( ^ω^)ブーンたちの世界が、終息するようです

73: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 11:30:20.96 ID:6Uxt5Hfc0


私たちの低落を嘆きなさった神様は、
私たちから唯一無二の明日を取り上げたんだ。



第三話 『 カゲロウの日だ、と彼女は呟いた 』



1/13 23.30  ドクオ宅


テレビ放送を見た後、ドクオは無言で立ち上がってテレビの電源を落とした。
PCでVIPの様子でも覗こうかと思ったが、
報告と同時(もしくは、それの前後)にサーバー自体が死んだらしい。

飛んだ、ではなく死んだ。もう生き返ることは無いだろうと踏む。
ザオラルも不死鳥の羽も、所詮はご都合主義で塗りつぶされた0と1の世界でしか在り得ないのだ。

お気に入りに入れてあったページの大半で表示された
404ページを思い出し、少しだけ苦笑いを漏らした。



75: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 11:33:41.59 ID:6Uxt5Hfc0
そんな最中も、ドクオは驚くほど静かな心でいられた。
もっとも、ドクオの持つその感情は冷静というよりは虚無に近いものだった。

生への執着も、死への渇望も。何も無いのだ。
何かのきっかけ、この場合は世界終了の知らせだがとにかく、
テープラインが切られた瞬間にドクオの中で無が生まれ、
それまでその中で渦巻いて、堂堂巡りだった一切の感性や感情を消しのだ。


――――いや、そもそも最初から自分は何も持っていなかったのかも知れないけれど。


ベットに座り、ドクオは揺れるカーテンをぼんやりと見ていた。
空は相変わらず黒く、雲は相変わらず白い。
世界はその形を変えていないようにも思える。




――それをただの幻想だと打ち棄てるにはドクオは未だ弱すぎるし、強くも無かった。



78: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 11:36:58.85 ID:6Uxt5Hfc0





――もし明日、世界が滅びるとしたら、君は何をする? 何をしたい?





その問いかけが、ただの妄想や理想で無くなった瞬間なんて



('A`)「笑えないジョークだな」



ただ一言そう呟いて、ドクオは横になった。
口に含んでいた常備薬でもある睡眠薬を嚥下する。通常の3倍程多めだ。

そのまま腕を目隠しのようにして、硬く目を瞑った。
このまま逝けるならしめたものだし、無理なら無理でベットの上で死にたいなぁ、
とだけ無気力に思って、意識を手放した。



79: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 11:42:30.82 ID:6Uxt5Hfc0
1/14 8:00 ドクオ宅

ドクオを現実へ引き起こしたのは、控えめなノックの音だった。
規則的に叩かれるそれは、確実にドクオの部屋の入り口から発せられていたものだ。


寝返りを数回打ってから、ドクオは1度大きな欠伸をした。
時計よりもまず窓を見て今が朝であると言うことを確認し、失笑を漏らす。


まだ図太く自分は生きているのか。と。


('A`)「誰」


ぶっきらぼうに、つっけんどんに。たった一言の単語。それから、


('A`)「母ちゃん?」


確認作業に移った。
だるい体に鞭打って起き上がり、ドアに近づこうと腰を上げた。
が、部屋の中の雰囲気が動くのが解ったのか、ドアの前の人物は軽く息を呑んでそれを制止した。



80: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 11:43:50.18 ID:6Uxt5Hfc0
「――――っ、待ってくれ。ドアは、あけなくていい。すぐ、済むから」


ドア向こうから聞こえてきた凛とした声の主を探し当てる過程で、ドクオの中で何秒かの巡廻があった。

無論、それには理由がある。
最有力候補としてあがっている人物が、今、この場に居る可能性は足り得ないからだ。


今この場にその人がいる訳がない。
しかし声そのものは自分がよく見知るものだ。


だから余計、混乱する。


('A`)「――っぁあ……」


今扉一枚挟んだ所にいる人の名。
喉に詰った、一匙の"そうであって欲しい"の思い。


('A`)「――クー、姉さん?」


呼ぶ。



83: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 11:58:42.76 ID:6Uxt5Hfc0


