(´・ω・`)としぃの願い事

23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:32:45.99 ID:AyApI6HH0
(´・ω・`)「・・・・・教えてくれ・・・」

('A`)「それはな」

彼はいつの間にかソファーに腰掛けていて、僕に顔を近づけて言った。



('A`)「人の願いを、叶えること」



(´・ω・`)「・・・願い?」

('A`)「そうだ。願い。つまり望みだよ。結婚したいだとか。ミュージシャンになりたいだとか。あるだろ?
   だが自分の願いじゃあない。他人の、だ。そこで」

彼はまた立ち上がり、部屋の隅に置かれている棚へ移動した。
そしてその引き出しを開け、中からあるものをとりだし、それを持って再びソファーに座った。

それをテーブルの上に置き、言った。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:35:29.43 ID:AyApI6HH0
('A`)「これを使うんだ」

(´・ω・`)「・・・・・これを?」

神様が持ってきたそれは、どこからどう見てもピストルにしか見えなかった。
一度も実物を見たことが無い僕でも分かる。リボルバーってやつだっけ。

で、これをどうしろと?

('A`)「こいつで、願いをかなえてやりたいやつを、撃つんだ。そしてそいつの願いを叶えてやる。
   そのとき、お前は死ぬことができる」

(´・ω・`)「・・・それで撃たれた人は、死んだりしないのかい?」

('A`)「ああ、死なない。こいつに入ってるのは普通の弾じゃないからな。
   それと、一発。一発しか弾はない。まあ、死にたくなったらこの銃を思い出せ」

(´・ω・`)「・・・わかった。もらっておくよ。それじゃあ、はやく僕を帰してくれ。
     娘が家で一人待ってるんだ。僕の帰りをね」



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:37:21.15 ID:AyApI6HH0
('A`)「・・・・・あの映像を見ても、気は変わらないか・・・それに言ったはずだが、娘にはあえねえぞ。
   お前は、いままでに接触した人間とは―――」

(#´・ω・`)「いいからはやくしろよ!一人なんだ、あの子は!僕しか家族はいないんだよ!」

僕は今度こそ叫びながら立ち上がった。

万物の創造主だとか、自分にチャンスを与えてくれる人だとか関係ない。
この人が神だということをもう疑ってはいなかったし、この出来事が悪い夢だとも思ってはいなかった。


ただ、もう二度としぃには会えないということだけは認めたくなかった。

たとえ、神の言葉であっても。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:41:21.37 ID:AyApI6HH0
('A`)「・・・いいだろう。そんじゃあ、さよならだ。
   お前とはもう会うことは無いと思う。観察はさせてもらうけどな。
   お前はどれくらいで狂うのか、面白そうだぜ。じゃあな」

そこでまたもや僕の意識は途切れる。
視界がブラックアウトする直前、神様がゆっくりと立ち上がるのが見えた。
おそらくレコードプレイヤーのところへ行くのだろう。そして、レコードを入れ替えるのだろう。

彼と話してる間にいつの間にか変わっていた曲のサビを、僕はまだ覚えている。
その歌詞の意味も。




『Lively up yourself』


――――元気を出せよ。ウジウジしてちゃ、サイアクだ。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:42:41.21 ID:AyApI6HH0




(,,゚Д゚)「・・・・・」

(-_-;)「・・・・・ハ、ハハ!面白いな、あんたの話。もっと聞かせてくれよ、なあ?」

(,,゚Д゚)「・・・本当の話か?今のは」

(´・ω・`)「信じる信じないはそっちの勝手だと言っただろう」

(-_-;)「バ、バカ!ほんとのわけないじゃないか!笑わせようとしているんだろ?俺たちを」

(´・ω・`)「・・・」

これまでの話を語っていた男は、依然として空を見ている。

途中、二人組の若いほうの男が、何度か話の腰を折ろうと口を挟みかけたが、もう片方の年配の男がそれを止めていた。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:46:22.25 ID:AyApI6HH0
時刻はすでに真夜中を過ぎている。
七月の夜風が、座り込んでいる三人を包み込み、そして過ぎ去っていった。

