(´・ω・`)としぃの願い事
- 51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:13:32.32 ID:AyApI6HH0
―――それから三人は、連れ立って街を抜け出した。
七月上旬の夜風は、ぼろきれしか着ていない彼等にはとても肌寒く感じられた。
(,,゚Д゚)「それより、どうすんだ?ここから近いのか?あんたの家は」
(´・ω・`)「かなり遠いね。山の麓にある」
(-_-)「なら足がいるね」
(´・ω・`)「・・・・・それなら、いい考えがある」
彼等は道路沿いで、震えながら待機していた。
やがて一台の車がこちらへやってくるのが見え、一人の男が道路に飛び出した。
案の定、彼は見事に自動車に跳ね飛ばされ、吹き飛んだ。
そして彼をはねた不幸な運転手は急ブレーキをかけ、車から降りて駆け寄った。
(;゚∀゚)「お、おい!大丈夫か!?くそっ、なんてこった・・・」
- 52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:16:08.29 ID:AyApI6HH0
- (,,゚Д゚)「よお、にいちゃん。ずいぶん派手にやっちまったねえ」
(-_-)「このことは無かったことにしてあげるから、その車貸してよ」
突然現れた二人が運転手に詰め寄って脅し始める。
(;゚∀゚)「な、なんだと・・・!さては当たり屋か?おまえら!?」
男は二人を突き飛ばし、車に戻ろうとした。
が、すでに運転席には先ほど跳ね飛ばしたはずの男が我が物顔で座っていた。
(;゚∀゚)「おい!おまえなんで・・・!!」
(,,゚Д゚)「おおっと、その車は返さねえぞ」
(-_-)「警察に言われないだけ感謝してよ」
起き上がった二人に取り押さえられ、もがく運転手。
助手席の窓がひらき、車を奪った男が身をのりだして言った。
- 53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:17:30.07 ID:AyApI6HH0
- (´・ω・`)「悪いね・・・少し借りるだけだよ。用が済んだらまたここに置いておくから、あとで取りにきなよ。
・・・・・それから二人とも、本当にありがとう。この恩は永遠に忘れない」
(,,゚Д゚)「食いモンと酒をくれたお礼だよ。それと、面白い話もしてくれたしな」
(-_-)「願い事を見てきたら、帰ってきて俺たちにも教えてくれよ。そのときはこっちがもてなすからさ」
(´・ω・`)「うん。わかった・・・・・それじゃあ」
そして彼は窓を閉め、山へ向かって車を発進させた。それを見送る二人は、その車に向かって親指を立てて幸運を祈った。
あわよくば、また彼に会えますように、と―――――
- 56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:19:56.94 ID:AyApI6HH0
- ――――僕はなぜ、ここまでしてこの家にまた来たのだろう。
もう我が家には、愛しい一人娘も、妻もいないというのに。
ただ、僕は思い出したいだけだ。
もう一度、玄関を開けただいまと言って、リビングから返ってくるおかえりという返事を聞きたいだけだ。
娘が走ってきて、僕に飛びつく。彼女を抱きかかえながらリビングへ行き、娘をソファーに下ろす。
それから娘は今日描いたという絵を僕に嬉々として見せてくる。
よほど自信作なのだろう、ふんぞり返った彼女を前に僕は「上手になったなあ」と褒めてあげる。
お世辞じゃない。この絵は、ダ・ヴィンチやゴッホの絵よりも僕の心を動かすんだ。
そこには、僕としぃの二人が元気いっぱいに描かれていた。
それから仏壇へいき、クーに今日のことを報告する。写真の中の彼女は不器用に笑っている。
それでも、彼女は世界一美しかった。
- 58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:21:28.99 ID:AyApI6HH0
- しぃの話を聞きながら夕食を食べ、そのあとテレビを見てしぃと笑いあう。
やがて眠くなった娘を部屋へ連れて行き、怖いというので眠るまでそばにいてあげる。
そして世界で二番目に美しいその寝顔を見ながら、布団をかけなおして「おやすみ」と言い、部屋を出る。
それで僕の一日は、幕を閉じるんだ。
幸せだったあのころを思い出し、胸に何かがこみ上げてきた。
もう、そんな日常は戻ってこない。分かっているんだ。
だから今は、この涙を拭って探し物をしなくてはいけない。
しぃが残した、願い事を。
- 60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:23:43.25 ID:AyApI6HH0
書斎らしき部屋に、そのかつての持ち主が立っていた。
使う人がいなくなったその部屋はほこりだらけで、蜘蛛の巣がいくつも張られていた。
(´・ω・`)「・・・・・あった」
大きめな机の一番下の引き出しを開け、中に入っていた大きな箱を取り出す。
それを持って、彼は書斎をあとにした。
彼が向かった先に、仏壇があった。
やはりそこもほこりだらけで、飾ってある写真は何が写っているのか分からないほどに汚れていた。
男はそれを服で丁寧に拭き取り、久しぶりに見る妻の顔を眺めた。
(´・ω・`)「・・・クー、ごめんよ」
彼は写真をそばに置き、持っていた箱を開け中身を取り出し始めた。
- 62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:25:25.90 ID:AyApI6HH0
- (´・ω・`)「ずっとしぃのそばにいるって言ったのに」
彼の娘が、ずっと昔に描いた家族の絵。
ハの字の眉毛でやさしそうな瞳を持った男性と、髪の短めな女の子が、画用紙いっぱいに描かれていた。
(´・ω・`)「僕の不注意でさ、事故を起こしてしまったんだよ」
紙粘土でできた動物の置物もあった。猫だろうか。
(´;ω・`)「僕はただ、ただ早くしぃに会いたかっただけだったのに・・・」
幼い文字でびっしり埋め尽くされた作文。家族のことについて書かれている。
「だいすき」という言葉が、ひときわ大きく書かれていた。
(´;ω;`)「・・・神様は、ひどいやつだったよ。
君は今しぃと一緒に天国にいるのかな?
