(´・ω・`)としぃの願い事

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 19:56:55.96 ID:AyApI6HH0
   トレンチタウンの官庁の庭にふたりで坐っていた日のことだ

   善良な人達の中に偽善者どもがそしらぬ顔をして

   混じっていたのをふたりで眺めていた

   そんな中で出会った大切な友人たちも

   ひとり またひとりと闘いの中で倒れていった

   どんなに素晴らしい未来がやってこようと

   昔の日々は忘れられやしない   
   
   だから涙を拭うんだ

   

         ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ 「ノー・ウーマン、ノー・クライ」より



2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 19:58:49.87 ID:AyApI6HH0
七月。ある街の貧民街。

浮浪者たちが集まるその場所の、さらに隅っこにあるドブ川の土手に、一人の男が座り込んでいた。
30代に見えるその男性の視線は、星ひとつ見えないどす黒い夜空へ向けられていた。
汚らしい服装で、一心不乱にスモッグで汚された空を見つめている。

(´・ω・`)「・・・」

その瞳はどこか人間のものではないようで。だが、それでいて誰よりも人間らしい輝きを放っていた。



(,,゚Д゚)「よう。あんた、酒か食いモン持ってねえか?」

(-_-)「ちょっとくらい腐っててもいいんだよ。もう俺たち三日も何も食ってないんだ」

二人組みのホームレスらしき男たちが、座っている男性に話しかけてきた。ひとりは60歳ほどの年配で、
もう一人は20代後半だろうか。彼らもやはり汚い格好で、どちらもガリガリにやせ細っていた。

話しかけられた男はそれでも空へ向ける視線を動かさず、聞こえていないかのように身体を微動だに
しなかった。

(,,゚Д゚)「なあ、頼むよ。このままじゃあ俺たち死んじまう。あんたには関係ないかもしれないけどよぅ」

(-_-)「なんだっていい。なんだって。食える物ならどんなものでも――――おぉ!?」

そこで初めて動きをみせた男性は、懐からパンと酒の缶を取り出し物乞いたちに投げてよこした。
もはや諦めかけていた彼らは、すぐさまそれに飛びつき貪り始めた。



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:00:22.53 ID:AyApI6HH0
しかしその間も、男の眼差しは上空へ固定されたままである。そばで音をたててものを食い漁る人間がいるにもかかわらず、じっと空を見つめていた。

その様子はまるで、暗闇で探し物をしているかのような。

確かにそこにある、透明な何かを見ようとしている人のような。

そんな光景を連想させるものだった。



(,,゚Д゚)「ふう。ありがとよ。この恩は忘れねえ」

(-_-)「そうだよ、ほんとに感謝してる・・・なあ、よかったら少し話でもしていかないか?不幸自慢なら負けないよ?俺たち」

(´・ω・`)「・・・」

パンをあっという間に食べ終えた二人は、酒をちびちびと飲みまわしながら男に提案した。よほど暇なのだろう。
彼らは男の返事を期待してはいないようで、彼のそばに座り込みどちらが先に話すか相談している。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:02:58.79 ID:AyApI6HH0
(,,゚Д゚)「まあ、勝手に話してるから聞いてくれよ。じゃあまず俺からな・・・」

その浮浪者は自分の過去を語り始める。なぜかその目は生き生きとして見えた。

(,,゚Д゚)「俺はこれでも昔は会社の社長だったんだよ。社員だって何百人もいた。
想像できねえだろ?こんな乞食が、十年前は部下をアゴで使ってたんだぜ」

(-_-)「はっ。そんなやつ、この辺じゃ珍しくもないね。昔はちゃんとした職を持ってたやつなんて、いくらでもいるよ」

もうひとりが口を挟んだ。が、気にせず彼は演説を続ける。

(,,゚Д゚)「何百人だぞ?全員の部下の顔を把握しきれねえほどだぜ。ま、それが元凶だったといえなくも無いかな」

彼はそこまで言って、急に顔つきを変えた。よく怪談を話す時に、ここから怖くなるぞ、という場面でするように。

(,,゚Д゚)「俺の会社は食品会社だったんだがな。下っ端の部下が、材料に死体を混ぜやがったのよ。人間の。
信じられるか?ウチの会社の食品食ったやつは、めでたく食人族の仲間入りってわけ。
そんなこと部下がしでかしたら、その社長は当然社会から追放されるに決まってる。もちろんすぐにバレて、会社は倒産。
で、いま俺はこうして人間の死体ですらご馳走に思えるような生活してるわけだ」

最後にうまいこと言って、満足げな笑みを浮かべる元社長の浮浪者。その表情に、怒りや後悔の念は微塵も浮かんではいない。
あるのは自虐だけだ。

座り込んでいた男はそこで、やっと空から視線をはずしその哀れな乞食を見て、言った。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:05:08.88 ID:AyApI6HH0
(´・ω・`)「・・・家族は?」

(,,゚Д゚)「さあな。どっかでほそぼそ暮らしてんじゃねえかな。ここに逃げてきてから一度も会ってねえ」

(´・ω・`)「・・・会いたいと思わないのかい?」

(,,゚Д゚)「会えるかよ、こんな体たらくで」

(´・ω・`)「ふうん・・・」

(-_-)「あんたはどうなんだ?よかったら、あんたの話も聞いてみたんだ。俺の話なんか聞いてもつまらないよ、きっと」

(,,゚Д゚)「ああ、こいつはほんと、ただのロクデナシだからな。仕事すんのがいやでここに来て、もう五年くらいだろ?」

(-_-)「うるさいな、働いたら負けなんだよ・・・それで、どうだい?話してくれないかな。あんた見たところ真面目そうな顔してるし、気になるんだよ。
なんでこんな所で一人空ばっかり眺めてたのか」

