( ^ω^)ブーンたちの世界が、終息するようです

242: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 20:46:47.15 ID:6Uxt5Hfc0


これが私の宝物です、と彼女が掲げ、抱きしめたのは、


高価な金塊でも煌びやかな宝石でもなく、何もない空間だった。



第九話 『  そしてそれが愛になる、と汝は紡いだ  』


最後まで鎌倉を目指そう、とブーンは言った。

当たり前よ、とツンは返した。

後部座席に座りながら、ドクオはそんな二人を見、いつかの時を思い出していた。


『えーーーん えーーーーん』


泣いている糞餓鬼がいる。
ひたすら泣いている。それで問題が解決できるはずもないのに、贖罪のように餓鬼は泣くのだ。


『どうしたんだ? どこか、痛むのか?』


柔らかく愛しい声が振っている。餓鬼は途端に笑った。



243: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 20:52:58.16 ID:6Uxt5Hfc0
('A`)「クー姉ェの顔見たら、吹っ飛んだよ!」

川゚−゚)「そうか、それはよかった」


彼女は笑う。幸せそうに笑う。
ああ、そうか。これは記憶だ、とドクオは思った。
これは自分が陽だまりのような箱庭にいた時の記憶だ、と。


('A`)「クー姉、クー姉さん!」


いつだってそうやって、自分は姉のクーに縋ってきていた。
それによって彼女がどんな困るかを知りもせず、ただ子供心ながらに陽だまりを求めたのだ。


('A`)「クー姉さん」

川゚−゚)「ドクオ、プレゼントをあげよう。それからお前は、これからは一人で歩かなくちゃいけない」


ドクオが小2、クーが小6の時のことだった。
クーは突然、こんな事を言い出した。クーも察していたのだろう。自分の家がもう限界だという事が。
体面や体制の問題ではなく、もう終わっているのだと。
そしてそれ故に、ドクオと離れることも見越していたのだろう。



245: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 21:00:26.98 ID:6Uxt5Hfc0
('A`)「…………でも、クー姉ェ」

嫌だ、と駄々を捏ねるドクオにクーはその双眸を伏せた。
それから、ドクオが気に入っていた――両親の喧嘩が始まる度に持って行き、
クーに読んで貰った、ある小説の一説を静かに読み上げた。


川゚−゚)『カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ。どこまでもどこまでも一緒に行こう。
僕はもうあのさそりのようにほんとうにみんなの幸のためならば、
僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない』


それからドクオの頭を軽く撫ぜ、本――銀河鉄道の夜をドクオに託した。
あのときは、『これは手切れ金なのだ』としか思えなかった。だからこそ憎憎しいものでもあった。

けれど。
けれど、今になって思えば、それも違うのだと理解できる。
彼女は夫婦喧嘩の時のように、自分に手を差し伸べてくれたのだ。この本を渡すことによって。


('A`)「……本当に、糞餓鬼だったんだな、俺」


走る車。流れていく風景に視線を投げながら、ドクオは呟いた。



247: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 21:05:18.82 ID:6Uxt5Hfc0
しぃの言うとおり、この本は女子トイレにあった。
掃除用具要れの中から見つけたときは年甲斐もなく泣きそうになったものだ。


ただ取りに終わった後、猛烈に小便などをしたくなり、
その事後出て行くとツンに殴られるなんて言うハプニングはあったもののこの本は、今ドクオの手にある。



( ^ω^)「ドクオ、なんか言ったかお?」

('A`)「いや、何もない」



首を振り、ドクオは胸元の本をぎゅうと抱き寄せた。



('A`)「何もないんだ」



前方にある標識に書かれてあった文字が見えた。


『この先100メートル 出口 鎌倉市』


目的地は、すぐそこに迫っている。



248: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 21:10:15.91 ID:6Uxt5Hfc0
1/14 16:15 鎌倉


( ^ω^)「つ…………」


料金所を降り、車を止めたブーンがハンドルにもたれ掛かった。
はぁぁぁぁぁぁぁあ、と長いため息を吐き、



( ^ω^)「ついたお……」


焦燥しきった顔で言った。


ξ゚听)ξ「そうね」

('A`)「……」


ツンが笑いながら同意し、ドクオも頷いた。
車内の雰囲気も、心なしか和やかである。



249: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 21:12:49.46 ID:6Uxt5Hfc0
( ^ω^)「ドクオ……元気ないお?」

('A`)「――俺はもう充分だ。あとは2人で楽しんでいてくれ」

そう言い、ドクオはドアノブに手を掛けた。
躊躇なくそのまま引き、外にでる。

(; ^ω^)「な、ここまで来て」

窓から顔を出したブーンが静止しようとするが、
ドクオは車に戻ろうという素振りを見せない。


('A`)「いいんだよ。ありがとな、ブーン。今までのこと全部ひっくるめてお礼言う。ツンも、ありがとう」


ただやんわりと首を横に振り、深々と礼をしてみたせだけだった。

ξ゚听)ξ「紳士という名の変態ね」

('A`)「変態じゃねぇよ。仮に変態だとしても」


( ^ω^)ξ゚听)ξ('A`)「「「変態という名の紳士だよ」」」


声がそろい、三人は笑う。トリオ漫才だ、とショボンがいれば言う所だろう。



250: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 21:15:14.70 ID:6Uxt5Hfc0


('A`)「ばーか」


そういうと、ドクオは走っていった。
振り返りはしない、とその背中に彼の決意が書かれているようだった。

ξ゚听)ξ「ドクオ……」

( ^ω^)「……行こう、ツン」



ブーンは言い、アクセルを踏む。
生きる道は様々なのだ。それでいい。それがいいんだ、とブーンは呟いた。
どこぞの皮肉家から貰った受け売り言葉のようだな、と思った。



253: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 21:19:14.52 ID:6Uxt5Hfc0
1/14 16:30 鎌倉


('A`)「さあ……俺ももう死ぬか。俺にしてみれば、充分なタイムだろ?」


独言するように呟き、ドクオは崖の上に一人立っていた。
この時期、冬の関東の風は身を切るようでもある。
本を握り締めながら、ドクオは夕焼けの空を仰いだ。

('A`)「俺には、もう思い残すことなんてないんだから」



『ドクオ。ドクオ』



そんな凛とした声が背後から繰り返し繰り返し聞こえたような気がした。
ドクオは振り返らなかった。


そして彼は、そのまま崖から飛び降りた。


その顔には、安らかな笑顔すら浮かんでいたという。


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