そうそう天国へはいけないって神様は言ってたけど、君たちなら絶対にそこにいるって信じてるよ」
- 64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:26:53.66 ID:AyApI6HH0
- そして、彼の動かす手が止まった。とうとう、探し物が見つかったようだ。
いつかの七夕の夜、笹に飾ったあとここに大事にしまった、娘の願い事が書かれた短冊。
それを手に取り、白々と明け始めた日の光にかざして読む。
(´・ω・`)「・・・・・ああ、そうか―――」
――――思い出したよ。いつも言ってたもんなあ。しぃ、ごめんよ。こんなお父さんで。
その瞬間、彼の意識は何者かに連れ去られた。
- 66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:28:08.84 ID:AyApI6HH0
- ――――前にもあったな、この感じ。
確かそのときは、目を開けるとそこは色鮮やかな部屋の中で、僕はソファーに座っていた。
そして神とか名乗る男が目の前に座っていたんだ・・・・・今みたいに。
('A`)「こんばんは。また、会ったな」
(´・ω・`)「・・・もう会うことは無いって言っていたじゃないか」
('A`)「気が変わったんだよ。神は何をしても許されるんだ」
神を名乗る男は腕を組んでそう言った。
(´・ω・`)「・・・・・いまさら何の用だい?できればその貧相なツラ、二度と見たくはなかったんだけど」
('A`)「おい・・・神にむかってずいぶんな口をきくようになったじゃねえか」
(´・ω・`)「・・・・・それで、僕になんの用があるんだ?」
神は立ち上がり、いつかのようにレコードプレイヤーのもとへ歩き、レコード盤を取り出して乗せ、針を落とした。
- 68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:29:39.29 ID:AyApI6HH0
- ('A`)「お前はさっき、自分の娘の願いごとを見たな?」
(´・ω・`)「・・・・・ああ、見たよ。しっかりと。なんで思い出せなかったのか、不思議だなくらいだ。
いつも口癖のように僕に言っていたのにね」
彼はまた思い出してしまった。もう聞くことのできない、あのかわいらしい声を。あどけない笑顔を。
頭を抱える悲哀に満ちたその男を見て、神が言った。
('A`)「お前はあのピストルを他人に渡し、そいつに娘を撃たせた」
(´・ω・`)「ああ。だけど、しぃはそいつに殺された」
('A`)「だがその娘に弾が当たったのは事実だ。
あとはお前が娘の願い事を叶えてやれば、お前は死ねるはずだった」
(´・ω・`)「・・・」
('A`)「お前の娘が短冊に描いた願い事は・・・」
(´・ω・`)「『おとうさんが いつまでも ながいきしますように』・・・・・だった」
- 74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:34:13.40 ID:AyApI6HH0
それからしばらく、その部屋を古いスピカーから流れる音楽だけが包み込んだ。
小さな島国、ジャマイカ出身のそのアーティストの曲は、確かに生きることについて歌っているように聴こえた。
(´・ω・`)「・・・・僕は、どうなるんだい?これじゃあ・・・」
('A`)「そうだな。その願いをかなえるには、お前は生き続けなければいけない。
だがそうなると、願いを叶えたら死ねる、という条件が無効になっちまう。さて、困った。どうしよう」
ふざけやがって。僕がどれだけ苦しんでいるのか、分かっているのか?
今まで気が狂わなかったのは、しぃとクーの思い出があったからだ。
それを思い出すたびにかつての幸せを感じ、そしてもう会うことのできない悲しみに襲われ、どれだけ涙を流したか。
お前は分かっているのか?