二人組の若いほうが、彼に話すよう促す。
要求された男は悪臭を放つドブ川を見つめていたが、しばらくしてしゃべりだした。

(´・ω・`)「・・・信じる信じないは君たちの勝手だよ」

(,,゚Д゚)「・・・?なにをだ?」



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:06:47.36 ID:AyApI6HH0
(´・ω・`)「・・・それじゃ、僕の昔話をしようと思う。時間はたっぷりあることだし。・・・そうだね、この話の始まりは・・・・」

彼はそこでまたしても夜空を見上げ、ゆっくりと言った。



(´・ω・`)「僕が死んだところからだね」





―――ある日の仕事帰り。僕は我が家に向かって車を走らせていた。
その日は仕事の残業で少し帰宅時間が遅くなり、家で一人待つ幼い娘に申し訳なく思いながら車を運転していた。
会社は都心にあるのに、自宅はドがつくほど田舎にあることがうらめしい。親が農家だったから仕方の無いことなんだけどね。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:10:05.91 ID:AyApI6HH0
一秒でもはやく家に帰って、愛しのわが子をこの手で抱き上げたかった。それから頬ずりをして
「おとうさん、おひげくすぐったいよー」という声を聞きたかった。
残業の疲れ?そんなもの、あの笑顔を思い出しただけで跡形もなく吹っ飛ぶさ。
その思いが、僕のアクセルを踏む足を強くさせた。

そして、それがいけなかった。

人が立っていたんだ。それも、僕の車のまん前に。ハイビームのライトを浴びたその若い男はこちらに顔を向け、驚いた顔をしていた。
でも、きっと僕の顔のほうが凄かったと思う。
死ぬんじゃないかってくらいに驚いて、僕はハンドルを思いっきり右に切った。ほとんど脊髄反射だった。

ほんとうに悔やまれる。そのとき、左ではなく右へ切ったことが。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:12:40.03 ID:AyApI6HH0
奇跡的にその人を避けられたんだけど、ほっと息をつく暇もなく、今度は対向車がこっちに迫ってきていた。
いや、実際は僕が迫っていたんだろうけど、僕の目にはそう見えたんだ。

なにせその対向車、バカみたいにでかいトラックだったんだ。僕の視界を、そのバンパーが覆い尽くしていたよ。
もう一秒も経たないうちに、僕の身体はいろんなものを飛び出させながらペチャンコになるだろうということは、
誰が見ても明らかだった。

走馬灯ってやつ知ってるだろう?死ぬ直前に見るという、あれ。僕も見たんだ。
まず最初に、一人娘のしぃの顔が僕の目に映った。こっちを見ながら笑っていたよ。

そして次に、しぃが産まれた二年後に死んでしまった、妻のクー。彼女の、あまり見せない笑顔をそのとき拝めた。
それだけが救いだったよ。

もっと見たかったんだけど、そこで終わりだった。
僕の脳みその神経伝達のスピードが、数十キロの速度が出てる自動車同士の衝突時間に間に合わなかったんだ。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:15:23.43 ID:AyApI6HH0
そこで僕の意識は一度途絶えた。
普通なら、もうその意識が回復することはないんだろう。けれど僕は違った。
夢を見ない永い眠りから覚めたような感じで、僕はまた、目覚めたんだ。



そこは部屋の中だった。広めの部屋だったけど、物がたくさんあってごちゃごちゃしてた。
木でできた本棚。テーブル。鑑賞用の植物に、革でできたソファー。レコードプレイヤーと大量のレコード盤。
その家具のどれもが、古くて味があるもので、色鮮やかだった。
黄、赤、緑の三色が多くて、バランスよく配置されていた。

僕はテーブルを挟んで向かい合った二つのソファーの片方に座っていた。
そしてもう片方、つまり僕の正面に、一人の男が座っていた。
彼は真っ黒なスーツを着ていて、腕を組みながら僕に話しかけてきた。


('A`)「こんばんは」

(´・ω・`)「・・・あなたは?」

('A`)「見てわかんないのか。神だよ、神」

わかんねえよ。貧相な顔しやがって。そんなことより、まずはいろいろと確認しなくてはならなかった。

僕は死んだのか。ここはどこなのか。噂の天国か?彼が本当に神様なら、僕に何の用があるのか。

なぜかその時僕はとても冷静だったのを、はっきりと覚えている。
そこで、その神様はこう仰った。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:18:59.51 ID:AyApI6HH0
('A`)「第一に、お前は死んだよ。グッチャグチャになってな。
次に、ここは天国じゃない。あそこにはな、そうそう逝けるやつはいないんだよ。うぬぼれんじゃねえ。
そして次が本題。お前をここに呼んだのは、単なる気まぐれ。たまにこうやって死んだやつの魂つかまえて、遊ぶんだよ。
お前にとっちゃ一大事かもしれねえがな」

(´・ω・`)「・・・」

その、自称神様は一気にそこまで言い切って、ソファーから立ち上がった。
レコードプレイヤーのところまで歩き、それに一枚のレコードを取り出してのせ針を落とす。

ここは天国じゃない?じゃあどこだ。僕をここに連れてきたのは単なる気まぐれ?僕はこれからどうなるっていうんだ。

そこまで考えたとき、音楽が流れ始めた。

その曲の歌詞は英語だったけど、サビだけは僕でも何を言っているのか分かった。



『Get up  Stand up  Stand up for your rights』
『起き上がれ 立ち上がれ 権利のために立ち上がれ』



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:21:43.55 ID:AyApI6HH0
('A`)「・・・・一から・・いやゼロから新しくものを創ることって、すげえことだと思わねえか?」

