残ったもう片方のブーンの太ももの骨。

(  ゚ ゚)「他にもたくさんあるけど、それはまだあたしが使うから、今度来る時まで預かっておくね」

呟いて、堀起こした亡骸と置いた遺品と遺骨の上に、土を戻していきます。
そして最後のひと土を盛るその前に、あたしは顔を覆った布を取り、大地にはらりと落としました。

わっかないですがそれを見て、尋ねるように一つ声を上げました。

( *><*)「わっかないです?」

ξ゚ー゚)ξ「いいの。もう、これはいらないから」

そう残して最後の土を盛り、こうして出来たブーンとクーさんのお墓を前に、深く、礼をしました。



497: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 22:54:31.32 ID:ZC1hkslO0
 
ξ゚ー゚)ξ「ブーン、あたし、ようやく着いたよ」

転がっていたあの木の棒を墓標として土の上に深く突き刺しながら、あたしは続けます。

ξ゚听)ξ「すごい場所だったね、あんたの生まれた所。あたし、怖くて逃げだしてきちゃったよ。
      だってあそこ、お墓みたいだったんだもん。それも普通のお墓じゃない。
      誰も入ることが許されない、入ったらどこかへ引きずり込まれそうな、そんなお墓だった」

突きさした墓標を前に、あたしは背筋を伸ばして立ち、笑みを作ります。

ξ゚ー゚)ξ「ギコさんとしぃさんに会ったよ。二人とも、あんたのために泣いてたよ?
      ギコさんなんか、すごい大声で泣いてたんだよ? ちゃんと聞こえてた?」

( *><*)「わっかないです!」

唐突に響いたわっかないですの鳴き声が「わかんないです」と聞こえて、
ブーンの言いたいことを代弁しているように思えて、あたしは彼女の頭を撫で、言います。

ξ゚ー゚)ξ「そうだよね。わかんないよね。だってあなたはここにはいない。
      あなたはもう、この世界のどこにもいない。このままじゃ、あなたは二度と歩けない」



501: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 22:56:34.43 ID:ZC1hkslO0
 
ξ゚ー゚)ξ「だからね、あたしはもう一度、あなたを歩かせようと思うんだ」

( *><*)「わっかないです?」

撫でていたわっかないですが首を傾げながら、まるで意味を問いただすかのように鳴きます。
あたしは彼女に笑みを返し、それからまた墓標へと視線を移し、姿勢を正して誓いました。

ξ゚ー゚)ξ「あたしね、ギコさんたちの村に帰って物語を書くよ。
     あなたが歩いてきた物語を。あたしが歩いてきた物語を。
     それが、あたしが見つけた、あたしだけの歩く意味」

そうやって改まっている自分がちょっと恥ずかしくなり、
あたしは墓標の前に屈みこみ、照れ隠しとしてグリグリとわっかないですの頭を撫でました。

それからまた墓標を向いて、頬をポリポリと掻きながら言いました。

ξ゚ー゚)ξ「ギコさんとしぃさんにブーンの話をした時、あたし、気づいたんだ。
      こうやって話を語り伝えていけば、それを聞いた人たちの中であなたは、あたしは、
      あなたが出会った人々は、あたしが出会った人々は、ずっとその中で生き続けるんだって。
      その人たちからまた別の人に話が伝わって、そうやって未来まで生き続けるんだって」



516: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 22:59:01.67 ID:ZC1hkslO0
 
ξ゚听)ξ「だけど、人から人に伝えられる中で、
      あなたが歩いてきた物語は、少しずつ変えられていくかもしれない」

そう言ってから立ち上がり、あたしは手近にあった植物から黄色い実をいくつかもぎ取りました。

そのうちの一つをわっかないですの前に置いて、
むしゃむしゃと食べ始めた彼女を眺めながら、あたしはまた続けます。

ξ゚ー゚)ξ「だから、あなたから直接話を聞いたあたしが、
      あなたの歩いた道を正確に、永久に変わることが無いよう、本として残そうと思うんだ。
      そしてその本のうちの一冊を、この土の下のお墓に置こうと思うの」

それからあたしは、残りの黄色い実を墓標の前に備えます。
だけど、あたしが本を置きたいのはこのお墓ではありません。

このお墓のさらに下にある、あの場所です。

ξ゚听)ξ「ねぇ、ブーン。あなた、言ってたよね。『僕は今と千年前を繋いできた。
      そこにたくさんの人の想いを結びつけてきた。それが僕の歩いてきた意味だ』って。
      でも、あたしは違うと思う。あなたの歩いてきた意味は、それだけじゃないと思う」

屈みこんだ状態で頬杖をつき、そこにいるはずのないブーンに向けて、あたしは自分なりの考えをぶつけました。



525: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 23:00:58.67 ID:ZC1hkslO0

ξ゚ー゚)ξ「あなたはね、千年前と今だけじゃなく、未来も繋いでいたんだよ。
      あなたは、歩いてきた道の上にたくさんの種を植えてきた。それは世界中に散らばっている。
      その種っていうのは、内藤ホライゾン、あなたの中にいたその人の知識なんだよ」