(,,゚Д゚)「・・・で、その続きは?あるんだろ。話してくれよ」

(-_-)「そ、そうだよ。俺も気になる」

(´・ω・`)「・・・・・そうだね。どこまで話したかな」

(,,゚Д゚)「神様とさよならしたところだよ」

(´・ω・`)「ああ、そうだったね。うん。それから僕は―――」



――――それから僕は、路上で仰向けに倒れた状態で、意識がもどったんだ。

あの部屋で目覚めたときのように、とても長い時間眠っていて、自然に目が覚めるような感じで。
そしてゆっくりと起き上がって、辺りを見回した。すぐそばに、原型をとどめていないほどに大破した自分の車があったよ。
その自家用車は、トラックのフロント部分にへばりついていた。

トラックの運転席に動かない運転手がいるのが見えたけど、そんなことにかまっている暇はなかった。

僕はすぐに自分の家の方向に向かって走り出した。身体はどこも怪我をしていなかった。



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:48:39.44 ID:AyApI6HH0
しばらく走っていると、タクシーがこっちへ向かってくるのが見えた。
僕は手を上げながらそれに飛びつくように近寄った。

タクシードライバーは驚いて急ブレーキをしたようだったけど、間に合わずに僕を跳ね飛ばした。

痛かったよ。なにせ本日二回目の自動車事故だ。でも痛がっている場合じゃなかったからね。
すぐさま起き上がって運転席側の窓を叩いた。

(;´・ω・`)「乗せてくれ!!頼むよ!時間が無いんだ!!」

後部座席のドアが開いた。僕は迷わず飛び乗ったよ。止めとけばよかったと、今になって思う。

(;´・ω・`)「美府町の5番地だ!そこへ向かってくれ!とにかく急いでくれ!」

( ・∀・)「・・・・・」

それからタクシーは走り出した。そして一分も経たないうちに気がついた。

(;´・ω・`)「おい!美府町だって言ってるだろう!?この道じゃあ等雲寺町に行ってしまうじゃないか!」

( ・∀・)「・・・」



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:51:23.33 ID:AyApI6HH0
(#´・ω・`)「聞いているのか?僕の家はこっちじゃない!美府だよ!」

( ・∀・)「・・・・・まずは等雲寺病院へ行かなければいけません。
      あなたの自宅へはそのあと向かいます」

(#´・ω・`)「・・・!!ふ、ふざけんな!僕はなんともない!僕は死なないんだ!」

( -∀-)「・・・頭も打っているようですね。申し訳ありません・・・」

(#´・ω・`)「なんだと!?僕は狂ってなんかいないぞ!本当なんだ!怪我なんてしてない!」

( ・∀・)「私はこの仕事に誇りを持っています。お客様を然るべきところへお送りすることが私の仕事。
      例え人身事故で自分の免許を剥奪されようと」

(;´・ω・`)「ぐ・・・!!もういい!車を止めて僕を降ろしてくれ!」

( ・∀・)「できません。それではひき逃げになってしまいます」



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:53:41.71 ID:AyApI6HH0
だめだ。これじゃあ話にならない。そう思った僕は、スーツの内ポケットをまさぐった。
そして、あの神様からもらったピストルを取り出し、わからずやの運転手の頭に押し付けて、すべての怒りを込めて言った。

(´・ω・`)「言ってるだろう?僕は急いでいるんだ。娘が、僕を待っているんだよ」

僕の表情と、こめかみに突きつけられたピストルをバックミラーで確認した運転手は、悲鳴をあげて車をとめ、すぐさまドアを開けて
逃げ出した。最初からこうしておけばよかった。

