(´・ω・`)としぃの願い事

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 19:56:55.96 ID:AyApI6HH0
   トレンチタウンの官庁の庭にふたりで坐っていた日のことだ

   善良な人達の中に偽善者どもがそしらぬ顔をして

   混じっていたのをふたりで眺めていた

   そんな中で出会った大切な友人たちも

   ひとり またひとりと闘いの中で倒れていった

   どんなに素晴らしい未来がやってこようと

   昔の日々は忘れられやしない   
   
   だから涙を拭うんだ

   

         ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ 「ノー・ウーマン、ノー・クライ」より



2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 19:58:49.87 ID:AyApI6HH0
七月。ある街の貧民街。

浮浪者たちが集まるその場所の、さらに隅っこにあるドブ川の土手に、一人の男が座り込んでいた。
30代に見えるその男性の視線は、星ひとつ見えないどす黒い夜空へ向けられていた。
汚らしい服装で、一心不乱にスモッグで汚された空を見つめている。

(´・ω・`)「・・・」

その瞳はどこか人間のものではないようで。だが、それでいて誰よりも人間らしい輝きを放っていた。



(,,゚Д゚)「よう。あんた、酒か食いモン持ってねえか?」

(-_-)「ちょっとくらい腐っててもいいんだよ。もう俺たち三日も何も食ってないんだ」

二人組みのホームレスらしき男たちが、座っている男性に話しかけてきた。ひとりは60歳ほどの年配で、
もう一人は20代後半だろうか。彼らもやはり汚い格好で、どちらもガリガリにやせ細っていた。

話しかけられた男はそれでも空へ向ける視線を動かさず、聞こえていないかのように身体を微動だに
しなかった。

(,,゚Д゚)「なあ、頼むよ。このままじゃあ俺たち死んじまう。あんたには関係ないかもしれないけどよぅ」

(-_-)「なんだっていい。なんだって。食える物ならどんなものでも――――おぉ!?」

そこで初めて動きをみせた男性は、懐からパンと酒の缶を取り出し物乞いたちに投げてよこした。
もはや諦めかけていた彼らは、すぐさまそれに飛びつき貪り始めた。



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:00:22.53 ID:AyApI6HH0
しかしその間も、男の眼差しは上空へ固定されたままである。そばで音をたててものを食い漁る人間がいるにもかかわらず、じっと空を見つめていた。

その様子はまるで、暗闇で探し物をしているかのような。

確かにそこにある、透明な何かを見ようとしている人のような。

そんな光景を連想させるものだった。



(,,゚Д゚)「ふう。ありがとよ。この恩は忘れねえ」

(-_-)「そうだよ、ほんとに感謝してる・・・なあ、よかったら少し話でもしていかないか?不幸自慢なら負けないよ?俺たち」

(´・ω・`)「・・・」

パンをあっという間に食べ終えた二人は、酒をちびちびと飲みまわしながら男に提案した。よほど暇なのだろう。
彼らは男の返事を期待してはいないようで、彼のそばに座り込みどちらが先に話すか相談している。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:02:58.79 ID:AyApI6HH0
(,,゚Д゚)「まあ、勝手に話してるから聞いてくれよ。じゃあまず俺からな・・・」

その浮浪者は自分の過去を語り始める。なぜかその目は生き生きとして見えた。

(,,゚Д゚)「俺はこれでも昔は会社の社長だったんだよ。社員だって何百人もいた。
想像できねえだろ?こんな乞食が、十年前は部下をアゴで使ってたんだぜ」

(-_-)「はっ。そんなやつ、この辺じゃ珍しくもないね。昔はちゃんとした職を持ってたやつなんて、いくらでもいるよ」

もうひとりが口を挟んだ。が、気にせず彼は演説を続ける。

(,,゚Д゚)「何百人だぞ?全員の部下の顔を把握しきれねえほどだぜ。ま、それが元凶だったといえなくも無いかな」

彼はそこまで言って、急に顔つきを変えた。よく怪談を話す時に、ここから怖くなるぞ、という場面でするように。

(,,゚Д゚)「俺の会社は食品会社だったんだがな。下っ端の部下が、材料に死体を混ぜやがったのよ。人間の。
信じられるか?ウチの会社の食品食ったやつは、めでたく食人族の仲間入りってわけ。
そんなこと部下がしでかしたら、その社長は当然社会から追放されるに決まってる。もちろんすぐにバレて、会社は倒産。
で、いま俺はこうして人間の死体ですらご馳走に思えるような生活してるわけだ」

