( ^ω^)ブーンたちの世界が、終息するようです

110: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 13:00:00.07 ID:6Uxt5Hfc0


それでも世界は終わらなかった。



第五話 『 そう言う容をした物なだけだ、とお前は笑った 』



それ所か今も自分の目の前にある。
でかい面して自分を絡めとって行っている。笑っちゃうよな、泣きたくなるよな。
『ふざけるな』って怒鳴ってやりたくなるよな。


('A`)「クー姉さん」


ドクオはクーを呼んだ。
ドクオの腕の中でまぶたを落とし、呼吸をせずしかし薄く微笑んでいる彼女の名を呼んだ。
それしか言葉が出なかったと言う方が正しいのかもしれなかった。



111: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 13:01:32.49 ID:6Uxt5Hfc0
叫びたいのに、泣き叫びたいのに、
姉さんを亡くした辛さで押しつぶされそうなのに、
その名を呼ぶしかできなかったといったほうが正しいのかもしれない。


クーがいなくなれば、それと一緒に自分や世界は消えて無くなると思っていた。


――それでも現実は酷く実直で、変わらずに存在し続けた。
しぶとくも強大に継続していた。何も変わっちゃいなかった。



腕の中のぬくもりも、変わらない。



112: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 13:10:05.50 ID:6Uxt5Hfc0
クーとドクオの別離には、親の離婚が大きな理由としてあった。
ドクオが小2、クーが小6の時のことだ。

元々ドクオの両親仲は険悪で、何かにつけては口論と喧嘩を繰り返していた。
それは今日の親父の浮気からご飯の炊き加減まで、仕様もないことから複雑なことまで色々な範囲に及ぶ。


大抵、ヒステリックな母親の叫び声から始まる。


最初の内はドクオが泣き喚き、無理やりその喧嘩を終結させていたのだが、
その内、幼心ながらもその行為は無駄だと判断したのだろう。
最後あたりは母親のその声を聞くなり適当な本や漫画を持って
クーの部屋に非難することを平然とやってのける様になっていた。


その点に関してはクーは正反対だった。


親の喧嘩に関与することを半ば執拗に拒んだ。
醜い争いは見たくないんだと渋い表情で言い続けた。
ドクオが本片手に自分の部屋に入ってくるのを見てはその整った顔を歪ませ、無言のままドクオに手を差し伸べた。

握ってくれ、という意味だ。

ドクオは易々とそれに応える。
同じように自分もクーに手を差し伸べて、その小さな手で包み込むようにクーの手を握る。



114: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 13:11:19.88 ID:6Uxt5Hfc0
その時はまだ、そうする理由が何故だか分からなかった。
ただクーの手の、自分のそれより少しだけ低い体温を感じながらくだらない喧嘩が終わるのを二人して待った。


('A`)「…………」


ドクオは一度だけ、クーの手を強く握りながらバイバイ、と言った。
クーの遺言を守ろうとそう決意した瞬間だった。


そして今ようやく分かった。
クーが自分に手を差し伸べた意味。そうし続けた意味。



きっとクーは、クー姉さんはそうすることによって救いを求め、
そうすることによって救いを与えていたんだ。


自分自身に、ドクオ自身に。



115: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 13:12:59.75 ID:6Uxt5Hfc0
どろどろと胸の氷が溶けていく。


ドクオとクーはつがいだった。


ただの兄弟ではなく、相互依存と言う関係だった。
そうすることによって自我を保って、そうすることによって自分の輪郭の半分を手に入れていたのだ。
そして今、クーの死によってドクオはもう半分の輪郭を手に入れた。

半分なくなってしまえば、全て消えると思っていたのだけれど、どうやら違うらしい。

糧にした、と言えば聞こえがいい。
実の所はただ自分の芯の部分が生に対して貪欲だっただけなのだ。
もしかするとクー姉さんがくれたのかも知れないとドクオは思った。


今はそうとしか思えなかった。



116: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 13:14:27.97 ID:6Uxt5Hfc0
冷たいフローリング。歩きなれた自分の家。廊下。
クーの遺体を抱きかかえたままドクオは立ち上がり、自分の部屋へと足を進めた。
ベットの上に彼女を乗せる。ベットのスプリングが軋む。


クーの体は覚悟していたより随分と軽かった。



ギシ ギシ。


胸の音はもう聞こえなかった。
ドクオは立ち上がり、クーの表情を見てから少しだけ微笑む。
バイバイ。ありがとう。だからさようなら。俺は生きるよ、クー姉さん。

ドアノブに手を掛け、一気に引く。


「いってらっしゃい」


最後の最期、そんな凛とした声が聞こえたような気がした。
ドクオは振り返らなかった。



117: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 13:15:21.28 ID:6Uxt5Hfc0
1/14 8:50 ショボン宅

(´・ω・`)「ああいった手前、どうするかね」

自室の中央で大の字で寝転び、天井を見つめたままのショボンが呟いた。
上体だけ起こして、部屋の時計で時間を見る。

8時50分。
秒針が12を通り越した。51分。


(´・ω・`)「参ったな…特にする事がない」


いや、本当に参った。


生きてやると高らかに宣言した癖に、やることがないとはとんだお笑い種じゃないか。
このままダラダラと部屋にいるには、エネルギーが有り余っているし。
そう思いながら、ショボンは床に手を着いて腰を浮かせる。立ち上がろうとして、


そして止まった。



119: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 13:16:07.26 ID:6Uxt5Hfc0
ショボンは視線の先にあったそれを手にとり、握り締めた。
ボトルキープの時に使い、ビンに掛けるキーホルダー。