僕はすぐさま運転席に移ると、自分の家の方向へ向かって発進させた。

(´・ω・`)「はやく帰らなきゃ・・・しぃが待ってる・・・僕の帰りを・・・一人で」

あの運転手のせいでかなり家から離れてしまっていた。
僕は呪文のように同じセリフをつぶやきながら、今度こそ事故を起こさないよう気をつけて車を飛ばした。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:56:36.17 ID:AyApI6HH0

僕は神から貰ったピストルを、娘に使うつもりだった。
このピストルを受け取ったときから、ずっとそう考えていた。
せめて娘の願い事を叶えてあげて、そして死にたかった。

そのためにも、はやくしぃに会って願い事を聞かなきゃいけない。

今までに出会ったひと達とはもう会えない?しぃとはもう会えない?そんなバカな。会えないわけがない。
あの子には僕しかいないんだ。あんな最低の神の言うことなんて、くそくらえだよ。

そう考えていた僕の耳に、パトカーのサイレンが聞こえてきた。それも一台や二台じゃない。
どうやら僕の運転する車の後ろから聞こえてくるようだった。
そして、スピーカーを通した声も聞こえてきた。

『そこのタクシー!今すぐ車を脇に寄せて停まりなさい!!』

(#´・ω・`)「チッ、あのタクシードライバーめ・・・通報しやがったな・・」

もちろん止まるつもりなんてなかった。僕はアクセルをさらに踏みつけ、警察どもを引き離しにかかった。
それでも彼等はしつこく僕を追いまわした。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 20:59:42.93 ID:AyApI6HH0
その後何十分も追いかけっこを続けていたら、前方からもパトカーが現れたんだ。

しかたなく僕はわき道へ入ったよ。
その先は山だったんだけど、とりあえずそこに逃げ込んで隠れ、やつらをやり過ごそうと思ったんだ。

山に入ってしばらくすると、ライトの調子がおかしくなった。
僕を跳ね飛ばしたときにすこし壊れたらしい。
おかげで前方はまっくら。その先が崖になっていることにも、気づけなかった。

墜ちたよ、崖から真っ逆さまにね。何回も車は斜面を転がって、ようやく止まった。
体中を半端じゃない痛みに襲われて、これなら死ねるんじゃないかと思ったよ。
でも、どこも怪我はしていなかった。血も出てないし、あざもできてない。

車から這い出して、僕は木の群れの中に逃げ込んだ。
警察のやつら、逃げる僕を見逃したらしく、追っては来なかった。

山を下りたあとも、僕は諦めなかった。

通りかかった車の運転手に銃をみせて脅して、車を奪ったりもした。
だけどなぜか、自分の家に向かおうとするたびに邪魔が入って、娘に会うことはできなかったんだ。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:02:30.40 ID:AyApI6HH0




(-_-)「・・・・・」

(,,゚Д゚)「・・・・・それで、その後はどうなったんだ?」

男が語り終わってから、年配の浮浪者が聞いた。
もはや若い方の浮浪者は、口を挟まなくなっていた。

(´・ω・`)「・・・あらゆる方法でしぃに近づこうとしたけど、結局は駄目だった。
     ほかの知り合いにも会いに行ったけど、無理だっんだ」

(´・ω・`)「あるとき昔の友達の家にいったら、火事を起こしていた。
     拾った新聞に、その一家が全員焼死したって書いてあったよ。

     それ以来、しぃに近づいたら彼女も死んでしまうんじゃないかと怖くなってね。近づくこともできない。
     彼女の願い事がなんだったのかすら、僕は知ることができなかった」

(,,゚Д゚)「・・・」



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:04:41.41 ID:AyApI6HH0
(´・ω・`)「ある日、知り合った男に頼んだんだ。
     このピストルで、僕の家に一人待ってる娘を、撃ってくれってね。僕や君たちのような、素性の知れない男に。