彼は僕に問いかけた。けれど僕が答える前に、彼はさらに言った。

('A`)「俺はもうやってらんねえ。マンドクセェ。
   だからお前の来世を創る代わりに、もう一度その命で生きてもらいたい」

僕は何もしゃべらない。

('A`)「チャンスをやる。これから俺が言う選択肢から、選べ。一回しか言わねえからな、よく聞け。
   このまま、その魂をすりつぶされて新しい生命の材料になるか。
   それとも、その命のままもう一度あの世界で生きるか」

(´・ω・`)「この命でもう一度生きたい。あの世界で。あの、しぃがいる世界で」


('A`)「・・・ふう、やれやれ」

なんの迷いも無く答えた僕をみて、神様はため息をついた。
その目には哀れみの感情が浮かんでいるような気がした。

なんでだ。当たり前だろう?人間の脳は、死にたくないと思うようにできているんだろう?
あんたがそう創ったんじゃないのかよ。そのむかつく目でこっちみんな。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:24:56.05 ID:AyApI6HH0
('A`)「・・・続きがあるんだよ。いいか。後者を選んだ場合には、多くの条件が発生する。
   マンドクセェぞ。
   これも一回しかいわねえ。よく聞いて、そしてよく考えろよ」

('A`)「まず、生き返ったとしても、お前がいままで触れ合った人間には会えない。絶対に。
   それから、生き返ったら今度は死ねなくなる。
   ビルから飛び降りようと、心臓を刺されようと、毒を飲もうと」

(#´・ω・`)「ふ、ふざけんな!それじゃあ、しぃには・・・!」

僕は我慢できずに叫び、立ち上がろうとした。
でも身体が動いてくれなくて、驚いて言葉を詰まらせてしまった。

('A`)「おちつけ。俺は神。そしてお前は俺の創造物だ。おまえなんかどうとでもできるんだよ。
   そう、おとなしくしてろ。そんじゃ、こいつを見てもらおうかね」

彼は天井に付けてあるスクリーンを下ろし、映写機を回し始めた。
ずいぶんアナログ好きな神様だな。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:28:32.28 ID:AyApI6HH0
しばらくしてスクリーンに映し出されたのは、ある森の中。
カメラがズームして、そこに一人の男がうずくまっているのが見えた。
その男は、なにかに怯えるように周囲をうかがっていた。その目からは絶え間なく涙が溢れ出ている。

僕はその表情を見て、彼が発狂しているのが分かった。

('A`)「こいつは、そうとう前に俺の遊び道具になってもらったやつだ。
   今のお前みたいに質問されて、生き返りたいとすがり付いてきた。さっきの条件を提示しても。
   案の定、何百年も生き続けて、周りから気味悪がられ迫害され、一人ぼっちに耐えかねて頭がおかしくなった。
   だが、こいつは死ねないんだよ。どうだ?これでも生き返りたいか?」



(;´・ω・`)「・・・・・・・あ、あんたは、あんたは神なんかじゃない・・・悪魔でもない。
     もっと・・・・・邪悪なものだ」

('A`)「おいおい、神ってやつはな、決して善良なものじゃあないんだよ。いまさら気づいたのか?
   そんなこと、聖書を読めばすぐにわかることだろ?」



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:30:54.89 ID:AyApI6HH0
(;´・ω・`)「・・・」

('A`)「自分で創った人間が勝手にふえて犯罪ばかりしてるから、気に入ったやつだけ残して
   後は全部ぶっ殺しちまおう、とか」

('A`)「自分の息子が磔にされて処刑されそうだってのに見て見ぬフリしたりとか。
   ハッ。神なんか、どう考えても悪の塊だよ」

(´・ω・`)「・・・」

('A`)「ま、そんなことどうでもいいんだ。お前にはまだ最後の条件を言っていない。
   さっき映像で見せた男にも言ったんだがな。あんだけ狂っちまってたら、意味がなくなるものだが。

   俺は、生き返ったら死ねなくなるとは言った。だがな、あることをすれば、死ねるんだよ。
   聞きたいか?」


(´-ω-`)「・・・・・・僕が死んだことを、無かったことにはできないのかい・・・?」

('A`)「それはできねえな。よほどのことが無い限り。その義理も無い。で、聞きたいか?」



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:32:45.99 ID:AyApI6HH0
(´・ω・`)「・・・・・教えてくれ・・・」

('A`)「それはな」

彼はいつの間にかソファーに腰掛けていて、僕に顔を近づけて言った。



('A`)「人の願いを、叶えること」



(´・ω・`)「・・・願い?」

('A`)「そうだ。願い。つまり望みだよ。結婚したいだとか。ミュージシャンになりたいだとか。あるだろ?
   だが自分の願いじゃあない。他人の、だ。そこで」

彼はまた立ち上がり、部屋の隅に置かれている棚へ移動した。
そしてその引き出しを開け、中からあるものをとりだし、それを持って再びソファーに座った。

それをテーブルの上に置き、言った。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:35:29.43 ID:AyApI6HH0
('A`)「これを使うんだ」

(´・ω・`)「・・・・・これを?」

神様が持ってきたそれは、どこからどう見てもピストルにしか見えなかった。
一度も実物を見たことが無い僕でも分かる。リボルバーってやつだっけ。

で、これをどうしろと?