川゚−゚)「ああ」


扉の向こうから、やはり凛とした、あの声で返答が来た。
その瞬間、ドクオの顔に光が宿り、背筋が伸びる。


('A`)「やっぱりクー姉さんだ! どうしたの? いつコッチに戻ってきたの!?」


ドクオはそう言うとドアに向かって歩き出した。
ギシリ、フローリングの床が軋む。

『クー姉さん』

久々に口にした、懐かしい響き。
キシリ、ドクオの心のどこかが軋む。


川゚−゚)「……こっちに来るな!!」

強い拒絶。え。と、ドクオの脚と思考が、止まった。
ギシリギシリ。フローリングの床とドクオの心自体が軋む。



84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 12:06:43.63 ID:6Uxt5Hfc0


('A`)「――え? ど、どう言うことだよ、クー姉!?」



折角会えたのに! ドクオの感情の揺れ幅が大きくなる。
"折角"と言う言葉には、色々なニュアンスが含まれていた。
それもそうだドクオとクーは、もう10年にもなるか――
それほどの月日の間を開けて、今日。世界が終る今日に、久々に会ったのだから。
原因は両親の離婚にあるのだが――そう言う深いところの話は、また後の事としよう。

扉向こうのクーが、大きく息を吸った。
そうして、発する一言一言に言霊を含めるみたいにあの声で――言う。


川゚−゚)「最後、だから。最後の、挨拶に来たんだ。
もう、帰ってはこないだろうから。顔は、見せないでいいから」


"別れがつらくなる"から"決心が鈍る"から。
言わずとも、ドクオには、クーがそう言いたいのだろうなということは容易に汲み取れた。
やはり、兄弟なのだなと思う。深いところで、繋がっているのだなと。



86: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 12:09:42.08 ID:6Uxt5Hfc0


('A`)「――だったら、余計、じゃないか。クー姉さん。一緒に逝こうよ。
俺、もう腹に決めてるからクー姉ちゃん一人に背負わせるわけにはいか「そうじぁ――なくてッッ!」


ドクオの言葉を割って、クーがはっきりと大きく声を張り上げて否定した。
え。と、再びドクオが戸惑う。


川゚−゚)「私は一人で大丈夫だから」


『それ』はクーなりのオブラートに包んだ、だけれどもドクオにとっては、強かな"拒絶と否定"だった。

ドクオなりに要約すれば"お前はいらない"という事だ。
クーもそれを解っているハズなのに。


自分がどれだけ死にたがっているのか、ということ。
自分がどれだけ生きていたくないか、ということ。


兄弟、だから。解ってくれると思ってた。のに。



87: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 12:12:00.05 ID:6Uxt5Hfc0



川゚−゚)「ドクオ。お前には、姉らしい所なんて見せたことなかったな。すまなかった」



つらつらとクーが述べる言葉は、全て過去形で。


孤独感と、突き離された裏切りによる憤りの中で、
ドクオは今までの自分の人生を振り返っていた。

苛められ、ボロボロにされ、グチャグチャになり、
唯一見つけた縋る相手にさえ、土壇場で裏切られたドクオの人生。

ただ寂寞感ばかりが自分の周りを徘徊し、
やがてそれさえも自分の周りから去っていった感じだ


詩人のような考えを貼り巡られたドクオの瞳に、一筋の水が伝った。
それを涙だと言うには、言葉はあまりにも粗末だ。

その水にはドクオの感情が篭もっていない。

ただ数滴、嗚咽も漏らさず声にも出さず、ドクオは頬を伝う水を
自分の物ではない、他人のものだと言うように静かに受け止めた。



88: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 12:14:46.83 ID:6Uxt5Hfc0


それらを一通り流し終った後、ドクオは自分の中で何かが壊れる音を聞いた。


――もしかするとドクオの流した水は涙ではなく、
ドクオの中に僅かに残っていた希望の水だったのかも知れない。



今はもう、そう関係無いことだが。



辞世の句を述べるクーの方向へ、ドクオは黙って歩を進めた。
逃げるなら逃げればいい。逃げなければ、このまま辱めでも受けさせて首でもしめればいい。
そんな最悪な思考回路。


引き戸である部屋のドアを勢いよく開け、廊下に正座する姉、
クーの姿を認識した瞬時、ドクオは強い眩暈を覚えた。



89: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 12:18:35.71 ID:6Uxt5Hfc0
('A`)「クー姉さん…………?」

川゚−゚)「だから――来るな、と言ったのに」


くらくら くらり。


何だコレは。誰だコレは。


――これが。この人がクー姉ちゃん……?