銀の装飾、草書の英文字で刻まれた自分の名前。
握る力が強くなる。



ショボンはそのまま立ち上がって、無言のまま部屋を見渡した。
もうこの部屋には帰ってこない。
そんな覚悟とともに、住み慣れた自分の部屋の風景を刻み込む。



(´・ω・`)「ああ、そう言えば部活の仕上げ……まだだったっけな」



パソコン部の、自分たちの卒業式用に作った(と言うより作らされた)
安っぽいプロモーションビデオだ。
年間行事で撮ったビデオや写真をつぎはぎして作った、チープさ満点のものだが、



120: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 13:17:17.67 ID:6Uxt5Hfc0
(´・ω・`)「まあ、部長だし、下手にこの世に未練も残したくないしねぇ……」

弁解するようにショボンが呟いた。

最後の『作・情報科学部』の文字入れがまだすんでいないだけだ。
そのまま放置しても一向に構わない。


それでも。


使命感感じる柄ではないけれど、自分の使命は真っ当したかった。
中途半端に終わらせるのは、癪に障った。


理由なんて些細なことだと思う。
この気持ちの根源を探ろうとも思わない。

ショボンは扉の方を見て、歩を進めた。
部屋のドアノブに手を掛けて。最期へ繋がるドアノブを引いて、扉を開いて


自分がまだパジャマ姿であること気付いてまた閉じた。
 



121: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 13:18:22.65 ID:6Uxt5Hfc0
同時刻、ブーン宅

ツンの泣く仕草なんて見たことが無かった。だから途惑った。
ブーンの中にあるのは、負けず嫌いで勝気でいつも強いツンだから。
彼女の弱い部分なんて、見たことが無かったから。


今日限りで、世界はその有り様を急速に変えていっている。
自分に降りかったであろう向こう50年の変化が今日いっぺんに来たのかな、とブーンは思った。

そんな事を思いつつ、玄関でツンを宥め続けるのも何だか悪い気がして来た
ブーンは玄関に座り込む彼女を立たせ、リビングに誘導した。


――――再三言う用ではあるが、リビングの惨状はあの通りである。
とにかく無茶苦茶だ。散らかっているとかそう言うレベルではない。


テレビの画面は金属バットでぶん殴った所為でひび割れてるし、
テーブルの椅子の4脚中2脚はバラバラに分解され、

奥にある食器棚の中身はことごとくひっくり返され、
床に皿だかコップだかの破片を散らばらせて、ほとんどは原型を留めていない。
観葉植物なんかは横倒しにされて土や石が床に広がっていた。



122: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 13:18:59.41 ID:6Uxt5Hfc0
( ^ω^)「…………」
ξ*゚听)ξ「……、……」
( ^ω^)「…………」

ツンもあっけにとられているのだろう。
今時の泥棒でもこんな手荒な真似はしない。
続く沈黙にブーンの顔が引きつった。冷静になって考えてみるとこれは酷い。


壊して何が残ったと言うのだろう。


ξ*゚听)ξ「……普段ちゃんと掃除とかしてる?」
( ^ω^)「してないお」


そう言う問題では無いだろうとも思うのだけれど。


ξ*゚听)ξ「……バーカ」


今日何度目かの馬鹿発言が、リビングに響いた。



124: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 13:23:23.73 ID:6Uxt5Hfc0
幸いな事に、椅子はまだ2脚残っていた。

自分と向い側の席にツンを付かせて、ブーンは生き残っていたカップを二組取り出し、
それに親父が重宝していた直挽きコーシーを入れる。


椅子に座って、俯き黙り込みながら涙を抑えるツンの姿を
苦々しげに見てから、右手のカップを差し出した。


( ^ω^)「これでも飲むお」


掛けるべき言葉が見つからなくて、ツンに会話の発端を預けた。
コーシーに自分の顔が移りこむ。やはり苦々しげだった。

ξ*゚听)ξ「ごめんねブーン。その……いきなり泣き出しちゃって」

( ^ω^)「いいお。そりゃあ、こんな事になるなんて僕も思ってなかったお。
ツンが辛いのは、僕もよくわかr「違うのよ!」

ブーンの慰めに、ツンが震えた。否定。
言葉を割り込まれて、ブーンが目を張る。またツンの目に涙が写る。



125: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 13:26:30.02 ID:6Uxt5Hfc0


ξ*;凵G)ξ「違うの…違うのよブーン」


コーヒーが揺れていた。
ブーンの顔も歪んでいた。
ツンは呟きつづける。


ξ*;凵G)ξ「違うの。ブーン、私ね嬉しかったの。
       私なんかの為に、って。だけどね。――――私は」

そういって、ツンが顔を上げた。鼻は赤く、目元が腫れている。
出来る事なら、一生、彼女にこんな顔はさせたくなかった。

ブーンにはどうにもツンの表情の中にある心情を察することが出来なかった。
ツンの発言を考え直してみると、ツンのそれには辛さよりも嬉しさの方が勝っているように思える。

そして、贖罪の念が、こもっているように思える。

ツンが自分に謝ることなどあるのだろうか?
むしろ自分がツンに謝らなければならないことの方が、多いように思えるのだけれど――


何秒かの沈黙があって、ツンがぽつりと呟いた。



127: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 13:27:42.70 ID:6Uxt5Hfc0




ξ*;凵G)ξ「知ってたの。この世界が、終わること」





――――――?



ブーンの思考が止まる。
何、だって? 今、なんて? そう聞く間もなく、ツンが口を開く。



ξ*;凵G)ξ「騙してて、ごめんね」
 

 


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