('A`)「こいつで、願いをかなえてやりたいやつを、撃つんだ。そしてそいつの願いを叶えてやる。
   そのとき、お前は死ぬことができる」

(´・ω・`)「・・・それで撃たれた人は、死んだりしないのかい?」

('A`)「ああ、死なない。こいつに入ってるのは普通の弾じゃないからな。
   それと、一発。一発しか弾はない。まあ、死にたくなったらこの銃を思い出せ」

(´・ω・`)「・・・わかった。もらっておくよ。それじゃあ、はやく僕を帰してくれ。
     娘が家で一人待ってるんだ。僕の帰りをね」



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:37:21.15 ID:AyApI6HH0
('A`)「・・・・・あの映像を見ても、気は変わらないか・・・それに言ったはずだが、娘にはあえねえぞ。
   お前は、いままでに接触した人間とは―――」

(#´・ω・`)「いいからはやくしろよ!一人なんだ、あの子は!僕しか家族はいないんだよ!」

僕は今度こそ叫びながら立ち上がった。

万物の創造主だとか、自分にチャンスを与えてくれる人だとか関係ない。
この人が神だということをもう疑ってはいなかったし、この出来事が悪い夢だとも思ってはいなかった。


ただ、もう二度としぃには会えないということだけは認めたくなかった。

たとえ、神の言葉であっても。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:41:21.37 ID:AyApI6HH0
('A`)「・・・いいだろう。そんじゃあ、さよならだ。
   お前とはもう会うことは無いと思う。観察はさせてもらうけどな。
   お前はどれくらいで狂うのか、面白そうだぜ。じゃあな」

そこでまたもや僕の意識は途切れる。
視界がブラックアウトする直前、神様がゆっくりと立ち上がるのが見えた。
おそらくレコードプレイヤーのところへ行くのだろう。そして、レコードを入れ替えるのだろう。

彼と話してる間にいつの間にか変わっていた曲のサビを、僕はまだ覚えている。
その歌詞の意味も。




『Lively up yourself』


――――元気を出せよ。ウジウジしてちゃ、サイアクだ。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:42:41.21 ID:AyApI6HH0




(,,゚Д゚)「・・・・・」

(-_-;)「・・・・・ハ、ハハ!面白いな、あんたの話。もっと聞かせてくれよ、なあ?」

(,,゚Д゚)「・・・本当の話か?今のは」

(´・ω・`)「信じる信じないはそっちの勝手だと言っただろう」

(-_-;)「バ、バカ!ほんとのわけないじゃないか!笑わせようとしているんだろ?俺たちを」

(´・ω・`)「・・・」

これまでの話を語っていた男は、依然として空を見ている。

途中、二人組の若いほうの男が、何度か話の腰を折ろうと口を挟みかけたが、もう片方の年配の男がそれを止めていた。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:46:22.25 ID:AyApI6HH0
時刻はすでに真夜中を過ぎている。
七月の夜風が、座り込んでいる三人を包み込み、そして過ぎ去っていった。

(,,゚Д゚)「・・・で、その続きは?あるんだろ。話してくれよ」

(-_-)「そ、そうだよ。俺も気になる」

(´・ω・`)「・・・・・そうだね。どこまで話したかな」

(,,゚Д゚)「神様とさよならしたところだよ」

(´・ω・`)「ああ、そうだったね。うん。それから僕は―――」



――――それから僕は、路上で仰向けに倒れた状態で、意識がもどったんだ。

あの部屋で目覚めたときのように、とても長い時間眠っていて、自然に目が覚めるような感じで。
そしてゆっくりと起き上がって、辺りを見回した。すぐそばに、原型をとどめていないほどに大破した自分の車があったよ。
その自家用車は、トラックのフロント部分にへばりついていた。

トラックの運転席に動かない運転手がいるのが見えたけど、そんなことにかまっている暇はなかった。

僕はすぐに自分の家の方向に向かって走り出した。身体はどこも怪我をしていなかった。



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:48:39.44 ID:AyApI6HH0
しばらく走っていると、タクシーがこっちへ向かってくるのが見えた。
僕は手を上げながらそれに飛びつくように近寄った。

タクシードライバーは驚いて急ブレーキをしたようだったけど、間に合わずに僕を跳ね飛ばした。

痛かったよ。なにせ本日二回目の自動車事故だ。でも痛がっている場合じゃなかったからね。
すぐさま起き上がって運転席側の窓を叩いた。

(;´・ω・`)「乗せてくれ!!頼むよ!時間が無いんだ!!」

後部座席のドアが開いた。僕は迷わず飛び乗ったよ。止めとけばよかったと、今になって思う。

(;´・ω・`)「美府町の5番地だ!そこへ向かってくれ!とにかく急いでくれ!」

( ・∀・)「・・・・・」

それからタクシーは走り出した。そして一分も経たないうちに気がついた。

(;´・ω・`)「おい!美府町だって言ってるだろう!?この道じゃあ等雲寺町に行ってしまうじゃないか!」

( ・∀・)「・・・」



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:51:23.33 ID:AyApI6HH0
(#´・ω・`)「聞いているのか?僕の家はこっちじゃない!美府だよ!」

( ・∀・)「・・・・・まずは等雲寺病院へ行かなければいけません。
      あなたの自宅へはそのあと向かいます」

(#´・ω・`)「・・・!!ふ、ふざけんな!僕はなんともない!僕は死なないんだ!」

( -∀-)「・・・頭も打っているようですね。申し訳ありません・・・」

(#´・ω・`)「なんだと!?僕は狂ってなんかいないぞ!本当なんだ!怪我なんてしてない!」

( ・∀・)「私はこの仕事に誇りを持っています。お客様を然るべきところへお送りすることが私の仕事。
      例え人身事故で自分の免許を剥奪されようと」

(;´・ω・`)「ぐ・・・!!もういい!車を止めて僕を降ろしてくれ!」

( ・∀・)「できません。それではひき逃げになってしまいます」



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:53:41.71 ID:AyApI6HH0
だめだ。これじゃあ話にならない。そう思った僕は、スーツの内ポケットをまさぐった。
そして、あの神様からもらったピストルを取り出し、わからずやの運転手の頭に押し付けて、すべての怒りを込めて言った。