クーを見下ろす形で、ドクオは首を小さく傾げた。
ただ純粋に、彼女の姿が――重ならない。あの、凛々しくも美しいあの人に。


川゚−゚)「君にこんな姿は、見せたくなかったんだよ」


落ち込んだように、ニヒルな笑いをしてみせたクーに対して、
ドクオは何の反応も示せず、首の位置を戻す事すら出来なかった。

イレギュラーだ。
完全完璧に、完全無欠なまでに、疑問が解けない。
絶対零度の氷のように思えた。絶対に、何があっても溶ける事が無い塊だと。



90: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 12:20:48.98 ID:6Uxt5Hfc0


川゚−゚)「ドクオ君。そう言う、ことだ。
さて――私はそろそろ逝くよ。ありがとう、さようなら。君は生き」


立ち上がったクーが紡ごうとした「ろ」の言葉を、ドクオの唇が摘んだ。
クーが目を張る。クーの髪の毛にドクオの手が絡まる。
鋭利な刃物か何かで切られた、短くなったその髪へ。


川;゚−゚)「ちょっ……! ドクオく――」


服を破る必要は無かった。彼女をぐちゃぐちゃにする必要も無かった。
彼女は、クーはもう――自分がそうしようとしていたそれになっていたのだから。

それでもクーは、ドクオに会いに来た。
どんなにされようとも、気も強くもち自分に会いに来た。
矜持を粉々にされ、その肌に汚らしい男の手が触れても。

そんなことを思えば――ドクオはこの時初めて、泣きそうになった。
叫ぶ事無くドクオは一度、静かな涙を流した。

自分のためではなく、クーの為に。只一度の初恋の人のために。



91: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 12:25:59.47 ID:6Uxt5Hfc0







愛してると言えるはずなどない。


ただ相手の柔かい唇の感触だけが、ドクオにとっての世界の全てになった。









92: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 12:26:41.69 ID:6Uxt5Hfc0
刹那のキスが終わり、どうしようもない静寂が二人を包み。
やがてそれはドクオの心へ落ちていった。


川゚ー゚)「お別れのキスか? 何だか、ロマンティックだな」
クーがくすくすと笑う。


焦燥と動悸。強い眩暈。


('A`)「ク、クー姉、クー姉さん。お、おれ、俺は――――」


じわりじわり。目頭が熱い。


半身を失う? クーがいなくなる?
これまであるのが当たり前だった物がこんな意図も容易く?


明日を失っても良かった。自分がどうなろうが知ったことではない。
彼女さえ居てくれれば、彼女のいる世界があればそれで良かった。

それが一瞬で。この一瞬で、目の前で崩壊する。
ふざけるな――そんな、そんなそんなそんなそんなそんな――そんなこと、認められるか――



93: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 12:27:39.82 ID:6Uxt5Hfc0


川゚−゚)「泣かないでくれ、ドクオ。死に心地悪いからな」


どうゆう言葉だよ。それ。


川゚−゚)「泣かないでくれ、ドクオ。私より一日でも、一秒でも永くでいいから笑っててくれよ」


それでも今から死ぬのか。私。コロコロとクーが笑う。


('A`)「何で――なんでそんなに。クー姉さんは――ッ」


笑ってられるの?

言おうとした言葉が、クーの人差し指に詰まれた。
そうして彼女は穏やかに笑った後に言う。



94: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 12:29:02.57 ID:6Uxt5Hfc0



川゚ー゚)「             ?」



聞こえなかったよ、何。と言いながら、ドクオは目を張り、クーの口元へ耳を持っていった。
そうする間際、ドクオの唇に掛けられていた手がはらりと落ちる。


('A`)「――――――――……」


舌に雑草が絡まっていく。言葉が枯れる。
そうして全てが、奪い去られていく。

自分が何か率先し様とする瞬間に、蹂躪するように掻っ攫われていく。
あっけない幕引きだった。道化だ。まったくもって味気なさ過ぎる。
そこにはなんのカタルシスもロジックもない。ただクーと言う一人の人間の灯火が消えた。それだけだ。

なのになんで。

('A`)「…う――う、ぅぅう……うぁぁあああぁぁぁああぁぁぁぁぁああッッッ!!!!」

心が、欠落するのか。

クーが言った言葉をドクオが聞くことは遂に無かったと言う。

                    第3話【 カゲロウの日だ、と彼女は呟いた 】終 →第4話へ



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