最後にうまいこと言って、満足げな笑みを浮かべる元社長の浮浪者。その表情に、怒りや後悔の念は微塵も浮かんではいない。
あるのは自虐だけだ。

座り込んでいた男はそこで、やっと空から視線をはずしその哀れな乞食を見て、言った。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:05:08.88 ID:AyApI6HH0
(´・ω・`)「・・・家族は?」

(,,゚Д゚)「さあな。どっかでほそぼそ暮らしてんじゃねえかな。ここに逃げてきてから一度も会ってねえ」

(´・ω・`)「・・・会いたいと思わないのかい?」

(,,゚Д゚)「会えるかよ、こんな体たらくで」

(´・ω・`)「ふうん・・・」

(-_-)「あんたはどうなんだ?よかったら、あんたの話も聞いてみたんだ。俺の話なんか聞いてもつまらないよ、きっと」

(,,゚Д゚)「ああ、こいつはほんと、ただのロクデナシだからな。仕事すんのがいやでここに来て、もう五年くらいだろ?」

(-_-)「うるさいな、働いたら負けなんだよ・・・それで、どうだい?話してくれないかな。あんた見たところ真面目そうな顔してるし、気になるんだよ。
なんでこんな所で一人空ばっかり眺めてたのか」

二人組の若いほうが、彼に話すよう促す。
要求された男は悪臭を放つドブ川を見つめていたが、しばらくしてしゃべりだした。

(´・ω・`)「・・・信じる信じないは君たちの勝手だよ」

(,,゚Д゚)「・・・?なにをだ?」



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:06:47.36 ID:AyApI6HH0
(´・ω・`)「・・・それじゃ、僕の昔話をしようと思う。時間はたっぷりあることだし。・・・そうだね、この話の始まりは・・・・」

彼はそこでまたしても夜空を見上げ、ゆっくりと言った。



(´・ω・`)「僕が死んだところからだね」





―――ある日の仕事帰り。僕は我が家に向かって車を走らせていた。
その日は仕事の残業で少し帰宅時間が遅くなり、家で一人待つ幼い娘に申し訳なく思いながら車を運転していた。
会社は都心にあるのに、自宅はドがつくほど田舎にあることがうらめしい。親が農家だったから仕方の無いことなんだけどね。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:10:05.91 ID:AyApI6HH0
一秒でもはやく家に帰って、愛しのわが子をこの手で抱き上げたかった。それから頬ずりをして
「おとうさん、おひげくすぐったいよー」という声を聞きたかった。
残業の疲れ?そんなもの、あの笑顔を思い出しただけで跡形もなく吹っ飛ぶさ。
その思いが、僕のアクセルを踏む足を強くさせた。

そして、それがいけなかった。

人が立っていたんだ。それも、僕の車のまん前に。ハイビームのライトを浴びたその若い男はこちらに顔を向け、驚いた顔をしていた。
でも、きっと僕の顔のほうが凄かったと思う。
死ぬんじゃないかってくらいに驚いて、僕はハンドルを思いっきり右に切った。ほとんど脊髄反射だった。

ほんとうに悔やまれる。そのとき、左ではなく右へ切ったことが。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:12:40.03 ID:AyApI6HH0
奇跡的にその人を避けられたんだけど、ほっと息をつく暇もなく、今度は対向車がこっちに迫ってきていた。
いや、実際は僕が迫っていたんだろうけど、僕の目にはそう見えたんだ。