(´・ω・`)「言ってるだろう?僕は急いでいるんだ。娘が、僕を待っているんだよ」

僕の表情と、こめかみに突きつけられたピストルをバックミラーで確認した運転手は、悲鳴をあげて車をとめ、すぐさまドアを開けて
逃げ出した。最初からこうしておけばよかった。

僕はすぐさま運転席に移ると、自分の家の方向へ向かって発進させた。

(´・ω・`)「はやく帰らなきゃ・・・しぃが待ってる・・・僕の帰りを・・・一人で」

あの運転手のせいでかなり家から離れてしまっていた。
僕は呪文のように同じセリフをつぶやきながら、今度こそ事故を起こさないよう気をつけて車を飛ばした。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:56:36.17 ID:AyApI6HH0

僕は神から貰ったピストルを、娘に使うつもりだった。
このピストルを受け取ったときから、ずっとそう考えていた。
せめて娘の願い事を叶えてあげて、そして死にたかった。

そのためにも、はやくしぃに会って願い事を聞かなきゃいけない。

今までに出会ったひと達とはもう会えない?しぃとはもう会えない?そんなバカな。会えないわけがない。
あの子には僕しかいないんだ。あんな最低の神の言うことなんて、くそくらえだよ。

そう考えていた僕の耳に、パトカーのサイレンが聞こえてきた。それも一台や二台じゃない。
どうやら僕の運転する車の後ろから聞こえてくるようだった。
そして、スピーカーを通した声も聞こえてきた。

『そこのタクシー!今すぐ車を脇に寄せて停まりなさい!!』

(#´・ω・`)「チッ、あのタクシードライバーめ・・・通報しやがったな・・」

もちろん止まるつもりなんてなかった。僕はアクセルをさらに踏みつけ、警察どもを引き離しにかかった。
それでも彼等はしつこく僕を追いまわした。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:59:42.93 ID:AyApI6HH0
その後何十分も追いかけっこを続けていたら、前方からもパトカーが現れたんだ。

しかたなく僕はわき道へ入ったよ。
その先は山だったんだけど、とりあえずそこに逃げ込んで隠れ、やつらをやり過ごそうと思ったんだ。

山に入ってしばらくすると、ライトの調子がおかしくなった。
僕を跳ね飛ばしたときにすこし壊れたらしい。
おかげで前方はまっくら。その先が崖になっていることにも、気づけなかった。

墜ちたよ、崖から真っ逆さまにね。何回も車は斜面を転がって、ようやく止まった。
体中を半端じゃない痛みに襲われて、これなら死ねるんじゃないかと思ったよ。
でも、どこも怪我はしていなかった。血も出てないし、あざもできてない。

車から這い出して、僕は木の群れの中に逃げ込んだ。
警察のやつら、逃げる僕を見逃したらしく、追っては来なかった。

山を下りたあとも、僕は諦めなかった。

通りかかった車の運転手に銃をみせて脅して、車を奪ったりもした。
だけどなぜか、自分の家に向かおうとするたびに邪魔が入って、娘に会うことはできなかったんだ。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:02:30.40 ID:AyApI6HH0




(-_-)「・・・・・」

(,,゚Д゚)「・・・・・それで、その後はどうなったんだ?」

男が語り終わってから、年配の浮浪者が聞いた。
もはや若い方の浮浪者は、口を挟まなくなっていた。

(´・ω・`)「・・・あらゆる方法でしぃに近づこうとしたけど、結局は駄目だった。
     ほかの知り合いにも会いに行ったけど、無理だっんだ」

(´・ω・`)「あるとき昔の友達の家にいったら、火事を起こしていた。
     拾った新聞に、その一家が全員焼死したって書いてあったよ。

     それ以来、しぃに近づいたら彼女も死んでしまうんじゃないかと怖くなってね。近づくこともできない。
     彼女の願い事がなんだったのかすら、僕は知ることができなかった」

(,,゚Д゚)「・・・」



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:04:41.41 ID:AyApI6HH0
(´・ω・`)「ある日、知り合った男に頼んだんだ。
     このピストルで、僕の家に一人待ってる娘を、撃ってくれってね。僕や君たちのような、素性の知れない男に。

     しぃの願い事が何なのかは分からなかった。
     けど、とにかく他の人にそのピストルを使ってしまう前に、彼女に使ってしまいたかった」

(,,゚Д゚)「・・・それで、成功したのか?」

(´・ω・`)「・・・何日か経って、僕のところに戻って来たその男が何ていったと思う?」




『なんだよ、あの銃。弾が当たったのにあの女の子、何ともなかったぜ。
 仕方ねえからちゃんと俺がナイフで殺しておいてやったよ』



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:06:48.98 ID:AyApI6HH0


(,,゚Д゚)「・・・・・」

(-_-)「・・・・・・」

(´・ω・`)「・・・僕は空を見ながら、娘の願い事が何だったのか、ずっと考えていたんだよ。
     でも、もうそれを知る方法は、どこにもないんだ・・・どこにも。
     風の噂では、明日にも僕の家は取り壊されるらしい。帰るところも、なくなってしまう」

(-_-)「・・・」

(,,゚Д゚)「・・・・・気の毒になあ。俺たちはみんな、ひとりぼっちなんだよ。あそこで光ってる星みてえによ・・・」

男は鼻をすすりながら、汚い夜空を指差した。たしかに、ひとつだけかろうじて輝いている星があった。

(,,゚Д゚)「そういえば、今日は七夕だな。んじゃあ、あの星は織姫か彦星かも―――」





(´・ω・`)「・・・・・そうだ・・・七夕だよ」



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:08:18.31 ID:AyApI6HH0
(,,゚Д゚)「・・・?」