そして立ち上がり、振り返ります。その先には、赤土の大地から浮いた広大な草原。

ξ゚ー゚)ξ「それはいつか必ず芽吹いて、幹を伸ばして、世界中に花を咲かせる!
      そしてたくさんの実をつけるんだよ! 千年前の世界より素晴らしい未来っていう実を!
      今ここに葉を広げている、内藤さんとクーさんが植えた植物たちみたいに!」

草原の端から端まで指でなぞり、あたしは夜に叫びます。
あたしの動きに呼応して、遊びと勘違いしているのでしょう、嬉しそうにとび跳ねるわっかないです。

そんな彼女が可愛くもあり、だけどうざくもあったので、蹴りを一発お見舞いしました。



544: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 23:03:26.70 ID:ZC1hkslO0
 
ξ゚ー゚)ξ「この土の下に眠ってる天才さんたちは、きっと目覚めて驚くよ?
     だって、その人たちが知ってる世界よりはるかに凄い世界が、千年後にはきっと待ってるんだもん!
     それはブーン、あなたのおかげ! あなたが出会ってあなたを歩かせてくれた皆のおかげなんだよ!」

歌うように叫ぶあたし。地に伏したわっかないですではなく、
そのさらに下、千年後まで眠り続ける天才たちに向け、あたしは声を落とします。

ξ゚ー゚)ξ「そのことをさ、あたしは彼らに教えてあげるの。あのお墓の中にあたしが書いた本を置くことで」

その言葉を自分に向けられたものと勘違いしたわっかないですが、
起き上がり、あたしの胸に飛びかかってきました。

「ごめんごめん」と笑いかけ、あたしは彼女を抱きあげ、
天頂に達していた銀色に光り輝く満月を一緒に見上げ、呟きました。

ξ゚ー゚)ξ「その本の中で、あなたは永遠に歩き続ける。いや、あなただけじゃない。
      あたしも、クーさんも、ドクオさんも、ギコさんも、しぃさんも、ショボンさんも、
      ビロード君もちんぽっぽちゃんも、三匹の子犬さんも、ヒッキーさんも、ジョルジュも。
      わっかないですも、まんこっこ君も、みんなみんな、本の中で歩き続けるんだよ」



555: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 23:05:26.08 ID:ZC1hkslO0
 
ξ゚听)ξ「ねぇ、ブーン? あなた、満月が嫌いだって言ってたよね?
      満月があなたの前で人を殺すって言ってたよね? 
      でも違うよ。こんなに綺麗な月が、人を殺すはずがない」

照る月は、いつでも世界を銀色に染め上げます。誰かが流す悲しい涙さえも美しく。
いや、悲しい涙こそ美しく、月は銀色に染め上げようとするのでしょう。

ξ゚ー゚)ξ「きっと、満月はあなたを慰めていたんだよ。
      目の前で誰かが死んであなたが悲しんでる時、だから満月はいつも浮かんでたんだよ」

それからあたしは思い出します。

旅のはじめに見た銀色の故郷の町を。
世界で一番美しいと思った、今でもそう思っている、バイカル湖の夜を。

そして、にじんだ視界の先に映ったのは、
それらに負けないくらい美しい、風に揺れる銀色の草原。ブーンのお墓。

ξ;ー;)ξ「だってほら……見てよ……
       満月に照らされたあなたのお墓は……草原は……こんなにも綺麗なんだよ?」



576: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 23:07:44.17 ID:ZC1hkslO0
 
かつて、歩き続けた男と、それからも歩いた女がいました。

道半ばで倒れた彼。そのあとを女は引き継ぎ、
辿りついた始まりと終わりの場所で、歩く意味を見出しました。

ξうー;)ξ「あはは……ブーンにはまだ……見れないよね……
       だってあたし……まだ本……書いてないもんね……」

けれど、彼女の歩みはまだ終わりません。
むしろ今、彼女は本当の意味で歩き始めたばかりなのです。

だから彼女は、これからも歩き続けます。
出会ったたくさんの「もの」たちとともに、ずっとずっと歩き続けるために。

ξうー゚)ξ「だから、しばらくお別れだね。
      あたしが本を書き終わるまで。歩く意味を達成するその時まで」



596: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 23:10:00.33 ID:ZC1hkslO0
 
彼女はジャンビーヤを引き抜き、夜空に向けて掲げました。

月と同じ色に光る刀身の表面に彼女は、笑う自分自身の姿を見ます。

笑う自分、そのさらに後ろに彼女は、
これまで出会ってきたたくさんの人々の顔が見えた気がして、再び微笑み、こう呟きました。


ξ゚ー゚)ξ「その時にまた、この世界の上を、一緒に歩こうね」














連結部  歩き続けた男と、これからも歩く女の話 ― 了 ―



612: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/19(水) 23:11:28.44 ID:ZC1hkslO0
 






         緩やかに流れる時 千年後も今も同じ
         歩き続ける道の先 君は一体何を見る








        ( ^ω^)ブーンは歩くようです ― 了 ―



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