なにせその対向車、バカみたいにでかいトラックだったんだ。僕の視界を、そのバンパーが覆い尽くしていたよ。
もう一秒も経たないうちに、僕の身体はいろんなものを飛び出させながらペチャンコになるだろうということは、
誰が見ても明らかだった。

走馬灯ってやつ知ってるだろう?死ぬ直前に見るという、あれ。僕も見たんだ。
まず最初に、一人娘のしぃの顔が僕の目に映った。こっちを見ながら笑っていたよ。

そして次に、しぃが産まれた二年後に死んでしまった、妻のクー。彼女の、あまり見せない笑顔をそのとき拝めた。
それだけが救いだったよ。

もっと見たかったんだけど、そこで終わりだった。
僕の脳みその神経伝達のスピードが、数十キロの速度が出てる自動車同士の衝突時間に間に合わなかったんだ。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:15:23.43 ID:AyApI6HH0
そこで僕の意識は一度途絶えた。
普通なら、もうその意識が回復することはないんだろう。けれど僕は違った。
夢を見ない永い眠りから覚めたような感じで、僕はまた、目覚めたんだ。



そこは部屋の中だった。広めの部屋だったけど、物がたくさんあってごちゃごちゃしてた。
木でできた本棚。テーブル。鑑賞用の植物に、革でできたソファー。レコードプレイヤーと大量のレコード盤。
その家具のどれもが、古くて味があるもので、色鮮やかだった。
黄、赤、緑の三色が多くて、バランスよく配置されていた。

僕はテーブルを挟んで向かい合った二つのソファーの片方に座っていた。
そしてもう片方、つまり僕の正面に、一人の男が座っていた。
彼は真っ黒なスーツを着ていて、腕を組みながら僕に話しかけてきた。


('A`)「こんばんは」

(´・ω・`)「・・・あなたは?」

('A`)「見てわかんないのか。神だよ、神」

わかんねえよ。貧相な顔しやがって。そんなことより、まずはいろいろと確認しなくてはならなかった。

僕は死んだのか。ここはどこなのか。噂の天国か?彼が本当に神様なら、僕に何の用があるのか。

なぜかその時僕はとても冷静だったのを、はっきりと覚えている。
そこで、その神様はこう仰った。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:18:59.51 ID:AyApI6HH0
('A`)「第一に、お前は死んだよ。グッチャグチャになってな。
次に、ここは天国じゃない。あそこにはな、そうそう逝けるやつはいないんだよ。うぬぼれんじゃねえ。
そして次が本題。お前をここに呼んだのは、単なる気まぐれ。たまにこうやって死んだやつの魂つかまえて、遊ぶんだよ。
お前にとっちゃ一大事かもしれねえがな」

(´・ω・`)「・・・」

その、自称神様は一気にそこまで言い切って、ソファーから立ち上がった。
レコードプレイヤーのところまで歩き、それに一枚のレコードを取り出してのせ針を落とす。

ここは天国じゃない?じゃあどこだ。僕をここに連れてきたのは単なる気まぐれ?僕はこれからどうなるっていうんだ。

そこまで考えたとき、音楽が流れ始めた。

その曲の歌詞は英語だったけど、サビだけは僕でも何を言っているのか分かった。



『Get up  Stand up  Stand up for your rights』
『起き上がれ 立ち上がれ 権利のために立ち上がれ』



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:21:43.55 ID:AyApI6HH0
('A`)「・・・・一から・・いやゼロから新しくものを創ることって、すげえことだと思わねえか?」

彼は僕に問いかけた。けれど僕が答える前に、彼はさらに言った。

('A`)「俺はもうやってらんねえ。マンドクセェ。
   だからお前の来世を創る代わりに、もう一度その命で生きてもらいたい」

僕は何もしゃべらない。

('A`)「チャンスをやる。これから俺が言う選択肢から、選べ。一回しか言わねえからな、よく聞け。
   このまま、その魂をすりつぶされて新しい生命の材料になるか。
   それとも、その命のままもう一度あの世界で生きるか」