(´・ω・`)「七夕・・・なぜ今まで気づかなかったんだ」

(,,゚Д゚)「ど、どうかしたか?」

(´・ω・`)「僕はしぃが書いたり造ったりしたものは、全部大切に保管していた。どんなものだって」

(,,゚Д゚)「・・・?」

(-_-;)「そ、そうか!そうだよ!」

いままで黙っていた男が急に立ち上がって言った。

(,,゚Д゚)「どうしたんだよ、二人とも」

(-_-;)「わかんないのか?あんた何年生きてんだよ!七夕ってやつは、笹を飾るんだよ!そして―――」

(´・ω・`)「・・・そう。願い事を書いた紙を、それに吊るすんだ。ということは」

(,,゚Д゚)「そうか!それを見れば、娘さんの願い事が分かるのか!」



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:09:53.13 ID:AyApI6HH0
(-_-;)「なあ!あんた覚えてないのか?娘さんがなんて書いていたか!」

(´・ω・`)「・・・いや、覚えていない。でも、その短冊もしっかりとっておいたはずだ。
     家の書斎の引き出しの中に箱があってね。そこにしぃが描いたりしたものを、全部保管してある。
     もちろん、短冊もね」

(-_-)「じゃあ、行こう!いますぐに!まだ残っているかもしれない!」

(´・ω・`)「・・・」

(,,゚Д゚)「・・・なあ、急ごうぜ!あんたの家が取り壊される前によ」

(´-ω-`)「・・・でも、娘の願い事をいまさら知ったところで・・・・・彼女はもう、いない」

(-_-)「それでも!行ってもらいたいんだよ!あんたには!」

(´・ω・`)「なんでそこまでして?君たちには関係ないだろう?」



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:11:55.10 ID:AyApI6HH0
(#-_-)「関係なくなんか無いさ!俺たちにだって、暖かい家庭があった!
    あんたみたいな、やさしい親父がいたんだ!その親父がこんな・・・
    こんな姿で空ばっかり見上げてるのなんか、見たくないんだよ!」

(,,゚Д゚)「そうだぜ。俺にも息子がいた。
    どうしようもないバカ息子だったが、あいつが残したものが手に入るのなら俺はなんだってやる。
    あんたはそう思わないか?」

(´・ω・`)「・・・」

(;-_-)「ああもう!立ち上がれよ!早くしないと二度と手に入らなくなるだろう!」



・・・そうだね。ボブ・マーリーも歌っていた。『Get up Stand up』と。
今が、そのときなのかもしれない。

(´・ω・`)「・・・・わかったよ。今度こそ帰り着こう、我が家へ」



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:13:32.32 ID:AyApI6HH0



―――それから三人は、連れ立って街を抜け出した。
七月上旬の夜風は、ぼろきれしか着ていない彼等にはとても肌寒く感じられた。

(,,゚Д゚)「それより、どうすんだ?ここから近いのか?あんたの家は」

(´・ω・`)「かなり遠いね。山の麓にある」

(-_-)「なら足がいるね」

(´・ω・`)「・・・・・それなら、いい考えがある」

彼等は道路沿いで、震えながら待機していた。
やがて一台の車がこちらへやってくるのが見え、一人の男が道路に飛び出した。

案の定、彼は見事に自動車に跳ね飛ばされ、吹き飛んだ。
そして彼をはねた不幸な運転手は急ブレーキをかけ、車から降りて駆け寄った。

(;゚∀゚)「お、おい!大丈夫か!?くそっ、なんてこった・・・」



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:16:08.29 ID:AyApI6HH0
(,,゚Д゚)「よお、にいちゃん。ずいぶん派手にやっちまったねえ」

(-_-)「このことは無かったことにしてあげるから、その車貸してよ」

突然現れた二人が運転手に詰め寄って脅し始める。

(;゚∀゚)「な、なんだと・・・!さては当たり屋か?おまえら!?」

男は二人を突き飛ばし、車に戻ろうとした。
が、すでに運転席には先ほど跳ね飛ばしたはずの男が我が物顔で座っていた。

(;゚∀゚)「おい!おまえなんで・・・!!」

(,,゚Д゚)「おおっと、その車は返さねえぞ」

(-_-)「警察に言われないだけ感謝してよ」

起き上がった二人に取り押さえられ、もがく運転手。
助手席の窓がひらき、車を奪った男が身をのりだして言った。



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:17:30.07 ID:AyApI6HH0
(´・ω・`)「悪いね・・・少し借りるだけだよ。用が済んだらまたここに置いておくから、あとで取りにきなよ。

     ・・・・・それから二人とも、本当にありがとう。この恩は永遠に忘れない」


(,,゚Д゚)「食いモンと酒をくれたお礼だよ。それと、面白い話もしてくれたしな」

(-_-)「願い事を見てきたら、帰ってきて俺たちにも教えてくれよ。そのときはこっちがもてなすからさ」

(´・ω・`)「うん。わかった・・・・・それじゃあ」

そして彼は窓を閉め、山へ向かって車を発進させた。それを見送る二人は、その車に向かって親指を立てて幸運を祈った。

あわよくば、また彼に会えますように、と―――――



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:19:56.94 ID:AyApI6HH0
――――僕はなぜ、ここまでしてこの家にまた来たのだろう。
もう我が家には、愛しい一人娘も、妻もいないというのに。

ただ、僕は思い出したいだけだ。
もう一度、玄関を開けただいまと言って、リビングから返ってくるおかえりという返事を聞きたいだけだ。

娘が走ってきて、僕に飛びつく。彼女を抱きかかえながらリビングへ行き、娘をソファーに下ろす。
それから娘は今日描いたという絵を僕に嬉々として見せてくる。
よほど自信作なのだろう、ふんぞり返った彼女を前に僕は「上手になったなあ」と褒めてあげる。