彼はもうこの部屋にいるのに耐えられず、自分の意思を神に伝えた。
(´・ω・`)「・・・・それなら、僕はしぃの願いを叶えるために、生き続けてやるよ。いつまでも。
あんたの言う条件なんか、知ったことか。僕をあの世界に帰してくれ」
- 78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:36:14.16 ID:AyApI6HH0
- ('A`)「そうはいかねえな。あまり調子にのるなよ、人間の分際で。
てめえらは俺の命令にだけ従ってりゃいいんだ」
(#´・ω・`)「じゃあどうしろっていうんだ!!僕は生きればいいのか死ねばいいのか!
さっさと決めたらいいだろう!!くそったれの神が!!」
( A )「・・・・・ああ、今決めたよ」
(#´・ω・`)「・・・」
言い過ぎただろうか。神に向かって。怒って僕を殺してくれはしないだろうか。
それならありがたいんだけどな。
('A`)「お前はもう一度生きて、そして死ね」
(;´・ω・`)「・・・・?」
その言葉を聞いた男は顔をあげ、神の表情をうかがった。どういうことなのか、説明してほしかった。
- 83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:38:19.52 ID:AyApI6HH0
- ('A`)「お前は一度死んでいる。トラックと衝突したときにな。
その天に昇ろうとしていた魂をつかまえて、むりやり下界におしこんだのが今のお前だ。
いうなれば手抜きの命。寿命を設定するわけでもなく、ただ生命を垂れ流しているだけの、なんの意味も無い命だ。
生物ってやつはな。産まれて、生きて、そして死ぬことがその存在理由なんだ」
(;´・ω・`)「・・・それじゃあ」
('A`)「下界の時間を少し巻き戻して手を加え、そこにいまのお前を投下する。ちゃんと寿命を設定してな」
(´・ω・`)「・・・そんなことが、できるのか?」
('A`)「俺を誰だと思ってんだ。神だぞ。この世界を創った俺に、不可能なんてねえんだ」
('A`)「要するにな」
一呼吸おいて、神は言った。
- 88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:40:12.31 ID:AyApI6HH0
('A`)「あの事故を、無かったことにしてやる」
(;´・ω・`)「・・・・!ほ、本当か!?本当に、すべてをあの頃に戻してくれるのか?」
神の言葉を聞いた男は、信じられないといった表情で問いただす。
もしも嘘だったなら、神だろうが八つ裂きにしてやる、と彼は思った。
('A`)「すべて、じゃねえ。手を加えるって言っただろ。今回はな、俺の不手際だったんだ。
神にだって面子ってものがあるんだよ。それで、お前は同意するか?この案に」
(´・ω・`)「ああ、もちろんだ・・・・けど、前はそんなことできないって言ってなかったかい?」
('A`)「言ったよ。よほどのことが無い限りってな。今回は異例だったんだ。
じゃあ、お前を下界に戻すぞ。いいか?さっさとこのマンドクセェことを、終わらせたい」
- 90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:42:03.51 ID:AyApI6HH0
(´-ω-`)「・・・・・最後に一つ、言わせてくれ」
('A`)「なんだ?」
男は神にむかって、最後の言葉を言った。
(´;ω;`)「ありがとう・・・・・神様」
そしてすぐに、彼は意識を失った。
神は苦笑いを浮かべ、またレコードプレイヤーのところへ向かう。
そのとき神がつぶやいた言葉を、その男が知ることはなかった。
('A`)「・・・やれやれ。彼女を天国から連れてくるのに、手間がかかったぜ・・・」
それから神は、レコードをその手でとめた。
- 96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:48:41.42 ID:AyApI6HH0
一台の車が、山の麓に向かって走っていた。
運転席には、一児の娘をもつ父親がハンドルを握って座っている。
暗い夜道を、彼は注意深く運転していた。
やがてその男は自宅へ無事たどりつき、車を降りて玄関へむかう。
彼がドアを開け「ただいま」と言うと、家の奥から「おかえりー」という幼い声が返ってきた。
その声に、思わず彼は顔をほころばせた。毎日聞いている声のはずなのに、なぜか涙が出そうになった。
靴を脱ぐ暇も無く、奥から走ってきた一人の女の子が彼に飛びついた。
父親は娘を抱きかかえながら靴をぬぎ、そのままリビングへむかう。
「また少し重くなったなあ」と彼が言うと、女の子は嬉しそうに笑った。
リビングのドアをあけ、女の子をソファーにおろす。彼女は今日描いたという絵を、父親に見せた。
家族三人がみんなで手をつないで笑っている絵だ。
彼は「上手だね」と言って娘のショートカットの髪を撫でた。
- 101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 21:50:05.45 ID:AyApI6HH0
- (*゚ー゚)「おとうさんはね、あのね、あたしたちといっしょに、ずっとながいきするの!やくそくだよ!」
彼はそうはしゃぐ娘の頭を、もう一度撫でた。
スーツを脱いで娘の隣に座ったとき、今まで夕飯を作っていた彼の妻がやってきて、不器用に笑いながら言った。
川 ゚ー゚)「おかえりなさい、あなた」
(´・ω・`)「・・・・・ああ、ただいま。クー」
終わり
戻る/あとがき