(´・ω・`)「この命でもう一度生きたい。あの世界で。あの、しぃがいる世界で」


('A`)「・・・ふう、やれやれ」

なんの迷いも無く答えた僕をみて、神様はため息をついた。
その目には哀れみの感情が浮かんでいるような気がした。

なんでだ。当たり前だろう?人間の脳は、死にたくないと思うようにできているんだろう?
あんたがそう創ったんじゃないのかよ。そのむかつく目でこっちみんな。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:24:56.05 ID:AyApI6HH0
('A`)「・・・続きがあるんだよ。いいか。後者を選んだ場合には、多くの条件が発生する。
   マンドクセェぞ。
   これも一回しかいわねえ。よく聞いて、そしてよく考えろよ」

('A`)「まず、生き返ったとしても、お前がいままで触れ合った人間には会えない。絶対に。
   それから、生き返ったら今度は死ねなくなる。
   ビルから飛び降りようと、心臓を刺されようと、毒を飲もうと」

(#´・ω・`)「ふ、ふざけんな!それじゃあ、しぃには・・・!」

僕は我慢できずに叫び、立ち上がろうとした。
でも身体が動いてくれなくて、驚いて言葉を詰まらせてしまった。

('A`)「おちつけ。俺は神。そしてお前は俺の創造物だ。おまえなんかどうとでもできるんだよ。
   そう、おとなしくしてろ。そんじゃ、こいつを見てもらおうかね」

彼は天井に付けてあるスクリーンを下ろし、映写機を回し始めた。
ずいぶんアナログ好きな神様だな。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:28:32.28 ID:AyApI6HH0
しばらくしてスクリーンに映し出されたのは、ある森の中。
カメラがズームして、そこに一人の男がうずくまっているのが見えた。
その男は、なにかに怯えるように周囲をうかがっていた。その目からは絶え間なく涙が溢れ出ている。

僕はその表情を見て、彼が発狂しているのが分かった。

('A`)「こいつは、そうとう前に俺の遊び道具になってもらったやつだ。
   今のお前みたいに質問されて、生き返りたいとすがり付いてきた。さっきの条件を提示しても。
   案の定、何百年も生き続けて、周りから気味悪がられ迫害され、一人ぼっちに耐えかねて頭がおかしくなった。
   だが、こいつは死ねないんだよ。どうだ?これでも生き返りたいか?」



(;´・ω・`)「・・・・・・・あ、あんたは、あんたは神なんかじゃない・・・悪魔でもない。
     もっと・・・・・邪悪なものだ」

('A`)「おいおい、神ってやつはな、決して善良なものじゃあないんだよ。いまさら気づいたのか?
   そんなこと、聖書を読めばすぐにわかることだろ?」



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:30:54.89 ID:AyApI6HH0
(;´・ω・`)「・・・」

('A`)「自分で創った人間が勝手にふえて犯罪ばかりしてるから、気に入ったやつだけ残して
   後は全部ぶっ殺しちまおう、とか」

('A`)「自分の息子が磔にされて処刑されそうだってのに見て見ぬフリしたりとか。
   ハッ。神なんか、どう考えても悪の塊だよ」

(´・ω・`)「・・・」

('A`)「ま、そんなことどうでもいいんだ。お前にはまだ最後の条件を言っていない。
   さっき映像で見せた男にも言ったんだがな。あんだけ狂っちまってたら、意味がなくなるものだが。

   俺は、生き返ったら死ねなくなるとは言った。だがな、あることをすれば、死ねるんだよ。
   聞きたいか?」


(´-ω-`)「・・・・・・僕が死んだことを、無かったことにはできないのかい・・・?」

('A`)「それはできねえな。よほどのことが無い限り。その義理も無い。で、聞きたいか?」



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