お世辞じゃない。この絵は、ダ・ヴィンチやゴッホの絵よりも僕の心を動かすんだ。
そこには、僕としぃの二人が元気いっぱいに描かれていた。

それから仏壇へいき、クーに今日のことを報告する。写真の中の彼女は不器用に笑っている。
それでも、彼女は世界一美しかった。



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:21:28.99 ID:AyApI6HH0
しぃの話を聞きながら夕食を食べ、そのあとテレビを見てしぃと笑いあう。

やがて眠くなった娘を部屋へ連れて行き、怖いというので眠るまでそばにいてあげる。
そして世界で二番目に美しいその寝顔を見ながら、布団をかけなおして「おやすみ」と言い、部屋を出る。

それで僕の一日は、幕を閉じるんだ。

幸せだったあのころを思い出し、胸に何かがこみ上げてきた。
もう、そんな日常は戻ってこない。分かっているんだ。
だから今は、この涙を拭って探し物をしなくてはいけない。



しぃが残した、願い事を。



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:23:43.25 ID:AyApI6HH0


書斎らしき部屋に、そのかつての持ち主が立っていた。
使う人がいなくなったその部屋はほこりだらけで、蜘蛛の巣がいくつも張られていた。

(´・ω・`)「・・・・・あった」

大きめな机の一番下の引き出しを開け、中に入っていた大きな箱を取り出す。
それを持って、彼は書斎をあとにした。

彼が向かった先に、仏壇があった。
やはりそこもほこりだらけで、飾ってある写真は何が写っているのか分からないほどに汚れていた。
男はそれを服で丁寧に拭き取り、久しぶりに見る妻の顔を眺めた。

(´・ω・`)「・・・クー、ごめんよ」

彼は写真をそばに置き、持っていた箱を開け中身を取り出し始めた。



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:25:25.90 ID:AyApI6HH0
(´・ω・`)「ずっとしぃのそばにいるって言ったのに」

彼の娘が、ずっと昔に描いた家族の絵。
ハの字の眉毛でやさしそうな瞳を持った男性と、髪の短めな女の子が、画用紙いっぱいに描かれていた。

(´・ω・`)「僕の不注意でさ、事故を起こしてしまったんだよ」

紙粘土でできた動物の置物もあった。猫だろうか。

(´;ω・`)「僕はただ、ただ早くしぃに会いたかっただけだったのに・・・」

幼い文字でびっしり埋め尽くされた作文。家族のことについて書かれている。
「だいすき」という言葉が、ひときわ大きく書かれていた。

(´;ω;`)「・・・神様は、ひどいやつだったよ。
     君は今しぃと一緒に天国にいるのかな?
     そうそう天国へはいけないって神様は言ってたけど、君たちなら絶対にそこにいるって信じてるよ」



64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:26:53.66 ID:AyApI6HH0
そして、彼の動かす手が止まった。とうとう、探し物が見つかったようだ。
いつかの七夕の夜、笹に飾ったあとここに大事にしまった、娘の願い事が書かれた短冊。

それを手に取り、白々と明け始めた日の光にかざして読む。

(´・ω・`)「・・・・・ああ、そうか―――」

――――思い出したよ。いつも言ってたもんなあ。しぃ、ごめんよ。こんなお父さんで。





その瞬間、彼の意識は何者かに連れ去られた。



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:28:08.84 ID:AyApI6HH0
――――前にもあったな、この感じ。

確かそのときは、目を開けるとそこは色鮮やかな部屋の中で、僕はソファーに座っていた。
そして神とか名乗る男が目の前に座っていたんだ・・・・・今みたいに。



('A`)「こんばんは。また、会ったな」

(´・ω・`)「・・・もう会うことは無いって言っていたじゃないか」

('A`)「気が変わったんだよ。神は何をしても許されるんだ」

神を名乗る男は腕を組んでそう言った。

(´・ω・`)「・・・・・いまさら何の用だい?できればその貧相なツラ、二度と見たくはなかったんだけど」

('A`)「おい・・・神にむかってずいぶんな口をきくようになったじゃねえか」

(´・ω・`)「・・・・・それで、僕になんの用があるんだ?」

神は立ち上がり、いつかのようにレコードプレイヤーのもとへ歩き、レコード盤を取り出して乗せ、針を落とした。



68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:29:39.29 ID:AyApI6HH0
('A`)「お前はさっき、自分の娘の願いごとを見たな?」

(´・ω・`)「・・・・・ああ、見たよ。しっかりと。なんで思い出せなかったのか、不思議だなくらいだ。
     いつも口癖のように僕に言っていたのにね」

彼はまた思い出してしまった。もう聞くことのできない、あのかわいらしい声を。あどけない笑顔を。

頭を抱える悲哀に満ちたその男を見て、神が言った。

('A`)「お前はあのピストルを他人に渡し、そいつに娘を撃たせた」

(´・ω・`)「ああ。だけど、しぃはそいつに殺された」

('A`)「だがその娘に弾が当たったのは事実だ。
   あとはお前が娘の願い事を叶えてやれば、お前は死ねるはずだった」

(´・ω・`)「・・・」

('A`)「お前の娘が短冊に描いた願い事は・・・」


(´・ω・`)「『おとうさんが いつまでも ながいきしますように』・・・・・だった」



74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:34:13.40 ID:AyApI6HH0


それからしばらく、その部屋を古いスピカーから流れる音楽だけが包み込んだ。

小さな島国、ジャマイカ出身のそのアーティストの曲は、確かに生きることについて歌っているように聴こえた。

(´・ω・`)「・・・・僕は、どうなるんだい?これじゃあ・・・」

('A`)「そうだな。その願いをかなえるには、お前は生き続けなければいけない。
   だがそうなると、願いを叶えたら死ねる、という条件が無効になっちまう。さて、困った。どうしよう」

ふざけやがって。僕がどれだけ苦しんでいるのか、分かっているのか?
今まで気が狂わなかったのは、しぃとクーの思い出があったからだ。
それを思い出すたびにかつての幸せを感じ、そしてもう会うことのできない悲しみに襲われ、どれだけ涙を流したか。

お前は分かっているのか?