     しぃの願い事が何なのかは分からなかった。
     けど、とにかく他の人にそのピストルを使ってしまう前に、彼女に使ってしまいたかった」

(,,゚Д゚)「・・・それで、成功したのか?」

(´・ω・`)「・・・何日か経って、僕のところに戻って来たその男が何ていったと思う?」




『なんだよ、あの銃。弾が当たったのにあの女の子、何ともなかったぜ。
 仕方ねえからちゃんと俺がナイフで殺しておいてやったよ』



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:06:48.98 ID:AyApI6HH0


(,,゚Д゚)「・・・・・」

(-_-)「・・・・・・」

(´・ω・`)「・・・僕は空を見ながら、娘の願い事が何だったのか、ずっと考えていたんだよ。
     でも、もうそれを知る方法は、どこにもないんだ・・・どこにも。
     風の噂では、明日にも僕の家は取り壊されるらしい。帰るところも、なくなってしまう」

(-_-)「・・・」

(,,゚Д゚)「・・・・・気の毒になあ。俺たちはみんな、ひとりぼっちなんだよ。あそこで光ってる星みてえによ・・・」

男は鼻をすすりながら、汚い夜空を指差した。たしかに、ひとつだけかろうじて輝いている星があった。

(,,゚Д゚)「そういえば、今日は七夕だな。んじゃあ、あの星は織姫か彦星かも―――」





(´・ω・`)「・・・・・そうだ・・・七夕だよ」



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:08:18.31 ID:AyApI6HH0
(,,゚Д゚)「・・・?」

(´・ω・`)「七夕・・・なぜ今まで気づかなかったんだ」

(,,゚Д゚)「ど、どうかしたか?」

(´・ω・`)「僕はしぃが書いたり造ったりしたものは、全部大切に保管していた。どんなものだって」

(,,゚Д゚)「・・・?」

(-_-;)「そ、そうか!そうだよ!」

いままで黙っていた男が急に立ち上がって言った。

(,,゚Д゚)「どうしたんだよ、二人とも」

(-_-;)「わかんないのか?あんた何年生きてんだよ!七夕ってやつは、笹を飾るんだよ!そして―――」

(´・ω・`)「・・・そう。願い事を書いた紙を、それに吊るすんだ。ということは」

(,,゚Д゚)「そうか!それを見れば、娘さんの願い事が分かるのか!」



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:09:53.13 ID:AyApI6HH0
(-_-;)「なあ!あんた覚えてないのか?娘さんがなんて書いていたか!」

(´・ω・`)「・・・いや、覚えていない。でも、その短冊もしっかりとっておいたはずだ。
     家の書斎の引き出しの中に箱があってね。そこにしぃが描いたりしたものを、全部保管してある。
     もちろん、短冊もね」

(-_-)「じゃあ、行こう!いますぐに!まだ残っているかもしれない!」

(´・ω・`)「・・・」

(,,゚Д゚)「・・・なあ、急ごうぜ!あんたの家が取り壊される前によ」

(´-ω-`)「・・・でも、娘の願い事をいまさら知ったところで・・・・・彼女はもう、いない」

(-_-)「それでも!行ってもらいたいんだよ!あんたには!」

(´・ω・`)「なんでそこまでして?君たちには関係ないだろう?」



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:11:55.10 ID:AyApI6HH0
(#-_-)「関係なくなんか無いさ!俺たちにだって、暖かい家庭があった!
    あんたみたいな、やさしい親父がいたんだ!その親父がこんな・・・
    こんな姿で空ばっかり見上げてるのなんか、見たくないんだよ!」

(,,゚Д゚)「そうだぜ。俺にも息子がいた。
    どうしようもないバカ息子だったが、あいつが残したものが手に入るのなら俺はなんだってやる。
    あんたはそう思わないか?」

(´・ω・`)「・・・」

(;-_-)「ああもう!立ち上がれよ!早くしないと二度と手に入らなくなるだろう!」



・・・そうだね。ボブ・マーリーも歌っていた。『Get up Stand up』と。
今が、そのときなのかもしれない。

(´・ω・`)「・・・・わかったよ。今度こそ帰り着こう、我が家へ」



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