( ^ω^)ブーンたちの世界が、終息するようです

7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/01(火) 22:45:12.32 ID:4+KKSkSh0


日常とは日がな一日刻々と変化していっているものであり
平穏とは脆く絶えがたいものであり、何気なさの中にそこ、真価がある。

けれど当たり前を、突きつけられた非日常の上で理解するには僕らはまだ幼すぎた。
そして同時に"突きつけられた非日常"そのものが突然すぎたのだと思う。



60億いる僕らに告げられた言葉。




第一話 『 「絶望しろ」と、神様は囁いた  』



1/13  23:00  ブーン宅



瞼の重さと肩にかかった疲労感を軽減する為、両手を突き上げて背伸びする。
腰から上げた手にかけて、疲れが天へと抜けていくイメージだ。
あまり意味の無い行為だとは思うけど、それでもなんとなくしてしまうから人間不思議なもんだお。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/01(火) 22:55:35.00 ID:4+KKSkSh0


( ^ω^)「今日もエロ画像見まくって落としまくってブーンは満足だおwwww」


目の前にはかれこれ2年の付き合いになる電子箱。
コイツにはデータ版青春の汗と涙となんだかよくわからない汁っぽい物が目一杯詰っている。
友人のドクオには「僕が死んだら親が見る前にデータの処理を」との連絡も完了済みなパンドラの箱だ。

パソコンの中に入れたままのCDロムを見ながら、


( ^ω^)「明日ドクオあたりに自慢してやるかおwww」


口元に浮かべた笑みをさらに深めた。
……明日の学校で起るであろう展開について想像を膨らませてみる。


(*'A`)『いいなぁいいなぁいいなぁコラ!』


ドクオから向けられる、自分への羨望の眼差し。


おっおっおっ。想像すると、また笑みが零れているのが解った。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/01(火) 22:58:52.63 ID:4+KKSkSh0


( ^ω^)「さて、と……そろそろ寝ないと明日遅刻するお。あー、ツンがうるさいおー」


門前で鈍間だとかアンタは亀だとかいっそ気持ちがいいほど罵倒しくさるご主人さ……
いや幼馴染の姿が容易に思い浮かんだ。


ツンを待たせたら、何を言われるか解ったもんじゃないお。


んん、最悪の場合――……


そこまで考えてから、猛烈な眠気に襲われた。
これ以上起きていれば本気で遅刻すると脳より先に体が判断を下したのだろう。
よろよろとベットに近づいて、ボクサーブーンは流れるような動作でリングにひれ伏した。
ボフッ。と音がし、ずぶすぶと自分の体が埋まるのを感じる。



このまま船を漕ぎ出すのは容易な事だろう。



それでも何となく――何故かブーンはベットの上に置いてあったテレビのリモコンが気になった。



32: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 09:52:06.67 ID:6Uxt5Hfc0


( ´ω`)「何か嫌な予感がするお――……」


リモコンを手に取り、テレビを付ければ解消される不安なのかどうか、ブーンには判断できなかった。
それでも、押してくる好奇心に負け、ブーンは何気なく、
『いつも通り』の日常でそうするように電源スイッチを押した。




プツン、ブラウン管が温まる音。





               そしてそれが、『さようなら』の合図だった。



35: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 09:57:53.10 ID:6Uxt5Hfc0


音がした。


テレビの電源が付いた音だと理解するまでそう時間は掛からなかった。
しかしそれは後から――、全て終った後から考えれば、
『それ』はブーンが『日常』の中で聞いた最後の音だったのだろう。


呆気ないと思う。味気ないと思う。


物事なんて往々にしてそんな物だとどこかで心得ている部分もある。
世界の構築要素は、普段意識しているよりも実の所、驚くほど粗野で簡素なのだと。
そこまで理解すれば、あとは諦観に近い感情のせめぎ合いだしか残らないのだと。


ああ、思えば幸せだったあの頃は――、なんて言う戻れない故の回顧しか残らない。




――テレビからは映像よりも先に、音声がスピーカーから流れてきていた。
それをベットの中で薄ぼんやりとブーンは聞いた。枕に顔を埋めながら、一欠けらの意識で。



37: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 10:01:22.15 ID:6Uxt5Hfc0


「Today is……」


あ、これ英語だお……?

目を瞑りながら思った。



…………はて、可笑しい。どこかが決定的に可笑しいはずだ。


まどろみながら、ブーンは考えてみる。



――今の時間帯、2ちゃんで英会話教室なんかやってたかお?


そこでふと、違う。脳味噌の深い部分が否定した。
このチャンネルは、2ちゃんねるじゃないはずだ。と言うか――それはありえない、と。
そもそもテレビのチャンネルと言う物は、消した直前に見ていたチャンネルで写るはず。
確か、自分はつい2時間程前テレ西でじゃぱねっと田代を見ていたはずだ。

あの売り文句の口調が耳についてはなれないと愚痴も零した。



38: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 10:03:35.37 ID:6Uxt5Hfc0




―――――じゃあ、この番組は何なんだお……?




枕から顔を起し、目を開け、ブーンはテレビを見た。
"そこに写っているもの"を見た。


白いテロップが画面の下に延々と流れているのが見えた。
青白い顔で翻訳の女性が言葉を選んでいるのが見えた。
アメリカ人の男性が鬼のような形相で雄弁を振るっているのが見えた。


「本日、NASA本部は……大彗星の衝突が――地球であると発表を全世界に向け――
またその件に関して国連常任理事国は――またすい星の衝突時刻は……今から凡そ20時間後と予測され……」


翻訳の女性の、震えた声が聞こえた。


弱弱しいビブラート。審判のラッパか、悪魔の笑い声か。
ガラガラと大げさな音を立て、日常が、平穏が、何気ない繰り返しの日々が崩れ落ちる音を聞いた。



39: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 10:08:06.79 ID:6Uxt5Hfc0


( ^ω^)「――――…………」



テレビを見つめたまま動けなくなくなった。
全ての関節が溶接されたようだ。古臭い表現を使うのであれば、ベットの上には石像が一体。


三文映画だ、三文芝居だ。これは酷いお。
脚本家は誰だお――――変な、夢だ、お。




―――――――――― 夢?




(; ^ω^)「そ、そそそ……そうだお! こ、これ夢だおっっ!? じゃなかったら下手な芝居だお! 
こんな世にも珍妙な物語のシナリオにも起用されないようなベタな内容――テレ西ドラマも地に落ちたおね」



自分自身を納得させているような独り言を呟いた後、リモコンで再度電源スイッチを押した。
暴走しそうになる心を、屁理屈のような、駄々のような論理で無理矢理に押さえつけた。



40: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 10:11:20.19 ID:6Uxt5Hfc0


そうでもしないと、今この場で発狂しそうだ――いや、してしまえば楽になるか?


自分の中の誰かが扉を大きく叩く。
それでもそれに気付いてはいけない。どこか直感染みた、確信染みた思考が巡り、



( ^ω^)「……もう、寝るお。ツンが煩いお――……ツンは恐いお」



覚醒しそうになる意識を羽交い絞めにして、ブーンは眼を堅く瞑った。
夢と現実の渡し人の尻を叩いて意識を沈み込ませる。



また起きれば、どうでもいいような朝が戻ってくるお。



これは悪い夢か、冗談にもならないようなドラマだお――
明日ドクオとの会話の種にでも使うお――


――テレビ欄の確認は、出来ないけれど。

                    第1話【 「絶望しろ」と、神様は囁いた 】終 →第2話へ



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