彼はもうこの部屋にいるのに耐えられず、自分の意思を神に伝えた。

(´・ω・`)「・・・・それなら、僕はしぃの願いを叶えるために、生き続けてやるよ。いつまでも。
     あんたの言う条件なんか、知ったことか。僕をあの世界に帰してくれ」



78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:36:14.16 ID:AyApI6HH0
('A`)「そうはいかねえな。あまり調子にのるなよ、人間の分際で。
   てめえらは俺の命令にだけ従ってりゃいいんだ」

(#´・ω・`)「じゃあどうしろっていうんだ!!僕は生きればいいのか死ねばいいのか!
     さっさと決めたらいいだろう!!くそったれの神が!!」

( A )「・・・・・ああ、今決めたよ」

(#´・ω・`)「・・・」

言い過ぎただろうか。神に向かって。怒って僕を殺してくれはしないだろうか。
それならありがたいんだけどな。

('A`)「お前はもう一度生きて、そして死ね」

(;´・ω・`)「・・・・?」

その言葉を聞いた男は顔をあげ、神の表情をうかがった。どういうことなのか、説明してほしかった。



83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:38:19.52 ID:AyApI6HH0
('A`)「お前は一度死んでいる。トラックと衝突したときにな。
   その天に昇ろうとしていた魂をつかまえて、むりやり下界におしこんだのが今のお前だ。
   いうなれば手抜きの命。寿命を設定するわけでもなく、ただ生命を垂れ流しているだけの、なんの意味も無い命だ。

   生物ってやつはな。産まれて、生きて、そして死ぬことがその存在理由なんだ」

(;´・ω・`)「・・・それじゃあ」

('A`)「下界の時間を少し巻き戻して手を加え、そこにいまのお前を投下する。ちゃんと寿命を設定してな」

(´・ω・`)「・・・そんなことが、できるのか?」

('A`)「俺を誰だと思ってんだ。神だぞ。この世界を創った俺に、不可能なんてねえんだ」

('A`)「要するにな」

一呼吸おいて、神は言った。



88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:40:12.31 ID:AyApI6HH0



('A`)「あの事故を、無かったことにしてやる」



(;´・ω・`)「・・・・!ほ、本当か!?本当に、すべてをあの頃に戻してくれるのか?」

神の言葉を聞いた男は、信じられないといった表情で問いただす。
もしも嘘だったなら、神だろうが八つ裂きにしてやる、と彼は思った。

('A`)「すべて、じゃねえ。手を加えるって言っただろ。今回はな、俺の不手際だったんだ。
   神にだって面子ってものがあるんだよ。それで、お前は同意するか?この案に」

(´・ω・`)「ああ、もちろんだ・・・・けど、前はそんなことできないって言ってなかったかい?」

('A`)「言ったよ。よほどのことが無い限りってな。今回は異例だったんだ。
   じゃあ、お前を下界に戻すぞ。いいか?さっさとこのマンドクセェことを、終わらせたい」



90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:42:03.51 ID:AyApI6HH0



(´-ω-`)「・・・・・最後に一つ、言わせてくれ」

('A`)「なんだ?」

男は神にむかって、最後の言葉を言った。

(´;ω;`)「ありがとう・・・・・神様」

そしてすぐに、彼は意識を失った。

神は苦笑いを浮かべ、またレコードプレイヤーのところへ向かう。
そのとき神がつぶやいた言葉を、その男が知ることはなかった。


('A`)「・・・やれやれ。彼女を天国から連れてくるのに、手間がかかったぜ・・・」

それから神は、レコードをその手でとめた。



96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:48:41.42 ID:AyApI6HH0




一台の車が、山の麓に向かって走っていた。

運転席には、一児の娘をもつ父親がハンドルを握って座っている。
暗い夜道を、彼は注意深く運転していた。

やがてその男は自宅へ無事たどりつき、車を降りて玄関へむかう。

彼がドアを開け「ただいま」と言うと、家の奥から「おかえりー」という幼い声が返ってきた。
その声に、思わず彼は顔をほころばせた。毎日聞いている声のはずなのに、なぜか涙が出そうになった。

靴を脱ぐ暇も無く、奥から走ってきた一人の女の子が彼に飛びついた。

父親は娘を抱きかかえながら靴をぬぎ、そのままリビングへむかう。
「また少し重くなったなあ」と彼が言うと、女の子は嬉しそうに笑った。

リビングのドアをあけ、女の子をソファーにおろす。彼女は今日描いたという絵を、父親に見せた。

家族三人がみんなで手をつないで笑っている絵だ。
彼は「上手だね」と言って娘のショートカットの髪を撫でた。



101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:50:05.45 ID:AyApI6HH0
(*゚ー゚)「おとうさんはね、あのね、あたしたちといっしょに、ずっとながいきするの!やくそくだよ!」

彼はそうはしゃぐ娘の頭を、もう一度撫でた。

スーツを脱いで娘の隣に座ったとき、今まで夕飯を作っていた彼の妻がやってきて、不器用に笑いながら言った。



川 ゚ー゚)「おかえりなさい、あなた」




(´・ω・`)「・・・・・ああ、ただいま。クー」








終わり



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